説明

コーティングされた造影剤を使用することによる生体物質の可視化

好ましくはMRIにより、生体物質を可視化するための方法であって、
(i)コーティングされたナノ粒子の個体群を生体物質と接触させるステップであって、そのナノ粒子のそれぞれが、a)遷移金属の金属酸化物(その金属酸化物は、好ましくは常磁性であり、好ましくはランタニド(+III)たとえばガドリニウム(+III)を含む)、およびb)そのコア粒子の表面を被覆するコーティング、を含み、そして(ii)その画像を記録するステップを含み、ここでそのコーティングが親水性であって、前記コア粒子の表面に隣接して位置するシラン層を含み、そしてそれぞれが有機基Rおよびシラン−シロキサン結合を含む、1種または複数の異なったシラン基を含むが、ここで、a)Rが、親水性有機基R’および疎水性スペーサーBを含み、b)Oが、前記金属酸化物の表面金属イオンに直接結合している酸素であり、そして、c)Cが、炭素であって、これもまたBの一部である。可視化するための組成物、ならびに前記ナノ粒子およびコア粒子を製造するための方法もまた開示されている。可視化には、MR、CT、X線、近IR蛍光発光、PET、顕微鏡法などによる映像化が含まれ、最大の利点は、生体内での映像化において達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、生体物質を可視化または映像化するための造影剤として使用可能なナノ粒子に関する。それらのナノ粒子は、典型的には常磁性であり、それぞれのナノ粒子は、コア粒子と、そのコア粒子の表面を被覆するコーティングとから構成されている。個々のコア粒子は、遷移金属イオンを含む金属酸化物を露出させた表面を有している。その金属酸化物は、典型的には常磁性であって、その遷移金属イオンは好ましくは、ランタニド(+III)たとえばガドリニウム(+III)である。本発明の主たる態様は、a)ナノ粒子を使用して、生体物質を可視化させるための方法、b)そのナノ粒子の組成物、c)ナノ粒子(コーティングされたコア粒子)および/またはコーティングされるコア粒子を製造するための方法、d)生体物質などを生体内で可視化させる目的の組成物を製造するための、それらナノ粒子の使用である。本発明は、磁気共鳴映像法(MRI)およびその他の映像化技術たとえばX線、コンピュータ断層写真法(CT)などにおいて特に有用である。
【0002】
本発明の文脈においては、「遷移金属」という用語は、広い意味合いで使用され、そのため、周期律表の2b族と3a族との間の元素、すなわち、3b族、4b族、5b族、6b族、7b族、8族、1b族および2b族が含まれるが、ランタニドとアクチニドは3b族の一部である。
【背景技術】
【0003】
技術背景
生体物質の磁気共鳴映像化(MRI)の原理は、その物質の中に存在している水分子の水素核の核磁化を検出することである。MRIがX線映像法よりも有利な点は主として、異なった軟組織の間でコントラストが強調されることである。このコントラストは、少なくとも3種の異なった根拠を有している。プロトン密度は自明であるが、より興味深いのは、磁化の回復時間(緩和時間)T、すなわちT(主磁場方向)およびT(主磁場に対して直交方向)が、コントラストに対して重要な寄与をしていることである。TおよびTのいずれもが、粘度、磁化率、その物質の温度および他の磁気物質の存在に対して敏感である。
【0004】
およびTが短くなると、測定されるMR信号が、それぞれ、強くなるか、または弱くなる。測定にスピンエコーシーケンスを使用すると、スキャンパラメーターの関数として表される信号Sは、単純化した形では、次式で表すことができる:
S(TR,TE)=ρe−TE/T2(1−e−TR/T1
[式中、ρ=スピン密度、TE=エコー時間、TR=繰返し時間、である。]常磁性造影剤は、緩和時間を短くして、所定の時間の間により多くの信号を集めることを可能とするために使用される。このように信号を強くすることは、画像の解像度を改良したり、収集時間を短くしたりするために利用することができる。MRI造影剤は、TとTの両方に効果を有するが、いくつかの薬剤では、Tに対するそれらの効果がTに対してよりも強かったり、あるいはその逆であるような選択性がある。常磁性金属イオン、たとえばキレートの形態のガドリニウムイオン(Gd3+)、およびさらにはある種の金属の不溶性塩、たとえば酸化ガドリニウム(Gd)および酸化鉄(Fe)の粒子が、MRIにおける造影剤として提案されてきた。主としてTに効果のあるガドリニウム(III+)が、正の造影剤(MR信号を強める)として使用され、主としてTに効果のある鉄(III+)の酸化物の形が負の造影剤(MR信号を弱める)として使用されてきた。緩和速度(1/T、水素ではi=1,2)は、使用された造影剤の濃度Cに比例する、すなわち,
1/T(観測)=1/T(固有)+r
ここで、1/T(観測)は造影剤の存在下における緩和速度であり、1/Tは固有組織緩和速度であり、そしてrは、造影剤の緩和性(relaxivity)と呼ばれる比例定数である。Engstroem et al.(Magn Reson Mater Phy 19 (2006) 180-186および国際公開第2006031190号パンフレット(Uvdal et al.)、およびそれらの中に引用されている文献を参考されたい。
【0005】
特定の造影剤がサンプル中の水素核の緩和時間およびMR画像に与える影響は、数多くの因子に複雑な形で依存するが、それらの因子としてはたとえば、緩和剤の磁気モーメント、電子緩和時間、内側および/または外側配位圏中での配位水に対する性能、常磁性剤の回転動力学、拡散速度および水交換速度などが挙げられる。挙動の優れた系(well behaved systems)に関しては、Solomon-Bloembergen-Morgan理論による定量的な記載がある(The Chemistry of Contrast Agents in Medical Magnetic Resonance Imaging, Wiley 2001, Eds., Andre E. Merbach, Eva Toth)。
【0006】
臨床的に生体内で使用される造影剤は、典型的には、注射(好ましくは経静脈)によって患者に投与される。このことは、その造影剤の金属の部分が、その患者にとって有害ではない形態で投与され、実施される目的の用途の間十分な時間、その患者の中に留まっていなければならないということを意味している。薬剤はさらに、生体内で、その患者の所望の部位に輸送されることが可能でなければならない。
【0007】
遊離のガドリニウムイオン、Gd3+の毒性作用を低下させるために、臨床的には、安定的にキレート化された形態、典型的にはジエチレントリアミンペンタ酢酸キレート(DTPA)として、もしくはDTPAの同族体、たとえばテトラアザシクロドデカンテトラ酢酸、DOTAおよびそれらのキレート化剤、ならびにその他のキレート化剤の類似体とのキレートとして使用されてきた。Gdを含むナノ粒子は、これまでは臨床用には承認されていない。毒性がより低い鉄(III+)が、Feナノ粒子の形態で臨床的に使用されてきた。より大きなFeナノ粒子は、細網内皮系(RES)の中に速やかに蓄積され、そのために血液寿命(blood lifetime)が短く、肝臓の映像化に用途が見出された。より小さなFeナノ粒子は、RESから漏れ出すために血液寿命がより長く、生体内で映像化させるためにより広い可能性を有していると考えられてきた。ナノ微粒子の形態のFeの臨床的な使用に関しては、アグロメレーションに対するそれらの安定性を向上させ、それらを免疫系には見えないようにするために、それらの粒子はコーティングされてきた。そのコーティングは、典型的には生分解性であったが、その理由は、それによって、金属酸化物コアの分解を容易とし、さらには患者の身体からその粒子および金属イオンを容易に排出させることができるからである。しかしながら、これは、多くの場合毒性の強い、非内因性金属イオンを含む粒子には適用することができない。そのような場合には、体内から粒子を安全に除去するには、腎排泄に依存するのが、より合理的と考えられる。腎排泄をさせるためには、粒子を極めて小さくする必要がある。測定方法、表面電荷および未知の物質要素に依存するが、腎臓濾過のための典型的なカットオフサイズ(cut-off size)は直径約6〜8nmであるが(O'Callaghan, C., Brenner, B.M., "The Kidney at a Glance, Blackwell Science, 2000 p 13)、より大きな粒子、たとえば10nmまでの粒子も、塑性効果(plasticity effect)のために排泄することができる。
【0008】
現世代の造影剤に伴う問題のために、上述のタイプの造影剤中に金属イオンをカプセル化させるためのそれらに代わる戦略が望ましい。安定的にコーティングされた金属酸化物ナノ粒子は、この問題の解決法となりうる(Marckmann P., et al., J Am Soc Nephrol., 17(9): 2359-62, September 2006, Epub August 2006)。
【0009】
コーティングされたMRIナノ粒子のためには、そのコーティングが、金属酸化物コアと、回りの媒体中にある水分子との間の磁気双極子カップリングを妨害することがなく、あるいはその粒子の緩和性が低いことが肝要である。腎排泄を目的としたナノ粒子のためには、このタイプの排泄には十分な安定性を有し、現行のMRI造影剤に勝る改良を与えるために、水分子を会合させるための十分な機会を与えるコーティングを設計することが挑戦課題となるであろう。
【0010】
関連の背景技術刊行物:
1.国際公開第2005088314号パンフレット(Perriat et al.)
