説明

コンピュータ断層撮影装置

【課題】 TR方式CTの回転中心較正を自動的に行うことことができるコンピュータ断層撮影装置を提供する。
【解決手段】 1つの回転位置でt移動中に検出した透過データI(n、t)と180度異なる回転位置でt移動中に検出した透過データI(n、t)とから、検出チャンネルnごとに、透過データ中の回転の軸の投影位置である回転中心tc(n)を求めるコンピュータ断層撮影装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスレートと回転を組み合わせるTR方式を用いたコンピュータ断層撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
TR方式のコンピュータ断層撮影装置(以下CT)はたとえば、岩井喜典編「CTスキャナ」(非特許文献1)等でよく知られている。図11は従来のTR方式を示した模式図である。
【0003】
X線管101からのファン角θ0のファン状のX線ビーム102をNチャンネルのX線検出器103で検出する。θ0はKを自然数として、θ0=180°/Kに設定されている。
【0004】
回転テーブル105上の被検体104をトランスレート(t)させ、この間に一定ピッチで被検体104の透過データを収集すると、各チャンネルで平行ビームの透過データが得られる。
【0005】
1トランスレート終了後、被検体104を回転中心Cに対しファン角θ0だけステップ回転させ、逆向きにトランスレートさせる。これを繰り返しK回のトランスレートが終了すると被検体基準のX線パス方位ψに対し180°分の平行透過データがθ0/Nの角度ピッチで得られる。これらのデータを用いて通常、フィルター補正逆投影で被検体の断面像が再構成される。
【0006】
図12は従来のTR方式再構成を示した模式図である。
【0007】
再構成の概略は、まず、対数変換した各平行透過データをP(ψ、t)として、t方向に高域強調フィルター掛けし、次に、X線ビーム102に沿って仮想格子点に逆投影することで、断面像が得られる。この時、透過データP(ψ、t)上の回転中心投影位置tc(以下回転中心tcと記載)が回転中心Cに合うように逆投影する必要がある。
【0008】
TR方式で、回転中心tcが狂っていると断面像が劣化するので、通常ピンファントム(ピン状基準体)をのせてスキャンしてtc位置を較正(キャリブレーション)する。特開平5−42131号公報(特許文献1)にはこの較正の一形態が記載されているが、ここでは、tcを求めるかわりに、tcが定められた位置にくるようX線焦点Fの位置を調整している。
【0009】
特許文献1では、2本のピンを回転中心に対し所定の位置に正確に配置し、透過データから、投影位置xcenterを基準にX線管の位置ずれ量△x、△yを求めて位置調整する。これによりセンターチャンネルの回転中心投影位置tcがxcenterになるように調整される。また、特許文献1では、変形例として、X線管を動かす代わりにxcenterの値を回転中心投影位置tcに変更している。
【特許文献1】特開平5−42131号公報
【非特許文献1】「CTスキャナ」岩井喜典編、コロナ社、1979,2,20初版発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上述の構成においては、次のような課題がある。
【0011】
従来の技術のTR方式では、通常、ピンファントムをスキャンして回転中心tcを較正する。この較正処理は非常に難しい作業である。
【0012】
また、特許文献1のように、これを半自動化したものもあるが、以下の問題がある。
【0013】
専用のピンファントムを回転軸に対し、精度よく設定しなければならない。
【0014】
また、精度をあげるためには細くてX線吸収が大きいピンを用い、形状も正確に円柱状にする必要がある。
【0015】
X線管を手動調整しなければならない。
【0016】
さらに、センターチャンネルのみは、tcとしてxcenterの値を用いればよいが、他のチャンネルでは、X線管の配置や検出チャンネルの配置から幾何計算でチャンネルnごとの回転中心tc(n)を計算するので、各配置の残存誤差がtc(n)の誤差になり、再構成の精度が悪くなる。また、回転テーブル105およびX線検出器103をX線焦点Fに近づけたり遠ざけたりして幾何を自由に設定する場合はそのたびにtcが狂うので較正をやり直すことになり、このため連続的に幾何フリーなシステムはTR方式では作られない。
【0017】
