説明

コークス炉における炉壁煉瓦の熱間積替え方法

【課題】燃焼室内を複数のフリューに仕切る炉団方向に沿う仕切壁が上段側になるほど幅広になっていても、煉瓦同士の密着を安定して確保することができるコークス炉における炉壁煉瓦の熱間積替え方法を提供する。
【解決手段】仕切壁4の炉団方向の側部を、積替え区域の各段に残存する仕切煉瓦11、およびT字状炉壁煉瓦22の残部22aが全体として階段状になるように、切断して解体する。煉瓦解体の跡に、各段の煉瓦11、22aに隣接して、新たな炉壁煉瓦33n〜33n+3を順次積み上げる。これで、各段に残存する煉瓦11、22aの下面を上方から投影したときに、その投影像が各段の一段下の段に配置された新たな炉壁煉瓦33n〜33n+2の上面に重ならないようになるため、新たな炉壁煉瓦33n〜33n+2が熱膨張しても各段の煉瓦11、22aを押し上げることはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室炉式コークス炉(以下、「コークス炉」という)において、損傷した炉壁煉瓦を熱間で積み替える方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コークス炉は、製銑に用いられるコークスを製造する設備であって、主に珪石煉瓦で構築された耐火煉瓦の構造体である。一般に、コークス炉は、炭化室と燃焼室とが水平方向に交互に配置され、これらの下方に蓄熱室が配置されて成り、炭化室と、その両隣の燃焼室と、これらの各燃焼室にそれぞれ連通した蓄熱室とを一組として一窯を構成し、窯を複数並列に配置した炉団を形成する。コークス炉の各窯においては、炭化室に装入された石炭を、炉団方向に沿う両隣の燃焼室から燃料ガスと空気の燃焼で生じた熱が供給されることによって乾留し、コークスを製造する。炭化室内のコークスは、炉長方向の一端の窯口に設置された押出機により他端の窯口から押し出されて排出され、その他端の窯口に設置されたコークガイド車に積み込まれる。
【0003】
図1は、コークス炉の構造を模式的に示す図であり、同図(a)は炉長方向に沿った鉛直断面図であって、右側に炭化室1の領域を、左側に燃焼室2の領域をそれぞれ示す。すなわち、同図(a)では、便宜上、炭化室、燃焼室の領域を左右に半分ずつ示す。また、同図(b)は炉団方向に沿った鉛直断面図である。同図(b)に示すように、互いに隣接する炭化室1と燃焼室2とは、炉長方向に沿う炉壁3で仕切られており、この炉壁3は、炭化室炉壁煉瓦、燃焼室炉壁煉瓦、または単に炉壁煉瓦と称される耐火煉瓦(以下、「炉壁煉瓦」という)で構成される。また、同図(a)に示すように、燃焼室2内は、上部が互いに連絡した2フリューを一組として炉長方向に区画されており、この燃焼室2内を複数のフリューに仕切る炉団方向に沿う壁4(以下、「仕切壁」という)は、燃焼室フリュー仕切煉瓦、または単にフリュー仕切煉瓦と称される耐火煉瓦(以下、「仕切煉瓦」という)と、炉団方向の両側部で炉壁3を構築する一部の炉壁煉瓦とから構成される。
【0004】
図2は、燃焼室内を仕切る初期設計時の仕切壁を示す図である。同図に示すように、仕切壁4は、上下左右の広範囲に亘って煉瓦が積み上げられて成る。初期設計では、仕切煉瓦11および炉壁煉瓦21、22は、上下に隣接する段同士で目地(煉瓦同士の境目)が上下で一直線にならないように、互い違いに積み上げられている。炉壁3についても同様に、炉壁煉瓦21、22が互い違いに積み上げられている。したがって、これらの煉瓦の大半は直方体状であるが、仕切壁4の左右両側部では、直方体状の炉壁煉瓦21と、水平断面がT字状の炉壁煉瓦22とが交互に積み上げられている。
【0005】
コークスの製造にあたり、炉壁は、燃焼室での燃焼により1000〜1200℃程度に加熱された高温状態から、常温の石炭が装入されることによって急冷され、その後昇温されて乾留のために20〜24時間程度に亘り高温状態に維持される。こうして炉壁が急激な温度降下と上昇を繰り返し受けること、炉壁の炭化室側の表面がコークス排出時に摺擦されること等に起因して、炉壁には亀裂や摩耗や欠損等の損傷が発生する。そして、石炭の装入、乾留、およびコークスの排出が長期に亘って繰り返されることにより、炉壁の損傷が増大する。
