説明

コークスの製造方法

【課題】粘結炭に依存せずに、コークス中に残留する粗大気孔量を減少させて、高強度なコークスを製造することを可能とする、コークスの製造方法を提供すること。
【解決手段】石炭を加熱空間に装入して乾留し、コークスを製造するに際し、石炭に振動を付与し乾留を行なうことを特徴とするコークスの製造方法を用いる。振動は、石炭が軟化溶融状態域にあるときに付与すること、石炭の軟化溶融状態域は、350〜550℃の温度領域であること、振動の周波数を50Hz以上、50000Hz以下とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭乾留時における脱泡を促進して、高強度のコークスを製造する、コークスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石炭を乾留して製造されるコークスは、高炉内の通気性を維持する重要な役割を担っており、安定した微粉炭多量吹込み操業、高出銑比操業あるいは低還元材比操業を達成するためには、高炉内での粉発生を抑制できる高い強度を有するコークスが必要であると考えられている。
【0003】
一般に、コークス原料石炭中の粘結炭の配合割合を増やすことで、コークスの高強度化を図ることが可能である。特に、良質な粘結炭を増やすほどその効果は大きくなる。しかし、粘結炭は、資源量が少なく価格も高いため、資源制約およびコークス製造コスト削減の観点から、粘結炭の使用割合を単純に増加させることは難しい。
【0004】
また、粘結炭は軟化溶融時に大きく膨張しようとするが、コークス炉内では、その膨張が拘束されることによる圧密作用により、コークス内の粗大気孔が減少することで、コークスの高強度化に寄与している。しかし、拘束力を受けるコークス炉の炉壁は、使用年数の経過とともに損傷が進行していくため、老朽コークス炉においては、拘束力の耐圧限界の観点からも、粘結炭の使用量を制約することを視野に入れる必要がでてきている。そこで、粘結炭がもつ圧密作用に依存せずに、コークス中に残留する粗大気孔を抑制することができれば、資源面、コスト面ならびに設備面に及ぼす効果は大きいものとなる。
【0005】
粘結炭に依存せずにコークス中に残留する粗大気孔量を減少させる技術として、乾留炉内での加熱中に圧縮状態で保持する(例えば、特許文献1参照。)、あるいは突き固めた石炭の上面表層部に重力を付加し加圧しながら乾留する方法(例えば、特許文献2、3参照。)、また、乾留炉内の石炭に対して、外から加熱方向と同一の方向から強制的に機械的圧力を付与する方法(例えば、特許文献4参照。)、さらには、乾留炉内の雰囲気圧力を高め加熱する方法(例えば、特許文献5参照。)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭55−5981号公報
【特許文献2】特開昭61−87783号公報
【特許文献3】特開昭61−87785号公報
【特許文献4】特許第2864585号公報
【特許文献5】特開平3−179084号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】海保守、牧野三則、小林光雄、木村英雄、加藤勉著 「加圧下における石炭の粘結特性の検討(I)」燃料協会誌、第63巻、1984年、p.48−53
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された手段では、石炭、コークスに直接圧力を加えるためには加熱壁を動かす必要があるが、工業炉では技術的に非常に困難である。また、特許文献2、3については、突き固め、さらに突き固めた石炭の上面表層部に重力を付加し加圧しながら加熱乾留することで、強度向上が期待できるが、突き固めた石炭の上面表層部近傍にその効果は限定される。また、特許文献4の加熱乾留中、強制的に機械的圧力を付与する方法も効果は機械的圧力を付与できる領域に限定される。さらに、特許文献5に記載された方法では、粘結炭に依存せずに石炭の自由膨張を効率的に抑制することができるため、コークス強度を大幅に増加することが可能となる。しかし、既存のコークス炉は高い圧力に対するシール性を考慮していないため、雰囲気圧力保持は事実上困難であり、また、炉蓋からのガス漏れなどによる環境上の問題も新たな解決すべき課題となる。
【0009】
以上のように、従来の技術を用いては、粘結炭に依存せずにコークス中に残留する粗大気孔量を十分に減少させることは困難である。
【0010】
したがって、本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、粘結炭に依存せずに、コークス中に残留する粗大気孔量を減少させて、高強度なコークスを製造することを可能とする、コークスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題を解決するための本発明の特徴は以下の通りである。
(1)石炭を加熱空間に装入して乾留し、コークスを製造するに際し、石炭に振動を付与し乾留を行なうことを特徴とするコークスの製造方法。
(2)前記振動は、石炭が軟化溶融状態域にあるときに付与することを特徴とする(1)に記載のコークスの製造方法。
(3)前記石炭の軟化溶融状態域は、350〜550℃の温度領域であることを特徴とする(1)または(2)に記載のコークスの製造方法。
(4)振動の周波数を50Hz以上、50000Hz以下とすることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれか1つに記載のコークスの製造方法。
(5)前記振動は、加熱空間に装入した石炭に付与することを特徴とする(1)ないし(4)のいずれか1つに記載のコークスの製造方法。
