説明

コークス消火電車の減速停止制御方法及び装置

【課題】コークス消火電車の減速停止制御方法及び装置を提供する。
【解決手段】コークス消火電車を、コークス工場内の所定の経路に沿って予め設定された速度パターンで自動走行させ、予め設定された目標速度と測定された実速度との速度偏差を監視し、この速度偏差が設定値を超えた場合には、消火電車の機械的ブレーキを動作させて強制的に消火電車を減速し、速度偏差が設定値以下に戻った場合には、機械的ブレーキを開放し、消火電車を前記予め設定された速度パターンで自動走行させる際に、前回から3回前までの各自動走行時に、速度偏差が設定値を超えた超過地点及び超過エリアをメモリに記憶しておき、超過地点及び超過エリアが同じである回数に応じて、今回の自動走行時の速度パターンを前記予め設定された速度パターンに対して調整する、コークス消火電車の減速停止制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭を乾留し、コークスを生成するプロセスを行うコークス工場内におけるコークス消火電車の走行制御に係り、コークス工場内のコークス消火電車の減速停止制御方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コークス消火電車は、コークス工場内において、石炭を乾留し、コークスを生成するプロセスを行うコークス炉から押出した赤熱コークスを消火設備へ搬送するように自動運転される。このため、消火電車では、以下の条件を満たすように操業が行われている。
・赤熱コークスの受渡しのため決められた位置へ精度よく停止する。
・消火電車のサイクルタイムが生産量へ影響するため、目的位置まで最短時間で走行する。
【0003】
最短時間で消火電車の操業を行うためには、インバータ(INV)の速度制御(以下、インバータ制御ともいう)による自動運転の速度パターンは、図6(a)のように、出発位置から目標停止位置までの間において、インバータの加減速レートを最大とした三角形状の、最短時間の速度パターンとなる。
しかしながら、車体の機械的強度や走行する軌道(レール)等の設備的な制約により、消火電車の最高速度が必然的に決まってしまう為、最短時間での消火電車の自動走行は、図6(b)に示すように、出発位置から加速レートを最大として加速し、上記要因から決定される最高速度で走り、目標停止位置まで減速レートを最大として減速する台形状の、最高速度を考慮した最短時間の速度パターンが最良となる。このように、消火電車の操業における目標速度は、出発位置からの加速時には、インバータの最大加速レートで達成される速度であり、目標停止位置までの減速時には、最高速度からインバータの最大減速レートで達成される速度となる。
【0004】
ところで、消火電車の実際の速度と上述のようなインバータ制御による速度パターンの目標速度との間には速度誤差が生じる。消火電車の減速時に速度誤差が生じて、実際の速度が目標速度に減速されずに目標速度を超えてしまった場合、目標速度がインバータの最大減速レートによる速度であるため、インバータによる速度制御では速度誤差をそれ以上小さくすることができない。そのため、最高速度から減速レートを最大として減速して停止した場合、一旦目標速度を超えてしまうと減速されても、消火電車が目的位置を超えて停止してしまう。
このように、消火電車が目的位置を超えた場合には、消火電車をもう一度走行させて目的位置まで戻す必要があるため、サイクルタイムが長くなるという問題が生じる。
【0005】
また、停止精度を上げるためには速度を落とせばよいが、その場合にも、サイクルタイムが長くなる。そこで、速度誤差による停止誤差が要求される範囲に入る速度を停止制御のための所定低速度とし、停止前に所定低速度に一度落として停止することで停止精度を上げることができる。
この時の停止前に所定低速度とする、最高速度を考慮した最短時間の速度パターンを、図6(c)へ示す。ここで、所定低速度は速度を小さくするほどサイクルタイムが長くなり、大きくするほど停止精度が悪くなるため、調整の結果として最適な値を決める必要がある。
例えば、速度に対する誤差がa%とすると、所定低速度走行から減速停止した場合の速度誤差による停止誤差は、以下の通りとなる。
停止誤差 = (速度誤差) × (停止時間)
= (所定低速度×a/l00) × 所定低速度/減速レート)
この停止誤差が停止精度の許容範囲内となるよう所定低速度を決めている。
【0006】
このため、従来は、以下に示す消火電車の減速方法が特許文献1に開示されている。
特許文献1に開示の消火電車の減速方法においては、
まず、第1に、図7(a)及び(b)にそれぞれ示すように、消火電車では、目標停止位置へ停止する際、及び速度制限域へ進入する際に、目標停止位置へ停止及び速度制限域に目標とする速度で進入するために、残距離から減速パターン(減速レート)を計算し、消火電車の走行を自動制御している。
次に、第2に、消火電車では、計算された速度パターンに対して遊輪装置(車輪をレールに接地し、車輪の回転角度をアブソコーダで測定するもの)で速度を検出し、インバータ制御によって車速を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−13040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の特許文献1に開示の従来技術では、下記の問題が発生する。
1.消火電車の駆動輪または従動輪がスリップした場合、スリップしている間は減速できず、予め設定した速度パターンの目標速度と実速度との間の速度偏差が生じる。
2.速度偏差が大きくなると、目標停止位置へ停止出来ない。また、速度制限域へ制限速度を超えて進入する場合がある。
3.上記のような場合には、消火電車の自動運転が継続できなくなる。
4.上記3の消火電車の自動運転の復旧作業のために、オペレータが消火電車に乗車して対応を取る必要があるため、生産ロスが発生するのみならず、コークス工場のような連続プロセスでは、当該窯の次の窯以降の窯出し時間が当初より遅れて行き、その結果、炭化室内に留まっているコークスの粉化が進行し、生成したコークスの歩留まりが低下するだけでなく、生成したコークスの強度も低下に至る。
【0009】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解消するために、消火電車の自動走行中、駆動輪又は従動輪のスリップ発生時の制動、減速制御について、機械的ブレーキを利かすことで、スリップを抑制し、予め定めた減速速度制御を継続させることができるコークス消火電車の減速停止制御方法及び装置を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、上記従来技術の問題点を解消するために、消火電車の駆動輪又は従動輪がスリップし、消火電車の自動運転の速度パターンの目標速度と実速度との間の速度偏差が大きくなっても、速度偏差を強制的に小さくして、目標停止位置へ停止ができなくなったりすること、及び速度制限域へ制限速度を超えて進入したりすることを防止、もしくは低減することができ、そのため、消火電車の自動運転遮断の発生を防止、若しくは削減することができ、その結果、コークスの生産量を増加させることができるコークス消火電車の減速停止制御方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様に係るコークス消火電車の減速停止制御方法は、コークス消火電車を駆動する電動機をインバータによって制御して前記消火電車の自動走行速度制御を行い、前記消火電車を、コークス工場内の所定の経路に沿って予め設定された速度パターンで自動走行させることにより、目標停止位置の手前に設けた減速開始点から減速させ、前記目標停止位置で停止させるコークス消火電車の減速停止制御方法であって、前記消火電車の減速時において、予め設定された目標速度と実速度との速度偏差を監視し、該速度偏差が設定値を超えた場合には、前記消火電車の機械的ブレーキを所定時間動作させて強制的に前記消火電車を減速し、前記速度偏差が前記設定値以下に戻った場合には、前記消火電車の機械的ブレーキを開放し、前記インバータによる前記消火電車の自動走行速度制御に戻して、前記消火電車を前記予め設定された速度パターンで自動走行させる際に、前回から3回前までの各自動走行時に、前記速度偏差が前記設定値を超えた超過地点、及び前記速度偏差が前記設定値を超えていた超過エリアをメモリに記憶しておき、前記メモリに記憶された前記超過地点及び前記超過エリアが同じである回数に応じて、今回の自動走行時の速度パターンを前記予め設定された速度パターンに対して調整することを特徴とする。