2.国際公開第2006031190号パンフレット(Uvdal et al.)
3.米国特許出願公開第2004156784(Haase)
4.米国特許第4770183(Groman)
5.米国特許出願公開第20030180780(Feng et al.)
6.米国特許第6638494(Pilgrimm)
7.CN 1378083 (Sun et al.; Chemical Abstracts 8 March 2004, XP002300295 extract from STN data base accession no 2004:184856)
8.Bazzi et al., J. Colloid Interface Sci., 273 (2004) 191-197
9.Bridot et al., J. Am. Chem. Soc., 2007, 129, 5076-5085, Publ March 31, 2007.)
10.Feng et al., Anal. Chem. Am. Chem. Soc, Columbus US, 75(19) (2003) 5282-5286
11.Jun et al., Nanomaterials for Cancer Diagnosis, Ed. Challa S. S. R. Kumar, Nanotechnologies for the Life Science, Vol 7 (147-173) 2007., Wiley-VCH Verlag GmbH & Co.KGaA, Weinheim, Germany
12.Louis et al., Chem. Mater., 17 (2005) 1673-1682
【0011】
本明細書に引用されたすべての特許、特許出願および公刊物は、参照することによりそれらのすべてを組み入れたものとする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の概要
本発明の主たる態様は、本明細書の導入部分に一般的に概説したような、好ましくはMRIによって、生体物質を可視化するための方法である。その方法には、以下のステップが含まれる:
(i)ナノ粒子の個体群を前記生体物質と接触させるステップであって、そのナノ粒子それぞれに、a)その中で金属酸化物が露出されている表面を含むコア、およびb)そのコアの表面を被覆するコーティングが含まれる、ステップ、および
(ii)たとえば、自体公知の方法においてその画像を記録するステップ。
【0013】
その金属酸化物には遷移金属イオンを含み、たとえば前記遷移金属イオンが常磁性であることによって、常磁性であるのが好ましい。その遷移金属イオンは、好ましくはランタニド(+III)、たとえばガドリニウム(+III)である。個体群中のコア粒子は、金属酸化物の出現に関しては、典型的には均質である、すなわち、通常の変化態様においては、金属酸化物がその表面だけではなく、コア粒子全体にくまなく位置している。その金属イオンおよび粒子のサイズを適切に選択すれば、コア粒子およびナノ粒子を超常磁性とすることができる。
【0014】
他の態様においては、本発明は、コア粒子の個体群をコーティングする方法および生体物質を可視化するための組成物を目的としている。本発明の他の態様は、以下の詳細な説明において、より明らかとなるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0015】
詳細な説明
本発明は、生体物質を可視化するための方法および組成物、ならびにコア粒子の個体群をコーティングする方法を目的としている。
【0016】
ある種の映像化技術(本明細書においては、特にMRIを強調して説明している)においては、造影剤として使用することが可能な、改良されたナノ粒子が必要とされている。これには、新規な金属酸化物ナノ粒子が含まれていて、それが画像におけるコントラストを上げることおよび信号を強くすることに役立ち、このことが、データ収集時間の短縮、空間分解能の向上、または造影剤の投与量の削減に繋がっている。その結果として、走査測定が、典型的には2時間まで、たとえば45分間までの時間の間で実施される、本発明のある種の実施態様を使用することによって、1mmボクセル線寸法(サイズ)までの空間分解能を容易に達成することが可能となるはずである。ある種の実施態様においては、0.1mmまたはそれ以下のボクセル線寸法までの分解能、現実的にはほとんどの場合、0.01mmボクセル線寸法を超える分解能であるのが望ましい。速度および信号対ノイズ比が十分に高いことによって、解剖学的映像化におけるいくつかの適用を可能とするのにさらに有利となる。特に、所定の範囲内の分解能を有する冠動脈造影は、診断上では極めて有用である。
【0017】
大きなエンティティに対してのより大きな漏れやすさを示したり、および/または正常組織に比較してより組織化されていない内皮によって描写されたりする、腫瘍の映像化および/またはその他の組織の映像化におけるコントラストを向上させるために、ナノ微粒子造影剤を使用するのも有利である。ひとつの実施態様においては、そのような薬剤は、抗血管新生療法に対する応答をモニターするのに有用である(H. Daldrup-Link et al., Academic Radiology, Volume 10, Issue 11, Pages 1237-1246)。
【0018】
毒性を低下させることもまた有利であるが、毒性の低下は、金属イオンの放出に対する安定性の向上(分解を受けない、安定なコーティング)と、有毒な金属イオンを生体内で放出させずに腎臓濾過によって患者からそれらのナノ粒子を除去することとに、密接に関連している。MRIへ適用するために有利なのは、粒子の毒性の低下と腎排泄を達成させながら、かつ、ナノ粒子の金属イオンと周辺の液状媒体中の水素核との磁気双極子カップリングを効果的に維持すること、すなわち、ナノ粒子が適切に設計されていないと相互に打ち消しあってしまうような効果を必要とする、二つの目的を達成することである。
【0019】
本発明の各種の実施態様は、これらの利点の一つまたは複数を提供する。
【0020】
本発明の主たる態様は、本明細書の導入部分に一般的に概説したような、好ましくはMRIによって、生体物質を可視化するための方法である。その方法には、以下のステップが含まれる:
(iii)ナノ粒子の個体群を前記生体物質と接触させるステップであって、そのナノ粒子それぞれに、a)その中で金属酸化物が露出されている表面を含むコア、およびb)そのコアの表面を被覆するコーティングが含まれる、ステップ、および
(iv)たとえば、自体公知の方法においてその画像を記録するステップ。
【0021】
その金属酸化物には遷移金属イオンを含み、たとえば前記遷移金属イオンが常磁性であることによって、常磁性であるのが好ましい。その遷移金属イオンは、好ましくはランタニド(+III)、たとえばガドリニウム(+III)である。個体群中のコア粒子は、金属酸化物の出現に関しては、典型的には均質である、すなわち、通常の変化態様においては、金属酸化物がその表面だけではなく、コア粒子全体にくまなく位置している。その金属イオンおよび粒子のサイズを適切に選択すれば、コア粒子およびナノ粒子を超常磁性とすることができる。
【0022】
そのような、ナノ粒子ならびにそれらのコーティングおよびコア粒子は、以下の我々の米国仮特許出願第60/899,995(2007年2月7日出願、発明の名称「Compositions containing metal oxide particles and their uses」)にも記載されている。
