説明

コンドロイチン分解酵素とその安定な製剤の精製法

【課題】本発明の観点は、コンドロイチン分解酵素の安定製剤及びコンドロイチン分解酵素の精製方法に関するものである。
【解決手段】コンドロイチン分解酵素を精製する方法は、前記酵素を細胞から抽出する工程と、陽イオン交換クロマトグラフィーを用いて前記粗細胞抽出物から前記コンドロイチン分解酵素を分離する工程と、ゲルろ過クロマトグラフィーにより不純物を除去する工程と、陰イオン交換膜によりエンドトキシンを除去して精製コンドロイチン分解酵素を生成する前記除去する工程とを有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願書類の相互参照
本出願書類は、2004年5月18日に出願された表題「コンドロイチン分解酵素の精製方法」の米国仮出願番号第60/572,030号、および2004年10月25日に出願された表題「cABCIの特性解析と製剤」の米国仮出願番号第60/621,882号に対して優先権を主張するものであり、その内容はこの参照により本願明細書に完全に組み込まれるものである。
【0002】
本発明の1つの態様は、コンドロイチン分解酵素の安定な製剤に関するものである。本発明の別の態様は、コンドロイチン分解酵素の精製法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
細胞外基質の主な構成要素であるプロテオグリカンは、グリア性瘢痕組織に大量に存在し、脊髄損傷後の回復を阻害することが知られている(FawcettおよびAsher、1999)。グリア性瘢痕組織を消化することができる酵素は、脊髄損傷(SCI)治療の開発において重要なターゲットである。コンドロイチン分解酵素ABCI(EC4.2.2.4;cABCI)は、プロテオグリカンの硫酸化コンドロイチンとデルマタン側鎖の消化を触媒する細菌酵素である。この酵素は脊髄損傷後の機能的回復を促進することが示されている(Bradburyら、2002;Caggianoら、2005)。
【0004】
脊髄は神経線維でできている。脊髄などの中枢神経系が損傷すると、機能が消失する。前記中枢神経系の損傷タイプにより、前記機能の消失自体は感覚、運動、または自律神経系機能の消失、またはその組み合わせとして現れる可能性がある。感覚機能は、疼痛など、感覚を感じる能力を含む。運動機能は、自発的に体を動かす能力を含む。自律神経系機能は、例えば発汗、呼吸能力など、不随意身体機能を含む。
【0005】
最も一般的な脊髄損傷(SCI)のタイプは、挫傷(脊髄挫傷)、(脊髄に長時間圧力がかかることによる)圧縮損傷を含む。挫傷においては、脊髄の中心に空洞または穴が形成することが多い。神経細胞、または末梢神経系(PNS)ニューロンと異なり、中枢神経系(CNS)ニューロンは損傷後に再生しない。
【0006】
脊髄損傷は、神経組織の挫傷、及びその結果生じる神経組織が神経インパルスを適切に伝達する能力の低下または消失によって特徴付けられる。通常の原因は何らかの衝突損傷によるものであるが、特定の外科的処置における脊髄の処置中に発生することもある。成人哺乳類の脊髄損傷後に軸策が再生できないと、感覚の消失、運動機能の消失および/または自律神経系機能の消失、また永久麻痺に至る可能性がある。ニューロンが再生できない理由の1つは、ニューロンが脊髄損傷後に発生するグリア性瘢痕を横断できないことである。障害による病変はグリア性瘢痕を発生させ、これはコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)などの細胞外基質分子を含む。CSPGはin vitroで神経組織の成長を阻害し、in vivoではCSPGが豊富な領域で神経組織の再生を阻害する。
【0007】
多数の分子とその特定領域は、神経細胞からの神経突起の発芽を支持する能力に関与していると考えられており、このプロセスは神経突起伸長とも呼ばれる。前記神経突起という用語は、軸策と樹状突起構造の両方を指す。この神経突起の発芽プロセスは、特に身体的損傷または疾患が神経細胞を傷害した後の神経の発達と再生に重要である。神経突起は、すべての動物種の中枢および末梢神経系いずれにおいても、発達中は盛んに伸長する。この現象は軸策と樹状突起の両方に関係する。
【0008】
様々なポリペプチド、特に細胞接着分子(CAM)は、神経系細胞の成長を促進ことが知られている。この研究分野の初期の努力では接着を促す細胞外基質タンパク質のフィブロネクチン(FN)に焦点を合わせていたが、他のポリペプチドは神経の成長を促すことも認められた。例えば、米国特許番号第5,792,743号明細書では、新規ポリペプチド、及び哺乳類において可溶性神経CAM、そのフラグメント、またはそのFc融合生成物を投与することによりCNSの神経成長を促す方法を開示している。米国特許番号第6,313,265号明細書では、末梢神経損傷およびCNSの領域のいずれにおいても、神経の再生と修復を促すために利用されうる、CAMの薬理学的に活性な領域を含む合成ポリペプチドについて開示している。有用であるが、前記再生タンパク質を単独で使用しても、損傷した神経系の修復をもたらすには十分ではないと考えられる。
【0009】
過去約20年の間、分子レベルでの細胞外基質(ECM)における細胞接着と遊走に関する知識は急速に拡大した。細胞外基質と基底膜の成分を分解する酵素と他のポリペプチドの作用は、結合サイトカインの放出など様々なメカニズムによって、また基質透過性を亢進し、それによって媒介分子、増殖因子、走化性物質、および治癒プロセスに関与する細胞の可動性を向上することで、神経修復の事象を促進する可能性がある。例えば、米国特許番号第5,997,863号明細書では、細胞増殖を操作し、創傷の治癒を促すグリコサミノグリカンの利用について開示している。
【0010】
抑制性CSPGの成分は、グリコサミノグリカン、コンドロイチン硫酸(CS)、デルマタン硫酸(DS)と同定されている。これらの抑制性分子を除去すると、神経突起が再生し、身体的損傷または疾患後の部位を神経再支配することができ、また感覚、運動、自律神経系機能を回復させることができる。
【0011】
これまでの研究では、コンドロイチン分解酵素がCSおよびDSなどのCSPGを溶解及び分解することができることが見出された。ある研究では、in vivoでコンドロイチン分解酵素ABCがラットCNS病変部の中およびその周辺でグリコサミノグリカン(GAG)を除去することが分かった。GAGの分解は増殖関連タンパク質GAP−43の発現を促し、これは処置を行った細胞の再生力を向上させることを示していた。しかし、この増殖関連タンパク質は末梢神経の損傷では再生と関連していたが、中枢神経の損傷では関連していない。
【0012】
コンドロイチン硫酸(CS)は、繰り返し二糖の直鎖硫酸化多糖類である。分子量は約10,000〜100,000Daより大きい範囲である。コンドロイチン硫酸の基質は、追加文字A、B、及びCで指定される異なる異性体として存在する(Hoffmanら、1958)。繰り返し単位はウロン酸(GlcAまたはIdoA)およびガラクトサミンで構成されており、ガラクトサミノグリカンと呼ばれ、典型的にはGAGと略されるグリコサミノグリカンの一例である。これらのGAG鎖の種類には様々な繰り返し二糖領域があるが、いわゆる連鎖領域の四糖類配列(下記を参照)から、各コアタンパク質のGAG結合共通配列(Glu/Asp−X−Ser−Gly)にあるセリン残基に共有結合する。コンドロイチンAおよびC硫酸(ChS−A、ChS−C)は最もGAGに富み、軟骨、骨、心臓弁に認められる。コンドロイチンB(ChS−B、または代わりにデルマタン硫酸)は、主として皮膚、血管、心臓弁に発現される。
【0013】
コンドロイチン分解酵素の細菌標本が様々なコンドロイチン硫酸(ChS)基質に対して特徴付けられる場合、一連の明確に異なるコンドロイチン分解酵素が発見されたが、それは、主にコンドロイチンA(ChA)とコンドロイチンC(ChC)を分解するコンドロイチン分解酵素AC(Yamagataら、1968)、コンドロイチン(ChB)を分解するコンドロイチン分解酵素B(MichelacciおよびDeitrich、1976)、主にChCに作用するコンドロイチン分解酵素C(Michelacci YMおよびDietrich CP、1976)であり、コンドロイチン分解酵素ABCは3種類の基質ChS−A、ChS−B、ChS−Cすべてに特異性を示すものである(Yamagataら、1968、Michelacciら、1987)。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の1つの態様においては、コンドロイチン分解酵素、及び緩衝液、好ましくはリン酸ナトリウム緩衝液を有する安定製剤を提供するものである。1つの実施例では、コンドロイチン分解酵素ABCI、及び約100mMのリン酸ナトリウムを有する製剤が提供される。
【0015】
本発明の別の態様では、コンドロイチン分解酵素の精製法を提供する。1つの実施例において、コンドロイチン分解酵素の精製法は、細胞からコンドロイチン分解酵素を抽出する工程と、好ましくは陽イオン交換クロマトグラフィーを利用する工程と、前記抽出液から前記コンドロイチン分解酵素を分離する工程と、好ましくはゲルろ過クロマトグラフィーを利用する工程と、汚染物質と不純物を除去する工程と、好ましくは陰イオン交換を利用する工程と、エンドトキシンを除去する工程とを有する。前記方法はさらに透析工程を有してもよい。前記方法はさらに乾燥する工程を有してもよい。好ましい実施例では、前記コンドロイチン分解酵素はコンドロイチン分解酵素ABCIである。別の好ましい実施例では、前記コンドロイチン分解酵素はコンドロイチン分解酵素ACである。
【0016】
一般に、前記細胞は界面活性剤を含む緩衝溶液に懸濁され、超音波処理される。前記コンドロイチン分解酵素はその後、前記抽出混合物から捕捉又は分離され、好ましくは陽イオン交換カラムに前記抽出液を通過させることによって捕捉又は分離される。汚染物質及び不純物は、好ましくはゲルろ過によって捕捉したコンドロイチン分解酵素から除去される。エンドトキシンは、好ましくは陰イオン交換カラムにより、前記コンドロイチン分解酵素検体から除去される。1つの実施例では、前記コンドロイチン分解酵素検体が好ましくは揮発性緩衝液により透析されてもよい。前記コンドロイチン分解酵素はさらに乾燥または凍結乾燥により処理されてもよい。1つの実施例では、前記コンドロイチン分解酵素はコンドロイチン分解酵素ABCである。さらなる実施例では、前記コンドロイチン分解酵素はコンドロイチン分解酵素ACである。さらなる実施例では、前記コンドロイチン分解酵素は遺伝子組み換えコンドロイチン分解酵素である。
【0017】
本発明の別の態様においては、配列ID番号:1のコンドロイチン分解酵素ABCIを有する遺伝子組み換え発現ベクターを提供する。別の実施例では、配列ID番号:2のコンドロイチン分解酵素ABCIを有する遺伝子組み換え発現ベクターを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の組成物および方法を説明する前に、説明される特定の分子、組成物、方法論または手順は、様々である可能性があるため、本発明はこれらに限定されないことは理解されるものとする。前記説明に使用される用語は、特定の種類または実施例のみを説明することを目的としたものであり、添付の請求項のみに限定される本発明の範囲を限定する意図はないことも理解されることとする。
【0019】
本文および添付の請求項に用いられるとおり、文脈が明確に異なることを示していない限り、単数型の「a」、「an」、「the」は複数の言及も含めることにも留意しなければならない。従って、例えば、「細胞(cell)」という言及は1若しくはそれ以上の細胞および当業者に周知の同等物などに言及している。それ以外に定義されていない限り、本文に用いられるすべての技術的及び科学的用語は、当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本文に説明したものと同様またはそれに相当するすべての方法および材料は、本発明の実施例を実行または検討するために用いることができるが、前記好適な方法、装置、及び材料が今回報告される。本願明細書において述べられたすべての公開物は、参照として本願明細書に組み込まれるものとする。本願明細書では、先行発明のために、本発明がそのような開示を予期する権利はないことの承認として解釈されることはない。
【0020】
本願明細書において用いられる「約」という用語は、それが使用される数値のプラスまたはマイナス10%を意味する。従って、約50%は45%〜55%の範囲を意味する。
【0021】
「遺伝子組み換えタンパク質」という用語は、遺伝子組み換えDNA技術によって生成される本発明のポリペプチドを指し、一般的に、ポリペプチドをコードするDNAは、適切な発現ベクターに挿入され、これが宿主細胞に変換し、タンパク質を生産するために用いられる。さらに、遺伝子組み換え遺伝子に関する「由来する」という表現は、「組み換えタンパク質」の意味に天然タンパク質のアミノ酸配列を有するこれらのタンパク質、またはそこに天然型タンパク質の置換および欠失(切断を含む)などの変異によって生成された同様のアミノ酸配列を含むことを意味する。
【0022】
「治療的有効量」または「有効量」という用語は、本願明細書において用いられるとおり同義的に使用されてもよく、本発明の治療化合物成分の量を指す。例えば、治療化合物の治療的有効量は、望みの効果を達成するため、つまり前記中枢神経系の損傷を効果的に治療するために計算された所定の量である。例えば、本発明の方法により精製され、安定な活性酵素を提供する製剤とした、治療的有効量のコンドロイチン分解酵素を有する治療化合物は、脊髄病変部のCSPGを分解するのに十分であるか、前記哺乳類の運動、感覚、自律神経機能の全体または一部を修復するのに十分な量であり、損傷部位への軸策成長を促すなど、中枢神経系のニューロンが再生することもある。
【0023】
「ベクター」という用語は、前記核酸分子を輸送することができる媒体を指す。前記コンドロイチン分解酵素ペプチドをコードする核酸分子は、前記ベクター核酸に共有結合する。本発明のこの態様においては、前記ベクターは、プラスミド、一本鎖または二本鎖ファージ、一本鎖または二本鎖RNAまたはDNAウイルスベクター、またはBAC、PAC、YAC、MACなどの人工染色体であっても良い。
【0024】
本願明細書において用いられるコンドロイチン分解酵素は、これだけに限らないが、コンドロイチン分解酵素ABCI、コンドロイチン分解酵素ABCII、コンドロイチン分解酵素AC、コンドロイチン分解酵素B、またはHyal1、Hyal2、Hyal3、Hyal4、PH2Oなどのコンドロイチン分解酵素様活性を有する哺乳類の酵素を含む。
【0025】
コンドロイチン分解酵素は、コンドロイチン分解酵素を自然に発現する微生物、例えばこれだけに限らないが、E.coli、Proteus vulgarisから得られ、または宿主細胞の遺伝子組み換えタンパク質の発現から得られる。前記宿主細胞は、原核細胞(E.coliなど)または真核細胞(酵母、哺乳類細胞、または昆虫細胞など)であっても良い。
【0026】
本発明の1つの実施形態において、Proteus vulgarisの遺伝子組み換えコンドロイチン分解酵素ABCIがE.coliで過剰発現された。このタンパク質の主な配列は以下に示すとおりであり:
【0027】
【化1】

