説明

コンクリート構造物の診断ロボットシステム

【課題】コンクリート構造物を遠隔から診断可能であり、大型のコンクリート構造物に対しても微小な欠陥を素早く、精度良く、かつ効率良く検出することが可能なコンクリート構造物の診断ロボットシステムを提供する。
【解決手段】診断すべきコンクリート構造物に固着された板部材と、遠隔操作により板部材に吸着及び離脱可能であり、吸着した際にコンクリート構造物に局部振動を与えることが可能な加振装置と、遠隔操作により板部材に吸着及び離脱可能であり、吸着した際にコンクリート構造物の振動に対する応答を検出する少なくとも1つの振動検出手段と、加振装置及び少なくとも1つの振動検出手段をコンクリート構造物の診断すべき位置に遠隔操作で移動可能な移動手段と、振動検出手段の検出によって得られる振動モードが健全時の振動モードからどのように変化したかに基づいてコンクリート構造物の健全度を求める解析手段とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の微小な変状を検出してその健全度を診断することができるコンクリート構造物の診断ロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
建築構造、土木分野における橋梁、トンネル構造、原子力施設、鉄道施設、タンク等の鋼材構造物やコンクリート構造物においては、経年的劣化や、地震、振動等の繰り返しの力による損傷、さらには予想できない不可抗力によって構造の一部に損傷が発生し、それが進展して大きな事故につながることが多い。また、このような損傷は、大きなコンクリート構造物の内部に発生し、それが小さな損傷の場合には目視で発見することが難しい。また、構造の内部に発生して外部から発見できない場合や、構造物が大きくて通常の使用状況では発見しにくい部位に損傷が発生する場合もある。従って、これらの大きな被害に結びつく損傷をできるだけ早期に発見し、必要な修理をすることが維持管理経費の点からも重要である。
【0003】
鋼材構造物やコンクリート構造物の欠陥を発見するために、超音波による診断、X線による診断、打撃による診断等いくつかの方法が従来より用いられている。超音波による診断方法は、鋼材構造物やFRP構造等の特定の構造物に対して有効に利用されているが、欠陥が小さい場合、超音波の反射に対してその影響が小さい場合、又は構造部位が複雑な場合等では検出精度が低く、欠陥の存在を見落とすことが多くある。そのため、溶接構造等に対してはX線による診断が用いられるが、装置が高価であることの他に遮蔽に関する問題がある等から現場における診断方法としては実用化されていない。また、トンネル構造に対する打撃による検査は、最近かなり用いられているが、検出精度の点や、打撃方法によって診断結果が異なる場合が多い等、診断方法としては改良すべき余地が多い。
【0004】
このような状況に鑑み、本願発明者等は、構造物に局部振動を付与し、その応答を計測して求めた振動モードの変化から診断対象の変状を診断するシステムを提案している(特許文献1〜3)。
【0005】
特許文献1〜3に記載されている本願発明者等による診断システムは、H形鋼等の鋼材構造物を診断対象とするものであり、コンクリート構造物を診断対象とした場合、特にその加振装置を構造物に取り付ける方法について何等考慮を行っていなかった。
【0006】
そこで、本願発明者等は、コンクリート構造物に対して加振装置を容易に取り付けてその診断を行うことが可能なコンクリート構造物の診断システムを提案した(特許文献4)。
【0007】
【特許文献1】特許第3694749号公報
【特許文献2】特許第3705357号公報
【特許文献3】特許第4069977号公報
【特許文献4】特許第3981740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献4に記載されている本願発明者等による診断システムは、コンクリート構造物に対して加振装置を取り付けてその健全度を診断することができるが、コンクリート構造物を遠隔から診断することは全くできなかった。また、大型のコンクリート構造物、長い距離に渡って設置されたコンクリート構造物に対して、微小な欠陥を素早く、確実かつ精度良く、しかも効率良く検出することはかなり難しかった。
【0009】
従って本発明の目的は、コンクリート構造物を遠隔から診断可能なコンクリート構造物の診断ロボットシステムを提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、大型のコンクリート構造物に対しても微小な欠陥を素早く、精度良く、かつ効率良く検出することが可能なコンクリート構造物の診断ロボットシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、診断すべきコンクリート構造物に固着された磁性体板部材又は板部材と、遠隔操作により磁性体板部材に磁気的に又は板部材に真空的に吸着及び離脱可能であり、吸着した際にコンクリート構造物に局部振動を与えることが可能な加振装置と、遠隔操作により磁性体板部材又は板部材に磁気的に又は板部材に真空的に吸着及び離脱可能であり、吸着した際にコンクリート構造物の振動に対する応答を検出する少なくとも1つの振動検出手段と、加振装置及び少なくとも1つの振動検出手段をコンクリート構造物の診断すべき位置に遠隔操作で移動可能な移動手段と、振動検出手段の検出によって得られる振動モードが健全時の振動モードからどのように変化したかに基づいてコンクリート構造物の健全度を求める解析手段とを備えたコンクリート構造物の診断ロボットシステムが提供される。
【0012】
磁性体板部材又は板部材をコンクリート構造物に固着しておき、加振装置を遠隔操作によりこの磁性体板部材又は板部材に磁気的に又は板部材に真空的に吸着及び離脱可能に構成する。加振装置を磁性体板部材又は板部材に吸着した際にコンクリート構造物に局部振動を与える。また、少なくとも1つの振動検出手段を遠隔操作により磁性体板部材又は板部材に磁気的に又は板部材に真空的に吸着及び離脱可能に構成し、吸着した際にコンクリート構造物の振動に対する応答を検出するように構成する。さらに、移動手段により、加振装置及び少なくとも1つの振動検出手段をコンクリート構造物の診断すべき位置に遠隔操作で移動可能に構成する。診断すべき位置に移動した加振装置及び少なくとも1つの振動検出手段をコンクリート構造物に磁気的に又は真空的に固定し、この状態で加振装置から局部加振することによりコンクリート構造物の健全度を求める。このように、本発明によれば、遠隔操作によりコンクリート構造物の診断すべき位置に加振装置及び少なくとも1つの振動検出手段を固定して診断することができるため、診断に手間がかからずかつ容易であり、安全性から又はスペース的に人が入れないような部所においても、適切な診断を行うことができる。さらに、大型のコンクリート構造物に対しても微小な欠陥を素早く、精度良く、かつ効率良く検出することができる。
【0013】
もちろん、本発明によれば、コンクリート構造物の診断を鋼構造物と同様に診断できるので、コンクリート構造物の剥離落下等を容易に予測でき、従って、建築、トンネル等の診断を精度良くかつ容易に行うことができる。
【0014】
移動手段が、加振装置及び少なくとも1つの振動検出手段が取り付けられた移動フレームと、移動フレームをコンクリート構造物の表面に沿って案内する案内手段と、移動フレームの位置を案内手段に従って遠隔的に移動させる駆動手段とを備えていることが好ましい。
【0015】
この案内手段が、コンクリート構造物の表面に取り付けられた走行レールと、走行レールに係合し、移動フレームに取り付けられた案内ホイールとを備えていることがより好ましい。
【0016】
駆動手段が、走行レールに取り付けられたラックギアと、移動フレームに取り付けられており前記ラックギアに噛合するピニオンギアと、ピニオンギアを駆動する走行用電動モータと、移動フレームの停止位置を検出する停止位置検出センサとを備えていることもより好ましい。
【0017】
加振装置を磁性体板部材又は板部材の表面と垂直方向に遠隔操作によって移動可能な加振装置垂直駆動手段をさらに備えていることも好ましい。この加振装置垂直駆動手段によって加振装置が吸着位置まで移動したことを確認する吸着位置確認センサをさらに備えていることがより好ましい。
【0018】
少なくとも1つの振動検出手段を磁性体板部材又は板部材の表面と垂直方向に遠隔操作によって移動可能な振動検出手段垂直駆動手段をさらに備えていることも好ましい。この振動検出手段垂直駆動手段によって少なくとも1つの振動検出手段が吸着位置まで移動したことを確認する吸着位置確認センサをさらに備えていることがより好ましい。
【0019】
板部材が磁性体板部材であり、加振装置が、付勢されることによって磁性体板部材に磁気的に吸着し、付勢が停止することによって磁性体板部材から離脱する少なくとも1つの電磁石と、少なくとも1つの電磁石に機械的に連結されており、振動を発生してその振動をコンクリート構造物の表面に印加する振動素子とを備えていることも好ましい。この場合、少なくとも1つの電磁石の付勢及び付勢停止を確認するセンサをさらに備えていることがより好ましい。
【0020】