【0023】
この方法の、主たる特徴は、そのコーティングが親水性であって、コア粒子の表面の隣に、1種、2種または複数の異なったシラン基を含むシラン層を含んでいることである。それらの基のそれぞれが、シラン−シロキサン結合の−O−Si−C−を介してコアの表面に結合された有機基R(すなわち、R、R、Rなど)を含むが、ここで、a)酸素原子Oがコア粒子の表面金属イオンに直接結合されており、そしてb)典型的にはsp混成軌道化された炭素原子Cが、疎水性スペーサーBの一部であって、1個または2個の他の炭素に直接結合されている。異なった有機基Rのそれぞれは、疎水性スペーサーBと、Bに直接結合された親水性有機基R’(すなわち、=R1’、R2’、R3’など)とを含む。疎水性スペーサーBは、異なった基RおよびR、では異なっている、すなわち、BはB、B、Bなどであってよい。炭素原子Cに結合している1個または2個の炭素が、sp混成軌道化されていることが好ましく、またBの長さに依存して、それらがBおよび/またはR’の一部である。コーティングおよび/またはコア表面に隣接するシラン層のみが、(シラン基に関して)単分子層のサイズであるのが好ましい。
【0024】
そのコーティングが、疎水性シラン基を示してもよい。
【0025】
疎水性スペーサーBは純然たる炭化水素スペーサーであって、比較的短いものであるべきであって、たとえば以下の構造を含む:
2n−2a− (式I)
ここで、それらの水素の1個、2個またはそれ以上が、可能であれば、それぞれ低級アルキル基または低級アルキレン基を用いて置換されている。nの範囲は、1〜10の間の整数、好ましくは1、2、3、4または5である。aの範囲は、0、1、2、3などの整数であるが、ただしa≦nである。本明細書の文脈においては、「純然たる」という用語は、Bが炭素と水素だけを含むということを意味している。aが0に等しければ、スペーサーBは−C2n−となる。
【0026】
本発明の文脈においては、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルキレン、および低級アシル(特にアルカノイル)は、C1〜10アルキル、C1〜10アルコキシ、C1〜10アルキレンまたはC1〜10アシル基を意味するであろう。特に断らない限り、それらの基は、ヘテロ原子含有基(ヘテロ原子=O、N、S)を用いて置換されていてもよいが、これについては、以下においてRおよびR1’について説明する。
【0027】
コーティングは、コア粒子を1種または複数のシラン反応剤と反応させることによって作り出される。本発明の好ましい変化態様におけるように、シラン反応剤がただ1個の有機基Rを有しているならば、そのR基は、3個の酸素を介して(R−SiO)そのコアの表面中の1個または複数の金属イオンに安定的に結合されるであろう。表面に隣り合う層およびさらにはコーティングそのものが、ポリシロキサンを含ませる、たとえば網状化反応性シリケートと反応させることによってさらに安定化させることが可能であるが、これについては「コーティング手順」の項で説明する。好適なポリシロキサンは、典型的には架橋網目(典型的には3Dまたは2D)を画定し、そのことが、表面に隣接する層の中の各種の欠陥を繕い、それによってコアから金属イオンが放出されることをより困難にさせることに、効果的に役立つ。安定化を最大とするためには、コア表面に隣接する層および/またはコーティングそのものが、好ましくは最密充填に近いくらい極めて密度が高いということが肝要である。
【0028】
ポリシロキサンは、シラン基が付加しているかどうかには関係なく、コア表面に隣接するシラン層の上にさらなる層を画定する。この第二の層に存在しているシラン基は、典型的には、シラン基の有機部分とコア粒子の表面との間に、2個以上のケイ素原子を含むシロキサン結合[−(Si−O)、ここでnは、≧2の整数]を介してコア粒子の表面に結合されている。
【0029】
表面金属イオンの数は、各種の結晶状態と金属酸化物の種類とから容易に求めることができる。その金属酸化物が酸化ガドリニウムであるとすれば、表面ガドリニウムイオンの数は次式によって推定することが可能である:
【数1】


[式中、dは、酸化ガドリニウムの密度であり(7.41g/cm=7.41×10g/m)、rは、コア粒子の半径であり、lは、最も優勢な(prominent)結晶面の間の距離であり(この場合は(222)面で、3.12×10−10m)、Mは、GdO1.5の分子量=181g/molであり、そしてNは、アボガドロ数6.022×1023/molである。]この式は、酸化ガドリニウムの嵩密度がナノ微粒子物質の密度に近いこと、および粒子が球状であるとの仮定に基づいたものであるので、文字通りに正しいと受け取ってはならないが、合理的な推算としては受け取ることができる。
【0030】
直径2nmのGd粒子は、69個の表面ガドリニウムイオンを有し、ガドリニウムイオンごとに1.5個の酸化物イオンを含むであろう。(1個の有機シラン基と3個のアルコキシ基を含むシラン反応剤から誘導された)3個の酸素を担持するシロキサン結合では、2個の表面ガドリニウムイオンごとに1個のシロキサン結合が入る余地があると仮定するのは、理屈に合っている。したがって、粒子の表面を完全に覆うとすると、2ナノメートルのコア粒子には約34個のケイ素原子が必要となるであろう。上記と同様の計算をすれば、2nmの粒子中のガドリニウムイオンの総数は103となるはずである。したがって、このサイズの粒子を完全に被覆する場合には、ケイ素対ガドリニウムのモル比は、34/103=0.33となることが予想される(最大Si:Gdモル比、または2nm粒子を完全被覆するための値)。したがって、シランの単分子層を有する酸化ガドリニウムナノ粒子は、問題としている粒子サイズの完全被覆値の≧50%のケイ素対ガドリニウム比を有しているべきであり、好ましくはより高いパーセントたとえば≧80%、さらに高いたとえば≧90%である。一連のコアサイズである場合の酸化ガドリニウム粒子についての、完全被覆値(=最大Si:Gdモル比)を表1にまとめた。
【0031】
【表1】

【0032】
そのコーティングが、ポリシロキサン(有機シラン基の存在の有無にかかわらない)を含むさらなる層を含んでいるとすると、上で定義された実際のケイ素対ガドリニウム比は、完全被覆値よりも高く、すなわち100%を超えるであろうが、好ましくは、≦1000%、たとえば≦750%または≦500%または≦250%または≦150%となるであろう。
【0033】
そのコア粒子が他の遷移金属の酸化物、たとえば他のランタニドの酸化物をベースとするようなナノ粒子の個体群においても、同様の計算を実施することもできる。本質的には、ケイ素と金属イオンとの間のモル比には、上述の酸化ガドリニウムナノ粒子の場合と同じパーセント間隔(percentage interval)が適用されるであろう。粒子が2種以上の異なった金属イオンを含んでいるような場合には、最も優勢な結晶面に相当する結晶面の間の距離を基準にして計算しなければならない。
【0034】
上述の範囲は、すべての粒子が、直径として幾何学的平均直径を有していると仮定すると、粒子の個体群にも適用される。
【0035】
