説明

コンクリート構造物の診断システム及び診断方法

【課題】コンクリート構造物に対して加振装置を容易に取付けてその診断を行うことが可能なコンクリート構造物の診断システム及び診断方法を提供する。
【解決手段】診断システムは、コンクリート構造物に固着された磁性体板部材と、作動時に磁性体板部材に磁気的に吸着して固定され、診断すべきコンクリート構造物に局部振動を与える加振装置と、加振装置を駆動する駆動手段と、診断すべきコンクリート構造物の振動に対する応答を計測する計測手段と、計測手段の計測によって得られる振動モードが健全時の振動モードからどのように変化したかに基づいて診断すべきコンクリート構造物の健全度を求める解析手段とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の微小な変状を検出してその健全度を診断することができるコンクリート構造物の診断システム及び診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄橋、船舶、鉄道施設等の鋼材構造物や、橋梁、トンネル、ビル、発電所等のコンクリート構造物における健全度の診断は、目視による変状状態の発見やハンマで診断対象に振動を与え、その時の音から変状の有無を判断することが行われていた。
【0003】
しかしながら、このような診断方法では見落としが発生しやすく、またその判断において個人差があるため信頼性が低く、また、再現性のある診断を行うことが困難であった。
【0004】
そこで、構造物に圧電素子を貼付し一定の周波数域で加振して、低周波数域における振動モードの変化を観察することで構造物全体の変状を検知し、また圧電素子の高周波数域での電気インピーダンスの変化を検知することで局所的な欠陥を検知する方法が提案されている(特許文献1)。
【0005】
しかし、本来、構造物の変状箇所を特定するには、変状によって生ずる反射波を圧電素子によって検出し、検出信号における注目点の時間軸上の位置と弾性波の伝播速度とからその位置を同定する必要があり、当該位置の特定に長時間を要する問題があった。
【0006】
このような状況に鑑み、本願発明者等は、構造物に局部振動を付与し、その応答を計測して求めた振動モードの変化から診断対象の変状を診断するシステムを提案した(特許文献2、特許文献3、特許文献4)。
【0007】
【特許文献1】特開2001−99760号公報
【特許文献2】特許第3694749号公報
【特許文献3】特許第3705357号公報
【特許文献4】特開2004−301792号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2〜4に記載されている本願発明者等による診断システムは、H形鋼等の鋼材構造物を診断対象とするものであり、コンクリート構造物を診断対象とした場合、特にその加振装置を構造物に取付ける方法について何等考慮を行っていなかった。
【0009】
従って本発明の目的は、コンクリート構造物に対して加振装置を容易に取付けてその診断を行うことが可能なコンクリート構造物の診断システム及び診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、コンクリート構造物に固着された磁性体板部材と、作動時に磁性体板部材に磁気的に吸着して固定され、診断すべきコンクリート構造物に局部振動を与える加振装置と、加振装置を駆動する駆動手段と、診断すべきコンクリート構造物の振動に対する応答を計測する計測手段と、計測手段の計測によって得られる振動モードが健全時の振動モードからどのように変化したかに基づいて診断すべきコンクリート構造物の健全度を求める解析手段とを備えたコンクリート構造物の診断システムが提供される。
【0011】
磁性体板部材をコンクリート構造物に固着しておき、この磁性体板部材に磁気的に吸着することによって加振装置をコンクリート構造物に固定し、この状態で加振装置で局部加振することによりコンクリート構造物の健全度を求める。このように、本発明によれば、加振装置を極めて容易にコンクリート構造物に固定できるので、その診断が非常に容易となる。即ち、本発明によれば、コンクリート構造物の診断を鋼構造物と同様に診断できるので、コンクリート構造物の剥離落下等を容易に予測でき、従って、建築、トンネル等の診断を精度良くかつ容易に行うことができるから社会的意義は非常に大きい。
【0012】
加振装置が、作動時に付勢され磁性体板部材に磁気的に吸着される少なくとも1つの電磁石と、少なくとも1つの電磁石に機械的に連結されており、振動を発生してその振動を診断すべきコンクリート構造物の表面に印加する振動素子とを備えていることが好ましい。
【0013】
振動素子が、圧電振動素子であることがより好ましい。
【0014】
磁性体板部材が診断すべきコンクリート構造物の表面と平行に固着された鋼鉄板であり、少なくとも1つの電磁石が作動時に鋼鉄板に磁気的に吸着されるように構成されていることも好ましい。この場合、少なくとも1つの電磁石が、鋼鉄板に吸着可能な2つの電磁石であることも好ましい。
【0015】
少なくとも1つの電磁石が、診断すべきコンクリート構造物の表面と平行に固着された鋼鉄板及び診断すべきコンクリート構造物の表面と垂直なコンクリート構造物に固着された鋼鉄板のいずれにも選択的に磁気的に吸着可能に構成されていることが好ましい。
【0016】
磁性体板部材が診断すべきコンクリート構造物の表面と垂直なコンクリート構造物に固着された鋼鉄板であり、少なくとも1つの電磁石が作動時に鋼鉄板に磁気的に吸着されるように構成されていることも好ましい。
【0017】
解析手段が、計測手段からの計測データを解析して診断対象の固有振動数を実験固有振動数として求める実験モード解析部と、診断対象の1の変状状態を規定すると共に、変状点の位置等の変状を特徴付ける情報を遺伝子情報としてなる個体を複数定義し、遺伝子情報に基づき各個体の固有振動数を演算して理論固有振動数とする理論解析部と、実験固有振動数と所定の一致度で一致する理論固有振動数を持つ個体を探査して、最も一致度の高い個体を特定し、この個体の遺伝子情報から変状状態を推定する評価部と、評価部で探査した個体を保存して、次回の診断において当該保存された個体を用いて理論解析部が理論固有振動数を演算できるようにする解析データベースとを備えていることも好ましい。
【0018】
