説明

コンバイン

【課題】収穫作業中、穀稈搬送手段34によって搬送している穀稈が詰っても、収穫作業途中の圃場内で、穀稈搬送手段34に詰った穀稈を簡単に除去できるようにしたコンバインを提供するものである。
【解決手段】エンジン14によって作動する走行部2を備えた走行機体1と、圃場に植立した穀稈の株元を切断する刈刃装置222と、刈刃装置222によって株元が切断された前記穀稈を搬送する穀稈搬送手段34と、走行機体1の移動速度を検出する車速センサ285とを備えてなるコンバインにおいて、車速センサ285が検出する走行機体1の移動速度と同調した車速同調速度で穀稈搬送手段34を作動する搬送駆動用電動モータ92と、搬送駆動用電動モータ92を手動操作によって作動させる手動操作部材268,269とを備え、走行部2又は刈刃装置222が停止した状態で、手動操作部材268,269の操作によって搬送駆動用電動モータ92を作動可能に構成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場に植立した穀稈を刈取って穀粒を収集するコンバイン、又は飼料用穀稈を刈取って飼料として収集する飼料コンバイン等のコンバインに係り、より詳しくは、刈刃装置によって株元が切断される穀稈又は飼料用穀稈を搬送するための穀稈搬送手段を電動モータにて作動するようにしたコンバインに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンバインは、圃場に植立した未刈り穀稈の株元を刈刃装置によって切断し、穀稈搬送手段としての穀稈搬送装置によって脱穀装置にその穀稈を搬送し、脱穀装置によってその穀稈を脱穀して、穀粒を収集するように構成している。特許文献1に示されるように、エンジンからの駆動力によって刈取装置が作動するように構成されている。また、電動モータによって刈刃装置を駆動する構成(例えば、特許文献2参照)や、電動モータによって穀稈搬送装置(スクレーパ)を駆動する構成(例えば、特許文献3参照)も公知である。
【特許文献1】特開2004−97038号公報
【特許文献2】特開昭63−258510号公報
【特許文献3】特開平7−177813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記従来技術は、特許文献1に示されるように、エンジンによって穀稈搬送装置を作動させた場合、走行機体の移動速度(車速)に同調した速度で刈刃装置及び穀稈搬送装置を作動できるが、穀稈搬送装置における穀稈搬送途中に前記穀稈が詰った場合、穀稈搬送装置を分解して詰り穀稈を除去する必要があり、長時間に渡って収穫作業が中断される等の問題がある。特に、圃場内では、足場が泥土のため、詰り穀稈の除去作業が困難であった。
【0004】
なお、特許文献3に示されるように、電動モータによって穀稈搬送装置(スクレーパ)を駆動する場合、車速に同期した車速同調速度で穀稈搬送装置が作動しないから、穀稈搬送装置によって搬送する途中で穀稈の搬送姿勢が乱れたり、穀稈が詰る等の問題がある。その場合も、穀稈搬送装置に詰った穀稈を簡単に除去できないから、長時間に渡って収穫作業を中断する必要がある。
【0005】
本発明の目的は、収穫作業中、穀稈搬送装置によって搬送している穀稈が詰っても、穀稈搬送装置の分解作業等の面倒な作業を省略して、収穫作業途中の圃場内で、穀稈搬送装置に詰った穀稈を簡単に除去できるようにしたコンバインを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、請求項1に係る発明のコンバインは、エンジンによって作動する走行部を備えた走行機体と、圃場に植立した穀稈の株元を切断する刈刃装置と、前記刈刃装置によって株元が切断された前記穀稈を搬送する穀稈搬送手段と、前記走行機体の移動速度を検出する車速センサとを備えてなるコンバインにおいて、前記車速センサが検出する前記走行機体の移動速度と同調した車速同調速度で前記穀稈搬送手段を作動する搬送駆動用電動モータと、前記搬送駆動用電動モータを手動操作によって作動させる手動操作部材とを備え、前記走行部又は前記刈刃装置が停止した状態で、前記手動操作部材の操作によって前記搬送駆動用電動モータを作動可能に構成したものである。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のコンバインにおいて、前記走行機体の外側面に前記手動操作部材を配置し、前記穀稈搬送手段の穀稈搬送状況を目視しながら、前記走行機体の外側方から前記手動操作部材を操作可能に構成したものである。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のコンバインにおいて、前記手動操作部材を手動操作している間だけ、刈取作業中の穀稈搬送速度の最低速度よりも遅い速度で、前記搬送駆動用電動モータによって前記穀稈搬送手段を作動させるように構成したものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明によれば、エンジンによって作動する走行部を備えた走行機体と、圃場に植立した穀稈の株元を切断する刈刃装置と、前記刈刃装置によって株元が切断された前記穀稈を搬送する穀稈搬送手段と、前記走行機体の移動速度を検出する車速センサとを備えてなるコンバインにおいて、前記車速センサが検出する前記走行機体の移動速度と同調した車速同調速度で前記穀稈搬送手段を作動する搬送駆動用電動モータと、前記搬送駆動用電動モータを手動操作によって作動させる手動操作部材とを備え、前記走行部又は前記刈刃装置が停止した状態で、前記手動操作部材の操作によって前記搬送駆動用電動モータを作動可能に構成したものであるから、収穫作業中、前記穀稈搬送手段によって搬送している穀稈が詰っても、収穫作業途中の圃場内で、前記穀稈搬送手段に詰った穀稈を簡単に除去できる。前記穀稈搬送手段の分解作業等の面倒な作業を省略できる。前記穀稈搬送手段に穀稈が詰っても、詰り穀稈を簡単に解除して、収穫作業をスムーズに再開でき、穀稈の刈取作業性を向上できるものである。
【0010】
請求項2に係る発明によれば、前記走行機体の外側面に前記手動操作部材を配置し、前記穀稈搬送手段の穀稈搬送状況を目視しながら、前記走行機体の外側方から前記手動操作部材を操作可能に構成したものであるから、穀稈の詰り状況又は詰り穀稈の搬送状況等を確認しながら、前記手動操作部材を操作して前記穀稈搬送手段を作動できる。詰り穀稈を除去するのに必要な時間だけ、前記穀稈搬送手段を作動させて、詰り穀稈を簡単に解除できる。前記穀稈搬送手段の損傷等を防止できるものである。
