コンバインにおける前処理駆動装置
【課題】前処理部と走行装置との駆動速度の連動を正確に行うコンバインにおける前処理駆動装置を提供することを課題としている。
【解決手段】エンジン1からの出力を走行伝動系と前処理部17、扱胴6及び、脱穀フィードチェーン18を含む作業機伝動系とに分岐せしめるコンバインにおける前処理部17の駆動速度を走行速度に連動して変更せしめる速度連動手段を、前処理部駆動用の前処理変速機14を変速操作せしめるアクチュエータ39と、走行装置駆動用の走行変速機8の変速後の駆動速度を検出する走行回転センサ36と、走行速度に対応して前処理部17を駆動するように、上記走行回転センサ36の情報に基づいてアクチュエータ39を制御する制御装置38とから構成した。
【解決手段】エンジン1からの出力を走行伝動系と前処理部17、扱胴6及び、脱穀フィードチェーン18を含む作業機伝動系とに分岐せしめるコンバインにおける前処理部17の駆動速度を走行速度に連動して変更せしめる速度連動手段を、前処理部駆動用の前処理変速機14を変速操作せしめるアクチュエータ39と、走行装置駆動用の走行変速機8の変速後の駆動速度を検出する走行回転センサ36と、走行速度に対応して前処理部17を駆動するように、上記走行回転センサ36の情報に基づいてアクチュエータ39を制御する制御装置38とから構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はコンバインにおける前処理駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来コンバインにおける前処理駆動装置として、エンジンからの出力を走行伝動系と穀稈搬送を含む前処理部への前処理伝動系とに分岐せしめ、走行装置駆動用の走行変速機と、前処理部駆動用の前処理変速機とを設け、前処理部の駆動速度を走行速度に連動して変更せしめる速度連動手段を設けたものが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし上記速度連動手段が両変速機を機械的に連動せしめていたため、前処理部と走行装置との駆動速度の連動が不正確となる場合があるという欠点があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するための本発明のコンバインにおける前処理駆動装置は、エンジン1からの出力を、走行伝動系と、前処理部17、扱胴6及び、脱穀フィードチェーン18を含む作業機伝動系とに分岐せしめ、走行装置駆動用の走行変速機8と、前処理部駆動用の前処理変速機14とを設け、前処理部17の駆動速度を走行速度が速くなるほど増加させるように連動して変更せしめる速度連動手段を設けた前処理駆動装置において、前記速度連動手段が、前処理変速機14を変速操作せしめるアクチュエータ39と、走行変速機8の変速後の駆動速度を検出する走行回転センサ36と、走行速度に対応して前処理部17を駆動するように、上記走行回転センサ36の情報に基づいてアクチュエータ39を制御する制御装置38とを備えると共に、前処理部17を駆動する前記前処理変速機14によって脱穀フィードチェーン18を駆動するように構成し、前記制御装置38を、前処理部17の高さを検出する前処理高さポテンショメータ44により前処理部17が所定高さに上昇したことが検出されると、前記アクチュエータ39を変速操作して前処理部17及び脱穀フィードチェーン18を一緒に駆動停止させるように制御する構成としたことを第1の特徴としている。
また、エンジン1から作業機伝動系への伝動を断接する脱穀クラッチ12を設け、該脱穀クラッチ12の伝動下手側において作業機伝動系を分岐し、その分岐伝動系を前処理変速機14に伝動連結し、該前処理変速機14から前処理部17への伝動系と脱穀フィードチェーン18への伝動系とに分岐すると共に、前処理変速機14から前処理部17への伝動を断接する前処理クラッチ31を設けたことを第2の特徴としている。
【発明の効果】
【0005】
以上のように構成される本発明の構造によると、前処理部(穀稈搬送を含む)が走行速度に連動して同調した速度で駆動されるため、走行速度の変化にシンクロして前処理部が駆動され、前処理部の穀稈搬送部が脱穀部側に穀稈を搬送し、走行速度に関係なく穀稈が安定して搬送され、搬送乱れ等が防止されるという効果がある。
特に速度連動手段が、前処理変速機を変速操作せしめるアクチュエータと、走行変速機の変速後の駆動速度を検出する走行回転センサと、走行回転センサの情報に基づいてアクチュエータを制御する制御装置とを備え、電子制御により前処理部の駆動速度を制御するものの場合、制御機構をシンプルに構成することができる他、油圧無段変速装置(HST)等を容易に採用することができ、走行速度に対して追従性の良い機構を容易に提供することができるという利点がある。
また例えばあぜ際等における回向時に前処理部を上昇させた場合に、前処理部の所定高さへの上昇によって自動停止機能が作動し、前処理部及び脱穀フィードチェーンの駆動が停止されるため、排わら等の排出が行われない。このため旋回場所にわら等を落下させることが無く、回向時に機体が排わらを踏みつける等の不都合が防止される。このとき前述のように前処理部及び脱穀フィードチェーンの駆動が同調して停止するため、搬送乱れや穀稈の詰まり等は防止される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】コンバインの伝動線図である。
【図2】作業機トランスミッションの平断面図である。
【図3】作業機トランスミッションの正面図である。
【図4】マイコンユニット部分のブロック図である。
【図5】走行速度と前処理駆動速度との関係を示すグラフ図である。
【図6】速度維持キャンセル機能を作動させた状態の走行速度と前処理駆動速度との関係を示すグラフ図である。
【図7】速度上昇機能を作動させた状態の走行速度と前処理駆動速度との関係を示すグラフ図である。
【図8】前処理速度変更ダイヤルスイッチの平面図である。
【図9】速度変更機能を作動させた場合の走行速度と前処理駆動速度との関係を示すグラフ図である。
【図10】フィードチェーンの前端部分の側面図である。
【図11】手扱ぎ速度上昇機能を作動させた状態の走行速度と前処理駆動速度との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1は本発明のコンバインにおける穀稈搬送伝動装置を採用したコンバインの伝動系統図であり、エンジン1の駆動軸(出力軸)1aには出力取り出し用の2つのプーリ2,3が取り付けられている。そしてエンジン1からの駆動力はプーリ2を介して走行伝動系として走行用の油圧伝動装置であるHST4に、またプーリ3を介して作業機伝動系として扱胴6に駆動力を伝動せしめる扱胴入力軸7にそれぞれ分岐して出力されている。
【0008】
そして上記走行用HST4を備えた走行伝動用のトランスミッション(走行トランスミッション)8から左右の走行装置用の駆動力が変速されて出力され、これにより左右の走行装置は変速駆動され、機体が変速走行せしめられる構造となっている。
【0009】
一方エンジン1側のプーリ3と扱胴入力軸7に取り付けられたプーリ9との間には、駆動力伝動用のベルト11が巻き掛けられており、該ベルト11側にはテンションクラッチが脱穀クラッチ12として設けられている。つまり作業機伝動系にはエンジン1から脱穀クラッチ12を介して駆動力が断接自在に伝動されている。
【0010】
そして扱胴入力軸7に脱穀クラッチ12を介して入力される作業機伝動系の駆動力は、扱胴入力軸7に取り付けられたプーリ13を介して作業機伝動用のトランスミッション(作業機トランスミッション)14に備えられる油圧伝動装置である作業機HST16(作業機HST16の入力プーリ15)に伝動せしめられており、作業機トランスミッション14からコンバインにおける前処理部17への伝動系と、脱穀フィードチェーン18への伝動系が分岐して出力されている。
【0011】
このとき作業機トランスミッション14には、前処理部17への駆動力出力用の前処理出力軸19と、脱穀フィードチェーン18への駆動力出力用のフィードチェーン出力軸21との2つの出力軸が設けられており、脱穀フィードチェーン18はフィードチェーン出力軸21の端部側に設けられたスプロケット22により駆動せしめられている。また扱胴6は扱胴入力軸7からベベルギヤ23を介して直接(トランスミッションを介さず)駆動力が入力されて駆動されている。
【0012】