本発明は、上述の事情によりなされたもので、その目的は、TR方式CTの回転中心較正を容易に精度よく自動的に行うことことができるコンピュータ断層撮影装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願発明の請求項1は、放射線源と、被検体を透過した放射線ビームを検出する放射線検出器と、該被検体と該放射線ビームとに相対回転を与える回転手段と、該被検体と該放射線ビームとに前記回転の面に沿った相対平行移動を与える平行移動手段と、前記平行移動とステップ状の前記回転を交互に繰り返すTRスキャンのそれぞれの前記平行移動中に、多数の平行移動位置tで、前記放射線検出器の前記回転の面に沿った検出チャンネルnごとに検出した被検体の透過データI(n、t)から被検体の断面像を得る再構成手段を有するコンピュータ断層撮影装置において、前記回転の1つの位置で前記平行移動中に検出した透過データI(n、t)と前記回転の180度異なる位置で前記平行移動中に検出した透過データI(n、t)とから、前記検出チャンネルnごとに、透過データ中の前記回転の軸の投影位置である回転中心tc(n)を求める回転中心較正手段を有することを特徴とするコンピュータ断層撮影装置が提供される。
【0019】
また、本発明の請求項2は、請求項1記載のコンピュータ断層撮影装置において、前記回転中心較正手段は、前記回転の1つの位置で往路の前記平行移動中に検出した透過データI(n、t)と前記回転の180度異なる位置で往路の前記平行移動中に検出した透過データI(n、t)とから往路用の前記回転中心tc(n)を求め、前記回転の1つの位置で復路の前記平行移動中に検出した透過データI(n、t)と前記回転の180度異なる位置で復路の前記平行移動中に検出した透過データI(n、t)とから、復路用の前記回転中心tc(n)を求めることを特徴とするコンピュータ断層撮影装置が提供される。
【0020】
また、本発明の請求項3は、請求項1または2に記載のコンピュータ断層撮影装置において、前記回転中心較正手段は、前記回転の1つの位置での透過データI(n、t)と前記回転の180度異なる位置での透過データI(n、t)とがt方向に互いに対称となる対称点をnごとに求めて、前記回転中心tc(n)とすることを特徴とするコンピュータ断層撮影装置が提供される。
【0021】
したがって、TR方式CTの回転中心較正を容易に行うことができる。専用のピンファントムを回転軸に対し精度よく設定する必要は無く、ピン状あるいは任意の被検体を用いて、回転中心較正手段により、0°と180°の各透過データI(n、t)の対称中心を求めてデータ上の回転中心tc(n)が求められるので、自動的に回転中心較正ができる。さらに、回転中心を各チャンネルごとに較正しているので幾何配置(FCDやFDDやチャンネル配置)に多少の誤差が在っても回転中心誤差が生じないので高品質な断面像が得られるコンピュータ断層撮影装置を提供できる。
【0022】
また、本発明の請求項4は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のコンピュータ断層撮影装置において、前記回転中心較正手段は、得られた回転中心tc(n)に基づいて、前記TRスキャン中の前記放射線源と前記回転の軸の最短の距離の較正を行う、又は、前記放射線源と前記放射線検出器の距離の較正を行うことを特徴とするコンピュータ断層撮影装置が提供される。
【0023】
したがって、前記回転中心較正手段は、得られた回転中心tc(n)より、前記TRスキャン中の前記放射線源と前記回転の軸の最短の距離FCDを較正する、又は、前記放射線源と前記放射線検出器の距離FDDを較正することを要旨とする。この構成で、t方向データピッチが△xのとき、tc(n)・△x(mm)をチャンネル配置xd(n)(mm)に対してプロットしたときの傾きよりFCD/FDDを求め、この値よりFCDあるいはFDDを較正することができ、このFCD、FDDを再構成に用いる、あるいは、幾何調整に用いることでFCD、FDD誤差が補正され、高品質な断面像が得られる。
【0024】
また、本発明の請求項5は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のコンピュータ断層撮影装置において、前記回転中心tc(n)を求めるための前記の複数の前記平行移動を較正用スキャンとしたとき、この較正用スキャンは断面像を撮影するために行う前記TRスキャンに先立って行い、得られた回転中心tc(n)を記憶しておき、前記TRスキャンを行った際に前記回転中心tc(n)を断面像の計算に用いることを特徴とするコンピュータ断層撮影装置が提供される。
【0025】
したがって、前記回転中心tc(n)を求めるための前記の複数の前記平行移動を較正用スキャンとしたとき、この較正用スキャンは断面像を撮影するために行う前記TRスキャンに先立って行い、得られたtc(n)を記憶しておき、前記TRスキャンを行った際にこのtc(n)を断面像の計算に用いることを要旨とする。この構成で、較正用スキャンは一度行っておけば、撮影のためのスキャンのみで正確な再構成ができる。