少なくとも1つの振動検出手段が、移動手段の移動方向に沿って配列された複数の振動センサを備えていることも好ましい。
【0021】
振動センサが等間隔に配列されており、解析手段が複数の振動センサからの応答振幅の相対的変化を観測することにより振動モードの形状を得てその形状変化から変状の影響を検出する理論解析部を備えていることが好ましい。この場合、理論解析部が振動モードの形状の変化を周波数毎に重ね合わせることにより変状の影響を検出するように構成されていることがより好ましい。
【0022】
振動センサが等間隔に配列されており、解析手段が複数の振動センサからの応答振幅の相対的変化を観測することにより振動モードの形状を得て内部歪みエネルギの比較を行うことによって変状の影響を検出する理論解析部を備えていることも好ましい。
【0023】
解析手段が、少なくとも1つの振動検出手段からの計測データを解析して診断対象の固有振動数を実験固有振動数として求める実験モード解析部と、診断対象の1の変状状態を規定すると共に、変状点の位置等の変状を特徴付ける情報を遺伝子情報としてなる個体を複数定義し、遺伝子情報に基づき各個体の固有振動数を演算して理論固有振動数とする理論解析部と、実験固有振動数と所定の一致度で一致する理論固有振動数を持つ個体を探査して、最も一致度の高い個体を特定し、個体の遺伝子情報から変状状態を推定する評価部と、評価部で探査した個体を保存して、次回の診断において当該保存された個体を用いて理論解析部が理論固有振動数を演算できるようにする解析データベースとを備えていることも好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、診断に手間がかからずかつ容易であり、安全性から又はスペース的に人が入れないような部所においても、適切な診断を行うことができる。さらに、大型のコンクリート構造物に対しても微小な欠陥を素早く、精度良く、かつ効率良く検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1は本発明の一実施形態におけるコンクリート構造物の診断ロボットシステムの全体構成を概略的に示すブロック図であり、図2は本実施形態における加振装置部分の構成を概略的に示す側面図であり、図3は図2の加振装置部分の正面図であり、図4は図2のA−A線断面図である。
【0026】
これらの図において、10は診断すべきコンクリート構造物(例えば、コンクリート壁)、11は加振装置を固定する位置でこのコンクリート構造物10にあらかじめ埋め込まれているか又はその表面に例えば接着剤で固着された磁性体板部材の一例である加振装置吸着用鉄鋼板、12は振動センサを固定する位置でこのコンクリート構造物10にあらかじめ埋め込まれているか又はその表面に例えば接着剤で固着された磁性体板部材の一例である振動センサ吸着用鉄鋼板、13はこのコンクリート構造物10に埋め込まれているか又はその表面に例えば接着剤で固着されており、走行レール14及びケーブルキャリア15を支持する支持部材をそれぞれ示している。支持部材13は鉄鋼板で構成されており、その一部は振動センサ吸着用鉄鋼板としても機能する。なお、本実施形態では、支持部材13は等間隔(例えば約400mm間隔)に配列されている。
【0027】
走行レール14はコンクリート構造物の表面に沿って設けられており、この走行レール14には移動フレーム16に取り付けられた案内ホイール17(図2)が係合している。移動フレーム16には1つの加振装置18と本実施形態では移動フレーム16の長さ方向に沿って等間隔(例えば約200mm間隔)に配列された11個の振動センサ19とが一体的に取り付けられている。従って、これら加振装置18及び振動センサ19は移動フレーム16と共にコンクリート構造物の表面に沿って走行レール14の伸長方向(移動フレーム16の長さ方向)である前進又は後進方向に案内される。なお、振動センサ19の個数及びその配列形態は、図示したものに限定されるものではなく、診断ロボットシステムの構成に従って任意に変更可能である。
【0028】
移動フレーム16を前進又は後進方向に移動させるための駆動は、この移動フレーム16に取り付けられた、ブレーキ付の走行用電動モータ20によって行われる。走行レール14にはその伸長方向に沿ってラックギア21が取り付けられており、このラックギア21に噛合するピニオンギア22が走行用電動モータ20によって回転駆動されることによって、移動フレーム16が走行レール14に案内されて前進又は後進方向に移動する。
【0029】
移動フレーム16の停止位置は、この移動フレーム16に取り付けられた停止位置検出センサ23によって検出される。停止位置検出センサ23は、移動フレーム16に取り付けたマイクロスイッチとコンクリート構造物10に設けられている突起24との組み合わせからなる機械的センサで構成しても良いし、磁気センサ、光センサ又は赤外線センサ等で構成しても良い。
【0030】
走行用電動モータ20はケーブルキャリア15内に収納されている電源線を介してこのコンクリート構造物10とは遠隔に設けられている制御操作装置(制御操作盤)25に電気的に接続されており、この制御操作装置25によって遠隔制御される。停止位置検出センサ23もケーブルキャリア15内に収納されている信号線を介して制御操作装置25に電気的に接続されている。
【0031】
加振装置18は、移動フレーム16の停止位置において、加振部を、スライドレール26に沿って、加振装置吸着用鉄鋼板11(コンクリート構造物)の表面と垂直方向に移動可能とするスライドフレーム27を備えている。このスライドフレーム27の垂直方向、即ち矢印27a方向、への移動は、スライドフレーム用電動アクチュエータ28の駆動によって行われる。ロック用ハンド29は、ロック用電動モータ30によって矢印29a(図3)方向に駆動され、必要時に、スライドフレーム27の矢印27a方向への移動をロックする。
【0032】
スライドフレーム27が加振装置の吸着位置まで移動したことを確認する吸着位置確認センサ31と、初期位置にあることを確認する初期位置確認センサ32とがさらに設けられている。吸着位置確認センサ31及び初期位置確認センサ32は、マイクロスイッチによる機械的センサで構成しても良いし、磁気センサ、光センサ又は赤外線センサ等で構成しても良い。
【0033】
スライドフレーム用電動アクチュエータ28及びロック用電動モータ30はケーブルキャリア15内に収納されている電源線を介して制御操作装置25に電気的に接続されており、この制御操作装置25によって遠隔制御される。吸着位置確認センサ31及び初期位置確認センサ32もケーブルキャリア15内に収納されている信号線を介して制御操作装置25に電気的に接続されている。
【0034】
加振装置18は、吸着位置にある際に、2つの電磁石33及び34(図3及び図4)によって、加振装置吸着用鉄鋼板11に磁気的に吸着及び離脱できるように構成されている。電磁石33及び34の動作はそのスイッチ33a及び34bを回動することによって制御される。スイッチ33a及び34bの回動は、電磁石用電動アクチュエータ35の駆動によって行われる。即ち、図4に示すように、電磁石用電動アクチュエータ35には駆動ロッド36が連結されており、この駆動ロッド36にはスイッチ33a及び34bをそれぞれ回動させるためのアーム37及び38が連結されている。電磁石用電動アクチュエータ35が付勢されて駆動ロッド36を矢印39のいずれかの方向に駆動すると、スイッチ33a及び34bが回動してオン又はオフとなり、電磁石33及び34が付勢状態(オン状態)又は付勢停止状態(オフ状態)となる。
【0035】
電磁石33及び34がオン状態となったこと及びオフ状態となったことを駆動ロッド36の位置でそれぞれ検出するためのオン状態確認センサ40及びオフ状態確認センサ41が移動フレーム16に取り付けられている。オン状態確認センサ40及びオフ状態確認センサ41は、マイクロスイッチによる機械的センサで構成しても良いし、磁気センサ、光センサ又は赤外線センサ等で構成しても良い。
【0036】
電磁石用電動アクチュエータ35はケーブルキャリア15内に収納されている電源線を介して制御操作装置25に電気的に接続されており、この制御操作装置25によって遠隔制御される。また、電磁石33及び34もケーブルキャリア15内に収納されている電源線を介して制御操作装置25に電気的に接続されており、この制御操作装置25から給電されている。オン状態確認センサ40及びオフ状態確認センサ41もケーブルキャリア15内に収納されている信号線を介して制御操作装置25に電気的に接続されている。
【0037】
図1〜図4には明確に示していないが、スライドフレーム27には、図5に示すような加振部が取り付けられている。この図5は、加振装置18における電磁石33及び34と加振部42とのみの構成を概略的に示しており、電磁石33及び34が付勢状態にあり、加振装置吸着用鉄鋼板11に磁気的に吸着して固定されている状態を表している。
【0038】
図5に示すように、加振部42は、所定の周波数域で振動する振動素子42aと、この振動素子42aの振動をコンクリート構造物10の局部表面に伝える振動ロッド42bと、振動ロッド42bに予圧を与える予圧ばね42cと、予圧ばね42cの自由長を変えて予圧を調整するためのばね調整用ノブ42dとを備えており、この加振部42が電磁石33及び34によって加振装置吸着用鉄鋼板11に固定されている。その際、振動ロッド42bの先端がコンクリート構造物10の表面に直接的に当接するように、加振装置吸着用鉄鋼板11に開口部11a等が設けてあることが望ましい。
