説明

コンクリート破壊工法用部材

【課題】本発明は、硬化前のコンクリート中に容易に設置することが可能であり、所定の時期に部材が確実に分解することができるコンクリート破壊工法用部材を提供せんとするものである。
【解決手段】本発明のコンクリート破壊工法用部材は、繊維にアルカリ易分解樹脂が混在してなる繊維強化プラスチックからなり、かつ、JIS A5905に準じて測定される、その見かけ密度が0.3〜1g/cmであることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート中に埋設することにより、コンクリートの破壊を容易に行うことができるコンクリート破壊工法用部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
仮設構造物の材料として、コンクリート製のものが多く使用されている。例えば地下鉄や車両専用道路用などの地下トンネルといった構造物を建設する場合の地下連続地中壁が挙げられる。この地下連続地中壁は内部の掘削を可能にするために、地山の崩壊を防止することおよび止水することを目的として構築される。しかし、構造物が完成した後もそのまま残置されると地下水流が遮断されたままとなり、地下水流の上流側では建物への浮力、漏水、地盤湿潤化、樹木の根腐れ、液状化の危険度が高まるなどの問題、下流側では井戸、湧水の枯渇、地盤沈下、水生生物への影響などの問題を引き起こすこととなり、その対策の必要性が高まっている。
【0003】
この問題に対して、鉄筋籠、鋼製体、透水マット、生分解性樹脂等からなる通水装置を設置する方法(例えば特許文献1、特許文献2)が提案されている。しかしながら、これらの方法は装置の設置作業に手間がかかり、大深度地下や地盤を掘削しながら地中壁を建設するSMW(ソイルセメント・ミキシング・ウォール)工法には適用しにくいという問題があった。さらに、生分解性プラスチックをソイルセメント中に配置する方法(例えば特許文献3)が提案されているが、地中のバクテリアにより分解させるため、バクテリアの種類によって分解速度が左右されるため、安定した分解速度が得られない問題があった。
【特許文献1】特開平10−245841号公報
【特許文献2】特開平11−256568号公報
【特許文献3】特開2002−363976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記背景技術の課題に鑑み、硬化前のコンクリート中に容易に設置することが可能であり、所定の時期に部材が確実に分解することができるコンクリート破壊工法用部材を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明のコンクリート破壊工法用部材は、繊維にアルカリ易分解樹脂が混在してなる繊維強化プラスチックからなり、かつ、JIS A5905−2003 6.3に基づいて測定される、その見かけ密度が0.3〜1g/cmであることを特徴とするものである。
【0006】
かかるコンクリート破壊工法用部材の好ましい態様は、下記の通りである。すなわち、
(1)前記繊維が天然繊維であり、前記アルカリ易分解樹脂がポリ乳酸樹脂であることを特徴とすること、
(2)前記コンクリート破壊工法用部材が、JIS A5905−2003 6.6に基づいて測定される曲げ強度が10〜50MPaであり、かつ、pH12の水酸化ナトリウム水溶液に72時間浸漬させたときの曲げ強度保持率が0〜40%であること、
(3)前記コンクリート破壊工法用部材が、JIS L1096−1999 8.27.1 A法(フラジール形法)に基づいて測定される通気度が0.5〜2mL/cm・secの多孔質材料であること、
(4)前記コンクリート破壊工法用部材が、その表面がpH12のアルカリ溶液に対して溶解しない材料で覆われているものであること、
(5)前記コンクリート破壊工法用部材が、その表面が塗装または樹脂コートされているものであること、
(6)前記コンクリート破壊工法用部材が、その表面がフィルムまたはシートで覆われているものであること、
