説明

コンバインの穀稈引起装置

【課題】穀稈引起装置を作業姿勢から前側に向けて移動し回動させたメンテナンス姿勢にすることにより、メンテナンス作業用の広い空間部を形成し、刈刃や穀稈掻込搬送体等の清掃等のメンテナンス作業を能率よく簡単に行うことができるコンバインの穀稈引起装置を提供する。
【解決手段】刈取部3の前方に斜設される作業姿勢の穀稈引起装置2を、上部取付部43の取付けを解除した状態で刈取フレーム9に設けた下部取付部32の回動部53を支点に前方回動させたメンテナンス姿勢に切換回動自在にしたコンバインであって、前記回動部53を刈取フレーム9に対し作業姿勢の取付位置から前側に向けて移動自在に設け、穀稈引起装置2を前側に移動した状態で回動部53を支点にメンテナンス姿勢に切換回動自在に構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンバインの穀稈引起装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、刈取部の前部に刈り取り条数に対応して斜設した複数の穀稈引起装置を、上部取付部の取付けを解除した状態で刈取フレーム側の下部取付部の横軸部(回動部)を支点に前側に向けて回動させることにより、斜設状態の作業姿勢からメンテナンス作業姿勢に切り換え、刈刃及び穀稈掻込搬送体等の詰まり穀稈の除去、或いは清掃,点検,修理等のメンテナンス作業を行い易くするようにしたコンバインは既に公知である(例えば特許文献1。)。
【特許文献1】実開昭59−44228公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1で示されるコンバインは、作業姿勢の穀稈引起装置を横軸部の位置で回動させるので、メンテナンス姿勢にしたとき穀稈引起装置の下部に突出する引起爪が後方に位置する刈刃及び穀稈掻込搬送体等に近接し、両者の間を狭くしてメンテナンス作業を行い難くする欠点がある。
また穀稈引起装置を上部取付部の取付けを解除し横軸部を支点に回動させるとき、引起爪の下端部は横軸部を中心とする円弧を描いて下降しながら後方に移動するため、引起爪が地面に近接し地表に存在する切り株や雑草或いは土塊等に接当し引起爪の破損を生じ易い欠点がある。また上記引起爪の接当を回避しようとして刈取部を上昇させると、引起爪と切り株等の接当を防止することができるが、刈取部を上昇させた状態でのメンテナンス作業は作業位置が高くなること、及び作業中に刈取部の不慮の下降が心配される等の問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために本発明のコンバインの穀稈引起装置は、第1に、刈取部3の前方に斜設される作業姿勢の穀稈引起装置2を、上部取付部43の取付けを解除した状態で刈取フレーム9に設けた下部取付部32の回動部53を支点に前方回動させたメンテナンス姿勢に切換回動自在にしたコンバインの穀稈引起装置において、前記回動部53を刈取フレーム9に対し作業姿勢の取付位置から前側に向けて移動自在に設け、穀稈引起装置2を、前側に移動した状態で回動部53を支点にメンテナンス姿勢に切換回動自在に構成したことを特徴としている。
第2に、穀稈引起装置2の回動部53を有する支持杆52を、刈取フレーム9に設けた支持ブラッケット51に、前側に向け上向き方向にスライド自在に取付支持したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0005】
以上のように本発明によれば、穀稈引起装置の回動部を作業姿勢の取付位置から前側に向けて移動して、刈刃等から離間させた位置で前方回動させることにより、穀稈引起装置の下部及び引起爪を刈刃等に接近させることなくメンテナンス姿勢にすることができるので、広い空間部を形成しメンテナンス作業を引起爪等に支障されることなく行い易くすることができる。