【0026】
また、本発明の請求項6は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のコンピュータ断層撮影装置において、前記回転中心tc(n)を求めるための前記の複数の前記平行移動を較正用スキャンとしたとき、この較正用スキャンは断面像を撮影するために行う前記TRスキャンに前後して続けて行い、得られた回転中心tc(n)を断面像の計算に用いることを特徴とするコンピュータ断層撮影装置が提供される。
【0027】
したがって、前記回転中心tc(n)を求めるための前記の複数の前記平行移動を較正用スキャンとしたとき、この較正用スキャンは断面像を撮影するために行う前記TRスキャンに前後して続けて行い、得られたtc(n)を断面像の計算に用いることを要旨とする。この構成で、幾何(FCDやFDD)が連続的に可変な場合でも、撮影用被検体自身を用いて、撮影用スキャンといっしょに較正用スキャンを行うことで、容易に回転中心較正ができる。
【0028】
また、本発明の請求項7は、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のコンピュータ断層撮影装置において、前記放射線検出器は、2次元分解能であることを特徴とするコンピュータ断層撮影装置が提供されるが提供される。
【0029】
したがって、1回のスキャンで複数の断面像を得ることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明を用いることにより、TR方式CTの回転中心較正を自動的に行えるコンピュータ断層撮影装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下図面を参照して、本発明実施形態を説明する。
【0032】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図1、図2を参照して説明する。
【0033】
図1は本発明の第1実施形態に係るコンピュータ断層撮影装置の構成を示した模式図(上面図)であり、図2は本発明の第1実施形態に係るコンピュータ断層撮影装置の構成を示した模式図(側面図)である。
【0034】
コンピュータ断層撮影装置のX線管(放射線源)1およびX線検出器(放射線検出器)3は対向して配置され、スリット7によりファン状に絞られたX線ビーム2が1次元分解能のX線検出器3により測定される。
【0035】
X線検出器3は検出素子をX線ビーム2に沿って並べたものであり、チャンネルnで1次元の透過データI(n)を得る。被検体4は回転テーブル5上に載置され、回転テーブル5は機構部6によりX線ビーム2に沿って回転されるとともに、回転軸Cと一緒にX線ビーム2に沿ってX線ビーム2を横切るようにt移動(t:translate)(平行移動)される。
【0036】
機構部6は、さらに、回転テーブル5を昇降させることができ、被検体の撮影部位をX線ビーム2の面(撮影面9)に合せることができる。
【0037】
またスキャン領域Bは、回転軸Cを中心とする円で、直径は予め何段階か定めておき、スキャンする際に選択する。構成要素として、他に、X線検出器3からの透過データを処理するデータ処理部15、処理結果等を表示する表示部16、データ処理部15からの指令で機構部6を制御する機構制御部17、X線管1を制御するX線制御部(図示せず)等がある。
【0038】
機構制御部17は、機構部6の動作位置の信号(エンコーダパルス等)を受けて機構部6を制御してスキャン等を行わせる他、透過データの収集指令パルス等をデータ処理部15に送る。X線制御部(図示せず)はX線管1の管電流、管電圧を制御するとともに、データ処理部15からの指令で、X線放射の開始、停止等を行う。
【0039】
データ処理部15と表示部16は通常のコンピュータで、ソフトウエアの機能ブロックとして、透過データ上の回転中心を求める回転中心較正部15aや、断面像を再構成する再構成部15b等を備えている。
【0040】
次に、第1実施形態のパラメータ設定について説明する。
【0041】
最初に、使用に先立ち、パラメータ設定を行う。図3は、パラメータ設定を示した模式図である。
【0042】
まず、焦点Fと回転軸Cの軌跡20との距離(スキャン中のFとCの最短距離)(FCD)、焦点FとX線検出器3との距離(FDD)、およびファン角θ0を設定してデータ処理部15に記憶させる。設定したFCD公称値、FDD公称値にあわせるように機械的に、各構成の配置を設定する。(このとき若干の誤差があっても、本実施形態では回転中心の誤差にはならない。)