【0028】
ここで、太線または下線付きの残基はGeneBank配列内の残基と相関していない残基を示し、イタリックの残基はプロセシングした酵素から切断されると報告されたペプチド配列を示す(Khandke,1996)。
【0029】
別の実施形態において、遺伝子組み換えコンドロイチン分解酵素は、以下の配列を有する加工された酵素のアミノ酸配列から生成されることができる。
【0030】
【化2】

【0031】
遺伝子組み換えコンドロイチン分解酵素遺伝子の発現は、コンドロイチン分解酵素タンパク質をコードする核酸、またはその一部を原核細胞、真核細胞、またはその両方での発現に適したベクターに連結することで作成することができる。連結方法は当業者に周知である。対象コンドロイチン分解酵素ポリペプチドの遺伝子組み換え体を産生するための発現ベクターは、プラスミドと他のベクターを含む。例えば、コンドロイチン分解酵素ポリペプチドの発現に適したベクターは、E.coliなどの原核細胞の発現用pBR322由来プラスミド、pEMBL由来プラスミド、pEX由来プラスミド、pBTac由来プラスミド、pUC由来プラスミドなどのプラスミドタイプを含む。
【0032】
酵母の遺伝子組み換えタンパク質の発現用には多数のベクターが存在する。例えば、YEP24、YIP5、YEP51、YEP52、pYES2、YRP17は、S.cerevisiaeに作成した遺伝子を導入する際に有用な、クローニングおよび発現媒体である(例えば、この参照により本願明細書に組み込まれるBroachら(1983)のExperimental Manipulation of Gene Expression,ed.M.Inouye Academic Press,p.83を参照)。これらのベクターは、pBR322由来の複製があるためE.coliで複製でき、酵母2ミクロンプラスミドの複製決定因子のためS.cerevisiaeで複製できる。さらに、アンピシリンなど、薬剤耐性マーカーを利用してもよい。
【0033】
別の実施形態において、コンドロイチン分解酵素ポリペプチドは、配列ID番号:1または配列ID番号:2で表される前記コンドロイチン分解酵素タンパク質の1つのコード化配列をサブクローニングすることで生成される発現ベクターを用いて、遺伝子組み換え技術により生成される。
【0034】
哺乳類の発現ベクターは、細菌中の前記ベクターの増殖を促す原核生物の配列、及び真核細胞に発現される1若しくはそれ以上の真核生物の転写単位を含んでもよい。pcDNAI/amp、pcDNAI/neo、pRc/CMV、pSV2gpt、pSV2neo、pSV2−dhfr、pTk2、pRSVneo、pMSG、pSVT7、pko−neo、pHyg由来ベクターは、真核細胞の形質移入に適した哺乳類発現ベクターの例である。これらのベクターの一部はpBR322などの細菌プラスミド配列で修正され、原核細胞と真核細胞両方の複製と薬物耐性選択を促す。或いは、ウシパピローマウイルス(BPV−1)などのウイルス派生物、またはエプスタインバーウイルス(pHEBo、pREP由来、p205)を真核細胞タンパク質の一過性発現に用いることができる。プラスミドの調整と宿主微生物の変換に利用される様々な方法は、当該分野で周知である。原核細胞と真核細胞両方に適した他の発現システム、及び一般的な遺伝子組み換え方法については、この参照により本願明細書に組み込まれるSambrook、Fritsch、ManiatisのMolecular Cloning A Laboratory Manual,2nd Ed.(Cold Spring Harbor Laboratory Press:1989)第16章および17章を参照。
【0035】
ある場合によっては、バキュロウイルス発現系などの昆虫発現系を利用することで、前記遺伝子組み換えコンドロイチン分解酵素ポリペプチドを発現することが望ましいと考えられる。そのようなバキュロウイルス発現系の例には、pVL由来ベクター(pVL1392、pVL1393、pVL941など)、pAcUW由来ベクター(pAcUW1など)、pBlueBac由来ベクター(β−gal含有pBlueBac IIIなど)を含む。
【0036】
本願明細書に掲載した発現ベクターは例としてのみ提供され、前記核酸分子を発現するために有用と考えられる、当業者が利用できる周知のベクターを示している。当業者であれば、本願明細書において説明した核酸分子の増殖または発現を管理するために適した他のベクターも周知であり、それらは、例えばSambrook,J.,Fritsh,E.F.,and Maniatis,T.Molecular Cloning:A Laboratory Manual.2nd,ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989において見出されるものであり、これらのテキストは本願明細書に組み込まれるものとする。
【0037】
N−末端の一部がない形態、つまりシグナルペプチドがない切断変異体など、コンドロイチン分解酵素タンパク質の一部のみを発現することが望ましい場合は、開始コドン(アミノ酸のメチオニンをコードするATG)を発現される望ましい配列を含むオリゴヌクレオチドフラグメントに追加することが必要と考えられる。前記N末端部分のメチオニンは、酵素メチオニンアミノペプチターゼ(MAP)を利用して酵素的に開裂することができることは周知である。MAPはE.coli(Ben−Bassat et al.(1987)J.Bacteriol.169:751−757)及びSalmonella typhimuriumからクローニングされ、そのin vitro活性は遺伝子組み換えタンパク質で証明されている(Miller et al.(1987)PNAS84:2718−1722)。従って、N末端メチオニンの除去は、望ましい場合には、MAPを産生する宿主のコンドロイチン分解酵素由来ポリペプチド(例えば、E.coliまたはCM89またはS.cerevisiae)を発現することでin vivoで達成されるか、精製MAPを利用してin vitroで達成されうる。
【0038】
発現ベクターはシス作用型調節領域を含み、これは前記ベクター中、前記コンドロイチン分解酵素核酸に操作的に結合されており、宿主細胞で前記核酸分子の転写が可能となる。
【0039】
前記遺伝子組み換え宿主細胞は、当業者が容易に利用できる技術により、前記細胞に前記ベクター作成物を導入することで調整される。これには、これだけに限らないが、リン酸カルシウム形質移入、DEAE−デキストランによる形質移入、カチオン性脂質による形質移入、電気穿孔法、形質導入、感染、リポフェクション、及びSambrookら(Molecular Cloning:A Laboratory Manual.2nd,ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989)に見られるような他の技術を含む。
【0040】
当該分野で周知の通り、コンドロイチン分解酵素ポリペプチドは、標準的な生物学的技術または化学合成により生成されうる。例えば、対象ポリペプチドをコードしたヌクレオチド配列の発現を指示する核酸ベクターを形質移入した宿主細胞は、適切な条件下で培養され、前記ペプチドの発現が可能となる。前記コンドロイチン分解酵素ポリペプチドは、細胞と前記遺伝子組み換えコンドロイチン分解酵素ポリペプチドを含む培地との混合物から分泌、単離されてもよい。本願明細書において説明される本発明の態様は、精製法について提供するものであり、前記コンドロイチン分解酵素は、現在利用されている方法よりも安定で活性の高い純粋な形態で単離される。
【0041】
或いは、前記ペプチドは、前記遺伝子組み換えコンドロイチン分解酵素遺伝子、及び採取及び溶解された細胞、及び本願明細書において説明した精製方法によって単離されるタンパク質からシグナルペプチド配列を除去することで、細胞質が保持されてもよい。
【0042】
本発明の1つの態様に沿って、コンドロイチン分解酵素の精製方法は、1)細胞から前記酵素を抽出する工程と、2)陽イオン交換クロマトグラフィーを用いて粗細胞抽出物を分離する工程と、3)ゲルろ過クロマトグラフィーを用いて前記抽出物をさらに分離する工程と、4)陰イオン交換膜からエンドトキシンを除去し、従来の方法で精製したコンドロイチン分解酵素と比べて高い活性を示す精製コンドロイチン分解酵素を産生する前記除去する工程以下の工程とを有するものである。
【0043】
細胞からのコンドロイチン分解酵素の抽出は、界面活性剤を追加した緩衝溶液を用いることにより、より効率的に行うことができる。界面活性剤は、可溶化傾向を有し、反対の極性群を含む界面活性剤である。これらの試薬は、細胞の整合性を崩壊するために使用されてもよい。従って、界面活性剤は、細胞から酵素を抽出するために使用されうる。細胞からのコンドロイチン分解酵素の抽出を促すことができる界面活性剤を本発明で使用することができ、好ましくは前記界面活性剤は非イオン性界面活性剤である。