また刈取フレームに設けた支持ブラッケットに対し、支持杆を前側に向けてスライド移動させることにより、穀稈引起装置を前側に向けて高く移動された回動部を支点として、簡単に回動することができると共に、引起爪を地表に存在する切り株等に接当させることなく、穀稈引起装置の前側回動をスムーズに行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1において符号1は、穀稈引起装置2を本発明に係わる取付構造によって刈取部3の前方に設けたコンバインである。このコンバイン1はクローラー式の走行装置1aを備えた機体フレーム(走行機台)1bに、刈取部3と脱穀部5等の作業部を前後方向に配置し、刈取部3の後方で脱穀部5の右側に操縦部6と、穀粒排出オーガー7を備えたグレンタンク8を従来のものと同様の配置構成によって備えている。
【0007】
この構成によりコンバイン1は、刈取部3で刈り取った植立穀稈を脱穀部5に供給して脱穀し、脱穀済の排稈は図示しない排藁カッター装置を経て、切断状態又は非切断の長藁状態のまま機外に排出する。また脱穀部5によって脱穀及び選別された穀粒を、グレンタンク8に収容して一連のコンバイン作業を行うことができる。
【0008】
上記刈取部3について図2,図3を参照し説明する。この刈取部3は刈取フレーム9に従来のものと同様の配置構造によって、植立穀稈を分草する分草体10及び前記穀稈引起装置2と、分草し引き起こされた起立穀稈を刈り取る刈刃11、及び刈り取られた穀稈を中央部に掻き寄せて後方送りをする上下段の穀稈掻込搬送体12,13等の刈取作業部から構成される。尚、刈取フレーム9は後述する前処理部伝動ケース19から伝動駆動される刈取作業部伝動ケース15と、該刈取作業部伝動ケース15の両側から上方及び前方に向けて一体的に設けられる前処理部支持フレーム22と下部フレーム31等からなる。
【0009】
前処理部伝動ケース19は、機体フレーム1bの前部に立設される支柱16の軸支部17に回動可能に軸支される回動筒19aを有しており、ユニバーサル伝動軸20を介して刈取作業部伝動ケース15に入力伝動することができる。
また前処理部伝動ケース19は、穀稈掻込搬送体12,13から穀稈を引き継いで脱穀部5の図示しないフィードチェンに継送する扱深調節搬送体21を伝動駆動している。
【0010】
さらに、前処理部伝動ケース19はその下面側と前面側に、刈取フレーム9の刈取作業部伝動ケース15を回動可能に軸支する軸支部22aを有する前処理部支持フレーム22と、刈取フレーム9の上方部位(図示例では後述する引起支持支柱23)と係合具25aを介して係脱可能に連結する連結フレーム25を一体的に設けている。上記前処理部支持フレーム22の中途部は、機体フレーム1bに設けた油圧シリンダー27に連結して支持される。
【0011】
この構成により刈取フレーム9は、連結フレーム25と前処理部支持フレーム22によって剛体構造で枠組み支持され、軸支部17を支点に油圧シリンダー27の伸縮作動によって昇降回動することができる。そして、前記係合具25aによる連結を外した状態で油圧シリンダー27を伸動させ前処理部支持フレーム22を上昇させると、刈取部3は刈取フレーム9の先端部(分草体10)を接地させた状態で、刈取作業部伝動ケース15が軸支部22aを支点に回動し、図2の点線Aで示すように機体に対し前傾された状態に姿勢変更することができる。
【0012】
これによれば、刈取部3の穀稈引起装置2及び穀稈掻込搬送体12,13と、脱穀部5及び扱深調節搬送体21との間を大きく離間させて広い空間部を簡単に形成することができるので、該空間部を介して詰まり穀稈や藁屑類の除去及び清掃並びに点検修理等のメンテナンス作業を容易に行うことができる。
またメンテナンス作業終了後は、油圧シリンダー27を縮動し前処理部支持フレーム22を下降させると、引起支持支柱23が連結フレーム25に近接するので、係合具25aによって両者を再び連結し、元の刈取部3に復帰させることができる。
【0013】
次に図2〜図4を参照し穀稈引起装置2の取付構造について説明する。この穀稈引起装置2は、その上部を刈取作業部伝動ケース15から上方に向けて一体的に立設した引起支持支柱23の上部伝動ケース29と、上部取付構造30を介して着脱可能に取付固定し、且つ下部を刈取作業部伝動ケース15から前側に向けて一体的に延出される下部フレーム31に、下部取付構造32を介して着脱及び姿勢変更自在に取付固定される。これにより穀稈引起装置2を図2の実線で示す斜設された作業姿勢から、点線B及び矢印で示す前側方向に回動移動させたメンテナンス姿勢にすることができる。
