説明

コンドロイチン硫酸・鉄コロイド

【課題】 サメやサケ由来のコンドロイチン硫酸から、コロイド粒子径が100nm以下である保存安定性のよいコンドロイチン硫酸・鉄コロイドを提供する。
【解決手段】 分子量が15,000〜40,000で、その二糖組成比としてΔDi-6Sが50〜85重量%かつΔDi-4Sが10〜30重量%および2硫酸totalが5〜15重量%であるコンドロイチン硫酸の水溶液にアルカリを絶えず加えながら、pHコントローラーの制御目標値を9〜11の間に設定し、当該設定値の±0.1のpH変動内でコントロールしながら塩化第二鉄水溶液を添加して、コロイド粒子の平均粒子径が100nm以下であるコンドロイチン硫酸・鉄コロイドを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量元素製剤に用いられるコンドロイチン硫酸・鉄コロイドに関する。
【背景技術】
【0002】
長期にわたる高カロリー輸液療法が、鉄や亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素、コバルト、セレンなどの人体必須微量元素の欠乏症を引き起こすことがあるのはよく知られている。この欠乏症の発症予防のため、前記必須微量元素を含有した静脈注射用の微量元素製剤が用いられる。そして、当該微量元素製剤には、鉄コロイドとして安定化したコンドロイチン硫酸ナトリウム・鉄コロイドが配合される。
【0003】
コンドロイチン硫酸・鉄コロイドは、通例、コンドロイチン硫酸ナトリウムの水溶液に、塩化第二鉄水溶液と水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液を交互に混合撹拌して製造される。この方法は、混合液のpHが約7〜14のアルカリ側において、塩化第二鉄水溶液とアルカリ水溶液とを交互に加えて攪拌混合し、最後に混合液のpHが7〜10となるように調整する方法である。より具体的に説明すれば、コンドロイチン硫酸ナトリウムの水溶液に、所定量の塩化第二鉄水溶液を添加した後、所定量のアルカリを加えて液のpHを7以上の中性付近に初期調整した上で、さらに所定量のアルカリを加え、鉄コロイドが十分に形成されると考えられる強アルカリ性(pH12付近)とする。そして、必要とされる鉄イオン含量となるまで、塩化第二鉄水溶液とアルカリ水溶液とを交互に添加する。この間、塩化第二鉄混合後のpHは約7〜10の中性に近いアルカリ域にあり、また、アルカリ混合後のpHは、塩化第二鉄混合後のpHよりも高い約12〜14の強アルカリ域にある。こうして、混合液のpHが約10〜14の強アルカリ域と約7〜10のアルカリ域との間を交互に推移しながら、平均粒子径が100nm以下のコンドロイチン硫酸・鉄コロイドが製造される。
【0004】
一方、特公昭36−15296号公報(特許文献1)や特開2000−178181号公報(特許文献2)、特開2002−193816号公報(特許文献3)などにもその製造方法が記載されているが、最終調整pHや製造工程中におけるpH範囲が記載されているにすぎず、その詳細な製造方法については触れられてはいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭36−15296号公報、第1〜2頁
【特許文献2】特開2000−178181号公報、第3頁
【特許文献3】特開2002−193816号公報、第4頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記製造方法においては、塩化第二鉄溶液と水酸化ナトリウム溶液をそれぞれ手作業により投入しており、比較的労力を要するものであった。また、塩化第二鉄溶液、水酸化ナトリウム溶液を添加した後、混合液のpHがほぼ安定するまで攪拌する必要があり、作業効率も悪い方法であった。
【0007】