【0011】
請求項3に係る発明によれば、前記手動操作部材を手動操作している間だけ、刈取作業中の穀稈搬送速度の最低速度よりも遅い速度で、前記搬送駆動用電動モータによって前記穀稈搬送手段を作動させるように構成したものであるから、穀稈の詰り状況又は詰り穀稈の搬送状況等に応じて前記穀稈搬送手段を適正量だけ簡単に作動できる。詰り穀稈を除去するのに必要な搬送移動量だけ、前記穀稈搬送手段を作動させて、詰り穀稈を簡単に解除できる。前記穀稈搬送手段の損傷等を防止できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。図1はコンバインの左側面図、図2はコンバインの平面図、図3は刈刃装置及び穀稈搬送装置の側面説明図、図4は刈刃装置及び穀稈搬送装置の平面説明図、図5はコンバインの駆動系統図、図6はミッションケース及びカウンタケース等の駆動系統図、図7は穀稈搬送手段(縦搬送チェン)の制御回路の機能ブロック図である。図1及び図2を参照しながら、コンバインの全体構造について説明する。なお、以下の説明では、走行機体1の進行方向に向かって左側を単に左側と称し、同じく進行方向に向かって右側を単に右側と称する。
【0013】
本実施形態のコンバインは、走行部としての左右一対の走行クローラ2にて支持された走行機体1を備えている。走行機体1の前部には、穀稈を刈り取りながら取り込む6条刈り用の刈取装置3が、単動式の昇降用油圧シリンダ4によって刈取回動支点軸4a回りに昇降調節可能に装着されている。走行機体1には、フィードチェン6を有する脱穀装置5と、該脱穀装置5から取出された穀粒を貯留する穀粒タンク7とが横並び状に搭載されている。本実施形態では、脱穀装置5が走行機体1の進行方向左側に、穀粒タンク7が走行機体1の進行方向右側に配置されている。走行機体1の後部に旋回可能な排出オーガ8が設けられ、穀粒タンク7の内部の穀粒が、排出オーガ8の籾投げ口9からトラックの荷台またはコンテナ等に排出されるように構成されている。刈取装置3の右側方で、穀粒タンク7の前側方には、運転キャビン10が設けられている。
【0014】
運転キャビン10内には、操縦ハンドル11と、運転座席12と、主変速レバー42と、副変速レバー43と、脱穀クラッチ及び刈取クラッチを入り切りする作業クラッチレバー44とを配置している。なお、図示しないが、運転キャビン10には、オペレータが搭乗するステップと、操縦ハンドル11を設けたハンドルコラムと、前記各レバー42,43,44等を設けたレバーコラムとが配置されている。運転座席12の下方の走行機体1には、動力源としてのエンジン14が配置されている。
【0015】
図1乃至図4に示されるように、走行機体1の下面側に左右のトラックフレーム21を配置している。トラックフレーム21には、走行クローラ2にエンジン14の動力を伝える駆動スプロケット22と、走行クローラ2のテンションを維持するテンションローラ23と、走行クローラ2の接地側を接地状態に保持する複数のトラックローラ24と、走行クローラ2の非接地側を保持する中間ローラ25とを設けている。駆動スプロケット22によって走行クローラ2の前側を支持し、テンションローラ23によって走行クローラ2の後側を支持し、トラックローラ24によって走行クローラ2の接地側を支持し、中間ローラ25によって走行クローラ2の非接地側を支持することになる。
【0016】
刈取装置3の刈取回動支点軸4aに連結した刈取フレーム221の下方には、圃場に植立した未刈り穀稈(穀稈)の株元を切断するバリカン式の刈刃装置222が設けられている。刈取フレーム221の前方には、圃場に植立した未刈り穀稈を引起す6条分の穀稈引起装置223が配置されている。穀稈引起装置223とフィードチェン6の前端部(送り始端側)との間には、刈刃装置222によって刈取られた刈取り穀稈を搬送する穀稈搬送装置224が配置されている。なお、穀稈引起装置223の下部前方には、圃場に植立した未刈り穀稈を分草する6条分の分草体225が突設されている。エンジン14にて走行クローラ2を駆動して圃場内を移動しながら、刈取装置3によって圃場に植立した未刈り穀稈を連続的に刈取ることになる。
【0017】
次に、図3及び図4を参照して刈取装置3の構造を説明する。図3及び図4に示すように、刈取フレーム221は、走行機体1の前端側の軸受台15に回動可能に支持した刈取入力ケース16と、刈取入力ケース16から前方に向けて延長する縦伝動ケース18と、縦伝動ケース18の前端側で左右方向に向けて延長する横伝動ケース19と、横伝動ケース19に連結する6条分の分草フレーム20とによって形成されている。分草フレーム20の前端側に支持する6条分の分草体225とが配置されている。機体左右方向に水平に横架した刈取入力ケース16内には、エンジン14からの動力が伝達される刈取り穀稈用の刈取り入力軸17を組込んでいる。
【0018】
穀稈引起装置223は、分草板225によって分草された未刈穀稈を起立させる複数の引起タイン28を有する6条分の引起ケース29を有する。穀稈搬送装置224は、右側2条分の引起ケース29から導入される右側2条分の穀稈の株元側を掻込む左右の右スターホイル30R及び左右の右掻込ベルト31Rと、左側2つの引起ケース29から導入される左側2条分の穀稈の株元側を掻込む左右の左スターホイル30L及び左右の左掻込ベルト31Lと、中央2つの引起ケース29から導入される中央2条分の穀稈の株元側を掻込む左右の中央スターホイル30C及び左右の中央掻込ベルト31Cとを有する。
【0019】
刈刃装置222は、右スターホイル30R及び左右の右掻込ベルト31R、左スターホイル30L及び左右の左掻込ベルト31L、中央スターホイル30C及び左右の中央掻込ベルト31Cによって掻込まれた6条分の穀稈の株元を切断するバリカン形の左右の刈刃32を有する。
【0020】
また、穀稈搬送装置224は、右側2条分のスターホイル30R及び掻込ベルト31Rによって掻込まれた右側2条分の刈取穀稈の株元側を後方に搬送する右株元搬送チェン33Rと、左側2条分のスターホイル30L及び掻込ベルト31Lによって掻込まれた左側2条分の刈取穀稈の株元側を右株元搬送チェン33Rの搬送終端部に合流させる左株元搬送チェン33Lと、中央2条分のスターホイル30C及び掻込ベルト31Cによって掻込まれた中央2条分の刈取穀稈の株元側を後方に搬送して右株元搬送チェン33Rの搬送途中に合流させる中央株元搬送チェン33Cとを有する。左右及び中央の株元搬送チェン33R,33L,33Cによって、右株元搬送チェン33Rの搬送終端部に、6条分の刈取穀稈の株元側を合流させることになる。