【0014】
この穀稈引起装置2は従来のものと同様な構成により、ケース2aの上部底壁に設けた軸受部33に、引起爪35を備えた引起チェン36を巻き掛け駆動するスプロケット37のスプロケット軸39を軸支している。そして、スプロケット軸39は軸端内に刻設されるスプライン溝孔(取付孔)40を、上部伝動ケース29に軸支される引起駆動軸41のスプライン部に係脱可能に嵌挿することができる。
【0015】
図2に示すように上部取付構造(上部取付部30)は、引起駆動軸41に対しスプロケット軸39を係合した状態において、上部伝動ケース29に一体的に設けた取付部42に取付ネジ部43を形成し、該取付部42にケース2aの上部を載置し上方から把持部付きの取付ネジ45を取付ネジ部43に螺装して締着することにより、穀稈引起装置2の上部を伝動可能に取付固定することができる。
【0016】
下部取付構造(下部取付部32)は図3,図4で示すように、ケース2aの下部底壁から背後に向けて突設したブラッケット50と、下部フレーム31に立設した支持ブラッケット51とを平面視でL字状の支持杆52によって連結する構成となっている。
即ち、支持杆52はL字状の横軸部をブラッケット50に挿入することにより穀稈引起装置2の回動部53となし、且つ直杆状の縦杆部55を支持ブラッケット51の筒体内にスライド自在に挿入している。
【0017】
この支持ブラッケット51は、下部フレーム31から立設される支持ブラッケット片56に、支持杆52の縦杆部55を所定の上向き角度θを有して前後移動調節可能に嵌挿支持し、穀稈引起装置2の下部を取付支持する下部取付部32を構成している。
また縦杆部55の前側位置には、支持ブラッケット51に接当し穀稈引起装置2の後方側移動を規制するストッパー57を設けている。また支持ブラッケット51には、縦杆部55の前後位置を調節固定する取付ネジ59を設けている。
【0018】
また図示例の分草体10は、その分草体取付杆60をパイプ材からなる下部フレーム31の先端部に挿脱着脱可能に挿入し取付ネジ61によって締着固定している。この構成により分草体10は取付ネジ61を緩めると、下部フレーム31に分草体取付杆60を挿入した状態で側方に向けて回動することができ、分草体10を外側方に退避回動させた状態において、穀稈引起装置2を作業姿勢から分草体10に支障されることなくメンテナンス姿勢への切り換えを行うことができる。
【0019】
尚、図1,図2で示されるように穀稈引起装置2の側方には、側方カバー62が設置されており、穀稈引起装置2のメンテナンス姿勢への切り換は予め側方カバー62を取り外した状態で行うことができる。
また図示例のコンバイン1は2条刈り型の刈取部3を備え、左右一対の穀稈引起装置2を左右の下部フレーム31と引起支持支柱23にそれぞれ斜設しているが、多条刈り型の刈取部3の場合にはその条数に対応した適数の穀稈引起装置2が同様の取付構造によって設置される。さらに上部取付部30は引起支持支柱23への取付けに限ることなく、刈取フレーム9に設けた別部材から穀稈引起装置2を設けることもできる。
【0020】
以上のように構成される刈取部3を有したコンバイン1は、穀稈引起装置2を上部取付部30と下部取付部32によって斜設した作業姿勢でコンバイン作業が行われ、作業終了時又は作業中途に必要とされる刈取部3のメンテナンス作業は、穀稈引起装置2を前方に移動し上方を前側に回動させたメンテナンス姿勢にすることによって行われる。
【0021】
即ち、メンテナンス姿勢への切り換えは先ず分草体10を退避回動姿勢に切り換え、取付ネジ45及び取付ネジ59を緩めた状態となし、下部取付部32の支持杆52を前側にスライド移動させるとき、スプロケット軸39のスプライン溝孔(取付孔)40を上部伝動ケース29に軸支される引起駆動軸41から前側に向けて引き抜いて取り外す。
このときスプロケット軸39は支持杆52の方向と略平行状のスプライン嵌合構造にしているので、上部伝動ケース29から穀稈引起装置2への伝動を簡潔で廉価な構成にすることができると共に、上部取付部30の伝動解除及び再組み付け等の係脱作業を、嵌合部のかじり等を伴うことなく簡単に行うことができる等の利点を有している。
【0022】
