説明

コンクリート打ち継ぎ構造およびコンクリート打ち継ぎ方法

【課題】既存RC造建物に対する耐震補強として既存躯体に対して新設躯体を一体に打ち継ぐための構造とその施工方法を提供する。
【解決手段】あと施工アンカー3を緩挿可能な寸法のアンカー孔4aと、多数のコッター孔4bを形成した補強鋼板4を既存躯体1の表面に接着し、アンカー孔を通して既存躯体に対してあと施工アンカーを打ち込んだうえで既存躯体の表面にコンクリートを打設して新設躯体2を形成することにより、コンクリートをアンカー孔およびコッター孔内に充填せしめて既存躯体と新設躯体との間にシアコッターを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存のRC造(鉄筋コンクリート造)建物の耐震補強に際して、既存躯体の表面に耐震要素としての新設躯体をせん断力伝達可能に打ち継ぐための構造および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、既存のRC造建物の耐震補強策として、耐震性を向上させるために耐震壁、柱、梁、ブレースなどの耐震要素を増設することがよく行われる。そのような新設の耐震要素によって既存建物を効率良く補強するためには、耐震要素としての新設躯体を既存躯体に対して確実に一体化させる必要があり、その接合手段としてはたとえば特許文献1に示されるようにあと施工アンカーが多用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−90630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、あと施工アンカーで接合された接合面がせん断力を受けると、あと施工アンカーの屈曲により接合面に局所的な圧壊(支圧破壊)が生じて、あと施工アンカーがフルに耐力を発揮する以前に接合面のすべりが大きくなる傾向がある。
そのような傾向は既存躯体のコンクリート強度が充分ではない場合に顕著であって、その場合には充分なせん断力伝達効果が得られないから、特に建設年代の古いRC造建物では充分な耐震補強効果が得られないことも懸念される。
また、特許文献1に示される構造では、既存躯体と新設躯体との間のせん断力伝達がアンカー(あと施工アンカー)とせん断抵抗部材によりなされるだけなので、せん断力伝達効果が必ずしも充分に得られないことも想定される。
【0005】
上記事情に鑑み、本発明は既存躯体に対して新設躯体を一体に打ち継ぐことによって、既存躯体のコンクリート強度が充分ではないような場合であっても確実にせん断力を伝達し得て充分な補強効果が得られる有効適切なコンクリート打ち継ぎ構造およびコンクリート打ち継ぎ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、既存のRC造建物の耐震補強に際して、既存躯体の表面に耐震要素としての新設躯体を増し打ちして該新設躯体を前記既存躯体に対してせん断力伝達可能に一体化させるためのコンクリート打ち継ぎ構造であって、多数のコッター孔とあと施工アンカーを緩挿可能な寸法のアンカー孔を形成した補強鋼板を前記既存躯体の表面に接着し、前記アンカー孔を通して前記既存躯体に対して前記あと施工アンカーを打ち込んだうえで前記既存躯体の表面にコンクリートを打設して前記新設躯体を形成することにより、前記コンクリートを前記アンカー孔内および前記コッター孔内に充填せしめて前記既存躯体と前記新設躯体との間にシアコッターを形成してなることを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のコンクリート打ち継ぎ構造であって、前記補強鋼板の全面積と前記コッター孔および前記アンカー孔の孔面積の総和との比を、前記既存躯体のコンクリート圧縮強度と前記新設躯体のコンクリート圧縮強度との比に基づいて設定してなることを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載のコンクリート打ち継ぎ構造であって、前記アンカー孔を円形の丸孔として形成して、該アンカー孔の径寸法を、該アンカー孔を通して前記あと施工アンカーを前記既存躯体に打ち込む際に該既存躯体中に配筋されている既存鉄筋の埋設位置を回避して前記あと施工アンカーの打ち込み位置を確保