FCD、FDDが設定されると次に、t移動のデータ収集開始点を設定する。t移動の読み値をx(mm)、データ収集ピッチを△x、収集点Noをtとし、収集開始点xstからt=0ないしT-1のデータ(T個)を収集するものとする。
【0043】
まず、スキャン領域Bの直径を何段階か定める。各Bそれぞれで、xst、△x、Tを求めデータ処理部15に記憶させる。ただし、xstはt移動の往路用と復路用の2つを記憶させる。
【0044】
図3に示すように、回転軸Cが基準位置(概略位置は既知だが厳密位置は未知)からxstまで移動したときに第1のデータ収集(t=0)を行い、さらに△x移動すると第2の収集(t=1)を行い、△xごとに繰り返し、全部でT個の収集を行う。ここで△xは1チャンネルが検出するX線ビームの幅を基準に決め(通常ビーム幅の1/2程度)、xstとTはスキャン領域BがX線ビーム2を完全に横切るようにきめる。
【0045】
また、スキャン領域Bを指定したとき、幾何計算により、xst、△x、Tの一部あるいは全部をデータ処理部15が自動計算するようにしてもよい。
【0046】
次に、回転中心較正について説明する。
【0047】
使用に先立ち、回転中心較正を行う。回転中心較正では、t移動中に得られる透過データ上の回転軸投影位置tc(回転中心tc)を求める。操作者はピン状の被検体を回転テーブルの回転軸の付近に載置する。
【0048】
次に、スキャン領域Bを選択入力し、データ処理部15に回転中心較正を開始させると、データ処理部15は回転中心較正用のスキャンを制御する。これは通常のスキャンと異なり、まず、回転角0°でt移動を1往復行い、次に、回転角180°でt移動を1往復行うが、各t移動でのデータ収集は撮影用スキャンと同じである。
【0049】
t移動中に、予め決められた検出開始点xstから所定ピッチΔxで予め決められた点数Tだけ、検出器3の出力である被検体4の透過データI(n、t)を収集する。
【0050】
次に、回転中心較正部15aはI(n、t)から回転中心tc(n)を求める。
【0051】
図4は、得られた往路、nチャンネルのピンのプロファイルを示した模式図である。横軸にt、縦軸の透過データP(n、t)はX線強度に比例した検出器出力そのままの透過データI(n、t)に対数変換、
P(n、t)=LOG(I0(n)/I(n、t))………(1)
を施したものである。ここでI0(n)は被検体の無いときの透過データである。P(n、t)はピン以外でほぼ0で、ピン位置で+の値となる。ここで、原理的に、0°と180°のプロファイルは、互いに回転中心に対し対称である。そこで、データ処理部15は、往路に対し、0°と180°それぞれで、ピンのプロファイルの中心であるピン投影位置tを求め、平均して、tc(n)を求める。復路でも、同様にtc(n)を求める。
【0052】
このtc(n)は各nでの回転軸投影位置tc(回転中心tc)である。tc(n)は、往路用と復路用が記憶される。
【0053】
以上の回転中心較正は、各スキャン領域Bごとに、また、スキャンスピードやX線の焦点サイズなどのスキャン条件ごとに行われる。仮に、FCDやFDDがステップ的に可変であるCT方式の場合は、各FCDとFDDの組み合わせに対し回転中心較正が行なわれる。
【0054】
次に、スキャン処理について説明する。
【0055】
使用時において、まず、操作者は被検体4を回転テーブル5に載置し、被検体4の撮影部位を撮影面9に合せる。さらに、スキャン領域Bを予め定めた領域の中から選択する。
【0056】
スキャンを開始させると、データ処理部15はTRスキャンを制御する。スキャンはよく知られているTRスキャンと同様に、片道t移動と回転軸Cに対するファン角θ0のステップ回転とを繰り返して、ここですべてのt移動は選択したスキャン領域Bの直径をX線ビーム2が完全に横切るように行われ、K回のt移動でスキャンが終了する。
【0057】
データ処理部15は、すべてのt移動中に、予め決められた検出開始点xstから所定ピッチΔxで予め決められた点数Tだけ、検出器3の出力である被検体4の透過データI(n、t)を収集する。
【0058】
具体的には、データ処理部15はスキャン前に機構制御部17に対し検出開始点xst、データ収集ピッチ△x、データ点数Tを出力しておく。スキャン時には、機構制御部17はt移動の位置を検出してxstから△xごとに収集指令パルスをX線検出器3とデータ処理部15に送り、パルスごとに検出と収集が行われる。
【0059】
次に、再構成処理について説明する。
【0060】
各t移動中に得られた透過データI(n、t)を用いて従来のTR方式と同様に断面像を再構成する。このとき、スキャン条件ごとに較正で得られた回転中心tc(n)が用いられる。
【0061】