【0011】
ここで、前記メモリに記憶された前記超過地点及び前記超過エリアが3回とも同じであった場合には、前記超過地点の手前の所定距離にある地点から、今回の自動走行時の速度パターンの減速レートを、前記予め設定された速度パターンの減速レートの半分の減速レートに変更して自動走行させ、前記目標停止位置で停止させることが好ましい。
また、前記メモリに記憶された前記超過地点及び前記超過エリアが1回または2回であった場合には、前記超過地点から前記超過エリア内で、今回の自動走行時の速度パターンの減速レートを、前記予め設定された速度パターンの減速レートの2/3の減速レートに変更して自動走行させ、その後、前記速度偏差が設定値を超えた場合には、前記消火電車の機械的ブレーキを所定時間動作させて強制的に前記消火電車を減速するか、もしくは、前記速度偏差が設定値を超えずに、前記消火電車を前記目標停止位置で停止させた場合には、次回の自動走行時には、前記予め設定された速度パターンで前記消火電車を自動走行させることが好ましい。
【0012】
また、前記設定値は、前記速度偏差の大きさ、及び時間の設定値であり、前記速度偏差の大きさが前記大きさの設定値を超えた状態が前記時間の設定値を超えて継続された場合に、前記消火電車のブレーキを動作させて強制的に前記消火電車を減速することが好ましい。
また、前記速度偏差の大きさの設定値は、複数の実績値の平均値であり、前記速度偏差の時間の設定値は、誤動作が生じない時間に設定されることが好ましい。
【0013】
また、前記消火電車のブレーキを動作させ、所定時間経過しても、前記速度偏差が前記設定値以下に戻らない場合には、さらに、前記消火電車の貨車側に取り付けられているブレーキを動作させて、前記消火電車を強制的に減速させ、前記速度偏差が前記設定値以下に戻った時点で、前記消火電車のブレーキ及び前記貨車側のブレーキを開放して、前記インバータによる前記消火電車の自動走行速度制御に戻すことが好ましい。
または、前記消火電車のブレーキを動作させ、所定時間経過しても、前記速度偏差が前記設定値以下に戻らない場合には、さらに、前記消火電車の貨車側に取り付けられているブレーキを所定動作時間動作させ、前記消火電車を強制的に減速した後、前記貨車側のブレーキを所定開放時間開放することを、前記速度偏差が前記設定値以下に戻るまで繰り返し、前記速度偏差が前記設定値以下に戻った時点で、前記消火電車のブレーキ及び前記貨車側のブレーキを開放し、前記インバータによる前記消火電車の自動走行速度制御に戻すことが好ましい。
【0014】
また、前記消火電車のブレーキは、前記消火電車の移動機の電磁ブレーキであり、前記貨車側のブレーキは、空気ブレーキであることが好ましい。
また、前記消火電車が前記減速開始点に達したときに減速を開始させて減速走行状態にし、前記消火電車が前記目標停止位置に達したときに前記消火電車を停止させるように、前記インバータによる前記消火電車の自動走行速度制御を行うと共に、前記インバータによる前記消火電車の自動走行速度制御が行われている前記消火電車が前記目標停止位置に達したときに前記消火電車が停止するように、前記消火電車のブレーキを動作させることが好ましい。
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の第2の態様に係るコークス消火電車の減速停止制御装置は、移動機と、該移動機を駆動する電動機と、前記移動機に取り付けられる機械的ブレーキである移動機ブレーキと、を備えるコークス消火電車を、コークス工場内の所定の経路に沿って予め設定された速度パターンで自動走行させることにより、目標停止位置の手前に設けた減速開始点から減速させ、前記目標停止位置で停止させるコークス消火電車の減速停止制御装置であって、前記電動機をインバータによって制御して前記消火電車の自動走行速度制御を行い、前記予め設定された速度パターンで自動走行させる速度制御手段と、前記消火電車の実速度を検出する速度検出手段と、前記消火電車の減速時において、予め設定された目標速度と前記速度検出手段で検出された実速度との速度偏差を演算する速度偏差演算手段と、該速度偏差演算手段で演算された前記速度偏差と予め設定された設定値とを比較する比較手段と、該比較手段による比較の結果、前記速度偏差が前記設定値を超えた場合に、前記移動機ブレーキを動作させて強制的に前記消火電車を減速し、前記比較手段による比較の結果、前記移動機ブレーキの動作状態において前記速度偏差が前記設定値以下に戻れば、前記移動機ブレーキを開放し、前記速度制御手段の前記インバータによる前記消火電車の自動走行速度制御に戻して、前記消火電車を前記予め設定された速度パターンで自動走行させるブレーキ制御手段と、前回から3回前までの各自動走行時に、前記比較手段による比較の結果、前記速度偏差が前記設定値を超えた超過地点、及び前記速度偏差が前記設定値を超えていた超過エリアを記憶しておくメモリと、該メモリに記憶された前記超過地点及び前記超過エリアが同じである回数に応じて、今回の自動走行時の速度パターンを前記予め設定された速度パターンに対して調整する速度パターン調整手段と、を有することを特徴とする。
【0016】
ここで、前記速度パターン調整手段は、前記メモリに記憶された前記超過地点及び前記超過エリアが3回とも同じであった場合には、前記超過地点の手前の所定距離にある地点から、今回の自動走行時の速度パターンの減速レートを、前記予め設定された速度パターンの減速レートの半分の減速レートに変更し、前記速度制御手段は、前記速度パターン調整手段によって変更された前記減速レートで前記消火電車を自動走行させ、前記目標停止位置で停止させることが好ましい。
【0017】
また、前記速度パターン調整手段は、前記メモリに記憶された前記超過地点及び前記超過エリアが1回または2回であった場合には、前記超過地点から前記超過エリア内で、今回の自動走行時の速度パターンの減速レートを、前記予め設定された速度パターンの減速レートの2/3の減速レートに変更し、前記速度制御手段は、前記速度パターン調整手段によって変更された前記減速レートで前記消火電車を自動走行させ、その後、前記比較手段による比較の結果、前記速度偏差が設定値を超えた場合には、前記ブレーキ制御手段は、前記消火電車の移動機ブレーキを所定時間動作させて強制的に前記消火電車を減速するか、もしくは、前記速度偏差が設定値を超えずに、前記速度制御手段が、前記消火電車を前記目標停止位置で停止させた場合には、前記速度パターン調整手段は、次回の自動走行時には、前記消火電車の自動走行速度制御の速度パターンを前記予め設定された速度パターンに戻して、前記速度制御手段は、戻された前記予め設定された速度パターンで前記消火電車を自動走行させることが好ましい。
【0018】
ここで、前記消火電車は、さらに、赤熱したコークスを積載し、前記移動機に牽引される貨車と、前記貨車側に取り付けられる機械的ブレーキである貨車ブレーキと、を有し、前記ブレーキ制御手段は、前記比較手段による比較の結果、前記移動機ブレーキを動作させた状態で所定時間経過しても、前記速度偏差が前記設定値以下に戻らない場合には、さらに、前記貨車ブレーキを動作させ、前記消火電車を強制的に減速し、前記移動機ブレーキ及び前記貨車ブレーキの動作状態において、前記速度偏差が前記設定値以下に戻った場合には、前記移動機ブレーキ及び前記貨車ブレーキを開放し、前記インバータによる前記消火電車の自動走行速度制御に戻すことが好ましい。
【0019】
また、前記ブレーキ制御手段は、前記比較手段による比較の結果、前記移動機ブレーキを動作させた状態で所定時間経過しても、前記速度偏差が前記設定値以下に戻らない場合には、前記速度偏差が前記設定値以下に戻るまで、さらに、前記貨車ブレーキを所定動作時間動作させること、及び、その後、前記貨車ブレーキを所定開放時間開放することを繰り返し、前記速度偏差が前記設定値以下に戻った時点で、前記移動機ブレーキ及び前記貨車ブレーキを開放し、前記インバータによる前記消火電車の自動走行速度制御に戻すことが好ましい。
また、前記移動機ブレーキは、電磁ブレーキであり、前記貨車ブレーキは、空気ブレーキであることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、コークス工場内において、消火電車を目標停止位置の手前に設けた減速開始点から減速させ、目標停止位置で停止させる際に、消火電車の駆動輪や従動輪等の車輪がスリップする要因である天候の変化、油等によるレールと車輪の摩擦係数の低下、レールの勾配等の複数の要因に対して適切に対応することができる。