【0039】
振動素子42aとしては、コンクリート構造物10の局所における変状を観測するために高周波(例えば500Hz以上)の振動を与えることができ、小型で微小な力で振動を与えることができるように、ピエゾ圧電効果を利用した積層型圧電素子を用いている。このような高周波の振動を与えることにより、診断対象の変状を観測することが可能となる。これは診断対象が、原子力発電所、化学プラント、船舶等のコンクリート構造物である場合、その重量が重いため、これらの固有振動数(1次のモードにおける固有振動数)が非常に低い振動数になるが、変状点の固有振動数は振動数が高いため、かかる振動数での変化が計測できるようになるためである。
【0040】
振動素子42aはケーブルキャリア15内に収納されている信号線を介して診断解析装置43に電気的に接続されており、この診断解析装置43によって遠隔的に駆動される。
【0041】
図6は本実施形態における各振動センサ19の構成を概略的に示す(A)側面図及び(B)正面図である。
【0042】
同図に示すように、振動センサ19は、移動フレーム16の停止位置において、内部に振動ピックアップ44と電磁石を用いた電磁ホルダ45とを収容した振動センサケース46を、案内部材47に沿って、振動センサ吸着用鉄鋼板12(コンクリート構造物)の表面と垂直方向に移動できるように構成されている。この振動センサケース46の垂直方向、即ち矢印46a方向、への移動は、移動フレーム16に取り付けられた振動センサ用電動アクチュエータ48の駆動によって行われる。
【0043】
振動センサケース46の吸着位置まで移動したことを確認する吸着位置確認センサ49と、初期位置にあることを確認する初期位置確認センサ50とがさらに設けられている。吸着位置確認センサ49及び初期位置確認センサ50は、マイクロスイッチによる機械的センサで構成しても良いし、磁気センサ、光センサ又は赤外線センサ等で構成しても良い。
【0044】
電磁ホルダ45及び振動センサ用電動アクチュエータ48はケーブルキャリア15内に収納されている電源線を介して制御操作装置25に電気的に接続されており、この制御操作装置25によって遠隔制御される。吸着位置確認センサ49及び初期位置確認センサ50もケーブルキャリア15内に収納されている信号線を介して制御操作装置25に電気的に接続されている。
【0045】
振動ピックアップ44は、本実施形態では、小型の半導体型加速度計であり、加振装置18が与えた振動に対する応答を計測するために、コンクリート構造物10の変位を計測する。振動ピックアップ44として、レーザ式変位測定器、圧電素子等を用いてもよい。
【0046】
以上の振動センサ19が本実施形態では等間隔に11個設けられており、各振動センサ19の振動ピックアップ44はケーブルキャリア15内に収納されている信号線を介して診断解析装置43に電気的に接続されている。従って、これら振動センサ19からの検出信号が信号線を介して診断解析装置43に送り込まれることとなる。
【0047】
図7は本実施形態における診断ロボットシステムの遠隔制御及び操作機能に係る電気的構成を概略的に示すブロック図である。
【0048】
同図に示すように、加振装置18内の走行用電動モータ20、ロック用電動モータ30、スライドフレーム用電動アクチュエータ28、電磁石33及び34、並びに電磁石用電動アクチュエータ35は、ケーブルキャリア15内に収納されている電源線を介して遠隔に設けられている制御操作装置25に電気的に接続されている。また、停止位置検出センサ23、吸着位置確認センサ31、初期位置確認センサ32、オン状態確認センサ40及びオフ状態確認センサ41もケーブルキャリア15内に収納されている信号線を介して制御操作装置25に電気的に接続されている。
【0049】
さらに、11個の振動センサ19の各々における電磁ホルダ45及び振動センサ用電動アクチュエータ48はケーブルキャリア15内に収納されている電源線を介して制御操作装置25に電気的に接続されており、吸着位置確認センサ49及び初期位置確認センサ50もケーブルキャリア15内に収納されている信号線を介して制御操作装置25に電気的に接続されている。
【0050】
制御操作装置25は、タッチディスプレイ25a及びシーケンスコントローラ25bや、図示しない電源機器、リレーモータコントローラ、ソレノイド駆動機器等を備えており、タッチディスプレイ25aの操作に基づいて、デジタルコンピュータによって構成されるシーケンスコントローラ25bが診断ロボットシステムのシーケンス制御を行う。以下、このシーケンスコントローラ25bの制御に基づく診断ロボットシステムの動作を説明する。ただし、以下に説明する動作は、本発明を実施するに必要な最小限の基本動作の一例であって、実際には、種々の付加的な操作、確認、制御が行われることはもちろんである。
【0051】
図8は加振装置18及び振動センサ19の、従って移動フレーム16のコンクリート構造物10の表面に沿った前進及び停止動作を制御する前進及び停止制御シーケンスの一例を表すフローチャートである。
【0052】
このシーケンスでは、まず、走行用電動モータ20を前進方向に駆動して移動フレーム16を前進させる(ステップS1)。この操作は、停止位置検出センサ23が移動フレーム16の停止位置を検出したと判断する(ステップS2)まで行われ、停止位置を検出した場合は、走行用電動モータ20にブレーキをかけて移動フレーム16をその位置で停止させる(ステップS3)。これによって、加振装置18は加振装置吸着用鉄鋼板11に向き合う位置で停止し、また、各振動センサ19は振動センサ吸着用鉄鋼板12又は支持部材13に向き合う位置で停止する。
【0053】
図9は加振装置18及び振動センサ19の、従って移動フレーム16のコンクリート構造物10の表面に沿った後進及び停止動作を制御する後進及び停止制御シーケンスの一例を表すフローチャートである。
【0054】
このシーケンスでは、まず、走行用電動モータ20を後進方向に駆動して移動フレーム16を後進させる(ステップS11)。この操作は、停止位置検出センサ23が移動フレーム16の停止位置を検出したと判断する(ステップS12)まで行われ、停止位置を検出した場合は、走行用電動モータ20にブレーキをかけて移動フレーム16をその位置で停止させる(ステップS13)。これによって、加振装置18は加振装置吸着用鉄鋼板11に向き合う位置で停止し、また、各振動センサ19は振動センサ吸着用鉄鋼板12又は支持部材13に向き合う位置で停止する。
【0055】
図10は加振装置18及び振動センサ19を加振装置吸着用鉄鋼板11及び振動センサ吸着用鉄鋼板12にそれぞれ固定する動作を制御する固定制御シーケンスの一例を表すフローチャートである。
【0056】
このシーケンスでは、まず、ロック用電動モータ30を駆動してロック用ハンド29を開き、スライドフレーム27の移動ロックを解除する(ステップS21)。次いで、スライドフレーム用電動アクチュエータ28を駆動し、スライドフレーム27を吸着位置方向に移動させる(ステップS22)。この操作は、吸着位置確認センサ31によってスライドフレーム27が吸着位置まで移動したと判断する(ステップS23)まで行われ、移動したことを検出した場合は、スライドフレーム用電動アクチュエータ28の駆動を停止してスライドフレーム27をその位置で停止させる(ステップS24)。
【0057】
次いで、電磁石用電動アクチュエータ35を駆動し、電磁石33及び34のスイッチ33a及び34bをオン方向に回動させる(ステップS25)。この操作は、オン状態確認センサ40によって電磁石33及び34がオン状態となったことを検出する(ステップS26)まで行われ、オン状態となったことを検出した場合は、電磁石用電動アクチュエータ35の駆動を停止させる(ステップS27)。これにより、電磁石33及び34が加振装置吸着用鉄鋼板11に吸着し、加振装置18がコンクリート構造物10の表面に固定される。
【0058】
一方、各振動センサ19における、振動センサ用電動アクチュエータ48を駆動し、振動センサケース46を吸着位置方向に移動させる(ステップS28)。この操作は、吸着位置確認センサ49によって振動センサケース46が吸着位置まで移動したと判断する(ステップS29)まで行われ、移動したことを検出した場合は、振動センサ用電動アクチュエータ48の駆動を停止して振動センサケース46をその位置で停止させる(ステップS30)。次いで、電磁ホルダ45の電磁石を付勢してこの電磁ホルダ45を振動センサ吸着用鉄鋼板12に吸着させる(ステップS31)。同様の動作が全ての振動センサ19について行われることにより、全ての振動センサ19がそれぞれの位置においてコンクリート構造物10の表面に固定される。
【0059】
図11は加振装置18及び振動センサ19を加振装置吸着用鉄鋼板11及び振動センサ吸着用鉄鋼板12からそれぞれ解放する動作を制御する解放制御シーケンスの一例を表すフローチャートである。
【0060】
