説明

コンクリート構造物用浸透性防錆剤、およびコンクリート構造物内部の鋼材を防錆する方法

【課題】
既設コンクリート構造物内部の鋼材の錆による劣化を抑制するためにコンクリート表面に塗布されて用いられる浸透性防錆剤であって、防錆に有効な成分をコンクリート内部の鉄筋等の鋼材の配設位置まで十分に浸透させることが可能であるコンクリート構造物用浸透性防錆剤を提供する。
【解決手段】
コンクリート構造物用浸透性防錆剤は、2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオール、エーテル型ノニオン界面活性剤、亜硝酸塩、水とからなることを特徴とし、好ましくはpHが9以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、年月の経過に伴い既設コンクリート構造物中に配設される鉄筋などの鋼材に錆が生じてコンクリート構造物が劣化すること(経年劣化)を抑制して、コンクリート構造物の耐久性を向上させるために用いられる防錆剤であって、既設コンクリート構造物の外壁をなすコンクリート面に塗布されてコンクリート構造物内部に配置された鉄筋等の鋼材の位置まで浸透させるコンクリート構造物用浸透性防錆剤、および、その防錆剤を用いたコンクリート構造物内部の鋼材を防錆する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内部に鋼材が埋め込まれている鉄筋コンクリート等のコンクリート構造物は、経年劣化してその構造物全体の強度が低下する。経年劣化は、具体的には、コンクリートの中性化をはじめ、鉄筋等に対するコンクリートの被り厚さの不足やコンクリートのひび割れ等を契機として水分や塩分等がコンクリート構造物内部まで容易に浸入し、コンクリート構造物内部の鉄筋や鉄骨等の鋼材に錆を発生させることで生じる。鋼材に錆が発生して鋼材の腐食が起こると、見かけ上鋼材の体積が膨張し、鋼材周囲のコンクリートに膨張圧が加わり、コンクリート構造物内部からコンクリートのひび割れが増大する。そして、経年劣化が更に進行するにつれ、コンクリート構造物全体の強度低下が一層進行し、やがてコンクリート構造物自体が破壊されるに至る。そこで、既設コンクリート構造物の鋼材に錆による腐食が生じた場合にはその補修を施し、さらには鋼材に錆ができるだけ発生しないように防錆処理を施すことが重要となる。
【0003】
従来、既設コンクリート構造物の補修及び鉄筋の防錆処理方法としては、コンクリート構造物の表面に亜硝酸塩水溶液や珪酸塩水溶液を塗布し、これらの水溶液の成分たる亜硝酸塩や珪酸塩をコンクリート構造物内部に浸透させることで、経年劣化を抑制する方法が公知となっている。この防錆処理方法は、コンクリート構造物の外壁をなすコンクリート面に亜硝酸塩水溶液(亜硝酸カルシウム水溶液又は亜硝酸リチウム水溶液)を塗布してコンクリート中に亜硝酸イオンを浸透拡散させ、コンクリート内部の鉄筋等に不動態皮膜を形成させて鋼材に水分や塩分等の接触を抑えて鋼材を防錆環境下におくことにより、錆による既設コンクリート構造物の劣化を抑える方法である(特許文献1,2,3)。
【0004】
また、このような防錆処理方法に用いられる防錆剤として、亜硝酸塩水溶液に界面活性剤等を配合したものが提案されている。例えば特許文献4には、ポリオキシエチレンアルキルのようなノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤たるスルホコハク酸ジオクチルナトリウム、及びグリセリンを配合した防錆剤が開示されている。また、特許文献5には、アルカンスルホン酸塩、スルホコハク酸ジアルキル塩及び/又はポリオキシエチレンアルキルエーテルを配合した防錆剤が開示されている。これらは、いずれもコンクリート構造物内部へ亜硝酸イオンを浸透させて防錆効果を得ようとする、所謂、浸透性防錆剤であり、界面活性剤の配合によりコンクリート構造物内部に亜硝酸浸透性をより向上させようとするコンクリート構造物用浸透性防錆剤である。
【0005】
【特許文献1】特開昭60−108385号公報
【特許文献2】特開昭60−231478号公報
【特許文献3】特開平1−298185号公報
【特許文献4】特開2002−371388号公報
【特許文献5】特開2005−76038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コンクリート構造物の表面に亜硝酸塩水溶液や珪酸塩水溶液を塗布して既設コンクリート構造物内部の鋼材に防錆処理を施す従来の方法では、亜硝酸塩や珪酸塩などといった防錆効果を発揮する成分がコンクリート構造物内部までその量、深さともに十分には浸透せず、亜硝酸塩水溶液や珪酸塩水溶液をさらに重ねて塗布しても、それらの成分の浸透量、浸透深さ共に不十分であった。
【0007】
例えば鉄筋コンクリート構造物に埋設される鉄筋は、建築構造物の場合、表面からの深さ(かぶり厚さ)が約30mmの位置に配置され、土木構造物の場合にはかぶり厚さが30〜60mmというのが通常である。そして、このようなコンクリート構造物内部における鉄筋の位置にまでは、従来用いられる亜硝酸塩水溶液や珪酸塩水溶液では、亜硝酸イオンを十分に浸透させることができなかった。
【0008】
特許文献4に記載された浸透性防錆剤は水溶液にて使用されるが、その水溶液は、pH9.0未満の弱アルカリ性や酸性の状態にあると亜硝酸塩の化学分解が起りやすいので、アルカリ性(pH9.0〜12.5)にて使用される必要がある。この点、この浸透性防錆剤に配合されているアニオン界面活性剤としてのスルホコハク酸ジオクチルナトリウムのエステル結合部はアルカリ性下で加水分解してしまうため、その界面活性剤としての機能が徐々に喪失してしまう。そのため、この浸透性防錆剤は、亜硝酸イオンをコンクリート内部に効率よく浸透させるという界面活性剤としての機能を安定的に発揮できるものではなく、コンクリート構造物内部の鋼材の配設位置まで亜硝酸イオンを十分に浸透させることができなかった。
【0009】
特許文献5に記載の浸透性防錆剤についても、上記した特許文献4に記載の浸透性防錆剤と同様に、配合される界面活性剤たるジアルキルスルホコハク酸塩のエステル結合部がアルカリ加水分解し、界面活性剤としての機能を徐々に喪失してしまうという問題があった。