また、本発明によれば、消火電車の駆動輪や従動輪等の車輪がスリップし、消火電車の自動運転の速度パターンの目標速度と実速度との間の速度偏差(偏差の大きさ、時間)が大きくなっても、速度偏差を強制的に小さくして、目標停止位置へ停止ができなくなったりすることや、速度制限域へ制限速度を超えて進入したりすることを防止、若しくは低減することができる。
【0021】
そのため、本発明によれば、消火電車の自動運転遮断(自動運転断)の発生を防止、若しくは削減することができ、即ち消火電車の自動運転がダウンして、継続できなくなり、その復旧作業のためにオペレータが消火電車に乗車して対応を取るために、ダウンタイムが発生し、生産ロスが発生することを防止、若しくは低減することができ、その結果、コークスの生産量を増加させることができる。
また、本発明によれば、コークス工場のような連続プロセスにおいても、複数の窯の窯出し時間を遅らすことなく維持することができ、その結果、炭化室内に留まっているコークスの粉化の進行を防止し、生成したコークスの歩留まりの低下や、生成したコークスの強度も防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るコークス消火電車の減速停止制御方法を実施するコークス消火電車の減速停止制御装置の一実施形態の概略構成を示す断面図である。
【図2】(a)及び(b)は、それぞれ本発明及び従来のコークス消火電車の減速停止制御時の速度応答及び目標速度との速度偏差応答を示すグラフである。
【図3】本発明に係るコークス消火電車の減速停止制御方法の一例を示すフローチャートである。
【図4】図3に示すコークス消火電車の減速停止制御方法に適用されるコークス消火電車の自動走行制御方法の一例を示すフローチャートである。
【図5】図4に示すコークス消火電車の自動走行制御方法の速度偏差監視に基づく減速制御ステップの一例の詳細を示すフローチャートである。
【図6】(a)、(b)及び(c)は、それぞれインバータ制御によるコークス消火電車の自動運転の速度パターンを示すグラフである。
【図7】(a)及び(b)は、従来のコークス炉移動機の目標停止位置への停止時、及び速度制限域進入時の速度パターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明に係るコークス消火電車の減速停止制御方法及びこれを実施する本発明に係るコークス消火電車の減速停止制御装置を、添付の図面に示す好適実施形態を参照して詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明に係るコークス消火電車の減速停止制御方法を実施する本発明に係るコークス消火電車の減速停止制御装置の一実施形態の概略構成を示す断面図である。
同図に示すコークス消火電車(以下、単に消火電車という)10は、コークス炉から押出した赤熱コークスを消火設備へ搬送するために自動運転されるもので、レール(軌条)12上を自動走行する移動機14と、移動機14に牽引され、赤熱コークスを積載する貨車16と、を有する。
【0025】
移動機14は、赤熱コークスを積載する貨車16を牽引して、コークス炉の複数の窯の位置間や、コークスの装入位置と各窯の位置と間等に配設されたレール12上を自動走行するもので、レール12上を転動する左右一対の駆動輪18a及び従動輪18bと、移動機14、従って消火電車10を自動走行させるために駆動輪18aを回転駆動させる駆動源となる電動機(モータ:M)20と、移動機14、従って消火電車10を減速し、かつ/又は停止させるために駆動輪18aに制動力を付与する機械的ブレーキとして機能する移動機ブレーキ22と、本発明に係るコークス消火電車の減速停止制御方法を実施する減速停止制御装置(以下、単に、制御装置という)24とを有する。
【0026】
ここで、移動機14は、移動機本体ハウジング(図示せず)を有し、その内部に、電動機20、移動機ブレーキ22及び制御装置24が収納されて支持され、移動機ハウジングは、左右一対の駆動輪18a間及び従動輪18b間の回転軸を回転可能に支持する。
また、電動機20の回転駆動力は、減速機(図示せず)を介して駆動輪18aに伝達される。
また、図示例においては、移動機ブレーキ22は、主として消火電車10を目標停止位置に正確に停止するために最終的に用いられる機械的ブレーキであるが、本発明においては、消火電車10の実速度が図2(a)に点線で示すインバータの最大減速レートでの目標速度を超えた場合に、消火電車10の実速度を目標速度に戻すために、インバータによる速度制御の最大減速レートでは達成できない減速レートで消火電車10を減速させるために用いるものである。なお、移動機ブレーキ22は、駆動輪18aに機械的(物理的)に制動力を付与して、消火電車10を減速させ、最終的には、停止位置に正確に停止させることができれば、どのようなブレーキでも良く、例えば、車両のブレーキとして用いられる電磁ブレーキや、制動用シリンダを用いる空気ブレーキ及び油圧ブレーキ等の機械的ブレーキを挙げることができるが、その中では、電磁ブレーキであるのが好ましい。
【0027】
また、貨車16は、図示しない貨車本体に搬送する赤熱コークスを積載するためのもので、レール12上を転動する左右一対の従動輪26と、貨車16、従って移動機14、即ち消火電車10を減速し、かつ/又は停止させるために従動輪26に制動力を付与する機械的ブレーキとして機能する貨車ブレーキ28と、を有する。
ここで、図示例においては、貨車ブレーキ28は、貨車の重量が大きい、例えば数十トン、具体的には30余トン等であるため慣性が大きく、移動機ブレーキ22だけでは、消火電車10を減速させ、最終的に正確に停止させることができない場合やその可能性がある場合に、移動機ブレーキ22によって移動機14の駆動輪18aに機械的に制動力を付与するのに加えて、貨車16の従動輪26に機械的に制動力を付与して、貨車16及び移動機14、即ち消火電車10を減速させ、最終的に正確に停止させるためのものである。即ち、貨車ブレーキ28は、本来、消火電車10の停止時の流れ防止のために使用するものであるが、本発明においては、消火電車10の実速度が図2(a)に点線で示すインバータの最大減速レートでの目標速度を超えた場合に、消火電車10の実速度を目標速度に戻すために用いられる移動機ブレーキ22を作用させても達成できないより大きい減速レートで消火電車10を減速させる際に用いるものである。なお、貨車ブレーキ28は、移動機ブレーキ22と同様な機械的ブレーキを用いることができるが、上記の種々の機械的ブレーキの中では、空気ブレーキであるのが好ましい。
【0028】
次に、本発明に係るコークス消火電車の減速停止制御装置24は、上述のような消火電車10を、所定の出発位置から所定の目標停止位置まで予め設定された所定の速度パターンで自動走行させ、最終的に目標停止位置に正確に停止させるためのもので、インバータ(INV)によって電動機20を制御して移動機14の自動走行速度を所定の速度パターンの目標速度に制御するインバータ(INV)によって電動機20を制御する速度制御器30と、移動機14の従動輪18bの回転を計測して移動機14(消火電車10)の実速度を検出する速度検出器32と、消火電車10の減速時において、目標速度と速度検出器32で検出された実速度との速度偏差を演算する速度偏差演算器34と、速度偏差演算器34で演算された速度偏差と予め設定された設定値とを比較する比較器36と、比較器36による比較の結果に応じて、移動機ブレーキ22、又は移動機ブレーキ22及び貨車ブレーキ28を動作させ、又は、開放するブレーキ制御器38と、消火電車10の所定の速度パターン及びその目標速度、速度偏差と比較される設定値(大きさ、時間)、並びにコークス工場内の所定の経路に沿った消火電車10の自動走行毎に、速度偏差が設定値を超えた超過地点及び速度偏差が設定値を超えていた超過エリアを記憶するメモリ(レジスタ)40と、比較器36による比較の結果から、速度偏差が設定値を超えた時点及びその継続時間のデータから超過地点、及び超過エリアを特定し、メモリ40に出力するエリア特定部50と、メモリ40に記憶された超過地点、及び超過エリアが同じである消火電車10の自動走行の回数に応じてメモリ40に予め設定された速度パターンを調整する速度パターン調整器52と、を有する。
【0029】
