説明

コンクリート構造物中の鋼材用防錆剤、該防錆剤を含有するコンクリートまたはモルタル組成物

【課題】コンクリート構造物中の鋼材の腐食に対して、塩化物イオンが存在する条件下、あるいは塩化物イオンが存在する条件下でpHが低下してコンクリートが中性化した状況においても、充分な防錆効果を有し、かつ人的被害の問題がない防錆剤の提供。
【解決手段】麦焼酎蒸留廃液を固液分離した溶液を蒸留して得られる107〜110℃の沸点を有する蒸留残留液や、その蒸留残留液にエチルアルコールを加えた時に析出する成分は、高濃度の塩化物イオンが存在する条件下で、高アルカリ性領域から弱酸性領域まで、鉄の腐食に対して極めて高い腐食抑制効果を維持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物中の鋼材の腐食を抑制する防錆剤、該防錆剤を含有するコンクリートまたはモルタル組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、マンション、商業ビル、橋梁、トンネルなどの多くのコンクリート構造物において、コンクリート中に埋設された鋼棒や鋼線、鉄網、形鋼、PC鋼材などの鋼材の腐食に起因するコンクリートのひび割れ、剥離、落下、ひいては、コンクリート構造物の強度低下による早期の使用不可などが重大な社会問題となっている。例えば、マンションや商業ビルなどでは、鉄筋などの鋼材の腐食に起因するコンクリートの様々な劣化によって、通常考えられている鉄筋コンクリート構造物の耐用年数(50年)よりもはるかに短い期間で使用不能に至ったり、大規模な改修や補修を余儀なくされている例がある。また、新幹線の橋梁やトンネルなどでは、コンクリート中に補強材として埋設されている鋼材の腐食に起因するコンクリートの落下によって、人身に関わる極めて重大な事故が引き起こされる危険性も生じている。
【0003】
コンクリート構造物の内部の腐食環境は、コンクリートの骨材(石などの粗骨材と砂などの細骨材)と補強材(鋼棒などの鋼材)を固着する接着剤として作用しているセメントペーストに形成される細孔内の溶液によって形成される。正常なコンクリート構造物の細孔内溶液のpH(以後、コンクリートのpHと表記する。)は12以上あり、コンクリート構造物の内部の腐食環境は高アルカリ性環境であるため、コンクリート中の鋼材は不働態(腐食が進行しない状態を意味する)と呼ばれる状態にあり、鋼表面に形成される保護性に富む酸化皮膜(四酸化三鉄或いは三酸化二鉄を主成分とする皮膜で、不働態皮膜と呼ばれる)によって腐食の進行が防がれている。したがって、健全なコンクリート構造物においては、コンクリート中に埋設された鋼材に腐食はほとんど発生せず、上記のような問題を引き起こすことは無い。
【0004】
しかしながら、このような高アルカリ性環境においても、過剰な塩化物イオンが含まれていると、鋼材の腐食が発生するようになる。例えば、コンクリートの細骨材として塩分を含む海砂を使用した場合にコンクリート中の鋼材に腐食が起こり得る。したがって、日本工業規格や日本建築学会或いは土木学会などでは、コンクリートに使用する砂に関して塩化物含有量を規制しているが、このような規制が充分に守られないことも多く、鋼材の腐食が進行してコンクリートが早期に劣化することが重大な問題を引き起こしている。
【0005】
一方、塩化物含有量が低い砂を用いた場合でも、海岸地域におけるコンクリート構造物においては、飛来する海塩粒子によってコンクリート中の塩化物含有量が増加することにより鋼材の腐食が発生し、コンクリートの早期劣化を引き起こす原因となっている。また、近年ではスパイクタイヤの使用禁止に伴う道路の凍結防止剤として多量に用いられる岩塩や塩化カルシウム、塩化マグネシウムなども飛来塩分の発生源となっている。
【0006】