そこで、本発明者らが鋭意努力したところ、一定の条件下で、いわゆるpHコントローラーを用いれば、作業効率よく安定に平均粒子径の小さいコンドロイチン硫酸・鉄コロイドを製造できることを見出し、本発明のコンドロイチン硫酸・鉄コロイドを完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のコンドロイチン硫酸・鉄コロイドは、分子量が15,000〜40,000で、その二糖組成比としてΔDi-6Sが50〜85重量%かつΔDi-4Sが10〜30重量%および2硫酸totalが5〜15重量%であるコンドロイチン硫酸から得られるコンドロイチン硫酸・鉄コロイドであって、コロイドの平均粒子径が100nm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコンドロイチン硫酸・鉄コロイドは、例えばpHコントローラーを用いることにより作業効率よく製造される。このコンドロイチン硫酸・鉄コロイドはサメやサケなどウシ以外の由来によるコンドロイチン硫酸から製造され、60℃の条件下でも1週間安定である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のコンドロイチン硫酸・鉄コロイドは、分子量が15,000〜40,000で、その二糖組成比としてΔDi-6Sが50〜85重量%かつΔDi-4Sが10〜30重量%および2硫酸totalが5〜15重量%であるコンドロイチン硫酸から得られるコンドロイチン硫酸・鉄コロイド溶液であって、コロイドの平均粒子径が100nm以下である。このコンドロイチン硫酸・鉄コロイドの製造には、サメやサケ由来のコンドロイチン硫酸が用いられる。
【0011】
本発明のコンドロイチン硫酸・鉄コロイドは例えば次のようにして製造される。コンドロイチン硫酸の水溶液に攪拌しながら所定濃度のアルカリを注入しつつ、混合液のpHがアルカリ側の所定pH域を保つように塩化第二鉄を添加する。
【0012】
この製造方法は、従来方法と全く異なり、端的に言えば、混合液のpHがほぼ一定値(目標値)となるように塩化第二鉄とアルカリとをほぼ同時に注入する方法である。しかし、両者を同時に注入するだけでは平均粒子径が大きなもの、例えば200nmを超えるものしか得ることができない。そこで、混合液のpHをアルカリ性の一定域内に保ちながら、アルカリを連続的に注入する一方で、塩化第二鉄を断続的に注入して、比較的小さな平均粒子径、好ましくは200nm以下、望ましくは100nm以下のコンドロイチン硫酸・鉄コロイドを得ることにしている。なお、本発明において、鉄コロイドの平均粒子径は実施例記載の方法による測定値を意味する。
【0013】
本発明のコンドロイチン硫酸・鉄コロイドを製造するには、製造工程中の混合液のpH目標値を約8以上のアルカリ側、好ましくは約9〜約11、より望ましくは約10〜11の範囲とし、pHの変動値が約0.2の範囲内、すなわち、pH目標値の±0.1以内に納まるように塩化第二鉄を添加することが重要である。pH目標値が8付近よりも低い場合や11付近よりも高くなると、粒子径が大きくなる傾向があり、平均粒子径を100nm以下に出来ないことがある。なお、pH目標値とは製造工程中のほぼ定常状態における平均的な値であって、製造開始直後のpH上昇中は除かれる。
【0014】
本発明のコンドロイチン硫酸・鉄コロイドは、pHコンロトーラを用いることにより簡単に製造される。具体的には、pHコントローラーの制御目標値を9〜11の間に設定し、当該設定値の±0.1の変動内でアルカリを絶えず加えながら塩化第二鉄の添加をコントロールすればよい。
【0015】
本発明のコンドロイチン硫酸・鉄コロイドは、従来の方法では製造できなかったサメ由来、サケ由来のものから得られるものであり、特にサメ由来やサケ由来のコンドロイチン硫酸のように、以下に述べる不飽和二糖の6位に硫酸が結合したΔDi-6Sを多く含有する。
【0016】