速度制御器30は、消火電車10をメモリ40から読み出された(レジスタから与えられた)所定の速度パターン、例えば図6(b)及び(c)に示す最高速度を考慮した最短時間の速度パターン、又はこの速度パターンから後述する速度パターン調整器52で修正された場合には修正速度パターン(減速レート)に応じた目標速度で自動走行させるために、即ち、移動機14の自動走行速度が所定の速度パターン、又は速度パターン調整器52による修正速度パターンの目標速度となるように、インバータ(INV)による速度制御(インバータ制御)によって電動機20を駆動制御するものである。なお、速度制御器30は、消火電車10を、インバータ制御による自動運転の所定の速度パターンで自動走行できれば、どのようなものであっても良い。また、速度制御器30によって行われる、インバータ制御による速度パターンは、特に制限的ではなく、例えば、図6(a)、(b)及び(c)に示す速度パターンのいずれであっても良いが、図6(b)及び(c)に示す速度パターンの方が好ましい。なお、速度パターン調整器52で修正された速度パターン(減速レート)は、これらの図6(a)、(b)及び(c)に示す速度パターンのいずれかを修正、その減速レートを修正したものである。
【0030】
速度検出器32は、移動機14、従って消火電車10の実速度を検出して、検出した実速度を後段の速度偏差演算器34に出力するためのもので、移動機14の従動輪18bの回転に応じてパルスを出力する、例えば1回転で1つのパルスを出力するパルス発生器(PLG)42と、パルス発生器32から出力されるパルスをカウント(計数)するカウンタ44と、所定時間内におけるカウンタ44のカウント(計数)値と従動輪18bの円周長とを乗算して移動機14、従って消火電車10の実速度を演算する速度演算器46とを有する。
図示例では、移動機14の従動輪18bの回転に応じてパルス発生器42で発生させたパルスをカウンタ44で計数して移動機14の実速度を演算しているが、本発明はこれに限定されず、移動機14の実速度を検出できれば、いかなるものであっても良い。
【0031】
速度偏差演算器34は、消火電車10の減速時において、例えば図6(b)に示す速度パターンにおいて、出発位置から出発して加速後、最高速度に達して、所定時間走行後、目標停止位置の手前に設けられる減速開始点から目標停止位置まで減速させている間において、メモリ40から読み出され(レジスタから与えられ)、速度パターンから予め設定される目標速度、例えば、図2(a)に一点鎖線で示す目標速度、又は速度パターン調整器52による修正速度パターンの減速レートから設定される目標速度と、速度検出器32で検出された消火電車10の実速度との速度偏差を演算して、速度偏差を後段の比較器36に出力する。
【0032】
比較器36は、速度偏差演算器34で演算された速度偏差と、メモリ40から読み出される(レジスタから与えられる)、予め設定された速度偏差の設定値とを比較し、比較結果を後段のブレーキ制御器38及びエリア特定部50に出力するためのものである。
ここで、予め設定された速度偏差の設定値は、図2(a)及び(b)に示すように、速度偏差の大きさ閾値L、及び設定時間(時間閾値)Tからなる。比較器36は、図2(b)に実線で示すように、速度偏差の大きさが閾値Lを超えた状態が継続している時間が設定時間Tを超えた時点で、即ち速度偏差が閾値L及び設定時間Tを超えた時点で、その結果を後段のブレーキ制御器38及びエリア特定部50に出力する。なお、比較器36は、速度偏差が閾値L及び設定時間Tを超えた状態が継続している間は、その結果を後段のブレーキ制御器38及びエリア特定部50に出力し続けるのが好ましい。
【0033】
ブレーキ制御器38は、本発明の最も特徴とする部分の1つであって、比較器36の比較結果を受け取り、比較結果に応じた移動機ブレーキ22の動作又は開放、若しくは移動機ブレーキ22及び貨車ブレーキ28を動作の動作又は開放等の操作を行うものである。なお、ブレーキ制御器38による具体的なブレーキ操作については後述する。
【0034】
メモリ40は、制御装置24の制御に必要なデータを記憶し、格納するためのもので、速度制御器30及び速度偏差演算器34で用いられる消火電車10の所定の速度パターンのデータ、例えば、図6(b)及び図6(c)に示すような速度パターンの出発位置から出発してからの経過時間に対する目標速度のデータや、比較器36で速度偏差と比較される設定値の大きさ閾値Lのデータや、設定時間Tのデータ等を格納する。なお、メモリ40は、ROM、RAM、HD(ハードディスク)、レジスタ等の公知の記憶デバイスによって構成されるものであって良い。
【0035】
また、メモリ40は、直前の3回の消火電車10の自動走行において、自動走行の度毎に、速度偏差が設定値を超えた場合には、エリア特定部50で特定された超過地点及び超過エリアをエリア特定部50から受け取り、前回から3回前の自動走行まで分の超過地点及び超過エリアを記憶する。即ち、メモリ40は、前回から3回前のコークスの窯出し時において、各窯への自動走行時に、スリップ等の要因により、予め設定された速度パターンの減速レートを超えた超過地点及び超過エリアを記憶する。
もちろん、ある回の消火電車10の自動走行において、速度偏差が設定値を超えなかった場合には、エリア特定部50で超過地点及び超過エリアは特定されないので、メモリ40には、超過地点及び超過エリアは記憶されない。この場合に、メモリ40に速度偏差が設定値を超えなかったことを記憶させるようにしても良い。
【0036】
エリア特定部50は、比較器36から速度偏差が設定値、例えば閾値L及び設定時間Tを超えた時点でその結果を受け取り、その時点における消火電車10の位置、即ちコークス工場内の消火電車10の所定の走行経路における地点を超過地点として特定し、速度偏差が設定値を超えた状態が継続維持されている継続時間、即ち、速度偏差が設定値を超えた時点から速度偏差が設定値内に戻った時点までの間の超過時間から、速度偏差が設定値を超えていたエリア、即ち速度偏差が設定値を超えた時点の位置である超過地点から速度偏差が設定値内に戻った時点の位置である回復地点までのエリアを超過エリアとして特定するためのものである。
エリア特定部50における超過地点及び超過エリアの特定は、上述した速度検出器32において実速度の算出の際に用いたカウンタ44のカウント(計数)値と従動輪18bの円周長とを乗算し、自動走行開始時点又は減速開始時点の地点が既知である場合には減速開始時点から速度偏差が設定値を超えた時点までの消火電車10の自動走行の実距離を算出し、この実距離から超過地点を算出し、速度偏差が設定値を超えた時点から速度偏差が設定値内に戻った時点までの消火電車10の自動走行の実距離を算出し、この実距離から超過エリアを算出するによって行うことができる。
【0037】
なお、エリア特定部50によって特定される超過地点及び超過エリアを、自動走行している消火電車10の速度パターン(予め設定された速度パターンや修正速度パターンや実際に自動走行している速度パターン)を用いて、自動走行開始時点又は減速開始時点減速開始時点から速度偏差が設定値を超えた時点までの時間積分、及び速度偏差が設定値を超えた時点から速度偏差が設定値内に戻った時点までの時間積分等によって超過エリアを算出しても良いし、コークス工場内の消火電車10の所定の走行経路内に多数配置された標識(図示せず)を消火電車10内に取り付けられた位置センサによって検出することによって算出するようにしても良い。
この他、エリア特定部50において特定される超過地点及び超過エリアを求める方法は特に限定されるものではなく、公知の位置検出方法等を用いることができる。
【0038】
速度パターン調整器52は、前回から3回前までの消火電車10の自動走行に関して、メモリ40に記憶された超過地点、及び超過エリアが同じである消火電車10の自動走行の回数に応じて、今回の消火電車10の自動走行時の速度パターン(減速レート)を、メモリ40に記憶された予め設定された速度パターン(減速レート)に対して調整するものである。
なお、速度パターン調整器52による消火電車10の自動走行時の速度パターンの調整及び速度制御器30による消火電車10の自動走行速度制御については、後述する。
【0039】
ブレーキ制御器38による移動機ブレーキ22及び貨車ブレーキ28の具体的な操作について説明する。
ブレーキ制御器38は、比較器36による比較の結果、速度偏差が設定値(大きさの閾値L及び設定時間T)を超えた場合、即ち図2(b)に実線で示すように、速度偏差の大きさが閾値Lを超えた状態で設定時間Tだけ経過した時点のブレーキ動作ポイントにおいて、移動機ブレーキ22を動作させて駆動輪18aの回転を制動し、強制的に移動機14(消火電車10)をインバータ制御では達成できない減速レートで減速する。