以上より、TR方式CTの回転中心較正を自動的に容易に精度よく行うことができる。また、専用のピンファントムを回転軸に対し精度よく設定する必要は無く、ピン状である任意の被検体を用いて、回転中心較正部15aにより、0°と180°の2往復のt移動のみで、0°と180°の各透過データI(n、t)の対称中心を求めてデータ上の回転中心tc(n)が求められるので、自動的に回転中心に較正ができる。往路、復路ともに較正される。
【0062】
さらに、回転中心を各チャンネルnごとに較正しているので幾何配置(FCDやFDDやチャンネル配置)に多少の誤差が合っても回転中心に誤差が生じないので高品質な断面像が得られる。通常のTR方式CTではFCD、FDDやチャンネル配置xd(n)に誤差があると、これらを用いてn毎にtc(n)を計算するので、tc(n)がずれ、これにより画像が劣化していたが、本実施形態では、FCD、FDDやチャンネル配置に残る誤差がtc(n)に波及しない。FCD、FDDやチャンネル配置を使わずに、nごとに透過データから直接tc(n)を求めているからである。また、回転中心tc(n)の誤差は敏感に断面像を劣化させるが、FCDやFDD単独の誤差は(tc(n)に波及しないかぎり)断面像に影響し難く、通常、機械的なFCD、FDDの位置合せのみで問題は生じない。
【0063】
(第1の実施形態の変形例)
次に、第1の実施形態の変形例について説明する。
【0064】
上述した第1の実施形態の回転中心較正おいて、ピン状被検体のかわりにどのような形状の被検体を用いてもよいようにできる。
【0065】
図5は、一般的な被検体の場合に得られる往路、nチャンネルのプロファイルを示した模式図である。プロファイルには広がりがあり、正確にプロファイルの中心を求めることができないので、この場合には別の方法で回転中心を求める。すなわち、ここでは、0°と180°のプロファイルの対称中心を回転中心として、相関法を用いて求める。
【0066】
図6は、0°、180°のプロファイルが回転中心tcに対して互いに対称となることを示す模式図である。tcから等距離の点はそれぞれ0°、180°の被検体4に対し同一のパスになる。これにより、プロファイルは互いに対称となる。
【0067】
図7は、1つのnについてのtc(n)求出フローチャートである。
【0068】
まず、ステップS1では、0°と180°のP(n、t)それぞれにt方向の低周波数除去フィルタ(ローカットフィルタ)をかける。
【0069】
次に、ステップS2では、仮想対称中心tc(n)を設定する。ステップS3では、Pの対称性偏差を計算する。偏差は例えば、
対称性偏差=Σt{|0°のP(n、t)−180°のP(n、tr)|}/加算点数…(2)
で計算する。これは、図5に示すようにtと対称点tr(=2・tc(n)−t)でのPの差の絶対値をtを変えながら加算し、加算点数で割って平均を取る計算である。一般にtrはデータ点に一致しないので補間計算が必要である。なお、偏差はこれには限られず、標準偏差などでもよい。ここで得られた偏差値はtc(n)とともに記憶する。
【0070】
次に、ステップS4では、tc(n)を変えて繰り返す。すなわち1次元探索である。
【0071】
ステップS5では、得られた偏差値とtc(n)の組から、偏差値が最小のtc(n)を採用する。
【0072】
なお、上述した処理フローでは、ステップS1のローカットフィルタ掛けは単に精度をあげるための処理で、必須ではない。また、ステップS2、ステップS4で表されるtc(n)の1次元探索では、探索法の詳細は述べていないが、最も単純な方法は一定ピッチで変化させ計算する方法である。そして、最初は大きなピッチで概略最小位置を求め、次に、その点の周りを細かいピッチで探索し、徐々にピッチを細かくすると計算時間が短縮できる。また、目的値が小さくなる方向を自動的に決めて探索していくような方法もある。
【0073】
次に、上述した処理のフローで、nの値を替えて計算すると、各nでtc(n)が求まる。復路でも、同様にtc(n)を求めて、これによりtc(n)が全て求められる。
【0074】
以上より、ピン状被検体でなく、どのような形状の被検体を用いても、統計精度が上がり、正確に回転中心較正ができる。また、較正用被検体は撮影用被検体自身でもよい。
【0075】
また、第1の実施形態の別の変形例(変形例1)としては、第1の実施形態において、撮影用のスキャン直前に回転中心較正用のスキャンを行ってもよい。また、撮影用のスキャン直後に行ってもよい。
【0076】
この変形例によれば、得られたばかりの回転中心tc(n)を用いて再構成すればよく、スキャン条件ごとに較正値を記憶しておく必要がない。また、較正用被検体は撮影用被検体自身でもよい。なお、回転中心較正用のスキャンは、スキャン条件を変えた時のみ行うようにして、tc(n)を記憶して2回目以降の撮影用のスキャンに用いるようにしてもよい。