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、容易にコンクリート中に埋設することが可能であり、数日間はある程度の強度を保つことができ、1ヶ月後以降には確実に分解する部材を得ることができる。特に、必要なら、内部にアルカリ水溶液を注入するまで、一定の強度を保つため、任意の時期に分解する部材を提供することができるし、さらに、かかる部材に生分解性を持たせることもでき、その場合は、建築材料と分別することなく廃棄処理することができる。また、同様に部材に生分解性を持たせた場合は、破壊後の廃棄物の処理が困難な用途に用いられた場合でも難分解性物質が半永久的に残存することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、前記課題、つまり硬化前のコンクリート中に容易に設置することが可能であり、所定の時期に部材が確実に分解することができるコンクリート破壊工法用部材について、鋭意検討し、特定な組成からなる繊維強化プラスチックをコンクリート中に用いてみたところ、前記課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0009】
かかる繊維強化プラスチックを構成する繊維としては、各種形態のものが使用可能であるが、融点を持たず、部材の製造工程において加熱成形がしやすいこと、安価であること、生分解性を持つことなどの観点から、天然繊維、特にセルロース系の天然繊維が好ましく使用されるが、より好ましくは綿、麻、ケナフ、ラミー繊維が用いられる。繊度、繊維長は任意のものが使用可能であるが、開綿、開繊、繊維積層作業が容易に行えることから、繊度1〜10dtex、繊維長5〜100mmの範囲のものが好ましく使用することができる。
【0010】
かかる繊維強化プラスチックを構成するアルカリ易分解樹脂としては、ポリエステル系樹脂が好適に用いられ、より好ましくはポリ乳酸、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが用いられる。
【0011】
かかるポリ乳酸樹脂としては、160〜180℃程度と適度な耐熱性を有するとともに、成形性にも優れているものが好ましい。また、ポリ乳酸樹脂は生分解性を有するため、アルカリ分解後、最終的には土中の微生物により分解されて二酸化炭素と水になるため、回収困難な使用用途では特に好ましく使用することができる。かかるポリ乳酸樹脂は、ポリ乳酸ホモポリマーの他、乳酸コポリマー、ブレンドポリマーを含むものを使用することができる。
【0012】
かかるポリ乳酸樹脂の重量平均分子量は、好ましくは5〜50万である。また、ポリ乳酸樹脂におけるL−乳酸単位、D−乳酸単位の構成モル比L/Dは、100/0〜0/100のいずれであっても良いが、高い融点を得るにはL乳酸あるいはD乳酸いずれかの単位を75モル%以上、さらに高い融点を得るにはL乳酸あるいはD乳酸のいずれかの単位を90モル%以上含むものが好ましい。
【0013】
また、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリプロピレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂は、アルカリに対する溶解性の高いもの、すなわちイソフタル酸やスルフォン化芳香族ジカルボン酸のアルカリ金属塩あるいはポリアルキレングリコールなどのアルカリ溶液との親和性が高い成分を共重合させたものが好ましく用いられる。
【0014】
かかる繊維強化プラスチックを構成する繊維とアルカリ易分解樹脂として、ともに生分解性材料を用いれば、コンクリート破壊工法用部材を分解させた後、回収、廃棄ができない場合にも、最終的には自然環境中で微生物により分解するため、環境を汚染することがなく、より好ましい。
【0015】
かかる繊維強化プラスチックを構成する繊維とアルカリ易分解樹脂の混合比率は、コンクリート破壊工法用部材の強度、分解後の残渣の量、価格を勘案して任意に設計されるが、該繊維90〜10重量部、アルカリ易分解樹脂10〜90重量部が好適に用いられる。
【0016】
なお、かかる繊維強化プラスチックの見かけ密度は、強度および空隙状態、アルカリ水溶液の浸透速度、ひいては分解速度に影響するものであり、JIS A 5905−2003 6.3に基づいて測定される見かけ密度が0.3〜1g/cmであることが必須である。すなわち、見かけ密度が0.3g/cm未満では、曲げ強度が実質的に低くなりすぎて使用不可能である。逆に見かけ密度が1g/cmより大きいと、空隙が少なくなり、アルカリ水溶液の浸透速度が遅くなりすぎるため、分解速度が遅すぎるので使用できない。つまり、0.3〜1g/cmであれば、実用的な強度があり、空隙部分にアルカリ水溶液が速やかに浸透するため、確実な分解が可能である。