コンドロイチン硫酸は、二糖体であるN−アセチルコンドロイシンを基本単位とするムコ多糖の硫酸化体であって、通常、二糖単位当たり1モルの硫酸が結合している。また、コンドロイチナーゼ処理は、種々の不飽和二糖を生成し、不飽和二糖の4位に硫酸が結合したもの(ΔDi-4S)、6位に硫酸が結合したもの(ΔDi-6S)、不飽和二糖に2モルの硫酸が結合したもの(ΔDi-diSD,ΔDi-diSB,ΔDi-diS)などを生成する。これらのうち、ΔDi-6Sを多く含むコンドロイチン硫酸は通常タイプCと呼ばれ、ΔDi-4Sを多く含むコンドロイチン硫酸は通常タイプAと呼ばれる。
【0017】
コンドロイチン硫酸は、通常水に溶解しやすい塩の形で用いられ、コンドロイチン硫酸のナトリウム塩が汎用される。その分子量は制約されるものではないが、好ましくは10,000〜50,000、さらに好ましくは15,000〜40,000、より望ましくは20,000〜25,000である。大きな分子量のものは得られるコロイド粒子の平均粒子径が大きくなり、小さすぎるとコロイド粒子の安定性が低下する傾向にある。
【0018】
また、本発明においては、ΔDi-6Sを多く含有するいわゆるタイプCが好ましく用いられるが、その中でもある一定範囲の二糖体組成比を有するコンドロイチン硫酸ナトリウム、特に一定範囲量の二硫酸結合体(2硫酸total)を含有するコンドロイチン硫酸が望ましく用いられる。同じタイプCのものであっても、二硫酸結合体含量が多い場合には得られたコロイド粒子の平均粒子径が大きくなる傾向にある。
【0019】
従って、これらを勘案すれば、本発明に最適なコンドロイチン硫酸は、分子量が15,000〜40,000、二糖組成比としてΔDi-4Sの含有量が10〜30重量%、ΔDi-6Sの含有量が50〜85重量%、かつ2硫酸totalすなわち結合位置を問わず2モルの硫酸が結合した二硫酸結合体含有量(本発明においては、ΔDi-diSD,ΔDi-diSB,ΔDi-diSの合計量をいう。)が5〜15重量%、さらに望ましくは5〜10重量%のものである。なお、コンドロイチン硫酸の分子量や二糖組成比は実施例に記載された方法により測定されたものを意味する。
【0020】
用いられるアルカリは特に制約されるものではないが、得られたコンドロイチン硫酸・鉄コロイドが医薬品の製剤原料として用いられる観点から水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウムが好ましく、さらに望ましくは水酸化ナトリウムである。もちろん、医薬用剤に用いられるアルカリであれば、これらに限定されるものではない。また、塩化第二鉄やアルカリは通例水溶液として添加される。この濃度は、pHコントロールが可能な限り特に限定されない。
【0021】
さらに具体的な手順を示しながらその製造方法を詳細に説明する。まず、コンドロイチン硫酸ナトリウムを水に溶解する。その初期濃度は約0.1〜5w/v%であり、好ましくは約1〜4w/v%である。この溶液に、攪拌しながら所定濃度のアルカリ水溶液を一定速度で連続的に注入し始める。ここで「連続的に」とは間断なくとの意であり、ロータリーポンプなどによる連続注入の他、自然落下などによる滴下をも含む。そして、その添加速度は適宜定められるが、約1〜4時間、好ましくは2〜4時間程度で所要量の塩化第二鉄が添加されるように調整するのが好ましい。すなわち、約1〜4時間程度の攪拌時間を確保するのが好ましい。
【0022】
塩化第二鉄は、アルカリの添加と同時に添加を始めてよいが、アルカリを添加して液のpHが目標値に達した後に添加を開始するのが好ましい。
【0023】