コーティングにおいては、ケイ素と、ケイ素に直接結合している炭素との間のモル比は、≧1、かつ典型的には≦10、たとえば≦5または≦2.5であって、好ましくは、≦1.5または≦1.25または≦1.1であるが、但し、恐らくは他の網状化シリケートと結合されたモノアルキルシラン反応剤が、そのコーティングプロセスに使用されていたという条件下においてである。そのコーティングプロセスに、ジアルキル−および/またはトリアルキルシラン反応剤との反応が含まれているような場合には、その比率が<1となるかもしれない。これらの範囲は特に、コア表面に隣接して存在しているシラン単分子層にはあてはまるが、すなわち、この状態では、そのケイ素原子が−O−Si−C−または−O−Si−O−結合の一部であって、その中で、酸素の内の少なくとも1個がコアの表面の金属イオンに直接結合し、(もし存在するならば)残りの酸素が他のケイ素原子に結合している。
【0036】
そのコーティングは典型的には、≦10nm、たとえば≦5nmまたは≦1nmまたは≦0.7nmの厚みを有しているが、典型的な下限は0.1nmまたは0.5nmである。単分子層の厚みは、R(およびR’)のサイズに依存し、典型的には≦5nmまたは≦1nmまたは≦0.7nmであり、典型的な下限は0.1nmまたは0.5nmである。本明細書の文脈においては「厚み」とは、その個体群のナノ粒子のコーティングの平均の厚みを指している。
【0037】
この方法において使用される個体群のナノ粒子、すなわちコーティングされたコア粒子は、典型的には、≦20nmまたは≦10nmまたは≦6nmの範囲内に入る、平均流体力学的径(サイズ)を有している。それらのナノ粒子の実際に測定されるサイズは、そのコーティングの組成と、そのナノ粒子が存在している環境とに依存するであろう。たとえば、コーティングは、水性媒体中では膨潤する傾向がある(親水性コーティング)。特に好適にコーティングされた変化態様には、≦7nm、たとえば3〜6nmの範囲内の平均流体力学的径(サイズ)を有するナノ粒子の個体群が含まれていて、それらのナノ粒子が患者の体内に存在しているときに腎臓濾過によって除去されやすくしている。しかしながら、7nmを超える、たとえば8nmまでまたは10nmまでのより大きな流体力学的径を有するコーティングされた粒子でも、変形のために濾去されることも可能である、言い換えれば、有効な濾過径は流体力学的径とは同一である必要はないということには注意されたい。
【0038】
それらのコーティングのサイズおよびナノ粒子のサイズとは、脱イオン水中で、動的光散乱法(DLS)によって測定されたものを指している。
【0039】
本方法で使用されるナノ粒子の個体群(コーティングされたコア粒子)は単分散系であるのが好ましく、すなわち、そのナノ粒子の≧25%、たとえば≧50%、好ましくは≧75%または≧90%または95%が、≦10nm、好ましくは≦5nmまたは≦3nmまたは≦2nmまたは≦1nmの幅のサイズ間隔に入るサイズを有するか、および/またはそのナノ粒子の≧75%、好ましくは≧90%、たとえば≧95%のサイズ分布が、平均ナノ粒子サイズの±75%、たとえば±50%または±25%または±10%であるサイズ範囲の中にある。ほとんどの生体内用途においては、好適なナノ粒子の個体群は、ナノ粒子の≦10%、好ましくは≦5%が、≦4nm、たとえば≦3nmまたは≦2nm、ならびに/または≧6nm、たとえば≧7nmまたは≧8nmまたは≧9nmまたは≧10nmであるサイズ分布を有するであろう。単分散系ではないナノ粒子の個体群は、多分散系である。
【0040】
コーティングの有機部分
本発明の親水性コーティングは、典型的には、酸素、窒素、硫黄、およびリンから選択される1種または複数のヘテロ原子を含む、複数の極性官能基を示す。それらのヘテロ原子は、1価、2価および3価の官能基、たとえばエーテル、チオエーテル、ヒドロキシル、カルボニルたとえば、カルボン酸ならびにその塩、アミドおよびエステル、カルバミド、カルバメート、ケトなど、ホスホン酸ならびにその塩、エステル、およびアミド、スルホン酸ならびにその塩、エステル、およびアミド、スルホンなどの中に存在していてよい。親水性コーティングの中における、上述のヘテロ原子の数と、炭素原子の数との間の比率(「親水性比」)は、典型的には、≧0.2、たとえば≧0.3であるが、これには疎水性スペーサーBからの寄与は含まれない。アミド、ヒドロキシルおよび/または繰り返しのエチレンオキシ基の、単独または相互に組み合わせたものの中から選択される1個または複数の基が存在する下部構造を含むコーティング構造は、それらが極性の性質を有していて、それにより、それらが粒子の緩和性に対して有効な効果を有しているであろう多くの数の水分子と会合することが可能となるために、特に価値がある。たとえば同種または異種のこれらの基を2個以上含む下部構造では、隣接している基のヘテロ原子(窒素および/または酸素)の間で、ゼロ個、1個、2個、3個または4個の原子の結合が存在しているはずである。そのような結合は、典型的には、1個、2個または3個の炭素原子を含む。そのような下部構造の好適なものには、1個、3個、4個またはそれ以上のアミド基および/または1個、3個、4個またはそれ以上のヒドロキシ基が含まれる。
【0041】
コーティングにおける官能基と上述の親水性比の範囲は、本来的に、有機基Rの一部である親水性有機基R’にも適用される。したがって、親水性有機基R’は、典型的には、一つ、二つまたはそれ以上の位置で、a)ヘテロ原子(O、N、SおよびP)を含む少なくと2価の官能基によって中断されているか、および/またはb)(i)ヒドロキシルもしくは低級アルコキシもしくは低級ヒドロキシアルコキシ基、またはアミノもしくは置換アミノたとえば低級C1〜10アルキルアミノ(モノ−、ジ−およびトリ−アルキルアミノ)を用いて置換されているか、(ii)炭素鎖の分岐点と、親水性有機基の中に存在していてもよいのと同一の構造要素から選択される構造要素を含む分岐基とから構成されている炭素を含む、炭素鎖を含んでいる。その親水性有機基R’は、直鎖状、分岐状、または環状であってよい。それらの低級アルキル基および低級アルコキシ基は、たとえば以下においてRおよびR1’について説明するように、ヘテロ原子含有官能基を用いて置換されていてもよい。
【0042】
親水性有機基R’は、a)2価のヘテロ原子含有官能基を介するか、またはb)ヘテロ原子に直接結合しているsp−炭素原子を介して、スペーサーBに結合されている。それらの結合基のいずれもが、親水性基R’の一部と考えられる。
【0043】
典型的な少なくとも2価の官能性ヘテロ原子含有基は、エーテル(−O−)、チオエーテル(−S−)、およびアミド(−CO−NR−、−NR−CO−)(ここでRは以下に挙げるのと同じ意味合いを有する)、ならびに先に挙げた官能基および以下に示す基Xの少なくとも2価の形態である。
【0044】
親水性基R’においては、それぞれのsp混成軌道化された炭素は、典型的には多くとも1個のヘテロ原子(O、NまたはS)と結合している。
【0045】
上で説明した親水性基R’中の炭素鎖は、典型的には、相互に結合されたつながった多くとも35個の原子(炭素および間に入っているヘテロ原子を含む)を有している。
【0046】
