説明

コンタクトレンズ装着または保存剤または寒天含有点眼剤

【課題】涙液層を長時間安定化し、眼球表面の涙液層を滑らかに保つことができる組成物を含むコンタクトレンズ装着または保存剤または寒天含有点眼剤を提供すること。
【解決手段】寒天および水を必須成分とする組成物において、遠心分離器で25℃、40000×gで1時間遠心分離した後の沈殿寒天量が、全含有寒天量の65重量%未満である寒天組成物を含有するコンタクトレンズ装着または保存剤または寒天含有点眼剤は、角膜表面不正指数変化試験の結果より、優れた涙液層の安定化作用を有する。したがって、本発明のコンタクトレンズ装着または保存剤または寒天含有点眼剤は、眼球表面の涙液層を長時間安定に保持する効果を有し、人工涙液としても利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクトレンズ装着または保存剤または寒天含有点眼剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品、化粧品、トイレタリーなどの分野では、多糖類などから成る種々のゲル化剤、増粘剤が使用されており、ゲル状およびゾル状の製品が数多く上市されている。これらの分野では、ゾル/ゲル状態を厳密に制御することによって今までにない食感や塗布性、生体親和性、薬物滞留性、薬理的効果を付与する技術が求められている。
【0003】
多糖類の中でも、寒天は、既に食品等に広く利用されており、日本薬局方に掲載されていることからも安全性が高い。また、寒天は、水分の蒸発を抑制する保水作用を有することから、食品、医薬品、化粧品などの保水剤として有用であることが知られている。最近では、寒天のブランド別の保水効果の比較までなされている(非特許文献1)。
【0004】
寒天(agar)は、テングサやオゴノリなど各種の紅藻の細胞壁マトリックスに含まれる多糖であり、熱水で抽出して得られる。寒天は均一な物質ではなく、硫酸基を含まないアガロース(agarose)と硫酸基などを含むアガロペクチン(agaropectin)とに大きく分けられる。アガロースの割合は紅藻の種類によって異なり、例えばテングサ寒天ではアガロースが約70%を占める。
【0005】
塗布性や薬物滞留性を向上させるための低粘度の多糖類組成物が知られており、寒天をゲル化転移温度より高い温度で水系溶媒に溶解し、剪断力を加えながらゲル化転移温度以下に冷却することによって得られるマイクロゲルを含有する低粘度の液状多糖類組成物およびその製造方法が例えば特許文献1、2に開示されている。
【0006】
特許文献1には、多糖類組成物の眼科応用として薬物の組織移行性向上効果が開示されており、多糖類組成物が点眼剤の基剤として有用であることが知られている。
【0007】
一方、コンピュータ等の作業が日常化している昨今では、ドライアイ症状の多発化が眼科領域で問題視されている。眼球表面を覆っている涙液層は極めて薄く、滑らかに保たれているが、涙液層が不安定になるとその表面が滑らかでなくなる結果、まばたきをするまでの短時間のあいだにドライスポットという乾燥部分が生じ、角膜の一部が露出することがある。このように、眼球表面の涙液層が不安定化すれば、眼部に乾燥感や不快感を伴い、さらに角膜の露出が頻繁に生じると、角膜や結膜などの外眼部に深刻な障害を引き起こすことがある。この点、特許文献3の発明は、イオン性のコンタクトレンズにポリビニルピロリドンを吸着させて、イオンチャージを中和することにより涙液層を安定化するシステムに関するものであり、コンタクトレンズ用点眼剤や装着液に適している。
【0008】
寒天を眼科分野に応用する技術としては、例えば特許文献1及び4には、寒天を点眼剤の基剤として使用することにより、薬物の眼内移行性を向上させる点眼剤に関する発明が記載されている。
【0009】
これまでに多糖類、とりわけ寒天の薬理的効果については殆ど知られておらず、寒天を利用して眼球表面の涙液層を安定化するという発想は未だ無い。特に寒天と水系溶媒から成る多糖類組成物において、そのゾル/ゲル成分比を制御することによって、その組成物と接触した組織を安定化させる技術は未だ知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−128588号公報
【特許文献2】欧州特許第355908号明細書
【特許文献3】特開2001−247466号公報
【特許文献4】欧州特許第267015号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】In Vitro Cell. Dev. Biol. Plant, 35, 94-101 (1999))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