【0044】
使用可能な非イオン性界面活性剤には、これだけに限らないが、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンp−t−オクチルフェニルエーテル、ポリソルベートなどを含む。エマルゲン系界面活性剤、リポノックス系界面活性剤、ブリジ(Brij)系界面活性剤などは、ポリオキシエチレンアルキルエステルの具体例として示される。これらのうち市販の界面活性剤は、エマルゲン120、エマルゲン109P、リポノックスDCH、ブリジ35、78、76、96、56、58、98、ニコール(Nikkol)BL−9EX、BL−21、BL−25などである。ポリオキシエチレンp−t−オクチルフェニルエステルの具体例としては、トリトン系界面活性剤、ノニデットP40系界面活性剤、Igepal/CA系界面活性剤、Polytergent G、Neutronyx系界面活性剤、Conco系界面活性剤などがある。これらのタイプの界面活性剤のうち、トリトンX−100、X−45、X−114、X−102、X−165、X−305、X−405、ノニデットP−40、Igepal CA−630、Neutronyx 605、Conco NIX−100などが市販されている。Tween系界面活性剤、Emasol系界面活性剤、Sorbester系界面活性剤、Crill系界面活性剤などは、ポリソルベートの具体例として示される。Tween80として市販されているソルビタンモノ−9−オクタデカン酸ポリ(オキシ−1,2−エタンジル)誘導体は、ポリソルベートなどとして好まれる。
【0045】
上記界面活性剤のうち、トリトンX界面活性剤が好ましく、これに限らないがトリトンX−114を含む。一般に、これに限らないがトリトンXなどの洗剤は、抽出される細胞サンプルに追加されうる。本発明の1つの実施形態においては、前記洗剤濃度は約0.1%〜約10%(v/v)、好ましくは約0.1%〜約3%(v/v)の範囲、またより好ましくは約0.2%〜約2%の範囲とすることができる。
【0046】
本発明の1つの実施形態においては、前記抽出工程に超音波処理を含んでもよい。超音波処理には、脆弱性の細胞(例えば、トリトンXなどの界面活性剤に曝露することで脆弱性にする)を破壊する超音波を使用する皇帝を含む。これにより前記細胞を分散、崩壊し、前記細胞の整合性がさらに破壊され、それによって細胞内成分が放出される。超音波処理には、パルスまたは連続的超音波照射のいずれかまたは両方を含んでもよい。例えば、前記細胞の超音波処理に小さな(マイクロ)プローブが利用されうる。前記超音波処理器はパルス(非連続)にセットすることができる。別の実施形態においては、前記超音波処理器を連続にセットすることができる。さらなる実施形態においては、前記超音波処理工程にパルスおよび連続超音波処理を併用してもよい。1つの実施形態においては、前記細胞懸濁液は10秒間の短時間集中照射10回の後、30秒間の冷却期間をおいて超音波処理されてもよい。前記サンプル成分の過熱を避けるために、超音波処理中、前記細胞懸濁液は氷上に設置しても良い。超音波処理後、前記細胞片を遠心分離によって取り除いてもよい。破壊する細胞のタイプによって、当業者が容易に判断できる他の超音波処理法を利用してもよい。
【0047】
別の実施形態においては、酵素抽出にポリトロンによる均質化が関与してもよい。この工程では機械的に前記界面活性剤処理細胞をすり砕き、そこで細胞統合性を破壊し、細胞成分を溶液に放出することでさらに精製する。一般に、前記サンプルは氷上に維持し、前記サンプルの加熱を阻止または制限する。前記サンプルは約30秒間、または前記細胞の塊が分散するまで均質化してもよい。ポリトロンによる均質化を実施する方法は、当該分野で周知である。
【0048】
前記コンドロイチン分解酵素は、イオン交換クロマトグラフィーを用いて前記細胞抽出物から捕捉されてもよい。イオン交換クロマトグラフィーでは、帯電した物質が反対の荷電を持つカラム物質を用いることによって分離される。2つの交換体のタイプは、塩基性(プラス荷電)と酸性(マイナス荷電)に区別される。前記イオン交換体のタイプは、さらに弱塩基性または弱酸性、または強塩基性または強酸性に分類され得る。強塩基性または強酸性物質を用いると、すべての官能基は一般にイオン化形として存在する。例えば、4級アミノ基(R)はプラスに荷電するが、スルホン酸基(SO)はマイナスに荷電する。弱塩基性および弱酸性タイプのイオン交換体カラムも存在する。弱塩基性タイプは一般に2級および3級アミノ官能基であり、弱酸性タイプは一般にカルボキシル官能基である。
多くのタンパク質はポリアニオン(pH>pl)またはポリカチオン(pH<pl)として分類される。最も一般的なイオン交換体のグループは、これだけに限らないが、ジメチルアンモニウムメチル(陰イオン)、ジエチルアミノエチル(陰イオン)、ジメチルアミノエチル(陰イオン)、カルボキシ(陽イオン)、カルボキシアルキル(陽イオン)、スフォイソブチル(sufoisobutyl)(陽イオン)、スルホアルキル(陽イオン)、スルホプロピル(陽イオン)、スルホエチル(陽イオン)を含む。
【0049】
前記細胞抽出液から前記酵素を捕捉するために、得られた抽出液を陽イオン交換クロマトグラフィーに通してもよい。陽イオン交換樹脂を利用することによって、前記粗溶解物と比べて、活性及び純度が上昇したコンドロイチン分解酵素が生成する。例えば、これに限らないが、カルボキシアルキル基及びスルホアルキル基またはスルホプロピル基のそれぞれを有する陽イオン交換樹脂など、弱または強陽イオン交換樹脂を使用してもよい。他の陽イオン交換樹脂は当該分野で周知である(上記参照)。
【0050】
従って、本発明の1つの実施形態においては、前記サンプルを前記陽イオン交換クロマトグラフィーに充填し、前記陽イオン交換体を洗浄し(イオン強度が増加することにより、および/またはpH変化、つまり陽イオン交換クロマトグラフィーの条件によってコンドロイチン分解酵素以外の細胞成分が洗い流される)、イオン強度および/またはpH変化のさらなる増加により前記コンドロイチン分解酵素サンプルが溶出することによって、前記細胞抽出液から前記酵素が捕捉されうる。
【0051】
陽イオン交換クロマトグラフィーに用いる緩衝液は、これに限らないが、表1に掲載されるものを含む。
【0052】
【表1】

【0053】
会合体および低分子量の汚染物質及び不純物の除去は、例えばゲルろ過またはサイズ排除クロマトグラフィーなど、様々なろ過法により実施することができる。市販のゲルろ過の例は、SephadexおよびSephacrylである。
【0054】
ゲルろ過クロマトグラフィーはサイズによる分離である。分子排除またはゲル浸透クロマトグラフィーとも呼ばれる。ゲルろ過クロマトグラフィーでは、固定相が細孔の大きさが十分明確な範囲の多孔質ビーズから成る。ゲルろ過の固定相は分画範囲を有すると言われ、この分子量範囲内の分子が分離されうることを意味する。
【0055】
従って、十分に小さなタンパク質は前記ビーズの細孔すべてに入り、包含されると言われている。これらの小さなタンパク質は、ビーズ内の移動相とビーズ間の移動相に接触し、最後にゲルろ過分離溶出される。大きすぎてどの細孔にも入らないタンパク質は排除されると言われている。これらはビーズ間の前記移動相のみと接触するため、最初に溶出する。中間サイズのタンパク質は部分的に包含され、前記ビーズの細孔のすべてではないが、一部に入ることができる。これらのタンパク質は大きな(「排除された」)タンパク質と小さな(「完全に包含された」)タンパク質の間に溶出する。
【0056】
細胞溶解物調整時に存在する可能性がある別の汚染物質はエンドトキシンである。エンドトキシンは生物系によく見られる毒性汚染物質である。細菌の細胞壁成分であるエンドトキシンは、十分に除去することが重要である。エンドトキシンは、E.coliなど、ほとんどのグラム陰性菌細胞壁にあるリポポリサッカライドである。タンパク質に含まれるエンドトキシンは、非常に少量で高熱、エンドトキシンショック、炎症イベントの症状を引き起こすことが知られている。細菌抽出物はエンドトキシンにより非常に汚染されているため、本発明の実施形態は精製方法においてエンドトキシン除去工程を含めることができる。エンドトキシンを除去するためには、これらに限らないが、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、限外ろ過、界面活性剤を用いた相分離など、様々な方法が利用されてもよい。
【0057】
本発明の1つの実施形態においては、前記エンドトキシンが陰イオン交換カラムを用いて除去される。陰イオン交換クロマトグラフィーの例には、これらに限らないがQ膜、4級アミン、及びジエチルアミノエタン(DEAE)樹脂を含む。陰イオン交換クロマトグラフィーに用いる緩衝液は、これらに限らないが、表2に掲載されるものを含む。
【0058】
【表2】