【0006】
一般に、コークス炉の寿命は、30〜50年程度である。この寿命期間内の稼動により、コークス炉の炉壁に上述の損傷が発生する。炉壁の損傷が軽度である場合は、補修により損傷箇所に耐火材を吹き付ける等して簡易的に対処するが、損傷が重度である場合には、炉壁煉瓦の積み替えを行う。
【0007】
通常、コークス炉の炉壁および仕切壁を構築する炉壁煉瓦および仕切煉瓦としては、珪石煉瓦が用いられ、新たに積み替える煉瓦としても同じ珪石煉瓦が用いられる。珪石煉瓦は、その長所として、高温での機械的強度が大きく、高温領域(1000℃以上)での体積変化が少なく、材料が安価で多量に入手でき、熱伝導性が比較的良好である反面、短所として、低温領域での温度変化による体積変化が大きく、この熱衝撃により劣化しやすい。
【0008】
そのため、炉壁煉瓦の積替えは、積替え対象外の炉壁煉瓦および仕切煉瓦(以下、それぞれ「非積替え炉壁煉瓦」および「非積替え仕切煉瓦」という)の温度を極力高温に保持して、非積替え炉壁煉瓦および非積替え仕切煉瓦への熱衝撃を緩和することが重要であり、さらにコークス炉の稼働率も低下させないように、これらの煉瓦を冷却させることなく熱間状態で行うことが望ましい。この熱間状態で行う積替えは、熱間積替えと称され、積替え対象の炉壁煉瓦で構成される燃焼室を熱供給源として用いる炭化室以外の炭化室では、コークスの製造を継続し、積替え対象の炉壁煉瓦で構成される燃焼室における積替え対象のフリュー以外のフリューでも、燃焼を継続した状況で実施する。
【0009】
熱間積替えの際には、積み替えた新たな炉壁煉瓦(珪石煉瓦)は常温から1000℃以上に温度上昇し、その温度上昇に伴って1.2%程度の熱膨張が発生するため、その熱膨張を考慮することが重要である。積み替えた新たな炉壁煉瓦の熱膨張を考慮しないと、新たな炉壁煉瓦と非積替え炉壁煉瓦との境目の接合部において、新たな炉壁煉瓦が熱膨張して非積替え炉壁煉瓦と強く接触し、その結果、炉壁が湾曲したり炉壁に亀裂が発生するからである。そこで、新たな炉壁煉瓦と非積替え炉壁煉瓦との境目に、膨張代として隙間を確保している。ただし、膨張代を大きく取りすぎると、新たな炉壁煉瓦と非積替え炉壁煉瓦との間に大きな隙間が生じ、煉瓦同士の密着が不十分になる。
【0010】
特許文献1、2には、コークス炉の炉壁煉瓦を熱間で積み替えるにあたり、炉壁における炉壁煉瓦の積替え区域において、炉長方向での両端に配置された新たな炉壁煉瓦と非積替え炉壁煉瓦との境目それぞれに、膨張代としての隙間を均等に振り分ける方法が提案されている。これにより、新たな炉壁煉瓦が炉長方向に熱膨張しても非積替え炉壁煉瓦と均等な力で接触するため、新たな炉壁煉瓦と非積替え炉壁煉瓦同士の密着が向上する。また、特許文献1、2に記載の方法では、新たな炉壁煉瓦の上下方向の熱膨張に関し、積替え区域の最上段に配置された新たな炉壁煉瓦と非積替え炉壁煉瓦との境目に、膨張代としての隙間を設け、これにより、新たな炉壁煉瓦が上方向に膨張して、非積替え炉壁煉瓦と密着するとされている。
【0011】
【特許文献1】特開平6−41540号公報
【特許文献2】特開平6−41541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、前記特許文献1、2では、炉壁においての熱間積替えのみ記載されるが、実際には、仕切壁にも炉壁煉瓦の積替えが関与する。その状況を下記の図3を参照しながら説明する。
【0013】
図3は、燃焼室内を仕切る初期設計時の仕切壁における炉壁煉瓦の熱間積替え方法を説明するための図である。同図に示す仕切壁4は、前記図2に示す仕切壁4と同様に、コークス炉の稼動当初の設計寸法が反映された状態のものであり、炉団方向に沿う幅(燃焼室の幅に相当)が、下部から上部まで一定となっている。