【0077】
また、第1の実施形態の変形例2としては、第1の実施形態において、較正用被検体として撮影用被検体自身を用い、回転中心較正用のスキャンを撮影用のスキャンに組み込むことができる。スキャン条件を変えた時、この較正組み込みスキャンを行い、tc(n)を記憶して、同じ条件で2回目以降は通常の撮影用スキャンを行うようにできる。
【0078】
図10は較正組み込みスキャンの実施形態の一例を示した模式図である。
【0079】
kはt移動No、φは回転角である。k=1〜6が撮影のためのTRスキャン、k=0、1、7、8が回転中心較正用スキャンである。
【0080】
また、第1の実施形態の変形例3としては、第1の実施形態において、直前/直後較正(変形例1)あるいは較正組み込みスキャン(変形例2)によりFCD、FDD連続可変のCTも自動較正が可能になる。このとき、撮影用被検体自身で較正すると、ピンと載せ替えなしで済むことになる。
【0081】
また、第1の実施形態の変形例4としては、第1の実施形態において、回転中心較正用スキャンで得たtc(n)を用いてFCDあるいはFDDの較正が可能である。
【0082】
図8はxdとtc・△xとの関係を示す模式図である。
【0083】
検出ライン21上での、第nチャンネルのt方向実長位置(チャンネル配置)を、センタチャンネルncを基準にxd(n)(mm)で表す。xd(n)は、一定間隔とは限られず、検出器の設計値あるいは実測値として既知である。他方回転中心tc(n)のt方向実長位置は、tc(n)・△x(mm)で表される。tc(n)・△xとxd(n)は、図からあきらかなように、式、
tc(n)・△x=tcc+FCD/FDD・xd(n)………(3)
の関係がある。ここで、tccはtc(nc)・△xのことである。この式を利用して、以下(FCD/FDD)の較正値を求める。
【0084】
図9は、xdとtc・△xの(往路の)測定点を示す模式図である。
【0085】
回転中心較正で得たtc(n)とxd(n)を測定点として黒点で示す。ここで、測定点は、式(3)で示すように傾きFCD/FDDの直線上に並ぶはずだが、実際は測定誤差(とxd(n)誤差)でばらついている。測定点の任意の2点から傾きFCD/FDDの較正値が計算できるが、統計精度をあげるため全測定点を用いて傾きを求める。フィッティング直線22を式、
te・△x=a+b・xd……(4)
で表し、よく知られている最小二乗誤差のフィティングを用いると、a、bを求めることができる。a、bは往路と復路それぞれで求められる。bは往路、復路で同じになる値なので平均する。フィッティングにより統計精度が上がり、a、bはそれぞれ式(3)のtcc、FCD/FDDの真値にきわめて近いものとなる。すなわち、
(FCD/FDD)の較正値=b………(5)
とする。この較正値bを用いて、FCDあるいはFDDの較正値を求める。この方法には色々な方法があるが、第1の方法はFCDのみ変更するものである。ここでは、
FCD較正値=FDD公称値・b………(6)
FDD較正値=FDD公称値………(7)
とする。第2の方法は、FDDのみ変更するもので、ここでは、
FCD較正値=FCD公称値………(8)
FDD較正値=FCD公称値/b………(9)
とする。第3の方法は、誤差を均等比率で振り分ける方法で、ここでは、
【0086】
【数1】

【0087】
FCD較正値=FCD公称値・γ………(11)
FDD較正値=FDD公称値/γ………(12)
とする。第4の方法は、FDD-FCDを公称値から変えないようにFCDとFDDを変える方法で、この場合は、
FCD較正値=(FDD公称値−FCD公称値)・b/(1−b)………(13)
FDD較正値=(FDD公称値−FCD公称値)/(1−b)………(14)
とする。この方法は、FCD、FDDともにX線管の外形に対し焦点Fの位置が見えないので機械的に精度を出しにくいのに対し、FDD-FCDの値は精度を出しやすい事情を考慮したものである。
【0088】
以上のように較正されたFCD、FDDを用いて再構成を行う。あるいは、較正されたFCD、FDD値と公称値との差を補正するようにX線管1、回転テーブル5、X線検出管3の配置を機械的に調整する。(調整した場合は、回転中心較正を再度行う。)このようにすることで、FCD、FDD誤差による断面像劣化を減らすことができる。(なお、前述しているように、FCD、FDD誤差は断面像劣化に影響しにくいものであるので、これにより影響はほぼなくなるといえる。)
また、第1の実施形態の変形例5としては、第1の実施形態において、測定tc(n)の代わりに、フィティングして得たteを回転中心較正値としてもよい。すなわち、フィッティングで得たa、bを用いて、