【0059】
前記方法の様々な工程において、好ましくはゲルろ過前の精製中に、分配があっても良い。Q膜を通過させるろ過は、エンドトキシン洗浄工程の別の代替法である。1つの実施形態においては、20mMの酢酸ナトリウム及び100mMのNaCl中、pH5.5でQ膜ろ過が利用されうる。K.C.HouおよびR.Zaniewski、Biotech.Appl.Biochem.12,315−324,1990によれば、これらのpHと塩の条件では約70〜85%の範囲のエンドトキシンが除去されると予想される。1つの実施形態においては、貫流回収モードのQろ過工程では、コンドロイチン分解酵素約95%以上が得られる。Q膜ろ過は、例えばゲルろ過後の精製の最後の時点など、工程中の様々な時点で実施されてもよい。
【0060】
従って、本発明の1つの実施形態においては、前記サンプル中の前記コンドロイチン分解酵素から前記エンドトキシンを除去する方法が、前記サンプルを前記陽イオン交換クロマトグラフィーに充填し、前記陽イオン交換体を洗浄し(イオン強度が増加する、および/またはpH変化、つまり陽イオン交換クロマトグラフィーの条件によって前記不純物が洗い流される)、イオン強度および/またはpH変化のさらなる増加により前記コンドロイチン分解酵素サンプルを溶出する工程を含んでもよい。
【0061】
透析は、通常はタンパク質を基に、1つの培地から別の培地に生物学的サンプルを移動するために、最も一般的に利用される方法の1つである。前記精製の1つの工程が終わった後、次の工程が効率的に進行するように、塩の除去、又は緩衝液の交換が必要な場合が多い。これは透析によって達成され、小さな分子つまり塩が半透膜を自由に透過し、大きな分子つまりタンパク質がそのまま残るように、前記タンパク質溶液は半透膜に入れられ、前記緩衝液に入れられる。本発明の1つの実施形態においては、さらにコンドロイチン分解酵素を精製する透析工程を含む。前記透析工程には、pH8.0の炭酸アンモニウムなどの揮発性緩衝液が使用されてもよい。他の緩衝液も利用可能である。選択緩衝液の選択は、前記タンパク質が透析されるのに適したものとする必要がある。そのような緩衝液は当該分野で周知である(例えば、これらに限らないが、Trisを基本とした緩衝液、リン酸緩衝液など)。透析に使用される緩衝液は、単離されるタンパク質を安定化するのに適したpHを維持することができるすべての緩衝液でありうる。
【0062】
精製したコンドロイチン分解酵素の保存と分配では、コンドロイチン分解酵素を精製する方法においてさらに乾燥工程を含んでもよい。前記乾燥工程には、従来の加熱乾燥、またより好ましくは凍結乾燥またはフリーズドライを含んでもよい。
【0063】
本発明の実施形態においては、前記酵素収率をモニターする方法を含んでもよく、逆相HPLCによる精製分析結果がさらに提供される。これは、前記精製方法におけるいずれかまたはすべての工程の後に実施されてもよい。
【0064】
本発明の1つの実施形態においては、前記最終酵素収量を1Lの培養細胞から最高約50mgのコンドロイチン分解酵素とすることができる。さらなる実施形態においては、最終酵素収量を細胞1L当たり75〜85mgの範囲とすることができる。
【0065】
本発明の精製コンドロイチンは、以下の特性の1若しくはそれ以上で特徴付けられ、その特性は、酵素活性、pI、基質特異性、基質触媒反応率、二価金属塩の阻害作用、最適保存緩衝液pH、様々なストレス条件の作用、最適な緩衝液とイオン強度、様々な賦形剤での酵素の安定性、熱安定性に対する酵素濃度の作用である。
【0066】
コンドロイチン分解酵素ABCIは、本発明の実施形態に沿って精製および製剤化されうるコンドロイチン分解酵素の例として利用した。凍結乾燥した精製コンドロイチン分解酵素ABCIは再溶解し、活性を測定し、これは他の供給源から利用できるコンドロイチン分解酵素ABCI酵素の活性と比較した。本発明のコンドロイチン分解酵素ABCI酵素の活性は、比較的高い酵素製剤であった。前記精製コンドロイチン分解酵素ABCIの活性は約160U/mgである。本発明の精製コンドロイチン分解酵素ABCIのpIは約7.8〜約8.0である。前記精製コンドロイチン分解酵素ABCIの親和性は、コンドロイチンA、コンドロイチンB、コンドロイチンCで同等である。本発明の精製コンドロイチン分解酵素ABCIの基質触媒反応率は、コンドロイチンCよりコンドロイチンAで大きく、コンドロイチンBの触媒反応率よりも大きい。
【0067】
二価金属塩はコンドロイチン分解酵素の活性を阻害することがある。例えば、前記精製コンドロイチン分解酵素ABCIはZn、Ni、Coで阻害されうる。CaとMgは阻害作用が低いように思われる。保存緩衝液のpHは、前記精製コンドロイチン分解酵素の活性に影響しない。好適な実施形態においては、前記保存緩衝液がpH7.4の生理的pHである。
【0068】
コンドロイチン分解酵素は一般に様々な有害条件の影響を受ける可能性があるが、本発明の精製コンドロイチン分解酵素は繰り返し凍結及び解凍しても影響を受けないように思われる。
【0069】
様々な実施形態において、保存及び投与の両方のための酵素の安定製剤が提供される。一般に、そのような安定製剤のコンドロイチン分解酵素は約24時間の時点で少なくとも約50%の活性、好ましくは少なくとも約75%の活性、より好ましくは少なくとも約85%の活性を示す。本発明の別の態様においては、前記製剤が一貫して安定したコンドロイチン分解酵素活性を提供する。
【0070】
1つの実施形態において、前記コンドロイチン分解酵素はリン酸緩衝液、好ましくは濃度が約50mM〜約1Mの範囲のリン酸ナトリウム緩衝液中に作成される。好適な実施形態においては、約750mMのリン酸ナトリウムである。別の好適な実施形態においては、約100mMのリン酸ナトリウムである。さらなる実施形態において、前記コンドロイチン分解酵素は、さらに酢酸ナトリウムを有するリン酸ナトリウム緩衝液中に作成されてもよい。酢酸ナトリウムは25mM〜約75mMの範囲としてもよい。好適な実施形態において、前記酢酸ナトリウムの濃度は約50mMである。1つの実施形態において、好適な投与製剤はpH約7.4の緩衝液に作成されたコンドロイチン分解酵素である。保存および投与用製剤に関するさらなる実施形態が、記載される実施例において提供される。
【0071】
さらなる実施形態において、精製コンドロイチン分解酵素を有する製剤とイオン強度の増加を有する緩衝液が提供される。製剤が増加したイオン濃度を有する実施形態において、酵素製剤の安定性が強化される可能性がある。例えば、好適な実施形態において、リン酸ナトリウム中NaClは約1Mの製剤を提供する。リン酸ナトリウムの濃度は約50mMである。好適な実施形態において、前記コンドロイチン分解酵素の保存濃度は約0.4mg/ml未満である。
【0072】
1つの実施形態において、コンドロイチン分解酵素ABC製剤は、pH約7.4で約100mMのリン酸ナトリウム中約0.4mg/mlのコンドロイチン分解酵素ABCを有し、コンドロイチン分解酵素A、B、Cに対する好ましい基質特異性がほぼ同じである。別の実施形態においては、コンドロイチン分解酵素Bと精製コンドロイチン分解酵素ABCを有する製剤が提供される。
【0073】
別の実施形態においては、コンドロイチン分解酵素ACの精製が提供され、1)細胞から前記酵素を抽出する工程と、2)陽イオン交換クロマトグラフィーを用いて前記粗細胞抽出液を分離する工程と、3)ゲルろ過クロマトグラフィーにより前記抽出物をさらに分離する工程と、4)陰イオン交換膜を通過させてエンドトキシンを除去し、精製コンドロイチン分解酵素ACを作成する前記除去する工程とを有する。1つの実施形態においては、精製コンドロイチン分解酵素ACは揮発性緩衝液に透析され、凍結乾燥され、−80℃で保存される。実施例12では、コンドロイチン分解酵素ACの精製方法に関する1つの実施形態を説明している。
【0074】
1つの実施形態において、再溶解し、pH7.4で約0.1Mのリン酸ナトリウム、50mMの酢酸ナトリウムの緩衝液に約4℃で保存する方法が提供される。別の実施形態においては、pH7.4で約0.75Mのリン酸ナトリウム、50mMの酢酸ナトリウムの安定緩衝液(約37℃研究用)が提供される。別の実施形態において、コンドロイチン分解酵素の保存は凍結乾燥の形態で行われる。
【0075】
コンドロイチン分解酵素活性は、賦形剤の添加または凍結乾燥により安定化されうる。安定剤には炭水化物、アミノ酸、脂肪酸、界面活性剤が含まれ、当業者に周知である。例としてはスクロース、ラクトース、マンニトール、デキストランなどの炭水化物、アルブミン、プロタミンなどのタンパク質、アルギニン、グリシン、トレオニンなどのアミノ酸、TWEEN(登録商標)、PLURONIC(登録商標)などの界面活性剤、塩化カルシウム、リン酸ナトリウムなどの塩、脂肪酸、リン脂質、胆汁塩などの脂質を含む。
【0076】
前記安定剤は一般に、炭水化物:タンパク質、アミノ酸:タンパク質、タンパク質安定剤:タンパク質、塩:タンパク質が1:10〜4:1、界面活性剤:タンパク質が1:1000〜1:20、脂質:タンパク質が1:20〜4:1の比で前記タンパク質に添加される。他の安定剤には、ヘパリナーゼ活性を用いた比較研究に基づき、高濃度の硫酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、または硫酸ナトリウムを含む。前記安定剤、好ましくは前記硫酸アンモニウムまたは他の同様の塩が0.1〜4.0mg硫酸アンモニウム/IU酵素の比で前記酵素に追加される。
【0077】
コンドロイチン分解酵素は局所的に、局在的に、または全身に投与されうる。用途をさらに制御するためには、局所または局在投与とすることが好ましい。前記コンドロイチン分解酵素は単独または併用で、投与前に適切な医薬品基材と混合することが可能である。一般的に利用される医薬品基材および添加物の例は、従来の希釈液、結合剤、潤滑剤、着色料、崩壊剤、緩衝剤、等脹化脂肪酸、等脹化剤、保存料、麻酔薬、界面活性剤などであり、当業者に周知である。利用できる具体的な医薬品基材はデキストラン、スクロース、ラクトース、マルトース、キシロース、トレハロース、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、イノシトール、血清アルブミン、ゼラチン、クレアチニン、ポリエチレングリコール、非イオン界面活性剤(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬質ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシエチレングリコールなど)、および同様の化合物である。医薬品基材は、ポリエチレングリコールおよび/またはスクロース、またはポリオキシレンソルビタン脂肪酸エステルなど併用されてもよく、ポリオキシレンソルビタンモノオレエート(20E.0.)が特に好ましい。
【0078】
本発明の投与方法は、コンドロイチン分解酵素ABCI、コンドロイチン分解酵素ABCII、コンドロイチン分解酵素AC、コンドロイチン分解酵素B、またはHyal1、Hyal2、Hyal3、Hyal4、PH2Oなどコンドロイチン分解酵素様の活性を有する哺乳類酵素を単独でまたは併用して、CNSの損傷部位の病変に投与することにより実行されうる。前記投与方法、投与時期、用量を実行し、神経突起伸長を促すことにより、前記CNSの障害の機能的回復力を高める。本開示の治療では、有効量の本発明の精製コンドロイチン分解酵素ABCIのみ、またはコンドロイチン分解酵素ABCII、コンドロイチン分解酵素AC、コンドロイチン分解酵素B、またはHyal1、Hyal2、Hyal3、Hyal4、PH2Oなどコンドロイチン分解酵素様の活性を有する哺乳類酵素と併用して、前記損傷部位に送達する。
【0079】
治療的有効量のコンドロイチン分解酵素は、単回、2回、または複数回投与されうる。1つの実施形態において、前記投与は、いつでも行うことができることが理解されるが、損傷後12時間以内、またはできるだけ早く投与される。別の実施形態において、損傷動物に1回、2回、または複数回投与されるような投与は、損傷の重症度およびグリア性瘢痕にあるCSPGの量によって決定される。複数回投与される場合、1日1回、1週間に1回、または2週間に1回投与されてもよい。投与はカテーテルまたはシリンジによって行うことが可能である。或いは、前記グリア性瘢痕に直接適応できるように、手術中に投与することも可能である。
【0080】
コンドロイチン分解酵素の精製製剤の例として、遺伝子組み換えABCI(cABCI)が精製され、温度安定性、酵素特性、様々なストレス条件への感受性、分解生成物、酵素安定性に対する異なる賦形剤の作用などのパラメーターを用いて、本発明の方法により特徴付けられた。
【0081】
本発明の様々な実施形態を説明するために、以下の方法が利用される。この方法は模範的方法であり、本発明を制限する意図はない。
【0082】
活性測定。cABCIの酵素活性はHamaiら(1997)の修正版により測定した。40mMのトリス、pH8.0、40mMの酢酸ナトリウム、0.002%カゼインを含む反応混合物125μlを少なくとも3分間、約37℃でインキュベートした。インキュベーション後、1mg/ml(最終濃度)のコンドロイチンC硫酸と0.05〜0.5μgのcABCI酵素を追加し、前記混合物をゆっくりボルテックスし、次に前記生成物形成率は約45〜90秒間、約232nmの吸収を監視した。基質と生成物濃度の計算は、ヘキスロン酸残基のMWが521に等しく、不飽和ヘキスロン酸−6−硫酸のモル吸光係数(ε232)が232nmで5,500であることを基に行った。コンドロイチンAとBは前記測定の基質として用い、不飽和ヒアルロン酸−4−硫酸製剤の計算は、MWが503に等しく、ε232が5,100であることから行った。開始時活性率は、回収したデータを一次関数に当てはめることにより、二糖類のnmole/分として計算した。特定の酵素活性はU/mgで表し、単位(U)は1分以内に生成した生成物のμmoleと定義する。コンドロイチン分解率を測定した直線範囲は、図1に示したように広いものである。
【0083】
吸光係数の推定。様々なバッチのcABCIの吸光係数を測定した。2種類のバッチの精製コンドロイチン分解酵素ABCIを20mMの酢酸ナトリウム、pH5.5、100mMNaClに再溶解した。一部のサンプルには、再溶解用緩衝液に0.3Mスクロースを含ませた。280nmの吸収と修正ローリーのタンパク質測定法を用いたタンパク質濃度を各サンプルについて測定した。cABCIの吸光係数の推定は以下の表3に示している。
【0084】
【表3】