本発明によれば、さらに、診断すべきコンクリート構造物に磁性体板部材を固着し、加振装置を磁性体板部材に磁気的に吸着して固定し、加振装置から診断すべきコンクリート構造物に局部振動を与え、診断すべきコンクリート構造物の振動に対する応答を計測し、計測によって得られた振動モードが健全時の振動モードからどのように変化したかに基づいて診断すべきコンクリート構造物の健全度を求めるコンクリート構造物の診断方法が提供される。
【0019】
磁性体板部材をコンクリート構造物に固着しておき、この磁性体板部材に磁気的に吸着することによって加振装置をコンクリート構造物に固定し、この状態で加振装置から振動を与えることによりコンクリート構造物の健全度を求める。このように、本発明によれば、加振装置を極めて容易にコンクリート構造物に固定できるので、その診断が非常に容易となる。即ち、本発明によれば、コンクリート構造物の診断を鋼構造物と同様に診断できるので、コンクリート構造物の剥離落下等を容易に予測でき、従って、建築、トンネル等の診断を精度良くかつ容易に行うことができるから社会的意義は非常に大きい。
【0020】
加振装置の少なくとも1つの電磁石を磁性体板部材に磁気的に吸着して加振装置を固定し、加振装置の振動素子によって振動を発生してその振動を診断すべきコンクリート構造物の表面に印加することが好ましい。この場合、振動素子として、圧電振動素子を用いることが好ましい。
【0021】
磁性体板部材として鋼鉄板を診断すべきコンクリート構造物の表面と平行に固着し、少なくとも1つの電磁石を作動時に鋼鉄板に磁気的に吸着させることも好ましい。この場合、少なくとも1つの電磁石として、鋼鉄板に吸着可能な2つの電磁石を用いることが好ましい。
【0022】
磁性体板部材として鋼鉄板を診断すべきコンクリート構造物の表面と垂直なコンクリート構造物に固着し、少なくとも1つの電磁石を作動時に鋼鉄板に磁気的に吸着させることも好ましい。
【0023】
計測データを解析して診断対象の固有振動数を実験固有振動数として求め、診断対象の1の変状状態を規定すると共に、変状点の位置等の変状を特徴付ける情報を遺伝子情報としてなる個体を複数定義し、遺伝子情報に基づき各個体の固有振動数を演算して理論固有振動数とし、実験固有振動数と所定の一致度で一致する理論固有振動数を持つ個体を探査して、最も一致度の高い個体を特定し、個体の遺伝子情報から変状状態を推定し、探査した個体を保存して、次回の診断において当該保存された個体を用いて理論固有振動数を演算できるようにしたことも好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、加振装置を極めて容易にコンクリート構造物に固定できるので、その診断が非常に容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1は本発明の一実施形態におけるコンクリート構造物の診断システムの全体構成を概略的に示すブロック図であり、図2は本実施形態における加振装置及びそのコンクリート構造物への取付け構造を示す一部破断断面図であり、図3は本実施形態における制御及び診断処理ユニットの構成を示すブロック図である。
【0026】
図1において、10は診断すべきコンクリート構造物、11はこのコンクリート構造物10の表面の一部に例えば接着剤で固着された磁性体板部材の一例である鉄鋼板、12は動作時に鉄鋼板11に電磁石で固定され、コンクリート構造物10に振動を与える加振装置、13は与えた振動による応答を計測する計測器、14は全体の動作を統括的に制御する統括制御部140、計測器13が検出した応答から振動モードを求めてコンクリート構造物10の健全度を最終的に求める解析ユニット141、加振装置12の駆動部142、並びに固定用電磁石の励磁用電源部143等を有する制御及び診断処理装置をそれぞれ示している。統括制御部140及び解析ユニット141は、本実施形態では、デジタルコンピュータで構成されている。
【0027】
鉄鋼板11は、本実施形態では、診断すべきコンクリート構造物10の表面にと平行になるように、その表面に直接接着されている。鉄鋼板11の厚さは、本実施形態では、約2mm程度であるが、これに限定されるものではない。また、鉄鋼板11の寸法は、固定用電磁石の吸着面の寸法(例えば75mm×50mm程度の矩形)より大きければ良く、その形状もいかなるものであっても良い。なお、本発明の磁性体板部材としては、鉄鋼板に限らず、磁気的に吸着できる板部材であればどのようなものであっても適用可能である。
【0028】
加振装置12は、図2に示すように、所定の周波数域で振動する振動素子120と、この振動素子120の振動をコンクリート構造物10の局部表面に伝える振動ロッド121と、振動ロッド121に予圧を与える予圧ばね122と、予圧ばね122の自由長を変えて予圧を調整するためのばね調整用ノブ123と、加振装置12全体を鉄鋼板11に固定するための電磁石124と、電磁石124のオンオフスイッチ125とを備えている。
【0029】
振動素子120としては、コンクリート構造物10の局所における変状を観測するために高周波(例えば500Hz以上)の振動を与えることができ、小型で微小な力で振動を与えることができるように、ピエゾ圧電効果を利用した積層型圧電素子を用いている。このような高周波の振動を与えることにより、診断対象の変状を観測することが可能となる。これは診断対象が、原子力発電所、化学プラント、船舶等のコンクリート構造物である場合、その重量が重いため、これらの固有振動数(1次のモードにおける固有振動数)が非常に低い振動数になるが、変状点の固有振動数は振動数が高いため、かかる振動数での変化が計測できるようになるためである。
【0030】
電磁石124は、この診断システム動作時には、オンオフスイッチ125をオンとすることによって励磁され、その吸着面124aが鉄鋼板11に磁気的に吸着する。これによって加振装置12がコンクリート構造物10に確実に固定されることとなる。その際、振動ロッド121の先端がコンクリート構造物10の表面に直接的に当接する。なお、本実施形態では、電磁石の吸着面124aを使用しているが、この電磁石はこの吸着面とは垂直方向の吸着面124bをも有しており、鉄鋼板がこの方向に向いている場合はこの吸着面124bを利用して磁気的に吸着することが可能である(図11の実施形態)。
【0031】
