説明

コンクリート床版取替え工法

【課題】プレキャスト床版を用いた既設床版の取替え補修において、取替え補修作業を短時間に、かつ、低コストで行うことができるコンクリート床版取替え工法を提供する。
【解決手段】主桁上の既設コンクリート床版を撤去した後、工場製作されたプレキャストPC床版2を主桁上に設置し、橋軸方向に隣接するプレキャストPC床版2、2同士をループ鉄筋11によるRC構造のループ継手構造3で接合し、ループ鉄筋11の重ね継手長を略円形の最小長とすることで接合目地幅Wを最小化し、さらにラップした半円状のループ部12、12で形成された円形空間Sの内部には、橋軸直角方向の鉄筋(床版主筋)を挿通配置せず、目地空間10内には短繊維混入コンクリート15を充填することで、拘束効果を高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路橋などのプレキャスト床版を用いたコンクリート床版取替え工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工場製作されたプレキャスト床版は、現場における型枠製作、鉄筋配置、コンクリート打設等がないので、工期の短縮、床版品質の安定、耐久性等の向上などが図られ、また既設床版の劣化に伴う取替え補修においては、交通規制を大幅に短縮することができる大きな利点がある。
【0003】
プレキャスト床版を用いた床版施工法としては、図2に示すプレキャストPC床版工法があり、主桁(鋼桁)1の上に、橋軸直角方向のプレストレスを導入したプレキャストPC床版2を配置し、橋軸方向の接合にはRC構造のループ継手構造3を用いている。主桁1とプレキャストPC床版2の接合には、一般的にスタッドジベル孔4とスタッドジベル5を用いている。
【0004】
ループ継手構造3においては、接合するプレキャストPC床版2、2を目地空間10をおいて配置し、この目地空間10内において各床版2のループ鉄筋(配力筋)11のループ部12を橋軸直角方向に間隔をおいてラップさせている。ラップしたループ部12は、側面視で長円形状であり、この長円形状のループ部12の内部に橋軸直角方向の鉄筋(主鉄筋)13を挿通配置し、目地空間10内にコンクリート14を充填している。
【0005】
一方、プレキャスト床版を用いた既設床版の取替え補修においては、図3に示すように、橋軸直角方向にプレストレスを導入したプレキャストPC床版2、2を用い、橋軸方向の接合には、接合目地に無収縮モルタル6を注入するウェット接合が用いられ、橋軸方向に平行な複数本のPC鋼材7により橋軸方向にプレストレスを導入して床版同士を一体化させている(現行工法)。
【0006】
なお、既設床版の取替え補修に関する先行技術文献として特許文献1、2がある。特許文献1の発明は、橋梁用プレキャスト床版およびその部分取り替え工法であり、通常パネルと定着パネルと連結パネルをPC鋼棒・ナット・カップラーにより結合して構成し、損傷した床版を含む一連のプレキャスト床版を取り外して新規の床版に置き換えるものである。
【0007】
特許文献2の発明は、橋梁用プレキャスト床版の連結法であり、各プレキャスト床版の接合面同士を一方の床版の表面から他方に床版内に挿入される短いプレストレス鋼棒で連結して、劣化した一部のパネルを単独で取り替え補修できるようにしたものである。
【0008】
【特許文献1】特開平7−268808号公報
【特許文献2】特開平7−268809号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述した図3に示す現行のプレキャスト床版を用いた既設床版の取替え補修工法の場合、橋軸方向のプレキャストPC床版の接合部には、接合目地があるものの、従来のループ鉄筋接合に伴う大きな空間の有間目地が無いため、注入モルタルの施工は簡単である。しかしながら、橋軸方向にプレストレスを導入する必要があるため、PC鋼材等の配置や緊張作業が必要で、足場工も伴い、取替え補修作業に時間がかかり、コストもかかるなどの課題がある。
【0010】
本発明は、プレキャスト床版を用いた既設コンクリート床版の取替え補修において、取替え補修作業を短時間に、かつ、低コストで行うことができるコンクリート床版取替え工法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1に係る発明は、主桁(鋼桁)上の既設床版を撤去した後、工場製作されたプレキャスト床版を主桁上に設置し、プレキャスト床版同士を一体化すると共に、プレキャスト床版と主桁とを接合するコンクリート床版取替え工法において、橋軸直角方向のプレストレスが導入され、橋軸方向の接合目地にループ部が張り出すループ鉄筋(配力筋)が橋軸直角方向に間隔をおいて複数設けられたプレキャストPC床版を用い、橋軸方向に接合されるプレキャストPC床版を、橋軸方向に目地空間をおいて、かつ、それぞれのループ部が橋軸直角方向に間隔をおいてラップするように配置すると共に、ラップしたループ部が側面視で略円形を形成するように前記目地空間の目地幅を小さくし、ラップしたループ部内には橋軸直角方向の鉄筋を配置することなく、前記目地空間内に高強度コンクリートを充填することを特徴とするコンクリート床版取替え工法である。