【0085】
0.1%cABCI溶液の吸光係数の推定は、A280を濃度(mg/ml)で割ることにより求めた。前記平均吸光係数(1.66)は、さらにcABCI濃度測定の実験に用いた。
【0086】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の特性解析。分析用SECを用いて、前記コンドロイチン分解酵素ABCIの凝集と立体構造を特徴付けた。分析用SECは、分離範囲約50,000〜150,000ダルトン(Da)のShodex KW−803と分離範囲約100,000〜600,000ダルトン(Da)のShodex KW−804カラムを用いて行った。前記移動相の緩衝液は、100mMのリン酸ナトリウム、50mMのNaCl、0.5%ベタイン、pH7.3とした。前記分析は大気温度(約22?C)で、流量1ml/分にて行った。
【0087】
タンパク質測定。前記タンパク質濃度を測定するため、供給業者の指示に従い、修正ローリーのタンパク質測定(BioRad)とBCA(Pierce)を利用した。
【0088】
SDS−PAGE。4〜20%のグラジエントSDS−PAGEプレキャストミニゲル(BioRad)でタンパク質を分離し、ミニゲル装置(BioRad)にて200Vで電気移動を行った。次に前記ゲルはクーマシーまたは銀染色で染色した。
【0089】
IEF−PAGE。IEF−PAGEを行い、pH範囲3〜10でNOVEXIEFゲル(Invitrogen)を用い、コンドロイチン分解酵素ABCIのpI値を決定し、NOVEXゲル装置を用いて製造業者の指示に従って行った。前記ゲルは、コロイドブルークーマシーで染色した。
【0090】
ウエスタンブロット法。前記タンパク質はSDS−PAGEで分離し、次に前記製造業者の指示に従い、tank−transfer法(BioRad)によりニトロセルロース膜に電気ブロットした。前記移動用緩衝液はpH8.3、1%SDSで25mMのトリスと192mMのグリシンを含んでいた。
【0091】
オキシブロット測定。部位特異的メカニズムでタンパク質側鎖に導入されるカルボニル基の検出は、ChemiconInternationalのOxyBlotタンパク質酸化検出キットにより提供された。具体的には、前記タンパク質側鎖のカルボニル基は2,4−ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)から2,4−ジニトロフェニルヒドラゾン(DNP−ヒドラゾン)に誘導体化した。前記サンプルは次にニトロセルロールにブロットした。次に前記膜をDNP特異的一次抗体に曝露した。前記一次抗体でインキュベーション後、前記膜をHRP抱合二次抗体でインキュベートした。前記抗体複合体の有無は化学発光で検出した。
【0092】
陽イオン交換HPLC測定。cABCI酸化生成物は、SurveyorPDA検出器、ポンプ、オートサンプラーから成るThermoFinniganChromatographicシステムに結合したDionexProPacWCX−10陽イオン交換カラムを用いて分析した。前記酵素は、10mMのリン酸ナトリウム緩衝液、pH6.0でNaCl勾配にて溶出した。前記検出器の波長は215nmに設定した。
【0093】
サイズ排除クロマトグラフィー。分析用サイズ排除クロマトグラフィーは、光散乱(Wyatt Technology)およびUV検出器(Waters Co.)と一緒に供給されるHPLC(ESA Inc.)を用い、分離範囲約50〜150,000のKW−803カラム(Showdex Inc.)と分離範囲約100,000−600,000のKW−804カラムで行った。pH7.4の100mMのリン酸ナトリウムを移動相として利用した。
【0094】
cABCIのストレス研究。前記凍結乾燥cABCI酵素は選択した緩衝液に再溶解した。前記酵素は数時間氷上または約4℃で再溶解させ、不溶性物質があれば14,000gの遠心分離で除去した。次に、100μlの分量を、これに限らないが、温度、連続ボルテックス、凍結融解、UV光、過酸化水素存在下などの様々なストレス条件に置いた。曝露中は、UV光を当てたサンプルを氷上に置き、前記酵素に対する加熱作用を最小限とした。ボルテックスは約4℃で行った。過酸化水素による酸化は、4℃で一晩、異なる過酸化水素濃度を用い、サンプルをインキュベートすることで検討した。凍結融解サイクルはドライアイス上で行った。処理後のサンプルは、A280の測定値でのタンパク質濃度、分光測光法による酵素活性を測定し、さらに還元および非還元SDS−PAGE、変性IEF−PAGE、SEC、陽イオン交換HPLCにより評価した。
【0095】
cABCIの製剤研究。cABCIは熱により不活化されやすいと考えられるため、約37℃におけるインキュベーションも製剤研究のストレッサーとして利用した。前記再溶解したcABCIサンプルは、様々な添加物と緩衝液成分を用い、37℃の水で一晩以上インキュベートした。インキュベーション後、前記サンプルの酵素活性を測定した。
【実施例1】
【0096】
遺伝子組み換えコンドロイチン分解酵素ABCIはE.coliで過剰発現し、以下の工程により精製した:
(i)トリトンX−114/PBSによる酵素抽出と細菌細胞沈殿物の超音波処理;
(ii)pH5.5、酢酸ナトリウム緩衝液でのSP陽イオン交換クロマトグラフィー;
(iii)pH5.5、酢酸ナトリウム緩衝液でのSephacryl S200ゲルろ過クロマトグラフィー;
(iv)エンドトキシンのQ陰イオン交換膜によるろ過とDNA除去;および
(v)揮発性緩衝液への透析(pH8.0での重炭酸アンモニウム)。状況に応じて、この工程の後に凍結乾燥、または他の緩衝液の濃縮、及び除去方法を行ってもよい(例えば、除菌後、適切な製剤に懸濁する)。
【0097】
遺伝子組み換えコンドロイチン分解酵素ABCIはE.coliで過剰発現した。大部分の酵素は、非イオン性洗剤を加えて超音波処理した溶液中に放出した。銀染色で可視化したABCIを過剰発現した細菌細胞の前記洗剤可溶性抽出物及び洗剤不溶性ペレット分画のSDS−PAGEでは、約75kDaと100kDaのサイズマーカーの間に1本の大きなバンドが出ることが明らかとなった。
【0098】
さらに精製する場合は、陽イオン交換クロマトグラフィーを捕捉工程として利用した。酢酸緩衝液中pH約5.5のCEX SPクロマトグラフィーは、前記細菌細胞抽出物からコンドロイチン分解酵素ABCIを捕捉するために有効であった。前記抽出緩衝液に最終濃度が約0.2〜1%の範囲のトリトンX−114洗剤を用いた場合、前記酵素は定量的に結合し、SPカラムから比較的高純度、高収量で溶出されることが分かった。コンドロイチン分解酵素ABCIのSDS−PAGE分析を開始し、トリトンX−114抽出液のSPカラムからの流量と溶出分画(25%B)から、前記コンドロイチン分解酵素ABCIが溶出したことが明らかとなった。トリトンX−100含有抽出液は前記コンドロイチン分解酵素ABCIの電荷特性を変え、捕捉性、溶出収量、段階純度が低くなるように思われた。
【0099】
エンドトキシンの除去は、具体的にはトリトンX−114とQ陰イオン交換膜ろ過への分配という2種類の方法により達成した。
【0100】
トリトンX−114分配法を用いたエンドトキシン除去工程中のコンドロイチン分解酵素ABCI分画のSDS−PAGE分析では、バックグラウンドのバンドが全くなく、1本の大きなバンドが検出された。
【0101】
エンドトキシン除去工程にはQ膜のろ過を利用した。この方法はpH約5.5で検討した。pH5.5の20mMの酢酸ナトリウム、、100mMのNaClは、エンドトキシンをQ膜に結合させ(K.C.HouおよびR.Zaniewski、Biotech.Appl.Biochem.12,315−324,1990によれば、これらのpHと塩の条件では約75%のエンドトキシンを除去すると予想される)、この工程でのcABCIの損失を最小限とするために効果的な緩衝液であることが分かった。前記cABCIの95%以上は貫流モードで回収された。この工程は、以下に示すとおり、精製の最後の時点で以下のゲルろ過後に行われた。
【0102】
コンドロイチン分解酵素ABCIの研磨工程として、ゲルろ過を利用した。利用されうるゲルろ過の例には、Sephacryl S200およびSephacryl S300を含む。Sephacryl S200およびSephacryl S300について、凝集体と低分子量汚染物質を分離する効果を検討した。各ゲルについて2種類の溶出緩衝液(緩衝液1:pH8.0で20mMのトリス、200mMのNaCl、0.5%ベタイン、緩衝液2:pH5.5で20mMの酢酸ナトリウム、100mMのNaCl)を検討し、同様に機能することが分かった。前記コンドロイチン分解酵素ABCIは、予想保持時間で溶出し、サンプルの実質的な損失はなかった。
【0103】
図2は、ゲルろ過によるコンドロイチン分解酵素ABCIの精製について示している。図2Aは、Sephacryl S300 26/60カラムのクロマトグラフィー分析結果である。図2Bは、pH8.0で20mMのトリス、200mMのNaCl、0.5%ベタインを用い、Sephacryl S300 26/60カラムから溶出されるコンドロイチン分解酵素ABCI分画のSDS−PAGE分析である。図2Cは、pH5.5で20mMの酢酸ナトリウム、100mMのNaClを用い、Sephacryl S300 26/60カラムから溶出されるコンドロイチン分解酵素ABCI分画のSDS−PAGE分析である。
【0104】
凍結乾燥では、前記精製酵素がpH約8.0で0.1M NHCOの揮発性緩衝液によって透析された。
【0105】
還元条件下、前記捕捉陽イオン交換カラム(開始抽出液、貫流、洗浄、SP溶出プール)とゲルろ過工程(S200溶出プール)のサンプルで、グラジエント(4−20%)SDS−PAGEを実行した。前記ゲルはクーマシーブルーで染色した。ゲル分析では、前記生成工程で比較的すべての細胞片と汚染物質が除去され、比較的純粋な酵素サンプルが得られることが示された。
【実施例2】
【0106】
この実施例は、天然酵素と比較した実施例1の精製遺伝子組み換えコンドロイチン分解酵素ABCIの酵素活性を示したものである。コンドロイチン分解酵素ABCIの酵素活性は、本願明細書において別に説明したとおりに測定した。本発明の実施例1の遺伝子組み換えコンドロイチン分解酵素ABCIは天然酵素と比活性度が同等またはそれよりも高く、以下の表4に示すとおり、遺伝子組み換えにより発現されたコンドロイチン分解酵素ABCIよりもはるかに活性が高かった。
【0107】
【表4】