し得る大きさに設定してなることを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項1または2記載のコンクリート打ち継ぎ構造であって、前記アンカー孔を長孔として形成して、該アンカー孔の長さ方向を、前記既存躯体中に直交状態で配筋されている2方向の既存鉄筋の双方に対して斜めに交差する方向に設定し、かつ該アンカー孔の長さ寸法を、該アンカー孔を通して前記あと施工アンカーを前記既存躯体に打ち込む際に前記既存鉄筋の埋設位置を回避して前記あと施工アンカーの打ち込み位置を確保し得る長さに設定してなることを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の発明は、既存のRC造建物の耐震補強に際して、既存躯体の表面に耐震要素としての新設躯体を増し打ちして該新設躯体を前記既存躯体に対してせん断力伝達可能に一体化させるためのコンクリート打ち継ぎ方法であって、多数のコッター孔とあと施工アンカーを緩挿可能な寸法のアンカー孔を形成した補強鋼板を前記既存躯体の表面に接着し、前記アンカー孔を通して前記既存躯体に対して前記あと施工アンカーを打ち込んだうえで前記既存躯体の表面にコンクリートを打設して前記新設躯体を形成することにより、前記コンクリートを前記アンカー孔内および前記コッター孔内に充填せしめて前記既存躯体と前記新設躯体との間にシアコッターを形成することを特徴とする。
【0011】
請求項6記載の発明は、請求項5記載のコンクリート打ち継ぎ方法であって、前記補強鋼板の全面積と前記コッター孔および前記アンカー孔の孔面積の総和との比を、前記既存躯体のコンクリート圧縮強度と前記新設躯体のコンクリート圧縮強度との比に基づいて設定することを特徴とする。
【0012】
請求項7記載の発明は、請求項5または6記載のコンクリート打ち継ぎ方法であって、前記アンカー孔を円形の丸孔として形成して、前記アンカー孔の径寸法を、該アンカー孔を通して前記あと施工アンカーを前記既存躯体に打ち込む際に該既存躯体中に配筋されている既存鉄筋の埋設位置を回避して前記あと施工アンカーの打ち込み位置を確保し得る大きさに設定することを特徴とする。
【0013】
請求項8記載の発明は、請求項5または6記載のコンクリート打ち継ぎ方法であって、前記アンカー孔を長孔として形成して、該アンカー孔の長さ方向を前記既存躯体中に直交状態で配筋されている2方向の既存鉄筋の双方に対して斜めに交差する方向に設定し、かつ該アンカー孔の長さ寸法を、該アンカー孔を通して前記あと施工アンカーを前記既存躯体に打ち込む際に前記既存鉄筋の埋設位置を回避して前記あと施工アンカーの打ち込み位置を確保し得る長さに設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コッター孔およびアンカー孔を形成した有孔鋼板からなる補強鋼板を既存躯体に接着したうえで、アンカー孔を通してあと施工アンカーを既存躯体に打ち込むことにより、従来のように接合面に圧壊が生じることによるせん断力伝達効果の低下を防止でき、しかもコッター孔およびアンカー孔によってせん断面にシアコッターが形成されるので優れたせん断力伝達効果が得られ、したがって既存躯体が低強度であっても充分なる耐震補強効果が得られる。
【0015】
また、補強鋼板に形成するコッター孔およびアンカー孔の孔面積の総和、すなわち補強鋼板における開口率を、既存躯体のコンクリート強度に基づいて最適に設定することにより、既存躯体としてのコンクリートが低強度であっても確実にかつ効率的に補強効果が得られる。
【0016】
さらに、アンカー孔を円形の丸孔あるいは長孔としてその大きや長さの範囲内であと施工アンカーの打ち込み位置を調整可能としておくことにより、あと施工アンカーを打ち込む際に既存躯体中の既存鉄筋との干渉を回避することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の打ち継ぎ構造および打ち継ぎ方法の一実施形態を示す図である。
【図2】同、施工手順を示す図である。
【図3】同、作用の説明図である。
【図4】同、アンカー孔の寸法についての説明図である。
【図5】本発明の打ち継ぎ構造および打ち継ぎ方法の他の実施形態を示す図である。