すなわち作業機伝動系は脱穀部24への伝動系(扱胴6及び脱穀フィードチェーン18への駆動力の伝動)を含み、この脱穀部24への駆動力の伝動は作業機トランスミッション14への駆動力の伝動と共に、作業機伝動系における作業機トランスミッション14への伝動上流側に設けられた脱穀クラッチ12により断接せしめられる。
【0013】
一方前処理部17は、従来同様穀稈の刈取装置(カッタ)41と引起装置42とスターホイールや扱深搬送体43等の穀稈搬送装置等を備え、前処理部17への駆動力の伝動は、前処理部17側の駆動力の入力軸26に取り付けられたプーリ27と、前述の前処理出力軸19に取り付けられたプーリ28との間に巻き掛けられた伝動用のベルト29を介して行われる。
【0014】
なお前処理部17は、従来同様入力軸26に入力される駆動力により上記各機構が、該駆動力の回転数(速度)に応じた駆動速度によって駆動される構造となっている。また上記ベルト29側には前処理部24(入力軸26)への駆動力の伝動を断接するテンションクラッチが前処理クラッチ31として備えられている。
【0015】
以上により前処理クラッチ31の「切り」状態において、脱穀クラッチ12を「入り」作動させることによって、エンジン1から扱胴入力軸7に駆動力が入力され、前処理部17が停止した状態のまま、扱胴6及び脱穀フィードチェーン18が駆動され、さらに前処理クラッチ31を「入り」作動させることにより、前処理部17に駆動力が伝動され、前処理部17(上記各機構)が駆動される。
【0016】
このとき作業機トランスミッション14は図2,図3に示されるように作業機HST16と一体構成されており、作業機HST16により変速される構造となっている。そして前処理出力軸19及びフィードチェーン出力軸21は作業機HST16より後段(下流)に設けられている。
【0017】
すなわち作業機トランスミッション14は、作業機HST16の出力軸16aに軸支されたギヤG1が前処理出力軸19に軸支されたギヤG2と噛合しているとともに、前処理出力軸19に軸支されたギヤG3と出力軸16aに自由回転自在に軸支されたギヤG4とが噛合しており、出力軸16aに自由回転自在に軸支され、ギヤG4と一体回転するスプロケットP1とフィードチェーン出力軸21に一体回転可能に軸支されたスプロケットP2とがチェーンCを介して伝動連結された構造となっている。
【0018】
このときフィードチェーン出力軸21とスプロケットP2との間にはトルクリミッタ機構20が介設されている。これにより前処理出力軸19及びフィードチェーン出力軸21からの駆動力は共に作業機HST16より変速され、つまりフィードチェーン18及び前処理部17の駆動速度は作業機HST16によって同調して変速される。なお脱穀クラッチ12を「切り」作動させることによって扱胴入力軸7への駆動力が断たれるため、前処理部17,扱胴6,脱穀フィードチェーン18はいずれも停止して駆動されない。
【0019】
一方前述の走行トランスミッション8には、走行HST4にエンジン1側から駆動力が入力されており、走行HST4により変速される駆動力が走行トランスミッション8側に備えられた副変速機構32を介して副変速されて走行装置側に出力されるように構成されている。
【0020】
すなわち走行トランスミッション8側には走行HST4を操作して走行HST4からの出力を変速する主変速レバー33と副変速機構32を操作する副変速レバー(図示せず)とが取り付けられており、主変速レバー33及び副変速レバーの操作によって走行装置側への走行駆動力を変速して、機体の走行速度の変速を行う。
【0021】
このとき上記副変速機構31には副変速された駆動力(変速操作後の駆動力)を出力する副変速出力軸34が取り付けられており、該副変速出力軸34には走行回転センサ36が取り付けられ、副変速出力軸34の回転数(走行速度)を検出することが可能となっている。また作業機トランスミッション14の前処理出力軸19には、該前処理出力軸19の回転数(前処理部17の駆動速度)を検出する前処理回転センサ37が設けられている。
【0022】
さらに上記作業機HST14の変速用のトラニオン軸(図示せず)側には、図1に示されるようにトラニオン軸(作業機HST14の斜板角)を操作して作業機HST14の変速操作を行うアクチュエータ(モータ)39が作業機HST14と一体的に取り付けられている。また図4に示されるように上記両回転センサ36,37が制御装置であるマイコンユニット38に入力されているとともに、モータ39がマイコンユニット38の出力側に接続されている。
【0023】
そしてマイコンユニット38は、上記両回転センサ36,37からの情報に基づいて上記モータ39を制御し、前処理部17(前処理出力軸19)と脱穀フィードチェーン18(フィードチェーン出力軸21)の駆動速度を同調して、走行速度に連動対応(同期)させて前処理部17の駆動速度を自動変速するように構成されている。
【0024】
これは作業走行時には、走行速度に対応して所定の単位時間あたりの刈取穀桿の量が増減せしめられ、上記所定の単位時間あたりの前処理部17が処理するべき穀桿の処理量が変化するため、走行速度に応じて(同期させて)前処理部17(カッタ41,引起装置42,扱深搬送体43等)の駆動速度を変化させる必要があるためである。
【0025】
このため上記マイコンユニット38は走行回転センサ36からの走行速度情報により、前処理部17を当該走行速度に応じた処理量を確保する駆動速度で駆動するように前処理回転センサ37からの情報を監視して作業機HST16の変速をモータ39により制御し、図5のグラフに示されるように前処理部17の駆動速度を走行速度に連動して変更する。すなわち前処理部17の駆動速度を走行速度に連動して変更せしめる速度連動手段が、モータ39,マイコンユニット38,前処理回転センサ37,走行回転センサ36等から構成されている。
【0026】
そしてマイコンユニット38(速度連動手段)は、図5に示されるように、走行速度が所定の低速(速度維持制御開始速度)V1以上の場合は、走行速度に比例させて前処理の駆動速度を増加させ、走行速度が速度維持制御開始速度V1以下となる場合及び後進する際に、前処理部17の駆動を所定の低速速度(維持速度)V2を保って継続するように構成されている。
【0027】
なお上記速度連動手段は、前述のように走行速度が速度維持制御開始速度V1より小さくなると、前処理部17の駆動を維持速度V2で固定して継続するように構成されているが、V1がほぼ0又は0であるように設定しても良い。またV2はコンバインが刈取り搬送作業を行うことができる程度の速度となっている。
【0028】
そして作業機トランスミッション14は、前述の構造により前処理部17の駆動速度に対してフィードチェーン18が所定の速度比で駆動せしめられるように、前処理出力軸19とフィードチェーン出力軸21との駆動力(回転数)比が設定されている。
【0029】
以上により前処理部17の駆動速度は走行速度にシンクロ(追従)して変化せしめられ、走行速度に対応して穀稈の刈り取り及び下流側への穀稈搬送を円滑に行い、さらにフィードチェーン18が前処理部17の駆動速度変化に追従して駆動速度が変化せしめられ、前処理部17の扱深さ搬送体43によって搬送される穀桿を円滑に受け継ぎ扱胴6側に搬送することができる。
【0030】
このとき前処理部17側とフィードチェーン18側の駆動速度が常に同調していることによって、両者の駆動速度の誤差による穀稈の搬送乱れ等が防止される。なお上記構造により作業機HST16は逆回転が不要であり正回転のみの変速で対応することができ、変速機構をシンプルに構成することができる。
【0031】
一方作業機トランスミッション14は作業機HST16を用いて構成されているため、前処理部17と脱穀フィードチェーン18の入力側に共通の作業機HST16が配置されることとなり、作業機トランスミッション14側の構造がコンパクトになる他、走行装置だけでなく、前処理部17及び脱穀フィードチェーン18のいずれも無段階変速されるため、走行速度との関係や刈取量の関係で生じる穀稈の搬送乱れを円滑に防止することができる。
【0032】
また前処理部17と脱穀フィードチェーン18の駆動力が、脱穀クラッチ12の下流側に配置された作業機トランスミッション14から同調して出力されると共に、扱胴6の駆動力も脱穀クラッチ12の下流側からとる構造となっているため、脱穀クラッチ16を「切り」状態とすることによって、前処理部17,脱穀フィードチェーン18,扱胴6等が停止し、脱穀部6停止時に前処理部17を停止させ又は駆動させないための牽制装置が不要となり、構造を簡略化できる。
【0033】