【0040】
従来は、所定の速度パターンに対して追従するようにインバータによる速度制御を行っているが、減速時に駆動輪等がスリップするなどして、図2(a)及び(b)に点線で示すように、目標速度を超えて速度偏差が大きくなった場合、この速度偏差を取り戻そうとするため、インバータの最大減速レートを超えてしまい、制御ができず、速度偏差を小さくする方法が従来無く、速度は徐々に低下するものの、速度偏差は小さくならず、速度偏差を閾値L以下にすることができないのは上述した通りである。
これに対し、本発明においては、図2(a)に示すように、消火電車10の実速度が目標速度を超えて速度偏差が大きくなった場合、消火電車10の移動機ブレーキ22、例えば電磁ブレーキを所定時間(Tb秒間)動作させ急減速を行う。こうして、消火電車10の減速を強制的に行うことができる。移動機ブレーキ22等の機械的ブレーキを動作させると、駆動輪18aがロックされレール12上をスリップしながら減速を行うことになるが、図2(a)に示すように、移動機ブレーキ22の制動力はインバータによる減速レートよりも大きいため、図2(b)に示すように、速度偏差を従来よりも小さくすることができ、所定の閾値L以下にすることが可能となる。
【0041】
なお、本発明において、速度偏差の大きさが閾値Lを超えた時点をブレーキ動作ポイントにしないのは、速度偏差がノイズ等により一時的に閾値Lを超えた場合などのように、速度偏差が閾値Lを超えたことが確実でない場合に、移動機ブレーキ22を誤動作させることを防止するためである。
ここで、速度偏差の設定値は、即ち速度偏差の大きさ閾値L及び設定時間Tは、停止誤差精度等を考慮して適宜設定すれば良い。
なお、閾値Lは、停止誤差精度等を考慮して複数回の実績値、例えば直近3回の実績値の平均値とするのが好ましい。
設定時間Tは、誤差を抑えるためには短い方が良いが、誤動作及びチャタリングを考慮して設定するのが好ましい。
【0042】
この後、移動機ブレーキ22の動作による移動機14の減速によって、比較器36による比較の結果、図2(b)に示すように、速度偏差の大きさが閾値L以下の状態に戻った時点のブレーキ開放ポイントにおいて、ブレーキ制御器38は、移動機ブレーキ22を開放し、駆動輪18aの回転の制動を開放する。
その結果、移動機14及び消火電車10は、移動機ブレーキ22による強制的な減速から、速度制御器30のインバータ制御による自動走行速度制御に戻る。
その後、消火電車10が、速度制御器30のインバータ制御による減速で、目標停止位置に近づいて所定の低速度、例えば図6(c)に示すような所定低速度まで減速された時点で、ブレーキ制御器38が、移動機ブレーキ22、好ましくは更に、貨車ブレーキ28を動作させることにより、消火電車10を目標停止位置に正確に停止させることができる。
【0043】
一方、ブレーキ制御器は、比較器36による比較の結果、移動機ブレーキ22を動作させた状態で所定時間経過しても、速度偏差が閾値L以下に戻らない場合には、移動機ブレーキ22に加え、さらに、貨車ブレーキ28を動作させて併用し、消火電車10を強制的に減速する。
このように、ブレーキ制御器38による移動機ブレーキ22及び貨車ブレーキ28の併用動作によって、消火電車10が、移動機ブレーキ22の動作による減速レートより大きい減速レートで強制的に減速された結果、速度偏差が閾値L以下に戻った時点で、ブレーキ制御器38は、移動機ブレーキ22及び貨車ブレーキ28を開放する。ここで、ブレーキ制御器38は、移動機ブレーキ22及び貨車ブレーキ28を同時に開放しても良いが、貨車ブレーキ28を先に開放し、移動機ブレーキ22を後に開放するのが好ましい。
その結果、消火電車10(移動機14及び貨車16)は、移動機ブレーキ22及び貨車ブレーキ28による強制的な減速から、速度制御器30のインバータ制御による自動走行速度制御に戻る。
【0044】
しかしながら、貨車ブレーキ28は、もともと停止時の流れ防止のために使用しているので、走行中に動作させると、車輪、即ち従動輪26が瞬時にロックしてしまう。
このため、貨車ブレーキ28は、所定の一定時間動作と所定の一定時間開放との操作を交互に、速度偏差が所定偏差以内、即ち閾値L以下になるまで、繰り返すのが好ましい。
その結果、消火電車10は、上述のように、速度偏差が閾値L以下に戻った時点で、ブレーキ制御器38によって移動機ブレーキ22及び貨車ブレーキ28が開放され、速度制御器30のインバータ制御による自動走行速度制御に戻る。
その後、消火電車10が、速度制御器30のインバータ制御による減速で、目標停止位置に近づいて所定の低速度まで減速された時点で、ブレーキ制御器38が、移動機ブレーキ22、好ましくは更に、貨車ブレーキ28を動作させることにより、消火電車10を目標停止位置に正確に停止させることができる。
【0045】
次に、本発明の消火電車の減速停止制御における速度パターン調整器52による消火電車10の自動走行時の速度パターン(減速レート)の調整及び速度制御器30による消火電車10の自動走行速度制御についてより詳細に説明する。
本発明においては、速度パターン調整器52は、メモリ40に記憶された超過地点及び超過エリアが3回とも同じであった場合、即ち、3回とも同一超過地点及び超過エリアで速度偏差が設定値を超え、予め設定された速度パターン(以下、通常の速度パターンともいう)の減速レート(以下、通常の減速レートともいう)を超えた場合には、超過地点の手前の所定距離にある地点(xm)から、今回の自動走行時の速度パターンの減速レートを、通常の減速レートの半分の減速レートに変更するように速度パターンを調整するのが好ましい。
【0046】
なお、この場合、消火電車10の今回の自動走行時には、速度制御器30は、超過地点の手前の所定距離(xm)の地点から、速度パターン調整器52によって変更された、通常の減速レートの半分の新しい減速レートで、減速を開始させ、消火電車10を自動走行させるので、目標停止位置からの消火電車10のオーバーランを防止し、消火電車10を目標停止位置で正確に停止させることができる。
ここで、消火電車10の今回の自動走行において、減速レートを変更する地点を決める超過地点の手前の所定距離(xm)は、標停止位置からの消火電車10のオーバーランを防止できるように、変更された新しい減速レート(通常の半分)に応じて適宜設定すればよい。
【0047】
また、速度パターン調整器52は、メモリ40に記憶された超過地点及び超過エリアが同一である場合が2回以下であった場合には、当該超過地点から超過エリア内で、今回の自動走行時の速度パターンの減速レートを、通常の減速レートの2/3の減速レートに変更するように速度パターンを調整するのが好ましい。
この場合には、速度制御器30は、速度パターン調整器52によって変更された、通常の減速レートの2/3の新しい減速レートで消火電車10を自動走行させる。
その後の消火電車10の自動走行において、比較器36による比較の結果、速度偏差が設定値を超えた場合には、ブレーキ制御器38によって消火電車10の移動機ブレーキ22を所定時間動作させて強制的に消火電車10を減速する。
【0048】
一方、その後の消火電車10の自動走行において、比較器36による比較の結果、速度偏差が設定値を超えずに、消火電車10を目標停止位置で停止させることができた場合には、次回の自動走行時には、メモリ40に記憶された、予め設定された通常の速度パターンを適用し、消火電車10を通常の速度パターンで自動走行させるのが好ましい。
なお、同一の超過地点及び超過エリアの場合が2回以下とは、1回の超過地点及び超過エリアがメモリ40に記憶されている場合を含むものとする。ここで、メモリ40に記憶された超過地点及び超過エリアが無かった場合には、メモリ40に記憶された、予め設定された通常の速度パターンを適用し、消火電車10を通常の速度パターンで自動走行させれば良い。
【0049】
以上の消火電車の減速停止制御を実施することにより、コークス工場内において、消火電車を目標停止位置の手前に設けた減速開始点から減速させ、目標停止位置で停止させる際に、消火電車の駆動輪や従動輪等の車輪がスリップする要因である天候の変化、油等によるレールと車輪の摩擦係数の低下、レールの勾配等の複数の要因に対して適切に対応することができる。
【0050】
