説明

コークス製造用原料炭の製造方法、コークスの製造方法、および銑鉄の製造方法

【課題】強粘結炭と配合して高い強度のコークスを製造することに適したコークス製造用原料炭の製造方法の提供。
【解決手段】無灰炭1.0質量部と、炭素含有率(d.a.f.)が78.0%以上88.0%未満の劣質炭2.0質量部以上20.0質量部以下とを有する混合炭を、無灰炭の軟化温度以上に加熱してコークス製造用原料炭を製造する。この製造方法で得られる第一原料炭20質量%以上と、炭素含有率(d.a.f.)が85.0%以上91.0%以下の第二原料炭とを配合してコークスを製造することが好適であり、得られたコークスを銑鉄の製造方法で使用すると良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉法製鉄などにおいて望まれる高い強度のコークスを実現するためのコークス製造用原料炭の製造方法、コークスの製造方法、およびコークスを使用する銑鉄の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鉄用に使用されるコークスには、高炉内における通気性確保のためにも、強度が高いことが求められている。石炭を乾留することでコークスが製造されており、その高い強度を実現するためには炭素含有率が高い強粘結炭などを使用するのが良いと一般的に言われているが、炭素含有率が高い石炭は高価であり、その使用量を削減することが望まれる。非粘結炭や微粘結炭などを併用すれば炭素含有率が高い石炭の使用量を削減することができるが、その使用量削減に伴うコークス強度の低下を配慮しなければならない。
【0003】
石炭の水分量の低減や、コークス炉内に装入した石炭を機械的に押し固める手段は、コークス炉内への石炭充填密度を高め、コークスを高強度化できることが知られている。しかし、水分量の低減を採用した場合、石炭の微粉が飛散しやすくなる問題があり、一方の押し固める操作は煩雑である。
【0004】
高強度のコークスを得るための他の技術が特許文献1に開示されている。この技術は、アスファルト、アスファルトピッチ、石炭の液化処理残渣、溶剤生成炭などの粘結性補填材を軟化溶融性がない細粒炭材の表面に含浸させたものを、石炭と混合して乾留するものである。
【0005】
また、本出願人は、高強度コークスに関する特許出願を既に行なっており、その内容は特許文献2、3において開示されている。特許文献2は、炭素含有率85%以上91%以下の石炭と、炭素含有率60%以上85%未満の石炭とを含有する石炭100質量部に対して、灰分を実質的に含有しない石炭を1質量部以下含有するものをコークス製造用石炭として使用することを開示する。他方、特許文献3は、コークス製造用原料炭100質量部に対して、灰分を実質的に含有しない石炭を1質量部以下添加することを開示する。
【0006】
上記の如く、強粘結炭などの炭素含有率が高い石炭の使用量を削減しつつ高強度のコークスを得ることはコークス製造における課題であり、この課題解決を目的としてアスファルトピッチ、石炭タール、または無灰炭などの粘結性補填材が使用されるのであるが、粘結性補填材の作用が複雑であるために、高炭素含有率炭の使用量削減(高炭素含有率炭以外の石炭の多量使用)とコークスの高強度化の両立には困難性が伴う。
【特許文献1】特開2001−40363号公報
【特許文献2】特開2007−23190号公報
【特許文献3】特開2007−246674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、炭素含有率が高い石炭と配合して高い強度のコークスを製造することにも適したコークス製造用原料炭の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るコークス製造用原料炭の製造方法は、無灰炭1.0質量部と、炭素含有率(d.a.f.)が78.0%以上88.0%未満の劣質炭2.0質量部以上20.0質量部以下とからなる混合炭を、無灰炭の軟化温度以上に加熱する工程を有することを特徴とする。
【0009】
本発明において、「無灰炭」とは、石炭を815℃で加熱して灰化したときの残留無機物である灰分が、加熱前の無灰炭において5000ppm以下(質量基準)の石炭である。また、「劣質炭」とは、瀝青炭、亜瀝青炭などのいずれに該当するか否かにかかわらず、上記規定の通りの炭素含有率(d.a.f.)が78.0%以上88.0%未満の石炭をいう。