【0010】
しかも、特許文献5に記載された浸透性防錆剤では、この浸透性防錆剤の必須成分をなすアニオン界面活性剤としてのアルカンスルホン酸塩が亜硝酸塩を高濃度に含む電解質水溶液に対して所定量加えられても、亜硝酸塩の高濃度水溶液とアルカンスルホン酸塩とは相溶性に乏しいため、アルカンスルホン酸塩は亜硝酸塩水溶液に殆ど溶解せず水溶液中に懸濁した状態となってしまう。特に、亜硝酸塩の高濃度水溶液、例えば亜硝酸カルシウム15〜20質量%水溶液に、アルカンスルホン酸ナトリウムが配合される場合には、アルカンスルホン酸ナトリウムが水溶液中でナトリウムイオンとカルシウムイオンとのイオン交換により水に難溶な物質(アルカンスルホン酸カルシウム)になってしまい、アルカンスルホン酸塩を界面活性剤として機能させること自体できなくなってしまう。すると、この浸透性防錆剤をコンクリート表面に塗布しても、水に溶けなかったアルカンスルホン酸カルシウムがコンクリート表層に沈積し、界面活性剤としての機能が発揮されないだけでなく、亜硝酸イオンのコンクリート構造物内部への浸透が妨げられる問題もあった。こうしたことから、この浸透性防錆剤では、コンクリート構造物内部への亜硝酸イオンの十分な浸透性が得られなかった。
【0011】
また、ポリオキシエチレンアルキルエーテル型のノニオン界面活性剤とアニオン界面活性剤を併用配合して浸透性防錆剤を構成せずに、ポリオキシエチレンアルキルエーテル型のノニオン界面活性剤を単独で配合で浸透性防錆剤を構成して、そのノニオン界面活性剤の配合率を増加させて浸透性防錆剤を構成することも考えられるが、そのように構成したところで、亜硝酸イオンのコンクリート構造物内部への浸透性には限界があり、十分な浸透性を得ることができなかった。それどころか、浸透性防錆剤におけるノニオン界面活性剤の配合率を増加させたことより、浸透性防錆剤をコンクリート壁面に対して刷毛又はローラーで塗布する際に激しく泡立ち、コンクリート壁面への濡れ性が悪化して亜硝酸イオンの浸透性に悪影響を及ぼすという問題が生じてしまう。
【0012】
本発明は、既設コンクリート構造物の表面に塗布されてコンクリートの経年劣化を防止する防錆処理を施す際に有効に用いられる浸透性防錆剤であって、浸透性防錆剤に含まれる防錆成分をコンクリート構造物内部の鉄筋などの鋼材の配設位置まで十分に浸透させることが可能であり、コンクリート構造物内部の鋼材の防錆処理を効果的に施すことができるコンクリート構造物用浸透性防錆剤を提供するとともに、コンクリート構造物内部の鋼材を防錆する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、(1)2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールと、エーテル型ノニオン界面活性剤と、亜硝酸塩と、水とからなることを特徴とするコンクリート構造物用浸透性防錆剤、(2)2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールとエーテル型ノニオン界面活性剤が、亜硝酸塩を水に溶かしてなる亜硝酸塩溶液に配合されてなることを特徴とする上記(1)に記載のコンクリート構造物用浸透性防錆剤、(3)2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールが0.005〜2質量%、エーテル型ノニオン界面活性剤が0.05〜5質量%、亜硝酸塩が1〜40質量%含まれていることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のコンクリート構造物用浸透性防錆剤、(4)エーテル型ノニオン界面活性剤が第2級高級アルコールエトキシレートであることを特徴とする上記(1)から(3)のいずれかに記載のコンクリート構造物用浸透性防錆剤、(5)亜硝酸塩が亜硝酸カルシウム又は亜硝酸リチウムであり、且つ、pHが9以上であることを特徴とする上記(1)から(4)のいずれかに記載のコンクリート構造物用浸透性防錆剤、(6)内部に鋼材を埋設したコンクリート構造物の表面に対して、上記(1)から(5)のいずれかに記載のコンクリート構造物用浸透性防錆剤を塗布した後、該コンクリート構造物の表面に珪酸塩水溶液を塗布する、ことを特徴とするコンクリート構造物内部の鋼材を防錆する方法、を要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のコンクリート構造物用浸透性防錆剤(浸透性防錆剤)は、亜硝酸塩と水のほか、2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールとエーテル型ノニオン界面活性剤とを併用してなることにより、このコンクリート用浸透性防錆剤を既設コンクリート構造物の表面に塗布する場合、防錆成分をなす亜硝酸イオンのコンクリート構造物内部へ浸透拡散性に優れたものとなるとともに、コンクリート構造物内部への亜硝酸イオンの浸透深度も大幅に向上したものとなり、コンクリート構造物中の鉄筋(かぶり厚さが30mm前後)の位置まで十分に亜硝酸イオンを浸透拡散させることができるという効果を奏する。
【0015】
また、この浸透性防錆剤によれば、亜硝酸塩をあらかじめ水に添加して亜硝酸水溶液となした後に2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールとエーテル型ノニオン界面活性剤を添加することにより、2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールとエーテル型ノニオン界面活性剤を水に添加した後に亜硝酸塩を配合する場合に比べ、2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールとエーテル型ノニオン界面活性剤の添加を効率化することができ、亜硝酸塩を水に効率的に溶解させることができる。
【0016】
また、本発明の浸透性防錆剤は、従来の浸透性防錆剤に比べてコンクリート表面に対する濡れ性が非常に優れているので、コンクリート構造物内部への亜硝酸イオンの浸透拡散速度にも優れており、既設コンクリート構造物の壁面(縦面)又は天井面に塗布施工する場合、この浸透性防錆剤が流れ落ちてしまう虞を抑制できる。