このシーケンスでは、まず、電磁石用電動アクチュエータ35を駆動し、電磁石33及び34のスイッチ33a及び34bをオフ方向に回動させる(ステップS41)。この操作は、オフ状態確認センサ41によって電磁石33及び34がオフ状態となったことを検出する(ステップS42)まで行われ、オフ状態となったことを検出した場合は、電磁石用電動アクチュエータ35の駆動を停止させる(ステップS43)。これにより、電磁石33及び34の加振装置吸着用鉄鋼板11への吸着が解除され、加振装置18はコンクリート構造物10の表面から離れることが可能となる。次いで、スライドフレーム用電動アクチュエータ28を駆動し、スライドフレーム27を離脱方向に移動させる(ステップS44)。この操作は、初期位置確認センサ32によってスライドフレーム27が初期位置まで移動したと判断する(ステップS45)まで行われ、移動したことを検出した場合は、スライドフレーム用電動アクチュエータ28の駆動を停止してスライドフレーム27をその位置で停止させる(ステップS46)。次いで、ロック用電動モータ30を駆動してロック用ハンド29を閉じ、スライドフレーム27の移動をロックする(ステップS47)。
【0061】
一方、各振動センサ19における、電磁ホルダ45の電磁石の付勢を停止してこの電磁ホルダ45の振動センサ吸着用鉄鋼板12への吸着を解除する(ステップS48)。次いで、振動センサ用電動アクチュエータ48を駆動し、振動センサケース46を離脱方向に移動させる(ステップS49)。この操作は、初期位置確認センサ50によって振動センサケース46が初期位置まで移動したと判断する(ステップS50)まで行われ、移動したことを検出した場合は、振動センサ用電動アクチュエータ48の駆動を停止して振動センサケース46をその位置で停止させる(ステップS51)。同様の動作が全ての振動センサ19について行われることにより、全ての振動センサ19がそれぞれの位置においてコンクリート構造物10の表面から解放される。
以上説明した制御シーケンスを単独でそれぞれ実行して加振装置18及び振動センサ19の移動及び固定等の操作を行っても良いが、本実施形態では、これらを組み合わせて実行することによって、操作がより簡単となるように構成されている。
【0062】
図12は本実施形態におけるシーケンスコントローラの全体的な制御処理の一例を概略的に示すフローチャートである。
【0063】
オペレータが、例えば、制御操作装置25のタッチディスプレイ25aを操作して、前進及び停止動作を指示したとすると、シーケンスコントローラ25bはこの図12に示す制御処理を実行する。
【0064】
まず、今回が最初の移動であるかどうか判別する(ステップS61)。最初の移動ではなく、加振装置18及び振動センサ19がコンクリート構造物10に固定されている状態からの移動である場合は、図11に示した解放制御シーケンスを実行し(ステップS62)、加振装置18及び振動センサ19をコンクリート構造物10の表面に沿って次の測定位置に移動可能な状態とする。
【0065】
次いで、又は最初の移動であり加振装置18及び振動センサ19がコンクリート構造物10に固定されていない状態からの移動である場合は、図8に示した前進及び停止制御シーケンスを実行し(ステップS63)、加振装置18及び振動センサ19をコンクリート構造物10の表面に沿って前進させ、次の測定位置に移動させる。
【0066】
次いで、図10に示した固定制御シーケンスを実行し(ステップS64)、加振装置18及び振動センサ19をコンクリート構造物10の表面に固定する。
【0067】
その後、診断解析装置43により、その位置で診断及び解析処理が実行される(ステップS65)。
【0068】
図13は本実施形態におけるシーケンスコントローラの全体的な制御処理の他の例を概略的に示すフローチャートである。
【0069】
オペレータが、例えば、制御操作装置25のタッチディスプレイ25aを操作して、後進及び停止動作を指示したとすると、シーケンスコントローラ25bはこの図13に示す制御処理を実行する。
【0070】
まず、今回が最初の移動であるかどうか判別する(ステップS71)。最初の移動ではなく、加振装置18及び振動センサ19がコンクリート構造物10に固定されている状態からの移動である場合は、図11に示した解放制御シーケンスを実行し(ステップS72)、加振装置18及び振動センサ19をコンクリート構造物10の表面に沿って次の測定位置に移動可能な状態とする。
【0071】
次いで、又は最初の移動であり加振装置18及び振動センサ19がコンクリート構造物10に固定されていない状態からの移動である場合は、図9に示した後進及び停止制御シーケンスを実行し(ステップS73)、加振装置18及び振動センサ19をコンクリート構造物10の表面に沿って後進させ、次の測定位置に移動させる。
【0072】
次いで、図10に示した固定制御シーケンスを実行し(ステップS74)、加振装置18及び振動センサ19をコンクリート構造物10の表面に固定する。
【0073】
その後、診断解析装置43により、その位置で診断及び解析処理が実行される(ステップS75)。
【0074】
図14は本実施形態における診断ロボットシステムの診断及び解析機能に係る電気的構成を概略的に示すブロック図である。
【0075】
同図に示すように、加振装置18内の振動素子42a及び11個の振動センサ19の各々における振動ピックアップ44はケーブルキャリア15内に収納されている信号線を介して診断解析装置43に電気的に接続されている。
【0076】
診断解析装置43は、この診断解析装置43全体の動作を統括的に制御する統括制御部43aと、振動ピックアップ44が検出した応答から振動モードを求めてコンクリート構造物10の健全度を最終的に求める解析ユニット43bと、振動ピックアップ44からの計測信号の増幅器43cと、A/D変換器43dと、振動素子42aを振動させるための波形信号を発生する信号発生部43eと、この波形信号から駆動信号を生成する駆動部43fとを主に備えている。統括制御部43a及び解析ユニット43bは、本実施形態では、デジタルコンピュータで構成されている。
【0077】
統括制御部43aは、診断対象であるコンクリート構造物10の健全度を最も適切に診断するための加振条件を指示すると共に、診断結果を表示等することにより診断処理全体を統括する。また、診断開始時には、診断開始指令や加振条件等の制御データを信号発生部43eを介して駆動部43fへ送る。さらに、振動ピックアップ44からの計測データを解析ユニット43bへ送ると共に、この解析ユニット43bから診断結果を受取って画面表示する。
【0078】
信号発生部43eは、統括制御部43aからの加振条件に基づき、診断対象に付与する振動の波形信号を発生する。この波形信号は駆動部43fにおいて増幅されて駆動信号となり、ケーブルキャリア15内に収納されている信号線を介して加振装置18の振動素子42aに印加される。この信号発生部43eは、ファンクションジェネレータやマルチファンクションシンセサイザ等から構成され、統括制御部43aからの加振条件に応じたアナログ信号の波形信号を生成して出力する。一般にマルチファンクションジェネレータやマルチファンクションシンセサイザでは、それ自体においてサイン波、矩形波、ノコギリ波等の一般的な波形信号を生成することができるが、診断対象や目的に応じて任意の波形信号が作成できる機能を具備していることが望ましい。マルチファンクションジェネレータを用いることにより、複数の加振装置を用いてマルチチャネルによる加振が可能となる。即ち、各加振装置毎に加振のタイミングをずらしたり、位相を変えたり、振幅、周波数若しくは加振時間を変えたり、さらにはスイープ振動(振幅や周波数を時間と共に変化させた振動)させたり等診断対象や目的に応じた加振が可能となる。
【0079】
駆動部43fは、信号発生部43eからの波形信号を所定のゲインで増幅し、これを駆動信号としてケーブルキャリア15内に収納されている信号線を介して加振装置18の振動素子42aへ出力する。なお、ゲインは、信号発生部43eから指定できるようにしてもよい。
【0080】
振動ピックアップ44には、その出力であるアナログの計測信号を増幅する増幅器43cがケーブルキャリア15内に収納されている信号線を介して接続されており、この増幅器43cにはその出力信号をディジタル変換するA/D変換器43dが接続されている。増幅器43cは、各計測器に対応して設けられたシグナルコンディショナ等からなり、主にA/D変換器43dに入力する信号レベルの調整を行う。各増幅器のゲインは計測器の構成や診断対象の構成に依存して設定される。即ち、各増幅器のゲインは一定となるように(少なくとも同一レベルの信号が入力されたときに同一レベルの信号が出力されるように)設定する必要があり、また増幅器43cからの信号をディジタル信号に変換する際にオーバーフローを起こさないように設定する。なお、診断対象に応じて付与する振動のエネルギを調整したい場合や、印加する振動エネルギを連続的に変化させたい場合には、固定ゲインの増幅器であるとオーバーフローを起こしてしまう場合があるので、ゲインは調整可能であることが望ましい。このゲイン調整は、マニュアル調整でもよく、また、統括制御部43aからゲイン調整できるようにしても良い。
【0081】