こうして、従来、消火電車10の駆動輪18aがスリップした場合等に発生する目標速度と実速度との間の速度偏差が大きくなり、消火電車10の自動運転遮断が発生していたが、即ち自動運転がダウンするため、その復旧作業のためにダウンタイム(D/T)が発生していたが、本発明では、速度偏差が大きくなり、設定値、即ち所定設定時間Tに亘り速度偏差の閾値Lを超えた場合には、ブレーキ制御器38が、移動機ブレーキ22、好ましくは更に、貨車ブレーキ28を動作させて減速し、速度偏差を閾値L以下に戻すのみならず、直近の3回の窯出しのための消火電車10の自動走行において、速度偏差が設定値を超えた超過地点及び超過エリアが同じである回数に応じて、消火電車10の自動走行の速度パターンを調整するので、消火電車10の自動運転遮断(ダウン)の発生を削減(防止又は低減)することができ、復旧作業のためにダウンタイム(D/T)の発生も防止することができ、自動運転遮断削減によるコークス生産量の増加を図ることができる。
【0051】
例えば、コークス工場のコークス炉の押出し窯数が1日当たり90本であり、押出し窯における消火電車の停止回数が窯数1本当たり3回であり、従来の消火電車の自動運転遮断の発生率が1%の確率であるとすると、消火電車の減速時の速度超過による自動運転遮断の発生回数は、1日当たり2.7回となる。
押出し窯数 90本/日×停止回数 3回/本×発生率 1%=2.7回/日
即ち、本発明においては、速度偏差を一定以下に制御でき、消火電車の自動運転遮断を低減して防止できるので、速度超過による自動運転遮断の発生回数を、2.7回/日から0回/日に削減できる。
【0052】
したがって、速度超過による自動運転遮断が1回当たり5分、コークス生産量が1時間(h)当たり75tであるとすると、速度超過による自動運転遮断の発生回数は1日当たり2.7回であるので、自動運転遮断削減によるコークス生産量の増加は、1年間当たり6159tとなる。
速度超過による自動運転遮断回数 2.7回/日×速度超過による自動運転遮断時間 5分/回× 365日× コークス生産量 75t/h=6159t/年
即ち、本発明を適用することにより、1年間当たりに、コークス生産量を6159t増加させることができるという効果を奏することができる。
本発明に係るコークス消火電車及びその減速停止制御装置は、基本的に以上のように構成される。
【0053】
以下に、本発明に係るコークス消火電車の減速停止制御装置の作用、及び、本発明に係るコークス消火電車の減速停止制御方法について説明する。
図3は、本発明に係るコークス消火電車の減速停止制御方法の一例を示すフローチャートである。図4は、図3に示すコークス消火電車の減速停止制御方法に適用されるコークス消火電車の自動走行制御方法の一例を示すフローチャートである。図5は、図4に示すコークス消火電車の自動走行制御方法の速度偏差監視に基づく減速制御ステップの一例の詳細を示すフローチャートである。
図3に示す本発明のコークス消火電車の減速停止制御方法の理解を容易にするために、図3の説明に先立って、図4及び図5に示すコークス消火電車の自動走行制御方法及びその度偏差監視に基づく減速制御ステップの詳細について説明する。
以下では、コークス消火電車の減速停止制御方法及び自動走行制御方法は、図1に示す消火電車10及びその制御装置24によって、予め設定された速度パターンとして設定された図6(b)に示す速度パターンに基づいて実施されるものとして説明するが、本発明はこれに限定されるものでない。
【0054】
図4に示すように、コークス消火電車の自動走行制御方法では、まず、ステップS10において、図6(b)に示すように、出発位置から消火電車10は自動走行を開始する。
次に、ステップS12において、図6(b)に示す速度パターンに基づいて、消火電車10は、その最大加速レートで加速しながら自動走行(加速走行)する。
次いで、ステップS12において、図6(b)に示す速度パターンに基づいて、消火電車10は、その最高速度で一定速度で自動走行(定速走行)する。
以上のステップS12の加速走行及びステップS14の低速走行においても、制御装置24の速度検出器32による速度検出及び検出された実速度に基づく速度制御器30のインバータ制御による消火電車10の自動走行制御が行われるが、状来公知の制御方法を適用することができるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0055】
次に、ステップS16において、図6(b)に示すように、消火電車10は、目標停止位置の手前に設けられた減速開始点に達すると、減速開始点からの自動減速走行が開始される。
こうして、ステップS18において、消火電車10では、速度制御器30のインバータ(INV)制御による自動減速走行制御が行われる。
インバータ(INV)制御による自動減速走行制御が行われている間、ステップS20において、速度検出器32によって消火電車10の実速度が検出される。
【0056】
次に、ステップS22において、実速度が目標停止位置で正確に停止可能な所定の低速度と比較され、低速度以下であれば、ステップS24に移行し、ブレーキ制御器38が、移動機ブレーキ22、又は、移動機ブレーキ22及び貨車ブレーキ28を動作させて、消火電車10を目標停止位置に正確に停止させる。
一方、ステップS22における比較の結果、実速度が所定の低速度超であれば、ステップ28において、本発明の特徴とする実速度と速度パターンの目標速度との速度偏差に基づく減速制御を行い、ステップS18のインバータ(INV)制御による自動減速走行制御に戻る。
本発明に適用されるコークス消火電車の自動走行制御方法は、基本的に、以上のように構成される。
【0057】
図5に示すフローチャートは、図4に示すコークス消火電車の自動走行制御方法のステップ28の速度偏差に基づく減速制御ステップを詳細に示すものである。図5に示すフローチャートは、明確な説明のために、図4に示すステップS18〜S26も記載しているが、ここでは、その詳細な説明は省略する。
図5に示すように、まず、ステップS30において、速度偏差演算器34で消火電車10の実速度とメモリ40に記憶されている図6(b)に示す速度パターンの目標速度(図2(a)参照)との速度偏差を演算する。
【0058】
次に、ステップS32において、比較器36で、速度偏差をメモリ40に記憶されている設定値(速度偏差の大きさの閾値L、及びその継続時間の設定時間T)と比較し、速度偏差が設定値以下(速度偏差の大きさが閾値Lを超えている状態の継続時間が設定時間T以下)の場合には、ステップS18のインバータ(INV)制御による自動減速走行制御に戻る。
一方、ステップS32の比較器36における比較の結果、速度偏差が設定値を超えた場合、即ち、速度偏差の大きさが閾値Lを超えている状態の継続時間が設定時間Tを超えた時点で、ステップS34に移行すると共に、ステップS50にも移行する。
ステップS34では、ブレーキ制御器38が移動機ブレーキ22を動作させて、消火電車10(移動機14)を強制的に減速する。
【0059】
次に、ステップS36において、移動機ブレーキ22の動作によって減速中の消火電車10の実速度を、ステップS22と全く同様にして検出し、検出した実速度と目標速度との速度偏差を、ステップS30と全く同様にして演算する。
この後、ステップS38において、ステップS32と全く同様にして、ステップS36で演算された速度偏差と設定値(閾値L,設定時間T)とを比較する。
ステップS38の比較の結果、速度偏差が設定値以下(速度偏差の大きさが閾値L超である状態の継続時間が設定時間T以下)に戻った時点で、ステップS40に移行し、ブレーキ制御器38が移動機ブレーキ22を開放して、ステップS18のインバータ(INV)制御による自動減速走行制御に戻る。
【0060】
一方、ステップS38の比較の結果、速度偏差が設定値を超えた場合、即ち、速度偏差の大きさの閾値L超の状態の継続時間が設定時間Tを超えた時点で、ステップS42に移行し、ブレーキ制御器38が、移動機ブレーキ22に加えて、さらに貨車ブレーキ28を動作させて、消火電車10(移動機14及び貨車16)を強制的に減速する。
なお、貨車ブレーキ28は、元来停止時の流れ防止のために使用しているので、走行中に動作させると、車輪、即ち従動輪26が瞬時にロックしてしまい、必要な減速レートが得られない場合がある。このため、ステップS42において、貨車ブレーキ28の動作を連続して継続させる代わりに、速度偏差が設定値以下(所定偏差以内)になるまで、所定の一定時間動作と所定の一定時間開放との操作を交互に繰り返しても良い。
【0061】
次に、ステップS44において、ステップS36と全く同様にして、移動機ブレーキ22及び貨車ブレーキ28の併用動作によって減速中の消火電車10の実速度を検出し、検出した実速度と目標速度との速度偏差を演算する。