【0017】
本発明において、2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールはノニオン界面活性剤として用いることができるものであり、この界面活性剤とエーテル型ノニオン界面活性剤とを併用することで、亜硝酸イオンのコンクリート構造物内部への浸透拡散性向上効果を得ることができる。
【0018】
2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールは、本来、水に難溶であり、これ単独では、十分な量を水中に安定的に溶解及び/又は乳化配合されるものではないので、浸透性防錆剤における亜硝酸イオンのコンクリート内部への浸透性を向上させにくい。本発明の浸透性防錆剤では、エーテル型ノニオン界面活性剤が併用されており、十分な量の2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールを、水に安定的に可溶化及び/又は乳化配合させることができるので、浸透性防錆剤における亜硝酸イオンの浸透性を著しく向上させることができる。しかも、2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールが消泡性を向上させることができるので、浸透性防錆剤にエーテル型ノニオン界面活性剤が添加されていることに伴う起泡性の上昇の虞を著しく低減することができ、2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールを用いることはコンクリート表面に対する防錆処理の実施上からも好ましい。
【0019】
このように、本発明の浸透性防錆剤によれば、2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールとエーテル型ノニオン界面活性剤とを併用することにより、それぞれの化合物を別個独立して用いる場合には想到しえないような独自の効果を奏し、相乗効果を奏する。
【0020】
また、本発明の浸透性防錆剤によれば、亜硝酸塩の濃度を10〜40質量%という高濃度にしても、界面活性剤による亜硝酸イオンの浸透性向上機能を保持することができる。
【0021】
本発明によれば、既設コンクリート構造物の表面に、本発明のコンクリート用浸透性防錆剤を塗布するだけの簡単な施工で、この浸透性防錆剤中の亜硝酸イオンをコンクリート内部に位置する鉄筋部まで十分に浸透させることができるから、コンクリート構造物の防錆を長期に渡り維持し、経年劣化を遅らせることができる。すなわち、本発明によれは、コンクリート構造物の耐久性を効果的に改善し、コンクリート構造物を長期に亘り保全することができるようになる。
【0022】
上記したようなノニオン界面活性剤とアニオン界面活性剤とを併用配合した公知の浸透性防錆剤では、コンクリート表面に塗布した際に、浸透性の問題のほか、泡立ちが多く、濡れ性(本明細書において、濡れ性は、濡れ、広がり、湿潤、浸透を総称する概念であるものとする。)に欠ける問題点があった。この点、泡立ちを少なくして濡れ性を向上させるべく、シリコーン系消泡剤等の消泡剤を浸透性防錆剤に加えることが考えられる。しかしながら、その場合には、泡立ちが減少するかわりにハジキ現象が発生して結局濡れ性が悪化してしまうことがある。そればかりか、コンクリート表面に浸透性防錆剤を塗布した後にさらにセメントモルタル施工又はペイント塗装を施そうとしても、これらセメントモルタル等がコンクリート構造物にうまく接着しなくなってしまう等といった問題すら引き起こしてしまうことがある。本発明によれば、こうした問題を引き起こすことなく、濡れ性に優れた浸透性防錆剤を得ることができる。
【0023】
本発明において、エーテル型ノニオン界面活性剤は亜硝酸塩水溶液への溶解性が良好であるとともにアルカリ性水溶液中でもより安定的に存在できるため、コンクリート構造物中に通常含まれるアルカリ成分や、塩類による影響を抑えつつ、コンクリート構造物への亜硝酸イオンの浸透性に一層優れたコンクリート用浸透性防錆剤を得ることができる。また、エーテル型ノニオン界面活性剤は、通常、水溶液に対する表面張力低下能が大きく、更に疎水性の強い界面活性剤を水溶液に可溶化及び/又は乳化する能力も大きいので、疎水性が大きく水に難溶な界面活性剤との併用に好都合である。
【0024】
本発明において、エーテル型ノニオン界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルのなかでも第2級高級アルコールエトキシレートが用いられることで、エーテル型ノニオン界面活性剤として第1級高級アルコールエトキシレートが用いられる場合よりもコンクリート構造物への亜硝酸イオンの浸透性に優れたコンクリート用浸透性防錆剤を得ることができる。
【0025】
本発明において、コンクリート用浸透性防錆剤のpHを9以上とすることにより、コンクリート構造物内部の鋼材の周辺におけるpHが高い状態下、すなわちアルカリ雰囲気下、にすることが容易となり、鋼材に錆が発生することや錆によって鋼材の腐食が進行することを抑制することが容易になる。また、コンクリート用浸透性防錆剤をアルカリ性にすることで亜硝酸イオンを安定化することができる。
【0026】
本発明のコンクリート構造物用浸透性防錆剤は、内部に鋼材を配設したコンクリート構造物の表面に対して塗布されることで、コンクリート構造物内部の鋼材を防錆する方法に用いることができる。
【0027】
なおコンクリート構造物内部の鋼材を防錆する方法は、内部に鋼材を配設したコンクリート構造物の表面に対して、本発明のコンクリート構造物用浸透性防錆剤を塗布するのみならず、該コンクリート構造物の表面に珪酸塩水溶液を塗布することが併用されて実施されてもよい。
【0028】