【0014】
この場合の炉壁煉瓦の積替えに際しては、図3中の網掛部に示すように、仕切壁4の炉団方向の側部において、積替え対象の直方体状の炉壁煉瓦21を非積替え仕切煉瓦11との目地から切断して解体するとともに、積替え対象のT字状の炉壁煉瓦22はその炉壁3を構成する部分を切断して解体する。そして、炉壁煉瓦の解体の跡に、新たな炉壁煉瓦を順次積み上げて積み替える。このとき、上下の全段において、同じ形状寸法の炉壁煉瓦に積み替えることになる。
【0015】
しかし、このような初期設計時のままの仕切壁に対して炉壁煉瓦の熱間積替えを行うことは実際には無く、仕切壁は、コークス炉の長期間の稼動により変形しているのが通例である。実態に即した仕切壁の状況を下記の図4および図5に示す。
【0016】
図4は、実態に即した仕切壁の状況を示すコークス炉の炉団方向に沿った鉛直断面図である。図5は、実態に即した仕切壁を示す図である。図4および図5に示すように、実態に即した仕切壁4は、炉団方向の幅(燃焼室2の炉団方向の幅に相当)が下部よりも上部で広く、上段側ほど煉瓦同士の境目が広がった状態になっている。このように上段側になるほど幅広に変形した仕切壁4では、従来、以下のように炉壁煉瓦の熱間積替えを行う。
【0017】
図6は、実態に即した仕切壁に対する従来の炉壁煉瓦の熱間積替え方法を説明するための図である。同図に示す仕切壁4は、前記図5に示す仕切壁4と同様に、炉団方向の幅が上段側になるほど広がっている。
【0018】
この場合の炉壁煉瓦の積替えに際しては、図6中の網掛部に示すように、仕切壁4の炉団方向の側部において、積替え対象の直方体状の炉壁煉瓦21を非積替え仕切煉瓦11との目地から切断して解体するとともに、積替え対象のT字状炉壁煉瓦22はその炉壁3を構成する部分を切断して解体する。そして、炉壁煉瓦の解体の跡に、上下全段で同じ形状寸法の新たな炉壁煉瓦を順次積み上げて積み替える。
【0019】
このような上段側になるほど幅広になった仕切壁に対する従来の炉壁煉瓦の熱間積替え方法では、以下に示す問題が発生する。
【0020】
図7は、従来の炉壁煉瓦の熱間積替え方法により発生する問題を説明するための模式図であり、同図(a)は熱間積替え直後の煉瓦の状態を示し、同図(b)は熱間積替え後に昇温した煉瓦の状態を示している。
【0021】
炉壁煉瓦の熱間積替えを行った直後にあっては、図7(a)に示すように、非積替え仕切煉瓦11とT字状炉壁煉瓦22の残部22aとにそれぞれ隣接して、新たな炉壁煉瓦31、32が積み上げられている。このとき、非積替え仕切煉瓦11の上段に配置されたT字状炉壁煉瓦22の残部22aの下面を上方から投影したときに、その投影像が一段下の段に配置された新たな炉壁煉瓦31の上面に重なっているため、T字状炉壁煉瓦22の残部22aの真下に新たな炉壁煉瓦31が配置された状態になっている。また、このときは、非積替え仕切煉瓦11、およびT字状炉壁煉瓦22の残部22aは高温の状態であり、一方、積み替えた新たな炉壁煉瓦31、32は低温の状態にある。
【0022】
この状態から時間の経過に伴って新たな炉壁煉瓦31、32が昇温されると、図7(b)に示すように、新たな炉壁煉瓦31、32が熱膨張して上方向に伸びる。これにより、新たな炉壁煉瓦31は、その上段に配置されたT字状炉壁煉瓦22の残部22aの下面に接触し、そのままT字状炉壁煉瓦22の残部22aを押し上げる。そのため、T字状炉壁煉瓦22の残部22aが傾斜し、隣接する新たな炉壁煉瓦32との間、および直下に配置された非積替え仕切煉瓦11との間にそれぞれ隙間C1、C2が発生し、煉瓦同士の密着が不十分となる。その結果、熱間積替え後、仕切壁の機能が十分に発揮されなくなり、ひいてはコークス炉の安定操業に支障が生じる。