次いで、穀稈引起装置2の下部を前側に引き移動することにより、支持杆52の縦杆部55を支持ブラッケット51から所望長さで引き出すことができる。これにより穀稈引起装置2の下部及び引起爪35を共に作業姿勢位置から前側に向けて十分に移動させた状態で、後方の穀稈掻込搬送体12,13等から離間した位置で支持することができる。次いで穀稈引起装置2の上部を持って回動部53を支点に前側に向けて回動すると、反転された穀稈引起装置2の上部を地面に接地させる位置まで大きく回動させたメンテナンス姿勢に切り換えることができる。
【0023】
このとき回動部53の下方で穀稈引起装置2から下向きに突出している引起爪35は、穀稈引起装置2と共に回動部53を支点に円弧を描いて回動し後側向きの姿勢になるが、穀稈引起装置2は前側に移動されているので、刈刃11及び穀稈掻込搬送体12,13側と離間しメンテナンス作業用の空間部を形成することができる。従って、この空間部を介して詰まり穀稈や藁屑の除去等のメンテナンス作業を引起爪35及び穀稈引起装置2に支障されることなく、能率よく簡単に行うことができる。
【0024】
また穀稈引起装置2は下部取付部32の支持杆52と支持ブラッケット51によって上向きの移動角を有して支持されているので、穀稈引起装置2の下部を前側移動によって同時に上方に移動させ地面から離間させることができる。
従って、斜設される穀稈引起装置2が回動部53を支点に前方回動するとき、下向きに突出している引起爪35は回動部53を中心とする円弧を描いて一時的に下降するが、穀稈引起装置2は予め上昇させた高い位置の回動部53によって支持されているので、地表に存在する切り株や雑草また土塊等との接当を防止することができる。そして、穀稈引起装置2の前側回動を刈取部3を下降させて地面に接地させた低位置の安定状態において、作業姿勢からメンテナンス姿勢への回動及び復帰回動を切り株等に支障されることなくスムーズに行うことができる。
【0025】
尚、この実施形態で下部取付部32は、穀稈引起装置2の回動部53を備えた支持杆52を刈取フレーム9に設けた支持ブラッケット51に、前側に向けてスライド移動させる構成としたが、これに限ることなく支持ブラッケット51を刈取フレーム9に対し前後移動可能に設けた構成、或いは穀稈引起装置2の回動部53と刈取フレーム9とをリンク機構によって取付支持した構造にすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係わる穀稈引起装置を備えたコンバインの全体斜視図である。
【図2】図1の刈取部の構成を示す側面図である。
【図3】図2の穀稈引起装置の取付構造を示す側断面図である。
【図4】図3の下部取付構造の構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0027】
1 コンバイン
2 穀稈引起装置
3 刈取部
9 刈取フレーム
32 下部取付部
43 上部取付部
51 支持ブラッケット
52 支持杆
53 回動部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
刈取部(3)の前方に斜設される作業姿勢の穀稈引起装置(2)を、上部取付部(43)の取付けを解除した状態で刈取フレーム(9)に設けた下部取付部(32)の回動部(53)を支点に前方回動させたメンテナンス姿勢に切換回動自在にしたコンバインの穀稈引起装置において、前記回動部(53)を刈取フレーム(9)に対し作業姿勢の取付位置から前側に向けて移動自在に設け、穀稈引起装置(2)を前側に移動した状態で回動部(53)を支点にメンテナンス姿勢に切換回動自在に構成したことを特徴とするコンバインの穀稈引起装置。
【請求項2】
穀稈引起装置(2)の回動部(53)を有する支持杆(52)を、刈取フレーム(9)に設けた支持ブラッケット(51)に、前側に向け上向き方向にスライド自在に取付支持した請求項1記載のコンバインの穀稈引起装置。









【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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