また、コンクリート構造物内部の鋼材を防錆する方法においては、内部に鋼材を配設したコンクリート構造物の表面に対して、本発明のコンクリート構造物用浸透性防錆剤を塗布した後、該コンクリート構造物の表面に珪酸塩水溶液を塗布することが好ましい。本発明のコンクリート構造物用浸透性防錆剤を塗布した後に珪酸塩水溶液を塗布することで、コンクリート構造物外部から内部へ塩類が新たにに侵入することを抑制する効果のみならずコンクリート構造物内部に浸透した亜硝酸イオンが再びコンクリート構造物表面へと流出してしまうことを抑制する効果を奏し、コンクリート構造物の耐久性が効果的に改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明のコンクリート構造物用浸透性防錆剤は、2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールとエーテル型ノニオン界面活性剤と亜硝酸塩と水とからなる。
【0030】
2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールは、その分子構造中に三重結合を備えるノニオン界面活性剤であり、より具体的には下記(化1)で表されるアセチレングリコール系化合物である。
【0031】
【化1】

【0032】
2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールは、濡れ性、消泡性、金属(鉄筋)への配向性を兼ね備える化合物、すなわち添加される対象となる液体の濡れ性を向上させる機能と消泡性を向上させる機能を兼ね備えた化合物であり市場で入手可能なものである。
【0033】
ここで、液体の濡れ性を向上させるには、その液体の表面張力を低減させることが重要であり、表面張力測定が濡れ性の指標となるが、本発明のような浸透性防錆剤については、コンクリート構造物のコンクリート表面に対してローラーや刷毛を用いて浸透性防錆剤をなす液体が塗布されて用いられるのが通常であることから、静置された(静的)状態における液体の表面張力のみならず、液体と空気との界面が速い速度で次々に出来上がってくる(動的)状態(すなわちコンクリート壁面又は天井面へ刷毛又はローラーで塗布する場合に新しい界面が次々と形成されていく状態)における液体の表面張力を測定することが重要となる。そして、この動的状態における液体の表面張力(動的表面張力)が小さい値で抑えられると、界面が素早く形成されてもハジキ等の表面欠陥が起きにくくなる。
【0034】
動的表面張力については、動的表面張力の測定対象となる液体中に気泡を所定の発生速度(発生周期)にて発生させ、その液体から気泡にかかる圧力を計測することで動的表面張力測定する方法(最大泡圧法)を用いることで具体的に測定することができる。最大泡圧法の測定は、市販の動的表面張力計を測定装置として適宜用いることができ、例えば、ポータブル動的表面張力計シータ(英弘精機(株)製)などを具体的に挙げることができる。
【0035】
本発明に用いられる2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールは、上記したような動的表面張力を低減させる効果に優れる。このことは、最大泡圧法にて2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールの動的表面張力を測定することで表1のように具体的に示すことができる。
【0036】
(表1)

注)表中、気泡周波数は、単位時間当たり発生させた泡の数を示す。また、静的状態の液体における表面張力は気泡周波数が1Hzである場合の表面張力で評価され、動的状態の液体における表面張力(動的表面張力)は気泡周波数が6Hzである場合の表面張力で評価される。
【0037】
なお、表1において、2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールについての試料液としては、2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオール(HLB3.5)の0.1質量%水溶液が用いられ、市販エーテル型ノニオン活性剤についての試料液としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(HLB 13.5)の0.1質量%水溶液が用いられた。
【0038】
表1によれば、水の動的表面張力は、市販エーテル型ノニオン活性剤が水に配合される場合よりも、2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールが水に配合される場合のほうが、一層小さな値となることが確認される。
【0039】
本発明の浸透性防錆剤には2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールとノニオン界面活性剤(2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールを除く)が併用されている。界面活性剤の中でもノニオン界面活性剤を用いたのは、次の点による。まず、第1に浸透性防錆剤に添加される界面活性剤としては、幅広い亜硝酸塩濃度の亜硝酸塩水溶液に対して配合されて用いることができるものが選択されることが好ましい。すなわち、浸透性防錆剤に含まれる亜硝酸塩が15〜25質量%という高濃度で水に溶解された高濃度電解質水溶液であっても使用可能な界面活性剤であることが好ましい。第2に、亜硝酸塩水溶液は、通常pHが9.0〜12.0のアルカリ性水溶液で使用されるため、界面活性剤はアルカリ性水溶液中で安定であることが好ましい。第1の点である高濃度電解質水溶液に対する溶解性、及び、第2の点であるアルカリ性下での安定性の両方の点で良好なものとしてノニオン界面活性剤が好ましく選択される。
【0040】
さらにノニオン界面活性剤のなかでもエーテル型ノニオン界面活性剤であることが、更に水中での表面張力低下能が大で、泡立ちが過剰になる虞を抑えられる(中程度の起泡性)点で好適である。なお、エーテル型ノニオン界面活性剤は、コンクリート中のアルカリ成分、塩類、他イオンの影響も受け難くい点からも一層好適である。
【0041】
エーテル型ノニオン界面活性剤としては、具体的には、アルキルオキシ基含有ポリアルキレンオキサイド、アルケニルオキシ基含有ポリアルキレンオキサイド、アルキニルオキシ基含有ポリアルキレンオキサイドを挙げることができる、これらは1種類用いることができるほか、2種類以上を組み合わせて用いることができ、例えばアルキルオキシ基含有ポリアルキレンオキサイド及びアルケニルオキシ基含有ポリアルキレンオキサイドの組み合わせを挙げることができる。