【0012】
本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載のコンクリート床版取替え工法において、高強度コンクリート(圧縮強度50N/mm程度)には短繊維(ビニロン短繊維やポリプロピレン短繊維などの非鉄短繊維)が混入されていることを特徴とするコンクリート床版取替え工法である。
【0013】
本発明は、鋼桁上の既設RC床版の劣化に伴う床版取替えに適用されるものであり、
(1)橋軸直角方向にプレストレスを導入した工場製作のプレキャストPC床版を用い、その橋軸方向の接合目地部にループ鉄筋によるRC構造を採用することにより、現行工法のプレキャストPC床版を用いた床版取替え工法における橋軸方向のPC構造を無くし、PC鋼材等による橋軸方向のプレストレスの導入を無くす。
【0014】
(2)橋軸方向の接合目地部内においてループ鉄筋のラップしたループ部が側面視で正円または略正円となるようにすることで、ループ鉄筋の重ね継手長を最小長とし、これにより接合目地幅を最小化させる。目地幅を小さくすることで、作業時間の短縮及びコストの低減を図り、またプレキャストPC床版の床版幅を大きくすることで、輪荷重による疲労耐久性の向上を図る。
【0015】
(3)接合目地部内に高強度・高靭性の短繊維混入コンクリート等の高強度コンクリートを充填し、ラップしたループ部内の高強度コンクリートの拘束効果により、ラップしたループ部内に挿通配置される橋軸直角方向の鉄筋(主筋)を不要とし、作業時間の短縮及びコストの低減を図る。
【0016】
本発明は、以上の3つの条件を同時に満足するコンクリート床版取替え工法であり、(a) 橋軸方向のPC構造を無くし、PC鋼材等による橋軸方向のプレストレスの導入が無くなることにより、PC鋼材等の配置・緊張作業・足場工などが不要となり、(b) 橋軸方向の接合目地幅が最小となり、かつ、短繊維混入コンクリート等の拘束効果で橋軸直角方向の鉄筋の挿入配置が不要となることにより、従来のループ鉄筋継手構造よりも接合目地部の施工性が大幅に改善される。以上の2点から、既設床版の取替え補修作業を短時間に、かつ、低コストで行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、以上のような構成からなるので、次のような効果が得られる。
(1)プレキャストPC床版を用いたコンクリート床版取替え工法において、橋軸方向の接合目地部にループ鉄筋によるRC構造を採用することにより、橋軸方向のPC鋼材等の配置・緊張作業・足場工などが不要となり、さらに橋軸方向の接合目地幅を最小化し、かつ、短繊維混入コンクリート等の拘束効果で橋軸直角方向の鉄筋の挿入配置を不要とすることにより、従来のループ鉄筋継手構造よりも接合目地部の施工性を大幅に改善することができ、既設床版の取替え補修作業を短時間に、かつ、低コストで行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を図示する一実施形態に基づいて説明する。図1は、本発明のコンクリート床版取替え工法におけるプレキャストPC床版の橋軸方向の接合目地部の一例を示す縦断面図である。
【0019】
図1に示すように、本発明のコンクリート床版取替え工法においては、主桁(鋼桁)上の既設コンクリート床版を撤去した後、工場製作されたプレキャストPC床版2を主桁上に設置し、橋軸方向に隣接するプレキャストPC床版2、2同士をループ鉄筋11によるRC構造のループ継手構造3で接合し、ループ鉄筋11の重ね継手長を最小長とすることで接合目地幅Wを最小化し、さらにラップした半円状のループ部12、12で形成された円形空間Sの内部には、橋軸直角方向の鉄筋(主筋)を挿通配置せず、目地空間10内には短繊維混入コンクリート15を充填することで、拘束効果を高める。
【0020】
プレキャストPC床版2は、橋軸直角方向に平行なPC鋼材(図示せず)により橋軸直角方向にプレストレスが導入され、また配力筋である橋軸方向に平行なループ鉄筋11が橋軸直角方向に間隔をおいて複数本配置され、橋軸直角方向に平行な主筋(図示せず)が橋軸方向に間隔をおいて複数本配置されており、工場で製作される。
【0021】
プレキャストPC床版2の橋軸方向の接合目地部における下部には、橋軸方向に所定長さで突出する突出部2aが一体的に形成されており、接合状態の左右一対の突出部2a、2aによりU字溝状の目地空間10が形成される。ループ鉄筋11の半円状のループ部12は、プレキャストPC床版2の端面から橋軸方向に所定長さだけ張り出しており、接合状態のそれぞれのループ部12、12が橋軸直角方向に間隔をおいてラッブするように交互に配置される。