【0023】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、コークス炉における炉壁煉瓦の熱間積替えの際、上段側になるほど幅広になった仕切壁であっても、煉瓦同士の密着を安定して確保することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成するため、本発明によるコークス炉における炉壁煉瓦の熱間積替え方法は、交互に配置された炭化室と燃焼室とを仕切り、煉瓦で構築された炉長方向に沿う炉壁と、前記燃焼室内を複数のフリューに仕切り、煉瓦で構築された炉団方向に沿う仕切壁と、から構成され、前記仕切壁の炉団方向の幅が上段側になるほど広がったコークス炉における前記炉壁の損傷した煉瓦を熱間状態で積み替える方法であって、前記炉壁における積替え区域の煉瓦の解体に伴って、前記仕切壁の炉団方向の側部における前記積替え区域の煉瓦を解体した後、当該仕切壁において、前記積替え区域の各段に残存する煉瓦の下面を上方から投影したときに、その投影像が各段の一段下の段に配置される新たな煉瓦の上面に重ならないように、新たな煉瓦を積み上げることを特徴としている。
【0025】
このような構成にすれば、上段側になるほど幅広になった仕切壁に対して炉壁煉瓦の熱間積替えを行った場合、積み替えた新たな炉壁煉瓦は、昇温に伴う熱膨張によって上方向に伸びるが、煉瓦解体後に高温状態のままで残存する各段の煉瓦の真下には配置されないため、その煉瓦を押し上げる事態は生じない。
【0026】
ここで、煉瓦解体後の前記積替え区域の各段に残存する煉瓦は、炉壁側の端面が上段側ほど炉壁側とは反対側にずれる状態に配置することができる。また、煉瓦解体後の前記積替え区域の各段に残存する煉瓦は、炉壁側の端面が上下に亘って一直線状になる状態に配置することもできる。
【発明の効果】
【0027】
本発明のコークス炉における炉壁煉瓦の熱間積替え方法によれば、上段側になるほど幅広になった仕切壁に対して熱間積替えを行った場合、積み替えた新たな炉壁煉瓦が、煉瓦解体後に高温状態のままで残存する各段の煉瓦を押し上げる事態は生じず、煉瓦同士の密着を安定して確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、本発明のコークス炉における炉壁煉瓦の熱間積替え方法の実施形態について、図面を参照しながら詳述する。
【0029】
<第1実施形態>
図8は、本発明の第1実施形態である炉壁煉瓦の熱間積替え方法を説明するための仕切壁を模式的に示す図であり、同図(a)は熱間積替え前の状況を示し、同図(b)は煉瓦解体後の状況を示し、同図(c)は熱間積替え直後の状況を示している。同図に示す仕切壁4は、前記図5および図6に示す仕切壁4と同様に、炉団方向の幅が上段側になるほど広がっている。また、図8は、積替え区域としてn段目から[n+3]段目までの4段の炉壁煉瓦を積み替える場合を例示しており、仕切壁の炉団方向の側部では、積替え対象の炉壁煉瓦として、n段目と[n+2]段目に直方体状の炉壁煉瓦21が配置され、[n+1]段目と[n+3]段目にT字状の炉壁煉瓦22が配置される場合を例示している。
【0030】
第1実施形態での炉壁煉瓦の積替えに際しては、図8(a)中の網掛部に示すように、仕切壁4の炉団方向の側部を、n段目から[n+3]段目までの積替え区域の各段に残存する仕切煉瓦11、およびT字状炉壁煉瓦22の残部22aが全体として階段状になるように、切断して解体する。すなわち、n段目では、積替え対象の直方体状炉壁煉瓦21を、これに隣接する非積替え仕切煉瓦11との目地から切断して解体する。[n+1]段目では、積替え対象のT字状炉壁煉瓦22を、その炉壁3を構成する部分と、この部分から仕切壁4として突出する部分の根元部と、を含めて切断して解体する。[n+2]段目では、積替え対象の直方体状炉壁煉瓦21を、これに隣接する非積替え仕切煉瓦11の一部を含めて切断して解体する。[n+3]段目では、積替え対象のT字状炉壁煉瓦22を、これに隣接する非積替え仕切煉瓦11との目地から切断して解体する。