さらに、コンクリート中の鋼材の腐食に対しては、塩化物イオン濃度だけでなく、コンクリートのpHの影響も極めて大きい。すなわち、外部から炭酸ガス、硫酸ガス、亜硫酸ガスなどの酸性物質や酸性雨などがコンクリート構造物に進入してくるとコンクリートのpHが低下し、いわゆるコンクリートの中性化が起こる。例えば、中性化によるコンクリートの劣化が認められるコンクリート構造物の例では、コンクリートのpHが9〜10になる。コンクリートのpHが約11以下になると鋼材の不働態が維持できなくなる。不働態が維持されなくなると鋼材の腐食が急速に進行してコンクリートを劣化させる原因となる。
【0007】
鋼材の腐食に起因する上記のようなコンクリートの劣化に対する対策の一つとして、鋼材の腐食を防止するコンクリート用防錆剤の開発が行なわれてきた。例えば、亜硝酸ナトリウムや亜硝酸リチウムなどの亜硝酸塩を主成分とする防錆剤(腐食防食協会編の防食技術便覧)、或いはこの防錆剤をセメントに予め混合した防錆セメントなども既に市販されている。亜硝酸塩を主成分とする防錆剤は、コンクリートの塩化物イオン濃度が上昇しても鋼材の不働態を維持する作用によって鋼材の腐食を防止するが、鋼材表面への吸着作用によって防錆効果を発揮する防錆剤も開発されている。すなわち、ホスホン酸塩、アミン塩などの有機物や有機金属塩などを主成分とする防錆剤(特許文献1、2、3)がある。
【0008】
さらには、鋼材表面に沈殿皮膜を形成することにより防錆効果を発揮するりん酸塩や有機系キレート剤などが主成分である防錆剤(特許文献4)も開発されている。これらのコンクリート用防錆剤は、新規コンクリート構造物の建設時にコンクリート中に混合して使用されるか、あるいは、コンクリート構造物を補修する際に、コンクリートまたはモルタルに混合して使用される。
【0009】
従来使用されてきたこれらのコンクリート用防錆剤は、コンクリート内部の腐食環境が高アルカリ性環境であることを前提として塩化物イオン濃度の影響のみを考慮しているため、コンクリートの中性化が起こった場合においては防錆効果を有しないという問題がある。したがって、従来のコンクリート用防錆剤は、コンクリート構造物の立地条件などによりその防錆効果が影響され、防錆効果の再現性に欠けると共に多くの場合防錆効果は不十分であった。
【0010】
また、市販されている代表的なコンクリート用防錆剤である亜硝酸塩系の防錆剤については、その主成分である亜硝酸塩に発癌性があることが明らかになっている。
【0011】
特開2002−12458号広報には、コンクリートの塩害とコンクリートの中性化の何れに対しても防錆効果を有するコンクリート用防錆剤の発明が開示され(特許文献5)、その特徴としてタングステン酸あるいはモリブデン酸を含むことが挙げられている。しかしながら、この防錆剤は主成分としてタングステン酸やモリブデン酸を含有する為、その製造原価が高額になることから、未だ、実用に供されていないという問題がある。
【特許文献1】特開平06−115992号広報
【特許文献2】特開平09−071446号広報
【特許文献3】特開平11−236257号広報
【特許文献4】特開平9−227186号広報
【特許文献5】特開2002−12458号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、コンクリート構造物中の鋼材の腐食に対して、塩化物イオンの存在下、あるいは塩化物イオンが存在する条件下でpHが低下してコンクリートが中性化した状況においても、防錆効果を有し、かつ発癌性などの環境問題を起こさない、コンクリート構造物中の鋼材用の防錆剤、該防錆剤を含有するコンクリートまたはモルタル組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、これまで、塩化物イオンが存在する条件下で、アルカリ性から中性領域までの幅広いコンクリート模擬環境下において、鉄の腐食を抑制する腐食抑制剤を麦焼酎蒸留廃液から開発する研究を鋭意重ねた結果、麦焼酎蒸留廃液を固液分離した溶液を蒸留して得られる、107〜110℃の沸点を有する蒸留残留液や、麦焼酎蒸留廃液を固液分離した溶液を蒸留して得られる、107〜110℃の沸点を有する蒸留残留液にアルコールを加えた時に析出する成分は、高濃度の塩化物イオンが存在する条件下で、高アルカリ性領域から弱酸性領域まで、鉄の腐食に対して極めて高い腐食抑制効果を維持できることを見出し、これらの知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0014】