【0108】
SECの特性解析は、実施例1の遺伝子組み換えコンドロイチン分解酵素ABCIと上述の天然コンドロイチン分解酵素ABCIで行うことができる。遺伝子組み換えコンドロイチン分解酵素ABCIと前記天然遺伝子組み換えコンドロイチン分解酵素ABCIの溶出分析結果は同等であった。本発明の遺伝子組み換えコンドロイチン分解酵素ABCIは、コンドロイチン分解酵素ABCIで予想された保持時間及び分子量を有していた。
【0109】
遺伝子組み換えコンドロイチン分解酵素ABCIの等電点の決定。本願明細書において別に説明したIEF−PAGEは、実施例1の遺伝子組み換えコンドロイチン分解酵素ABCIのpI値を決定するために使用した。前記実施例1の遺伝子組み換えタンパク質は3種類の異性体を示し、主な異性体のpIは約7.8〜8.0であった。この値は天然酵素において予想される値よりも高かった。
【実施例3】
【0110】
コンドロイチン分解酵素ABCI、AC、Bは、改良された陰イオン交換HPLC法を用いて、一連の基質とラット脊髄における特異性と活性を検討した。この方法では、定量限界25ngで二糖CSPGの開裂生成物(Δdi−4DSおよびΔdi−6DS)を検出する。
【0111】
遊離した二糖開裂生成物の測定からは、ラット脊髄の最適酵素濃度、酵素の組み合わせ、基質の特性が明らかとなった。コンドロイチン分解酵素ABCIとコンドロイチン分解酵素ACの触媒活性は、コンドロイチン分解酵素Bにより相乗的に亢進した。ラット脊髄の生体外消化では、約95:5の比でΔdi−4DSとΔdi−6DSが得られる。時間経過の研究では、前記酵素の活性ははるかに長いが、生成物形成は6時間以内に最高となる事が明らかとなった。この観察の原因として生成物による阻害は除外した。
【実施例4】
【0112】
以下の実施例では、前記精製遺伝子組み換えcABCIの基質特異性について示している。cABCI(バッチ7b)は0.1Mのリン酸ナトリウム、50mMのNaCHCOOにpH7.4で再溶解した。生成物の形成率をコンドロイチンA、B、Cについて、様々な濃度で測定した。前記データをプロットし、適宜、Km値とVmax値を計算するため、ミカエリス−メンテン式に直接当てはめた。コンドロイチンA、B、Cの曲線は、ミカエリス−メンテン速度論で典型的な高基質濃度で飽和状態を示した。以下のcABCI速度パラメーターを測定した(図1および3、表3−5):コンドロイチンAでKm=0.033mg/mlおよびVmax=283U/mg、コンドロイチンBでKm=0.021mg/mlおよびVmax=74U/mg、コンドロイチンCでKm=0.025mg/mlおよびVmax=188U/mg。各基質に存在する不純物レベルを考慮すると(コンドロイチンAで約70%、コンドロイチンBで約85%、コンドロイチンCで約90%)、cABCIはすべてのコンドロイチンに対して同様の親和性を有しているように見えるが、様々な比速度で消化する(コンドロイチンA>コンドロイチンC>コンドロイチンB)。表5では、コンドロイチンA、B、Cの濃度依存曲線の原資料を提供する。
【0113】
【表5】

【0114】
平均比速度(U/mg)は基質濃度(mg/ml)の関数としてプロットし、cABCIの速度パラメーターを決定するため、前記データは直接ミカエリス−メンテン式に当てはめた。図3はcABCIとその基質であるコンドロイチンA、B、Cのミカエリス−メンテン曲線を示す。
【実施例5】
【0115】
様々な二価金属塩(1mM)存在下、前記精製コンドロイチン分解酵素ABCI酵素の阻害を測定した。金属を追加後、cABCI活性を測定した。前記被験金属の阻害活性は、Zn>>Ni>>Co>Ca>Mgの順であるように思われる。特に、カルシウムイオンとマグネシウムイオンはcABCIに対して測定可能な阻害作用を有するように思われる。表6において、遺伝子組み換えcABCIの金属阻害作用を提供する。
【0116】
【表6】

【実施例6】
【0117】
この実施例においては、保存用緩衝液のpHが前記精製遺伝子組み換えcABCIの安定性に与える影響について示す。前記凍結乾燥cABCIを(BCAタンパク質測定を利用し)pH5.5の20mMの酢酸ナトリウム、100mMのNaCl緩衝液に2.0mg/mlの濃度で再溶解した。様々なpH条件で50mMのビス−トリスプロパン緩衝液により約1:2の比で再溶解したサンプルを希釈することにより、様々なpH条件を達成した。前記最終サンプルのcABCI濃度は約1mg/mlであった。前記サンプルは約4℃で保存し、その活性は24時間、48時間、72時間の時点で測定した。表7では、様々なpH条件で保存した遺伝子組み換えcABCIサンプルの測定活性データを提供する。
【0118】
【表7】

【0119】
様々なpH条件で保存したサンプルに有意な差は観察されなかった。生理的pH範囲内とするためにはpH7.4が好ましい。
【実施例7】
【0120】
前記遺伝子組み換えcABCIは様々なストレス条件とした。様々なストレス処理後の前記遺伝子組み換えcABCIサンプルの活性とタンパク質濃度のデータが表8に示されている。
【0121】
【表8】

【0122】
前記ストレス処理したサンプルもまた光散乱検出器及びSECで分析した。ABCI非処理(対照)サンプル及びストレス処理サンプルのSEC光散乱特性は図4A〜4Eに示されている。
【0123】
前記遺伝子組み換えcABCIは、約1mg/mlにおいて、凍結及び解凍の3サイクルで影響を受けないように見えられた。前記ストレッサーとしてボルテックスを利用した場合、前記酵素は時間依存的に沈殿及び不活化した。過酸化水素に曝露することにより濃度依存的に活性が消失し、IEF−PAGEのイソ型プロフィールに顕著な変化があった。UV光への曝露はcABCIの活性にマイナスの影響を示した。前記酵素は37℃で安定であるようには見られず、活性の消失は時間依存的であるように見られた。熱的に不活化したサンプルは、タンパク質濃度が減少し、過酸化水素処理サンプルで観察されたものよりも小規模であるが、同様にイソ型特性の変化を示した。
【0124】
弱カチオン交換(CEX)HPLC法は、cABCI酸化生成物を定量化するために開発した。従って、酸化生成物の有無と酵素活性の消失を同定し、これを関連付けるため、別のストレス研究が実施した。一部のストレス処理は、事前の研究で利用した条件(UV曝露)よりも軽い条件で繰り返した。前記再溶解cABCIサンプル(0.6mg/ml)はpH5.5の20mMの酢酸ナトリウム、100mMのNaClの緩衝液中、2種類のUV光源(長距離および短距離曝露)に約0.5、1、3、及び5分曝露し、熱による不活化(約37℃)を行った。前記サンプルはIEF−PAGE、SDS−PAGE、オキシブロット、及びCEX−HPLCで活性を測定した。この結果を以下に示す。
【0125】
酸化処理後、CEX−HPLCによって現れる更なるピークは、図5の酸化コンドロイチン分解酵素であると推定される。このピークは、UV曝露時間が延長するにつれて増加した。RP−HPLCクロマトグラフィーの総曲線下面積は、ほぼ同じであった。
【0126】
図5は、UV処理cABCIサンプルの弱CEX−HPLC分析を示す。近距離からのUV(携帯型光源)曝露を行う前(図5A)及び0.5分後(図5B)、3分後(図5C)、及び5分後(図5D)のcABCIのクロマトグラムを示す。
【0127】
表9は、非処理(対照)サンプルとストレス処理サンプルのcABCI活性データを提供するものである。
【0128】
【表9】