計測器13は、コンクリート構造物10に固着された、本実施形態では、小型の半導体型加速度計であり、加振装置12が与えた振動に対する応答を計測するために、コンクリート構造物10の変位を計測する。計測器13として、レーザ式変位測定器、圧電素子等を用いてもよい。計測器13に圧電素子を利用する場合には、加振装置12における振動素子120と共用することも可能である。計測器13の配置位置は、加振装置の配置位置や予想される変状点位置等に応じて適宜設定される。
【0032】
図3に示す制御及び診断処理装置14において、統括制御部140は、診断対象であるコンクリート構造物10の健全度を最も適切に診断するための加振条件を指示すると共に、診断結果を表示等することにより診断処理全体を統括する。また、診断開始時には、診断開始指令や加振条件等の制御データを信号発生部144を介して駆動部142へ送る。さらに、計測器13からの計測データを解析ユニット141へ送ると共に、この解析ユニット141から診断結果を受取って画面表示する。さらにまた、励磁用電源部143についても供給の制御をすることが可能である。
【0033】
信号発生部144は、統括制御部140からの加振条件に基づき、診断対象に付与する振動の波形信号を発生する。この波形信号は駆動部142において増幅されて駆動信号となり、加振装置12の振動素子120に印加される。この信号発生部144は、ファンクションジェネレータやマルチファンクションシンセサイザ等から構成され、統括制御部140からの加振条件に応じたアナログ信号の波形信号を生成して出力する。一般にマルチファンクションジェネレータやマルチファンクションシンセサイザでは、それ自体においてサイン波、矩形波、ノコギリ波等の一般的な波形信号を生成することができるが、診断対象や目的に応じて任意の波形信号が作成できる機能を具備していることが望ましい。マルチファンクションジェネレータを用いることにより、複数の加振装置を用いてマルチチャネルによる加振が可能となる。即ち、各加振装置毎に加振のタイミングをずらしたり、位相を変えたり、振幅、周波数若しくは加振時間を変えたり、さらにはスイープ振動(振幅や周波数を時間と共に変化させた振動)させたり等診断対象や目的に応じた加振が可能となる。
【0034】
駆動部142は、信号発生部144からの波形信号を所定のゲインで増幅し、これを駆動信号として加振装置12の振動素子120へ出力する。なお、ゲインは、信号発生部144から指定できるようにしてもよい。
【0035】
計測器13には、その出力であるアナログの計測信号を増幅する増幅器145が接続されており、この増幅器145にはその出力信号をディジタル変換するA/D変換器146が接続されている。増幅器145は、各計測器に対応して設けられたシグナルコンディショナ等からなり、主にA/D変換器146に入力する信号レベルの調整を行う。各増幅器のゲインは計測器の構成や診断対象の構成に依存して設定される。即ち、各増幅器のゲインは一定となるように(少なくとも同一レベルの信号が入力されたときに同一レベルの信号が出力されるように)設定する必要があり、また増幅器145からの信号をディジタル信号に変換する際にオーバーフローを起こさないように設定する。なお、診断対象に応じて付与する振動のエネルギを調整したい場合や、印加する振動エネルギを連続的に変化させたい場合には、固定ゲインの増幅器であるとオーバーフローを起こしてしまう場合があるので、ゲインは調整可能であることが望ましい。このゲイン調整は、マニュアル調整でもよく、また、統括制御部140からゲイン調整できるようにしても良い。
【0036】
A/D変換器146には統括制御部140が接続されており、ディジタルの計測信号がこの統括制御部140に入力されるように構成されている。
【0037】
解析ユニット141は、計測データから診断対象の1次〜n次の振動モードにおける固有振動数(以下実験固有振動数)を求める実験モード解析部141aと、理論的に診断対象の1次〜n次の振動モードにおける固有振動数(以下理論固有振動数)を算出する理論解析部141bと、理論固有振動数が実験固有振動数と所定条件下で一致するか否かを判断して健全度診断を行う評価部141cと、診断情報、理論固有振動数及び実験固有振動数等の情報を保存する解析データベース(解析DB)部141dとを備えている。
【0038】
以下、この解析ユニット141について、より詳細に説明する。
【0039】
診断すべきコンクリート構造物10に損傷等の変状が生じると、印加した振動の応答を計測してそのパワースペクトルのピーク周波数が変位する。即ち、変状発生の有無が、パワースペクトルに違いが生じているか否かを判断することにより知ることができる。従って、パワースペクトルが健全時のものからどのように変化したかを比較することにより健全度診断が可能となる。
【0040】
しかしながら、これによって変状の発生が判断できでも、その変状の位置やそのような変状が起きているかまでは判断することができない。そこで、かかる変状点の位置や変状内容までも診断内容とすべく、評価部141cでは、解析アルゴリズムを用いている。
【0041】
このような解析アルゴリズムとしては、遺伝的アルゴリズム(GA:Genetic Algorlthm)、ニューロネットワーク回帰分析、多変量解析、パターン認識解析等が適用可能であるが、この中でも最適化問題に非常に有効であるとされている遺伝的アルゴリズムを用いた場合を以下説明する。
【0042】
まず、GAの概要を簡単に説明する。GAはもともと、生物界にある遺伝の法則を模擬して案出された手法で、複数の解を遺伝的に変化させながら、より良い解を求める手法である。そして、この解を遺伝子という形で表現する(コーディングする)。
【0043】
図4は、GAのアルゴリズムを示すフローチャートである。
【0044】
GAでは、まず、解(個体)の集団である初期集団(個体群)を作成する(ステップS1)。この個体は診断対象の1の変状状態に対応し、この個体を特徴付ける遺伝子情報として変状点の位置等を用いる。
【0045】
次に、評価を行う。評価は全ての個体(解)について適合度を求めて、この適合度に基づき次の世代に残す個体を決定する(ステップS2、ステップS3)。この適合度は、解の評価の高さのようなもので、良い解ほど高い適合度が得られるように評価関数を設定する。なお、本発明においては、各個体の理論固有振動数を計算して、この理論固有振動数が実験固有振動数とどの程度適合(一致)しているか(良い解であるか)を評価関数により評価する。評価関数については後述する。