【0021】
穀稈搬送装置224は、右株元搬送チェン33Rから6条分の刈取穀稈の株元側を受継ぐ穀稈搬送手段としての縦搬送チェン34と、縦搬送チェン34の搬送終端部からフィードチェン6の搬送始端部に6条分の刈取穀稈の株元側を搬送する補助搬送手段としての補助株元搬送チェン35,36とを有する。縦搬送チェン34から、補助株元搬送チェン35,36を介して、フィードチェン6の搬送始端部に、6条分の刈取穀稈の株元側を搬送することになる。
【0022】
穀稈搬送装置224は、右株元搬送チェン33Rにて搬送される右側2条分の刈取穀稈の穂先側を搬送する右穂先搬送タイン37Rと、左株元搬送チェン33Lにて搬送される左側2条分の刈取穀稈の穂先側を搬送する左穂先搬送タイン37Lと、中央株元搬送チェン33Cにて搬送される中央2条分の刈取穀稈の穂先側を搬送する中央穂先搬送タイン37Cと、縦搬送チェン34にて搬送される6条分の刈取穀稈の穂先側を搬送する後穂先搬送タイン38とを有する。脱穀装置5の扱胴226室内に、刈取装置3で刈取った6条分の刈取穀稈の穂先側を搬送することになる。
【0023】
次に、図5を参照して引起し駆動構造を説明する。図5に示すように、刈取り入力軸17に、後述する縦伝動軸40及び横伝動軸41及び左搬送駆動軸69を介して、引起横伝動軸48を連結する。引起横伝動軸48は、6条分の各引起ケース29の引起タイン駆動軸45にそれぞれ連結している。分草体225の後方で分草フレーム20の上方に引起ケース29が立設され、引起ケース29の上端側の背面から引起タイン駆動軸45を突出している。引起タイン駆動軸45及び引起横伝動軸48を介して、複数の引起タイン28を設けた引起タインチェン28aが駆動されることになる。
【0024】
図5に示すように、横伝動軸41に左右のクランク軸52a,52bを介して左右の刈刃32を連結する。横伝動軸41を介して左右の刈刃32を同期させて駆動するように構成している。なお、刈刃装置222は、6条分の刈幅の中央部で分割して左右の刈刃32を形成し、左右の刈刃32を相反する方向に往復移動させ、往復移動によって発生する左右の刈刃32の振動(慣性力)を相殺可能に構成している。
【0025】
図5に示すように、刈取り入力軸17に縦伝動ケース18内の縦伝動軸40の一端側を連結する。縦伝動軸40の他端側に横伝動ケース19内の横伝動軸41の一端側を連結する。縦伝動軸40及び横伝動軸41から穀稈搬送装置224の各駆動部に刈取り入力軸17の回転力を伝えることになる。即ち、縦伝動軸40には、右搬送駆動軸62を連結している。縦伝動軸40及び右搬送駆動軸62を介して、右株元搬送チェン33R及び右穂先搬送タイン37Rと、右スターホイル30R及び右掻込ベルト31Rとを駆動するように構成している。
【0026】
一方、縦伝動軸40に一方向回転クラッチ55を介して後搬送駆動軸54を連結する。補助株元搬送チェン35,36及び後穂先搬送タイン38に一方向回転クラッチ55を介して縦伝動軸40の回転力を伝達する。縦伝動軸40及び後搬送駆動軸54を介して、補助株元搬送チェン35,36及び後穂先搬送タイン38を駆動するように構成している。
【0027】
また、補助株元搬送チェン35,36及び後穂先搬送タイン38を刈取り穀稈送り方向にのみ駆動する穂先搬送駆動用電動モータ93を設ける。穂先搬送駆動用電動モータ93によって、後搬送駆動軸54を介して、補助株元搬送チェン35,36及び後穂先搬送タイン38を刈取り穀稈送り方向に駆動するように構成している。なお、穂先搬送駆動用電動モータ93によって後搬送駆動軸54を刈取り穀稈送り方向に回転させた場合、その穂先搬送駆動用電動モータ93の回転によって一方向回転クラッチ55が空転して、後搬送駆動軸54の回転が縦伝動軸40に伝達されることがない。
【0028】
図5に示すように、穀稈搬送手段としての縦搬送チェン34を正逆回転切換可能に駆動する縦搬送駆動用電動モータ92を備え、縦搬送駆動用電動モータ92によって、縦搬送伝動軸63を介して、刈取り穀稈送り方向又はその逆の方向に縦搬送チェン34を駆動するように構成している。
【0029】
また、横伝動軸41の左端側に左搬送駆動軸69を連結している。左搬送駆動軸69を介して、左株元搬送チェン33L及び左穂先搬送タイン37Lと、左スターホイル30L及び左掻込ベルト31Lとを駆動するように構成している。また、横伝動軸41に中央搬送駆動軸75を連結し、中央搬送駆動軸75を介して、中央株元搬送チェン33C及び中央穂先搬送タイン37Cと、中央スターホイル30C及び中央掻込ベルト31Cとを駆動するように構成している。なお、横伝動軸41に左搬送駆動軸69及び引起変速ギヤ等を介して引起横伝動軸48を連結している。
【0030】
次に、図1及び図2を参照して、脱穀装置5の構造を説明する。図1及び図2に示されるように、脱穀装置5には、穀稈脱穀用の扱胴226と、扱胴226の下方に落下する脱粒物を選別する揺動選別盤227及び唐箕ファン228と、扱胴226の後部から取出される脱穀排出物を再処理する処理胴229と、揺動選別盤227の後部の排塵を排出する排塵ファン230とが備えられている。なお、扱胴226の回転軸芯線は、フィードチェン6による穀稈の搬送方向(換言すると走行機体1の進行方向)に沿って延びている。刈取装置3から穀稈搬送装置224によって搬送された穀稈の株元側は、フィードチェン6に受け継がれて挟持搬送される。そして、この穀稈の穂先側が脱穀装置5の扱室内に搬入されて扱胴226にて脱穀されることになる。
【0031】
揺動選別盤227の下方側には、揺動選別盤227にて選別された穀粒(一番物)を取出す一番コンベヤ231と、枝梗付き穀粒等の二番物を取出す二番コンベヤ232とが設けられている。本実施形態の両コンベヤ231,232は、走行機体1の進行方向前側から一番コンベヤ231、二番コンベヤ232の順で、側面視において走行クローラ2の後部上方の走行機体1の上面側に横設されている。
【0032】