この後、ステップS46において、ステップS38と全く同様にして、ステップS44で演算された速度偏差と設定値(閾値L,設定時間T)とを比較する。
ステップS46の比較の結果、速度偏差が設定値以下(速度偏差の大きさが閾値L超の状態の継続時間が設定時間T以下)に戻った時点で、ステップS48に移行すると共に、ステップS50にも移行する。
ステップS48では、ブレーキ制御器38が、移動機ブレーキ22及び貨車ブレーキ28を開放して、ステップS18のインバータ(INV)制御による自動減速走行制御に戻る。
【0062】
一方、ステップS46の比較器36における比較の結果、速度偏差が設定値(速度偏差の大きさの閾値L超の状態の継続時間が設定時間T)を超えている場合には、ステップS42に移行し、ブレーキ制御器38が移動機ブレーキ22及び貨車ブレーキ28の併用動作を維持する状態を継続させるか、若しくは、移動機ブレーキ22の動作の下、貨車ブレーキ28の所定の一定時間動作と所定の一定時間開放との操作を交互に繰り返す。なお、移動機ブレーキ22及び貨車ブレーキ28の併用動作を維持する場合には、直接、ステップS44に移行するのが良い。
このような、ステップS42のブレーキ制御器38が移動機ブレーキ22及び貨車ブレーキ28の併用動作の維持や、移動機ブレーキ22の動作の下での、貨車ブレーキ28の所定の一定時間動作と所定の一定時間開放との操作の交互も繰り返しと、ステップ44の実速度の検出及び速度偏差の演算と、ステップS46の速度偏差と設定値との比較は、速度偏差が設定値(閾値L)以下になり、ステップ48の移動機ブレーキ22及び貨車ブレーキ28が開放されるまで繰り返される。
【0063】
ステップS50においては、エリア特定部50が、ステップS32の比較器36における比較の結果、速度偏差が設定値を超えた時点の時間データを用いて、速度偏差が設定値を超えた時点のコークス工場内の走行経路の位置を超過地点として特定する。
また、ステップS50においては、エリア特定部50が、上記の速度偏差が設定値を超えた時点の時間データと、ステップS46の比較器36における比較の結果、速度偏差が設定値以下になった時点の時間データとを用いて、速度偏差が設定値を超えていた間のコークス工場内の走行経路のエリアを超過エリアとして特定する。
次に、ステップS52においては、ステップS50で特定された超過地点と超過エリアをメモリ40に記憶する。その後、ステップ48のブレーキ開放に伴ってステップS18に戻る。
【0064】
本発明のコークス消火電車の減速停止制御方法に適用されるコークス消火電車の自動走行制御方法及びその速度偏差に基づく減速制御ステップは、基本的に以上のように行われる。
これにより、消火電車の速度がインバータ制御による速度パターンの目標速度を超えて速度偏差が大きくなった場合でも、インバータ制御による減速レートより大きな減速レートで速度制御を行うことができ、速度偏差を一定以下とすることができる。
このように、本発明の減速停止制御方法に適用されるコークス消火電車の自動走行制御方法を実施することにより、速度偏差を一定以下に制御可能なことが分かる。
【0065】
次に、図3に示す本発明のコークス消火電車の減速停止制御方法について説明する。
今回の窯出しのための消火電車の自動走行運転の開始に先立って、既に、前回から3回以上前に亘る窯出しのための消火電車の自動走行運転が行われていたものとする。即ち、図4に示すコークス消火電車の自動走行制御方法及び図5に示す速度偏差に基づく減速制御ステップが、直近で少なくとも3回実施されている状態にある。
まず、ステップS100において、速度パターン調整部52が、メモリ40から、前回から3回前までの直近の3回の消火電車の自動走行運転における超過地点及び超過エリアを読み出す。
次に、ステップS102において、速度パターン調整部52が、読み出された超過地点及び超過エリアが同一である消火電車の自動走行運転の回数が3回以上であるかどうか、即ち、直近の消火電車の自動走行運転の3回とも同一の超過地点及び超過エリアであるか否かを判定する。
【0066】
ステップS102の判定の結果、3回とも同一の超過地点及び超過エリアであった場合には、ステップS104に移行し、速度パターン調整部52が、今回の消火電車の自動走行運転の速度パターンの減速レートを、超過地点の手前の所定距離にある地点(xm)から、メモリ40に格納されている通常の速度パターンの通常の減速レートの半分の減速レートに変更する。
次に、ステップS106において、制御装置24は、図4に示す消火電車の自動走行制御方法に基づく自動走行運転を行う。この場合、消火電車10の今回の自動走行時には、速度制御器30は、超過地点の手前の所定距離(xm)の地点から、ステップS104で変更された、通常の減速レートの半分の新しい減速レートで、減速を開始させ、消火電車10を自動走行させ、消火電車10をオーバーランさせることなく、目標停止位置に停止させる。
【0067】
一方、ステップS102の判定の結果、超過地点及び超過エリアが同一である消火電車の自動走行運転の回数が3回未満、即ち2回以下であった場合には、ステップS108に移行し、メモリ40から読み出された超過地点及び超過エリアの有無を判定する。
ステップS108の判定の結果、メモリ40から読み出された超過地点及び超過エリアが無かった場合には、今回の消火電車の自動走行運転の速度パターンの減速レートを変更することなく、ステップS106に移行し、メモリ40に格納されている通常の速度パターンのままとして、図4及び図5に示す消火電車の自動走行制御方法に基づいて消火電車の自動走行運転を行い、最終的に、消火電車10を目標停止位置に停止させる。
ステップS108の判定の結果、ステップ108の判定の結果、同一の超過地点及び超過エリアが2回、又は超過地点及び超過エリアが1回分読み出された場合には、ステップS110に移行し、速度パターン調整器52は、メモリ40に記憶された超過地点及び超過エリアが2回以下、即ち1回又は2回であった場合には、当該超過地点から当該超過エリア内で、今回の自動走行時の速度パターンの減速レートを、通常の減速レートの2/3の減速レートに変更する。
【0068】
次に、ステップS112において、制御装置24は、図4に示す消火電車の自動走行制御方法に基づく自動走行運転を行う。この場合、消火電車10の今回の自動走行時には、速度制御器30は、当該超過地点から当該超過エリア内において、ステップS110で変更された、通常の減速レートの2/3の新しい減速レートで、減速を開始させ、図4及び図5に示す消火電車の自動走行制御方法に基づいて消火電車10を自動走行させ、最終的に、消火電車10を目標停止位置に停止させる。
この消火電車10の自動走行において、例えば、図5のステップS32における比較器36による比較の結果、速度偏差が設定値を超えた場合には、図5のステップS34においてブレーキ制御器38によって消火電車10の移動機ブレーキ22を所定時間動作させて強制的に消火電車10を減速し、最終的に、消火電車10を目標停止位置に停止させて自動走行運転が終了する。
【0069】
次に、ステップS114において、速度偏差が設定値を超えた場合の有無を判定し、例えば、図5のステップS32における比較器36による比較の結果、速度偏差が設定値を超えたことが有った場合にはそのまま終了し、速度偏差が設定値を超えたことが無かった場合、即ち速度偏差が設定値を超えずに、消火電車10を目標停止位置で停止させることができた場合には、次回の自動走行運転時には、今回の自動走行運転時の通常の減速レートの2/3の減速レートを、メモリ40に記憶された通常の速度パターンの通常の減速レートに戻して設定しておく。
こうして、本発明のコークス消火電車の減速停止制御方法を終了する。
【0070】
以上の消火電車の減速停止制御方法を実施することにより、コークス工場内において、消火電車を目標停止位置の手前に設けた減速開始点から減速させ、目標停止位置で停止させる際に、消火電車の駆動輪や従動輪等の車輪がスリップする要因である天候の変化、油等によるレールと車輪の摩擦係数の低下、レールの勾配等の複数の要因に対して適切に対応することができる。
【0071】
以上、本発明に係るコークス消火電車の減速停止制御方法及び装置について種々の実施形態及び実施例を挙げて詳細に説明したが、本発明は以上の実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0072】
10 コークス消火電車(消火電車)
12 レール(軌条)
14 移動機
16 貨車