【図6】同、アンカー孔の寸法についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は本発明の一実施形態を概念的に示す説明図である。
これは、既存のRC造建物の耐震補強に際して、既存躯体1の表面に耐震要素としての新設躯体2(たとえば耐震壁、柱、梁、ブレースなど。図1は鎖線で示す)を増し打ちして、その新設躯体2を既存躯体1に対してせん断力伝達可能に一体化させる場合の適用例である。
【0019】
本実施形態では、たとえば特許文献1にも示されているように従来一般に多用されているあと施工アンカー3を既存躯体1に打ち込んだうえで新設躯体2を増設することにより、それら既存躯体1と新設躯体2との間でせん断力を伝達することを基本とするが、本実施形態では多数の孔を形成した有孔鋼板からなる補強鋼板4を接合面に接着したうえであと施工アンカー3を打ち込むことを主眼とする。
【0020】
すなわち、本実施形態では、所要本数(図1では6本のみを図示)のあと施工アンカー3を緩挿可能な径寸法の円形のアンカー孔4aと、該アンカー孔4aと同等の径寸法の多数のコッター孔4bとを形成した補強鋼板4を用いて、それを図2(a)に示すように既存躯体1の表面にたとえば構造用のエポキシ樹脂等の強力な接着剤5により接着してせん断力伝達可能な状態で構造的に一体化したうえで、(b)に示すように補強鋼板4の上部からアンカー孔4aを通して既存躯体1に対してあと施工アンカー3を打ち込み、しかる後に(c-1)、(c-2)に示すように既存躯体1の表面にコンクリートを打設して新設躯体2を形成する。
これにより、既存躯体1と新設躯体2とがあと施工アンカー3を介して接合されるばかりでなく、新設躯体2を形成する際にそのコンクリートが(c-1)、(c-2)に示すようにアンカー孔4aおよびコッター孔4b内に自ずと充填されて既存躯体1と新設躯体2との間にシアコッター6が形成し、そのシアコッター6を介して充分なるせん断力伝達効果が得られる。
【0021】
しかも、本実施形態では、既存躯体1の接合面に対して補強鋼板4を接着してあと施工アンカー3をアンカー孔4a内を挿通させて既存躯体1に打ち込むことから、既存躯体1が低強度である場合においても接合面の変形が補強鋼板4により拘束されて接合面に局所的な圧壊を生じることがなく、それにより従来のように圧壊によるせん断力伝達効果の低下を有効に防止し得て充分なるせん断補強効果が得られる。
【0022】
すなわち、従来一般の耐震補強工法のように低強度コンクリートからなる既存躯体1に対してあと施工アンカー3を単に打ち込むことでは、図3(a)に示すようにあと施工アンカー3に作用するせん断力によって接合面が圧壊(支圧破壊)を受けてしまい、そこですべりが生じて充分なせん断力伝達効果が得られないのであるが、本実施形態によれば(b)に示すようにあと施工アンカー3の周囲が補強鋼板4により補強されて支圧破壊が生じることを有効に防止できて充分なせん断力伝達効果が得られる。
そして、そのうえで(c)に示すようにアンカー孔4aにコンクリートが充填されてシアコッター6が形成されることにより、あと施工アンカー3に作用するせん断力はシアコッター6から補強鋼板4、接着剤5による接着層を介して既存躯体1に伝達されるから、それらの全体で優れたせん断力伝達効果が得られ、それにより本実施形態では既存躯体1が低強度であっても優れた補強効果が得られる。
【0023】
この場合、上記のようなせん断力伝達効果が最も効率的に行われるためには、既存躯体1のせん断耐力と、新設躯体2のせん断耐力のバランスを考慮して、補強鋼板4の全面積に対するアンカー孔4aとコッター孔4bの孔面積の総和の比(つまりは補強鋼板4の開口率)を適切に設定すると良い。
すなわち、既存躯体1のせん断強度fs1、既存躯体1のコンクリート圧縮強度σB1、新設躯体2のせん断強度fs2、新設躯体2のコンクリート圧縮強度σB2とし、補強鋼板4の全面積A、アンカー孔4aとコッター孔4bの孔面積の総和をA2、それらの孔面積を除いた部分の面積A1(A1=A−A2)とすると、既存躯体1から接着剤5による接着層および補強鋼板4を介して伝達されるせん断力と、補強鋼板4から新設躯体2にシアコッター6を介して伝達されるせん断力との間には、
fs1・A1≒fs2・A2
なる関係があるから、これから、
A1/A2=fs2/fs1=√(σB2B1)