【0010】
本発明に係るコークスの製造方法は、二種以上の石炭が配合された配合炭を乾留するコークスの製造方法であって、前記配合炭が、本発明に係るコークス製造用原料炭の製造方法で得られた第一原料炭20質量%以上と、炭素含有率(d.a.f.)が85.0%以上91.0%以下の第二原料炭とを含むことを特徴とする。前記配合炭は、第一原料炭および第二原料炭のみからなるものが好適である。
【0011】
また、本発明に係る銑鉄の製造方法は、本発明に係るコークスの製造方法により得られたコークスを使用するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るコークス製造用原料炭の製造方法により得られた原料炭(第一原料炭)は所定量の無灰炭と劣質炭とからなる混合炭を無灰炭の軟化温度以上に加熱して得られたものなので、炭素含有率が高い石炭(第二原料炭)の使用量を抑えつつ第一原料炭を配合してコークスを製造しても、高い強度のコークスを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(コークス製造用原料炭の製造方法)
本発明に係るコークス製造用原料炭の製造方法は、無灰炭1.0質量部と、所定量の炭素含有率(d.a.f.)78.0%以上88.0%未満の劣質炭とからなる混合炭を、無灰炭の軟化温度以上に加熱する工程を有する。
【0014】
無灰炭は、灰分が5000ppm以下(質量基準、以下同じ)の石炭であり、この灰分が2000ppm以下であると好ましい。ここで「灰分」とは、石炭を815℃で加熱して灰化したときの残留無機物を意味し、その無機物は、ケイ酸、アルミナ、酸化鉄、石灰、マグネシア、アルカリ金属などである。
【0015】
好適な無灰炭は、JIS M8801に規定されたギーセラープラストメータ法によるギーセラー流動性試験で確認される最高流動度(logMF)が3.0(logddpm)以上のものである。また、固化温度が450℃を超えるものも無灰炭として好適である。
【0016】
無灰炭に覆われる劣質炭の表面積が大きくなるようにするため、無灰炭は、劣質炭の粒度よりも小さい粒度のものが好ましい。好ましい無灰炭の粒度は0.5mm以下、より好ましくは0.3mm以下、更に好ましくは0.2mm以下である。この粒度は所定の目開きの篩いを通過できるか否かで決定される。例えば、目開き0.5mmの篩いを通過する無灰炭の粒度は0.5mm以下である。無灰炭の粒度を調整するには、ハンマーミル、ジョークラッシャー、ジェットミルなどの公知の粉砕装置を使用すると良い。
【0017】
無灰炭を得るための方法は、公知の無灰炭の製造方法を採用すると良い。例えば、有機溶媒による石炭成分の抽出が無灰炭の製造に該当する。
【0018】
無灰炭の製造において使用する石炭は、瀝青炭、亜瀝青炭、褐炭など特に限定されず、また、その炭素含有率についても特に限定されない。つまり、炭素含有率(d.a.f.)が60.0%以上95.0%未満の石炭を使用しても良いが、強粘結性の炭素含有率が高い石炭はその枯渇の問題があるので、炭素含有率(d.a.f.)60.0%以上88.0%未満の石炭を使用することが好ましく、炭素含有率(d.a.f.)70.0%以上85.0%未満の石炭を使用することがより好ましい。
【0019】
石炭成分の抽出を効率良く行なうために、その抽出に際しては、石炭を予め5mm以下に粉砕することが適当である。
【0020】
無灰炭の製造で使用する有機溶媒には、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの一環芳香族化合物;ナフタレン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレン、トリメチルナフタレン、ビフェニル、脂肪族側鎖または芳香族置換基を有するビフェニルなどの二環芳香族化合物;三環芳香族化合物;などの一種または二種以上の有機溶媒を使用することができる。ただし、一環芳香族化合物を使用する場合、石炭成分の抽出率が低く、抽出率を高めるために抽出温度を高めるときには、その温度に設定するための圧力が高くなることがある。また、三環芳香族化合物を使用する場合、当該化合物の沸点が高い一般的傾向があるから、石炭からの有機溶媒分離が困難になることがある。そのため、二環芳香族化合物を使用することが好適である。より好適な二環芳香族化合物は、沸点180℃〜330℃のものである。