A/D変換器43dには統括制御部43aが接続されており、ディジタルの計測信号がこの統括制御部43aに入力されるように構成されている。
【0082】
解析ユニット43bは、計測データから診断対象の1次〜n次の振動モードにおける固有振動数(以下実験固有振動数)を求める実験モード解析部43bと、理論的に診断対象の1次〜n次の振動モードにおける固有振動数(以下理論固有振動数)を算出する理論解析部43bと、理論固有振動数が実験固有振動数と所定条件下で一致するか否かを判断して健全度診断を行う評価部43bと、診断情報、理論固有振動数及び実験固有振動数等の情報を保存する解析データベース(解析DB)部43bとを備えている。
【0083】
以下、この解析ユニット43bについて、より詳細に説明する。
【0084】
診断すべきコンクリート構造物10に損傷等の変状が生じると、印加した振動の応答を計測してそのパワースペクトルのピーク周波数が変位する。即ち、変状発生の有無が、パワースペクトルに違いが生じているか否かを判断することにより知ることができる。従って、パワースペクトルが健全時のものからどのように変化したかを比較することにより健全度診断が可能となる。
【0085】
しかしながら、これによって変状の発生が判断できても、その変状の位置やそのような変状が起きているかまでは判断することができない。そこで、かかる変状点の位置や変状内容までも診断内容とすべく、評価部43bでは、解析アルゴリズムを用いている。
【0086】
このような解析アルゴリズムとしては、遺伝的アルゴリズム(GA:Genetic Algorlthm)、ニューロネットワーク回帰分析、多変量解析、パターン認識解析等が適用可能であるが、この中でも最適化問題に非常に有効であるとされている遺伝的アルゴリズムを用いた場合を以下説明する。
【0087】
まず、GAの概要を簡単に説明する。GAはもともと、生物界にある遺伝の法則を模擬して案出された手法で、複数の解を遺伝的に変化させながら、より良い解を求める手法である。そして、この解を遺伝子という形で表現する(コーディングする)。
【0088】
図15は、GAのアルゴリズムを示すフローチャートである。
【0089】
GAでは、まず、解(個体)の集団である初期集団(個体群)を作成する(ステップS81)。この個体は診断対象の1の変状状態に対応し、この個体を特徴付ける遺伝子情報として変状点の位置等を用いる。
【0090】
次に、評価を行う。評価は全ての個体(解)について適合度を求めて、この適合度に基づき次の世代に残す個体を決定する(ステップS82、ステップS83)。この適合度は、解の評価の高さのようなもので、良い解ほど高い適合度が得られるように評価関数を設定する。なお、本発明においては、各個体の理論固有振動数を計算して、この理論固有振動数が実験固有振動数とどの程度適合(一致)しているか(良い解であるか)を評価関数により評価する。評価関数については後述する。
【0091】
変状態様が鉄鋼材においてボルトが弛緩したような場合には、想定した個体の中に最適解を見出せる場合も多いが、コンクリート構造物の剥離のような場合には、想定した個体からは最適解を見いだすことができないこともあり得る。そこで、GAにおいては、GAオペレータと称される交叉や突然変異操作を行う(ステップS84)。
【0092】
この交叉や突然変異操作は遺伝の法則をヒントに作られたもので、交叉では複数の親(一般には二つ個体)から遺伝子を受け継ぐ新しい個体(子)を一定の確率で発生させ、突然変異では交叉より低い確率で個体が発生するように設定する。
【0093】
ただし、変状がボルトの弛緩ではなく、剥離であった場合には、交叉操作を繰返しても最適解が求まらないので、この場合には突然変異操作により剥離を変状内容とする個体を生成して探査を行うことになる。このような探査を一世代と考え所定回数について行い最適解を求める。
【0094】
図16はGAを用いて診断を行う場合の手順を示すフローチャートである。
【0095】
以下この図を用いて診断手順を説明する。まず、診断対象に加振する(ステップS91)。これにより、診断対象からは1次〜n次(n:整数)の振動モードを持つ応答振動が計測される。
【0096】
そこで、解析ユニット43bの実験モード解析部43bでは、計測データのパワースペクトル分析を行い、変状により卓越した振幅が変化し、又は新たに卓越した振幅が生じるとして、この卓越点を探して実験固有振動数とする(ステップS92、ステップS93)。
【0097】
例えば、診断対象に図17に示すような、周波数をスタート周波数からストップ周波数まで連続的に変化するスイープ振動を付与した場合には、図18に示すような計測データが観測される。そこで、実験モード解析部43bで、この計測データに対しパワースペクトル分析を行って、図19に示すようなパワースペクトルを得、同図で縦線を引いた所を実験固有振動数とする。
【0098】
なお、計測データをフーリエ変換して周波数分析を行い、各周波数における振幅が卓越している点を実験固有振動数としてもよく、さらにはフーリエ変換して得られたデータに対し、パワースペクトル分析を行うことにより振幅変化を明確化し、これにより精度良く実験固有振動数を同定するようにしても良い。
【0099】
図17に示すようなスイープ振動を付与する理由は、この変状点を共振させ、変状点の位置、大きさ、種類等の情報を計測データに含まれるようにするためである。
【0100】
即ち、診断時においては変状点の位置等は不明であるので、幅広い周波数で加振することにより変状点を共振させて計測データにその情報が含まれるようにする。無論、変状点が特定できる場合や変状点が高精度に予測できる場合等においては、スイープ振動でなく一定振動数の振動であってもよく、また狭い範囲で周波数が変化する振動であっても良い。
【0101】
図17において印加された振動は診断対象の表面又はその近傍を伝播する表面弾性波と考えているが、コンクリート構造物における鉄筋の腐食や酸性雨によるコンクリートの変状等の内部欠陥のように深い位置での変状を計測する際には、当然のことながらその深度まで振動を伝播させ、その応答が返ってくるだけのエネルギが必要になる。このため、例えば時間と共に振幅が増大するスイープ振動を付与する等の検出する変状点の深度に対応したエネルギの振動を印加することが必要となる。
【0102】
図17におけるような診断対象の場合には、変状の態様としては(1)コンクリートの剥離、(2)材料劣化、(3)鉄筋との付着剥離、(4)表面のクラック等が想定することができる。
【0103】
理論解析部43bは、診断対象の低次から高次の理論固有振動を有限要素法等を用いて算出する。有限要素法では、診断対象を複数の要素に分割し、各要素の境界条件を変化させて計算する。
【0104】
このため予め想定される変状点に対応した要素分割が重要になる。例えば、変状として剥離が想定される場合には、要素の1に想定される剥離位置が含まれるように要素分割する。なお、変状として剥離を想定する場合には隣接する要素との連続性が無いとする境界条件を遺伝子情報に設定する。このように、想定される変状の性質に応じて遺伝子情報に設定し、これを演算パラメータとする。
【0105】
最初の診断時(K=1)においては構造物の理論値算出に必要な定数を演算パラメータとして理論固有振動数を算出し、この理論固有振動数が実験固有振動数と所定条件で一致するようにこの演算パラメータを変化させる。そして、一致したときの演算パラメータを診断対象のその定数であると同定する。
【0106】
これにより、実際の診断対象の固有振動数に近い(精度の高い)理論固有振動数を容易に求めることができ、演算に要する時間を短縮することが可能となる。
【0107】
最初の診断時(K=1)とは、当該装置を設置した場合や設置後に解析データベースのデータが初期化された場合の最初に診断する時を意味している。診断対象の変状は状態変化を検出することにより行うため、最初の診断では(K=1)では元の状態に関するデータが存在しないため診断が行えず、またGAにおける個体群も設定されていない状態だからである。
【0108】
このため、最初の診断時には、GAにおける個体群を設定し(ステップS94、ステップS96)、個体の遺伝子情報をコーディングする(ステップS97)。
【0109】
その後、有限要素法により理論固有振動数を算出する(ステップS98)。このとき、遺伝子情報を構成する変状点位置を演算パラメータとして演算し、図20に示すような振動数(横軸)に対する振幅(縦軸)の曲線が得られる。
【0110】
この曲線の極大値は、1次〜n次の振動モードにおける固有振動数に対応し、この固有振動数が変状の発生により影響を受けて、周波数変化等として現れているとする。
【0111】
評価部43bでは、このように得られた理論固有振動数fa(i)と実験固有振動数fe(i)とを予め設定した評価関数δに代入して適応度の評価を行う(ステップS99)。ここで、iはi次の振動モードの固有振動数であることを示している。評価関数δとしては、例えば下式のように理論固有振動数fa(i)と実験固有振動数fe(i)との差分の2乗を各振動モードで加算する関数とすることができる。無論、種々の評価関数δを定義することができ、例えば差分の絶対値を各振動モードで加算する関数としてもよい。
【0112】
【数1】