そのコーティングは、ナノ粒子に、溶液中でそれらが凝集することを防止するための実効電荷を与える荷電された基を露出しているのが好ましい。電荷の数と種類を選択して、そのナノ粒子の個体群に、塩の存在しない水(脱イオン水)の中で、≧20mV、たとえば≧30mVの絶対ゼータ電位を与えるようにしなければならない。その荷電された基は、負および/または正に荷電された基から選択すればよいが、前者の方が好ましい。好適な負に荷電された基(アニオン性)の例としては以下のものが挙げられる:カルボキシ/カルボキシレート(−COOH/COO)、ホスホネート(−PO2−/−PO/−PO)、スルホネート(−SO/−SOH)(ここで、自由原子価は、炭素、好ましくはsp混成軌道化された炭素に結合している)。正に荷電された基(カチオン性)の例は各種のアンモニウム基、たとえば一級、二級、三級および四級アンモニウム基で、好ましくは四級のものであるが、その理由は、生体内で適用した場合に、それらが対象物の完全なpH間隔の中に荷電されるからである。それらの荷電された基は、1種または複数の異なった親水性有機R’基の少なくとも一つの中に存在しているのが好ましい。
【0047】
荷電されたR’基と荷電されていないR’基との間のモル比(粒子の個体群の場合の)の平均値は、好ましくは負に荷電されたR’基と荷電されていないR’基との間の比に関しては、典型的には、≧0.05、たとえば≧0.1または≧0.5で、かつ、≦20、たとえば≦10または≦2である。
【0048】
Rの中の親水性基R’は、この方法の好ましい変化態様においては、次式を満たす基から選択される:
−(ACHCH(OCHCHA’(CHn’X (式II)
ここで、
a)n’は、0〜15、好ましくは1〜5の整数であり、
b)mは、0〜10、好ましくは2〜5の整数であり、
c)oおよびpは、等しくても異なっていてもよい0または1の整数であるが、ただし、mが0の場合には、それらの内の一つが0であるのが好ましく、
d)AおよびA’は、先に定義されたようなヘテロ原子含有2価の官能基(そのヘテロ原子が酸素、窒素および硫黄から選択される)であるが、好ましくはエーテル、チオエーテルおよびアミノであり、そして、
e)Xは、カルボキシレートアルキルエステル、ホスホネートアルキルエステル(モノおよびジアルキル)、スルホネートアルキルエステル、N−アルキルアミド(モノおよびジアルキル)、N−アルキルホスホン酸アミド(モノ−およびジアルキル)、N−アルキルスルホンアミド(モノ−およびジアルキル)、アルキルエーテル、およびそれらに対応する加水分解された形の中から選択される。
【0049】
したがって、基Xは、−COOR、−PO(OR)(OR1’)、−SO(OR)、−CO(NR1’)、RCO(NR1’−)、−PO(NR1’)、RPO(NR1’−)、−SO(NR1’)、RSO(NR1’−)、および−ORの中から選択すればよい。各種のXの中におけるRおよびR1’は独立して、水素、ならびに場合によっては1個または複数のヒドロキシルおよび/またはアミノ基を担持する(=それらによって置換されている)か、ならびに/または、一つまたは複数の位置で酸素、窒素もしくは硫黄から選択されるヘテロ原子、または本明細書のおいて与えられたタイプのいくつかの他の少なくとも2価のヘテロ原子含有官能基が挿入されることによって中断されている炭素鎖を含む、直鎖状、分岐状または環状のC〜1Oアルキルから選択される。
【0050】
親水性基R’にはさらに一つまたは複数の分岐が含まれていてもよいが、そのような分岐は、式IIにおける1個または複数の水素を、式IIに適合する基を用いて置き換えることによって得られる。
【0051】
好適な親水性有機基R’および組合せは以下のものである:
a)−CHCHCOOCHおよび/または−CHCHCOOCHCH、単独または−CHCHCOOHとの組合せ、
b)−CHCHPO(OCHCHおよび/または−CHCHPO(OCH、単独または−CHCHPO(OH)との組合せ、
c)−CHCH(OCHCHOH(n=1〜5の整数)および/または−CHCH(OCHCHn”OCH(n”=1〜5の整数)、単独または、−CHCHCOOHおよび/もしくは−CHCHPO(OH)および/もしくは−CHCHSOHとの組合せ、
d)−CHCHCHNHCONHR(ここで、Rは先に挙げたのと同じ意味合いを有し、好ましくは−CHCHOHである)。
【0052】
本発明のコートの目的は、金属イオンを放出しやすい傾向に関連して、コア粒子の安定性を改良することである。したがって、一つの実施態様においては、本発明のナノ粒子は、水性媒体においての金属イオンの放出が抑制されて、対応する未コーティングの形態(むき出しの形態、コアの形態)の寿命に比較して、少なくとも同じだけの寿命か、または少なくとも150%、たとえば少なくとも200%または少なくとも300%長い寿命を与える。それらの比較は、実験の部で詳しく述べるようにして同一条件下で得られた結果の間のものであるが、水性懸濁液中に存在するコア粒子の金属酸化物の1種または複数の遷移金属イオンの濃度/量が、出発時の濃度/量の50%となるまでの時間として測定した寿命(半減期、t1/2)を用いたものである。
【0053】
そのコーティングには、生体物質のある種の構造をターゲットとするためのいわゆるターゲット基(targeting group)および/またはいわゆるラベル基、たとえば、フルオレセント基またはルミネセント基を含んでいても、含んでいなくてもよい。ターゲティングや、ラベルの検出を含めた試験用途を目的としていないナノ粒子のコーティングは、典型的には、ポリペプチド構造、核酸構造、脂質構造、多糖類構造、および/または共役二重結合の系たとえば芳香族系およびα−β不飽和カルボニル構造を欠いている。
【0054】
動物の身体もしくはその器官の中における造影剤として使用され、血液循環を介して投与されるナノ粒子は、所望の画像を記録するのに十分な時間の間は血液循環中に残っていることが可能でなければならない。所望される正確な寿命は、画像形成させるべき身体部分/器官と、動物種たとえば、ヒト、マウス、ラット、兎、モルモットなどに依存する。一般的なガイドラインとしては、このタイプの適切な寿命(t1/2)は、典型的には、≧5分間、たとえば≧10分間、または≧30分間または≧1時間またはそれ以上の期間であり、寿命(t1/2)の上限は、典型的には、2時間、24時間、48時間、62時間またはそれ以上であるということが見出されているが、特に強調すべきは、そのナノ粒子が投与された生体から、48時間の間に≧80%、たとえば≧90%または≧99%が浄化されていることである。
【0055】
組成物
可視化に使用するための、本明細書に記載されたナノ粒子の個体群の組成物が、本発明の第二の主たる態様を構成する。それらの組成物においては、ナノ粒子の個体群を、A)緩衝系、たとえば、生理学的に許容される緩衝系、および/または適切な非緩衝性塩、たとえば、生理学的に許容される非緩衝性塩、および/または炭水化物、たとえば単糖類もしくは(一つ、二つ、三つまたはそれ以上の単糖単位を含む)多糖類と共に混合するか、および/またはB)乾燥粉体の形態中、または液体たとえば水性液体たとえば水の中での分散体として存在させる。粉体の形態は、粒子と適切な液状媒体とを含む分散液を凍結乾燥、空気乾燥、スプレー乾燥などすることによって得たものであってよい。本発明の組成物の粉体の形態のものは、典型的には、その中でそれらの粒子を使用する液体の中に分散させることが可能である。
【0056】