揺動選別盤227は、扱胴226の下方に張設された受網237から漏下した脱穀物が、フィードパン238及びチャフシーブ239によって搖動選別(比重選別)されるように構成している。揺動選別盤227から落下した穀粒は、その穀粒中の粉塵が唐箕ファン228からの選別風によって除去され、一番コンベヤ231に落下することになる。一番コンベヤ231のうち脱穀装置5における穀粒タンク7寄りの一側壁(実施形態では右側壁)から外向きに突出した終端部には、上下方向に延びる揚穀コンベヤ233が連通接続されている。一番コンベヤ231から取出された穀粒は、揚穀コンベヤ233を介して穀粒タンク7に搬入され、穀粒タンク7に収集されることになる。なお、穀粒タンク7の後面の傾斜に沿わせて、揚穀コンベヤ233の上端側が後方に傾斜する後傾姿勢で、穀粒タンク7の後方に揚穀コンベヤ233が立設されている。
【0033】
また、揺動選別盤227は、搖動選別(比重選別)によってチャフシーブ239から枝梗付き穀粒等の二番物を二番コンベヤ232に落下させるように構成している。チャフシーブ239の下方に落下する二番物を風選する選別ファン241を備える。チャフシーブ239から落下した二番物は、その穀粒中の粉塵及び藁屑が選別ファン241からの選別風によって除去され、二番コンベヤ232に落下することになる。二番コンベヤ232のうち脱穀装置5における穀粒タンク7寄りの一側壁から外向きに突出した終端部は、揚穀コンベヤ233と交差して前後方向に延びる還元コンベヤ236を介して、フィードパン238の上面側に連通接続され、二番物をフィードパン238の上面側に戻して再選別するように構成している。
【0034】
一方、フィードチェン6の後端側(送り終端側)には、排藁チェン234が配置されている。フィードチェン6の後端側から排藁チェン234に受け継がれた排藁(穀粒が脱粒された稈)は、長い状態で走行機体1の後方に排出されるか、又は脱穀装置5の後方側に設けた排藁カッタ235にて適宜長さに短く切断されたのち、走行機体1の後方下方に排出されることになる。
【0035】
次に、図5及び図6を参照しながら、刈取装置3、脱穀装置5、フィードチェン6、排藁チェン234、排藁カッタ235等の駆動構造について説明する。図5及び図6に示されるように、エンジン14の前側及び後側にその出力軸70を突出する。エンジン14の前側の出力軸70に自在継手83を介してミッションケース71の走行入力軸84を連結し、エンジン14の回転駆動力が、前側の出力軸70からミッションケース71に伝達されて変速された後、左右の車軸72を介して左右の走行クローラ2に伝達され、左右の走行クローラ2がエンジン14の回転力によって駆動されるように構成している。
【0036】
図5に示されるように、エンジン14を冷却するためのラジエータ用の冷却ファン73と、上述した電動モータ92等を作動させるための電源を供給する発電機89とを備える。エンジン14の後側の出力軸70に、冷却ファン73を軸支したファン駆動軸88が連結されている。ファン駆動軸88には、発電機89の入力軸が連結されている。エンジン14の回転駆動力によって、冷却ファン73及び発電機89が駆動されるように構成している。また、エンジン14の後側の出力軸70に排出オーガ駆動軸76を連結し、エンジン21からの回転駆動力によって排出オーガ駆動軸76を介して排出オーガ8が駆動され、穀粒タンク7内の穀粒がコンテナ等に排出されるように構成している。
【0037】
また、扱胴226及び処理胴230にエンジン14からの回転駆動力を伝える脱穀駆動軸77を備える。エンジン14の後側の出力軸70には、テンションローラ形脱穀クラッチ78及び脱穀駆動ベルト79を介して、脱穀駆動軸77が連結されている。脱穀駆動軸77には、扱胴226を軸支した扱胴軸80と、処理胴230を軸支した処理胴軸81とが連結されている。エンジン14の略一定回転数の回転力によって、扱胴226及び処理胴230が略一定回転数で回転するように構成している。また、脱穀駆動軸77に選別入力軸82が連結されている。エンジン14の略一定回転数の回転力によって、選別入力軸82を介して、揺動選別盤227、唐箕ファン228、一番コンベヤ231、二番コンベヤ232、選別ファン241、排塵ファン230が略一定回転数で回転するように構成している。
【0038】
図6に示す如く、ミッションケース71内に、1対の走行油圧ポンプ及び走行油圧モータを有する走行主変速用の油圧式無段変速機構96と、1対の旋回油圧ポンプ及び旋回油圧モータを有する旋回用の油圧式無段変速機構97とを設けている。走行主変速用の油圧式無段変速機構96の走行油圧ポンプ(図示省略)と、旋回用の油圧式無段変速機構97の旋回油圧ポンプ(図示省略)とは、ミッションケース71の走行入力軸84に連結させてそれぞれ駆動するように構成している。ミッションケース71にPTO軸98を配置する。PTO軸98は、走行主変速用の油圧式無段変速機構96の走行油圧モータ(図示省略)によって駆動される。ミッションケース71からこの左外側にPTO軸98の一端側を突設させている。
【0039】
図6に示す如く、エンジン14の左側方で、脱穀装置5の前側方の走行機体1上に、カウンタギヤケース99を設けている。カウンタギヤケース99には、上述した脱穀駆動軸77と、脱穀駆動軸77に連結する選別入力軸82と、PTO軸98に連結する車速同調軸100と、選別入力軸82又は車速同調軸100に連結する刈取伝動軸101と、刈取り入力軸17に連結する刈取駆動軸102と、フィードチェン6を駆動するフィードチェン駆動軸103とを配置している。
【0040】
図6に示す如く、カウンタギヤケース99内の車速同調軸100上に、車速同調軸100の車速同調回転力を伝える一方向回転クラッチ105を設ける。車速同調軸100に、刈取変速機構108と一方向回転クラッチ105とを介して、刈取伝動軸101を連結する。刈取変速機構108は、低速側変速ギヤ106と高速側変速ギヤ107とを有する。低速及び中立(零回転)及び高速の各刈取変速操作によって後述する刈取変速アクチュエータ291を作動させて、刈取変速アクチュエータ291によって低速側変速ギヤ106又は高速側変速ギヤ107を刈取伝動軸101に択一的に係合させ、車速同調軸100から刈取変速機構108を介して刈取伝動軸101に刈取変速出力を伝えるように構成している。
【0041】
図6に示す如く、選別入力軸82に一定回転機構111を介して刈取伝動軸101を連結する。一定回転機構111は、低速側一定回転ギヤ109と高速側一定回転ギヤ110とを有する。低速側一定回転及び中立(零回転)及び高速側一定回転の各刈取変速操作によって後述する一定回転アクチュエータ292を作動させて、一定回転アクチュエータ292によって低速側一定回転ギヤ109又は高速側一定回転ギヤ110を刈取伝動軸101に択一的に係合させ、脱穀駆動軸77(選別入力軸82)から一定回転機構111を介して刈取伝動軸101に刈取駆動力を伝えるように構成している。