安全性に優れ、哺乳類に局所投与したとき粘膜組織上に均一に分散可能な組成物を見出すと共に、接触する組織の安定性向上を図れる組成物の開発が望まれている。特に、眼科分野においては涙液層を長時間安定化し、眼球表面の涙液層を滑らかに保つことができる組成物を含む点眼剤の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明者は、種々の化合物について検討した結果、驚くべきことに食品等に汎用され、入手が容易で、かつ、人体に対する安全性にも優れている寒天に代表される多糖類および水を必須成分とする組成物において、遠心分離器で25℃、40000×gで1時間遠心分離した後の沈殿多糖類量が、全含有多糖類量の65重量%未満であることを特徴とする多糖類含有組成物が、接触する組織の安定化効果を有することを見出した。この安定化効果を検証するため、角膜表面不正指数変化試験を実施して、低粘度の寒天含有組成物から成る点眼剤を点眼した後に眼球表面の球面不正(なお、球面不正は、角膜表面の涙液層の形状が不正になるほど大きくなる。)を経時的に測定した結果、寒天を含有する点眼剤は眼球表面の涙液層を顕著に安定化することが判明した。
【0014】
すなわち、本発明は、
(1)寒天および水を必須成分とする組成物において、遠心分離器で25℃、40000×gで1時間遠心分離した後の沈殿寒天量が、全含有寒天量の65重量%未満である寒天組成物を含有するコンタクトレンズ装着または保存剤。
【0015】
(2)寒天および水を必須成分とする組成物において、遠心分離器で25℃、40000×gで1時間遠心分離した後の沈殿寒天量が、全含有寒天量の65重量%未満である、眼球表面の涙液層を安定化させることを特徴とする寒天含有点眼剤。
【0016】
(3)ドライアイを治療または予防するための(2)記載の寒天含有点眼剤。
【0017】
(4)寒天の含有量が0.0001〜1重量%である(2)記載の寒天含有点眼剤。
【0018】
(5)寒天の含有量が0.001〜0.5重量%である(2)記載の寒天含有点眼剤。
【0019】
(6)寒天の重量平均分子量が1〜100万である(2)記載の寒天含有点眼剤。
【0020】
(7)点眼剤の粘度がE型粘度計(25℃、ずり速度:100s−1)で30mPas以下である(2)記載の寒天含有点眼剤、に関する。
【0021】
本発明で用いられる寒天は、特に制限はなく、例えば天草等の海草から容易に得ることができる寒天を使用することができる。また、市販の寒天は20〜30%の水分を含んでいるのが通常であるが、本発明の多糖類含有組成物において寒天を使用する場合、市販の寒天をそのまま使用してもよく、また、物理的又は化学的に修飾した寒天を使用することもできる。かかる寒天として、例えば伊那食品工業社製のUP−6、UP−16、UP−37、M−7、M−9、AX−30、AX−100、AX−200、BX−30、BX−100、BX−200、PS−5、PS−6、PS−7、PS−8などが挙げられる。本発明で使用する寒天は、種々のグレードのものを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
本発明の寒天の含有量は、特に制限されないが、0.0001〜1重量%であることが好ましい。より好ましい寒天の含有量は0.001〜0.5重量%であり、さらに好ましくは0.005〜0.1重量%である。寒天の含有量が0.0001重量%未満であると寒天による粘膜表層の安定化作用を充分には発揮せず、また、1重量%を超えると寒天含有組成物の粘度が上昇し、表面への広がりや浸透が悪化し、眼科用途に用いる場合には却って差し心地感が損なわれるからである。
【0023】
本発明の寒天の分子量は特に制限されないが、重量平均分子量が1〜100万であることが好ましい。より好ましい重量平均分子量は、2〜30万である。寒天の重量平均分子量が100万を超えると寒天含有組成物を低粘度に保つことが困難となるからである。なお、寒天の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定することができる。
【0024】
本発明のコンタクトレンズ装着または保存剤または寒天含有点眼剤の、遠心分離器で25℃、40000×gで1時間遠心分離した後の沈殿多糖類量は少ない方が好ましく、多すぎると粘膜表層への広がりや浸透を悪化させるだけでなく、とくに点眼剤の場合には差しごこち感を悪化させる。沈殿多糖類量は65重量%未満が好ましく、更に55重量%未満が好ましく、30重量%未満が最も好ましい。
【0025】
特に眼科用途で用いる場合の点眼剤の粘度は、E型粘度計(25℃、ずり速度:100s−1)で30mPas(=30センチポイズ)以下となるように調整することが好ましい。より好ましい点眼剤の粘度は、10mPas以下である。点眼剤の粘度が30mPasを越えると、差し心地が悪くなる傾向がある。
【0026】