【0046】
変状態様が鉄鋼材においてボルトが弛緩したような場合には、想定した個体の中に最適解を見出せる場合も多いが、コンクリート構造物の剥離のような場合には、想定した個体からは最適解を見いだすことができないこともある。そこで、GAにおいては、GAオペレータと称される交叉や突然変異操作を行う(ステップS4)。
【0047】
この交叉や突然変異操作は遺伝の法則をヒントに作られたもので、交叉では複数の親(一般には二つ個体)から遺伝子を受け継ぐ新しい個体(子)を一定の確率で発生させ、突然変異では交叉より低い確率で個体が発生するように設定する。
【0048】
ただし、変状がボルトの弛緩ではなく、剥離であった場合には、交叉操作を繰返しても最適解が求まらないので、この場合には突然変異操作により剥離を変状内容とする個体を生成して探査を行うことになる。このような探査を一世代と考え所定回数について行い最適解を求める。
【0049】
図5はGAを用いて診断を行う場合の手順を示すフローチャートである。
【0050】
以下この図を用いて診断手順を説明する。まず、診断対象に加振する(ステップS11)。これにより、診断対象からは1次〜n次(n:整数)の振動モードを持つ応答振動が計測される。
【0051】
そこで、解析ユニット141の実験モード解析部141aでは、計測データのパワースペクトル分析を行い、変状により卓越した振幅が変化し、又は新たに卓越した振幅が生じるとして、この卓越点を探して実験固有振動数とする(ステップS12、ステップS13)。
【0052】
例えば、診断対象に図6に示すような、周波数をスタート周波数からストップ周波数まで連続的に変化するスイープ振動を付与した場合には、図7に示すような計測データが観測される。そこで、実験モード解析部141aで、この計測データに対しパワースペクトル分析を行って、図8に示すようなパワースペクトルを得、同図で縦線を引いた所を実験固有振動数とする。
【0053】
なお、計測データをフーリエ変換して周波数分析を行い、各周波数における振幅が卓越している点を実験固有振動数としてもよく、さらにはフーリエ変換して得られたデータに対し、パワースペクトル分析を行うことにより振幅変化を明確化し、これにより精度良く実験固有振動数を同定するようにしても良い。
【0054】
図6に示すようなスイープ振動を付与する理由は、この変状点を共振させ、変状点の位置、大きさ、種類等の情報を計測データに含まれるようにするためである。
【0055】
即ち、診断時においては変状点の位置等は不明であるので、幅広い周波数で加振することにより変状点を共振させて計測データにその情報が含まれるようにする。無論、変状点が特定できる場合や変状点が高精度に予測できる場合等においては、スイープ振動でなく一定振動数の振動であってもよく、また狭い範囲で周波数が変化する振動であっても良い。
【0056】
図6において印加された振動は診断対象の表面又はその近傍を伝播する表面弾性波と考えているが、コンクリート構造物における鉄筋の腐食や酸性雨によるコンクリートの変状等の内部欠陥のように深い位置での変状を計測する際には、当然のことながらその深度まで振動を伝播させ、その応答が返ってくるだけのエネルギが必要になる。このため、例えば時間と共に振幅が増大するスイープ振動を付与する等の検出する変状点の深度に対応したエネルギの振動を印加することが必要となる。
【0057】
図6におけるような診断対象の場合には、変状の態様としては(1)コンクリートの剥離、(2)材料劣化、(3)鉄筋との付着剥離、(4)表面のクラック等が想定することができる。
【0058】
理論解析部141bは、診断対象の低次から高次の理論固有振動を有限要素法等を用いて算出する。有限要素法では、診断対象を複数の要素に分割し、各要素の境界条件を変化させて計算する。
【0059】
このため予め想定される変状点に対応した要素分割が重要になる。例えば、変状として剥離が想定される場合には、要素の1に想定される剥離位置が含まれるように要素分割する。なお、変状として剥離を想定する場合には隣接する要素との連続性が無いとする境界条件を遺伝子情報に設定する。このように、想定される変状の性質に応じて遺伝子情報に設定し、これを演算パラメータとする。
【0060】
最初の診断時(K=1)においては構造物の理論値算出に必要な定数を演算パラメータとして理論固有振動数を算出し、この理論固有振動数が実験固有振動数と所定条件で一致するようにこの演算パラメータを変化させる。そして、一致したときの演算パラメータを診断対象のその定数であると同定する。
【0061】
これにより、実際の診断対象の固有振動数に近い(精度の高い)理論固有振動数を容易に求めることができ、演算に要する時間を短縮することが可能となる。
【0062】
最初の診断時(K=1)とは、当該装置を設置した場合や設置後に解析データベースのデータが初期化された場合の最初に診断する時を意味している。診断対象の変状は状態変化を検出することにより行うため、最初の診断では(K=1)では元の状態に関するデータが存在しないため診断が行えず、またGAにおける個体群も設定されていない状態だからである。
【0063】
このため、最初の診断時には、GAにおける個体群を設定し(ステップS14、ステップS16)、個体の遺伝子情報をコーディングする(ステップS17)。
【0064】
その後、有限要素法により理論固有振動数を算出する(ステップS18)。このとき、遺伝子情報を構成する変状点位置を演算パラメータとして演算し、図9に示すような振動数(横軸)に対する振幅(縦軸)の曲線が得られる。
【0065】
この曲線の極大値は、1次〜n次の振動モードにおける固有振動数に対応し、この固有振動数が変状の発生により影響を受けて、周波数変化等として現れているとする。
【0066】
評価部141cでは、このように得られた理論固有振動数fa(i)と実験固有振動数fe(i)とを予め設定した評価関数δに代入して適応度の評価を行う(ステップS19)。ここで、iはi次の振動モードの固有振動数であることを示している。評価関数δとしては、例えば下式のように理論固有振動数fa(i)と実験固有振動数fe(i)との差分の2乗を各振動モードで加算する関数とすることができる。無論、種々の評価関数δを定義することができ、例えば差分の絶対値を各振動モードで加算する関数としてもよい。
【0067】
【数1】