一方前処理クラッチ31が作業機トランスミッション14の伝動下流側(作業機トランスミッション14の前処理出力軸19と前処理部17の入力軸26との間)に配置されているため、脱穀クラッチ12が入り作動している状態においては、作業機HST16は駆動(回転)状態となっている。
【0034】
このため前処理クラッチ31「入」時には、作業機HST16における回転駆動力が入力されて油圧モータ16Mを回転せしめる油圧ポンプ16Pが既に回転しており、該油圧ポンプ16Pと共にチャージポンプ(油圧ポンプと油圧モータとの間で漏れるオイルの補充用のポンプ)が回転せしめられている。
【0035】
これにより前処理クラッチ31の入り作動時のチャージポンプ側への負荷が小さく、チャージポンプにおける高圧発生がなくなり、また既にチャージポンプが回転しているため、ピストンの焼き付き等のトラブルも防止でき油圧機器(HST)の耐久性も向上する。
【0036】
なお本実施形態の場合は、走行トランスミッション8及び作業機トランスミッション14が共にHSTを変速装置として使用したものとなっており、HST(作業機HST16)を電子制御により制御し、作業機トランスミッション14を自動変速する構造であるため、速度連動手段の走行速度に対する追従性が高く、且つ走行HST4又は作業機HST16に油温,圧力による容積効率の変化等が発生した場合においても、走行速度と前処理部17の駆動速度とが正確にシンクロする。
【0037】
さらに上記マイコンユニット38の制御には、前述のように走行速度が所定の低速V1以下及び後進する際に前処理部17の駆動を速度V2を維持して継続する駆動速度維持手段(機能)が備えられているため、例えば枕地近傍まで刈り取り作業を行い、主変速(走行HST4)により停止又は後進する際も、駆動速度維持機能によって、前処理部17,フィードチェーン18,扱胴6の駆動が継続する。
【0038】
すなわち上記速度維持機能は、上記のように機体の後進の際にも前処理部17の駆動を速度V2を維持して継続する後進速度維持手段の機能も備えており、これにより穀稈の刈り残し及び搬送残し等が防止され、稈こぼれ等の穀稈の刈取り搬送乱れ等を防止することができる。また前処理部17の駆動速度が必要以上に低下して刈り取り作業が十分行われずに株の引き抜きや押し切りが発生する等の不都合も防止される。
【0039】
一方上記マイコンユニット38の制御には、上記駆動速度維持機能を停止(キャンセル)する速度維持キャンセル手段(機能)が備えられており、切換手段となる、図4に示されるようにマイコンユニット38の入力側に接続された強制掻き込み解除スイッチ53の操作(ON,OFF)により、速度維持キャンセル機能の作動及び非作動(駆動速度維持機能を作動)を設定することができるように構成されている。
【0040】
すなわち強制掻き込み解除スイッチ53をON(入り)操作することによって、速度維持キャンセル機能を作動させ、図6のグラフに示されるように、走行速度が0又は限りなく0に近い所定の低速(近停止速度)V3以下及び後進状態となると作業機HST16をニュートラルとして前処理部17及び脱穀フィードチェーン18を停止させることができる。
【0041】
これにより通常の刈り取り脱穀作業(条刈り)中は強制掻き込み解除スイッチ53をONとして速度維持キャンセル機能を作動させ、走行速度が0又は近停止速度V3以下及び後進状態となると前処理部17及び脱穀フィードチェーン18を停止させるようにすることによって、例えば脱穀詰まり等が発生し、扱胴6が停止した場合等に、機体を停止させることによって前処理部17及び脱穀フィードチェーン18を停止させ、詰まりの除去等を容易に行うことができる。
【0042】
また前処理部17や脱穀フィードチェーン18等が停止しているため、あぜ際等における回向時には機体の後方側に排わら等が排出されず、回向に際して後進して排わらを踏みつける等の不都合は防止される。
【0043】
一方前述の前処理部17は従来同様上下昇降自在となっており、前処理部17側には前処理部17の高さを検出する前処理高さポテンションメータ44が取り付けられ、図4に示されるように上記マイコンユニット38にポテンションメータ44からの情報が入力されている。
【0044】
そしてマイコンユニット38には、上記ポテンショメータ44からの情報により、前処理部17が予め設定された所定の設定高さに上昇せしめられるとモータ39により作業機HST16を操作して作業機HST16の出力を0とし、前処理部17及び脱穀フィードチェーン18の駆動を停止せしめる自動停止手段(機能)が備えられている。
【0045】
これにより例えばあぜ際等における回向時に前処理部17を上昇させた場合に、前処理部17の所定高さへの上昇によって自動停止機能が作動し、前処理部17及び脱穀フィードチェーン18の駆動が停止されるため、排わら等の排出が行われない。このため旋回場所にわら等を落下させることが無く、回向時に機体が排わらを踏みつける等の不都合が防止される。このとき前述のように前処理部17及び脱穀フィードチェーン18の駆動が同調して停止するため、搬送乱れや穀稈の詰まり等は防止される。
【0046】
なお前処理部17を上記上昇状態から下降させると、上記設定高さ以下に下降した場合は、自動停止機能が解除され、マイコンユニット38はモータ39を作動せしめ、再度前処理部17及び脱穀フィードチェーン18を走行速度に同調させて駆動し、刈り取りや搬送等が再開される。
【0047】
またマイコンユニット38には図4に示されるようにリフトシャット解除スイッチ46も入力せしめられており、該リフトシャット解除スイッチ46がONの状態においては、自動停止機能の作動が停止せしめられ、これによりリフトシャット解除スイッチ46がONの場合は、前処理部17が前記設定高さに上昇せしめられても、前処理部17及び脱穀フィードチェーン18の駆動は継続する。
【0048】
ただしマイコンユニット38側には、前処理部17に稈が入っているか否かを感知する扱深さ搬送体43側のメインセンサ47も入力されており、メインセンサ47からマイコンユニット38側への情報により、リフトシャット解除スイッチ46がONの場合であっても前処理部17が稈を流し終えると前処理部17及び脱穀フィードチェーン18の駆動を停止せしめる駆動停止手段(機能)が備えられている。
【0049】
すなわちマイコンユニット38は、駆動停止機能によって、前処理部17を上昇させた後にメインセンサ47がOFFとなり稈を流し終えたことを検知すると、モータ39を駆動して作業機HST16の出力を0とし、前処理部17及び脱穀フィードチェーン18の駆動を停止せしめ、必要以上の駆動を防止する。
【0050】
一方プーリ2と走行HSTの入力プーリ48との間にはメインクラッチ51が設けられており、該メインクラッチ51を切り作動させることにより走行装置側(走行伝動系)への駆動力の伝動を断ち、機体を停止させることが可能となっている。
【0051】
このときメインクラッチ51を操作する走行用のクラッチペダル側にはクラッチペダルの踏み操作(メインクラッチ51の切り操作)を検知するセンサ(セーフティースイッチ)52が設けられており、該セーフティースイッチ52からの情報はマイコンユニット38に入力されている。そしてマイコンユニット38には、セーフティースイッチ38のON(クラッチペダルの踏み操作時)によりモータ39を駆動して作業機HST16の出力を0(ニュートラル)とし、前処理部17及び脱穀フィードチェーン18の駆動を停止せしめる作動停止手段(機能)も設けられている。
【0052】
なおクラッチペダルの踏み操作の際には、主変速レバー33も強制的にニュートラルに戻され、走行HST4も出力が0(ニュートラル)に切り換えられる。これによりオペレータは走行用のクラッチペダルを踏み込み、メインクラッチ51を切り作動させることにより機体を緊急停止させることができ、緊急停止の操作が容易であり、且つ確実に緊急停止することができる。
【0053】
ところで未刈穀稈が倒伏している状態での刈り取り作業は、引き起こしの性能上前処理部17の駆動速度を上昇させる必要がある。すなわち本コンバインの場合、走行速度に対する前処理部17の駆動速度の比例係数高くして、前述のように側高速度に対して速度連動手段により設定される前処理部17の駆動速度を早くする必要がある。
【0054】
このため本実施形態においては、マイコンユニット38の制御に、走行速度に対する前処理部17の駆動速度を上昇させる速度上昇手段(機能)が備えられており、マイコンユニット38は、図4に示されるようにマイコンユニット38に接続されている倒伏スイッチ58のON,OFFにより速度上昇機能の入り切りを設定するように構成されている。