なる関係が成り立ち、その関係に基づいてアンカー孔4aとコッター孔4bの孔面積の総和A2を設定すれば良い。
【0024】
たとえば、既存躯体1のコンクリート圧縮強度σB1=14N/mm2であり、新設躯体2のコンクリート圧縮強度σB2=28N/mm2の場合、
A1/A2=√(28/14)≒1.4 ∴A2≒A1/1.4=(A-A2)/1.4 ∴A2≒A/2.4≒0.417A
つまり、補強鋼板4全体の面積Aに対するアンカー孔4aおよびコッター孔4bの孔面積の総和A2を補強鋼板4全体の面積Aの約40%程度、つまり補強鋼板4の開口率を約40%程度とすれば良いことになる。
【0025】
以上のように、本実施形態によれば、有孔鋼板からなる補強鋼板4を既存躯体1に接着したうえでアンカー孔4aを通してあと施工アンカー3を打ち込むので、既存躯体1が低強度であっても従来のように接合面に圧壊が生じることによるせん断力伝達効果の低下を防止でき、かつ接合面にシアコッター6が形成されることにより優れたせん断力伝達効果が得られるので、単にあと施工アンカー3のみで接合する場合に比べて耐震補強効果を向上させることができるし、あと施工アンカー3の所要本数を削減することも可能となる。
【0026】
なお、上記のように補強鋼板4の開口率を既存躯体1と新設躯体2のコンクリート強度との関係に基づいて適切に設定したうえで、補強鋼板4による接合面の圧壊を有効に防止するためにはアンカー孔4aの径寸法をあと施工孔アンカー3を打ち込み可能な範囲で可及的に小さくすることが好ましい。
しかし、アンカー孔4aの径寸法をあまり小さくするとその内部へのあと施工アンカー3の打ち込み作業が著しく困難になるし、また、既存躯体1に埋設されている既存鉄筋に対してあと施工アンカー3が干渉してその打ち込みが困難になる場合も想定されることから、それらの点を考慮すれば、アンカー孔4aの寸法は既存鉄筋の径寸法も考慮してそれよりも大きく設定することが好ましい。
【0027】
そのことについて図4を参照して説明する。
図中の符号7は既存躯体1中に直交状態で配筋されている2方向の既存鉄筋(たとえば柱の場合には主筋とフープ筋、梁の場合には主筋とスタラップ、壁や床の場合には格子状の壁筋や床筋など)であり、補強鋼板4を既存躯体1の表面に接着した段階ではアンカー孔4aの位置がそれら既存鉄筋7の位置に重なることが想定される。
そのため、仮にアンカー孔4aの径寸法が既存鉄筋7の径と同等程度ないしそれ以下であると、そのアンカー孔4aが既存鉄筋7の直上に重なった場合にはそこにあと施工アンカー3を打ち込むことが不可能であるから、その場合には予め既存鉄筋7の位置を正確に把握したうえで、アンカー孔4aの位置が既存鉄筋7の位置に重ならないようにアンカー孔4aの位置決めあるいは補強鋼板4の位置決めを高精度で行う必要があるが、そのような作業は非常に困難であり面倒である。
【0028】
そのような事態を回避するためには、図示しているようにアンカー孔4aの径寸法を既存鉄筋7の径寸法よりも充分に大きくしておけば良く、それによりアンカー孔4aの一部が既存鉄筋7に重なってもその位置を避けてあと施工アンカー3を打ち込むことが可能となる。
但し、アンカー孔4aの径を徒らに大きくすることは補強鋼板4を接着することによる補強効果が低下してしまうから、アンカー孔4aの大きさは既存鉄筋7の位置を回避してあと施工アンカー3を打ち込めるようにその位置を調整可能な範囲内で必要最小限に留めるべきである。
【0029】
そこで本実施形態では、アンカー孔4aの必要最小限の大きさを、(b)に示すように、既存鉄筋7の一方側においてあと施工アンカー3をぎりぎりで打ち込むことができない場合において、他方側においてぎりぎりに打ち込むことができる寸法として設定している。
具体的には、既存鉄筋7の径d1、あと施工アンカー3の径d2とした場合、アンカー孔4aの必要最小限の径Dは図中に示しているように
D≧d1+2d2
として設定すれば良い。
これにより、アンカー孔4aが既存鉄筋7に対して様々な位置関係で重なったとしてもそのアンカー孔4aの範囲内であと施工アンカー3の打ち込み位置を調整可能であり、それにより既存鉄筋7の位置を回避してあと施工アンカー3を支障なく打ち込むことが可能である。
【0030】