【0017】
かかる繊維強化プラスチックのJIS A5905−2003 6.6に基づいて測定される曲げ強度は常態で10〜50MPaの範囲が好ましい。10MPa未満では部材を埋設した構造物全体の強度が著しく低下するため、仮設構造物の使用期間においても必要とされる強度が得られないことや、部材をコンクリート中に埋設する作業において、破損しやすくなるため、適していない。15MPa〜40MPaであれば部材を埋設した構造物全体の強度低下が抑制でき、かつ部材が分解した後の強度が十分に低下するため、より好ましい。50MPaを超える強度は本部材の構成では実質的に得られない。
なお、曲げ強度の測定において、部材の厚みが20mmを超える場合には板の両面を均等に切削して20mmに調整したものを用いる。
【0018】
本発明の繊維強化プラスチックは、pH12の水酸化ナトリウム水溶液に72時間浸漬させたときの、曲げ強度保持率は0〜40%であることが好ましい。ここで曲げ強度保持率は、常温における曲げ強度に対する上記処理後の曲げ強度の割合(百分率)とする。一般のコンクリート内部はpH11〜12程度であるため、前記条件でアルカリ処理を行い、0〜40%であれば、該繊維強化プラスチックからなるコンクリート破壊工法用部材を実際にコンクリート内部に建て込んだ場合も同様に72時間で十分に曲げ強度が下がることになり、本発明の目的であるコンクリート仮設構造物を確実に破壊することができる状態にできる。72時間浸漬させる前後の曲げ強度保持率が40%を越えるものであれば当然のことながら、曲げ強度が十分に低下しないため、コンクリート仮設構造物を確実に破壊できない場合が出てくるため、適さない。なお、常温における該繊維強化プラスチックの強度およびアルカリ処理後の強度は前記好ましい範囲から使用用途、使用状態、破壊工法等に応じて適宜設計することができる。
【0019】
該繊維強化プラスチックは、JIS L1096−1999 8.27.1 A法(フラジール形法)に基づいて測定される通気度が0.5〜2mL/cm・secの多孔質材料であることが好ましい。通気度が0.5mL/cm・sec未満である場合、材料としての空隙が少ないため、分解を誘発するためにアルカリ性水溶液等を用いる場合にも速やかに部材全体に広がり、分解させることができる。本部材の構成では通気度が2mL/cm・secを超えるほどの空隙をもたせることは難しい。
なお、通気度の測定において、部材の厚みが20mmを超える場合には板の両面を均等に切削して20mmに調整したものを用いる。
【0020】
本発明のコンクリート破壊工法用部材を構成する該繊維強化プラスチックは、その表面をpH12のアルカリ溶液に対して溶解しない材料で覆うことも好ましい形態である。
【0021】
すなわち、コンクリート内部は原料の配合比率にもよるが、通常pH11〜12程度のアルカリ性の状態であるため、この実施形態ではコンクリート内部で自ら分解することはない。そのため、該繊維強化プラスチックは、その強度を維持したまま、コンクリート破壊工法用部材として仮設構造物を使用することができる。その後、任意の時期にアルカリ水溶液を分解誘発剤としてコンクリート破壊工法用部材内部に注入すれば、速やかに該部材を分解することができ、結果として目的とするコンクリート仮設構造物を確実に破壊できる状態にできる。
【0022】
かかる繊維強化プラスチックの表面をアルカリ溶液に対して溶解しない材料で覆う方法としては特に限定されないが、フィルム、シート等により覆う方法や、表面を塗装または樹脂コートする方法が簡易的であり好ましい。特にシュリンクフィルムを用いる方法や、塗装、樹脂コート方法が部材に密着するため、特に部材をコンクリート中に建て込む作業に適しているため、より好ましい。塗装による方法としては、塗料として、ラッカー、油性塗料、不飽和ポリエステルなどを用いることができる。
【0023】
本発明のコンクリート破壊工法用部材の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、以下の方法を採用することができる。
【0024】