【0042】
また、刈取伝動軸101にトルクリミッタ104を介して刈取駆動軸102を連結する。トルクリミッタ104によって設定された所定トルク以下の回転力が刈取伝動軸101から刈取駆動軸102に伝達されることになる。刈取駆動軸102の回転負荷がトルクリミッタ104によって設定された所定トルク以上になった場合、トルクリミッタ104が空転して、刈取伝動軸101の回転力が刈取駆動軸102に伝達されない。即ち、トルクリミッタ104によって設定したトルク以下の回転力で刈取り入力軸17が作動し、トルクリミッタ104によって設定したトルク以上の負荷が発生したときに、トルクリミッタ104の空転によって刈取り入力軸17が停止して、刈刃32等が損傷するのを防止している。
【0043】
上記の構成により、刈取作業の維持に必要な一定回転数の回転出力が低速側一定回転ギヤ109を介して選別入力軸82から刈取伝動軸101に伝達されることになる。したがって、走行機体1の移動速度に関係なく、低速側一定回転ギヤ109からの一定回転数で刈取り入力軸17を作動させて刈取作業を維持でき、圃場の枕地での方向転換作業性等を向上できる。また、車速同調軸100及び高速側変速ギヤ107からの車速同調出力の最高速又はそれよりも早い一定回転数の回転出力が高速側一定回転ギヤ110を介して選別入力軸82から刈取伝動軸101に伝達されることになる。したがって、車速同調出力の最高速よりも早い高速側一定回転ギヤ110からの一定回転数で刈取り入力軸17を作動でき、倒伏穀稈の刈取り作業性等を向上できる。
【0044】
カウンタギヤケース99には、選別入力軸82にフィードチェン駆動軸103を連結する遊星ギヤ形変速構造のフィードチェン同調機構112が設けられている。選別入力軸82の回転出力が、フィードチェン同調機構112によって刈取伝動軸101の回転数に比例して変速されて、フィードチェン駆動軸103に伝達されることになる。即ち、フィードチェン同調機構112を介してフィードチェン6を作動することによって、穀稈の搬送に必要な最低回転数(低速側一定回転ギヤ109からの一定回転数)を確保し乍ら、フィードチェン6の穀稈搬送速度を車速と同調させて変更可能に構成している。
【0045】
次に、本実施形態の穀稈搬送手段としての縦搬送チェン34の搬送速度制御について説明する。図7は、縦搬送チェン34の搬送速度制御手段の機能ブロック図であり、制御プログラムを記憶したROMと各種データを記憶したRAMとを有するマイクロコンピュータ等の作業コントローラ282を備えている。図7に示されるように、マイクロコンピュータで構成する作業コントローラ282の入力側には、脱穀装置5の駆動等を検出する作業スイッチ273と、穀稈引起装置223の穀稈(未刈り穀稈)又は穀稈搬送装置224の穀稈(刈取穀稈)を検出する穀稈センサ287と、走行機体1の移動速度を検出する車速センサ285と、刈取り入力軸17の回転数を検出する刈取り回転センサ288と、縦搬送駆動用電動モータ92の出力回転数(縦搬送チェン34の作動速度)を無段階に調節する搬送速度設定ダイヤル262と、縦搬送駆動用電動モータ92の最低出力回転数(縦搬送チェン34の最低作動速度)を設定する最低回転数設定器としての低速回転設定器266と、縦搬送駆動用電動モータ92の最高出力回転数(縦搬送チェン34の最高作動速度)を設定する最高回転数設定器としての高速回転設定器267とを接続している。
【0046】
また、作業コントローラ282の入力側には、縦搬送駆動用電動モータ92及び穂先搬送駆動用電動モータ93を手動操作によって刈取り穀稈搬送方向に作動させる手動正転スイッチ268と、刈取り穀稈搬送方向とは逆の方向に縦搬送駆動用電動モータ92のみを手動操作によって作動させる手動逆転スイッチ269と、手動操作(低速、中立、高速の操作)によって刈取変速アクチュエータ291を切換え作動させる刈取変速スイッチ270と、手動操作(低速一定回転、中立、高速一定回転の操作)によって一定回転アクチュエータ292を切換え作動させる一定回転スイッチ271と、縦搬送駆動用電動モータ92の出力回転数を検出する縦搬送回転センサ312と、穂先搬送駆動用電動モータ93の出力回転数を検出する補助搬送回転センサ313とを接続している。
【0047】
図1に示す如く、フィードチェン6に弾圧させて刈取り穀稈を挟持する挟扼干245を設けた挟扼カバー246を備える。挟扼カバー246は、脱穀装置5の左側面の上方に配置されている。挟扼カバー246の外側面の前端側に、エンジン14を緊急に停止させるエンジン停止スイッチ247と、手動正転スイッチ268と、手動逆転スイッチ269とが設けられている。走行機体1の左側外方からエンジン停止スイッチ247、又は手動正転スイッチ268、又は手動逆転スイッチ269を操作して、手扱作業又は詰り穀稈の除去作業等を実行するように構成している。なお、図1に示す如く、刈取装置3の刈取左側面カバー248に、手動正転スイッチ268及び手動逆転スイッチ269を設けても、挟扼カバー246に各スイッチ268,269を設けた場合と同様に、穀稈の詰り箇所を目視しながら、手動正転スイッチ268又は手動逆転スイッチ269を操作して、詰り穀稈の除去作業等を実行できる。
【0048】
図7に示す如く、作業コントローラ282の出力側には、縦搬送駆動用電動モータ92を作動する縦搬送ドライバ302と、穂先搬送駆動用電動モータ93を作動する穂先搬送ドライバ303とを接続している。エンジン14によって駆動する発電機89に、縦搬送駆動用電動モータ92及び縦搬送ドライバ302を接続させ、発電機89を電源として、縦搬送駆動用電動モータ92を作動可能に構成している。また、穂先搬送駆動用電動モータ93及び穂先搬送ドライバ303を発電機89に接続させ、発電機89を電源として、穂先搬送駆動用電動モータ93を作動可能に構成している。
【0049】
即ち、刈取り回転センサ288の検出結果と、搬送速度設定ダイヤル262の設定値とに基づき、縦搬送駆動用電動モータ92の出力回転数が自動制御される。その縦搬送駆動用電動モータ92の出力回転数を自動制御中、オペレータが搬送速度設定ダイヤル262を手動操作し、縦搬送駆動用電動モータ92の出力回転数を変更して、縦搬送チェン34の搬送速度を調整可能に構成している。前記自動制御は、低速回転設定器266によって設定された最低回転数と、高速回転設定器267によって設定された最高回転数との間で、縦搬送駆動用電動モータ92の出力回転数を関連させて変更可能に構成している。
