説明

コンクリート融雪槽

【課題】 ポンプ、バーナ、モータ、ヒータ等の装置を用いることなく、地熱を利用した自然の熱による低コストの融雪を行う。
【解決手段】 地下に埋設するコンクリート融雪槽であって、底部に蓄熱空間Sを備え、該蓄熱空間Sの上方に排水小孔15を備えるよう構成する(請求項1)。融雪槽10の底部に蓄熱空間Sを設けることにより、地熱は常に蓄熱空間に蓄えられ、その上の融雪のための空間を温める。排水小孔15まで水Wを入れておけば、水Wが地熱によって温められ、投入された雪Nを速やかに融かす。融けた水は排水小孔15から外部に排出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下に埋設するコンクリート融雪槽に係り、とくに地熱を利用して自然の融雪を行うコンクリート融雪槽の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
降雪地では、氷雪を融かすために各種の融雪設備を用いる。ロードヒーティングシステム、バーナ火炎を用いた強制的な加熱融雪などである。
【0003】
しかしながら、融雪のための熱源として電気や灯油を用いると電気代や灯油代の経済負担があるばかりでなく、電気系統の故障やバーナ装置の故障の可能性があることから、修繕維持のためのメンテナンス費用もかさむ。
【0004】
このため、従来から、地熱を利用した融雪が提案されている。例えば、特許文献1には、井戸水を利用する融雪をおこなう際に、融雪媒体を地下深くに循環させて地熱を獲得させて効率を高めることが記載されている。
【特許文献1】特開平10−280309号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来提案されている地熱を利用した融雪装置は、熱媒を地中ふかくに循環させて地熱を獲得し、獲得した熱を融雪に用いる。
【0006】
しかし、地面の上につもった雪をゆっくり融かすには良いとしても、降雪量が多い場合に、玄関前や駐車場の雪を排除したいときには、このような熱媒利用型の融雪、つまり積もった雪をそのまま融かそうとするロードヒーティング型の融雪システムは好ましくない。
【0007】
降雪量が多いときには、人が歩く道を確保したり駐車スペースをつくるため、強制的に雪を排除して、その雪を融かすことが望まれる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、このような、いわゆる除雪を伴う融雪において、ポンプ、バーナ、モータ、ヒータ等の強制的な駆動装置を用いることなく、地熱を利用した自然の熱による低コストの融雪を可能とする融雪槽を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成して、課題を解決するため、本発明に係るコンクリート融雪槽は、底部に蓄熱空間を備え、該蓄熱空間の上方に排水小孔を備えるよう構成する(請求項1)。
【0010】
コンクリート融雪槽の底部に蓄熱空間を設けることにより、これを埋設して利用したときは、地熱は常に当該蓄熱空間に蓄えられ、その上の融雪空間を温める働きを営む。
【0011】
もちろん、融雪空間も外周の地熱を吸収して温められるが、融雪空間に大量の雪が投入されたときは、内部温度も急激に下がるところ、底部の蓄熱空間の熱との熱交換が行われることにより、ゆるやかに融雪が継続される。
【0012】
請求項2は、コンクリート融雪槽の上下寸法に関するものであり、上部開口から蓄熱空間の下端面までの寸法を4m以上とするものである。
【0013】
寒冷地においても、地面下4m以下の深度では、夏期の熱が蓄えられて冬期の間も温度は15℃前後に安定している。周囲の熱量は莫大であるから、融雪のための熱交換を行っても地熱温度は殆ど影響を受けない。蓄熱空間の底面が地面下4mに位置すれば、大量の熱を春先まで獲得し続けることが出来る。
【0014】
請求項3は、蓄熱空間の熱を効率的に使用するための、排水小孔の位置に関する。排水小孔は、蓄熱空間から得た熱によって融雪が行われたあとに、融雪水を外部に流し出すものである。
【0015】
排水小孔を設ける位置を、蓄熱空間の下端面から0.8〜1.5mの位置に設定すると、蓄熱空間の上には常に一定量の水が蓄えられ、この水が、周囲の地熱と蓄熱空間の熱によって温められる。
【0016】
寒冷地では、冬期は、地面下1mほどのところは凍結状態または0℃に近い温度であるから、排水小孔を設ける位置は、出来るだけ深いところであることが望ましいのであるが、水量と温度の相関バランスを良好に保つには、請求項3に記載した位置が最適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るコンクリート融雪槽によれば、ポンプ、バーナ、モータ、ヒータ等の強制装置を用いることなく、地熱を利用して維持費用がかからない融雪を年間を通して行うことが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明に係るコンクリート融雪槽の一実施形態を示すものである。この融雪槽10は、例えば、コンクリートで成形した下部融雪槽11と、コンクリートで成形した上部融雪槽18とからなり、成形時には上下二つに分割しておき埋設現場において一体化させるようにしてある。効率的な搬送と、現場における吊り上げ、吊り下げの作業を容易化させるためである。