塩化第二鉄を添加すれば、コロイドの形成に伴って混合液のpHが低下する。そして、混合液のpHが目標値を下回った時点で塩化第二鉄の添加を一時的に止める。この時点で、混合液のpHは僅かに目標値を下回るが、アルカリは引き続き添加されているので、混合液のpHは再び上昇し始める。そして、目標値を上回れば再び塩化第二鉄を添加し、目標値を下回った時点でその添加を一時的に止める。このように、混合液のpH変動が所定範囲内となるように塩化第二鉄を断続的に添加する。なお、製造工程中、塩化第二鉄の添加によるpH降下がアルカリによるpH上昇よりも大きくなるように、濃度や添加速度が決定される。
【0024】
pH変動域は約0.2、すなわち、目標値の±約0.1の範囲であり、好ましくは目標値の±約0.05(pH変動域として約0.1)である。この値は、塩化第二鉄溶液やアルカリ溶液の添加濃度、添加速度それにpHコントローラーの制御精度に依存する。
【0025】
こうして、コンドロイチン硫酸の水溶液を攪拌しながら所定濃度のアルカリ水溶液を前記水溶液に一定速度で連続注入しつつ、混合液のpHがアルカリ側の所定pH域を保つように塩化第二鉄水溶液を断続的に添加する。そして、pH調整のために必要と想定される塩化第二鉄量を残して、所定量の塩化第二鉄を添加したならば、目標値までアルカリを添加し、しばらく攪拌を続ける。その後、残余の塩化第二鉄を添加してさらに攪拌をし、必要に応じて酸(あるいはアルカリ)を加えて、pHを7〜8の中性付近に調整する。この後、必要があればさらに水による液量調整、加熱滅菌を行い、微量元素製剤の製造に供する。
【0026】
このように上記製造方法においては、攪拌しながらコンドロイチン硫酸の水溶液に所定濃度のアルカリを一定速度で連続注入しつつ、混合液のpHがアルカリ側の所定pH域を保つように塩化第二鉄水溶液を断続的に添加しているので、pHコントローラーを用いた機械制御による製造が行える。
【0027】
また、上記製造方法によれば、ウシ由来以外のサメやサケ等を由来とするコンドロイチン硫酸を用いて、本発明の100nm以下の平均粒子径を有するコンドロイチン硫酸・コロイド鉄が簡単に得られる。
【実施例1】
【0028】
以下、実施例に基づいて本発明についてさらに詳細に説明する。
コンドロイチン硫酸ナトリウム(マルハ株式会社製、Lot.PUC-790,サメ由来)の3.9w/v%水溶液1000mLに、当該水溶液を攪拌(1000rpm)しながら水酸化ナトリウム水溶液(5.9w/v%)を10mL/hの速度で添加を始めた。混合液のpH目標値が9.0、変動域が0.1(pH目標値±0.05)となるように塩化第二鉄水溶液(FeCl3・6H2O 23.7w/v%)を10mL/hの速度で加え、所定量の塩化第二鉄(塩化第二鉄水溶液28.5mL)が添加されるまで、約3時間の添加攪拌を続けた。この間、塩化第二鉄水溶液および水酸化ナトリウム水溶液の添加は、pHコントローラー(株式会社日伸理化製、NPH−8800)により制御された。添加終了後、pHコントローラーによる制御を止め、攪拌しながら残量の塩化第二鉄水溶液(1.5ml)を添加した。この液のpHは7.4、得られた鉄コロイド粒子の平均粒子径は126nmであった。
【0029】
なお、用いたコンドロイチン硫酸ナトリウムは、平均分子量21,500、ΔDi-6Sが74.6重量%、ΔDi-4Sが16.5重量%、2硫酸totalが7.3重量%であった。
【0030】
〔コンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量の測定〕
コンドロイチン硫酸ナトリウム20mgを精密に量り、移動相で正確に10mLとして試料溶液とした。別にプルラン標準品(分子量20,000)20mgを精密に量り、移動相で正確に20mLとして標準溶液とした。試料溶液および標準溶液300μLにつき、次の操作条件で液体クロマトグラフ法により試験を行い、光散乱データ処理 GPC LALLSプログラムにより試料の平均分子量を算出した。
【0031】
試験条件
HLC-8120GPCシステム
検出器:示差屈折計、光散乱光度計
カラム:TOSOH TSK-GEL G3000PWXL 7.8mm×300mm
カラム温度:40℃