te(n)=(a+b・xd(n))/△x………(15)
でte(n)を計算し、tc(n)の代わりに用いる。te(n)を記憶して、再構成時に使用すればよいが、かわりにa、bを記憶しておき、式(15)で計算するようにしてもよい。なお、チャンネル配置xd(n)の精度が悪い場合は、そのままtc(n)を用いたほうがよい。tc(n)は、xd(n)の誤差が取り除かれているからである。
【0089】
以上より、チャンネル配置xd(n)の精度がよい場合には、測定誤差が緩和され、統計的に精度の上がった回転中心較正が可能である。
【0090】
また、第1の実施形態において、往路、復路それぞれで回転中心較正を行うが、往路のみでTRスキャンを行う場合は、往路のみの回転中心較正でよい。また、機構部の精度が高く、往路と復路のデータ収集位置を所定の関係に精度よく合せることができる場合には、往路の較正で得たtc(n)を復路に用いることができ、往路のみの回転中心較正でよい。
【0091】
また、第1の実施形態において、スキャンは被検体4をt移動および回転させて行うが、これには限られない。すなわち、動きは相対的に等価であればよく、例えば、X線管1とX線検出器3を一体でt移動および回転させてもよい。また、t移動と回転で、動かす側が異なってもよい。
【0092】
また、第1の実施形態の変形例6としては、第1の実施形態において、1次元分解能のX線検出器3を用いたが、2次元分解能のX線検出器を用いることもできる。X線検出器は、X線ビーム2に沿ったチャンネル列を、これと直交する方向に複数列並べた2次元のX線検出器を用いる。さらに、これに合わせ、X線ビーム2の列方向広がりを大きくする。列Noをm、チャンネルをn、サンプル点をtとして、I(n、m、t)の透過データが得られる。この場合、<パラメータ設定>、<回転中心較正>、<スキャン>は第1実施形態と同様に行う。ここで、回転中心較正は撮影面9上のチャンネル列のみで行って各チャンネル列で同じ回転中心tc(n)を用いてもよいが、各チャンネル列それぞれで回転中心tc(n)を求めるようにしてもよい。<再構成>は各列mでそれぞれ、第1実施形態と同様の再構成を行い、1回のスキャンで複数の断面像を得る。また、列数が多い場合は、コーンビーム用の再構成法(L.A.Feldkamp, L.C.Davis and J.W.Kress, Practical cone-beam algorithm, J.Opt.Soc.Am.A/Vol.1, No.6/June1984)を用いると断面像の品質を上げることができる。
【0093】
また、第1の実施形態において、再構成方法は、フィルター補正逆投影を用いているが、再構成方法はこれに限定されることなく、他の再構成方法を用いても良い。例えば、逐次近似法やフーリエ変換法(非特許文献1参照)等である。なお、どの再構成方法を用いた場合でも回転中心が正しいことが必要であり、本発明の回転中心較正が有効である。
【0094】
また、第1の実施形態において、放射線としてX線を用いたが、本発明のTR方式CTにおける回転中心較正はこれに限られることはなく、他の透過性放射線でも成立することは明らかである。
【0095】
さらに、第1の実施形態はX線検出器の種類にかかわらず成立することは明らかである。
【0096】
また、本発明によるCTはその用途にかかわりなく、TR方式のCTの回転中心求出を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の第1実施形態に係る構成を示した模式図(上面図)。
【図2】本発明の第1実施形態に係る構成を示した模式図(側面図)。
【図3】本発明の第1実施形態に係るパラメータ設定を示した模式図。
【図4】本発明の第1実施形態に係る得られた往路、nチャンネルのピンのプロファイルを示した模式図。
【図5】本発明の第1実施形態の変形例に係る一般的な被検体の場合に得られる往路、nチャンネルのプロファイルを示した模式図。
【図6】本発明の第1実施形態の変形例に係る0°、180°のプロファイルが回転中心tcに対して互いに対称となることを示す模式図。
【図7】本発明の第1実施形態の変形例に係る1つのnについてのtc(n)求出を示すフローチャート。
【図8】本発明の第1実施形態の変形例に係るxdとtc・△xとの関係を示す模式図。
【図9】本発明の第1実施形態の変形例に係るxdとtc・△xの(往路の)測定点を示す模式図。
【図10】本発明の第1実施形態の変形例に係る較正組み込みスキャンの実施形態の一例を示した模式図。
【図11】従来のTR方式を示した模式図である。
【図12】従来のTR方式再構成を示した模式図。
【符号の説明】
【0098】
