説明

コンクリート柱補強方法およびコンクリート柱補強構造

【課題】せん断耐力を低コストで向上できるコンクリート躯体補強方法を提供すること。
【解決手段】コンクリート躯体補強方法は、既設のコンクリート柱10を補強する。このコンクリート躯体補強方法は、既設のコンクリート柱10の外周側面101〜104に横補強筋11を配置し、既設のコンクリート柱10の一側面101に当接して新たにコンクリート躯体を増打部14として設けるとともに、既設のコンクリート柱10の側面102〜103に、横補強筋11を被覆するようにポリマーセメントモルタルを塗り付けて、増打部14とともに既設のコンクリート柱10を覆う巻立て部13を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート躯体補強方法およびコンクリート躯体補強構造に関する。詳しくは、例えば、既設のコンクリート躯体を補強するコンクリート躯体補強方法およびコンクリート躯体補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、橋脚や建物の柱などの既設のコンクリート躯体のせん断強度を向上する方法として、コンクリート躯体の外周側面に沿って補強筋を配置し、この補強筋を被覆するようにコンクリート躯体の外周側面にポリマーセメントモルタルを塗り付ける手法が知られている(特許文献1、2参照)。この手法によれば、補強筋によりせん断耐力が増加するので、せん断強度を向上できることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3565957号公報
【特許文献2】特開2005−320819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の手法では、補強筋によるせん断耐力の増加量に限界があるため、耐震補強設計を行う際、必要なせん断耐力を確保できない場合があった。
【0005】
本発明は、せん断耐力を低コストで向上できるコンクリート躯体補強方法およびコンクリート躯体補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明に係るコンクリート躯体補強方法は、既設のコンクリート躯体を補強するコンクリート躯体補強方法であって、前記既設のコンクリート躯体の外周側面に補強筋を配置し、前記既設のコンクリート躯体の外周側面に当接して新たにコンクリート躯体を増打部として設けるとともに、前記既設のコンクリート躯体の外周側面のうち前記増打部以外の部分に、前記補強筋を被覆するように接着モルタルを塗り付けて、前記増打部とともに前記既設のコンクリート躯体を覆う巻立て部を形成することを特徴とする。
【0007】
ここで、接着モルタルとしては、ポリマーセメントに代表される樹脂系モルタルや、接着増強剤入りモルタルがある。
また、この発明では、増打部を設けた後に巻立て部を形成してもよいし、巻立て部を形成した後に増打部を設けてもよい。
【0008】
この発明によれば、既設のコンクリート躯体の外周側面に当接して新たに増打部を設け、さらに、既設のコンクリート躯体の外周側面のうち増打部以外の部分に接着モルタルからなる巻立て部を形成した。このように、巻立て部に加えて増打部も地震時のせん断力を負担するので、せん断耐力を低コストで向上できる。
【0009】
第2の発明に係るコンクリート躯体補強方法は、上述の躯体補強方法において、前記補強筋を前記増打部の内部に定着するように配置することを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、補強筋を増打部の内部に定着させたので、この補強筋が増打部と巻立て部との接合筋としての役割を果たすから、増打部および巻立て部を一体化して、地震時のせん断力をより確実に負担できる。
【0011】
第3の発明に係るコンクリート躯体補強構造は、既設のコンクリート躯体を補強するコンクリート躯体補強構造であって、前記既設のコンクリート躯体の外周側面に配置された補強筋と、前記既設のコンクリート躯体に当接して新たに設けられたコンクリート躯体である増打部と、前記既設のコンクリート躯体の外周側面のうち前記増打部以外の部分に前記補強筋を被覆するように接着モルタルを塗り付けて形成され、前記増打部とともに前記既設のコンクリート躯体を覆う巻立て部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、既設のコンクリート躯体の外周側面に当接して新たに増打部を設け、さらに、既設のコンクリート躯体の外周側面のうち増打部以外の部分に接着モルタルからなる巻立て部を形成した。