【0068】
一方、ステップS14において、最初の診断(K=1)でないと判断された場合には、解析DB部141dから前回の診断結果であるデータD(K−1)を読込み、このデータD(K−1)に含まれている理論固有振動数とステップS13で求めた実験固有振動数とを用いて適応度を評価する(ステップS19)。
【0069】
このようにして得られた適応度が、一定の適応度基準値より小さいか否かを判断し(ステップS20)、適応度基準値より大きい場合(適応度が低い場合)には、予め設定した交叉確率Pc、突然変異確率Pmに基づいて遺伝子操作を行う(ステップS21)。このような処理を1世代として、予め設定された世代数まで繰返して最適解を求める。
【0070】
最適解が求まると、診断が最初(K=1)で有るか否かを判断し、K=1の場合には求まった最適解からなる個体群をデータD(K)として解析DB部141dに保存する(ステップS25)。
【0071】
一方、診断が最初でない場合には(K≠1)、最適解の個体における遺伝子情報から変状位置や変状の内容を判断することにより健全度診断を行い(ステップS23、ステップS24)、その結果を保存する(ステップS25)。
【0072】
以上説明したように、本実施形態によれば、鉄鋼板11をコンクリート構造物10に固着しておき、この鉄鋼板11に電磁石で磁気的に吸着することによって加振装置12をコンクリート構造物10に固定し、この状態で加振装置12から振動を与えることによりコンクリート構造物の健全度を求めているので、加振装置12を極めて容易にコンクリート構造物10へ固定できることとなり、その診断が非常に容易となる。
【0073】
もちろん、健全時にコンクリート構造物の同定を行っておくことにより、経年変化や強い圧力や衝撃など何らかのストレスが加わることによって引き起こされた局所的に変化が起こっている場所を特定することができる。また、局所的な変化を把握することができるので、その変化に応じて適切に対処することができアセットマネージメントの観点から見ても非常に有効である。さらに、構造物の維持管理技術の点から、微小な変状(予兆、徴候)を早期に発見して、予防的な補修補強を実施することが、構造物のライフサイクルコストを減少でき、維持管理経費の有効活用に資することができる。
【0074】
図10は、本発明の他の実施形態における加振装置及びそのコンクリート構造物への取付け構造を示す(A)上面図及び(B)一部破断正面図である。
【0075】
この実施形態においては、加振装置102に2つの電磁石が設けられており、コンクリート構造物の表面には各電磁石に対向する位置に鉄鋼板がそれぞれ固着されていることを除いて図1の実施形態の場合と同じ構成となっている。
【0076】
即ち、図10に示すように、2つの鉄鋼板101a及び101bが、診断すべきコンクリート構造物100の表面にと平行になるように、その表面に直接接着されている。鉄鋼板101a及び101bの各々の厚さは、本実施形態では、約2mm程度であるが、これに限定されるものではない。また、各鉄鋼板の寸法は、固定用電磁石の吸着面の寸法(例えば75mm×50mm程度の矩形)より大きければ良く、その形状もいかなるものであっても良い。なお、本発明の磁性体板部材としては、鉄鋼板に限らず、磁気的に吸着できる板部材であればどのようなものであっても適用可能である。
【0077】
加振装置102は、図10に示すように、所定の周波数域で振動する振動素子1020と、この振動素子1020の振動をコンクリート構造物100の局部表面に伝える振動ロッド1021と、振動ロッド1021に予圧を与える予圧ばね1022と、予圧ばね1022の自由長を変えて予圧を調整するためのばね調整用ノブ1023と、加振装置102全体を2つの鉄鋼板101a及び101bにそれぞれ固定するための2つの電磁石1024a及び1024bと、電磁石1024a及び1024bのオンオフスイッチ1025a及び1025bとを備えている。
【0078】
本実施形態によれば、2つの電磁石によって2つの鉄鋼板に磁気的吸着がなされるので、加振装置をコンクリート構造物により堅固に固定することができる。しかも、加振部に対して対称位置で磁気的吸着がなされるので、浮き上がりなどが起こらずに安定しており、平均した加振を行うことができる。本実施形態におけるその他の動作及び作用効果は図1の実施形態の場合とほぼ同様である。
【0079】
図11は本発明のさらに他の実施形態における加振装置及びそのコンクリート構造物への取付け構造を示す一部破断断面図である。
【0080】
この実施形態においては、加振装置112の電磁石の異なる吸着面を利用していることを除いて図1の実施形態の場合と同じ構成となっている。
【0081】
即ち、図11に示すように、鉄鋼板111は診断すべきコンクリート構造物110の表面と垂直なコンクリート構造物110′の表面に直接接着されている。鉄鋼板111の厚さは、本実施形態では、約2mm程度であるが、これに限定されるものではない。また、鉄鋼板111の寸法は、固定用電磁石の吸着面の寸法(例えば75mm×50mm程度の矩形)より大きければ良く、その形状もいかなるものであっても良い。なお、本発明の磁性体板部材としては、鉄鋼板に限らず、磁気的に吸着できる板部材であればどのようなものであっても適用可能である。
【0082】
加振装置112は、図11に示すように、所定の周波数域で振動する振動素子1120と、この振動素子1120の振動をコンクリート構造物110の局部表面に伝える振動ロッド1121と、振動ロッド1121に予圧を与える予圧ばね1122と、予圧ばね1122の自由長を変えて予圧を調整するためのばね調整用ノブ1123と、加振装置112全体を鉄鋼板111にそれぞれ固定するための電磁石1124と、電磁石1124のオンオフスイッチ1125とを備えている。電磁石1124は、診断すべきコンクリート構造物110の表面と垂直方向の吸着面1124bを利用して鉄鋼板111に磁気的に吸着している。即ち、本実施形態の加振装置112は、図1の実施形態の図2に示した加振装置12における電磁石124の位置をコンクリート構造物110に対して後方にずらしてボルト止めしたものである。
【0083】
本実施形態におけるその他の動作及び作用効果は図1の実施形態の場合とほぼ同様である。
【0084】
本発明のまたさらに他の実施形態として、解析ユニット141における理論解析部141bが振動モードを解析に入れるように構成しても良い。これは、変状などの欠陥情報は周波数のピークのみでなく振動モードにも影響するためである。そこで、複数の計測器13をコンクリート構造物10上に等間隔に配列し、これらの計測器13からの応答振幅の相対的変化を観測することにより振動モードの形状を得てその形状変化から変状の小さな影響を検出するようにしている。このような振動モードの変化を検出した方が周波数変化を検出する場合に比して、より高感度に欠陥を検出することができる。
【0085】
以下、本実施形態の理論解析部141bが用いる評価関数の導出について、具体的に説明する。
【0086】
まず、パワースペクトル密度(PSD)の定義について説明する。今、0からTの間における連続時間級数をx(t)とすると、離散的フーリエ変換(DFT)X(f)は以下のように定義される。ここで、i=√(−1)、f=巡回周波数(Hz)である。
【数2】