【0129】
UVおよび熱に曝露後、事前に報告した分光学的定量法によりcABCIサンプルの活性を測定した。酸化されていないcABCIピーク面積の相対的減少と活性の相対的減少(U/mg)との間に関連性があるよう思われる。以下に示す表10は、酸化されていないcABCIの減少と短距離および長距離でのUV光曝露後の活性との相関関係である。
【0130】
【表10】

【0131】
図6〜8は、cABCI酸化生成物の有無と酵素活性低下との関連性を示している。前記酸化生成物の性状と前記酵素活性との関連性は、一部、熱により不活化されたサンプルにおいても観察された。cABCIサンプルを熱に曝露し、上述のとおり分光光度法により活性を測定し、CEX−HPLCにより酸化生成物を測定した。
【0132】
表11は0〜24時間、37℃でインキュベーション後のcABCI活性の測定データを示している。cABCIバッチ7bのバイアル1本を50mMの酢酸ナトリウム/100mM塩化ナトリウムに再溶解した。サンプルは37℃で1、2、4、6、及び24時間インキュベートした。前記対照サンプルの濃度(インキュベーション前)を測定した。前記サンプルのA280は0.88であり、前記濃度は約0.53mg/mLに等しいと計算された。
【0133】
【表11】

【0134】
表12は熱不活性化中のcABCI活性データとcABCIのHPLC分析結果の相関関係を示す。
【0135】
【表12】

【0136】
活性測定と弱CEX−HPLC分析後、熱およびUVにより不活化されたサンプルもSDS−PAGE、IEF−PAGE、及びオキシブロットにより分析した。
【0137】
37℃のインキュベーション試験は、実施例8に示すとおり、pH7.4、0.1Mのリン酸ナトリウム、50mMの酢酸ナトリウム、0.75Mのリン酸ナトリウム、50mMの酢酸ナトリウムの追加緩衝液条件で繰り返した。
【実施例8】
【0138】
以下の試験では、異なる緩衝液を用いて酵素安定性を測定した。遺伝子組み換えcABCIをpH6.5の50mM酢酸ナトリウム、100mMのNaClに再溶解し、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、トリス、及びHEPESの0.2M溶液で1:3に希釈した。様々な緩衝液中、37℃で一晩インキュベーション後、前記cABCIの活性を測定した。前記データは表13に示す。
【0139】
【表13】

【0140】
本研究では、リン酸緩衝液が、熱不活化に対してcABCIを最も保護することが明らかとなった。
【実施例9】
【0141】
この実施例において、様々なタンパク質安定剤(緩衝液)及び賦形剤がcABCI安定化能に与える影響を示す。様々なタンパク質安定剤とcABCI緩衝液製剤の緩衝条件に関するこの評価結果は、表14に掲載する。
【0142】
【表14】

【0143】
表15は、cABCI緩衝製剤の添加物として、EDTAを評価したものである。
【0144】
【表15】

【0145】
750mMのリン酸ナトリウムを除き、cABCIの熱不活化に有効な賦形剤または緩衝液はなかった。500mMNaClもまた、cABCIの熱安定性にいくらか関与していることが示された。前記結果は、イオン強度が熱不活化からのcABCI保護に重要な役割を果たす可能性を示唆していた。
【実施例10】
【0146】
この実施例では、前記cABCI製剤の緩衝液中において塩化ナトリウムを用いた場合、異なる塩と異なる塩濃度がcABCIの安定性に与える影響について示す。遺伝子組み換えcABCは、pH7.4の50mMリン酸ナトリウムに約2mg/ml再溶解した。開始時活性の測定値を求め、基準活性値を測定した。コンドロイチン分解酵素(1mg/ml)をpH7.4の50mMリン酸ナトリウム中、塩化ナトリウム(NaCl)の溶液に0〜1Mの範囲の濃度で希釈した。前記サンプルは37℃で48時間インキュベートした。2日後、前記サンプルの活性を測定した。前記データは以下の表16〜18および図10及び11に示す。表16は、cABCIの熱安定性が、50mMのリン酸ナトリウム緩衝液存在下、前記NaClのイオン強度に依存していることを示している。
【0147】
【表16】

【0148】
図10は表16に示されたデータを図示したものである。表17は、cABCIの熱安定性に対する緩衝液濃度の影響が100mMのNaClおよび50mMの酢酸ナトリウム存在下、前記緩衝液の濃度に依存していることを示す。
【0149】
【表17】

【0150】
図12は表17に示されたデータを図示したものである。前記データは、イオン強度の増加が前記cABCIの熱安定性を改善するように思われることを示していた。750mMのリン酸ナトリウムもまたcABCIの保護を提供するものである。
【0151】
実験の次の段階は、最終製剤中の塩濃度を可能な限り低く維持しながら、イオン強度の条件を最適化するために行った。cABCIの熱安定性は、リン酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウム溶液中で測定した。硫酸ナトリウムはタンパク質を安定化する作用が知られている。両方の塩の濃度を変化させることにより、cABCIの触媒反応速度は37℃で19時間、48時間、120時間、192時間インキュベーション後に測定した。
【0152】
表18は、前記cABCI緩衝製剤のリン酸ナトリウム及び硫酸ナトリウム濃度の最適化について示したものである。前記cABCIは0.1MのNaHPO、50mMの酢酸ナトリウム(pH7.4)に再溶解した。すべてのサンプルにおいてcABCI濃度が0.37mg/ml、酢酸濃度が同一(50mM)、pHが同一(7.4)であったが、リン酸及び硫酸の濃度は異なるものであった。前記サンプルは指示時間(19時間、48時間、120時間、192時間)、37℃の水浴で管理した。
【0153】
【表18−1】

【0154】
【表18−2】

【0155】
19時間のサンプルのデータは残留活性%として表19に要約する。
【0156】
【表19】

【0157】
硫酸ナトリウムは前記cABCIの安定性を改善するように思われるが、リン酸による保護はより顕著であるように思われる。0.75Mのリン酸ナトリウム緩衝液は、37℃において使用するcABCI製剤のために選択した。この緩衝液は沈殿しやすいため、低温で保存できる製剤には選択されなかった。
【実施例11】
【0158】
この実施例では、熱安定性に対する酵素濃度の影響について説明する。サンプルはpH7.4、0.75Mのリン酸、50mMの酢酸ナトリウムに懸濁した。cABCI濃度の動作範囲を決定するため、異なる酵素濃度におけるcABCI熱安定性を測定した。低濃度のcABCIは高濃度のcABCIと同程度安定であることが観察された(表20を参照)。また、高濃度のcABCIは長時間37℃に曝露後、沈殿する傾向があることが分かった。表20に示すとおり、この問題を避けるため、例えば、cABCI濃度は約0.4mg/ml未満とすることが可能である。
【0159】
【表20】