本発明のコンタクトレンズ装着または保存剤または寒天含有点眼剤は、その一成分として好ましくは水系媒体を含む。水系媒体とは水を主成分とする液状の物質であり、水以外の成分は特に限定されないが、水の含有率が80重量%を越えるものが好ましく、90重量%を越えるものがより好ましい。
【0027】
本発明の寒天の性状には、特に制約はなく、遠心分離器で25℃、40000×gで1時間遠心分離した後に、沈殿寒天量が全含有寒天量の65重量%未満であればどんな性状でも良い。例えば寒天が完全に溶解した状態のものでも、寒天が部分的に溶解した状態のものでも、また、少なくともその一部が寒天の粒子として分散した状態のものでも良い。少なくともその一部が寒天の粒子として分散した状態のものとは、具体的には溶解した状態の寒天の他に粒子状の寒天が水に分散したものであり、粒子状の寒天の粒子径は100μm以下のものが好ましい。より好ましくは20μm以下のものであり、10μm以下のものがさらに好ましい。寒天の粒子径が100μmを超えると点眼剤の保存安定性に悪影響を及ぼし、また、点眼時に物感を感じるなど差し心地に劣ることがある。微粒子状の寒天の形態は特に限定されないが、例えば球状、楕円状の他に不定型な形状を挙げることができる。
【0028】
本発明のコンタクトレンズ装着または保存剤または寒天含有点眼剤は、多糖類と水系媒体とをゲル化転移温度以上、好ましくはゲル化転移温度+20℃以上に加温し、透明・均一な溶液状態とし、ついで応力を与えつつ、少なくともゲル化転移温度−20℃以下にまで冷却することによって得られる。均一な組成物が得られるという点でこの方法が最も好ましい。
【0029】
本発明の寒天含有点眼剤は、水に寒天を溶解または分散させることによっても得られるが、寒天を含有する水溶液を加熱して透明・均一な状態とし、必要に応じて、応力を与えつつ冷却することや超音波照射等の処理を行うことにより、寒天含有点眼剤の粘度を低下させることもできる。
【0030】
応力を加える方法としては、振動、撹拌、圧縮、粉砕などいずれでもよいが、液体に剪断力を加えることになるので、撹拌が最も好ましい。マグネティックスターラー、メカニカルスターラー、ミキサー、シェーカー、ローター、ホモジナイザーといった機器を用いて撹拌できる。また、冷却する手段は、空冷、水冷、氷冷、溶媒冷、風冷などが挙げられる。冷却はゲル化転移温度以下に冷却すれば原理的に十分であるが、実用的にはゲル化転移温度−20℃以下、あるいは、本発明のコンタクトレンズ装着または保存剤または寒天含有点眼剤はその使用が通常室温以下で行われることが多いので20℃程度にまで冷却する。冷却した後に、遠心分離器で25℃、40000×gで1時間遠心分離し、その上清を採取することによっても本発明の寒天含有組成物が得られる。また、冷却した後に得られる組成物を水系媒体で希釈して濃度を0.0001〜1重量%に合わせることによっても得られる。
【0031】
本発明の好ましい寒天含有点眼剤の態様としては、例えば重量平均分子量1〜100万の寒天0.0001〜1重量%を配合した粘度30mPas以下の点眼剤が挙げられ、より好ましい態様としては、重量平均分子量2〜30万の寒天0.001〜0.5重量%を配合した粘度10mPas以下の点眼剤である。
【0032】
本発明の寒天含有組成物には、等張化剤、緩衝剤、pH調節剤、可溶化剤、安定化剤、保存剤等を適宜配合して点眼剤、塗布剤などの製剤にすることができる。本発明のコンタクトレンズ装着または保存剤または寒天含有点眼剤は、接触組織、特に涙液層の安定化を目的とするものであるが、その目的を損なわない範囲で薬物を配合することもできる。
【0033】
その様な薬物としては、抗菌剤、抗炎症剤、抗ヒスタミン剤、抗緑内障剤、抗アレルギー剤、免疫抑制剤、代謝拮抗剤などが挙げられる。
【0034】
等張化剤としては、例えばグリセリン、プロピレングリコール、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ソルビトール、マンニトール等を挙げることができる。
【0035】
緩衝剤としては例えば、リン酸、リン酸塩、クエン酸、酢酸、ε-アミノカプロン酸、トロメタモール等を挙げることができる。
【0036】
pH調節剤としては、例えば塩酸、クエン酸、リン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ホウ酸、ホウ砂、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等を挙げることができる。
【0037】
薬物や他の添加物が水難溶性の場合などに添加される可溶化剤としては、例えばポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、マクロゴール4000等を挙げることができる。
【0038】
安定化剤としては、例えばエデト酸、エデト酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0039】