まず、易アルカリ分解樹脂を溶融紡糸して捲縮、カットを行い、繊度6デシテックス、繊維長50mm程度の短繊維を得る。別途用意した天然繊維などの構成繊維(以下、主体繊維という)と易アルカリ分解樹脂からなる短繊維を均一に混合、分散させて繊維積層体とする。これをさらに必要量積層し、易アルカリ分解樹脂の融点以上に加熱しながら加圧して成形する。
【0025】
その際、易アルカリ分解樹脂を溶融させ、主体繊維同士または主体繊維と易アルカリ分解樹脂とを接着させることにより必要な強度を持つ繊維強化プラスチックを得ることができる。
【0026】
本発明で、易アルカリ分解樹脂を主体繊維に混合するためには、上記以外に、樹脂粉末、フレーク、ペレット、フィルムを主体繊維と固体または溶融状態で混合し、溶融圧縮成形する方法を採ることもできるが、易アルカリ分解樹脂を繊維の形態で主体繊維と混合させることが、部材中の易アルカリ分解樹脂を均一に混合、分散させることができ、均一に接着できるので好ましい。
【0027】
本発明は、かかる繊維強化プラスチックをコンクリート破壊工法用部材として使用するものである。
【実施例】
【0028】
以下に、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。なお実施例中の諸物性の測定方法は以下の方法を用いた。
【0029】
(1)見かけ密度
JIS A 5905−2003 6.3に基づいて測定した。部材を温度20℃、湿度65%RHの標準状態にて24hr放置した後、10cm×10cmの試験片を3枚切り出した。1枚の試験片について、上記規定中図5に示す測定箇所の幅、長さ及び厚さを測定し、それぞれについての平均値を求め試験片の幅、長さ及び厚さとし、体積(v)を求めた。次に、質量(m)を測定し、次式によって算出した。厚さは0.05mm、幅及び長さは0.1mm、質量は0.1gの精度まで測定し、密度は0.01g/cm単位まで算出した。1枚の試験片ごとに密度を求めた上で、3枚の試験片の平均値を求めた。
密度(g/cm)=m/v
ここに、m:質量(g)
v:体積(cm)。
【0030】
(2)曲げ強度(常態)
JIS A 5905−2003 6.6に基づいて測定した。部材の縦方向および横方向のそれぞれについて、幅50mm、長さ150mmの試験片を3枚ずつ採取した。上記規定に準じた曲げ強さ試験装置に、スパン(L)100mmとして試験片を設置し、スパンの中間位置にて試験片の表面から平均変形速度50mm/分の荷重を加え、その最大荷重(P)を測定し、次式によって曲げ強さを求め、6枚の平均値を算出した。なお、部材の厚みが20mmを超える場合には板の両面を均等に切削して20mmに調整したものを用いる。
曲げ強さ(MPa)=3PL/2bt
ここに、P:最大荷重(N)
L:スパン(mm)
b:試験片の幅(mm)
t:試験片の厚さ(mm)。
【0031】
(3)曲げ強度保持率
上記(2)に準じて部材の曲げ強度を測定し、曲げ強度(常態)として記録した。
続いて、上記(2)と同様に部材の縦方向および横方向のそれぞれについて、幅50mm、長さ150mmの試験片を3枚ずつ採取した。なお、部材の厚みが20mmを超える場合には板の両面を均等に切削して20mmに調整したものを用いる。これをpH12の水酸化ナトリウム水溶液20L中に浸漬させる。このとき、部材の密度が低く浮き上がる場合は金属製の籠の中に入れて浸漬し、浮き上がらないようにする。72時間後に取り出し、温度20℃、湿度65%RHの標準状態にて7日間放置し、乾燥させた。JIS A 5905−2003 6.6に準じた曲げ強さ試験装置に、スパン(L)100mmとしてこの試験片を設置し、スパンの中間位置にて試験片の表面から平均変形速度50mm/分の荷重を加え、その最大荷重(P)を測定し、次式によって曲げ強さを求め、6枚の平均値を算出、曲げ強度(処理後)とした。
曲げ強さ(MPa)=3PL/2bt
ここに、P:最大荷重(N)
L:スパン(mm)
b:試験片の幅(mm)
t:試験片の厚さ(mm)
曲げ強度保持率は曲げ強度(常態)に対する曲げ強度(処理後)の割合(百分率)とした。
【0032】
(4)通気度