【0055】
これにより本実施形態のコンバインにより倒伏穀稈の刈り取り脱穀作業を行う場合は、オペレータがマニュアル(手動)で倒伏スイッチ58をONすることによって、速度上昇機能を作動させ、図7に示されるように、図5と同様の駆動速度S1(図7の点線)に比較して、走行速度に対して前処理部17を高速S2(図7の実線)で駆動し、これにより倒伏穀稈の刈り取りを容易に且つ安定して行うことができる。なお倒伏スイッチ58をOFFにすると、前処理部17はS1の速度で駆動される。
【0056】
また前処理部17からフィードチェーン18側に搬送される穀稈が適正姿勢となる前処理部17の駆動速度は材料条件(稲の立毛角や稈剛性等)や圃場条件等により異なり、上記のようにいかなる条件の場合においても、速度連動手段や速度上昇機能により予め設定された駆動速度(標準速度)で前処理部17を駆動すると穂先又は株元先行等の穀稈搬送に乱れが発生する場合がある。
【0057】
この不都合を避けるため、本実施形態においてはマイコンユニット38の制御に、走行速度に対する前処理部17の駆動速度の速度比(上記比例係数)の変更を行い、前処理部17の駆動速度を上記標準速度に対して変更する速度変更手段(機能)を設け、マイコンユニット38は、図4に示されるようにマイコンユニット38に接続されている前処理速度変更ダイヤルスイッチ59の切換により速度変更機能の入り切りを設定するように構成されている。
【0058】
このとき前処理速度変更ダイヤルスイッチ59は図8に示されるように複数の切換ポジションを有したものとなっており、各ポジションに切り換えることにより、図9のグラフに示されるように標準速度に対して駆動速度が増減するように構成されている。すなわち前処理速度変更ダイヤルスイッチ59をポジション1に切り換えると図9の1の比例係数で駆動され、以下ポジション7まで同様に駆動される。
【0059】
これにより走行速度(標準速度)に対して前処理部17の駆動速度を上げると穂先が先行し、下げると株元が先行する(穂先が遅れる)こととなり、圃場条件により穂先又は株元先行等の穀稈搬送の乱れが発生した場合に、前処理速度変更ダイヤルスイッチ59を適当なポジションに切り換えることによって穀稈搬送の乱れを補正することができる。なお前処理速度変更ダイヤルスイッチ59としてバリアブル抵抗(ボリューム等)を使用して、駆動速度の増減を無段階に設定するように構成しても良い。
【0060】
またフィードチェーン18の前処理部17からの受け継ぎ部分に、図4に示されるようにマイコンユニット38の入力側に接続してカメラ61を設け、該カメラ61により撮影される穀稈の姿勢に基づき速度変更機能を作動させ、前処理部17の駆動速度の調節によって穀稈の搬送姿勢を自動補正するように構成しても良い。
【0061】
なお本発明のコンバインを手扱ぎ作業に使用する場合、走行速度が0となるため、速度維持キャンセル機能を作動させている(強制掻き込み解除スイッチ53をON)と前処理部の駆動速度が0、速度維持キャンセル機能を非作動(強制掻き込み解除スイッチ53をOFF)としていると駆動速度維持機能が作動して前処理部の駆動速度がV2となる。
【0062】
つまり手扱ぎ作業の場合、フィードチェーン18の駆動速度が0又は比較的低速(V2)となり、作業性ができない又は悪化する。この不都合を避けるため本発明のマイコンユニット38には手扱ぎ速度上昇手段(機能)が備えられており、該手扱ぎ速度上昇機能により手扱ぎ作業時のフィードチェーン18の駆動速度を上昇させ、手扱ぎ作業を効率よく行うことができるように構成されている。
【0063】
すなわちマイコンユニット38には図4に示されるように手扱ぎ状態を検知する手扱ぎスイッチ56が接続されており、マイコンユニット38は該手扱ぎスイッチ56のON,OFFにより手扱ぎ速度上昇機能の入り切りを設定するように構成されている。
【0064】
ところで本実施形態においては、図10に示されるように従来同様フィードチェーン18の上方には、フィードチェーン18と共に穀稈を挾持する挾扼レール62と、該挾扼レール62の前端部62aにおいてフィードチェーン18に対して上下揺動自在に支持された穀稈押え杆63とが備えられており、該穀稈押え杆63は、フィードチェーン18に対して起立させる手扱ぎ作業位置Hと、フィードチェーン18に対して前端を倒伏させる通常作業位置Aとに姿勢切換えが自在となっている。
【0065】
そして本実施形態の場合、上記手扱ぎスイッチ56は挾扼レール62側に設けられており、穀稈押え杆63を起立姿勢(手扱ぎ作業位置H)に切り換えると、穀稈押え杆63の支持ユニット64によりONとなり、マイコンユニット38が手扱ぎ速度上昇機能を入り作動せしめる。
【0066】
また前述の前処理クラッチ31側には前処理クラッチ31の入り切りを操作するアクチュエータ(前処理クラッチモータ)が、図4に示されるようにマイコンユニット38の出力側に接続されて設けられており、該前処理クラッチモータ57の駆動により前処理クラッチ31の入り切りを前述の手動以外に自動で操作することができるように構成されている。
【0067】
これにより穀稈押え杆63を手扱ぎ作業位置Hに切り換え、上記手扱ぎスイッチ56がONとなると、マイコンユニット38は、手扱ぎ速度上昇機能を作動させ、図11に示されるように、走行速度が所定速度以下となったときの前処理部17の駆動速度を維持速度V2から手扱ぎ維持速度V4に上昇させるとともに、前処理クラッチモータ57を駆動して前処理クラッチ31を切り作動させ、前処理部17の駆動を停止させた状態で、フィードチェーン18を予め設定された手扱ぎ維持速度V4の速度で駆動する。これにより手扱ぎ作業時に作業効率が低下することなく、手扱ぎ作業を効率よく行うことができる。
【0068】
なおマイコンユニット38は、速度維持キャンセル機能の作動に対して、強制掻き込み解除スイッチ53のON,OFFの他、手扱ぎスイッチ56のON,OFFもチェックしており、手扱ぎスイッチ56がONの場合は、たとえ強制掻き込み解除スイッチ53がONであっても速度維持キャンセル機能を作動させない速度維持キャンセル規制手段(機能)が備えられている。
【0069】
これにより手扱ぎ作業時には、手扱ぎスイッチ56がONとなるため速度維持キャンセル規制機能が作動して、速度維持キャンセル機能が作動(強制掻き込み解除スイッチ53がON)していた場合であっても、速度維持キャンセル機能が自動的に停止せしめられ、フィードチェーン18の駆動速度が0となる不都合は自動的に防止される。
【符号の説明】
【0070】
1 エンジン
6 扱胴
8 走行トランスミッション(走行変速機)
14 前処理トランスミッション(前処理変速機)
17 前処理部
18 脱穀フィードチェン
36 走行回転センサ
38 マイコンユニット(制御装置)
39 モータ(アクチュエータ)
44 前処理高さポテンショメータ
【技術分野】
【0001】
この発明はコンバインにおける前処理駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来コンバインにおける前処理駆動装置として、エンジンからの出力を走行伝動系と穀稈搬送を含む前処理部への前処理伝動系とに分岐せしめ、走行装置駆動用の走行変速機と、前処理部駆動用の前処理変速機とを設け、前処理部の駆動速度を走行速度に連動して変更せしめる速度連動手段を設けたものが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし上記速度連動手段が両変速機を機械的に連動せしめていたため、前処理部と走行装置との駆動速度の連動が不正確となる場合があるという欠点があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するための本発明のコンバインにおける前処理駆動装置は、エンジン1からの出力を、走行伝動系と、前処理部17、扱胴6及び、脱穀フィードチェーン18を含む作業機伝動系とに分岐せしめ、走行装置駆動用の走行変速機8と、前処理部駆動用の前処理変速機14とを設け、前処理部17の駆動速度を走行速度が速くなるほど増加させるように連動して変更せしめる速度連動手段を設けた前処理駆動装置において、前記速度連動手段が、前処理変速機14を変速操作せしめるアクチュエータ39と、走行変速機8の変速後の駆動速度を検出する走行回転センサ36と、走行速度に対応して前処理部17を駆動するように、上記走行回転センサ36の情報に基づいてアクチュエータ39を制御する制御装置38とを備えると共に、前処理部17を駆動する前記前処理変速機14によって脱穀フィードチェーン18を駆動するように構成し、前記制御装置38を、前処理部17の高さを検出する前処理高さポテンショメータ44により前処理部17が所定高さに上昇したことが検出されると、前記アクチュエータ39を変速操作して前処理部17及び脱穀フィードチェーン18を一緒に駆動停止させるように制御する構成としたことを第1の特徴としている。