【0042】
本発明に用いられるアルキルオキシ基含有ポリアルキレンオキサイドは、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテルや、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルなどといったポリオキシアルキレンアルキルエーテル、その他、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーなどといったエーテル型ノニオン界面活性剤を適宜使用可能であるが、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。また、アルケニルオキシ基含有ポリアルキレンオキサイドとしては、上記したようなアルキルオキシ基含有ポリアルキレンオキサイドのアルキル基に二重結合を導入してアルケニル基としたもの、例えばポリオキシエチレンオレイルエーテル等を挙げることができる。
【0043】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、その化学構造式が下記式1に表されるが、本発明においては、アルキル基(R)の炭素数が12〜14で、酸化エチレンの付加モル数(n)が7〜12のものが、常温で液体状で水に対する溶解性(及びミセル溶解性)が良好で(すなわち親水性に富み)亜硝酸塩水溶液に配合されやすく、水の表面張力低下能力に優れて湿潤浸透性も良好である点から好ましい。アルキル基(R)中においては、不飽和結合(二重結合)の有無を問われない。
【0044】
(化2)
RO−(CHCHO)−H (式1)
【0045】
本発明においてポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いる場合にあっては、下記式2に示すような第2級高級アルコールエトキシレートを用いることが好ましく、さらに、アルキル基(R、R)中の炭素数の合計が11〜13、酸化エチレンの付加モル数(n)が7〜12、HLB(Hydrophile−lipophile balance)(親水性・親油性バランス)が12〜15のものが好適である。第2級高級アルコールエトキシレートは、第1級高級アルコールエトキシレートと比べて、液体の浸透力を向上させる能力に優れ(表面張力を低下させる能力にも優れる)、流動点(℃)も低い点で好適である。
【0046】
【化3】

【0047】
本発明に用いられるアルキニルオキシ基含有ポリアルキレンオキサイドは、分子構造中に疎水基であるアセチレン基と、親水基であるポリアルキレンオキサイド基とを有する化合物である。アルキニルオキシ基含有ポリアルキレンオキサイドとしては、ポリオキシエチレンアセチレニックグリコールエーテル(アセチレン系ジオールのポリエトキシレート)で、エチレンオキサイド付加モル数が8〜12、HLBが12〜15のものを好適に用いることができ、具体的には、ポリオキシエチレン‐2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオール等が挙げられる。
【0048】
本発明の浸透性防錆剤に用いられる亜硝酸塩としては、亜硝酸カルシウム又は亜硝酸リチウムが好ましく用いられる。亜硝酸塩として亜硝酸ナトリウムも使用できるが、コンクリート表面に浸透性防錆剤を塗布した後、塗布面に白華現象が起きる虞が高まり、亜硝酸カルシウム又は亜硝酸リチウムを用いる場合と比較して実用上好ましくない。
【0049】
本発明に用いられる水は、本発明の効果を妨げない程度に鉱物イオンが混在している品質のものでも用いることは可能であるが、蒸留水、イオン交換水、純水さらには超純水などの品質のものであることが好ましい。
【0050】
本発明の浸透性防錆剤において、2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールの配合割合は0.005〜2質量%、好ましくは0.01〜1質量%であり、エーテル型ノニオン界面活性剤の配合割合は0.05〜5質量%、好ましくは0.1〜2質量%であり、亜硝酸塩の配合割合は、1〜40質量%、好ましくは10〜40質量%である。ただし、配合割合は浸透性防錆剤の全体量を100質量%とした場合における割合(質量%)を示す。2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールやエーテル型ノニオン界面活性剤や亜硝酸塩の配合割合が上記したそれぞれの配合割合の最小値に満たない場合、浸透性防錆剤をコンクリート構造物の表面からその内部へ浸透する亜硝酸イオンの量が不十分となる虞がある。また、2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールやエーテル型ノニオン界面活性剤や亜硝酸塩の配合割合が上記したそれぞれの配合割合の最大値を超える場合、これ以上それぞれの配合量を増やしてもコンクリート構造物の表面からその内部へ浸透する亜硝酸イオンの浸透量の飛躍的な向上は見込めず、浸透性防錆剤の製造コスト高となって好ましくない。
【0051】
本発明の浸透性防錆剤は、アルカリ性であることが好ましく、具体的にはpHが9以上であることが好ましい。浸透性防錆剤のpHを調整するには、pH調整剤を添加することで具体的に実現することができる。
【0052】
pH調整剤としてはアルカリ付与剤を挙げることができ、アルカリ性付与剤としては、水酸化カルシウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等を挙げることができる。
【0053】
本発明の浸透性防錆剤は、亜硝酸塩と、2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールとエーテル型ノニオン界面活性剤とを水に添加撹拌して製造することができるほか、亜硝酸塩を水に溶解させてなる亜硝酸塩水溶液に、2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールとエーテル型ノニオン界面活性剤を添加することで製造することができる。
【0054】