JIS L 1096−1999 8.27.1 A法(フラジール形法)に基づいて測定した。部材の異なる3か所から約20cm×20cmの試験片を採取し、フラジール形試験機を用い、円筒の一端(吸気側)に試験片を取り付けた。試験片の取り付けに際し、円筒の内径と同一の内径を有する平面状ゴム製リングパッキン(厚さ1mm)を円筒の試験片取り付け側に設置し、その上に試験片を置き、試験片上から吸気部分を塞がないように均等に約98N(10kgf)の荷重を加え試験片の取り付け部におけるエアーの漏れを防止した。試験片を取り付けた後、加減抵抗器によって傾斜形気圧計が125Paの圧力を示すように吸込みファンを調整し、そのときの垂直形気圧計の示す圧力と、使用した空気孔の種類とから、試験機に付属の表によって試験片を通過する空気量を求め、3枚の試験片についての平均値を算出した。なお、部材の厚みが20mmを超える場合には板の両面を均等に切削して20mmに調整したものを用いる。
【0033】
(5)目付
JIS L 1913−1998 6.2に基づいて測定した。
【0034】
[実施例1]
繊維材料として天然繊維であるケナフ靱皮繊維(繊維長65mm)、アルカリ易分解樹脂としてポリ乳酸樹脂を繊維化したポリ乳酸繊維(繊維長51mm)を用い、ケナフ靱皮繊維70重量部、ポリ乳酸繊維30重量部の割合で混合した。
【0035】
得られた混合繊維を開繊し、シート状にしたものを積層したのちニードルパンチを施し、繊維同士を交絡させて厚み8mm、目付1000g/mの積層体を得た。この積層体を11枚重ね、220℃に加熱したホットプレス機にて20mmになるように加熱加圧プレスし、中心温度が200℃になるまで約60分間保持しすることでポリ乳酸繊維を溶融させた。プレスを開放後、室温まで空冷することで、見かけ密度0.52g/cm、厚さ20mmの繊維系ボード(繊維強化プラスチック)を得た。これより縦、横ともに500mmの大きさに切り出したところ表1に示す物性のコンクリート破壊工法用部材を得た。これを一般工作用ラッカーにて1回毎に乾燥させながら5回塗装した。一端に直径10mm、深さ20mmの穴を開け、外径10mm、内径8mm、長さ200mmの金属製注入管を深さ20mmまで差し込み、厚さ50mm、幅、長さともに700mmのコンクリート製仮設構造物の中心部分に建て込んだ。
【0036】
壁体として3ヶ月使用した後、破壊すべく注入管よりpH12の水酸化ナトリウム水溶液500mlを5回に分けて30分おきにゆっくりと注ぎ込んだ。注入終了から72時間後にコンクリート破砕機で破砕したところ容易に破砕でき、作業量、騒音を軽減できた。ケナフ繊維および塗料がコンクリート片に混じって残存していたが、ケナフ繊維は廃棄処理後に時間をかけて分解するため、塗料部分のみ分別して建築廃材として廃棄した。
【0037】
[実施例2]
繊維材料として天然繊維であるケナフ靱皮繊維(繊維長65mm)、アルカリ易分解樹脂としてポリ乳酸樹脂を繊維化したポリ乳酸繊維(繊維長51mm)を用い、ケナフ靱皮繊維70重量部、ポリ乳酸繊維30重量部の割合で混合した。この材料を用い、実施例1と同様にして見かけ密度0.52g/cm、厚さ20mmの繊維系ボード(繊維強化プラスチック)を得た。このボードより縦、横ともに500mmの大きさに切り出し、実施例1と同様の物性のコンクリート破壊工法用部材を得た。
【0038】
これを表面処理せずにそのまま、厚さ50mm、幅、長さともに700mmのコンクリート製仮設構造物の中心部分に建て込んだ。
【0039】
仮設壁体として3日間使用した後、さらにコンクリート内部のアルカリにより分解させるために1ヶ月間放置して、コンクリート破砕機で破砕したところ容易に破砕でき、作業量、騒音を軽減できた。ケナフ繊維がコンクリート片に混じって残存していたが、ケナフ繊維は廃棄処理後に時間をかけて分解するため、建築廃材として分別せずに廃棄できた。
【0040】
[実施例3]
繊維材料として天然繊維であるケナフ靱皮繊維(繊維長65mm)、アルカリ易分解樹脂としてポリ乳酸樹脂を繊維化したポリ乳酸繊維(繊維長51mm)を用い、ケナフ靱皮繊維70重量部、ポリ乳酸繊維30重量部の割合で混合した。得られた混合繊維を開繊し、シート状にしたものを積層したのちニードルパンチを施し、繊維同士を交絡させて厚み8mm、目付1000g/mの積層体を得た。この積層体を16枚重ね、220℃に加熱したホットプレス機にて20mmになるように加熱加圧プレスし、中心温度が200℃になるまで約60分間保持しすることでポリ乳酸繊維を溶融させた。プレスを開放後、室温まで空冷することで、見かけ密度0.78g/cm、厚さ20mmの繊維系ボード(繊維強化プラスチック)を得た。このボードより縦、横ともに500mmの大きさに切り出し、目的のコンクリート破壊工法用部材を得た。