すなわち、焼酎蒸留廃液が鉄の腐食を抑制する作用を有することは既に見出され、特開2001−49253号広報に示されている。その中で、固液分離した芋焼酎蒸留廃液の溶液中に10日間静置した鉄に全く腐食が認めれれなかったことが示されている。さらに、麦焼酎蒸留廃液、米焼酎蒸留廃液およびソバ焼酎蒸留廃液などにおいても、同様の結果が得られたと示されている。
【0015】
しかしながら、芋焼酎蒸留廃液中で鉄の腐食に関して追試を行うと、芋焼酎蒸留廃液中で鉄は明らかに腐食し、その腐食量は、水道水中の腐食量の6割以上であるが、腐食試験に使った芋焼酎蒸留廃液は変色せず、赤錆が焼酎蒸留廃液中に析出することもなかった。同時に、鉄試験片にも錆が堆積することもなく、あたかも鉄は腐食していないように見えた。しかし、重量測定において鉄試料は重量が減少していることが認められ、腐食が発生していた。
【0016】
一方、特開2001−49253号広報において、芋焼酎蒸留廃液中で鉄が腐食しなかった証拠のデータとして腐食試験後の芋焼酎蒸留廃液と鉄試料の写真が示され、芋焼酎蒸留廃液は変色しておらず、また鉄に錆が付着していないことが、腐食が発生していない証拠とされている。したがって、重量測定ではなく、目視観察で腐食発生の有無を判断した為、腐食の発生を見落としたものと考えられる。すなわち、芋焼酎蒸留廃液のpHが3.6程度に低いことから、腐食により僅かに溶け出た鉄イオンは芋焼酎蒸留廃液中にイオンとしてそのまま存在し、錆として液中や鉄試料表面に析出しなかったと考えられる。その結果、芋焼酎蒸留廃液中で鉄は腐食しなかったと誤って判断されたと考えられる。また、麦焼酎蒸留廃液、米焼酎蒸留廃液およびソバ焼酎蒸留廃液のいずれにおいても、焼酎蒸留廃液の種類が異なると腐食量は異なる値となったが、いずれの焼酎蒸留廃液においても鉄試料に腐食が発生した。しかし、それら焼酎蒸留廃液のpHは3.5〜4.5と低いにもかかわらず、いずれの焼酎蒸留廃液においても、鉄の腐食速度は水道水中の腐食速度より小さな値となった。このようなことから、焼酎蒸留廃液は、その種類によって含有成分やその濃度は異なると考えられるが、pHを低下させて鉄の腐食を促進する成分と、鉄の腐食を抑制する成分を併せ持つと考えられれる。
【0017】
そこで、焼酎蒸留廃液中の腐食抑制効果を最大限引き出す方法を研究する一環として、麦焼酎蒸留廃液の腐食特性について詳しく研究した結果、次のようなことが明らかになった。すなわち、食塩含有コンクリート模擬水溶液である3%食塩含有水酸化カルシウム飽和水溶液に、固形物を除去した麦焼酎蒸留廃液(固液分離した焼酎蒸留廃液の溶液部分)を15ml/L添加することにより、鉄の腐食が60%程度抑制された。しかしながら、3%食塩含有水酸化カルシウム飽和水溶液に麦焼酎蒸留廃液を添加することにより、水溶液のpHは低下した。
【0018】
そこで、固形物を除去した麦焼酎蒸留廃液からpHを低下させる成分を減少させる方法について検討した結果、大気圧下で蒸留することにより、麦焼酎蒸留廃液からpH低下の原因物質が減少することを見出した。
【0019】
すなわち、麦焼酎蒸留廃液を大気圧下で蒸留し、その沸点が106〜110℃になった蒸留残留液(以後、麦濃縮廃液と呼ぶ)は、蒸留以前と比較し、pHが上昇した。また、この麦濃縮廃液を3%食塩含有水酸化カルシウム飽和水溶液に添加した場合、水溶液のpHの低下が低減されると同時に、鉄の腐食抑制効果が増大した。この腐食抑制効果の増大は、蒸留により、pHを低下させると同時に腐食促進効果を有する成分が低減する一方で、腐食抑制作用を有する成分の減少は抑えられたことによりもたらされたものと考えられる。
【0020】
さらに、麦濃縮廃液に10倍容量のエチルアルコールを加えた時に、エチルアルコールに不溶性あるいは難溶性の成分は固形物として析出する。この析出した固形物(以後、アルコール不溶麦廃液成分と呼ぶ)もまた鉄の腐食抑制作用を有することを見出した。
【0021】