【0113】
一方、ステップS94において、最初の診断(K=1)でないと判断された場合には、解析DB部141dから前回の診断結果であるデータD(K−1)を読込み、このデータD(K−1)に含まれている理論固有振動数とステップS93で求めた実験固有振動数とを用いて適応度を評価する(ステップS99)。
【0114】
このようにして得られた適応度が、一定の適応度基準値より小さいか否かを判断し(ステップS100)、適応度基準値より大きい場合(適応度が低い場合)には、予め設定した交叉確率Pc、突然変異確率Pmに基づいて遺伝子操作を行う(ステップS101)。このような処理を1世代として、予め設定された世代数まで繰返して最適解を求める。
【0115】
最適解が求まると、診断が最初(K=1)で有るか否かを判断し、K=1の場合には求まった最適解からなる個体群をデータD(K)として解析DB部43bに保存する(ステップS105)。
【0116】
一方、診断が最初でない場合には(K≠1)、最適解の個体における遺伝子情報から変状位置や変状の内容を判断することにより健全度診断を行い(ステップS103、ステップS104)、その結果を保存する(ステップS105)。
【0117】
以上説明したように、本実施形態によれば、吸着用鉄鋼板11をコンクリート構造物10に固着しておき、加振装置18を遠隔操作によりこの吸着用鉄鋼板11に磁気的に吸着及び離脱可能に構成する。加振装置18を吸着用鉄鋼板11に吸着した際にコンクリート構造物10に局部振動を与える。また、複数の振動センサ19を遠隔操作により吸着用鉄鋼板12に磁気的に吸着及び離脱可能に構成し、吸着した際にコンクリート構造物10の振動に対する応答を検出するように構成する。さらに、これら加振装置18及び複数の振動センサ19をコンクリート構造物10の診断すべき位置に遠隔操作で移動可能に構成する。診断すべき位置に移動した加振装置18及び複数の振動センサ19をコンクリート構造物10に磁気的に固定し、この状態で加振装置18から局部加振することによりコンクリート構造物10の健全度を求める。このように、遠隔操作によりコンクリート構造物10の診断すべき位置に加振装置18及び複数の振動センサ19を固定して診断することができるため、診断に手間がかからずかつ容易であり、安全性から又はスペース的に人が入れないような部所においても、適切な診断を行うことができる。さらに、大型のコンクリート構造物に対しても微小な欠陥を素早く、精度良く、かつ効率良く検出することができる。もちろん、コンクリート構造物の診断を鋼構造物と同様に診断できるので、コンクリート構造物の剥離落下等を容易に予測でき、従って、建築、トンネル等の診断を精度良くかつ容易に行うことができる。さらに、健全時にコンクリート構造物の同定を行っておくことにより、経年変化や強い圧力や衝撃など何らかのストレスが加わることによって引き起こされた局所的に変化が起こっている場所を特定することができる。また、局所的な変化を把握することができるので、その変化に応じて適切に対処することができアセットマネジメントの観点から見ても非常に有効である。さらに、構造物の維持管理技術の点から、微小な変状(予兆、徴候)を早期に発見して、予防的な補修補強を実施することが、構造物のライフサイクルコストを減少でき、維持管理経費の有効活用に資することができる。
【0118】
また、変状などの欠陥情報は周波数のピークのみでなく振動モードにも影響するため、解析ユニット43bにおける理論解析部43bが振動モードを解析に入れるように構成しても良い。即ち、本実施形態のように、複数の振動センサ19をコンクリート構造物10上に等間隔に配列し、これら振動センサ19の振動ピックアップ44からの応答振幅の相対的変化を観測することにより振動モードの形状を得てその形状変化から変状の小さな影響を検出する。このように、振動モードの変化を検出した方が、周波数変化を検出する場合に比して、より高感度に欠陥を検出することができる。
【0119】
以下、本実施形態の理論解析部43bが用いる評価関数の導出について、具体的に説明する。
【0120】
まず、パワースペクトル密度(PSD)の定義について説明する。今、0からTの間における連続時間級数をx(t)とすると、離散的フーリエ変換(DFT)X(f)は以下のように定義される。ここで、i=√(−1)、f=巡回周波数(Hz)である。
【0121】
【数2】