このように、巻立て部に加えて増打部も地震時のせん断力を負担するので、せん断耐力を低コストで向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係るコンクリート躯体補強方法が適用されたコンクリート補強柱の斜視図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係るコンクリート躯体補強方法が適用されたコンクリート補強柱の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の実施形態の説明にあたって、同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略もしくは簡略化する。
【0015】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るコンクリート躯体補強方法が適用されたコンクリート補強柱1の斜視図である。
コンクリート補強柱1は、既設のコンクリート躯体としてのコンクリート柱10を補強したものである。
【0016】
具体的には、既設のコンクリート柱10は、4つの側面101〜104を有している。
この既設のコンクリート柱10の側面101〜104には、上下方向に所定間隔おきに配置された横補強筋11と、この既設のコンクリート柱10に沿って上下方向に延びる2本の縦補強筋12と、が設けられる。
横補強筋11は、それぞれ、両端側に屈曲部分が形成された略C字形状であり、既設のコンクリート柱10を囲むように配置される。
縦補強筋12は、それぞれ、横補強筋11の両端側の屈曲部分に配置されている。
【0017】
また、既設のコンクリート柱10の一側面101には、新たなコンクリート躯体である増打部14が当接して設けられている。この増打部14の内部には、上述の横補強筋11の先端側が定着し、縦補強筋12が埋設される。
【0018】
また、既設のコンクリート柱10の増打部14以外の3つの側面102〜104には、接着モルタルとしてのポリマーセメントモルタルを所定厚さ塗り付けて形成された巻立て部13が形成されている。上述の横補強筋11は、この巻立て部13により覆われる。
ここで、ポリマーセメントモルタルとは、樹脂が配合されたモルタルであり、一般のモルタルに比べて、付着力、引張強度、曲げ強度が高く、十分な靱性を有している。
以上より、巻立て部13と増打部14とは、一体化して既設のコンクリート柱10を覆っている。
【0019】
以上のコンクリート補強柱1は、以下の手順で施工される。
まず、既設のコンクリート柱10の外周側面に横補強筋11および縦補強筋12を配置する。
次に、横補強筋11の先端側が定着しかつ縦補強筋12が埋設するように、既設のコンクリート柱10の側面101に当接して新たにコンクリートを打設し、この新たなコンクリート躯体を増打部14とする。
次に、横補強筋11を被覆するように、既設のコンクリート柱10の外周側面にポリマーセメントモルタルを塗り付けて巻立て部13を形成する。
【0020】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)既設のコンクリート柱10の一側面101に当接して新たに増打部14を設け、さらに、既設のコンクリート柱の外周側面のうち増打部14以外の部分にポリマーセメントモルタルからなる巻立て部13を形成した。このように、巻立て部13に加えて増打部14も地震時のせん断力を負担するので、せん断耐力を低コストで向上できる。
【0021】
(2)横補強筋11を増打部14の内部に定着させたので、この横補強筋11が増打部14と巻立て部13との接合筋としての役割を果たすから、増打部14および巻立て部13を一体化して、地震時のせん断力をより確実に負担できる。
【0022】
<第2実施形態>
図2は、本発明の第2実施形態に係るコンクリート躯体補強方法が適用されたコンクリート補強柱2の斜視図である。
本実施形態のコンクリート補強柱2では、増打部24は、既設のコンクリート柱10の一側面101に設けられた袖壁状の第1増打部241と、既設のコンクリート柱10の側面101と背中合わせの側面103に設けられた袖壁状の増打部242と、からなる。
【0023】
横補強筋21は、既設のコンクリート柱10の側面102側に配置された第1横補強筋211と、側面104側に配置された第2横補強筋212と、からなる。
具体的には、横補強筋211は、側面101、102、103に亘って延びる略コの字形状であり、横補強筋212は、側面101、104、103に亘って延びる略コの字形状である。これら横補強筋211、212の一端側は、それぞれ、第1増打部241に定着しており、他端側は、第2増打部242に定着している。