(6)前記振動は、加熱空間の外壁に振動を付与することで、加熱空間内の石炭に振動を付与することを特徴とする(1)ないし(4)のいずれか1つに記載のコークスの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、良質かつ高価な粘結炭の使用を前提とせずに、高強度なコークスの製造が可能となるため、安価な資源を活用して、低コストでコークスを製造できる。また、本発明のコークス製造方法では、設備への負荷が過大な方法ではないので、設備の維持管理が容易であり、さらに本発明のコークス製造方法では、設備制約が無く、コークスの安定製造が実現できる。なお、高品質のコークスが供給できるようになるため、高炉の安定操業も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】石炭Aの通常乾留コークスと振動乾留コークスの強度の関係を示すグラフ。
【図2】石炭Bの通常乾留コークスと振動乾留コークスの強度の関係を示すグラフ。
【図3】石炭Aの振動周波数とコークス強度の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
コークス内部気孔の大部分は、石炭乾留過程における軟化溶融状態から再固化に至るまでに、熱分解により生成した気泡、あるいは石炭充填時の空隙が系外に排出されずに留まることで形成されている。コークスは気孔率が50体積%前後の多孔材料であり、コークス強度は気孔量に大きく影響されることから、気泡や空隙をコークスの外に効率よく排出(脱泡)することができれば、コークス強度を向上させることができる。
【0015】
一般的な脱泡方法としては、自然上昇を狙った静置法、加熱法、遠心脱泡法、減圧あるいは真空脱泡法、振動脱泡法などが一般的である。しかし、コークス製造はもともとが加熱プロセスであり、加熱空間内の同じ位置における軟化溶融状態の平均存在時間は30分から60分程度と短いことから、加熱法や静置法は明らかに適さない。遠心脱泡法は、高炉で使用するコークスの製造プロセスで用いるような超大型の反応炉に対して容易に利用できる技術が開発されていないため、現状での導入は難しいと考えられる。また、通常のコークス製造設備は、レンガと金属で構成されており、大幅な減圧に耐えることを前提とした設計がなされていないことから、減圧あるいは真空脱泡法も、設備面の制約から導入は困難であると考えられる。また、雰囲気圧力の低下に伴い、石炭の軟化溶融性は大幅に失われることが報告されている(非特許文献1参照。)。これは、雰囲気圧力の減少に伴い、熱分解ガスが強制的に排出され揮発成分が沸騰揮散することで、液相を形成する成分が減少することが一因となっている。このように、単純に減圧処理を行った場合には、軟化溶融性が悪化して、逆にコークス強度の低下を招くことになり、品質面からも効果が期待できない。
【0016】
一方で、超音波振動法に代表される振動脱泡法に関しては、最適な振動条件を見出すことにより、その条件に適した振動付与方法の開発が可能と考え、振動脱泡法を用いることを前提としたコークスの製造方法を見出した。すなわち、石炭を加熱空間に装入して乾留し、コークスを製造するに際し、軟化溶融状態の石炭に振動を付与しながら乾留を行なうことを特徴とする方法である。振動の付与は直接的であっても、間接的であってもよい。直接的な付与とは、石炭やコークスの表面または内部に直接振動を与える方法であり、間接的な付与とは、加熱空間の外壁等に振動を加え、その振動を石炭やコークスに伝播させる方法等である。
【0017】
加熱空間内での振動付与は、少なくとも石炭が軟化溶融状態にある時期の一部を含むように行なうことで効果がある。石炭が軟化溶融状態にある時期の全体を含むように行なうことが好ましい。すなわち、乾留中に振動を付与すれば、ほとんどの時間帯は石炭の軟化溶融物が存在しているので、振動付与が可能である。ただし、例えば乾留末期のようにコークスのみしか存在しないところに振動を加えても、その間の振動処理は無駄になることから、好ましくは、乾留過程で軟化溶融状態が存在するとき少なくとも振動が付与されるように処理を行うのである。もちろん、加熱空間内での乾留中の全時期について、石炭、石炭が乾留されて生成した軟化溶融物、コークスに対して振動付与を行なっても差し支えない。
【0018】
一般にコークスは、石炭を加熱空間内に充填し、その石炭充填層を外部から加熱することにより製造される。ここで、石炭およびその軟化溶融物の有効熱伝導率はコークスや金属など他の材料に比較すると非常に小さく、石炭のコークス化は加熱面から内部に向けてゆっくり進行することになる。すなわち、振動脱泡効果が得られる石炭の軟化溶融物は、乾留開始当初を除いた、乾留期間のほとんどをコークスに包まれた状態で存在することになる。このように、コークス製造過程においては、軟化溶融物への振動伝達はコークスを介して行われることになる。
【0019】
ところが、コークスは、熱分解ガスの残留にともなう気孔や熱応力に起因して生成される亀裂など、多くの欠陥を内包していることから、振動条件によっては、コークス内で振動が減衰、消失してしまい、振動が軟化溶融物まで伝わらない可能性がある。
【0020】
本発明者らは、コークスの振動伝達条件を鋭意検討した結果、振動周波数は50Hz以上、50000Hz以下の間で設定することが好ましいことを見出した。振動周波数を50Hz未満に低く設定した場合には、軟化溶融物まで振動は伝達するものの、軟化溶融物の性質により、十分な脱泡効果を得ることができない場合がある。一方、振動周波数を50000Hz超えに高く設定した場合には、コークス内で振動が消失してしまうため軟化溶融物には振動が伝わらず、振動脱泡効果を得ることができない場合がある。