この式は複素式でありその大きさは、周波数に対するm/s又はgのような工学単位(EU)でプロットされる。これにより、パワースペクトルは下式のように定義される。ただし、*は複素共役を示している。
【0122】
【数3】


パワースペクトルは、単位(EU)の実数値周波数領域関数である。PSDであるG(f)は下式のように定義される。
【0123】
【数4】


ここで、E[ ]はX(f)のnサンプルに渡っての特定の周波数fについての集合平均を表している。このPSDの定義より、加振力の測定を行うことなく構造物の計測した応答、例えば加速度応答からPSDを算出できることが分かる。ただし、加振力は同一振幅及び同一振動波形でなければならない。このように、コンクリート構造物の健全度を診断する場合、加振力は測定する必要がない。
【0124】
次に、振動モードの導出について説明する。D(f)が周波数fかつチャネル番号iにおけるPSDの大きさであるとすると、損傷の前後におけるPSDの大きさの差の絶対値は下記のように表される。ここで、G(f)及びG-(f)は損傷していない場合及び損傷している場合のPSDの大きさをそれぞれ表している。
【0125】
【数5】


PSDの変化が周波数fからfの範囲の異なる周波数で測定された場合、マトリクス[D]は以下のようになる。ここで、nは測定点数である。
【0126】
【数6】


このマトリクス[D]において、各列は同一周波数であるが異なる計測点におけるPSD変化を表している。異なる周波数におけるPSD変化の総和が、損傷発生及び損傷増大のインディケータとして使用可能である。換言すれば、損傷インディケータ(Total Change)が、下式のように、マトリクス[D]の行の和から算出される。
【0127】
【数7】

【0128】
しかしながら、この損傷インディケータ(Total Change)では、コンクリート構造物における損傷の位置については不明であるため、この損傷位置を表すインディケータを以下のようにして導出した。
【0129】
まず、各周波数におけるPSD変化の最大値(マトリクス[D]の各列の最大値)を抽出し、他の計測点で測定したPSD変化を全て削除する。例えば、マトリクス[D]において、D(f)が第1列の最大値であるとするとこの値がM(f)として用いられ、この列の他の全ての値が削除される。同様の処理が他の列に対しても行われることにより、異なる周波数におけるPSDの最大変化のマトリクス[M]が下式のように求められる。
【0130】
【数8】


全ての計測点における損傷検出の周波数を監視するため、下記のような新たなマトリクス[C]が形成される。このマトリクスは、損傷されていない位置である0と、損傷された位置である1とから成っている。例えば、このマトリクス[C]において、M(f)及びM(f)に対応する位置に1が入っている。
【0131】
【数9】


PSDの最大変化の合計SMは、下式のように、マトリクス[M]の行の和から算出される。
【0132】
【数10】


異なる計測点において損傷を検出した回数の合計SCは、下式のように、マトリクス[C]の行の和から算出される。
【0133】
【数11】


ノイズによる影響及び測定エラーを減少するために、ベクトル{SM}からベクトル{SM}における要素の標準偏差σ又はその2倍2σが減算される。負の減算結果は削除される。同様な処理がベクトル{SC}についてもなされ、その結果、下式が得られる。
【0134】
【数12】

以上の結果、下式に示すように、損傷インディケータ(Damage Indicator 1及びDamage Indicator 2)が{SMD}及び{SCD}のスカラー積から定義される。
【0135】
【数13】