そのような液体は、典型的には、生理学的に許容される液体および/または水性液体(たとえば、水)である。液状の分散媒体中、または乾燥させた形態(たとえば、粉体の形態)にある組成物中に加えることが可能な有用な緩衝系の例としては、2−モルホリノ−エタンスルホン酸(MES)、4−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−1−エタンスルホン酸(HEPES)、およびトリスヒドロキシメチルメチルアミン(TRIS)などが挙げられる。リン酸塩緩衝剤は粒子に対して悪影響を与える可能性があるので、使用するのならば、他の緩衝剤の場合よりも安定度の高いコーティングを必要とするであろう。凝集や沈降を促進する緩衝剤は避けるべきである。水溶性である、たとえばグルコース、ラクトース、サッカロース、トレハロースなどの炭水化物が適している。
【0057】
組成物にはさらに、他の成分たとえば、1種または複数の他の粒子の個体群(他のナノ粒子も含む)を含んでいてもよい。
【0058】
たとえば、生理学的に許容される水性液体相の中に分散されたナノ粒子を含むこの革新的な組成物の分散系変化態様においては、そのコア粒子の中に存在する金属酸化物の金属イオンの最適な総合濃度は、≧10mMであるが、さらに好ましくは、≧50mMまたは≧100mMまたは≧500mMまたは≧1Mである。上限は4Mまたは10Mである。さらに高い濃度も、考えられなくはない。本発明の方法において使用される組成物は、典型的には、ナノ粒子の金属イオンの濃度が0.5Mである場合で、≦50mPas、たとえば≦25mPasまたは≦15mPasの粘度を有するが、これはすなわち、組成物が、金属イオンの濃度が0.5Mよりも高い液状分散体であるならば、0.5Mにまで希釈することによって、この範囲の粘度を得ることができるといことである。手動の大量瞬時投与の場合には、粘度が25mPas以下であるといことが重要であって、これが実施上の限界である。これを達成するためには、コーティングを最適に薄くして、低粘度でかつ高濃度にするという要求に見合うような粒子を調製することが重要である。多くの造影剤においては、注射可能な配合物/組成物中の造影剤粒子/分子の容積比率を約30%とすれば、この限界には到達できる。直径5nmのGdコア(表1によれば、1613個のGdイオンを含む)と2nmのコーティングを有する粒子を調製するためには、ナノ粒子の金属イオンを1Mとするには、分散体では約5%の容積分率しか必要ない。このことは、ガドリニウムキレートが高分子と組み合わされて、その構造が本発明のナノ粒子よりははるかに嵩張った従来からの高分子系造影剤よりは極めて有利である。
【0059】
本発明の造影剤がさらに有利な点は、その重量モル浸透圧濃度を、特定のMagnevist(GdDTPA)(その重量モル浸透圧濃度は1960mOsmと高い)よりは実質的に低くすることが可能である点にある。微粒子造影剤の場合には、その重量モル浸透圧濃度は、溶液中の粒子の総数にはあまり依存することなく、むしろ、その配合物中の非結合水の割合に依存することになるである。粒子の容積分率が5%未満であることから、いくらかの量の浸透圧的に活性な小分子、たとえばラクトースを配合物に添加して、その配合物が血液と等浸透圧(285mOsm)になるようにしなければならいようであるが、このことは患者にとっては利益になるであろう。
【0060】
本発明の組成物を分散させた形態にしたもののその他の特徴は、その水性液体相が、a)その組成物を投与する生体の血液と等浸透圧であること、およびb)コア粒子の製造および/またはコーティングプロセスからの、ジエチレングリコール(DEG)ならびに受容不能な反応剤、副生物および/または溶媒の残分がないということである。「・・・がない(devoid of)」という用語は、その組成物の中のそのような混入物のレベルが、規制当局、たとえば米国のFDAまたは日本もしくはヨーロッパの一つもしくは複数の国のそれに相当する当局によって、このタイプの組成物に対して承認される限度内であるということを意味している。DEGに関しては、この限度が組成物の0.2%未満とされているようであるが、この数値は、ヒトに投与することを目的とした組成物中のDEGの上限である。
【0061】
この組成物のある種の変化態様は、この組成物が、本明細書の別な箇所で説明した生物種の生体に投与するために採用されるということを特徴としている。動物の場合、これには、組成物を分散させた形態で、注射によって、たとえば個体の循環系にたとえば静脈内投与することにより、投与することが含まれる。
【0062】
その組成物は、コートとコア粒子の特徴に一致していることをさらに特徴としている。
【0063】
本明細書に記載の金属酸化物ナノ粒子を用いると、Gd3+−DTPAについて得られる信号の強度の少なくとも50%、たとえば少なくとも100%の強度を有する、水性サンプルからのプロトンMR信号を得ることが可能である。対応するGd3+−DTPA信号のたとえば少なくとも150%、または少なくとも200%、または少なくとも300%またはそれ以上の、さらに高いMR信号も想定できる。緩和速度(1/Tおよび/または1/T)に関しては、Gd3+−DTPAの場合に得られる緩和速度の、少なくとも50%、たとえば少なくとも100%または少なくとも150%または少なくとも200%の値を達成することが可能である。同一のGd(III)濃度、およびそうでなければ、実験の部で説明するのと同一の条件で得られた値の間で比較する。達成可能なr/rの比は、≦2、たとえば≦1.5または≦1.3である。
【0064】
顧客へ出荷するために調製した形態においては、この革新的な組成物は、典型的には30日より長い、たとえば1年より長い間安定である。本明細書の文脈においては「安定性」という用語は主として、その指定された期間における、a)組成物のナノ粒子中における金属イオンの含量、および/またはb)金属イオンの放出を妨害するコーティングの性能における減少のことを言う。(a)については、このことは、その期間の最後に、そのナノ粒子の金属イオン含量が、期間の最初における含量の≧80%、好ましくは≧90%、たとえば≧95%または≧99%であることを意味しており、そして(b)については、その指定された期間の後のそのナノ粒子の半減期(t1/2)が、≧10時間、たとえば≧24時間(1日)または≧5日または≧7日または≧15日、好ましくは≧30日または≧1年である。測定については、実験の部で概略説明する。
【0065】
コーティング手順
本方法において使用されるコーティングされたナノ粒子の製造は、本発明の第三の主たる態様である。製造プロセスには二つの主たる経路が含まれる:a)シラン反応剤(コーティング前駆体)を使用してコア粒子の上に所望の有機基Rを直接的に導入することを含む一段経路と、b)次のステップで変性する必要がある有機基を含むシラン反応剤(=コーティング前駆体)を使用して、最終的なコーティングに所望の基Rを得る多段経路とである。多段経路に従った導入には、2段またはそれ以上のステップを含めた、段階的な導入が含まれていて、それにより最終的なコーティングに所望のR基を得る。その製造プロセスには、それら二つの経路を組み合わせたものが含まれていてもよく、すなわち、コーティングのR基の幾分かは一段経路に従って導入し、他のものは多段経路に従って導入する。本願発明者らが見出したところでは、一段経路が好ましく、たとえば、使用されるシラン反応剤(コーティング前駆体)の少なくとも1種、または可能な限り多くが、一段速度に従って、すなわち下記の(b2)に従って機能するべきである。
【0066】