保存剤としては、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール等が挙げられ、これらの保存剤を組み合わせて使用することもできる。
【0040】
本発明の寒天含有組成物を製剤化する際には、pHは4.0〜8.0に設定することが望ましく、また、浸透圧比は1.0付近に設定することが望ましい。
【0041】
本発明の組成物は、ハードあるいはソフトコンタクトレンズの装着液または保存液としての使用も好ましい形態の一つとしてあげられ、特にドライアイなどで装着が困難な患者に適している。
【0042】
本発明の寒天含有点眼剤の点眼回数は症状、年令、剤型等によって適宜選択できるが、1日1回〜数回点眼すればよい。
【発明の効果】
【0043】
後述する角膜表面不正指数変化試験の項で詳述するが、本発明中の寒天含有組成物から成る点眼剤を点眼した後に眼球表面の球面不正を経時的に測定したところ、本発明の寒天含有点眼剤は、眼球表面の涙液層を長時間安定に保持する効果がある。また、本発明の点眼剤は、涙液分泌が不足する場合には人工涙液としての役割も併せもつ。さらに、本発明中の寒天含有組成物は、少量の寒天を含有するだけで涙液の安定化効果を発揮するので、眼科用途に用いた場合に点眼剤を低粘度に保つことができ、良好な差し心地感、うるおい感をもたらすと共に安全性にも優れている。なお、寒天とトレハロース(寒天と同様に保水作用を有する化合物)の涙液安定化効果を比較すれば明らかなように、寒天は単に水を蓄えるだけでなく、トレハロースには無い特異な性質により涙液を安定化している。
【0044】
即ち、寒天自体が涙液安定化効果を有することを見出したものである。この涙液安定化効果を発揮するには、寒天が均一に粘膜表面に分散する必要がある。そのメカニズムは明らかになっていないが以下のように考えられる。ゲル状の寒天は寒天の分子の鎖どうしが分子鎖間で水素結合を形成し、水分子を取り込みながららせん構造を取り、より高次で強力な構造であり、遠心により沈殿すると考えられる。一方、水系媒体中に存在する寒天分子の中には、安定ならせん構造を形成せずに水和している自由度の高い寒天分子が存在し、このような寒天分子は遠心しても沈殿しない。このような状態にある寒天分子を含む液を眼粘膜表面上に投与すると、寒天分子は眼粘膜表面上に広範囲に広がることができるので、涙液安定化効果を発揮するものと考えられる。同じ量の寒天から成る高次構造のゲルを投与しても、眼粘膜表層への接触面が狭く、接触しても広がらないため涙液安定化は起こり得ないと考えられる。眼粘膜以外の粘膜についても同様の考察ができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】球面不正指数変化の時間的推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下に、実施例を掲げて本発明を詳しく説明するが、これは本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0047】
[角膜表面不正指数変化試験]
本試験は、角膜形状測定装置を用いて、点眼剤を点眼した後の角膜表面の不正度(涙液層の不正度)を測定することによって、各被験点眼剤の涙液安定化作用を評価するものである。
【0048】
(1)被験溶液の調製
【実施例1】
【0049】
等張化剤として濃グリセリン2.6gを100mlフラスコにとり、精製水を加えて100mlとした。この溶液に寒天(AX−30:重量平均分子量約9万)0.1gを加え加熱し、約100℃で寒天を溶解させた後、マグネチックスターラーで攪拌しながら室温まで冷却し、微かに白濁した被験溶液1(粘度:2.9mPas)を得た。
【実施例2】
【0050】
寒天(AX−30)0.1gに代えて寒天(AX−30)0.01gを加えること以外は、調製例1と同様の操作を行って、透明な被験溶液2(粘度:1.1mPas)を得た。
【実施例3】
【0051】
精製水100mlに寒天(UP−6:重量平均分子量約22万)0.5gを加えて加熱し、約100℃で溶解させた後、マグネチックスターラーで攪拌しながら室温まで冷却し、白濁した寒天溶液を得た。この寒天溶液20mlに濃グリセリン2.6gを加え、精製水を加えて100mlとして、白濁した被験溶液3(粘度:1.5mPas)を得た。
【比較例1】
【0052】
等張化剤として濃グリセリン2.6gを100mlフラスコにとり、精製水を加えて100mlとして、透明な比較被験溶液1(粘度:1.0mPas)を得た。
【比較例2】
【0053】
等張化剤として塩化ナトリウム0.9gを100mlメスフラスコに取り、トレハロース1.0gを加え、攪拌溶解して、透明な比較被験溶液2(粘度:1.0mPas)を得た。
【比較例3】
【0054】