【0041】
これを厚さ25μmの二軸延伸ナイロンフィルムで包み接着させた後、実施例1と同様に穴を開け、注入管を差し込み、厚さ50mm、幅、長さともに700mmのコンクリート製仮設構造物の中心部分に建て込んだ。
【0042】
壁体として3ヶ月使用した後、破壊すべく注入管よりpH12の水酸化ナトリウム水溶液500mlを5回に分けて30分おきにゆっくりと注ぎ込んだ。注入終了から72時間後にコンクリート破砕機で破砕したところ容易に破砕でき、作業量、騒音を軽減できた。ケナフ繊維およびナイロンフィルムがコンクリート片に混じって残存していたが、ケナフ繊維は廃棄処理後に時間をかけて分解するため、ナイロンフィルムのみ分別して建築廃材として廃棄した。
【0043】
[実施例4]
繊維材料として天然繊維であるケナフ靱皮繊維(繊維長65mm)、アルカリ易分解樹脂としてポリ乳酸樹脂を繊維化したポリ乳酸繊維(繊維長51mm)を用い、ケナフ靱皮繊維40重量部、ポリ乳酸繊維60重量部の割合で混合した。この材料を用い、実施例1と同様にして見かけ密度0.55g/cm、厚さ20mmの繊維系ボード(繊維強化プラスチック)を得た。このボードより縦、横ともに500mmの大きさに切り出し、表1に示す物性のコンクリート破壊工法用部材を得た。
【0044】
これを表面処理せずにそのまま、厚さ50mm、幅、長さともに700mmのコンクリート製仮設構造物の中心部分に建て込んだ。
【0045】
仮設壁体として3日間使用した後、さらにコンクリート内部のアルカリにより分解させるために1ヶ月間放置して、コンクリート破砕機で破砕したところ容易に破砕でき、作業量、騒音を軽減できた。ケナフ繊維がコンクリート片に混じって残存していたが、実施例2に比較して残存量は少なく、ケナフ繊維は廃棄処理後に時間をかけて分解するため、建築廃材として分別せずに廃棄できた。
【0046】
[実施例5]
繊維材料としてポリエチレンテレフタレート繊維(繊維長51mm)、アルカリ易分解樹脂としてイソフタル酸を共重合させたポリエチレンテレフタレート樹脂を繊維化した共重合ポリエチレンテレフタレート繊維(繊維長51mm)を用い、ポリエチレンテレフタレート繊維70重量部、共重合ポリエチレンテレフタレート繊維30重量部の割合で混合した。得られた混合繊維を開繊し、シート状にしたものを積層したのちニードルパンチを施し、繊維同士を交絡させて厚み8mm、目付1000g/mの積層体を得た。この積層体を14枚重ね、220℃に加熱したホットプレス機にて20mmになるように加熱加圧プレスし、中心温度が200℃になるまで約60分間保持しすることでポリ乳酸繊維を溶融させた。プレスを開放後、室温まで空冷することで、見かけ密度0.69g/cm、厚さ20mmの繊維系ボード(繊維強化プラスチック)を得た。このボードより縦、横ともに500mmの大きさに切り出し、表1に示す物性のコンクリート破壊工法用部材を得た。
【0047】
これを表面処理せずにそのまま、厚さ50mm、幅、長さともに700mmのコンクリート製仮設構造物の中心部分に建て込んだ。
【0048】
仮設壁体として3日間使用した後、さらにコンクリート内部のアルカリにより分解させるために1ヶ月間放置して、コンクリート破砕機で破砕したところ容易に破砕でき、作業量、騒音を軽減できた。ポリエチレンテレフタレート繊維がコンクリート片に混じって残存していたため、分別して廃棄した。
【0049】
[比較例1]
繊維材料として天然繊維であるケナフ靱皮繊維(繊維長65mm)、バインダー繊維としてポリプロピレン樹脂を繊維化したポリプロピレン繊維(繊維長51mm)を用い、ケナフ靱皮繊維70重量部、ポリプロピレン繊維30重量部の割合で混合した。得られた混合繊維を開繊し、シート状にしたものを積層したのちニードルパンチを施し、繊維同士を交絡させて厚み8mm、目付1000g/mの積層体を得た。この積層体を23枚重ね、220℃に加熱したホットプレス機にて20mmになるように加熱加圧プレスし、中心温度が200℃になるまで約60分間保持しすることでポリ乳酸繊維を溶融させた。プレスを開放後、室温まで空冷することで、見かけ密度1.15g/cm、厚さ20mmの繊維系ボード(繊維強化プラスチック)を得た。これより縦、横ともに500mmの大きさに切り出したところ表1に示す物性のコンクリート破壊工法用部材を得た。
【0050】