浸透性防錆剤を得る際における2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールとエーテル型ノニオン界面活性剤の添加について、エーテル型ノニオン界面活性剤の添加の後に2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールが添加されることが好ましい。水あるいは亜硝酸水溶液に対してエーテル型ノニオン界面活性剤が先に添加されて溶解及び/又は乳化されることにより、後に添加される疎水性の強い2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールについても速やかに溶解及び/又は乳化させた状態を作成することができる。したがって、水に亜硝酸塩を溶かし、エーテル型ノニオン界面活性剤を添加し、その後に2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールを添加されることが、より効率的に浸透性防錆剤を得ることができる点で好ましい。
【0055】
なお、本発明の浸透性防錆剤を製造するにあたっては、2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールを予めエチレングリコール、プロピレングリコール、イソプロパノール、2−エチルヘキサノール、ブチルセロソルブ等の溶剤で希釈して希釈液を作成し、その希釈液を亜硝酸塩水溶液に添加してもよい。そのようにすることによって、2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールを効率良く亜硝酸塩水溶液に配合することが出来る。
【0056】
なお、本発明の浸透性防錆剤においては、本発明の配合成分のほかにエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3ブタンジオール、グリセリン等の多価アルコールを適量配合することも出来る。こうすることで、浸透性防錆剤に湿潤効果を効果的に付与することができ、コンクリート表面に塗布された浸透性防錆剤が、コンクリート表面へのなじみが良くなり、コンクリート表面より内部に亜硝酸イオンが浸透する前に乾いてしまう虞も抑制することができる。
【0057】
本発明の浸透性防錆剤には、ジアルキルスルホコハク酸塩等のアニオン界面活性剤、又はアルカリ性水溶液中でアニオン性を呈する両性界面活性剤が、本発明の作用を損なわない範囲で配合されていても良い。
【0058】
また、本発明の浸透性防錆剤には、ジメチルポリシロキサン、変性型ポリシロキサン及びその他のオルガノポリシロキサン等のシリコーン系消泡剤やその他の消泡剤が、本発明の作用を損なわない範囲で配合されていてもよい。
【0059】
本発明のコンクリート構造物用浸透性防錆剤は、内部に鋼材を配設したコンクリート構造物の表面に対して塗布されることで、コンクリート構造物内部の鋼材を防錆する方法に用いられる。
【0060】
なおコンクリート構造物内部の鋼材を防錆する方法は、内部に鋼材を配設したコンクリート構造物の表面に対して、本発明のコンクリート構造物用浸透性防錆剤を塗布するのみならず、コンクリート構造物の表面に珪酸塩水溶液を塗布することを併用して実施されてもよい。
【0061】
内部に鋼材を埋設したコンクリート構造物の表面に、珪酸リチウム等の珪酸塩を水に溶かしてなる珪酸塩水溶液を塗布すると、コンクリート構造物表面から内部に向かって多数形成されている微細な隙間を通ってコンクリート構造物内部にリチウムイオン等のアルカリ性イオンが浸透拡散してコンクリート構造物内部をアルカリ性にする効果を奏する。
【0062】
また、コンクリート構造物内部の鋼材を防錆する方法においては、内部に鋼材を配設したコンクリート構造物の表面に対して、本発明のコンクリート構造物用浸透性防錆剤を塗布した後、該コンクリート構造物の表面に珪酸塩水溶液を塗布することが好ましい。
【0063】
なぜなら、珪酸塩がコンクリート構造物に通常含まれる水酸化カルシウムと反応して、コンクリート表面から内部へ数mm位までの表層部に珪酸カルシウムゲルを形成し表層部を緻密化することから、本発明のコンクリート構造物用浸透性防錆剤を塗布した後に珪酸塩水溶液を塗布することで、コンクリート構造物外部から内部へ塩分が新たにに侵入することを抑制するばかりかコンクリート構造物内部に浸透した亜硝酸イオンが再びコンクリート構造物表面へと流出してしまうことを抑制する効果を奏する。したがって、このようなコンクリート構造物内部の鋼材を防錆する方法によれば、コンクリート構造物の耐久性が効果的に改善される。なお、珪酸塩水溶液としては、市販のものを適宜選択することができ、具体的に、RVガードS水溶液(田島ルーフィング(株)製)、RF−100(太平洋マテリアル(株)製)、サビラン−P((株)大東製)等を用いることができる。
【実施例】
【0064】
次に、本発明の既設コンクリート構造物用浸透性防錆剤について具体的な実施例を用いて更に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0065】
実施例1
亜硝酸カルシウム15質量部と、pH調整剤としての水酸化カルシウム0.06質量部と、水84.34質量部とで混合液を調整し、この混合液にポリオキシエチレンラウリルエーテル0.5質量部を加えて攪拌混合し、更に、2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールを0.1質量部加えて攪拌混合して、表2の組成物1に示すような配合組成のコンクリート構造物用浸透性防錆剤を得た。このコンクリート構造物用浸透性防錆剤のpHは11.3であった。
【0066】
(表2)

注)組成物1〜4のpH調整剤:水酸化カルシウム
組成物5〜6のpH調整剤:水酸化リチウム
ポリオキシエチレン第2級アルキルエーテルには、アルキル基炭素数12〜14の直鎖型
第2級高級アルコールエトキシレートを用いた。
【0067】
得られたコンクリート構造物用浸透性防錆剤を用いて、次のように浸透拡散性試験、起泡性試験を行い、コンクリート構造物内部への浸透拡散性、起泡性を測定した。
【0068】
<浸透拡散性試験>
まず、コンクリート構造物の試験体(コンクリート試験体)を次のように作製した。
【0069】