【0160】
前記遺伝子組み換えcABCIのSDS−PAGEとウエスタンブロット分析により、4℃で長時間保存後、cABCIが部分的に切断されることが明らかとなった。分解生成物が遺伝子組み換えタンパク質と天然タンパク質の両方で同じであるという所見は、観察された断片化がcABCIの固有特性によるものである可能性を示唆している。
【0161】
前記分解生成物のアミノ末端の配列を決定した。これらの結果は、前記分解生成物のほとんどがタンパク質断片の混合物であることを明らかにしていた。バンド#1:ATSNPAF(配列ID番号:3);バンド#2:ATSNPAF大(配列ID番号:4);NLNTSGD小(配列ID番号:5);バンド#3:ASNPAFD(配列ID番号:6)+配列の混合物;バンド#4:XNXV−X−X(配列ID番号:7)混合物(XはAまたはN、XはTまたはP、XはTまたはE、XはAまたはG、XはFまたはEとすることができる);バンド#5:XNX(配列ID番号:8)混合物(XはAまたはN、XはTまたはY、XはTまたはP、XはAまたはE、XはAまたはGとすることができる);バンド#6:MQVNERD大(配列ID番号:9);GPRGAGT小(配列ID番号:10);バンド#7:配列は同定されず;バンド#8:ATSNPAF(配列ID番号:11)。
【実施例12】
【0162】
この実施例では、コンドロイチン分解酵素ACを精製する精製方法の結果を示す。
【0163】
コンドロイチン分解酵素ACを発現した細胞は、最高速度約9で先端が正方形の超音波発生装置を用いて抽出した。超音波処理は約30秒間行った。この直後約10秒間は超音波処理を行わず、このオン/オフ工程は合計約10サイクル行った。各ペレットは別に超音波処理した後、貯蔵した。抽出物は4℃で一晩振動させた。
【0164】
前記コンドロイチン分解酵素ACの細胞抽出後、前記コンドロイチン分解酵素ACタンパク質の溶解性を分析するため、前記超音波処理サンプルをSDS−PAGEで分析した。前記酵素は主に上清に検出され、前記タンパク質が可溶性であることを暗示していた。精製は陽イオン交換カラムを用いて続け、前記酵素を捕捉した。
【0165】
前記細胞抽出物は、すべて20mlのSPカラムに充填した。前記抽出物は約0.5ml/minで前記カラムに充填した。前記SPカラムはAKTAエクスプローラーに接続し、洗浄および溶出ピークを観察した。前記カラムを洗浄し、前記コンドロイチン分解酵素ACが溶出した。前記カラムの分画は次に純度を確認するためにSDS−PAGEで分析し、ゲル分析から、前記コンドロイチン分解酵素ACが約245mM NaCl〜約370mM NaClに溶出されることが明らかとなった。前記SDS−PAGE分析では、前記溶出した分画が比較的純粋なコンドロイチン分解酵素ACを含み、これをためると総量が190mlとなることが明らかとなった。前記190mlの貯蔵分画は10,000MWCO膜(Millipore)を用いて、総量105mlまで濃縮し、吸光度(A280)は1.47であった。前記濃縮サンプルは次に、ゲルろ過カラムを用いてさらに精製した。
【0166】
前記陽イオン交換段階のサンプルはS200のゲルろ過カラムに充填した。サンプルは20mMの酢酸ナトリウム、100mMのNaCl(pH5.5)を用いて溶出した。ゲルろ過カラムの最初の精製工程はSDS−PAGEで分析し、純度を確認した。比較的純粋なコンドロイチン分解酵素ACがあることが分かった分画を貯蔵した。カラムによる5回目の精製後、前記分画サンプルはもう一度SDS−PAGEで純度を確認した。7回すべての比較的純粋なコンドロイチン分解酵素ACがあることが分かった分画を貯蔵し、総量250ml、吸光度(A280)は0.431であった。前記250mlは総量83mlまで濃縮され、吸光度(A280)は1.40であった。
【0167】
前記コンドロイチン分解酵素ACサンプルのエンドトキシンの除去は、前記ゲルろ過工程で単離されたサンプルをさらに精製することにより達成された。サンプルを(本文で別に説明したとおり)Q陰イオン交換膜から回転し、コンドロイチン分解酵素ACを貫流モードで回収した。この方法はpH約5.5で検討した。pH5.5、20mMの酢酸ナトリウム、100mMのNaClはエンドトキシンをQ膜に結合させるために効果的であることが分かり、これらのpHと塩の条件は約75%のエンドトキシンを除去すると予想される。得られた吸光度(A280)は1.37であった。前記最終生成物の純度はSDS−PAGEで分析した。前記結果から、純粋なコンドロイチン分解酵素ACは分子量が約50〜75kDaであることが明らかとなった。
【0168】
前記精製コンドロイチン分解酵素ACはpH8.0、0.1Mの重炭酸アンモニウムの揮発性緩衝液で一晩透析し、少量のサンプル(約1.0ml)に等分し、凍結乾燥し、−80℃で保存した。図12は、最終精製したコンドロイチン分解酵素ACのSDS−PAGEを示す。
【0169】
本発明は、特定の好ましい実施形態に関してかなり詳細に説明したが、他の見解も可能である。従って、添付の請求項の精神と範囲は、本明細書に含まれる記載及び好ましい見解に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0170】
本発明の実施形態における別の態様、特徴、利益及び利点は、部分的に、以下の記載、添付の請求項、及び添付の図面に関して明らかになるであろう。
【図1】図1は、cABCI活性測定における製剤形成率の直線範囲である。
【図2】図2Aは、コンドロイチン分解酵素精製におけるABCIのS200カラムのA280の分析結果である。図2BおよびCは、コンドロイチン分解酵素ABCI溶出分画のSDS−PAGEである。Bは銀染色である。Cはクーマシーブルー染色である。
【図3】図3は、cABCIおよび基質のミカエリス・メンテン曲線である。
【図4A】図4A〜4Eは、cABCI非処理(対照)の場合とストレス処理の場合のSEC光散乱分析結果である。図4Aは、凍結/解凍:赤−対照;青−1サイクル;緑−2サイクル;紫−3サイクルである。
【図4B】図4A〜4Eは、cABCI非処理(対照)の場合とストレス処理の場合のSEC光散乱分析結果である。図4Bは、H曝露:赤−対照;青−0.5mM;緑−5mM;紫−20mMである。
【図4C】図4A〜4Eは、cABCI非処理(対照)の場合とストレス処理の場合のSEC光散乱分析結果である。図4Cは、連続ボルテックス:赤−対照;青−5分;緑−20分;紫−60分である。
【図4D】図4A〜4Eは、cABCI非処理(対照)の場合とストレス処理の場合のSEC光散乱分析結果である。図4Dは、UV曝露:赤−対照;青−40分;緑−1時間、紫−2時間である。
【図4E】図4A〜4Eは、cABCI非処理(対照)の場合とストレス処理の場合のSEC光散乱分析結果である。図4Eは、熱(37℃)ストレス:赤−対照;青−1時間;緑−4時間;紫−20時間である。
【図5A】図5は、UV処理cABCIサンプルの弱陽イオン交換HPLC分析である。5Aは最初のサンプルである。
【図5B】図5は、UV処理cABCIサンプルの弱陽イオン交換HPLC分析である。5Bは30秒間のUV曝露後である。
【図5C】図5は、UV処理cABCIサンプルの弱陽イオン交換HPLC分析である。5Cは2分間のUV曝露後である。
【図5D】図5は、UV処理cABCIサンプルの弱陽イオン交換HPLC分析である。5Dは5分間のUV曝露後である。
【図6】図6は、活性単位を用いたABCIのHPLCピーク面積の比較である。
【図7】図7は、ABCI安定性−携帯型UVである。
【図8】図8は、ABCI安定性−カバー内のUV曝露である。
【図9A】図9は、熱不活性化中のcABCI活性データとcABCIのHPLCプロフィールの相関関係。9AはHPLCでの最初のピーク面積の割合と分光学的定量法による最初の活性割合のヒストグラムである。
【図9B】図9は、熱不活性化中のcABCI活性データとcABCIのHPLCプロフィールの相関関係。9Bは分光測光法によるピーク面積と活性の回帰である。
【図10】図10は、50mMリン酸ナトリウム緩衝液がある状態でのイオン強度に対するcABCI熱安定性の依存性である。
【図11】図11は、100mMのNaClと50mMの酢酸ナトリウム存在下における緩衝種の濃度に対するcABCI熱安定性の依存性である。
【図12】図12は、最終精製したコンドロイチン分解酵素ACのSDS−PAGE分析である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンドロイチン分解酵素とリン酸緩衝液とを有する製剤であって、前記製剤は少なくとも約24時間安定であることを特徴とする製剤。
【請求項2】
請求項1記載の製剤において、前記コンドロイチン分解酵素は精製されているものである。
【請求項3】
請求項1記載の製剤において、前記コンドロイチン分解酵素は約24時間で少なくとも約50%の活性を保持するものである。
【請求項4】
請求項1記載の製剤において、前記コンドロイチン分解酵素は、コンドロイチン分解酵素ABCI、コンドロイチン分解酵素ABCII、コンドロイチン分解酵素AC、コンドロイチン分解酵素B、またはHya11、Hya12、Hya13、Hya14、およびPH20等のコンドロイチン分解酵素様活性を有する哺乳類酵素から成る群から選択されるものである。
【請求項5】
請求項1記載の製剤において、前記コンドロイチン分解酵素はコンドロイチン分解酵素ABCIである。
【請求項6】
請求項1記載の製剤において、前記コンドロイチン分解酵素はコンドロイチン分解酵素ACである。
【請求項7】
請求項1記載の製剤において、前記リン酸緩衝液はリン酸ナトリウム緩衝液である。
【請求項8】
請求項1記載の製剤において、前記リン酸ナトリウム緩衝液は約100mMの濃度である。
【請求項9】
請求項1記載の製剤において、この製剤は、さらに、
酢酸ナトリウムを有するものである。
【請求項10】
請求項1記載の製剤において、前記製剤は約7.4のpHである。
【請求項11】
請求項1記載の製剤において、前記コンドロイチン分解酵素ABCIは配列ID番号:2のアミノ酸配列である。
【請求項12】
基本的にコンドロイチン分解酵素と緩衝液とから成る製剤。
【請求項13】
コンドロイチン分解酵素を精製する方法であって、
前記細胞から前記コンドロイチン分解酵素を抽出する工程と、
抽出物から前記コンドロイチン分解酵素を分離する工程と、
汚染物質および不純物を除去する工程と、
エンドトキシンを除去する工程と
を有する方法。
【請求項14】
請求項13記載の方法において、前記コンドロイチン分解酵素は遺伝子組み換えコンドロイチン分解酵素を有するものである。
【請求項15】
請求項14記載の方法において、前記遺伝子組み換えコンドロイチン分解酵素は配列ID番号:2のアミノ酸配列である。
【請求項16】
請求項13記載の方法において、前記抽出する工程は、細胞を界面活性剤を含む緩衝溶液に懸濁する工程を含むものである。
【請求項17】
請求項16記載の方法において、前記界面活性剤はトリトンXである。
【請求項18】
請求項13記載の方法において、前記抽出する工程は前記細胞を超音波処理する工程を含むものである。
【請求項19】
請求項13記載の方法において、前記コンドロイチン分解酵素を分離する工程は陽イオン交換カラムを用いる工程を含むものである。
【請求項20】
請求項13記載の方法において、前記汚染物質および不純物を除去する工程はゲルろ過カラムを用いる工程を含むものである。
【請求項21】
請求項13記載の方法において、前記エンドトキシンを除去する工程は陰イオン交換カラムを用いる工程を含むものである。
【請求項22】
請求項13記載の方法において、この方法は、さらに、
透析する工程を有するものである。
【請求項23】
請求項22記載の方法において、前記透析する工程は揮発性緩衝液を用いる工程を含むものである。
【請求項24】
請求項13記載の方法において、この方法は、さらに、
乾燥する工程を有するものである。
【請求項25】
請求項24記載の方法において、前記乾燥する工程は凍結乾燥である。
【請求項26】
請求項13記載の方法において、前記コンドロイチン分解酵素は、コンドロイチン分解酵素ABCI、コンドロイチン分解酵素ABCII、コンドロイチン分解酵素AC、コンドロイチン分解酵素B、またはHya11、Hya12、Hya13、Hya14、およびPH20等のコンドロイチン分解酵素様活性を有する哺乳類酵素から成る群から選択されるものである。
【請求項27】
請求項13記載の方法において、前記コンドロイチン分解酵素はコンドロイチン分解酵素ABCIである。
【請求項28】
請求項13記載の方法において、前記コンドロイチン分解酵素はコンドロイチン分解酵素ACである。
【請求項29】
請求項13に従って精製されたコンドロイチン分解酵素。
【請求項30】
コンドロイチン分解酵素を精製する方法であって、
細胞から前記コンドロイチン分解酵素を抽出する工程と、
陽イオン交換クロマトグラフィーを用いる工程と、
ゲルろ過クロマトグラフィーを用いる工程と、
陰イオン交換ろ過を用いる工程と、
透析を用いる工程と
を有する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2008−505661(P2008−505661A)
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−527425(P2007−527425)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【国際出願番号】PCT/US2005/017464
【国際公開番号】WO2005/112986
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(505425351)アコーダ セラピューティクス、インク. (12)
【Fターム(参考)】