【0050】
なお、一定回転数で常に駆動して脱穀・選別性能を維持する必要がある脱穀装置5を備えた構造、換言すると、エンジン14からの一定回転数の出力が脱穀装置5に伝達される伝動構造において、最高出力状態で略一定回転数を維持するようにエンジン14が運転されるから、そのエンジン14からの出力によって発電機89を最適な回転数で駆動できる。即ち、縦搬送駆動用電動モータ92及び穂先搬送駆動用電動モータ93の作動に必要な発電機89の適正出力が確実に維持されることによって、圃場に植立した穀稈の株元の切断に適した一定回転数で縦搬送駆動用電動モータ92及び穂先搬送駆動用電動モータ93を作動できる。
【0051】
次に、図8は搬送速度制御のフローチャートである。図8を参照して、縦搬送駆動用電動モータ92及び穂先搬送駆動用電動モータ93を作動する刈取穀稈の搬送作業を説明する。作業スイッチ273がオンで(S1yes)、穀稈センサ287がオンのときに(S2yes)、車速センサ285の検出値と、刈取り回転センサ288の検出値と、搬送速度設定ダイヤル262の設定値とが読み込まれる(S3)。トルクリミッタ104の設定トルク以下で刈取り入力軸17が作動しているとき、即ち刈取装置3が停止していないときに(S4no)、車速センサ285の検出値と、刈取り回転センサ288の検出値と、搬送速度設定ダイヤル262の設定値とから縦搬送チェン34の搬送速度(車速同調速度)が演算される(S5)。したがって、オペレータが搬送速度設定ダイヤル262を手動操作して、縦搬送駆動用電動モータ92の回転数を任意に変更できる。例えば圃場に倒伏している穀稈の刈取り作業等の特別な条件下の刈取り作業であっても、それに適応した速度で縦搬送チェン34を作動できる。
【0052】
また、圃場に植立した穀稈を刈取る刈取作業中、走行機体1の移動速度が加速されることによって、刈取り回転センサ288によって検出される刈取り入力軸17の回転数が増大する。その場合、縦搬送回転センサ312によって検出される縦搬送駆動用電動モータ92の出力回転数が、刈取り入力軸17の回転数よりも相対的に低くなり、縦搬送チェン34によって搬送される穀稈の株元側が遅れてその穂先側が先行した搬送姿勢になる。逆に、走行機体1の移動速度が減速されることによって、縦搬送駆動用電動モータ92の出力回転数が、刈取り入力軸17の回転数よりも相対的に高くなった場合、縦搬送チェン34によって搬送される穀稈の株元側が先行してその穂先側が遅れる搬送姿勢になる。
【0053】
縦搬送回転センサ312の検出値を読み込み(S6)、ステップ5で演算された縦搬送チェン34の搬送速度と、縦搬送回転センサ312の検出値(実際の搬送速度)とを比較して、縦搬送チェン34の搬送速度を増速作動すべきか(S7)、縦搬送チェン34の搬送速度を減速作動すべきか(S12)を判断する。縦搬送チェン34の搬送速度を増速作動すべきと判断されたときに(S7yes)、縦搬送チェン34の搬送速度を増速作動する増速制御が実行される(S8)。その結果、走行機体1の移動速度に比例して縦搬送チェン34の搬送速度が加速され、車速と同調した速度で縦搬送チェン34を作動でき、走行機体1の移動速度に比べて縦搬送チェン34の搬送速度が遅くなりすぎることがなく、縦搬送チェン34によって搬送される穀稈の姿勢が、株元側が遅れて穂先側が先行することがなく、搬送途中での穀稈の詰り又は搬送中の穀稈の搬送姿勢の乱れ等を防止でき、縦搬送チェン34の搬送性能を向上できる。
【0054】
上述の増速制御(S8)によって縦搬送チェン34の搬送速度が増速された場合、高速回転設定器267の縦搬送チェン34の最高作動速度設定値を読み込む(S9)。縦搬送チェン34の搬送速度が高速回転設定器267の最高作動速度設定値と一致して、縦搬送チェン34が高速作動していると判断されたときに(S10yes)、縦搬送チェン34の一定回転制御が実行される(S11)。走行機体1の移動速度(車速)がさらに増速されても、縦搬送チェン34の一定回転制御(S11)によって、高速回転設定器267の設定値に縦搬送チェン34の搬送速度が維持される。即ち、高速回転設定器267によって設定された回転数以下の速度で縦搬送チェン34を作動するように構成したものであるから、走行機体1の移動速度(車速)が極めて高速のときにも、縦搬送チェン34及び補助搬送チェン35,36の搬送速度が速くなりすぎることがなく、縦搬送チェン34(縦搬送駆動用電動モータ92)が過負荷の状態で作動するのを防止でき、穀稈の搬送姿勢の乱れ又は縦搬送チェン34の損傷等を低減できる。
【0055】
一方、圃場に植立した穀稈を刈取る刈取作業中、走行機体1の移動速度が減速されることによって、刈取り回転センサ288によって検出される刈取り入力軸17の回転数が減少する。その場合、縦搬送回転センサ312によって検出される縦搬送駆動用電動モータ92の出力回転数が刈取り入力軸17の回転数よりも高くなり、縦搬送チェン34によって搬送される穀稈の株元側が先行してその穂先側が遅れた搬送姿勢になる。
【0056】
刈取り入力軸17の回転数と縦搬送駆動用電動モータ92の出力回転数とを比較して、縦搬送駆動用電動モータ92を減速作動させる必要があると判断されたときに(S12yes)、縦搬送ドライバ302を減速制御して縦搬送チェン34の搬送速度を減速作動する減速制御が実行される(S13)。その結果、その減速制御(S13)によって走行機体1の移動速度(車速)に比例して縦搬送チェン34の搬送速度が減速され、車速と同調した速度で縦搬送チェン34を作動でき、走行機体1の移動速度に比べて縦搬送チェン34の搬送速度が速くなりすぎることがなく、縦搬送チェン34によって搬送される穀稈の姿勢が、株元側が先行して穂先側が遅れることがなく、搬送途中での穀稈の詰り又は搬送中の穀稈の搬送姿勢の乱れ等を防止でき、縦搬送チェン34の搬送性能を向上できる。
【0057】