コンクリート配合物を調製し、このコンクリート配合物を円柱の型枠へ打設し、脱型後、2週間封緘養生を行った。さらにその後、湿度80%、温度20℃で養生を行うことで(28日圧縮強度:26N/mm)、コンクリート試験体を得た。コンクリート試験体は、直径10cm×高さ20cm寸法の円柱の試験体として得られた。なお、調製されたコンクリート配合物について、その配合組成は、単位セメント量:300kg/m、細骨材+粗骨材:1800kg/m、水セメント比(W/C):60%、細骨材/(細骨材+粗骨材)比(s/a):48%、スランプ:18cm、空気量:約6.5%である。
【0070】
得られたコンクリート試験体中の含水率を4〜6%に予め調整しておき、そのコンクリート試験体の上面(円柱体の上部面)に、コンクリート構造物用浸透性防錆剤を800ml/m塗布して、温度20℃、相対湿度80%に保った室内に3ヶ月間放置し、その後亜硝酸イオンの浸透深さ及び浸透量を測定した。3ヶ月間放置後のコンクリート試験体中の亜硝酸イオンの浸透深さ・浸透量は、次に示す「亜硝酸イオンの分析方法」により測定された。
【0071】
<亜硝酸イオンの分析方法>
コンクリート試験体の塗布面から深さ(浸透深さ)15mmの位置より深さ方向へ10mm毎に試験体を切断して厚さ10mmの試験片を作成し、各試験片に含まれる亜硝酸イオンの濃度を測定した。この亜硝酸イオンの濃度は、コンクリートに含まれる水に対して亜硝酸イオンがどの程度含まれるかを示す亜硝酸イオン含有率として測定される。各試験片に含まれる亜硝酸イオンの濃度の測定は、各試験片を粉砕して粉砕物を得て、この粉砕物に純水を加えて全亜硝酸イオンを水中に溶解抽出させた後、不溶解物をろ過してろ液を分取し、ろ液に含まれる亜硝酸イオンをイオンクロマトグラフ法により測定することによって行われた。イオンクロマトグラフ法で各試験片に含まれる亜硝酸イオンの重量を測定し、コンクリートに含まれる水分に対する亜硝酸イオン含有率(ppm)を算出した。亜硝酸イオン含有率の測定結果を表3に示す。
【0072】
<起泡性試験>
得られたコンクリート構造物用浸透性防錆剤200gを、予め高さ方向に長さを示す目盛を附しておいた透明なポリビン(容積500ml)に収容し、そのポリビンを、25℃で、上下に10回振とうした。ついで、振とう直後、5分後、60分後、120分後の各時点について液面上に形成される泡の層の高さ(泡高)(mm)を測定した。測定は、各時点について2回実施され、得られた測定値の平均値を泡高とした。起泡性試験の結果は表8に示す。
【0073】
(表3)

注)浸透深さは、コンクリート試験体塗布面からの深さである。
【0074】
実施例2〜6
実施例1と同様に、それぞれ表2の組成物2から6に示すような配合組成のコンクリート構造物用浸透性防錆剤を得た(実施例2から6と組成物2から6の対応関係は表3に示す)。また、それぞれ得られたコンクリート用防錆剤について、実施例1と同様にして、それぞれのコンクリート試験体への亜硝酸イオンの浸透深さを測定した。また、実施例3、4については、起泡性試験についても実施された。結果を表3、8に示す。
【0075】
比較例1〜7
それぞれ表4、5に示すような配合組成の組成物7から13を得た。得られた各組成物7から13について、実施例1と同様にして、それぞれコンクリート試験体に800ml/m塗布した場合のコンクリート試験体への亜硝酸イオンの浸透深さ・浸透量を測定した。また、比較例3、4、5、7については、起泡性試験についても実施された。結果を表6、7、8に示す。
【0076】
(表4)

【0077】
(表5)

【0078】
(表6)

【0079】
(表7)

【0080】
(表8)

【0081】
鉄筋コンクリート中の鉄筋の位置は、上記したようにコンクリート表面から30mm前後の深さの位置に存在するのが通常である。上記の表3に示すように本発明のコンクリート構造物用浸透性防錆剤では、コンクリート表面から深さ30mmの位置を超えて50mmの深さの位置にまで亜硝酸イオンが到達しているのみならず、さらに深さが60mmの位置まで亜硝酸イオンが到達している。
【0082】
また、表3、表5、6に示すように、実施例1から6に示す本発明のコンクリート構造物用浸透性防錆剤(組成物1から6)を用いた場合のコンクリート構造物内部へ深さ25〜35mmの部分での亜硝酸イオン濃度は、比較例1から7に示すような組成物7から13をコンクリート表面に塗布した場合にコンクリート構造物内部へ深さ25〜35mmの部分に浸透した亜硝酸イオン濃度を比較すると約2倍であり、コンクリート構造物内部へ深さ45〜55mmの深さで同様に比較すると約3倍である。したがって、この結果からみると、本発明の浸透性防錆剤のコンクリート中への浸透拡散性は、比較例1から7と対比して飛躍的に向上していることがわかる。
【0083】
また、実施例1から3にくらべて実施例4〜6では亜硝酸イオンの濃度が高くなっているが、遜色ない浸透拡散性が得られており、本発明のコンクリート構造物用浸透性防錆剤では、高濃度の亜硝酸塩に界面活性剤の高配合が可能であることがわかる。
【0084】
さらに、表8における実施例1,3,4の結果と、比較例5,7の結果に示すように、本発明の浸透性防錆剤は、従来のノニオン界面活性剤とアニオン界面活性剤併用して配合された浸透性防錆剤(組成物11)やノニオン界面活性剤を配合された浸透性防錆剤(組成物13)に比べて、起泡性が非常に小さく濡れ性に優れたものとなり、塗布施工性上好ましいものであることが確認される。また、表8の結果より、2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールが液体の消泡性を向上させる効果に優れることが確認される。
【0085】
実施例7
コンクリート打ち放し仕上げ外壁面を備えた竣工後約25年経過したRC造コンクリート構築物(鉄筋のかぶり厚さの実測値は約25mmであった)を既設コンクリート構造物の試験構造物として用い、この試験構造物に組成物3を塗布し、既設コンクリート構造物内部への亜硝酸イオンの浸透拡散性を測定した。塗布方法は次の通りである。
【0086】