【0019】
下部融雪槽11と上部融雪槽18は、例えば断面略円形の筒状に成形する。この場合、下部融雪槽11は有底無蓋、上部融雪槽18は無底無蓋である。
【0020】
融雪槽10は、全体の上下寸法を4m以上とすることが望ましく、下部融雪槽11と上部融雪槽18は、それぞれ1/2の上下寸法に設定しておくことが出来る。上下寸法を略均等にしておく方が、吊り上げ作業時のバランスをはかりやすいからである。なお、下部融雪槽11と上部融雪槽18の接続境界線を符号Xとして示した。
【0021】
下部融雪槽11は、底面12を備えるとともに、この底面12から若干離隔させた位置に仕切板14を備え、この両者(12、14)の間の空間を蓄熱空間Sとする。また、仕切板14の上部位置に排水小孔15を設けてある。
【0022】
蓄熱空間Sの上下幅、つまり底面12の上面と仕切板14の下面との離隔距離は、例えば30cmとする。蓄熱空間Sの容積は大きい方が好ましいが、融雪槽10の内径を例えば80cmとした場合は、上下30cmほどの蓄熱空間とすることで安定した融雪効果を得る。
【0023】
仕切板14は、氷雪の重量に耐える程度の強度をもった鋼板やプレキャスト板(鉄筋コンクリート板)を用いることが出来る。なお、仕切板14を後付するときは外周部を水密にするシール処理を行うことが望ましい。セメントによる防水加工、あるいはコーキングやパッキン等の施工である。
【0024】
排水小孔15は、融雪槽の中に一定量の水を蓄えるためのものであり、例えば、仕切板14の上方約1mの位置に設ける。
【0025】
この排水小孔15は、いわゆるオーバーフローとして機能させるものであるが、あまり径を大きくしない方が有利である。なぜなら、仕切板14の上部に蓄えた水が外周部の地熱と、蓄熱空間Sの熱によって温められているところに大量の氷雪が投入されたときに、一気に大量の水が外部に溢れ出ると熱交換の効率が低下する虞れがあるからである。
【0026】
このため、排水小孔15は、例えば配設数を三個とした場合に、径10mm〜20mmとしておく。排水小孔15は一個でもよいが、複数個設けるときは、周に均等配置する。均等間隔で排水するためである。排水小孔15の外側には、土砂が内部に入り込まないよう防砂ネット16を設けることが望ましい。
【0027】
図2は、この融雪槽10を地面に埋設した状態を示すものである。地面Gに露出する開口部には、開閉扉20を設けておく。21は、開閉扉20の把手、23は、開口部を形成するためのコンクリートベースである。開閉扉20は、例えば鋼板や格子状蓋(グレーチング)を用いることが出来る。
【0028】
開閉扉20から底面12までの距離は約4mである。埋設後に水を入れておき、排水小孔15の位置まで水Wが溜まった状態になっている。この状態で、寒冷地で雪が降る季節をむかえたとき、蓄熱空間Sの内部温度は平均15〜18℃である。厳冬期でも15℃程度であり、それ以下には低下しない。一方、水Wは、蓄熱空間Sの熱と外周の地熱によって、底面で約12℃、冷気にさらされる表面で約5℃、表面の直下で8℃程度に保たれる。
【0029】
次に、作用を説明する。図3に示すように、使用時には開閉扉20を開いて、開口から雪Nを投入する。大量に雪を投じて時間が経過すると、水Wの上部の雪Nが融けて空洞を作りつつ、地熱と水Wの温度によってさらに融雪が行われる。
【0030】
投入された初期の雪Nは、図4に示すように仕切板14の上部の水Wと接触し、直ちに融けて、もっとも温度の低い上部の融雪水が排水小孔15を通って外部の土中に排出される。
【0031】
大量に雪Nを投入しても、仕切板14によって蓄熱空間Sは急激な温度低下をみせない。また、大量に雪Nを投入したときは、最初、水Wと雪Nが渾然一体となった状態で混じり合うが、このときにも、周囲の土から与えられる地熱Z1と蓄熱空間Sから与えられる熱Z2によって、水Wは低下した温度分を補うように加熱され、対流を起こしながら融雪を続ける。温まった水Wは上方に向かい、雪Nとの接触によって冷却された水は下方に下がろうとするが、排水小孔15近辺の水温は最低であって、この近辺の水Wが排水小孔15から外部へと流出する。水Wと接触していた雪Nは時間の経過とともに融ける。下部の雪は空洞化する。空洞化した下部の雪Nも、水Wの熱と周囲からの地熱Z1によって、徐々に融けて排水小孔15から外部に流れ出る。
【0032】