【0031】
こうして、第1実施形態では、図8(b)に示すように、煉瓦解体後にあっては、仕切壁4の積替え区域の各段に残存する煉瓦11、22aは、全体として階段状になり、それぞれの煉瓦11、22aの炉壁3側の端面が上段側ほど炉壁3側とは反対側にずれた状態になる。
【0032】
そして、図8(c)に示すように、煉瓦の解体の跡に、残存する各段の煉瓦11、22aに隣接して、新たな炉壁煉瓦33n、33n+1、33n+2、33n+3を順次積み上げて積み替える。このとき、n段目には直方体状の新たな炉壁煉瓦33nを積み、その上の[n+1]〜[n+3]段目には、仕切壁4に沿って突出する部分が上段側になるほど長く調整されたT字状の新たな炉壁煉瓦33n〜33n+3を積み上げる。これにより、積替え区域の各段に残存する煉瓦11、22aの下面を上方から投影したときに、その投影像が各段の一段下の段に配置された新たな炉壁煉瓦33n〜33n+2の上面に重ならないようになるため、残存する煉瓦11、22aの直下に新たな炉壁煉瓦33n〜33n+2が配置された状態にはならない。
【0033】
このような構成にすると、新たな炉壁煉瓦33n〜33n+3は、時間の経過に伴って昇温され、熱膨張によって上方向に伸びるが、煉瓦解体後に高温状態のままで残存する各段の煉瓦11、22aの真下には配置されないため、その煉瓦11、22aを押し上げる事態は生じない。従って、煉瓦同士の密着を安定して確保することができる。その結果、熱間積替え後、仕切壁の機能が十分に発揮され、ひいてはコークス炉の安定した操業が行える。
【0034】
もっとも、積替え区域の最上段(図8では[n+3]段目)に配置された新たな炉壁煉瓦と、その上段の煉瓦(図8では[n+4]段目に存在する炉壁煉瓦21および仕切煉瓦11)との境目に、その新たな炉壁煉瓦の上面を予め削正する等して、上方向への膨張代としての隙間を設けておくことが望ましい。また、煉瓦解体後に残存する各段の煉瓦と、これに隣接配置する新たな炉壁煉瓦との境目には、新たな炉壁煉瓦の炉団方向への熱膨張による膨張代としての隙間を設けておくことが望ましい。さらに、煉瓦同士の間に過剰な隙間が存在する場合には、その隙間に、断熱ウール等の可縮性の不燃材を充填することもできる。
【0035】
<第2実施形態>
図9は、本発明の第2実施形態である炉壁煉瓦の熱間積替え方法を説明するための仕切壁を模式的に示す図であり、同図(a)は熱間積替え前の状況を示し、同図(b)は煉瓦解体後の状況を示し、同図(c)は熱間積替え直後の状況を示している。同図に示す仕切壁4は、上述した第1実施形態における前記図8に示す仕切壁4と変わりはない。
【0036】
第2実施形態での炉壁煉瓦の積替えに際しては、図9(a)中の網掛部に示すように、仕切壁4の炉団方向の側部を、積替え区域の各段に残存する煉瓦11、22aの炉壁3側の端面が上下に亘って一直線状となるように、切断して解体する。そして、図8(b)および(c)に示すように、煉瓦の解体の跡に、残存する各段の煉瓦11、22aに隣接して、第1実施形態とほぼ同様の構成の新たな炉壁煉瓦33n〜33n+3を順次積み上げて積み替える。これにより、積替え区域の各段に残存する煉瓦11、22aの下面を上方から投影したときに、その投影像が各段の一段下の段に配置された新たな炉壁煉瓦33n〜33n+2の上面に重ならないようになるため、残存する煉瓦11、22aの直下に新たな炉壁煉瓦33n〜33n+2が配置された状態にはならない。
【0037】
このような構成にしても、新たな炉壁煉瓦33n〜33n+3は、煉瓦解体後に高温状態のままで残存する各段の煉瓦11、22aの真下には配置されないため、昇温に伴う熱膨張によって上方向に伸びても、その煉瓦11、22aを押し上げる事態は生じず、煉瓦同士の密着を安定して確保することができる。
【0038】