移動相:0.2mol/L NaNO3水溶液
流量:0.8mL/min
【0032】
〔不飽和二糖の測定〕
コンドロイチン硫酸ナトリウム5mgにコンドロイチナーゼABC溶液0.5mLを加えて溶解させ、37℃の恒温槽中で4時間反応させた。反応後、沸騰水浴中で1分間加熱したものを試料溶液とした。別に標準となるΔDi-HA、ΔDi-0S、ΔDi-UA2S、ΔDi-6S、ΔDi-4S、ΔDi-diSD,ΔDi-diSおよびΔDi-diSそれぞれ250μgを0.05Mトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)0.25mLに溶解させ、それぞれ20μLを合わせて標準溶液とした。試料溶液及び標準溶液10μLにつき、下記の操作条件で液体クロマトグラフ法により試験した。
【0033】
試験条件
検出器:SPD-10A 測定波長:232nm
カラム:TOSOH TSKgel Amido80(4.6×250mm)
温度:70℃
移動相:アセトニトリル/メタノール/ギ酸アンモニウム緩衝液=60/25/15
流量:1mL/min
Integrator:Class LC10
【0034】
〔試液の調整〕
コンドロイチナーゼABC溶液:コンドロイチナーゼABC(生化学工業社製)に0.05Mトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)を加えて溶かし、2U/mLとする。
ギ酸アンモニウム緩衝液:0.5mol/Lギ酸アンモニウム溶液にギ酸を加えてpH4.8に調整する。
【0035】
〔コンドロイチン硫酸・鉄コロイドの平均粒子径の測定〕
10mmのセルにコンドロイチン硫酸・鉄コロイド溶液を1mL入れ、蒸留水を加えて4mLとし試料溶液とした。この試料溶液を光散乱光度計 ELS8000 (大塚電子株式会社製)にて平均粒子径を測定した。ただし、濃度が薄いまたは濃い場合には、コンドロイチン硫酸・鉄コロイド溶液をさらに加えるかまたは希釈して再度測定した。
【実施例2】
【0036】
平均分子量21,200、ΔDi-6Sが68.4重量%、ΔDi-4Sが20.5重量%、2硫酸totalが9.2重量%のコンドロイチン硫酸ナトリウム(マルハ株式会社製、Lot.PUC-794,サメ由来)を用い、当該水溶液を攪拌(1000rpm)しながら水酸化ナトリウム水溶液(5.9w/v%)を15mL/hの速度で添加を始めた。次に、混合液のpH目標値を10.0、pH変動域を0.1(pH目標値±0.05)となるように、塩化第二鉄水溶液(FeCl3・6H2O 23.7w/v%)を15mL/hの速度で加えた。そして、所定量の塩化第二鉄(塩化第二鉄水溶液26.5mL)が添加されるまで、約2時間の添加攪拌を続けた。この間、塩化第二鉄水溶液および水酸化ナトリウム水溶液の添加は、pHコントローラー(株式会社日伸理化製、NPH−8800)により制御された。添加終了後、pHコントローラーによる制御を止め、攪拌しながら残量の塩化第二鉄水溶液(3.5ml)を添加した。この液のpHは7.5であり、その後水酸化ナトリウム水溶液を加えて液のpHを8.0に調整した。得られた鉄コロイド粒子の平均粒子径は73nmであった。
【実施例3】
【0037】
混合液のpH目標値を10.0、pH変動域を0.1(pH目標値±0.05)となるようにし、水酸化ナトリウム水溶液の添加速度を約3.75mL/hの速度で攪拌(1000rpm)しながら添加を始めた。次に、塩化第二鉄水溶液を7.5mL/hの速度で加えた。そして、所定量の塩化第二鉄(塩化第二鉄水溶液26.0mL)が添加されるまで、約4時間の添加攪拌を続けた。そして、攪拌しながら残量の塩化第二鉄水溶液(4.0ml)を添加した他は実施例1と同様にした。この液のpHは7.8であり、得られた鉄コロイド粒子の平均粒子径は81nmであった。
【実施例4】
【0038】