精製水100mlに寒天(AX−30)0.5gを加えて加熱し、約100℃で溶解させた後、ホモミキサーで攪拌しながら室温まで冷却し、白濁した寒天溶液を得た。この寒天溶液に濃グリセリン2.6gを加え、白濁した比較被験溶液3(粘度:約20 mPas)を得た。
【比較例4】
【0055】
精製水100mlに寒天(UP−6)0.5gを加えて加熱し、約100℃で溶解させた後、マグネチックスターラーで攪拌しながら室温まで冷却し、白濁した寒天溶液を得た。この寒天溶液に濃グリセリン2.6gを加え、白濁した比較被験溶液4(粘度:38.1 mPas)を得た。
【0056】
(2)沈殿寒天量測定
上記調製方法によって得られた各被験溶液3mLを、60℃のセーフティオーブンSPH−101(タバイ ESPEC社製)に入れて2時間放置後、更に120℃に昇温して2時間処理し水を完全に除いた。デシケーター内で25℃まで冷却した後、沈殿物の重量をAE160(Mettler社製)にて測定し、被験溶液の体積とそれから得られた沈殿寒天重量から被験溶液10mLに含まれる全含有寒天量を求めた。更に、各被験溶液10mLをインバータ・マルチパーパス高速冷却遠心機6930(KUBOTA社製、ローター:RA−120)を用いて25℃、40000×gで1時間遠心分離し、得られた沈殿についても同様に60℃、2時間と120℃、2時間の加熱処理で水分を除き、冷却後沈殿寒天重量を測定した。各被験溶液について全含有寒天量に占める沈殿寒天量割合を求めた。グリセリンを除去するために重量測定前に乾燥物をアセトンで洗浄後、乾燥した。
【0057】
(3)投与方法及び測定方法
上記調製方法によって得られた各被験溶液20μlを雄性日本白色ウサギの眼に全身麻酔下で点眼した後、強制開瞼下で0(点眼直後),10,20および30分後の角膜表面形状を角膜形状測定装置(トーメー社製、TMS−2N)を用いて測定し、球面不正指数(球面不正指数は角膜表面の涙液層の形状が不正になるほど大きな値となる。)および球面不正指数変化(点眼直後の球面不正指数を各時間における球面不正指数から減じた値をいう。)を算出した。これらの結果を表1に示し、球面不正指数変化の時間的推移を図1に示す。なお、各被験溶液の球面不正指数は、4例または5例の平均値を示す。
【0058】
【表1】

【0059】
(4)考察
表1および図1から明らかなように、実施例1〜3の寒天含有点眼剤は、寒天を配合しない基剤だけの比較例1よりも遥かに優れた涙液層の安定化効果を有する。他方、保水作用を有するトレハロースを配合した比較例2では、比較例1とほとんど同程度の涙液層の安定化効果しか示さない。これに対して、寒天を配合した実施例1〜3では、顕著な安定化効果がみられるので、涙液層の安定化作用は、寒天が均一に粘膜表面に分散した結果生じた寒天のもつ薬理的作用であって、保水作用に基づくものではないことが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
寒天および水を必須成分とする組成物において、遠心分離器で25℃、40000×gで1時間遠心分離した後の沈殿寒天量が、全含有寒天量の65重量%未満である寒天組成物を含有するコンタクトレンズ装着または保存剤。
【請求項2】
寒天および水を必須成分とする組成物において、遠心分離器で25℃、40000×gで1時間遠心分離した後の沈殿寒天量が、全含有寒天量の65重量%未満である、眼球表面の涙液層を安定化させることを特徴とする寒天含有点眼剤。
【請求項3】
ドライアイを治療または予防するための請求項2記載の寒天含有点眼剤。
【請求項4】
寒天の含有量が0.0001〜1重量%である請求項2記載の寒天含有点眼剤。
【請求項5】
寒天の含有量が0.001〜0.5重量%である請求項2記載の寒天含有点眼剤。
【請求項6】
寒天の重量平均分子量が1〜100万である請求項2記載の寒天含有点眼剤。
【請求項7】
点眼剤の粘度がE型粘度計(25℃、ずり速度:100s−1)で30mPas以下である請求項2記載の寒天含有点眼剤。

【図1】
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【公開番号】特開2010−65055(P2010−65055A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−269502(P2009−269502)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【分割の表示】特願2004−325832(P2004−325832)の分割
【原出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(000177634)参天製薬株式会社 (177)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】