上述の減速制御(S13)によって縦搬送チェン34の搬送速度が減速された場合、低速回転設定器266の縦搬送チェン34の最低作動速度設定値を読み込む(S14)。縦搬送チェン34が低速作動して、縦搬送チェン34の搬送速度が低速回転設定器266の最低作動速度設定値と一致して、縦搬送チェン34が低速作動していると判断されたときに(S15yes)、縦搬送チェン34の一定回転制御(S11)が実行される。したがって、走行機体1の移動速度(車速)がさらに減速されても、縦搬送チェン34の一定回転制御(S10)によって、低速回転設定器266の設定値に縦搬送チェン34の搬送速度が維持される。即ち、最低回転数設定器266によって設定された回転数以上の速度で縦搬送チェン34を作動できるから、走行機体1の移動速度(車速)等が極めて微速のときにも、縦搬送チェン34の搬送速度が遅くなりすぎることがなく、搬送途中の穀稈が詰るのを防止でき、縦搬送チェン34の搬送性能を維持できる。
【0058】
さらに、上述の増速制御(S8)、一定回転制御(S11)、減速制御(S13)が実行される刈取作業中、走行機体1が圃場の枕地(畦際)等に到達して、圃場に植立した穀稈を刈取る刈取作業が終了し、穀稈センサ287がオンでなくなったとき、換言すると、最後に刈取られた少量の穀稈が縦搬送チェン34の搬送途中に残っているときに(S15yes)、縦搬送駆動用電動モータ92を高速で作動させる高速制御が、初期設定時間(例えば約10秒間)だけ実行される。高速回転設定器267の設定値に縦搬送チェン34の搬送速度が維持される一定回転制御(S10)よりも高速で、縦搬送チェン34が作動される。したがって、縦搬送チェン34の搬送終端側(穀稈受継部)等で稈こぼれ又は稈詰りが発生するのを防止できる。
【0059】
上述したように、縦搬送チェン34を作動する縦搬送駆動用電動モータ92と、刈刃装置222等への入力回転数を検出する刈取り回転センサ288と、縦搬送駆動用電動モータ92の回転数を変更可能な搬送速度設定ダイヤル262とを備え、刈取り回転センサ288の検出結果に基づき縦搬送駆動用電動モータ92の回転数を制御中、オペレータが搬送速度設定ダイヤル262を手動操作し、縦搬送駆動用電動モータ92の出力回転数を変更して縦搬送チェン34の搬送速度を調整可能に構成したものであるから、圃場に植立した穀稈の性状等に適応した速度で縦搬送チェン34を作動でき、縦搬送チェン34の搬送性能を向上できる。例えば、圃場に倒伏している穀稈の刈取り作業等の特別な条件下の刈取り作業であっても、倒伏している穀稈の刈取り作業に適した速度に縦搬送チェン34の搬送速度を調整できる。また、例えばフィードチェン6によって穀稈の株元を挟持搬送して脱穀装置5に供給するコンバインにおいて、穀稈の穂先側が遅れて搬送されるのを防止できるから、脱穀装置5の所要動力又は脱穀損失等を低減できる。
【0060】
また、縦搬送駆動用電動モータ92の最低回転数を設定する最低回転数設定器としての低速回転設定器266と、縦搬送駆動用電動モータ92の最高回転数を設定する最高回転数設定器としての高速回転設定器267とを備え、低速回転設定器266によって設定された最低回転数と、高速回転設定器267によって設定された最高回転数との間で、縦搬送駆動用電動モータ92の出力回転数を変更可能に構成したものであるから、走行機体1の移動速度(車速)等が極めて微速のときにも、縦搬送チェン34の搬送速度が遅くなりすぎることがなく、搬送途中で穀稈が詰るのを防止できる。また、走行機体1の移動速度(車速)が極めて高速のときにも、縦搬送チェン34の搬送速度が速くなりすぎることがなく、搬送中の穀稈の搬送姿勢が乱れるのを防止できる。
【0061】
次に、図8を参照して、縦搬送駆動用電動モータ92及び穂先搬送駆動用電動モータ93を作動して、縦搬送チェン34の搬送始端側及び搬送途中に詰った穀稈を除去するための詰り穀稈の除去作業を説明する。作業スイッチ273がオンではない状態(S1no)、又は穀稈センサ287がオンではない状態(S2no)、又は刈取作業中、トルクリミッタ104の設定トルク以上の負荷が発生して、過負荷によって刈取装置3が停止した状態で、縦搬送チェン34の搬送経路中に刈取り穀稈が詰ったときに(S4yes)、運転座席12に座乗したオペレータが走行クローラ2及び刈取装置3を停止する操作を行った後、手動正転スイッチ268及び手動逆転スイッチ269を設けた走行機体1の左側方にオペレータが移動する。
【0062】
縦搬送チェン34の搬送経路中に詰った刈取り穀稈をオペレータが目視しながら、手動正転スイッチ268をオン操作した場合(S16yes)、刈取停止制御が実行されて(S17)、刈取変速アクチュエータ291が刈取り変速出力オフ位置(中立位置)に維持され、且つ一定回転アクチュエータ292が一定回転出力オフ位置(中立位置)に維持される。その場合、刈取装置3だけが停止維持され、脱穀装置5及びフィードチェン6は、エンジン14からの動力によって略一定速度で作動することになる。即ち、手動操作オンによって(S16yes)、脱穀装置5及びフィードチェン6を継続して作動させた状態で、刈取停止制御と手動回転制御とが実行される。したがって、穀稈の詰り状況又は詰り穀稈の搬送状況等を確認しながら、手動正転スイッチ268を操作して縦搬送チェン34を作動できる。縦搬送チェン34の搬送始端側又は搬送途中の詰り穀稈を除去するのに必要な時間だけ、縦搬送チェン34を作動できる。
【0063】
前記手動回転制御では、手動正転スイッチ268のオン操作によって(S16yes)、縦搬送駆動用電動モータ92及び穂先搬送駆動用電動モータ93が作動して、縦搬送駆動用電動モータ92によって縦搬送チェン34が刈取り穀稈搬送方向に作動し、穂先搬送駆動用電動モータ93によって後穂先搬送タイン38が刈取り穀稈搬送方向に作動する。したがって、右株元搬送チェン33Rと左株元搬送チェン33Lとの穀稈合流部である縦搬送チェン34の送り始端側の刈取り穀稈、又は縦搬送チェン34の送り途中の刈取り穀稈が送り終端側に向けて搬送される。その結果、縦搬送チェン34の搬送始端側又は搬送途中に詰った穀稈を除去できる。
【0064】
手動正転スイッチ268のオン操作によって縦搬送駆動用電動モータ92及び穂先搬送駆動用電動モータ93が正転作動した場合、縦搬送チェン34及び後穂先搬送タイン38は、一定回転制御(S11)が実行される低速回転設定器266の最低作動速度設定値よりも遅い搬送速度で作動する。したがって、穀稈の詰り状況又は詰り穀稈の搬送状況等に応じて縦搬送チェン34を適正量だけ簡単に作動できる。縦搬送チェン34の搬送始端側又は搬送途中の詰り穀稈を除去するのに必要な搬送移動量だけ、縦搬送チェン34を作動できる。また、縦搬送チェン34と共に後穂先搬送タイン38を刈取り穀稈搬送方向に作動することによって、後穂先搬送タイン38によって穀稈の穂先側が扱かれて脱粒するのを防止したり、穀稈の株元側が先行する搬送姿勢になるのを防止でき、フィードチェン6の送り始端部等において穀稈の搬送姿勢が乱れるのを低減できる。