そのコーティング手順は、第一の態様について説明したように、それらの表面に金属酸化物を含むコア粒子の個体群をコーティングするための方法である。その方法には、以下のステップが含まれる:
(i)前記コア粒子の個体群を準備するステップ、
(ii)その個体群のコア粒子を、1種、2種、3種またはそれ以上の異なったシラン反応剤(コーティング前駆体)と接触させるステップであって、それらのそれぞれは、以下のものを示す:
a)反応剤のケイ素原子を含む反応性基、たとえばアルコキシシラン基、および
b)有機基であって、
b1)各種のシラン反応剤とは異なっている、
b2)最終的なコーティングの一部である(R基に等しい)、または
b3)そのような部分に変換可能である(R基に変換可能である)、ならびに
(iii)有機基を変換させるステップであって、
a)ステップ(ii)において使用されたタイプ(b3)のシラン反応剤から誘導するか、
b)ステップ(ii)において前記表面に結合されているか、
の有機基を前記コーティングの一部(=前記コートの有機基R)に変換させるステップ。
【0067】
反応性基は、−O−Si−C−結合によって反応剤の有機基をコアの表面に結合させることが可能であるが、ここでその酸素原子はコア粒子の表面金属イオンに結合され、その炭素原子はシラン反応剤の有機基の一部である。その反応性基は、典型的には、以下において説明する網状化剤中のX、X、XおよびXで定義される反応性基と同じタイプのものである。ステップ(ii)は、このタイプの結合が可能となる条件下で起きる。
【0068】
その反応条件は当該技術分野においては公知であって、それには、トリアルキルアミンの存在下での加水分解的条件、および/またはマイクロ波を用いてその反応混合物を処理して、粒子を局所的に加熱することが含まれていてよい。マイクロ波は、コア粒子の表面に直接結合したシラン基の単分子層を作り出すのには好ましい。
【0069】
好ましい変化態様においては、その方法には以下のことが含まれる:
(a)シラン反応剤の少なくとも1種が、
(i)(b2)に従っていて、かつ荷電されたシラン基、好ましくは負に荷電されたシラン基を有しているか、または
(ii)(b3)に従っていて、かつ荷電されたシラン基を有するか、または、最終的なコーティングでは荷電されたシラン基、好ましくは負に荷電されたシラン基に転換される荷電されていないシラン基を有しており、そして
(b)残りのシラン反応剤の少なくとも1種が(b2)に従ってかつ荷電されていないか、あるいは、(b3)に従ってかつ荷電されていないか、あるいは最終的なコーティングの荷電されていない基に転換される荷電されたシラン基を有している。
基(a)のシラン反応剤と基(b)のシラン反応剤との間のモル比は、典型的には≦20、好ましくは≦1、かつ、≧0.1、たとえば≧0.5である。異なったシラン反応剤との間の反応は、それらの少なくとも2種(少なくとも1種の基(a)と少なくとも1種の基(b))において、競争的(同時)に実施されるのが好ましい。
【0070】
そのコーティング手順において使用されるシラン反応剤の少なくとも1種は、分岐状の有機基を含んでいてもよい。そのような基の分岐の少なくとも一つは、荷電されていて、たとえば負に荷電されていてもよい。
【0071】
この方法で使用されるシラン反応剤は、好ましくは以下のものを担持するケイ素原子を有している:
a)3個の反応性基であって、それらそれぞれが、ケイ素とコア粒子の表面の中の金属イオンとの間でシロキサン結合を作り出すことが可能な反応性基、および
b)1個のシラン基(モノアルキルシラン)。
それらの反応性基は、以下において説明するテトラ反応性ケイ酸誘導体の反応性基と同様なものから選択するのがよい。好ましいものについても同じである。
【0072】
本発明の、あまり典型的ではない、他のシラン反応剤においては、それぞれ3個または2個のシラン基と組み合わされた1個または2個の反応性基が存在していてもよい。
【0073】
ステップ(ii)において使用されるシラン反応剤の少なくとも1種、好ましくは全部の中のシラン基が、ケイ素原子に直接結合している疎水性スペーサー基と、好ましくはこのスペーサー基に結合している親水性有機基とを含む。このスペーサー基および親水性有機基は、R、R’およびコーティングのBの中に存在していてもよいものと同じ構造要素の中から選択することができる。好ましいケースにおいては、シラン反応剤のスペーサー基と親水性有機基とが、最終的なコーティングのそれぞれBおよびR’と同じである。
【0074】
異なったシラン反応剤に対するステップ(ii)は、順次、または同時(=競合的)のいずれで実施してもよい。同時反応には、部分的な重なりが含まれる、すなわち、後に続くシラン反応剤の一部が、先のシラン反応剤が全部反応しきるよりも前にその反応混合物の中に加えられが、例を挙げれば、後に続くシラン反応剤の一部を出発シラン反応剤と共に添加する。
【0075】
所望のシラン反応剤を得るための合成戦略は、触媒、たとえばSpeier's触媒(HPtCl・6HO)さらに好ましくはPtOの存在下に、相当するシランの(XO)SiHを、適切な不飽和化合物たとえばアクリル酸メチル(CHCHCOOCH)もしくはそれに相当するリンまたは硫黄類似体に添加するものである(これらについては、Mioskowski et al., in Org.Lett., 2002, 4, 2117-2119による報告がある)。場合によっては、前駆体合成の最後のステップとして、ケイ素含有残基を添加するのが有利であるかもしれないし、また別なケースにおいては、ケイ素原子を導入した後で、その構造をさらに手入れするのがより有利である可能性もある。さらに他の方法では、二重結合に付加させるためにクロロシラン、ClSiHを使用した後に、アルコールを用いて置換を行わせて、相当するシロキサンを生成させる。
【0076】
典型的には、モノアルキルシラン反応剤が、架橋されたシリカの網目となるコーティングを与えて、それがコアの表面を被覆するが、そのコアの表面は、シロキサンが必要とする幾何学的配置に完全に一致する必要はないために、いくらかの欠陥を含むことになるであろう。分解に対してコーティングを安定化させるために、架橋剤、たとえば求核剤とはテトラ反応性であるケイ酸の誘導体を導入して、そのような欠陥を可能な限り繕う。コーティング前駆体とテトラ反応性ケイ酸誘導体とを結合させて網目構造とする化学反応は、シラノール基のSiOHが自発的に縮合し、付随的に水分子を失って、ダイマーのSiOSiとなるものである。
【0077】
したがって、それらの粒子は、ステップ(ii)と並行して(競合的に)またはそれに続けて(順次に)、ケイ酸の網状化テトラ反応性誘導体と反応して、安定化ポリシロキサン骨格を形成する。典型的なそのような網状化反応剤は、一般式Si(X,X,X,X)を有しているが、ここでそれぞれのXは、式に従ってケイ素と結合されている場合には、ケイ酸の混合無水物官能基、酸ハライド官能基、エステル官能基、または前のパラグラフで説明した縮合反応を与えることが可能なケイ酸のその他各種の官能基を表している。Siに結合されたX基を含む反応性基は、典型的には、ヒドロキシ反応性であって、Si−O結合を与えるべきものである。別の言い方をすれば、Xの内の二つ、三つまたは四つが、それら互いに同一であっても異なっていてもよく、ハロゲンたとえば、F、Cl、BrおよびI、アルコキシたとえば低級アルコキシ、およびアシルオキシたとえば低級アシルオキシ(たとえば、アシルが脂肪酸アシルオキシ(アルカノイル))の中から選択される。このタイプの典型的な反応剤は、テトラメトキシオルトシリケート(TMOS)およびテトラエチルオキシオルトシリケート(TEOS)である。