また、エンジン1から作業機伝動系への伝動を断接する脱穀クラッチ12を設け、該脱穀クラッチ12の伝動下手側において作業機伝動系を分岐し、その分岐伝動系を前処理変速機14に伝動連結し、該前処理変速機14から前処理部17への伝動系と脱穀フィードチェーン18への伝動系とに分岐すると共に、前処理変速機14から前処理部17への伝動を断接する前処理クラッチ31を設けたことを第2の特徴としている。
【発明の効果】
【0005】
以上のように構成される本発明の構造によると、前処理部(穀稈搬送を含む)が走行速度に連動して同調した速度で駆動されるため、走行速度の変化にシンクロして前処理部が駆動され、前処理部の穀稈搬送部が脱穀部側に穀稈を搬送し、走行速度に関係なく穀稈が安定して搬送され、搬送乱れ等が防止されるという効果がある。
特に速度連動手段が、前処理変速機を変速操作せしめるアクチュエータと、走行変速機の変速後の駆動速度を検出する走行回転センサと、走行回転センサの情報に基づいてアクチュエータを制御する制御装置とを備え、電子制御により前処理部の駆動速度を制御するものの場合、制御機構をシンプルに構成することができる他、油圧無段変速装置(HST)等を容易に採用することができ、走行速度に対して追従性の良い機構を容易に提供することができるという利点がある。
また例えばあぜ際等における回向時に前処理部を上昇させた場合に、前処理部の所定高さへの上昇によって自動停止機能が作動し、前処理部及び脱穀フィードチェーンの駆動が停止されるため、排わら等の排出が行われない。このため旋回場所にわら等を落下させることが無く、回向時に機体が排わらを踏みつける等の不都合が防止される。このとき前述のように前処理部及び脱穀フィードチェーンの駆動が同調して停止するため、搬送乱れや穀稈の詰まり等は防止される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】コンバインの伝動線図である。
【図2】作業機トランスミッションの平断面図である。
【図3】作業機トランスミッションの正面図である。
【図4】マイコンユニット部分のブロック図である。
【図5】走行速度と前処理駆動速度との関係を示すグラフ図である。
【図6】速度維持キャンセル機能を作動させた状態の走行速度と前処理駆動速度との関係を示すグラフ図である。
【図7】速度上昇機能を作動させた状態の走行速度と前処理駆動速度との関係を示すグラフ図である。
【図8】前処理速度変更ダイヤルスイッチの平面図である。
【図9】速度変更機能を作動させた場合の走行速度と前処理駆動速度との関係を示すグラフ図である。
【図10】フィードチェーンの前端部分の側面図である。
【図11】手扱ぎ速度上昇機能を作動させた状態の走行速度と前処理駆動速度との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1は本発明のコンバインにおける穀稈搬送伝動装置を採用したコンバインの伝動系統図であり、エンジン1の駆動軸(出力軸)1aには出力取り出し用の2つのプーリ2,3が取り付けられている。そしてエンジン1からの駆動力はプーリ2を介して走行伝動系として走行用の油圧伝動装置であるHST4に、またプーリ3を介して作業機伝動系として扱胴6に駆動力を伝動せしめる扱胴入力軸7にそれぞれ分岐して出力されている。
【0008】
そして上記走行用HST4を備えた走行伝動用のトランスミッション(走行トランスミッション)8から左右の走行装置用の駆動力が変速されて出力され、これにより左右の走行装置は変速駆動され、機体が変速走行せしめられる構造となっている。
【0009】
一方エンジン1側のプーリ3と扱胴入力軸7に取り付けられたプーリ9との間には、駆動力伝動用のベルト11が巻き掛けられており、該ベルト11側にはテンションクラッチが脱穀クラッチ12として設けられている。つまり作業機伝動系にはエンジン1から脱穀クラッチ12を介して駆動力が断接自在に伝動されている。
【0010】
そして扱胴入力軸7に脱穀クラッチ12を介して入力される作業機伝動系の駆動力は、扱胴入力軸7に取り付けられたプーリ13を介して作業機伝動用のトランスミッション(作業機トランスミッション)14に備えられる油圧伝動装置である作業機HST16(作業機HST16の入力プーリ15)に伝動せしめられており、作業機トランスミッション14からコンバインにおける前処理部17への伝動系と、脱穀フィードチェーン18への伝動系が分岐して出力されている。
【0011】
このとき作業機トランスミッション14には、前処理部17への駆動力出力用の前処理出力軸19と、脱穀フィードチェーン18への駆動力出力用のフィードチェーン出力軸21との2つの出力軸が設けられており、脱穀フィードチェーン18はフィードチェーン出力軸21の端部側に設けられたスプロケット22により駆動せしめられている。また扱胴6は扱胴入力軸7からベベルギヤ23を介して直接(トランスミッションを介さず)駆動力が入力されて駆動されている。
【0012】
すなわち作業機伝動系は脱穀部24への伝動系(扱胴6及び脱穀フィードチェーン18への駆動力の伝動)を含み、この脱穀部24への駆動力の伝動は作業機トランスミッション14への駆動力の伝動と共に、作業機伝動系における作業機トランスミッション14への伝動上流側に設けられた脱穀クラッチ12により断接せしめられる。
【0013】
一方前処理部17は、従来同様穀稈の刈取装置(カッタ)41と引起装置42とスターホイールや扱深搬送体43等の穀稈搬送装置等を備え、前処理部17への駆動力の伝動は、前処理部17側の駆動力の入力軸26に取り付けられたプーリ27と、前述の前処理出力軸19に取り付けられたプーリ28との間に巻き掛けられた伝動用のベルト29を介して行われる。
【0014】
なお前処理部17は、従来同様入力軸26に入力される駆動力により上記各機構が、該駆動力の回転数(速度)に応じた駆動速度によって駆動される構造となっている。また上記ベルト29側には前処理部24(入力軸26)への駆動力の伝動を断接するテンションクラッチが前処理クラッチ31として備えられている。
【0015】
以上により前処理クラッチ31の「切り」状態において、脱穀クラッチ12を「入り」作動させることによって、エンジン1から扱胴入力軸7に駆動力が入力され、前処理部17が停止した状態のまま、扱胴6及び脱穀フィードチェーン18が駆動され、さらに前処理クラッチ31を「入り」作動させることにより、前処理部17に駆動力が伝動され、前処理部17(上記各機構)が駆動される。
【0016】
このとき作業機トランスミッション14は図2,図3に示されるように作業機HST16と一体構成されており、作業機HST16により変速される構造となっている。そして前処理出力軸19及びフィードチェーン出力軸21は作業機HST16より後段(下流)に設けられている。
【0017】
すなわち作業機トランスミッション14は、作業機HST16の出力軸16aに軸支されたギヤG1が前処理出力軸19に軸支されたギヤG2と噛合しているとともに、前処理出力軸19に軸支されたギヤG3と出力軸16aに自由回転自在に軸支されたギヤG4とが噛合しており、出力軸16aに自由回転自在に軸支され、ギヤG4と一体回転するスプロケットP1とフィードチェーン出力軸21に一体回転可能に軸支されたスプロケットP2とがチェーンCを介して伝動連結された構造となっている。
【0018】
このときフィードチェーン出力軸21とスプロケットP2との間にはトルクリミッタ機構20が介設されている。これにより前処理出力軸19及びフィードチェーン出力軸21からの駆動力は共に作業機HST16より変速され、つまりフィードチェーン18及び前処理部17の駆動速度は作業機HST16によって同調して変速される。なお脱穀クラッチ12を「切り」作動させることによって扱胴入力軸7への駆動力が断たれるため、前処理部17,扱胴6,脱穀フィードチェーン18はいずれも停止して駆動されない。
【0019】
一方前述の走行トランスミッション8には、走行HST4にエンジン1側から駆動力が入力されており、走行HST4により変速される駆動力が走行トランスミッション8側に備えられた副変速機構32を介して副変速されて走行装置側に出力されるように構成されている。