試験構造物のコンクリート外壁面(縦面)を高圧水で洗浄し、被洗浄面を組成物3の塗布用の面とした。コンクリート壁面が乾燥された後、本発明のコンクリート構造物用浸透性防錆剤たる組成物3をローラーで1回あたりの塗布量200ml/mにて4回、合計800ml/m塗布した。なお、試験構造物の洗浄および乾燥後におけるコンクリート中の含水率は、4〜6質量%であった。含水率の測定には、ケットコンクリート・モルタル水分計HI−520((株)ケット科学研究所製)が用いられた。
【0087】
塗布施工6ヶ月後、試験構造物のコンクリート外壁面より直径50mmで試験構造物の厚み方向に深さ80mmの位置まで切り出すことによってコア(直径50mm×深さ80mmの円柱)試験体を試験構造物より採取し、採取された部分(円柱試験体)に含まれる亜硝酸イオンについて、コンクリート外壁面から深さ方向に表9の「壁面からの浸透深さ」欄に示す範囲にて特定される円柱試験体の部分を切り出して試験片となし、その試験片ごとに亜硝酸イオンの浸透量(壁面からの浸透深さ毎の亜硝酸イオンの含有率)を測定した。結果を表9に示す。このとき亜硝酸イオンの浸透深さ・浸透量の測定は、実施例1に記載した方法と同様の「亜硝酸イオンの分析方法」にて亜硝酸イオン含有率を算出することで行われた。
【0088】
さらに、円柱試験体についてコンクリート外壁面からの深さ25〜35mmの部分の試験片を用いて、実施例1に記載した方法と同様に水で抽出されろ過によって得られたろ液中に含まれる塩化物イオンの含有率を測定した。塩化物イオンの含有率は、亜硝酸イオン含有率を測定したのと同様にイオンクロマトグラフ法で測定された。これにより、コンクリート構造物中の可溶性塩化物イオンの含有率が測定される。測定の結果、可溶性塩化物イオン含有率は、2000ppmであった。
【0089】
また、円柱試験体について、中性化深さを測定した。中性化深さは、採取した円柱試験体を2分割(縦割り)し、フェノールフタレイン1%溶液をコンクリートの分割断面に噴霧する方法(フェノールフタレイン法)により、フェノールフタレイン溶液で赤色に変色しない領域を測定することで実施された。中性化深さは、平均25mmであった。
【0090】
比較例8
実施例7において用いられた組成物3にかえて、組成物11が用いられたほかは、実施例7と同様にして既設コンクリート構造物内部への亜硝酸イオンの浸透拡散性を測定した結果は表9に示す。
【0091】
(表9)

【0092】
表9に示すように、この外壁コンクリート内部の深さ30mmにある鉄筋部周辺となる「壁面からの浸透深さ25〜35mm」における亜硝酸イオン含有率が、実施例7の場合と比較例8の場合とを比較して約2.5倍となっている。したがって、本発明のコンクリート構造物用浸透性防錆剤は比較例8と対比して浸透拡散性に優れることがわかる。これには、本発明の浸透性防錆剤が、比較例8で用いた組成物11のような従来の浸透性防錆剤に比べ、動的表面張力の低減されたものであるため、塗布される浸透性防錆剤のコンクリート壁面への濡れ性が良好であるということも寄与していると考えられる。
【0093】
実施例7によれば、コンクリート中の細孔水溶液中の可溶性塩化物イオン含有率は、コンクリート壁面からの深さ30mmにある鉄筋部周辺となる深さ25〜35mmの部分で、2000ppmであった。ここで、コンクリート構造物において鉄筋の錆による腐食の進行を抑制するために必要な亜硝酸イオン含有率は、実験則上、亜硝酸イオン/塩化物イオン=0.6(モル比)とされている。そして、モル比0.6は質量比で0.78であることを考慮すれば、鉄筋の錆による腐食を抑制するために必要な亜硝酸イオン含有率は約1600ppmという事になる。従って、本発明のコンクリート用防錆剤の場合、必要十分な量の亜硝酸イオンが鉄筋配設部位まで到達していることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のコンクリート構造物用浸透性防錆剤は、これを既設コンクリート構造物のコンクリート壁面に塗布し、防錆剤中の亜硝酸イオンをコンクリート内部の鉄筋等の位置まで十分に浸透させ、鉄筋等の鋼材の錆による経年劣化の進行を抑制して、コンクリート構造物の耐久性を向上させことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールと、エーテル型ノニオン界面活性剤と、亜硝酸塩と、水とからなることを特徴とするコンクリート構造物用浸透性防錆剤。
【請求項2】
2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールとエーテル型ノニオン界面活性剤が、亜硝酸塩を水に溶かしてなる亜硝酸塩水溶液に配合されてなることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造物用浸透性防錆剤。
【請求項3】
2,4,7,9‐テトラメチル‐5‐デシン‐4,7‐ジオールが0.005〜2質量%、エーテル型ノニオン界面活性剤が0.05〜5質量%、亜硝酸塩が1〜40質量%含まれていることを特徴とする請求項1又は2に記載のコンクリート構造物用浸透性防錆剤。
【請求項4】
エーテル型ノニオン界面活性剤が第2級高級アルコールエトキシレートであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のコンクリート構造物用浸透性防錆剤。
【請求項5】
亜硝酸塩が亜硝酸カルシウム又は亜硝酸リチウムであり、且つ、pHが9以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のコンクリート構造物用浸透性防錆剤。
【請求項6】
内部に鋼材を埋設したコンクリート構造物の表面に対して、請求項1から5のいずれかに記載のコンクリート構造物用浸透性防錆剤を塗布した後、該コンクリート構造物の表面に珪酸塩水溶液を塗布する、ことを特徴とするコンクリート構造物内部の鋼材を防錆する方法。

【公開番号】特開2008−196024(P2008−196024A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−33915(P2007−33915)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【出願人】(506350540)株式会社大東 (1)
【出願人】(507049522)
【Fターム(参考)】