この式は複素式でありその大きさは、周波数に対するm/s又はgのような工学単位(EU)でプロットされる。これにより、パワースペクトルは下式のように定義される。ただし、*は複素共役を示している。
【数3】

パワースペクトルは、単位(EU)の実数値周波数領域関数である。PSDであるG(f)は下式のように定義される。
【数4】

ここで、E[ ]はX(f)のnサンプルに渡っての特定の周波数fについての集合平均を表している。このPSDの定義より、加振力の測定を行うことなく構造物の計測した応答、例えば加速度応答、からPSDを算出できることが分かる。ただし、加振力は同一振幅及び同一振動波形でなければならない。このように、コンクリート構造物の健全度を診断する場合、加振力は測定する必要がない。
【0087】
次に、振動モードの導出について説明する。D(f)が周波数fかつチャネル番号iにおけるPSDの大きさであるとすると、損傷の前後におけるPSDの大きさの差の絶対値は下記のように表される。ここで、G(f)及びG(f)は損傷していない場合及び損傷している場合のPSDの大きさをそれぞれ表している。
【数5】

PSDの変化が周波数fからfの範囲の異なる周波数で測定された場合、マトリクス[D]は以下のようになる。ここで、nは測定点数である。
【数6】

このマトリクス[D]において、各列は同一周波数であるが異なる計測点におけるPSD変化を表している。異なる周波数におけるPSD変化の総和が、損傷発生及び損傷増大のインディケータとして使用可能である。換言すれば、損傷インディケータ(Total Change)が、下式のように、マトリクス[D]の行の和から算出される。
【数7】