これら損傷インディケータ(Damage Indicator 1及びDamage Indicator 2)は連続体であるコンクリート構造物の損傷の位置の評価に用いられ、一方、前述した損傷インディケータ(Total Change)は連続体であるコンクリート構造物の損傷の発生及びその程度の評価に用いられる。
【0136】
本発明の変更態様として、解析ユニット43bにおける理論解析部43bが内部歪みエネルギの変化を解析に入れるように構成しても良い。これは、振動モードが得られるとコンクリート構造物全体の振動時の内部歪みエネルギの変化も得られるため、エネルギ比較を行うことによって欠陥検出を行うことができる。この場合も、複数の振動センサ19をコンクリート構造物10上に等間隔に配列し、これら複数の振動センサ19の振動ピックアップ44からの応答振幅の相対的変化を観測することにより振動モードを得てエネルギ比較を行う。このような内部歪みエネルギを比較する場合も周波数変化を検出する場合に比して、より高感度に欠陥を検出することができる。
【0137】
以下、この変更態様の理論解析部43bが用いる評価関数の導出について、簡単に説明する。
【0138】
内部歪みエネルギは、計測点の振動変位から算出される。限られた計測点の変位データを補完して振動モード形状を確定する。その変位による振動モード関数を例えば微分するなどしてコンクリート構造物全体の歪みエネルギを計算する。例えば、微少要素の歪みエネルギWeは、下式から求められる。
We=(σxεx+σyεy+σzεz+2τyzγyz+2τzxγzx+2τxyγxy)/2
【0139】
このWeが微少要素の歪みエネルギ関数であるため、これを構造部の体積全体で積分して評価関数である全体の歪みエネルギWを求める。即ち、W=∫We・dVから評価関数を求めることにより、この全体の歪みエネルギWの変化から連続体であるコンクリート構造物の評価を行う。
【0140】
本発明のさらなる変更態様として、解析ユニット43bにおける理論解析部43bが欠陥による振動モード形状の変化を周波数毎に重ね合わせることにより欠陥の影響をより明確に表すように構成しても良い。即ち、前述したマトリクス[D]においては、行が周波数f毎、列が計測点毎の損傷の程度Dを表しているため、周波数毎に欠陥の影響が求まることとなる。そこで、このマトリクス[D]を周波数fで重ね合わせることにより計測点毎の欠陥の影響が全周波数の影響として求まることとなり、損傷位置が非常に明確となる。
【0141】
なお、前述した実施形態においては、加振装置及び振動センサを電磁石によって磁気的に吸着及び離脱するようにしているが、加振装置及び振動センサを真空的に吸着及び離脱するように構成しても良いことは明らかである。また、そのような真空吸着装置は市販されており、その構成も良く知られているため、本明細書ではその説明を省略する。
【0142】
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】本発明の一実施形態におけるコンクリート構造物の診断ロボットシステムの全体構成を概略的に示すブロック図である。
【図2】図1の実施形態における加振装置部分の構成を概略的に示す側面図である。
【図3】図2の加振装置部分の正面図である。
【図4】図2のA−A線断面図である。
【図5】図2の加振装置における電磁石及び加振部のみの構成を概略的に示す上面図である。
【図6】図1の実施形態における各振動センサの構成を概略的に示す側面図及び正面図である。
【図7】図1の実施形態における診断ロボットシステムの遠隔制御及び操作機能に係る電気的構成を概略的に示すブロック図である。
【図8】前進及び停止制御シーケンスの一例を表すフローチャートである。
【図9】後進及び停止制御シーケンスの一例を表すフローチャートである。
【図10】固定制御シーケンスの一例を表すフローチャートである。
【図11】解放制御シーケンスの一例を表すフローチャートである。
【図12】図1の本実施形態におけるシーケンスコントローラの全体的な制御処理の一例を概略的に示すフローチャートである。
【図13】図1の本実施形態におけるシーケンスコントローラの全体的な制御処理の他の例を概略的に示すフローチャートである。
【図14】図1の実施形態における診断ロボットシステムの診断及び解析機能に係る電気的構成を概略的に示すブロック図である。
【図15】GAのアルゴリズムを示すフローチャートである。
【図16】GAを用いて診断を行う場合の手順を示すフローチャートである。
【図17】診断対象に付与する振動波形としてスイープ振動を例示する図である。
【図18】計測データを例示する図である。
【図19】計測データからパワースペクトルを求めた図である。
【図20】理論解析部で算出した振動モードの波形である。
【符号の説明】
【0144】
10 コンクリート構造物
11 加振装置吸着用鉄鋼板
12 振動センサ吸着用鉄鋼板
13 支持部材
14 走行レール
15 ケーブルキャリア
16 移動フレーム
17 案内ホイール
18 加振装置
19 振動センサ
20 走行用電動モータ
21 ラックギア
22 ピニオンギア
23 停止位置検出センサ
24 突起
25 制御操作装置(制御操作盤)
25a タッチディスプレイ
25b シーケンスコントローラ
26 スライドレール
27 スライドフレーム
28 スライドフレーム用電動アクチュエータ
29 ロック用ハンド
30 ロック用電動モータ
31、49 吸着位置確認センサ
32、50 初期位置確認センサ
33、34 電磁石
33a、34a スイッチ
35 電磁石用電動アクチュエータ
36 駆動ロッド
37、38 アーム
40 オン状態確認センサ
41 オフ状態確認センサ
42 加振部
42a 振動素子
42b 振動ロッド
42c 予圧ばね
42d ばね調整用ノブ
43 診断解析装置
43a 統括制御部
43b 解析ユニット
43b 実験モード解析部
43b 理論解析部
43b 評価部
43b 解析DB部
43c 増幅器
43d A/D変換器
43e 信号発生部
43f 駆動部
44 振動ピックアップ
45 電磁ホルダ
46 振動センサケース
47 案内部材
48 振動センサ用電動アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断すべきコンクリート構造物に固着された板部材と、遠隔操作により該板部材に吸着及び離脱可能であり、吸着した際に前記コンクリート構造物に局部振動を与えることが可能な加振装置と、遠隔操作により該板部材に吸着及び離脱可能であり、吸着した際に前記コンクリート構造物の振動に対する応答を検出する少なくとも1つの振動検出手段と、前記加振装置及び前記少なくとも1つの振動検出手段を前記コンクリート構造物の診断すべき位置に遠隔操作で移動可能な移動手段と、前記振動検出手段の検出によって得られる振動モードが健全時の振動モードからどのように変化したかに基づいて前記コンクリート構造物の健全度を求める解析手段とを備えたことを特徴とするコンクリート構造物の診断ロボットシステム。
【請求項2】
前記移動手段が、前記加振装置及び前記少なくとも1つの振動検出手段が取り付けられた移動フレームと、該移動フレームを前記コンクリート構造物の表面に沿って案内する案内手段と、前記移動フレームの位置を前記案内手段に従って遠隔的に移動させる駆動手段とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の診断ロボットシステム。
【請求項3】
前記案内手段が、前記コンクリート構造物の表面に取り付けられた走行レールと、該走行レールに係合し、前記移動フレームに取り付けられた案内ホイールとを備えていることを特徴とする請求項2に記載の診断ロボットシステム。
【請求項4】
前記駆動手段が、前記走行レールに取り付けられたラックギアと、前記移動フレームに取り付けられており前記ラックギアに噛合するピニオンギアと、該ピニオンギアを駆動する走行用電動モータと、前記移動フレームの停止位置を検出する停止位置検出センサとを備えていることを特徴とする請求項3に記載の診断ロボットシステム。
【請求項5】
前記加振装置を前記板部材の表面と垂直方向に遠隔操作によって移動可能な加振装置垂直駆動手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の診断ロボットシステム。
【請求項6】
前記加振装置垂直駆動手段によって前記加振装置が吸着位置まで移動したことを確認する吸着位置確認センサをさらに備えていることを特徴とする請求項5に記載の診断ロボットシステム。
【請求項7】
前記少なくとも1つの振動検出手段を前記板部材の表面と垂直方向に遠隔操作によって移動可能な振動検出手段垂直駆動手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の診断ロボットシステム。
【請求項8】
前記振動検出手段垂直駆動手段によって前記少なくとも1つの振動検出手段が吸着位置まで移動したことを確認する吸着位置確認センサをさらに備えていることを特徴とする請求項7に記載の診断ロボットシステム。
【請求項9】
前記板部材が磁性体板部材であり、前記加振装置が、付勢されることによって該磁性体板部材に磁気的に吸着し、付勢が停止することによって該磁性体板部材から離脱する少なくとも1つの電磁石と、該少なくとも1つの電磁石に機械的に連結されており、振動を発生してその振動を前記コンクリート構造物の表面に印加する振動素子とを備えていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の診断ロボットシステム。
【請求項10】
前記少なくとも1つの電磁石の付勢及び付勢停止を確認するセンサをさらに備えていることを特徴とする請求項9に記載の診断ロボットシステム。
【請求項11】
前記少なくとも1つの振動検出手段が、前記移動手段の移動方向に沿って配列された複数の振動センサを備えていることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の診断ロボットシステム。
【請求項12】
前記振動センサが等間隔に配列されており、前記解析手段が該複数の振動センサからの応答振幅の相対的変化を観測することにより振動モードの形状を得てその形状変化から変状の影響を検出する理論解析部を備えていることを特徴とする請求項11に記載の診断ロボットシステム。
【請求項13】
前記理論解析部が前記振動モードの形状の変化を周波数毎に重ね合わせることにより変状の影響を検出するように構成されていることを特徴とする請求項12に記載の診断ロボットシステム。
【請求項14】
前記振動センサが等間隔に配列されており、前記解析手段が該複数の振動センサからの応答振幅の相対的変化を観測することにより振動モードの形状を得て内部歪みエネルギの比較を行うことによって変状の影響を検出する理論解析部を備えていることを特徴とする請求項11に記載の診断ロボットシステム。
【請求項15】
前記解析手段が、前記少なくとも1つの振動検出手段からの計測データを解析して診断対象の固有振動数を実験固有振動数として求める実験モード解析部と、診断対象の1の変状状態を規定すると共に、変状点の位置等の変状を特徴付ける情報を遺伝子情報としてなる個体を複数定義し、該遺伝子情報に基づき各個体の固有振動数を演算して理論固有振動数とする理論解析部と、前記実験固有振動数と所定の一致度で一致する前記理論固有振動数を持つ前記個体を探査して、最も一致度の高い個体を特定し、該個体の遺伝子情報から変状状態を推定する評価部と、該評価部で探査した個体を保存して、次回の診断において当該保存された個体を用いて前記理論解析部が理論固有振動数を演算できるようにする解析データベースとを備えていることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の診断ロボットシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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