【0020】
すなわち走行トランスミッション8側には走行HST4を操作して走行HST4からの出力を変速する主変速レバー33と副変速機構32を操作する副変速レバー(図示せず)とが取り付けられており、主変速レバー33及び副変速レバーの操作によって走行装置側への走行駆動力を変速して、機体の走行速度の変速を行う。
【0021】
このとき上記副変速機構31には副変速された駆動力(変速操作後の駆動力)を出力する副変速出力軸34が取り付けられており、該副変速出力軸34には走行回転センサ36が取り付けられ、副変速出力軸34の回転数(走行速度)を検出することが可能となっている。また作業機トランスミッション14の前処理出力軸19には、該前処理出力軸19の回転数(前処理部17の駆動速度)を検出する前処理回転センサ37が設けられている。
【0022】
さらに上記作業機HST14の変速用のトラニオン軸(図示せず)側には、図1に示されるようにトラニオン軸(作業機HST14の斜板角)を操作して作業機HST14の変速操作を行うアクチュエータ(モータ)39が作業機HST14と一体的に取り付けられている。また図4に示されるように上記両回転センサ36,37が制御装置であるマイコンユニット38に入力されているとともに、モータ39がマイコンユニット38の出力側に接続されている。
【0023】
そしてマイコンユニット38は、上記両回転センサ36,37からの情報に基づいて上記モータ39を制御し、前処理部17(前処理出力軸19)と脱穀フィードチェーン18(フィードチェーン出力軸21)の駆動速度を同調して、走行速度に連動対応(同期)させて前処理部17の駆動速度を自動変速するように構成されている。
【0024】
これは作業走行時には、走行速度に対応して所定の単位時間あたりの刈取穀桿の量が増減せしめられ、上記所定の単位時間あたりの前処理部17が処理するべき穀桿の処理量が変化するため、走行速度に応じて(同期させて)前処理部17(カッタ41,引起装置42,扱深搬送体43等)の駆動速度を変化させる必要があるためである。
【0025】
このため上記マイコンユニット38は走行回転センサ36からの走行速度情報により、前処理部17を当該走行速度に応じた処理量を確保する駆動速度で駆動するように前処理回転センサ37からの情報を監視して作業機HST16の変速をモータ39により制御し、図5のグラフに示されるように前処理部17の駆動速度を走行速度に連動して変更する。すなわち前処理部17の駆動速度を走行速度に連動して変更せしめる速度連動手段が、モータ39,マイコンユニット38,前処理回転センサ37,走行回転センサ36等から構成されている。
【0026】
そしてマイコンユニット38(速度連動手段)は、図5に示されるように、走行速度が所定の低速(速度維持制御開始速度)V1以上の場合は、走行速度に比例させて前処理の駆動速度を増加させ、走行速度が速度維持制御開始速度V1以下となる場合及び後進する際に、前処理部17の駆動を所定の低速速度(維持速度)V2を保って継続するように構成されている。
【0027】
なお上記速度連動手段は、前述のように走行速度が速度維持制御開始速度V1より小さくなると、前処理部17の駆動を維持速度V2で固定して継続するように構成されているが、V1がほぼ0又は0であるように設定しても良い。またV2はコンバインが刈取り搬送作業を行うことができる程度の速度となっている。
【0028】
そして作業機トランスミッション14は、前述の構造により前処理部17の駆動速度に対してフィードチェーン18が所定の速度比で駆動せしめられるように、前処理出力軸19とフィードチェーン出力軸21との駆動力(回転数)比が設定されている。
【0029】
以上により前処理部17の駆動速度は走行速度にシンクロ(追従)して変化せしめられ、走行速度に対応して穀稈の刈り取り及び下流側への穀稈搬送を円滑に行い、さらにフィードチェーン18が前処理部17の駆動速度変化に追従して駆動速度が変化せしめられ、前処理部17の扱深さ搬送体43によって搬送される穀桿を円滑に受け継ぎ扱胴6側に搬送することができる。
【0030】
このとき前処理部17側とフィードチェーン18側の駆動速度が常に同調していることによって、両者の駆動速度の誤差による穀稈の搬送乱れ等が防止される。なお上記構造により作業機HST16は逆回転が不要であり正回転のみの変速で対応することができ、変速機構をシンプルに構成することができる。
【0031】
一方作業機トランスミッション14は作業機HST16を用いて構成されているため、前処理部17と脱穀フィードチェーン18の入力側に共通の作業機HST16が配置されることとなり、作業機トランスミッション14側の構造がコンパクトになる他、走行装置だけでなく、前処理部17及び脱穀フィードチェーン18のいずれも無段階変速されるため、走行速度との関係や刈取量の関係で生じる穀稈の搬送乱れを円滑に防止することができる。
【0032】
また前処理部17と脱穀フィードチェーン18の駆動力が、脱穀クラッチ12の下流側に配置された作業機トランスミッション14から同調して出力されると共に、扱胴6の駆動力も脱穀クラッチ12の下流側からとる構造となっているため、脱穀クラッチ16を「切り」状態とすることによって、前処理部17,脱穀フィードチェーン18,扱胴6等が停止し、脱穀部6停止時に前処理部17を停止させ又は駆動させないための牽制装置が不要となり、構造を簡略化できる。
【0033】
一方前処理クラッチ31が作業機トランスミッション14の伝動下流側(作業機トランスミッション14の前処理出力軸19と前処理部17の入力軸26との間)に配置されているため、脱穀クラッチ12が入り作動している状態においては、作業機HST16は駆動(回転)状態となっている。
【0034】
このため前処理クラッチ31「入」時には、作業機HST16における回転駆動力が入力されて油圧モータ16Mを回転せしめる油圧ポンプ16Pが既に回転しており、該油圧ポンプ16Pと共にチャージポンプ(油圧ポンプと油圧モータとの間で漏れるオイルの補充用のポンプ)が回転せしめられている。
【0035】
これにより前処理クラッチ31の入り作動時のチャージポンプ側への負荷が小さく、チャージポンプにおける高圧発生がなくなり、また既にチャージポンプが回転しているため、ピストンの焼き付き等のトラブルも防止でき油圧機器(HST)の耐久性も向上する。
【0036】
なお本実施形態の場合は、走行トランスミッション8及び作業機トランスミッション14が共にHSTを変速装置として使用したものとなっており、HST(作業機HST16)を電子制御により制御し、作業機トランスミッション14を自動変速する構造であるため、速度連動手段の走行速度に対する追従性が高く、且つ走行HST4又は作業機HST16に油温,圧力による容積効率の変化等が発生した場合においても、走行速度と前処理部17の駆動速度とが正確にシンクロする。
【0037】
さらに上記マイコンユニット38の制御には、前述のように走行速度が所定の低速V1以下及び後進する際に前処理部17の駆動を速度V2を維持して継続する駆動速度維持手段(機能)が備えられているため、例えば枕地近傍まで刈り取り作業を行い、主変速(走行HST4)により停止又は後進する際も、駆動速度維持機能によって、前処理部17,フィードチェーン18,扱胴6の駆動が継続する。
【0038】
すなわち上記速度維持機能は、上記のように機体の後進の際にも前処理部17の駆動を速度V2を維持して継続する後進速度維持手段の機能も備えており、これにより穀稈の刈り残し及び搬送残し等が防止され、稈こぼれ等の穀稈の刈取り搬送乱れ等を防止することができる。また前処理部17の駆動速度が必要以上に低下して刈り取り作業が十分行われずに株の引き抜きや押し切りが発生する等の不都合も防止される。
【0039】
一方上記マイコンユニット38の制御には、上記駆動速度維持機能を停止(キャンセル)する速度維持キャンセル手段(機能)が備えられており、切換手段となる、図4に示されるようにマイコンユニット38の入力側に接続された強制掻き込み解除スイッチ53の操作(ON,OFF)により、速度維持キャンセル機能の作動及び非作動(駆動速度維持機能を作動)を設定することができるように構成されている。
【0040】
すなわち強制掻き込み解除スイッチ53をON(入り)操作することによって、速度維持キャンセル機能を作動させ、図6のグラフに示されるように、走行速度が0又は限りなく0に近い所定の低速(近停止速度)V3以下及び後進状態となると作業機HST16をニュートラルとして前処理部17及び脱穀フィードチェーン18を停止させることができる。
【0041】