なお、仮に既存鉄筋7が一方向のみの場合、あるいは一方向の既存鉄筋7との干渉のみを考慮すれば良い場合には、アンカー孔4aを必ずしも円形とすることはなく、アンカー孔4aを長孔としてその長さ方向を既存鉄筋7に直交する方向とし、そのうえで長孔の長さ寸法を上記のD寸法以上、幅寸法を上記のd2以上としておくことでも同様に既存鉄筋7を回避し得ることにはなる。しかし、既存鉄筋7は2方向に直交状態で配筋されていることが通常であり、それらの双方との干渉を考慮すべきであるから、アンカー孔4aを単に長孔としただけではそれと並行する方向の既存鉄筋7を必ずしも回避し得ない場合があり、したがって上記実施形態のようにアンカー孔4aを直径D以上の円形としておいて両方向の既存鉄筋7を回避可能とすることが現実的である。
【0031】
図5〜図6は、その点を考慮した他の実施形態として、アンカー孔4aを長孔とした場合の例を示す。
この場合、長孔として形成するアンカー孔4aの長さ方向が、直交状態で交差している2方向の既存鉄筋7のいずれか一方と同方向であると、そのアンカー孔4aと既存鉄筋7とが完全に重なってしまってあと施工アンカー3の打ち込みが不可能になることが想定されることから、アンカー孔4aとしての長孔の長さ方向を図5に示すように2方向の既存鉄筋7の双方に対して斜めに交差させることを前提として、そのアンカー孔4aの最小長さ寸法を既存鉄筋7の径寸法に基づいて適切に設定することにより、そのアンカー孔4aを通して打ち込むべきあと施工アンカー3が両方向の既存鉄筋7と干渉してしまうことを有効に防止することができる。
【0032】
具体的には、図6に示すように、アンカー孔4aとしての長孔を双方の既存鉄筋7に対して45°の角度で交差するようにしたうえで、その必要最小限の長さLを、既存鉄筋7の径d1とあと施工アンカー3の径d2に基づき、図中に示しているように
L≧(√2)d1+(1+(√2))d2≒1.4d1+2.4d2
として設定すれば良い。これにより、アンカー孔4aが2方向の既存鉄筋7に対してどのような位置関係で重なったとしても、そのアンカー孔4a内においてあと施工アンカー3を打ち込むことが可能である。
【0033】
以上で本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態はあくまで好適な一例であって本発明は上記実施形態に限定されるものでは勿論なく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、すなわち補強鋼板4に形成したアンカー孔4aを通してあと施工アンカー3を既存躯体1に対して打ち込んであと施工アンカー3の周囲における接合面の圧壊を有効に防止し、かつアンカー孔4aおよびコッター孔4bの全体でシアコッター6を形成すれば良いのであって、その限りにおいて適宜の設計的変更や応用が可能である。
【0034】
たとえば上記実施形態を基本として補強鋼板4の上面(新設躯体2側の表面)に新設躯体2に対してシアコッターとして機能する突起や凹凸を形成しておくことも考えられる。
【0035】
また、本発明においてはアンカー孔4aやコッター孔4bの形状や寸法、それらの数や補強鋼板4への形成パターン、その他は独立にかつ任意に設定可能であり、特に、アンカー孔4aは少なくともあと施工アンカー3を緩挿し得る大きさとする必要はあるが、コッター孔4bはその必要はないので、コッター孔4bの寸法や形状、パターンは所望のせん断力伝達効果が得られるようなシアコッターを形成できる範囲で任意に設定可能である。
但し、上記実施形態のようにアンカー孔4aとコッター孔4bを個別に形成することに代えて、あと施工アンカー3の所要本数が多いような場合においては、必要に応じてコッター孔4bの一部あるいは全てにアンカー孔4aを兼用させることも考えられ、その場合には一部あるいは全てのコッター孔4bにもあと施工アンカー3を挿通し得るようにその大きさを設定しておけば良い。
【符号の説明】
【0036】
1 既存躯体
2 新設躯体
3 あと施工アンカー
4 補強鋼板
4a アンカー孔
4b コッター孔
5 接着剤
6 シアコッター
7 既存鉄筋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存のRC造建物の耐震補強に際して、既存躯体の表面に耐震要素としての新設躯体を増し打ちして該新設躯体を前記既存躯体に対してせん断力伝達可能に一体化させるためのコンクリート打ち継ぎ構造であって、