縦補強筋22は、それぞれ、横補強筋21の両端側の屈曲部分に配置されている。
【0024】
また、巻立て部23は、既設のコンクリート柱10の側面102側に形成された第1巻立て部231と、既設のコンクリート柱10の側面104側に形成された第2巻立て部232と、からなる。
具体的には、第1巻立て部231は、側面101、102、103に亘って延びる断面略コの字形状であり、第2巻立て部232は、側面101、104、103に亘って延びる断面略コの字形状となっている。
【0025】
本実施形態によれば、上述の(1)、(2)と同様の効果がある。
【0026】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、上述の第1実施形態では、横補強筋11の両端側を屈曲させ、この屈曲部分に2本の縦補強筋12を設けたが、これに限らない。
すなわち、増打部内に帯筋を配置して、さらに縦補強筋の本数を増加してもよい。また、既設のコンクリート柱の側面に、増打部内に定着するダボ筋を設けてもよい。また、横補強筋の両端を重ね継手として、横補強筋を略ロの字形状としてもよい。
【0027】
また、上述の第2実施形態では、第1増打部241、第1増打部242を袖壁状としたが、これに限らず、この袖壁を長くして、柱付き壁としてもよい。この場合、横補強筋21を、この柱付き壁の横筋に重ね継手で接続してもよいし、柱付き壁の横筋に一体化させてもよい。
【0028】
また、以上の各実施形態では、既設のコンクリート柱10の側面101〜104のうち増打部14、24以外の全ての部分に巻立て部13、23を設けたが、これに限らない。例えば、既設のコンクリート柱の一側面が壁と一体化している場合、この壁と一体化した側面には、補強筋を配筋せず、巻立て部を設けなくてもよい。なお、この場合、壁にアンカーを打設して、横補強筋に重ね継手で接続してもよい。
【符号の説明】
【0029】
1、2 コンクリート補強柱
10 既設のコンクリート柱(既設のコンクリート躯体)
11、21 横補強筋
12、22 縦補強筋
13、23 巻立て部
14、24 増打部
101〜104 側面
211 第1横補強筋
212 第2横補強筋
231 第1巻立て部
232 第2巻立て部
241 第1増打部
242 第2増打部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設のコンクリート柱を補強するコンクリート柱補強方法であって、
前記既設のコンクリート柱の一側面は、壁に接続されており、
前記既設のコンクリート柱の外周側面のうち前記壁以外の部分に補強筋を配置し、
前記既設のコンクリート柱の外周側面のうち前記壁以外の部分に当接して新たにコンクリート躯体を増打部として設けるとともに、前記既設のコンクリート柱の外周側面のうち当該増打部および前記壁以外の部分に、前記補強筋を被覆するように接着モルタルを塗り付けて、前記増打部とともに前記既設のコンクリート柱を覆う巻立て部を形成することを特徴とするコンクリート柱補強方法。
【請求項2】
既設のコンクリート柱を補強するコンクリート柱補強構造であって、
前記既設のコンクリート柱の一側面は、壁に接続されており、
前記既設のコンクリート柱の外周側面のうち前記壁以外の部分に配置された補強筋と、
前記既設のコンクリート柱の外周側面のうち前記壁以外の部分に当接して新たに設けられたコンクリート躯体である増打部と、
前記既設のコンクリート柱の外周側面のうち当該増打部および前記壁以外の部分に、前記補強筋を被覆するように接着モルタルを塗り付けて形成されて、前記増打部とともに前記既設のコンクリート柱を覆う巻立て部と、を備えることを特徴とするコンクリート柱補強構造。
【請求項3】
前記壁には、アンカーが打設され、
前記補強筋は、当該アンカーに接続されることを特徴とする請求項2に記載のコンクリート柱補強構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−229615(P2012−229615A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−189373(P2012−189373)
【出願日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【分割の表示】特願2009−4125(P2009−4125)の分割
【原出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】