これにより通常の刈り取り脱穀作業(条刈り)中は強制掻き込み解除スイッチ53をONとして速度維持キャンセル機能を作動させ、走行速度が0又は近停止速度V3以下及び後進状態となると前処理部17及び脱穀フィードチェーン18を停止させるようにすることによって、例えば脱穀詰まり等が発生し、扱胴6が停止した場合等に、機体を停止させることによって前処理部17及び脱穀フィードチェーン18を停止させ、詰まりの除去等を容易に行うことができる。
【0042】
また前処理部17や脱穀フィードチェーン18等が停止しているため、あぜ際等における回向時には機体の後方側に排わら等が排出されず、回向に際して後進して排わらを踏みつける等の不都合は防止される。
【0043】
一方前述の前処理部17は従来同様上下昇降自在となっており、前処理部17側には前処理部17の高さを検出する前処理高さポテンションメータ44が取り付けられ、図4に示されるように上記マイコンユニット38にポテンションメータ44からの情報が入力されている。
【0044】
そしてマイコンユニット38には、上記ポテンショメータ44からの情報により、前処理部17が予め設定された所定の設定高さに上昇せしめられるとモータ39により作業機HST16を操作して作業機HST16の出力を0とし、前処理部17及び脱穀フィードチェーン18の駆動を停止せしめる自動停止手段(機能)が備えられている。
【0045】
これにより例えばあぜ際等における回向時に前処理部17を上昇させた場合に、前処理部17の所定高さへの上昇によって自動停止機能が作動し、前処理部17及び脱穀フィードチェーン18の駆動が停止されるため、排わら等の排出が行われない。このため旋回場所にわら等を落下させることが無く、回向時に機体が排わらを踏みつける等の不都合が防止される。このとき前述のように前処理部17及び脱穀フィードチェーン18の駆動が同調して停止するため、搬送乱れや穀稈の詰まり等は防止される。
【0046】
なお前処理部17を上記上昇状態から下降させると、上記設定高さ以下に下降した場合は、自動停止機能が解除され、マイコンユニット38はモータ39を作動せしめ、再度前処理部17及び脱穀フィードチェーン18を走行速度に同調させて駆動し、刈り取りや搬送等が再開される。
【0047】
またマイコンユニット38には図4に示されるようにリフトシャット解除スイッチ46も入力せしめられており、該リフトシャット解除スイッチ46がONの状態においては、自動停止機能の作動が停止せしめられ、これによりリフトシャット解除スイッチ46がONの場合は、前処理部17が前記設定高さに上昇せしめられても、前処理部17及び脱穀フィードチェーン18の駆動は継続する。
【0048】
ただしマイコンユニット38側には、前処理部17に稈が入っているか否かを感知する扱深さ搬送体43側のメインセンサ47も入力されており、メインセンサ47からマイコンユニット38側への情報により、リフトシャット解除スイッチ46がONの場合であっても前処理部17が稈を流し終えると前処理部17及び脱穀フィードチェーン18の駆動を停止せしめる駆動停止手段(機能)が備えられている。
【0049】
すなわちマイコンユニット38は、駆動停止機能によって、前処理部17を上昇させた後にメインセンサ47がOFFとなり稈を流し終えたことを検知すると、モータ39を駆動して作業機HST16の出力を0とし、前処理部17及び脱穀フィードチェーン18の駆動を停止せしめ、必要以上の駆動を防止する。
【0050】
一方プーリ2と走行HSTの入力プーリ48との間にはメインクラッチ51が設けられており、該メインクラッチ51を切り作動させることにより走行装置側(走行伝動系)への駆動力の伝動を断ち、機体を停止させることが可能となっている。
【0051】
このときメインクラッチ51を操作する走行用のクラッチペダル側にはクラッチペダルの踏み操作(メインクラッチ51の切り操作)を検知するセンサ(セーフティースイッチ)52が設けられており、該セーフティースイッチ52からの情報はマイコンユニット38に入力されている。そしてマイコンユニット38には、セーフティースイッチ38のON(クラッチペダルの踏み操作時)によりモータ39を駆動して作業機HST16の出力を0(ニュートラル)とし、前処理部17及び脱穀フィードチェーン18の駆動を停止せしめる作動停止手段(機能)も設けられている。
【0052】
なおクラッチペダルの踏み操作の際には、主変速レバー33も強制的にニュートラルに戻され、走行HST4も出力が0(ニュートラル)に切り換えられる。これによりオペレータは走行用のクラッチペダルを踏み込み、メインクラッチ51を切り作動させることにより機体を緊急停止させることができ、緊急停止の操作が容易であり、且つ確実に緊急停止することができる。
【0053】
ところで未刈穀稈が倒伏している状態での刈り取り作業は、引き起こしの性能上前処理部17の駆動速度を上昇させる必要がある。すなわち本コンバインの場合、走行速度に対する前処理部17の駆動速度の比例係数高くして、前述のように側高速度に対して速度連動手段により設定される前処理部17の駆動速度を早くする必要がある。
【0054】
このため本実施形態においては、マイコンユニット38の制御に、走行速度に対する前処理部17の駆動速度を上昇させる速度上昇手段(機能)が備えられており、マイコンユニット38は、図4に示されるようにマイコンユニット38に接続されている倒伏スイッチ58のON,OFFにより速度上昇機能の入り切りを設定するように構成されている。
【0055】
これにより本実施形態のコンバインにより倒伏穀稈の刈り取り脱穀作業を行う場合は、オペレータがマニュアル(手動)で倒伏スイッチ58をONすることによって、速度上昇機能を作動させ、図7に示されるように、図5と同様の駆動速度S1(図7の点線)に比較して、走行速度に対して前処理部17を高速S2(図7の実線)で駆動し、これにより倒伏穀稈の刈り取りを容易に且つ安定して行うことができる。なお倒伏スイッチ58をOFFにすると、前処理部17はS1の速度で駆動される。
【0056】
また前処理部17からフィードチェーン18側に搬送される穀稈が適正姿勢となる前処理部17の駆動速度は材料条件(稲の立毛角や稈剛性等)や圃場条件等により異なり、上記のようにいかなる条件の場合においても、速度連動手段や速度上昇機能により予め設定された駆動速度(標準速度)で前処理部17を駆動すると穂先又は株元先行等の穀稈搬送に乱れが発生する場合がある。
【0057】
この不都合を避けるため、本実施形態においてはマイコンユニット38の制御に、走行速度に対する前処理部17の駆動速度の速度比(上記比例係数)の変更を行い、前処理部17の駆動速度を上記標準速度に対して変更する速度変更手段(機能)を設け、マイコンユニット38は、図4に示されるようにマイコンユニット38に接続されている前処理速度変更ダイヤルスイッチ59の切換により速度変更機能の入り切りを設定するように構成されている。
【0058】
このとき前処理速度変更ダイヤルスイッチ59は図8に示されるように複数の切換ポジションを有したものとなっており、各ポジションに切り換えることにより、図9のグラフに示されるように標準速度に対して駆動速度が増減するように構成されている。すなわち前処理速度変更ダイヤルスイッチ59をポジション1に切り換えると図9の1の比例係数で駆動され、以下ポジション7まで同様に駆動される。
【0059】
これにより走行速度(標準速度)に対して前処理部17の駆動速度を上げると穂先が先行し、下げると株元が先行する(穂先が遅れる)こととなり、圃場条件により穂先又は株元先行等の穀稈搬送の乱れが発生した場合に、前処理速度変更ダイヤルスイッチ59を適当なポジションに切り換えることによって穀稈搬送の乱れを補正することができる。なお前処理速度変更ダイヤルスイッチ59としてバリアブル抵抗(ボリューム等)を使用して、駆動速度の増減を無段階に設定するように構成しても良い。
【0060】
またフィードチェーン18の前処理部17からの受け継ぎ部分に、図4に示されるようにマイコンユニット38の入力側に接続してカメラ61を設け、該カメラ61により撮影される穀稈の姿勢に基づき速度変更機能を作動させ、前処理部17の駆動速度の調節によって穀稈の搬送姿勢を自動補正するように構成しても良い。
【0061】
なお本発明のコンバインを手扱ぎ作業に使用する場合、走行速度が0となるため、速度維持キャンセル機能を作動させている(強制掻き込み解除スイッチ53をON)と前処理部の駆動速度が0、速度維持キャンセル機能を非作動(強制掻き込み解除スイッチ53をOFF)としていると駆動速度維持機能が作動して前処理部の駆動速度がV2となる。