これら、麦濃縮廃液とアルコール不溶麦廃液成分は、アルカリ成分を加えて、その水溶液のpHを12以上にに高めても、鉄の腐食抑制効果は変わらない。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、コンクリート構造物中における鋼材の腐食に対して、塩化物イオンが存在しても、また、塩化物イオンが存在する条件下でコンクリートのpHが低下して中性化した状況においても、十分な防錆効果を有し、かつ人的被害の問題がないコンクリート構造物中の鋼材の防錆剤、該防錆剤を含有するコンクリートまたはモルタル組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明のコンクリート構造物中の鋼材用防錆剤は、鋼材表面に吸着して鋼材の腐食を抑制する。同時に、詳細は明らかではないが、鋼材表面において鉄との化合物を形成して、これが防食性皮膜として機能する。これらの効果により、鋼材の腐食が抑制される。
【0024】
したがって、本発明の防錆剤は、水溶液の状態でそのままコンクリートまたはモルタル混練時に使用してもよい。また、コンクリートまたはモルタル中に埋め込む鋼材の表面に本発明の防錆剤を付着または塗布させてもよい。
【0025】
なお、本発明は、鉄筋コンクリート構造物の新設時だけでなく、劣化した鉄筋コンクリート構造物の補修においても有効である。すなわち、劣化したコンクリート部分を取り除き、その部分をコンクリートまたはモルタルで埋め戻す際に、鋼材の錆落としをした後に、本発明の防錆剤または該防錆剤を含有する水溶液を鋼材表面に付着又は塗布する等の方法で鋼材を防錆するようにしてもよい。また、既設のコンクリート表面に本発明の防錆剤を含む水溶液を塗布してコンクリート中に含浸させてもよい。さらに、本発明のコンクリートまたはモルタル組成物を既設のコンクリート構造物の表面に塗布して防錆剤の浸透によりコンクリート構造物中の鋼材を防錆するようにしてもよい。
【0026】
本発明の防錆剤をコンクリートまたはモルタルの組成物に混合させる時は、麦濃縮廃液の場合の使用量は、コンクリートまたはモルタル混練時に使用される水に対して5ml/L〜50ml/Lが望ましい。特に、15ml/L〜20ml/Lがより望ましい。15ml/Lより少ない場合は中性化した場合に十分な防錆効果を発揮できず、20ml/Lより大きいと防錆効果に差がないため、防錆剤の無駄が多くなる。
【0027】
また、アルコール不溶麦廃液成分の場合の使用量は、コンクリートまたはモルタル混練時に使用される水に対して3g/L〜30g/Lが望ましい。特に、5g/L〜10g/Lがより望ましい。5g/Lより少ない場合は中性化した場合に十分な防錆効果を発揮できず、10g/Lより大きいと防錆効果に差がないため、防錆剤の無駄が多くなる。
【実施例1】
【0028】
実施例において使用する麦焼酎蒸留廃液に関しては、以下のものを使用した。すなわち、麦焼酎の製造工程における原酒蒸留の際に排出される蒸留廃液を麦焼酎蒸留廃液とする。この麦焼酎蒸留廃液をろ過により固液分離した溶液を、麦焼酎蒸留廃液を固液分離した溶液とする。麦焼酎蒸留廃液を固液分離した溶液を大気圧下で蒸留し、107〜110℃の沸点を有する蒸留残留液を、麦濃縮廃液とする。また、麦濃縮廃液にその10倍容量のエチルアルコールを加えた時に析出する固形物を、アルコール不溶麦廃液成分とする。なお、この場合の麦焼酎は、佐賀県久保田町の窓乃梅酒造(株)製造のものである。
【0029】
水酸化カルシウム飽和の水溶液を、コンクリート模擬環境として使用した。すなわち、腐食液には、20ml/L濃度に麦濃縮廃液を含有させた、3.3%食塩含有の水酸化カルシウム飽和水溶液を使用した。また、腐食液は水酸化ナトリウムを用いてpHは12.5に調製した。腐食試験容器は300ml用のビーカーを用い、腐食液は300ml使用した。鉄試験片には、幅2cm、長さ5cm、厚み1mmの軟鋼の鉄板を用いた。鉄試験片はサンドペーパーで研磨後、水洗、アセトン洗浄の後、腐食試験に供した。
【0030】