もちろん、上述した第1実施形態と同様に、積替え区域の最上段に配置された新たな炉壁煉瓦と、その上段の煉瓦との境目や、煉瓦解体後に残存する各段の煉瓦と、これに隣接配置する新たな炉壁煉瓦との境目に、膨張代としての隙間を設けておくことが望ましく、さらに、煉瓦同士の間に過剰な隙間に、可縮性の不燃材を充填することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のコークス炉における炉壁煉瓦の熱間積替え方法によれば、上段側になるほど炉団方向の幅が広がった仕切壁に対して熱間積替えを行った場合、積み替えた新たな炉壁煉瓦が、煉瓦解体後に残存する各段の煉瓦を押し上げる事態は生じず、煉瓦同士の密着を安定して確保することができる。従って、本発明は、コークス炉の操業を長期に亘って安定して行う上で極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】コークス炉の構造を模式的に示す図であり、同図(a)は炉長方向に沿った鉛直断面図、同図(b)は炉団方向に沿った鉛直断面図である。
【図2】燃焼室内を仕切る初期設計時の仕切壁を示す図である。
【図3】燃焼室内を仕切る初期設計時の仕切壁における炉壁煉瓦の熱間積替え方法を説明するための図である。
【図4】実態に即した仕切壁の状況を示すコークス炉の炉団方向に沿った鉛直断面図である。
【図5】実態に即した仕切壁を示す図である。
【図6】実態に即した仕切壁に対する従来の炉壁煉瓦の熱間積替え方法を説明するための図である。
【図7】従来の炉壁煉瓦の熱間積替え方法により発生する問題を説明するための模式図であり、同図(a)は熱間積替え直後の煉瓦の状態を示し、同図(b)は熱間積替え後に昇温した煉瓦の状態を示している。
【図8】本発明の第1実施形態である炉壁煉瓦の熱間積替え方法を説明するための仕切壁を模式的に示す図であり、同図(a)は熱間積替え前の状況を示し、同図(b)は煉瓦解体後の状況を示し、同図(c)は熱間積替え直後の状況を示している。
【図9】本発明の第2実施形態である炉壁煉瓦の熱間積替え方法を説明するための仕切壁を模式的に示す図であり、同図(a)は熱間積替え前の状況を示し、同図(b)は煉瓦解体後の状況を示し、同図(c)は熱間積替え直後の状況を示している。
【符号の説明】
【0041】
1 炭化室
2 燃焼室
3 炉壁
4 仕切壁
11 仕切煉瓦
21 直方体状の炉壁煉瓦
22 T字状の炉壁煉瓦
22a T字状の炉壁煉瓦の残部
33n、33n+1、33n+2、33n+3 炉壁煉瓦

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交互に配置された炭化室と燃焼室とを仕切り、煉瓦で構築された炉長方向に沿う炉壁と、前記燃焼室内を複数のフリューに仕切り、煉瓦で構築された炉団方向に沿う仕切壁と、から構成され、前記仕切壁の炉団方向の幅が上段側になるほど広がったコークス炉における前記炉壁の損傷した煉瓦を熱間状態で積み替える方法であって、
前記炉壁における積替え区域の煉瓦の解体に伴って、前記仕切壁の炉団方向の側部における前記積替え区域の煉瓦を解体した後、
当該仕切壁において、前記積替え区域の各段に残存する煉瓦の下面を上方から投影したときに、その投影像が各段の一段下の段に配置される新たな煉瓦の上面に重ならないように、新たな煉瓦を積み上げることを特徴とするコークス炉における炉壁煉瓦の熱間積替え方法。
【請求項2】
煉瓦解体後の前記積替え区域の各段に残存する煉瓦は、炉壁側の端面が上段側ほど炉壁側とは反対側にずれる状態に配置することを特徴とする請求項1に記載のコークス炉における炉壁煉瓦の熱間積替え方法。
【請求項3】
煉瓦解体後の前記積替え区域の各段に残存する煉瓦は、炉壁側の端面が上下に亘って一直線状になる状態に配置することを特徴とする請求項1に記載のコークス炉における炉壁煉瓦の熱間積替え方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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