【0062】
つまり手扱ぎ作業の場合、フィードチェーン18の駆動速度が0又は比較的低速(V2)となり、作業性ができない又は悪化する。この不都合を避けるため本発明のマイコンユニット38には手扱ぎ速度上昇手段(機能)が備えられており、該手扱ぎ速度上昇機能により手扱ぎ作業時のフィードチェーン18の駆動速度を上昇させ、手扱ぎ作業を効率よく行うことができるように構成されている。
【0063】
すなわちマイコンユニット38には図4に示されるように手扱ぎ状態を検知する手扱ぎスイッチ56が接続されており、マイコンユニット38は該手扱ぎスイッチ56のON,OFFにより手扱ぎ速度上昇機能の入り切りを設定するように構成されている。
【0064】
ところで本実施形態においては、図10に示されるように従来同様フィードチェーン18の上方には、フィードチェーン18と共に穀稈を挾持する挾扼レール62と、該挾扼レール62の前端部62aにおいてフィードチェーン18に対して上下揺動自在に支持された穀稈押え杆63とが備えられており、該穀稈押え杆63は、フィードチェーン18に対して起立させる手扱ぎ作業位置Hと、フィードチェーン18に対して前端を倒伏させる通常作業位置Aとに姿勢切換えが自在となっている。
【0065】
そして本実施形態の場合、上記手扱ぎスイッチ56は挾扼レール62側に設けられており、穀稈押え杆63を起立姿勢(手扱ぎ作業位置H)に切り換えると、穀稈押え杆63の支持ユニット64によりONとなり、マイコンユニット38が手扱ぎ速度上昇機能を入り作動せしめる。
【0066】
また前述の前処理クラッチ31側には前処理クラッチ31の入り切りを操作するアクチュエータ(前処理クラッチモータ)が、図4に示されるようにマイコンユニット38の出力側に接続されて設けられており、該前処理クラッチモータ57の駆動により前処理クラッチ31の入り切りを前述の手動以外に自動で操作することができるように構成されている。
【0067】
これにより穀稈押え杆63を手扱ぎ作業位置Hに切り換え、上記手扱ぎスイッチ56がONとなると、マイコンユニット38は、手扱ぎ速度上昇機能を作動させ、図11に示されるように、走行速度が所定速度以下となったときの前処理部17の駆動速度を維持速度V2から手扱ぎ維持速度V4に上昇させるとともに、前処理クラッチモータ57を駆動して前処理クラッチ31を切り作動させ、前処理部17の駆動を停止させた状態で、フィードチェーン18を予め設定された手扱ぎ維持速度V4の速度で駆動する。これにより手扱ぎ作業時に作業効率が低下することなく、手扱ぎ作業を効率よく行うことができる。
【0068】
なおマイコンユニット38は、速度維持キャンセル機能の作動に対して、強制掻き込み解除スイッチ53のON,OFFの他、手扱ぎスイッチ56のON,OFFもチェックしており、手扱ぎスイッチ56がONの場合は、たとえ強制掻き込み解除スイッチ53がONであっても速度維持キャンセル機能を作動させない速度維持キャンセル規制手段(機能)が備えられている。
【0069】
これにより手扱ぎ作業時には、手扱ぎスイッチ56がONとなるため速度維持キャンセル規制機能が作動して、速度維持キャンセル機能が作動(強制掻き込み解除スイッチ53がON)していた場合であっても、速度維持キャンセル機能が自動的に停止せしめられ、フィードチェーン18の駆動速度が0となる不都合は自動的に防止される。
【符号の説明】
【0070】
1 エンジン
6 扱胴
8 走行トランスミッション(走行変速機)
14 前処理トランスミッション(前処理変速機)
17 前処理部
18 脱穀フィードチェン
36 走行回転センサ
38 マイコンユニット(制御装置)
39 モータ(アクチュエータ)
44 前処理高さポテンショメータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(1)からの出力を、走行伝動系と、前処理部(17)、扱胴(6)及び、脱穀フィードチェーン(18)を含む作業機伝動系とに分岐せしめ、走行装置駆動用の走行変速機(8)と、前処理部駆動用の前処理変速機(14)とを設け、前処理部(17)の駆動速度を走行速度が速くなるほど増加させるように連動して変更せしめる速度連動手段を設けた前処理駆動装置において、前記速度連動手段が、前処理変速機(14)を変速操作せしめるアクチュエータ(39)と、走行変速機(8)の変速後の駆動速度を検出する走行回転センサ(36)と、走行速度に対応して前処理部(17)を駆動するように、上記走行回転センサ(36)の情報に基づいてアクチュエータ(39)を制御する制御装置(38)とを備えると共に、前処理部(17)を駆動する前記前処理変速機(14)によって脱穀フィードチェーン(18)を駆動するように構成し、前記制御装置(38)を、前処理部(17)の高さを検出する前処理高さポテンショメータ(44)により前処理部(17)が所定高さに上昇したことが検出されると、前記アクチュエータ(39)を変速操作して前処理部(17)及び脱穀フィードチェーン(18)を一緒に駆動停止させるように制御する構成としたことを特徴とするコンバインにおける前処理駆動装置。
【請求項2】
エンジン(1)から作業機伝動系への伝動を断接する脱穀クラッチ(12)を設け、該脱穀クラッチ(12)の伝動下手側において作業機伝動系を分岐し、その分岐伝動系を前処理変速機(14)に伝動連結し、該前処理変速機(14)から前処理部(17)への伝動系と脱穀フィードチェーン(18)への伝動系とに分岐すると共に、前処理変速機(14)から前処理部(17)への伝動を断接する前処理クラッチ(31)を設けたことを特徴とする請求項1記載のコンバインにおける前処理駆動装置。
【請求項1】
エンジン(1)からの出力を、走行伝動系と、前処理部(17)、扱胴(6)及び、脱穀フィードチェーン(18)を含む作業機伝動系とに分岐せしめ、走行装置駆動用の走行変速機(8)と、前処理部駆動用の前処理変速機(14)とを設け、前処理部(17)の駆動速度を走行速度が速くなるほど増加させるように連動して変更せしめる速度連動手段を設けた前処理駆動装置において、前記速度連動手段が、前処理変速機(14)を変速操作せしめるアクチュエータ(39)と、走行変速機(8)の変速後の駆動速度を検出する走行回転センサ(36)と、走行速度に対応して前処理部(17)を駆動するように、上記走行回転センサ(36)の情報に基づいてアクチュエータ(39)を制御する制御装置(38)とを備えると共に、前処理部(17)を駆動する前記前処理変速機(14)によって脱穀フィードチェーン(18)を駆動するように構成し、前記制御装置(38)を、前処理部(17)の高さを検出する前処理高さポテンショメータ(44)により前処理部(17)が所定高さに上昇したことが検出されると、前記アクチュエータ(39)を変速操作して前処理部(17)及び脱穀フィードチェーン(18)を一緒に駆動停止させるように制御する構成としたことを特徴とするコンバインにおける前処理駆動装置。
【請求項2】
エンジン(1)から作業機伝動系への伝動を断接する脱穀クラッチ(12)を設け、該脱穀クラッチ(12)の伝動下手側において作業機伝動系を分岐し、その分岐伝動系を前処理変速機(14)に伝動連結し、該前処理変速機(14)から前処理部(17)への伝動系と脱穀フィードチェーン(18)への伝動系とに分岐すると共に、前処理変速機(14)から前処理部(17)への伝動を断接する前処理クラッチ(31)を設けたことを特徴とする請求項1記載のコンバインにおける前処理駆動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−95660(P2012−95660A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−1884(P2012−1884)
【出願日】平成24年1月10日(2012.1.10)
【分割の表示】特願2001−108784(P2001−108784)の分割
【原出願日】平成13年4月6日(2001.4.6)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年1月10日(2012.1.10)
【分割の表示】特願2001−108784(P2001−108784)の分割
【原出願日】平成13年4月6日(2001.4.6)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】
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