【0088】
しかしながら、この損傷インディケータ(Total Change)では、コンクリート構造物における損傷の位置については不明であるため、この損傷位置を表すインディケータを以下のようにして導出した。
【0089】
まず、各周波数におけるPSD変化の最大値(マトリクス[D]の各列の最大値)を抽出し、他の計測点で測定したPSD変化を全て削除する。例えば、マトリクス[D]において、D(f)が第1列の最大値であるとするとこの値がM(f)として用いられ、この列の他の全ての値が削除される。同様の処理が他の列に対しても行われることにより、異なる周波数におけるPSDの最大変化のマトリクス[M]が下式のように求められる。
【数8】

全ての計測点における損傷検出の周波数を監視するため、下記のような新たなマトリクス[C]が形成される。このマトリクスは、損傷されていない位置である0と、損傷された位置である1とから成っている。例えば、このマトリクス[C]において、M(f)及びM(f)に対応する位置に1が入っている。
【数9】

PSDの最大変化の合計SMは、下式のように、マトリクス[M]の行の和から算出される。
【数10】

異なる計測点において損傷を検出した回数の合計SCは、下式のように、マトリクス[C]の行の和から算出される。
【数11】

ノイズによる影響及び測定エラーを減少するために、ベクトル{SM}からベクトル{SM}における要素の標準偏差σ又はその2倍2σが減算される。負の減算結果は削除される。同様な処理がベクトル{SC}についてもなされ、その結果、下式が得られる。
【数12】

以上の結果、下式に示すように、損傷インディケータ(Damage Indicator 1及びDamage Indicator 2)が{SMD}及び{SCD}のスカラー積から定義される。
【数13】