土の中に流れ出た水によっても、蓄熱空間Sや排水小孔15まわりの温度は大幅な温度低下をみせない。周囲に蓄えられている熱量は莫大であり、重力下降する水による温度低下分を直ちに補うことができるからである。排出される水Wの量に比べて圧倒的に大量の土が存在するため、周囲の地熱温度は摂氏15度前後に保たれる。
【0033】
このような融雪槽10によれば、強制的加熱を行うバーナ装置やヒータ装置、あるいは水の強制循環のためのポンプ装置などの駆動装置を用いることなく、地熱を利用して融雪を行うことが出来る。導入コストは確実に低減できる。
【0034】
このような融雪は、バーナ火炎や電熱ヒータを用いた強制的な融雪に比べると雪Nの融けるスピードも遅いし、一気に大量の融雪を行うことも難しい。しかしながら、一戸建て住宅の庭先や駐車場、あるいは小規模店舗の玄関先や駐車スペースに降り積もった雪のように、それほど量が多くない場合に、除雪した雪Nを時間をかけてゆっくり融雪できるため、燃料費、電気代、メンテナンスコストなど各種の維持管理費用をゼロに抑えることが出来る利点をもつ。
【0035】
また、下水口を通して冷水(融雪水)を直接河川に流さないから、河川の自然環境維持の点でも優れる。従来の融雪装置は強制加熱して融かした融雪水を下水を介して河川に流出させるが、きわめて低い温度の冷水が河川に流れ込むと急激な温度低下によって河川の微生物が死滅し、魚介の生態に著しい悪影響を与える問題が指摘されているところ、深い土中への排水によれば河川の急激な温度変化も生じさせない。排水された水Wもまた大量の地熱によって自然に温められるからである。
【0036】
本発明に係るコンクリート融雪槽は、この実施形態に限定されない。例えば、融雪槽10は、上下を分割せずに一体成形してもよい。また三つ以上に分割して現場において組み立てても良い。融雪槽10の内径は、上部と下部で変化させても良い。例えば下部の内径を広く(狭く)、上部の内径を狭く(広く)する等である。
【0037】
融雪槽10は、外形も内形も断面円形である必要はない。断面正方形やその他の矩形、多角形のものでもかまわない。
【0038】
仕切板14を設ける旨説明したが、仕切板14を底面とした下部融雪槽を作り、この下に蓄熱空間を作るための補助槽を設けても良い。補助槽は有底無蓋のものとするが、コンクリート製である必要はない。鋼板を用いて成形したものを使用しても同様の効果を得る。
【0039】
埋設現場の敷地面積が狭く、融雪槽10の内径を80cm以下とするような場合は、融雪槽10の上下寸法を4m以上、例えば4.5mほどとして、蓄熱空間Sの上下幅を40〜60cmとする等の調整を行っても良い。逆に、融雪槽10の内径を80cm以上とできる場合でも、蓄熱空間Sの上下幅は30cm設けることが望ましい。蓄熱空間Sの容積を大きくとり、融雪効果を低下させないようにするためである。
【0040】
排水小孔15は、オーバーフローのため同一の高さ位置に設けるよう図示してあるが、上下に複数段の排水小孔を設けてもかまわない。この場合は、上部の孔ほど径を大きくして、融雪直後の冷たい水を大量に外部へ放出させ、下部の孔ほど径を小さくして熱を無駄に排出しないようにする。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施形態に係る融雪槽を断面で例示する図である。
【図2】図1の融雪槽を地面に埋設した状態を例示する図である。
【図3】図2の融雪槽に雪を投入する状態を例示する図である。
【図4】図2の融雪槽の下部を拡大して示す図である。
【符号の説明】
【0042】
10 融雪槽
11 下部融雪槽
18 上部融雪槽
12 底面
14 仕切板
15 排水小孔
20 開閉扉
21 把手
23 コンクリートベース
G 地面
N 雪
S 蓄熱空間
W 水
X 境界線(継ぎ目)
Z1 地熱
Z2 蓄熱空間Sから与えられる熱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下に埋設するコンクリート融雪槽であって、
底部に蓄熱空間を備え、
該蓄熱空間の上方に排水小孔を備えることを特徴とするコンクリート融雪槽。
【請求項2】
上部開口から蓄熱空間の下端面までの寸法を4m以上とすることを特徴とする請求項1記載のコンクリート融雪槽。
【請求項3】
排水小孔は、蓄熱空間の下端面から0.8〜1.5mの位置に設けることを特徴とする請求項1または請求項2記載のコンクリート融雪槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−127769(P2008−127769A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−310800(P2006−310800)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(500152887)日本アーク開発株式会社 (16)
【Fターム(参考)】