(比較例1)麦濃縮廃液を含有していない実施例1に準じた腐食液を使用し、鉄試験片や試験容器など、他の試験条件は実施例1と同様であった。
【0031】
鉄試験片を腐食液に浸漬し、大気開放下、30℃の一定温度で7日間の腐食試験を行なった。
【0032】
この腐食試験において、実施例1での腐食速度は0.3mg/day・dm2であるのに対して、比較例1では、8mg/day・dm2の腐食速度であった。
【0033】
以上の結果、塩分含有の高アルカリ性腐食環境において、麦濃縮廃液は鉄の腐食速度を著しく抑制することが確認された。
【実施例2】
【0034】
腐食液には、20ml/L濃度に麦濃縮廃液を含有させた、3.3%食塩含有の水酸化カルシウム飽和水溶液を使用した。腐食液のpHは9であった。腐食試験容器、腐食液量及び鉄試験片に関しては、実施例1と同様にして、腐食試験を行なった。
【0035】
(比較例2)麦濃縮廃液を含有しない、実施例2に準じた腐食液を使用した。腐食液のpHは硫酸を用いて9に調整した。その他の試験条件は実施例2に準じて腐食試験を行なった。
【0036】
この腐食試験において、実施例2における鉄試験片の腐食速度は1.5mg/day・dm2であったのに対して、比較例2における腐食速度は20mg/day・dm2であった。
【0037】
以上の結果、実施例2における、中性に近いpH9の塩分含有腐食環境においても、麦濃縮廃液は鉄の腐食を著しく抑制することが確認できた。
【実施例3】
【0038】
腐食液には、5g/L濃度にアルコール不溶麦廃液成分を含有させた、3.3%食塩含有の水酸化カルシウム飽和水溶液を使用した。また、腐食液は水酸化ナトリウムを用いてpHは12.5に調製した。鉄試験片や腐食液量、その他の条件は実施例1と同様にして、腐食試験を行なった。
【0039】
(比較例3)腐食液には、アルコール不溶麦廃液成分を含有しない、3.3%食塩含有の水酸化カルシウム飽和水溶液を使用した。その他の試験条件は実施例3と同様にして腐食試験を行なった。
【0040】
この腐食試験において、実施例3において、鉄試験片の腐食速度は1.6mg/day・dm2であったのに対して、比較例3における腐食速度は、8mg/day・dm2であった。
【0041】
以上の結果、実施例3において、アルコール不溶麦廃液成分も又、塩分含有高アルカリ性腐食環境において、鉄の腐食速度を著しく抑制することを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
人的被害の問題を起こすことなく、塩化物イオンを含有するコンクリート構造物中の鋼材の腐食を抑制し、また、塩化物イオンを含有する中性化したコンクリート構造物中の鋼材の腐食を抑制する目的で本発明の防錆剤を利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦焼酎蒸留廃液を固液分離した溶液を蒸留して得られる、107〜110℃の沸点を有する蒸留残留液を主成分とすることを特徴とする、コンクリート構造物中の鋼材の防錆剤。
【請求項2】
麦焼酎蒸留廃液を固液分離した溶液を蒸留して得られる、107〜110℃の沸点を有する蒸留残留液にアルコールを加えた時に析出する成分を主体とすることを特徴とする、コンクリート構造物中の鋼材の防錆剤。
【請求項3】
アルカリ分を添加してpHを12以上の溶液としたことを特徴とする、請求項1記載の、コンクリート構造物中の鋼材の防錆剤。
【請求項4】
請求項1、2あるいは3記載の防錆剤のうち、ひとつ以上の防錆剤を含有することを特徴とするコンクリートまたはモルタル組成物。

【公開番号】特開2006−257516(P2006−257516A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−78297(P2005−78297)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(305007333)
【出願人】(303006754)有限会社腐食防食技術研究所 (1)
【出願人】(304057069)
【出願人】(305000378)
【Fターム(参考)】