18a 駆動輪(車輪)
18b,26 従動輪(車輪)
20 電動機(モータ)
22 移動機ブレーキ
24 コークス消火電車の減速停止制御装置(制御装置)
28 貨車ブレーキ
30 速度制御器
32 速度検出器
34 速度偏差演算器
36 比較器
38 ブレーキ制御器
40 メモリ
42 パルス発生器(PLG)
44 カウンタ
46 速度演算器
50 エリア特定部
52 速度パターン調整器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス消火電車を駆動する電動機をインバータによって制御して前記消火電車の自動走行速度制御を行い、前記消火電車を、コークス工場内の所定の経路に沿って予め設定された速度パターンで自動走行させることにより、目標停止位置の手前に設けた減速開始点から減速させ、前記目標停止位置で停止させるコークス消火電車の減速停止制御方法であって、
前記消火電車の減速時において、予め設定された目標速度と実速度との速度偏差を監視し、
該速度偏差が設定値を超えた場合には、前記消火電車の機械的ブレーキを所定時間動作させて強制的に前記消火電車を減速し、
前記速度偏差が前記設定値以下に戻った場合には、前記消火電車の機械的ブレーキを開放し、前記インバータによる前記消火電車の自動走行速度制御に戻して、前記消火電車を前記予め設定された速度パターンで自動走行させる際に、
前回から3回前までの各自動走行時に、前記速度偏差が前記設定値を超えた超過地点、及び前記速度偏差が前記設定値を超えていた超過エリアをメモリに記憶しておき、
前記メモリに記憶された前記超過地点及び前記超過エリアが同じである回数に応じて、今回の自動走行時の速度パターンを前記予め設定された速度パターンに対して調整することを特徴とするコークス消火電車の減速停止制御方法。
【請求項2】
前記メモリに記憶された前記超過地点及び前記超過エリアが3回とも同じであった場合には、前記超過地点の手前の所定距離にある地点から、今回の自動走行時の速度パターンの減速レートを、前記予め設定された速度パターンの減速レートの半分の減速レートに変更して自動走行させ、前記目標停止位置で停止させることを特徴とする請求項1に記載のコークス消火電車の減速停止制御方法。
【請求項3】
前記メモリに記憶された前記超過地点及び前記超過エリアが1回または2回であった場合には、前記超過地点から前記超過エリア内で、今回の自動走行時の速度パターンの減速レートを、前記予め設定された速度パターンの減速レートの2/3の減速レートに変更して自動走行させ、
その後、前記速度偏差が設定値を超えた場合には、前記消火電車の機械的ブレーキを所定時間動作させて強制的に前記消火電車を減速することを特徴とする請求項1に記載のコークス消火電車の減速停止制御方法。
【請求項4】
前記メモリに記憶された前記超過地点及び前記超過エリアが1回または2回であった場合には、前記超過地点から前記超過エリア内で、今回の自動走行時の速度パターンの減速レートを、前記予め設定された速度パターンの減速レートの2/3の減速レートに変更して自動走行させ、
その後、前記速度偏差が設定値を超えずに、前記消火電車を前記目標停止位置で停止させた場合には、次回の自動走行時には、前記予め設定された速度パターンで前記消火電車を自動走行させることを特徴とする請求項1に記載のコークス消火電車の減速停止制御方法。
【請求項5】
前記設定値は、前記速度偏差の大きさ、及び時間の設定値であり、
前記速度偏差の大きさが前記大きさの設定値を超えた状態が前記時間の設定値を超えて継続された場合に、前記消火電車の機械的ブレーキを動作させて強制的に前記消火電車を減速することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のコークス消火電車の減速停止制御方法。
【請求項6】
前記速度偏差の大きさの設定値は、複数の実績値の平均値であり、
前記速度偏差の時間の設定値は、誤動作が生じない時間に設定されることを特徴とする請求項5に記載のコークス消火電車の減速停止制御方法。
【請求項7】
移動機と、該移動機を駆動する電動機と、前記移動機に取り付けられる機械的ブレーキである移動機ブレーキと、を備えるコークス消火電車を、コークス工場内の所定の経路に沿って予め設定された速度パターンで自動走行させることにより、目標停止位置の手前に設けた減速開始点から減速させ、前記目標停止位置で停止させるコークス消火電車の減速停止制御装置であって、
前記電動機をインバータによって制御して前記消火電車の自動走行速度制御を行い、前記予め設定された速度パターンで自動走行させる速度制御手段と、
前記消火電車の実速度を検出する速度検出手段と、
前記消火電車の減速時において、予め設定された目標速度と前記速度検出手段で検出された実速度との速度偏差を演算する速度偏差演算手段と、
該速度偏差演算手段で演算された前記速度偏差と予め設定された設定値とを比較する比較手段と、
該比較手段による比較の結果、前記速度偏差が前記設定値を超えた場合に、前記移動機ブレーキを動作させて強制的に前記消火電車を減速し、前記比較手段による比較の結果、前記移動機ブレーキの動作状態において前記速度偏差が前記設定値以下に戻れば、前記移動機ブレーキを開放し、前記速度制御手段の前記インバータによる前記消火電車の自動走行速度制御に戻して、前記消火電車を前記予め設定された速度パターンで自動走行させるブレーキ制御手段と、
前回から3回前までの各自動走行時に、前記比較手段による比較の結果、前記速度偏差が前記設定値を超えた超過地点、及び前記速度偏差が前記設定値を超えていた超過エリアを記憶しておくメモリと、
該メモリに記憶された前記超過地点及び前記超過エリアが同じである回数に応じて、今回の自動走行時の速度パターンを前記予め設定された速度パターンに対して調整する速度パターン調整手段と、を有することを特徴とするコークス消火電車の減速停止制御装置。
【請求項8】
前記速度パターン調整手段は、前記メモリに記憶された前記超過地点及び前記超過エリアが3回とも同じであった場合には、前記超過地点の手前の所定距離にある地点から、今回の自動走行時の速度パターンの減速レートを、前記予め設定された速度パターンの減速レートの半分の減速レートに変更し、
前記速度制御手段は、前記速度パターン調整手段によって変更された前記減速レートで前記消火電車を自動走行させ、前記目標停止位置で停止させることを特徴とする請求項7に記載のコークス消火電車の減速停止制御装置。
【請求項9】
前記速度パターン調整手段は、前記メモリに記憶された前記超過地点及び前記超過エリアが1回または2回であった場合には、前記超過地点から前記超過エリア内で、今回の自動走行時の速度パターンの減速レートを、前記予め設定された速度パターンの減速レートの2/3の減速レートに変更し、
前記速度制御手段は、前記速度パターン調整手段によって変更された前記減速レートで前記消火電車を自動走行させ、
その後、前記比較手段による比較の結果、前記速度偏差が設定値を超えた場合には、前記ブレーキ制御手段は、前記消火電車の移動機ブレーキを所定時間動作させて強制的に前記消火電車を減速することを特徴とする請求項7に記載のコークス消火電車の減速停止制御装置。
【請求項10】
前記速度パターン調整手段は、前記メモリに記憶された前記超過地点及び前記超過エリアが1回または2回であった場合には、前記超過地点から前記超過エリア内で、今回の自動走行時の速度パターンの減速レートを、前記予め設定された速度パターンの減速レートの2/3の減速レートに変更し、
前記速度制御手段は、前記速度パターン調整手段によって変更された前記減速レートで前記消火電車を自動走行させ、
その後、前記比較手段による比較の結果、前記速度偏差が設定値を超えずに、前記速度制御手段が、前記消火電車を前記目標停止位置で停止させた場合には、前記速度パターン調整手段は、次回の自動走行時には、前記消火電車の自動走行速度制御の速度パターンを前記予め設定された速度パターンに戻して、
前記速度制御手段は、戻された前記予め設定された速度パターンで前記消火電車を自動走行させることを特徴とする請求項7に記載のコークス消火電車の減速停止制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−67759(P2013−67759A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209227(P2011−209227)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】