これを一般工作用ラッカーにて1回毎に乾燥させながら5回塗装した。一端に直径10mm、深さ20mmの穴を開け、直径10mm、長さ200mmの金属製注入管を深さ20mmまで差し込み、厚さ50mm、幅、長さともに700mmのコンクリート製仮設構造物の中心部分に建て込んだ。
【0051】
壁体として3ヶ月使用した後、破壊すべく注入管よりpH12の水酸化ナトリウム水溶液500mlを5回に分けて30分おきにゆっくりと注ぎ込んだ。注入終了から72時間後にコンクリート破砕機で破砕したところ部材の分解は見られず、破砕作業における作業性は劣っており、騒音も大きかった。
【0052】
[比較例2]
縦、横ともに500mm、厚さ15mmのPET樹脂100%製成形体を表面処理せずにそのまま、縦、横ともに700mm、厚さ50mmのコンクリート製仮設構造物の中心部分に建て込んだ。
【0053】
仮設壁体として3日間使用した後、さらに1ヶ月間放置して、コンクリート破砕機で破砕したところ、PET樹脂の分解は見られず、破砕作業における作業性は劣っており、騒音も大きかった。PET樹脂がコンクリート片に混じって残存していたため、分別して建築廃材として廃棄した。
【0054】
[比較例3]
縦、横ともに500mm、厚さ15mmのポリ乳酸樹脂100%製部材を表面処理せずにそのまま、縦、横ともに700mm、厚さ50mmのコンクリート製仮設構造物の中心部分に建て込んだ。仮設壁体として3日間使用した後、さらにコンクリート内部のアルカリにより分解させるために1ヶ月間放置して、コンクリート破砕機で破砕したところ、ポリ乳酸樹脂の分解はほとんど見られず、破砕作業における作業時間、騒音とも大きかった。
ポリ乳酸樹脂がコンクリート片に混じって残存していたが、ポリ乳酸樹脂は廃棄処理後に時間をかけて分解するため、分別せずに建築廃材として廃棄できた。
【0055】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のコンクリート破壊工法用部材は、アルカリ分解性に優れることから、コンクリート仮設構造物にあらかじめセットしておけば破壊できる状態にすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維にアルカリ易分解樹脂が混在してなる繊維強化プラスチックからなり、かつ、JIS A5905−2003 6.3に基づいて測定される、その見かけ密度が0.3〜1g/cmであることを特徴とするコンクリート破壊工法用部材。
【請求項2】
前記繊維が天然繊維であり、前記アルカリ易分解樹脂がポリ乳酸樹脂であることを特徴とする請求項1記載のコンクリート破壊工法用部材。
【請求項3】
前記繊維強化プラスチックが、JIS A5905−2003 6.6に基づいて測定される曲げ強度が10〜50MPaであり、かつ、pH12の水酸化ナトリウム水溶液に72時間浸漬させたときの曲げ強度保持率が0〜40%であることを特徴とする請求項1または2に記載のコンクリート破壊工法用部材。
【請求項4】
前記繊維強化プラスチックが、JIS L1096−1999 8.27.1 A法(フラジール形法)に基づいて測定される通気度が0.5〜2mL/cm・secの多孔質材料であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のコンクリート破壊工法用部材。
【請求項5】
前記繊維強化プラスチックが、その表面がpH12のアルカリ溶液に対して溶解しない材料で覆われているものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のコンクリート破壊工法用部材。
【請求項6】
前記繊維強化プラスチックが、その表面が塗装または樹脂コートされているものであることを特徴とする請求項5に記載のコンクリート破壊工法用部材。
【請求項7】
前記繊維強化プラスチックが、その表面がフィルムまたはシートで覆われているものであることを特徴とする請求項5に記載のコンクリート破壊工法用部材。

【公開番号】特開2007−314978(P2007−314978A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−143744(P2006−143744)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】