【0021】
なお、石炭の液化方法等で使用されることが知られているテトラリンなどの水素供与性溶媒を使用すれば、石炭を可溶化または液化して石炭成分の高い抽出率を実現できるが、水素供与性溶媒の水素原子が石炭の構成分子に移動することがある。したがって、水素供与性有機溶媒ではなく、非水素供与性有機溶媒を選択して石炭成分の抽出を行なうことが好適である。
【0022】
有機溶媒による石炭成分の抽出では、石炭と有機溶媒を混合してスラリーを調製して石炭成分の抽出を行ない、その後、スラリーの上澄み液等の液体部から有機溶媒を除去すれば無灰炭が得られる。
【0023】
スラリー中の石炭濃度は10〜35質量%とすることが適切であり、スラリーを加熱して石炭成分を抽出すると良い。この抽出条件は、例えば、スラリーを300℃〜420℃で5〜120分間保持する。300℃より低い温度では、石炭の構成分子間の結合を十分に弱めることができないために石炭成分の抽出率が低くなり、420℃より高い温度では、石炭の熱分解反応で発生した熱分解ラジカルが石炭に再結合するため、やはり石炭成分の抽出率が低くなる。一方、300〜420℃の温度では、石炭の構成分子間の結合が緩むと共に穏和な熱分解が生じることになるから、石炭成分の高い抽出率が達成される。また、抽出における圧力については、有機溶媒が沸点に達することがないよう調整することになり、通常0.8〜2.5MPaであり、抽出時の雰囲気は、不活性ガス(例えば、窒素)雰囲気であると良い。
【0024】
石炭成分の抽出後、有機溶媒の除去を行なうに先立ち、抽出後の石炭を有機溶媒から分離することが必要になる。この分離では、公知の分離方法を採用すると良い。その公知の分離方法としては、例えば、沈降法、濾過法が挙げられ、濾過法では濾過フィルターの濾過量が制限されることから、大量の石炭を分離するためには沈降法を採用することが好適である。なお、有機溶媒中での石炭成分の析出などを避けるため、スラリーからの石炭の除去の温度は抽出時と同じ温度に設定することが好適であり、圧力についても同様である。
【0025】
図1は、無灰炭を製造するための装置の一例を説明するための図である。タンク1において石炭と有機溶媒が混合されてスラリーが生成し、このスラリーがポンプ2により送り出され、予熱器3を通過する間に所定の温度に加温された後に、抽出槽4に供給される。抽出槽4において、スラリーが撹拌機10で撹拌されつつ、石炭成分が有機溶媒に抽出された後、スラリーは重力沈降槽5に供給される。重力沈降槽5では成分が抽出された後の石炭が図示矢印11の方向に沈降し、重力沈降槽5内の上澄み液がフィルターユニット8に供給される一方、沈降物が沈降物受け器6に回収される。上澄み液はフィルターユニット8に内設されたフィルター部材7で濾過され、濾液は上澄み液受け器9に回収される。次いで、回収された濾液から有機溶媒を蒸発除去させることにより無灰炭が得られる。有機溶媒を蒸発除去する方法としては、スプレードライ法、蒸留法、真空乾燥法などの一般的な乾燥方法を適用すると良い。
【0026】
石炭の分類基準、コークス原料炭としての判断基準、それらと石炭構造や組成との相関については、種々の標準化が試みられているが、未だ定まったものがないのが現状である。そこで、本明細書では炭素含有率(d.a.f.)が88.0%未満の石炭を劣質炭とする。多くの非微粘炭や粘結炭はその劣質炭に属するものであり、また、劣質炭は、コークス強度を低下させることが多いため、コークス製造での多量使用が忌避される一方で、炭素含有率(d.a.f.)が88.0%以上の石炭に比べて安価であるために多量使用が望まれているものである。本発明において対象となる劣質炭の炭素含有率(d.a.f.)には下限があり、その下限は78.0%である。本発明における劣質炭の炭素含有率(d.a.f.)は、82.0%以上87.0%以下が好ましい。なお、石炭の分類化の基準になる炭素含有率(d.a.f.=dry ash free)は、石炭の水分と灰分を除いた有機質の含有率(質量%)をいい、JIS M8819に準じて測定することができる。
【0027】