【0022】
このようなループ鉄筋11によるRC構造を採用することにより、現行工法のプレキャストPC床版を用いた床版取替え工法における橋軸方向のPC鋼材等による橋軸方向のプレストレスの導入を無くすことができ、これにより、PC鋼材配置・緊張作業・足場工などが不要となり、作業時間の短縮及びコストの低減が図られる。
【0023】
目地空間10内でラップしたループ部12、12は側面視で正円又は略円形となるようにすることで、ループ鉄筋11の重ね継手長を最小長とすることができ、これにより接合目地幅Wを最小化することができる。例えば、プレキャストPC床版2の板厚200mm程度に対して接合目地幅Wを200mm程度とすることができる。従来工法の目地幅は例えば330mm程度であるのに対して、本発明では、接合目地幅Wを従来工法に比べて小さくすることで、作業時間の短縮及びコストの低減を図ることができ、また接合目地幅Wが小さくなることでプレキャストPC床版2の床版幅を大きくすることができるため、輪荷重(例えば輪荷重載荷幅は200mm)による疲労耐久性の向上を図ることができる。
【0024】
短繊維混入コンクリート15は、コンクリート(膨張材含有)に例えば長さ30mm程度のビニロン繊維、ポリプロピレン繊維などの非鉄繊維を混入したものであり、引張強度・曲げ強度の高い高強度・高靭性で耐腐食性等を有するコンクリートであり、円形空間S内の短繊維混入コンクリート15による拘束効果により、円形空間S内に橋軸直角方向の鉄筋(床版主筋)を挿通配置することが不要となる。なお、ループ部12の外側における上下には、ループ部12を連結する鉄筋16が取付けられている。
【0025】
本発明では、プレキャストPC床版2の橋軸方向の接合目地部にループ鉄筋によるRC構造を採用しているが、橋軸方向の接合目地幅Wを最小化し、かつ、短繊維混入コンクリート15の拘束効果で橋軸直角方向の鉄筋の挿入配置を不要とすることにより、従来のループ鉄筋継手構造よりも接合目地部の施工性を大幅に改善することができる。
【0026】
なお、プレキャストPC床版2と主桁とは、従来と同様に、例えばスタッドジベル孔とスタッドジベル等により接合される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のコンクリート床版取替え工法におけるプレキャストPC床版の橋軸方向の接合目地部の一例を示す縦断面図である。
【図2】従来のプレキャストPC床版工法であり、(a)は斜視図、(b)は縦断面図である。
【図3】従来のプレキャストPC床版による床版取替え方法を示す平面図である。
【符号の説明】
【0028】
1…主桁(鋼桁)
2…プレキャストPC床版
3…ループ継手構造
4…スタッドジベル孔
5…スタッドジベル
6…無収縮モルタル
7…橋軸方向のPC鋼材
10…目地空間
11…ループ鉄筋(床版配力筋)
12…ループ部
13…橋軸直角方向の鉄筋(床版主鉄筋)
14…コンクリート
15…短繊維混入コンクリート
16…鉄筋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主桁上の既設床版を撤去した後、工場製作されたプレキャスト床版を主桁上に設置し、プレキャスト床版同士を一体化すると共に、プレキャスト床版と主桁とを接合するコンクリート床版取替え工法において、
橋軸直角方向のプレストレスが導入され、橋軸方向の接合目地にループ部が張り出すループ鉄筋が橋軸直角方向に間隔をおいて複数設けられたプレキャストPC床版を用い、橋軸方向に接合されるプレキャストPC床版を、橋軸方向に目地空間をおいて、かつ、それぞれのループ部が橋軸直角方向に間隔をおいてラップするように配置すると共に、ラップしたループ部が側面視で略円形を形成するように前記目地空間の目地幅を小さくし、ラップしたループ部内には橋軸直角方向の鉄筋を配置することなく、前記目地空間内に高強度コンクリートを充填することを特徴とするコンクリート床版取替え工法。
【請求項2】
請求項1に記載のコンクリート床版取替え工法において、高強度コンクリートには短繊維が混入されていることを特徴とするコンクリート床版取替え工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−264040(P2009−264040A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116673(P2008−116673)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(591030178)ドーピー建設工業株式会社 (16)
【Fターム(参考)】