多数のコッター孔とあと施工アンカーを緩挿可能な寸法のアンカー孔を形成した補強鋼板を前記既存躯体の表面に接着し、前記アンカー孔を通して前記既存躯体に対して前記あと施工アンカーを打ち込んだうえで前記既存躯体の表面にコンクリートを打設して前記新設躯体を形成することにより、前記コンクリートを前記アンカー孔内および前記コッター孔内に充填せしめて前記既存躯体と前記新設躯体との間にシアコッターを形成してなることを特徴とするコンクリート打ち継ぎ構造。
【請求項2】
請求項1記載のコンクリート打ち継ぎ構造であって、
前記補強鋼板の全面積と前記コッター孔および前記アンカー孔の孔面積の総和との比を、前記既存躯体のコンクリート圧縮強度と前記新設躯体のコンクリート圧縮強度との比に基づいて設定してなることを特徴とするコンクリート打ち継ぎ構造。
【請求項3】
請求項1または2記載のコンクリート打ち継ぎ構造であって、
前記アンカー孔を円形の丸孔として形成して、該アンカー孔の径寸法を、該アンカー孔を通して前記あと施工アンカーを前記既存躯体に打ち込む際に該既存躯体中に配筋されている既存鉄筋の埋設位置を回避して前記あと施工アンカーの打ち込み位置を確保し得る大きさに設定してなることを特徴とするコンクリート打ち継ぎ構造。
【請求項4】
請求項1または2記載のコンクリート打ち継ぎ構造であって、
前記アンカー孔を長孔として形成して、該アンカー孔の長さ方向を、前記既存躯体中に直交状態で配筋されている2方向の既存鉄筋の双方に対して斜めに交差する方向に設定し、かつ該アンカー孔の長さ寸法を、該アンカー孔を通して前記あと施工アンカーを前記既存躯体に打ち込む際に前記既存鉄筋の埋設位置を回避して前記あと施工アンカーの打ち込み位置を確保し得る長さに設定してなることを特徴とするコンクリート打ち継ぎ構造。
【請求項5】
既存のRC造建物の耐震補強に際して、既存躯体の表面に耐震要素としての新設躯体を増し打ちして該新設躯体を前記既存躯体に対してせん断力伝達可能に一体化させるためのコンクリート打ち継ぎ方法であって、
多数のコッター孔とあと施工アンカーを緩挿可能な寸法のアンカー孔を形成した補強鋼板を前記既存躯体の表面に接着し、前記アンカー孔を通して前記既存躯体に対して前記あと施工アンカーを打ち込んだうえで前記既存躯体の表面にコンクリートを打設して前記新設躯体を形成することにより、前記コンクリートを前記アンカー孔内および前記コッター孔内に充填せしめて前記既存躯体と前記新設躯体との間にシアコッターを形成することを特徴とするコンクリート打ち継ぎ方法。
【請求項6】
請求項5記載のコンクリート打ち継ぎ方法であって、
前記補強鋼板の全面積と前記コッター孔および前記アンカー孔の孔面積の総和との比を、前記既存躯体のコンクリート圧縮強度と前記新設躯体のコンクリート圧縮強度との比に基づいて設定することを特徴とするコンクリート打ち継ぎ方法。
【請求項7】
請求項5または6記載のコンクリート打ち継ぎ方法であって、
前記アンカー孔を円形の丸孔として形成して、前記アンカー孔の径寸法を、該アンカー孔を通して前記あと施工アンカーを前記既存躯体に打ち込む際に該既存躯体中に配筋されている既存鉄筋の埋設位置を回避して前記あと施工アンカーの打ち込み位置を確保し得る大きさに設定することを特徴とするコンクリート打ち継ぎ方法。
【請求項8】
請求項5または6記載のコンクリート打ち継ぎ方法であって、
前記アンカー孔を長孔として形成して、該アンカー孔の長さ方向を前記既存躯体中に直交状態で配筋されている2方向の既存鉄筋の双方に対して斜めに交差する方向に設定し、かつ該アンカー孔の長さ寸法を、該アンカー孔を通して前記あと施工アンカーを前記既存躯体に打ち込む際に前記既存鉄筋の埋設位置を回避して前記あと施工アンカーの打ち込み位置を確保し得る長さに設定することを特徴とするコンクリート打ち継ぎ方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−112095(P2012−112095A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259212(P2010−259212)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】