1…X線管、2…X線ビーム、3…X線検出器、4…被検体、5…回転テーブル、6…機構部、7…スリット、9…撮影面、15…データ処理部、15a…回転中心較正部、15b…再構成部、16…表示部、17…機構制御部、20…軌跡、21…検出ライン、22…フィッティング直線、101…X線管、102…X線ビーム、103…X線検出器、104…被検体、105…回転テーブル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線源と、被検体を透過した放射線ビームを検出する放射線検出器と、該被検体と該放射線ビームとに相対回転を与える回転手段と、該被検体と該放射線ビームとに前記回転の面に沿った相対平行移動を与える平行移動手段と、前記平行移動とステップ状の前記回転を交互に繰り返すTRスキャンのそれぞれの前記平行移動中に、多数の平行移動位置tで、前記放射線検出器の前記回転の面に沿った検出チャンネルnごとに検出した被検体の透過データI(n、t)から被検体の断面像を得る再構成手段を有するコンピュータ断層撮影装置において、
前記回転の1つの位置で前記平行移動中に検出した透過データI(n、t)と前記回転の180度異なる位置で前記平行移動中に検出した透過データI(n、t)とから、前記検出チャンネルnごとに、透過データ中の前記回転の軸の投影位置である回転中心tc(n)を求める回転中心較正手段を有することを特徴とするコンピュータ断層撮影装置。
【請求項2】
請求項1記載のコンピュータ断層撮影装置において、
前記回転中心較正手段は、前記回転の1つの位置で往路の前記平行移動中に検出した透過データI(n、t)と前記回転の180度異なる位置で往路の前記平行移動中に検出した透過データI(n、t)とから往路用の前記回転中心tc(n)を求め、前記回転の1つの位置で復路の前記平行移動中に検出した透過データI(n、t)と前記回転の180度異なる位置で復路の前記平行移動中に検出した透過データI(n、t)とから、復路用の前記回転中心tc(n)を求めることを特徴とするコンピュータ断層撮影装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のコンピュータ断層撮影装置において、
前記回転中心較正手段は、前記回転の1つの位置での透過データI(n、t)と前記回転の180度異なる位置での透過データI(n、t)とがt方向に互いに対称となる対称点をnごとに求めて、前記回転中心tc(n)とすることを特徴とするコンピュータ断層撮影装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のコンピュータ断層撮影装置において、
前記回転中心較正手段は、得られた回転中心tc(n)に基づいて、前記TRスキャン中の前記放射線源と前記回転の軸の最短の距離の較正を行う、又は、前記放射線源と前記放射線検出器の距離の較正を行うことを特徴とするコンピュータ断層撮影装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のコンピュータ断層撮影装置において、
前記回転中心tc(n)を求めるための前記の複数の前記平行移動を較正用スキャンとしたとき、この較正用スキャンは断面像を撮影するために行う前記TRスキャンに先立って行い、得られた回転中心tc(n)を記憶しておき、前記TRスキャンを行った際に前記回転中心tc(n)を断面像の計算に用いることを特徴とするコンピュータ断層撮影装置。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のコンピュータ断層撮影装置において、
前記回転中心tc(n)を求めるための前記の複数の前記平行移動を較正用スキャンとしたとき、この較正用スキャンは断面像を撮影するために行う前記TRスキャンに前後して続けて行い、得られた回転中心tc(n)を断面像の計算に用いることを特徴とするコンピュータ断層撮影装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のコンピュータ断層撮影装置において、
前記放射線検出器は、2次元分解能であることを特徴とするコンピュータ断層撮影装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2007−78469(P2007−78469A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−265493(P2005−265493)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(391017540)東芝ITコントロールシステム株式会社 (107)
【Fターム(参考)】