劣質炭は微細であることが望ましく、ハンマーミル、ジョークラッシャー、ジェットミルなどの公知の粉砕装置を使用して劣質炭を微細化すると良い。粒度2mmを超える劣質炭を使用すると、無灰炭と接触する劣質炭表面よりも同接触がない無灰炭内部の割合が大きくなって、無灰炭から付与される粘結性向上効果が不十分になる場合があるので、劣質炭の粒度は2mm以下であることが好ましく、1mm以下がより好ましい。この粒度は所定の目開きの篩いを通過できるか否かで決定される。例えば、目開き2mmの篩いを通過するものの粒度は2mm以下である。
【0028】
上記劣質炭は、炭素含有率(d.a.f.)が78.0%以上88.0%未満のものである。炭素含有率が88.0%以上の石炭は、特に石炭化度の高いものでないかぎりコークス製造に十分な粘着性を有していることが通常であるから無灰炭と処理する必要が無く、炭素含有率88.0%以上の石炭を無灰炭と処理すれば、逆にコークス強度が低下することがあるから、炭素含有率が88.0%以上の石炭に対して本発明に係る方法と同様の熱処理を行なう必要はない。一方の炭素含有率78.0%未満の石炭は必然的に含酸素官能基による架橋密度が高いため、本発明に係るコークス製造用原料炭の製造方法で炭素含有率78.0%未満の石炭を使用しても高強度のコークスを製造できない。なお、炭素含有率が78.0%未満の石炭は褐炭に該当するものであり、通常、コークス製造用原料炭としては用いられない。
【0029】
混合炭を得るには、無灰炭と劣質炭との所定量を配合し、ミキサーなどの公知の装置を使用して均一に混合する。このときの配合比は、無灰炭1.0質量部と劣質炭2.0質量部以上20.0質量部以下である。劣質炭を2.0質量部未満とすることは、劣質炭よりも無灰炭が高価である経済性と、コークス強度の観点から不適切である。また、20.0質量部よりも多い劣質炭を使用することは、無灰炭の粘結性補填効果が不十分になるので、好ましくない。無灰炭1.0質量部に対するより好ましい劣質炭の配合比は、5質量部以上10質量部以下である。
【0030】
なお、無灰炭と劣質炭との混合割合の最適化は、劣質炭の性状に応じて定める。すなわち、石炭化度が比較的低い劣質炭を使用する場合には、無灰炭の配合比率が高くなるようにすると良く、粘結炭に近い性質を有する石炭化度が比較的高い劣質炭を使用する場合には、無灰炭の配合比率を低くなるようにすると良い。
【0031】
混合炭の加熱では、無灰炭の熱溶融性と粘結性を劣質炭に移行させる。そのために、無灰炭の温度をその軟化温度(通常、300℃)以上に加熱する。これにより、液化した無灰炭が劣質炭に馴染みやすくなり、更には、無灰炭と劣質炭の構成分子が活性化して各分子の相互作用が強くなる。無灰炭の軟化開始温度はギーセラー流動性試験で測定される軟化開始温度であり、加熱により設定する無灰炭の温度は、その軟化開始温度よりも高い温度が良く、軟化開始温度よりも20℃以上高い温度が好ましい。一方で、加熱された無灰炭の温度の上限は、400℃以下が好ましく、380℃以下がより好ましい。400℃を超える温度にまで加熱するとコークス化反応進行による原料炭の粘結性低下があるので好ましくない。
【0032】
混合炭を加熱することによりコークス製造に適した本発明に係る原料炭を製造することができる。混合炭の加熱でその原料炭が得られる機構は、第一に、加熱で溶融した無灰炭が劣質炭に浸透して当該劣質炭に粘着性を付与し、第二に、無灰炭自体が劣質炭粒子同士を接着し、第三に、軟化温度以上に加熱された無灰炭から発生した芳香族化合物などの揮発成分が劣質炭に浸透して劣質炭の粘着性を改善すると推測している。実際には、この第一乃至第三の現象が同時に進行していると考えられる。
【0033】
無灰炭の軟化温度以上に加熱する時間は、長時間の加熱が原料炭の粘結性低下を引き起こすことがあるので、30分以内であると良く、10分以内が好ましい。均質なコークス製造用原料炭を製造するために、加熱機構を備えた公知の混合機、混練機を使用して、混合炭の混合を続けながら加熱することが好ましい。
【0034】
(コークスの製造方法)
コークス製造において、本発明に係るコークス製造用原料炭の製造方法により得られる原料炭(当該原料炭を、以下、「第一原料炭」と称することがある。)と、炭素含有率(d.a.f.)が85.0%以上91.0%以下、好ましくは88.0%以上91.0%以下の石炭(当該石炭を、以下、「第二原料炭」と称することがある。)とを配合し、この配合炭を乾留すれば高強度のコークスを製造できる。配合炭の調製においては、炭素含有率が第一原料炭の製造で使用した劣質炭よりも高い石炭を第二原料炭として使用することが好ましく、また、配合炭は、炭素含有率(d.a.f.)が85.0%未満の石炭を含むものであっても良いが、第一原料炭と第二原料炭とのみからなるものが好適である。これらの製造においては、第一原料炭を配合前に成形および/または粉砕しても良く、成形および/または粉砕したのちに粒度調整しても良い。