【0065】
前記手動回転制御において、オペレータが手動逆転スイッチ269をオン操作した場合(S16yes)、手動逆転スイッチ269のオン操作によって、穂先搬送駆動用電動モータ93がオフのままで、縦搬送駆動用電動モータ92だけが逆回転作動して、縦搬送駆動用電動モータ92によって縦搬送チェン34が刈取り穀稈搬送方向とは逆の方向に作動する。したがって、縦搬送チェン34の送り始端側に向けて、縦搬送チェン34の送り途中、又は送り終端側の刈取り穀稈が搬送される。その結果、縦搬送チェン34の搬送途中に詰った穀稈を送り始端側に向けて分散させて除去できる。
【0066】
なお、手動逆転スイッチ269のオン操作によって縦搬送駆動用電動モータ92が作動した場合も、縦搬送チェン34は、低速回転設定器266の最低作動速度設定値よりも遅い搬送速度で作動する。したがって、縦搬送チェン34の搬送途中の詰り穀稈を除去するのに必要な搬送移動量だけ、縦搬送チェン34を逆転作動できる。また、詰り穀稈の除去作業は、穀稈の株元を挟持した縦搬送チェン34だけを逆転作動すればよく、後穂先搬送タイン38の逆転は不要である。
【0067】
上記の記載及び図1、図6、図7、図8から明らかなように、エンジン14によって作動する走行部としての走行クローラ2を備えた走行機体1と、圃場に植立した穀稈の株元を切断する刈刃装置222と、刈刃装置222によって株元が切断された前記穀稈を搬送する穀稈搬送手段としての縦搬送チェン34と、走行機体1の移動速度を検出する車速センサ285とを備えてなるコンバインにおいて、車速センサ285が検出する走行機体1の移動速度と同調した車速同調速度で縦搬送チェン34を作動する縦搬送駆動用電動モータ92と、縦搬送駆動用電動モータ92を手動操作によって作動させる手動操作部材としての手動正転スイッチ268又は手動逆転スイッチ269とを備え、走行クローラ2又は刈刃装置222が停止した状態で、手動正転スイッチ268又は手動逆転スイッチ269の操作によって縦搬送駆動用電動モータ92を作動可能に構成したものであるから、収穫作業中、縦搬送チェン34によって搬送している穀稈が詰っても、収穫作業途中の圃場内で、縦搬送チェン34に詰った穀稈を簡単に除去できる。縦搬送チェン34の分解作業等の面倒な作業を省略できる。縦搬送チェン34に穀稈が詰っても、詰り穀稈を簡単に解除して、収穫作業をスムーズに再開でき、穀稈の刈取作業性を向上できる。
【0068】
上記の記載及び図7、図8から明らかなように、走行機体1の外側面に手動正転スイッチ268又は手動逆転スイッチ269を配置し、縦搬送チェン34の穀稈搬送状況を目視しながら、走行機体1の外側方から手動正転スイッチ268又は手動逆転スイッチ269を操作可能に構成したものであるから、穀稈の詰り状況又は詰り穀稈の搬送状況等を確認しながら、手動正転スイッチ268又は手動逆転スイッチ269を操作して縦搬送チェン34を作動できる。詰り穀稈を除去するのに必要な時間だけ、縦搬送チェン34を作動させて、詰り穀稈を簡単に解除できる。縦搬送チェン34の損傷等を防止できる。
【0069】
上記の記載及び図7、図8から明らかなように、手動正転スイッチ268又は手動逆転スイッチ269を手動操作している間だけ、刈取作業中の穀稈搬送速度の最低速度よりも遅い速度で、縦搬送駆動用電動モータ92によって縦搬送チェン34を作動させるように構成したものであるから、穀稈の詰り状況又は詰り穀稈の搬送状況等に応じて縦搬送チェン34を適正量だけ簡単に作動できる。詰り穀稈を除去するのに必要な搬送移動量だけ、縦搬送チェン34を作動させて、詰り穀稈を簡単に解除できる。縦搬送チェン34の損傷等を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の第1実施形態の6条刈り用コンバインの側面図である。
【図2】同平面図である。
【図3】刈刃装置及び穀稈搬送装置の側面説明図である。
【図4】刈刃装置及び穀稈搬送装置の平面説明図である。
【図5】コンバインの駆動系統図である。
【図6】ミッションケース及びカウンタケース等の駆動系統図である。
【図7】穀稈搬送手段(縦搬送チェン)の制御回路の機能ブロック図である。
【図8】穀稈搬送手段の搬送速度制御及び詰り穀稈の除去制御のフローチャートである。
【符号の説明】
【0071】
1 走行機体
2 走行クローラ(走行部)
14 エンジン
34 縦搬送チェン(穀稈搬送手段)
92 縦搬送駆動用電動モータ
222 刈刃装置
268 手動正転スイッチ(手動操作部材)
269 手動逆転スイッチ(手動操作部材)
285 車速センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンによって作動する走行部を備えた走行機体と、圃場に植立した穀稈の株元を切断する刈刃装置と、前記刈刃装置によって株元が切断された前記穀稈を搬送する穀稈搬送手段と、前記走行機体の移動速度を検出する車速センサとを備えてなるコンバインにおいて、
前記車速センサが検出する前記走行機体の移動速度と同調した車速同調速度で前記穀稈搬送手段を作動する搬送駆動用電動モータと、前記搬送駆動用電動モータを手動操作によって作動させる手動操作部材とを備え、前記走行部又は前記刈刃装置が停止した状態で、前記手動操作部材の操作によって前記搬送駆動用電動モータを作動可能に構成したことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記走行機体の外側面に前記手動操作部材を配置し、前記穀稈搬送手段の穀稈搬送状況を目視しながら、前記走行機体の外側方から前記手動操作部材を操作可能に構成したことを特徴とする請求項1に記載のコンバイン。
【請求項3】
前記手動操作部材を手動操作している間だけ、刈取作業中の穀稈搬送速度の最低速度よりも遅い速度で、前記搬送駆動用電動モータによって前記穀稈搬送手段を作動させるように構成したことを特徴とする請求項1に記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−159886(P2009−159886A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−694(P2008−694)
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】