混合液のpH目標値を11.0、pH変動域を0.1(pH目標値±0.05)となるようにし、塩化第二鉄水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液の添加速度を約30mL/hの速度で加え、所定量の塩化第二鉄(塩化第二鉄水溶液27.0mL)が添加されるまで、約1時間の添加攪拌を続けた。そして、攪拌しながら残量の塩化第二鉄水溶液(3.0ml)を添加した他は実施例1と同様にした。この液のpHは8.0であり、その後塩酸を加えて液のpHを7.8に調整した。得られた鉄コロイド粒子の平均粒子径は91nmであった。
【実施例5】
【0039】
(微量元素製剤の製造)
実施例3で得たコンドロイチン硫酸・鉄コロイド溶液5Lに水13Lを加えた。この溶液に、攪拌しながら2w/v%塩化マンガン溶液0.1L、35w/v%硫酸亜鉛溶液0.5L、25w/v%硫酸銅溶液0.05Lおよび17w/v%ヨウ化カリウム溶液0.01Lを順次加えた。さらに1%w/v水酸化ナトリウム水溶液でpH6に調整し、蒸留水で全量を20Lにした。この溶液を2mLずつガラス容器に充填・密封した後、加熱滅菌して微量元素製剤を得た。この製剤中のコンドロイチン硫酸・鉄コロイドの平均粒子径は65nmであった。この製剤を60℃で3週間保存すると共に1週間経過毎に平均粒子径および外観試験を実施したところ、いずれの時点においても製造直後と差がほとんどなく、安定な微量元素製剤が得られた。
【0040】
(比較例1)
混合液のpH目標値を8.0、pH変動域を0.1(pH目標値±0.05)となるようにし、塩化第二鉄水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液の添加速度を約10mL/hの速度で加え、所定量の塩化第二鉄(塩化第二鉄水溶液28.5mL)が添加されるまで、約3時間の添加攪拌を続けた。そして、攪拌しながら残量の塩化第二鉄水溶液(1.5ml)を添加した他は実施例1と同様にした。得られた液のpHは7.4であり、鉄コロイド粒子の平均粒子径は200nmであった。
【0041】
(比較例2)
混合液のpH目標値を12.0、pH変動域を0.1(pH目標値±0.05)となるようにし、攪拌回転数を1500rpmとした以外は、実施例2と同様にした。残量の塩化第二鉄溶液を添加した後のpHは9.1であり、その後塩酸でpH7.9に調整した。得られた鉄コロイド粒子の平均粒子径は302nmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量が15,000〜40,000で、その二糖組成比としてΔDi-6Sが50〜85重量%かつΔDi-4Sが10〜30重量%および2硫酸totalが5〜15重量%であるコンドロイチン硫酸から得られるコンドロイチン硫酸・鉄コロイドであって、
コロイド粒子の平均粒子径が100nm以下であるコンドロイチン硫酸・鉄コロイド。
【請求項2】
前記コンドロイチン硫酸・鉄コロイド溶液は、60℃で3週間以上の粒子安定性を有する請求項1に記載のコンドロイチン硫酸・鉄コロイド。
【請求項3】
コンドロイチン硫酸の由来が、サメ、サケのいずれかであることを特徴とする請求項1又は2に記載のコンドロイチン硫酸・鉄コロイド。

【公開番号】特開2010−70558(P2010−70558A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289079(P2009−289079)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【分割の表示】特願2003−56444(P2003−56444)の分割
【原出願日】平成15年3月3日(2003.3.3)
【出願人】(000231648)日本製薬株式会社 (17)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】