【0035】
配合炭の全量において、第一原料炭を20質量%以上にすることで、強度が高いコークスを製造できる。この第一原料炭の量範囲であれば、当該原料炭の使用量の微調整にて強度が特に高いコークスを実現できる。一方、第一原料炭の上限は特に限定されないが、コークスの製造条件、配合炭(配合時に使用する各種石炭)などによっては第一原料炭が過剰であるとコークス強度が低下する場合があるので、第一原料炭の上限は50質量%が好ましい。
【0036】
配合炭を乾留すると、配合炭の軟化・溶融、再固化、コークス化が生じる。この乾留での条件は、特に限定されず、コークス炉を使用する通常の乾留条件を採用できる。温度条件は、例えば950℃以上1200℃以下、より好ましくは1000℃以上1050℃以下、乾留時間は、例えば、8時間以上24時間以下、より好ましくは10時間以上20時間以下である。
【0037】
得られたコークスは、従来から知られている通り、銑鉄の製造に用いることができる。前記コークスは、強度に優れるので、高炉における銑鉄製造にも好適に使用される。そして、コークスの強度が高いことから、高炉内における優れた通気性を実現できる。なお、高炉における銑鉄の製造方法は、公知の方法を採用すればよく、例えば、高炉に鉄鉱石とコークスとをそれぞれ層状に交互に積層させて、高炉の下部より熱風、必要に応じて微粉炭を吹き込む方法を挙げることができる。
【実施例】
【0038】
以下に実施例などを挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0039】
(無灰炭)
瀝青炭(炭素含有率(d.a.f.)83.2%)5kgと、二環芳香族化合物である1−メチルナフタレン(新日鉄化学社製)20kgを混合してスラリーを調製した。窒素パージした内容積30Lのオートクレーブ内において、1.2MPa、370℃、1時間の条件でスラリーを処理し、二環芳香族化合物による瀝青炭成分の抽出を行った。この抽出と同温度、同圧力の条件の重力沈降槽内で、スラリーを上澄み液と固形分濃縮液とに分離し、次に、蒸留法により上澄み液から二環芳香族化合物を分離・回収して残ったものを無灰炭として得た。無灰炭は、収量が2.7kg、灰分が900ppmであった。また、無灰炭のギーセラー流動性試験による軟化開始温度は305℃、最高流動度は4.7(logddpm)であった。
【0040】
(コークス製造用原料炭)
粒度0.3mm以下の無灰炭と、粒度1mm以下の下記表1に示す石炭のいずれかとを配合して混合炭を調製した(混合炭の配合比率は、後記表2参照)。この混合炭を、加熱機構を有する混合機に装入して混合しつつ、350℃、10分間の条件で加熱してコークス製造用原料炭を得た。なお、後記表2に示すNo.9と11については混合炭の加熱を行なわなかった。また、No.10と12については無灰炭の使用および加熱を省略した。
【0041】
【表1】

【0042】
(コークス)
ロシア産の強粘結炭(炭素含有率(d.a.f.)90.6%)と、上記コークス製造用原料炭とを配合したもの(配合炭)を、下記の通りに乾留してコークスを得た。後記表2に示すNo.10と12については、配合炭調製において無灰炭も配合した。
【0043】
幅378mm×長さ121mm×高さ114mmの大きさの缶容器に、上記配合炭を充填した。この缶容器4個をさらに鋼製のレトルト(大きさ:幅380mm×長さ430mm×高さ350mm)に並べて入れて、この缶容器を幅方向に加熱できる両面加熱式電気炉に前記レトルトを入れて、配合炭を乾留した。このときの乾留条件は、1000℃、10時間とし、レトルトを電気炉から取り出して約16時間かけて自然放冷した。
【0044】
自然放冷後のレトルトから4個の缶容器を取り出し、幅方向の半分に相当する189mm部分のコークスを切り出した。両面加熱を行った場合、幅方向の真中に当たる場所は、炭芯と呼ばれ、加熱面から炭芯までの焼成されたコークスは加熱面に近い所からヘッド、ボディー、テールと呼ばれており、ヘッド、ボディー、テールの加熱時の昇温速度の差で強度に差が生じることが知られている。そのため、幅方向の半分に相当する189mm部分のコークスのヘッド、ボディー、テールの部分に相当する約60mmに分割したそれぞれの部位から、ほぼ直方体(一辺:約20mm±1mm)に切り出し、整粒されたコークスを得た。この整粒されたコークスを、蒸留水で洗浄して、整粒時(切り出し時に)に付着したコークスの微粉を取り除き、150℃±2℃の乾燥機で乾燥した。