【0021】
また、振動付与方法としては、加熱空間内に装入石炭に振動子をその表面及び/または内部に挿入し振動を石炭に付与する方法、または、軟化溶融物はコークスに包まれていることから、コークスに振動を与え石炭に振動が伝わるような振動付与方法をとればよい。例えば、前者は、加熱空間の上部1箇所あるいは数箇所から振動子を挿入し、石炭あるいはコークスに接触させて振動を付与させる方法であり、後者は、石炭が装入された加熱空間と熱を供給する空間部分を隔てている仕切りに直接振動を付与する方法である。なお、石炭の軟化溶融状態とは、350〜550℃の温度領域の過程をさす。
【0022】
本発明は石炭の乾留に用いるコークス炉の炉形式は問わず、いずれのコークス炉に対しても適用可能である。ただし、重力と反対方向への脱泡がもっとも効率良く行われるため、副産物非回収炉に代表されるように、石炭を上下方向から加熱する機能を有するコークス炉がもっとも高い効果が得られる。
【0023】
さらに、劣質な石炭の中でも、振動脱泡によるコークス強度向上効果が高い石炭と低い石炭が存在しており、石炭選定時も、振動脱泡効果が大きな石炭を優先的に選択して本発明方法を用いることが効果的である。
【実施例1】
【0024】
石炭を乾留してコークスを製造し、得られたコークスの評価試験を行った。
【0025】
乾留試験には、Ro(ビトリニット最大平均反射率)が0.71、logMF(最高流動度)が1.0の性状を有する石炭Aと、Roが0.98、logMFが1.7の性状を有する石炭Bの2銘柄を使用した。尚、Roの測定はJIS M8816、logMFの測定はJIS M8801に準拠して行った。
【0026】
石炭は、内径18mm、高さ24mmの容器に800kg/m3の嵩密度で充填後、室温から1000℃まで5℃/分で加熱してコークス化した。
【0027】
乾留過程において振動を付与しない通常乾留の結果を基準とし、振動を付与した振動乾留の効果を検討した。尚、振動条件は、振動を付与する期間は石炭A、Bのそれぞれの軟化溶融温度域、振動周波数は28500Hz一定とした。振動の付与は、石炭を充填した容器を加熱炉の中に、振動発生装置を加熱炉の外に設置し、容器の外表面に振動発生装置の振動子から熱伝導率の小さい石英製の軸を介して行なった。すなわち、間接的に容器内部の石炭に振動を付与する条件で行なった。
【0028】
コークスは三等分し、3つの円柱状のサンプルを得て、これを間接引張強度により強度評価を行った。
【0029】
図1に石炭Aの通常乾留と振動乾留で得られたコークスの強度を、図2に石炭Bの通常乾留と振動乾留で得られたコークスの強度を示す。石炭A、Bのいずれの石炭についても、振動乾留を行った場合のほうが間接引張強度は高く、コークス強度は振動付与により上昇した。また、石炭の種類により強度向上効果が異なることが明らかになった。
【実施例2】
【0030】
石炭を乾留してコークスを製造し、得られたコークスの評価試験を行った。
【0031】
乾留試験には、Roが0.71、logMFが1.0の性状を有する実施例1で用いた石炭Aを使用した。
【0032】
石炭は、内径18mm、高さ24mmの容器に800kg/m3の嵩密度で充填後、室温から1000℃まで5℃/分で加熱してコークス化した。
【0033】
振動の付与は、実施例1と同様に行ない、振動条件は、振動を付与する期間は石炭Aの軟化溶融温度域、振動周波数は50、100、500、1000、5000、10000、50000Hzの7水準行った。
【0034】
コークスは三等分し、3つの円柱状のサンプルを得て、これを間接引張強度により強度評価を行った。
【0035】
図3に振動周波数と、振動乾留で得られたコークス強度の関係を示す。図3中には比較のために、通常乾留で得られたコークスの間接引張強度を点線で示している。振動周波数を50Hzから増加させると強度向上効果は大きくなるが、振動周波数が50000Hzに近づくと再び強度向上効果は小さくなることが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭を加熱空間に装入して乾留し、コークスを製造するに際し、石炭に振動を付与し乾留を行なうことを特徴とするコークスの製造方法。
【請求項2】
前記振動は、石炭が軟化溶融状態域にあるときに付与することを特徴とする請求項1に記載のコークスの製造方法。
【請求項3】
前記石炭の軟化溶融状態域は、350〜550℃の温度領域であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコークスの製造方法。
【請求項4】
振動の周波数を50Hz以上、50000Hz以下とすることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載のコークスの製造方法。
【請求項5】
前記振動は、加熱空間に装入した石炭に付与することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載のコークスの製造方法。
【請求項6】
前記振動は、加熱空間の外壁に振動を付与することで、加熱空間内の石炭に振動を付与することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載のコークスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−229194(P2010−229194A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75382(P2009−75382)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】