これら損傷インディケータ(Damage Indicator 1及びDamage Indicator 2)は連続体であるコンクリート構造物の損傷の位置の評価に用いられ、一方、前述した損傷インディケータ(Total Change)は連続体であるコンクリート構造物の損傷の発生及びその程度の評価に用いられる。
【0090】
本発明のさらに他の実施形態として、解析ユニット141における理論解析部141bが内部歪みエネルギの変化を解析に入れるように構成しても良い。これは、振動モードが得られるとコンクリート構造物全体の振動時の内部歪みエネルギの変化も得られるため、エネルギ比較を行うことによって欠陥検出を行うことができる。この場合も、複数の計測器13をコンクリート構造物10上に等間隔に配列し、これらの計測器13からの応答振幅の相対的変化を観測することにより振動モードを得てエネルギ比較を行う。このような内部歪みエネルギを比較する場合も周波数変化を検出する場合に比して、より高感度に欠陥を検出することができる。
【0091】
以下、本実施形態の理論解析部141bが用いる評価関数の導出について、簡単に説明する。
【0092】
内部歪みエネルギは、計測点の振動変位から算出される。限られた計測点の変位データを補完して振動モード形状を確定する。その変位による振動モード関数を例えば微分するなどしてコンクリート構造物全体の歪みエネルギを計算する。例えば、微少要素の歪みエネルギWeは、下式から求められる。
We=(σxεx+σyεy+σzεz+2τyzγyz+2τzxγzx+2τxyγxy)/2
Weが微少要素の歪みエネルギ関数であるため、これを構造部の体積全体で積分して評価関数である全体の歪みエネルギWを求める。即ち、W=∫We・dVから評価関数を求めることにより、この全体の歪みエネルギWの変化から連続体であるコンクリート構造物の評価を行う。
【0093】
本発明のまたさらに他の実施形態として、解析ユニット141における理論解析部141bが欠陥による振動モード形状の変化を周波数毎に重ね合わせることにより欠陥の影響をより明確に表すように構成しても良い。即ち、前述したマトリクス[D]においては、行が周波数f毎、列が計測点毎の損傷の程度Dを表しているため、周波数毎に欠陥の影響が求まることとなる。そこで、このマトリクス[D]を周波数fで重ね合わせることにより計測点毎の欠陥の影響が全周波数の影響として求まることとなり、損傷位置が非常に明確となる。
【0094】
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の一実施形態におけるコンクリート構造物の診断システムの全体構成を概略的に示すブロック図である。
【図2】図1の実施形態における加振装置及びそのコンクリート構造物への取付け構造を示す一部破断断面図である。
【図3】図1の実施形態における制御及び診断処理ユニットの構成を示すブロック図である。
【図4】GAのアルゴリズムを示すフローチャートである。
【図5】GAを用いて診断を行う場合の手順を示すフローチャートである。
【図6】診断対象に付与する振動波形としてスイープ振動を例示する図である。
【図7】計測データを例示する図である。
【図8】計測データからパワースペクトルを求めた図である。
【図9】理論解析部で算出した振動モードの波形である。
【図10】本発明の他の実施形態における加振装置及びそのコンクリート構造物への取付け構造を示す上面図及び一部破断正面図である。
【図11】本発明のさらに他の実施形態における加振装置及びそのコンクリート構造物への取付け構造を示す一部破断断面図である。
【符号の説明】
【0096】
10、100、110、110′ コンクリート構造物
11、101a、101b、111 鉄鋼板
12、102、112 加振装置
13 計測器
14 制御及び診断処理装置
120、1020、1120 振動素子
121、1021、1121 振動ロッド
122、1022、1122 予圧ばね
123、1023、1123 ばね調整用ノブ
124、1024a、1024b、1124 電磁石
124a、124b、1124b 吸着面
125、1025a、1025b、1125 オンオフスイッチ
140 統括制御部
141 解析ユニット
141a 実験モード解析部
141b 理論解析部
141c 評価部
141d 解析DB部
142 駆動部
143 励磁用電源部
144 信号発生部
145 増幅器
146 A/D変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物に固着された磁性体板部材と、作動時に該磁性体板部材に磁気的に吸着して固定され、診断すべきコンクリート構造物に局部振動を与える加振装置と、該加振装置を駆動する駆動手段と、前記診断すべきコンクリート構造物の振動に対する応答を計測する計測手段と、該計測手段の計測によって得られる振動モードが健全時の振動モードからどのように変化したかに基づいて前記診断すべきコンクリート構造物の健全度を求める解析手段とを備えたことを特徴とするコンクリート構造物の診断システム。
【請求項2】
前記加振装置が、作動時に付勢され前記磁性体板部材に磁気的に吸着される少なくとも1つの電磁石と、該少なくとも1つの電磁石に機械的に連結されており、振動を発生してその振動を前記診断すべきコンクリート構造物の表面に印加する振動素子とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の診断システム。
【請求項3】
前記振動素子が、圧電振動素子であることを特徴とする請求項2に記載の診断システム。
【請求項4】
前記磁性体板部材が前記診断すべきコンクリート構造物の表面と平行に固着された鋼鉄板であり、前記少なくとも1つの電磁石が作動時に該鋼鉄板に磁気的に吸着されるように構成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の診断システム。
【請求項5】
前記少なくとも1つの電磁石が、前記鋼鉄板に吸着可能な2つの電磁石であることを特徴とする請求項4に記載の診断システム。
【請求項6】
前記磁性体板部材が前記診断すべきコンクリート構造物の表面と垂直なコンクリート構造物に固着された鋼鉄板であり、前記少なくとも1つの電磁石が作動時に該鋼鉄板に磁気的に吸着されるように構成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の診断システム。
【請求項7】
前記少なくとも1つの電磁石が、前記診断すべきコンクリート構造物の表面と平行に固着された鋼鉄板及び前記診断すべきコンクリート構造物の表面と垂直なコンクリート構造物に固着された鋼鉄板のいずれにも選択的に磁気的に吸着可能に構成されていることを特徴とする請求項4又は6に記載の診断システム。
【請求項8】
前記解析手段が、前記計測手段からの計測データを解析して診断対象の固有振動数を実験固有振動数として求める実験モード解析部と、診断対象の1の変状状態を規定すると共に、変状点の位置等の変状を特徴付ける情報を遺伝子情報としてなる個体を複数定義し、該遺伝子情報に基づき各個体の固有振動数を演算して理論固有振動数とする理論解析部と、前記実験固有振動数と所定の一致度で一致する前記理論固有振動数を持つ前記個体を探査して、最も一致度の高い個体を特定し、該個体の遺伝子情報から変状状態を推定する評価部と、該評価部で探査した個体を保存して、次回の診断において当該保存された個体を用いて前記理論解析部が理論固有振動数を演算できるようにする解析データベースとを備えていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の診断システム。
【請求項9】
診断すべきコンクリート構造物に磁性体板部材を固着し、加振装置を該磁性体板部材に磁気的に吸着して固定し、該加振装置から前記診断すべきコンクリート構造物に局部振動を与え、前記診断すべきコンクリート構造物の振動に対する応答を計測し、該計測によって得られた振動モードが健全時の振動モードからどのように変化したかに基づいて前記診断すべきコンクリート構造物の健全度を求めることを特徴とするコンクリート構造物の診断方法。
【請求項10】
前記加振装置の少なくとも1つの電磁石を前記磁性体板部材に磁気的に吸着して該加振装置を固定し、該加振装置の振動素子によって振動を発生してその振動を前記診断すべきコンクリート構造物の表面に印加することを特徴とする請求項9に記載の診断方法。
【請求項11】
前記振動素子として、圧電振動素子を用いることを特徴とする請求項10に記載の診断方法。
【請求項12】
前記磁性体板部材として鋼鉄板を前記診断すべきコンクリート構造物の表面と平行に固着し、前記少なくとも1つの電磁石を作動時に該鋼鉄板に磁気的に吸着させることを特徴とする請求項10又は11に記載の診断方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの電磁石として、前記鋼鉄板に吸着可能な2つの電磁石を用いることを特徴とする請求項12に記載の診断方法。
【請求項14】
前記磁性体板部材として鋼鉄板を前記診断すべきコンクリート構造物の表面と垂直なコンクリート構造物に固着し、前記少なくとも1つの電磁石を作動時に該鋼鉄板に磁気的に吸着させることを特徴とする10又は11に記載の診断方法。
【請求項15】
前記計測データを解析して診断対象の固有振動数を実験固有振動数として求め、診断対象の1の変状状態を規定すると共に、変状点の位置等の変状を特徴付ける情報を遺伝子情報としてなる個体を複数定義し、該遺伝子情報に基づき各個体の固有振動数を演算して理論固有振動数とし、前記実験固有振動数と所定の一致度で一致する前記理論固有振動数を持つ前記個体を探査して、最も一致度の高い個体を特定し、該個体の遺伝子情報から変状状態を推定し、該探査した個体を保存して、次回の診断において当該保存された個体を用いて理論固有振動数を演算できるようにしたことを特徴とする請求項9から14のいずれか1項に記載の診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−203224(P2008−203224A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43002(P2007−43002)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【特許番号】特許第3981740号(P3981740)
【特許公報発行日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(504238806)国立大学法人北見工業大学 (80)
【Fターム(参考)】