【0045】
(コークス強度)
上記洗浄、乾燥後のコークスを強度測定用サンプルとして、I型強度を測定した。I型強度試験に用いる装置には、SUS材で作られた円筒状の容器(長さ720mm、円の底面直径132mm)を用い、この容器に強度測定用サンプルを200g入れて、1分間に20回の回転速度で合計600回の回転運動による衝撃をサンプルに加えた。この円筒の回転は、円筒の長さ720mmの真中に当たる360mmのところに回転軸を設け、この回転軸を中心に円筒を回転させて、円筒の底面が直径720mmの円を描くように行った。規定の600回転の回転による衝撃を加えた後、この円筒状の容器からサンプルを取り出し、9.5mmの篩目の篩で分けて篩上の質量を測った。この際、篩に引っかかったものも篩上として質量を測定した。I型強度指数は、以下のようにして算出した。
I型強度指数DI6009.5=100×9.5mm篩上質量(単位:g)/200g
【0046】
下記表2に、コークス強度を含めた結果を示す。
【0047】
【表2】

【0048】
表2から以下のことを確認することができる。
(1)No.1〜6の結果から、原料炭の製造において、劣質炭として炭素含有率78.0%以上88.0%未満のものを使用することが、コークス強度向上に適していること。
(2)No.2、9、10の結果から、原料炭の製造において、無灰炭と劣質炭を混合して加熱することが、コークス強度向上に適していること。No.3、11、12の結果においても同様である。
(3)No.14〜17の結果から、原料炭の製造においては、無灰炭1.0質量部に対して劣質炭を2.0質量部以上20.0質量部以下使用することが、コークス強度向上に適していること。
(4)No.8については、コークス製造で使用した強粘結炭の質量比が50を下回っている割には高いコークス強度であったこと。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】無灰炭を製造するための装置の一例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0050】
1 タンク
2 ポンプ
3 予熱器
4 抽出槽
5 重力沈降槽
6 沈降物受け器
7 フィルター部材
8 フィルターユニット
9 上澄み液受け器
10 撹拌機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無灰炭1.0質量部と、炭素含有率(d.a.f.)が78.0%以上88.0%未満の劣質炭2.0質量部以上20.0質量部以下とからなる混合炭を、無灰炭の軟化温度以上に加熱する工程を有することを特徴とするコークス製造用原料炭の製造方法。
【請求項2】
二種以上の石炭が配合された配合炭を乾留するコークスの製造方法であって、
前記配合炭が、請求項1に記載のコークス製造用原料炭の製造方法で得られた第一原料炭20質量%以上と、炭素含有率(d.a.f.)が85.0%以上91.0%以下の第二原料炭とを含むことを特徴とするコークスの製造方法。
【請求項3】
前記配合炭が、前記第一原料炭および第二原料炭のみからなる請求項2に記載のコークスの製造方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載の製造方法により得られたコークスを使用する銑鉄の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−215454(P2009−215454A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61471(P2008−61471)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「石炭利用技術振興事業 石炭利用次世代技術開発調査 ハイパーコール利用高効率燃焼技術の開発」に係わる委託研究、産業技術力強化法19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】