【0078】
可視化技術
生体物質を可視化するための本発明の方法は、磁気共鳴映像法(MRI)において特に有用ではあるが、造影剤を使用するその他の映像化技術たとえば、コンピュータ断層撮影法(CT)、近赤外蛍光映像化法、陽電子放射分光法(PET)、顕微鏡法などにも適用してもよい。有利なことには、本発明の粒子はさらにX線造影剤としても使用することができるが、その理由は、ヨウ素よりも高いモルX線吸光度(molar X-ray extinction)を有する常磁性金属酸化物、たとえば酸化ガドリニウムが存在しているからである。
【0079】
従来、T重視のMR画像を作成するための正の造影剤としてそれらを使用したときに、本発明による粒子および組成物の最大の利点が達成されてきた。
【0080】
映像化ステップ(ii)は、先に示した範囲内に入る空間分解能を与えるような条件下で実施するのが好ましい。
【0081】
生体物質は、死体または生体から取り出した、組織物質、個々の細胞、またはその他の細胞サンプル、器官などであってよい。それらの物質は、有機体たとえば、植物、脊椎動物および無脊椎動物、微生物などから取り出してもよい。典型的な脊椎動物は、ヒトを含めた哺乳類や、鳥類などである。
【0082】
ステップ(i)は、当業者周知の原理に従って実施する。
【0083】
無傷の動物(ヒトを含む)または器官の中に存在していながら可視化される生物学的組織物質に関しては、ステップ(i)は、典型的には、血管(経動脈的または経静脈的に)を介して分散体の形態でそれらのナノ粒子を注射することを意味している。無傷の動物の場合にはさらに、たとえば、経筋肉的、経口的(胃を通過する際のナノ粒子の保護に適切な配慮)、経腹腔的などの他の経路もまた有用である。投与されるナノ粒子の量は、何を可視化するかに依存し、たとえば、身体または器官のより大きな部分を可視化するには、典型的には、より小さな部分の場合よりも大量/投与量が必要である。動物は、典型的には脊椎動物、たとえば哺乳類、鳥類、両生類、魚類などであるが、特にはヒトおよびペットも含めた各種の家畜類が含まれる。
【0084】
コア粒子の個体群
「コア粒子」という用語には、単一のコア粒子のみならず、最終的なナノ粒子の中に集まったままで保持される1個または複数のより小さなコア粒子から構成されていてもよいコア(=クラスター)もまた包含される。「コア」および「コア粒子」という用語は、文脈から明らかにそうではないと判る場合は別として、本明細書においては同意語として使用される。
【0085】
個々のコア粒子は、先に説明したように、少なくともそれらの表面上に、遷移金属イオンを含む金属酸化物を露出しているが、遷移金属イオンとして好ましいのは、ランタニド(+III)、たとえばガドリニウム(III+)である。特定の遷移金属イオンの金属酸化物によって画定される格子には、その格子の特定の遷移金属イオンおよびO2−それぞれに置き換えて、他の元素、たとえば他の遷移金属イオンおよび/またはアニオンがさらに含まれていてもよい。硫化ガドリニウムの混合物は、水性環境における粒子の安定性を改良する可能性がある。粒子の緩和特性を改良する目的で、その他の常磁性イオンたとえば、鉄および/または常磁性希土類金属イオン、および/またはその他のランタニドを添加することも考えられる。少量のシリケート、バナデート、ジルコネート、またはタングステートを添加することで、粒子のサイズ分布に有利な影響を与えることもできる。
【0086】
典型的には、コア粒子中の常磁性金属イオン、たとえばランタニド(+III)たとえばガドリニウム(+III)のモル含量は、コア粒子の中の遷移金属イオンまたは常磁性金属イオンの全含量の、≧50%、たとえば≧75%または≧90%または≧99%である。さらに、先に挙げた本願発明者らの同時係属出願の米国仮出願および、本発明の明細書と並行して出願された対応の国際出願を参照されたい。非常磁性である添加物に関する純度は、少なくとも80%(w/w)であるのがよい。常磁性金属イオンに関する純度は、遷移金属イオンの全含量の少なくとも80%である。
【0087】
好適な遷移金属以下の元素の中に見出される:族3bのSc、Y、La;族4bのTi、Zr、Hf;族5bのV、Nb、Ta;族6bのCr、Mo、W;族7bのMn、Te、Re;族8のFe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt;族1bのCu、Ag、Au;族2bのZn、Cd、Hg;ならびに、族3bには、ランタニド(Laおよび元素58〜71)およびアクチニド(Ac、元素89〜103)が含まれる。
【0088】
「ランタニド」(La)という用語は、本発明の文脈においては、特に断らない限り、「希土類金属」という用語の同義語として使用されている。したがってこの用語には、元素57〜71とみなされている真のランタニドに加えて、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)も含まれる。
【0089】
遷移金属は好ましくは、酸化物の形態で常磁性および/または強磁性を示すものであるべきである。前者の例としては、ランタニドの中、たとえばガドリニウムが特に挙げられる。後者の例としては、族8(Fe、CoおよびNi)が特に挙げられる。
【0090】
使用される個体群のコーティングされていないコア粒子は、対応するコーティングされた変化態様よりは小さく、典型的には、≦20nmまたは≦10nmまたは≦8nm、好ましくは≦6nm、最も理想的には1〜5nmの間の範囲の平均幾何学的直径(サイズ)を有している。それらの範囲の下限は、典型的には0.5nmまたは1nmである。測定については、実験の部で概略説明する。
【0091】
この革新的な組成物の個々のコアが、一つまたは複数の、上述の金属酸化物の単結晶領域(=クリスタリット)を含んでいるのが好ましい。このことは、革新的なナノ粒子の個体群が、非晶質構造を含むコア粒子と共に結晶質構造を含むコア粒子を含んでいたり、あるいは同一のコア粒子の中に両方の構造が存在していたりしてもよいということを排除するものではない。したがって、本発明の方法において使用される典型的な組成物においては、そのコア粒子の少なくとも10%、たとえば少なくとも25%または少なくとも50%または少なくとも75%が、結晶質構造を含む。好ましい変化態様においては、個体群のコアの100%もしくはほとんど100%、すなわち、≧75%、たとえば≧80%、≧90%が、結晶質構造を示すということも考えられる。
【0092】
「結晶質構造」という用語には、小さな粒子の表面原子の割合が高いためにその結晶格子が理想的なバルク構造からは幾分歪んでいたり、あるいは、その粒子が典型的な結晶欠陥たとえば、点欠陥、らせん転位および刃状転位のような線欠陥、または各種の面欠陥を含んでいたりする結晶様構造も含まれる。
【0093】
本発明による組成物のナノ粒子は、多孔質であっても、非孔質であってもよい。非孔質性は特に、コーティングされた粒子の金属酸化物コアに適用されるべきである。本発明による組成物には、その中に多孔質と非孔質両方のコアが存在しているナノ粒子が含まれていてよい。孔質性とは、水および/またはその他の液体がそのコア/コートの中に浸透する性能を指している。
【0094】
そのようなコア粒子は、金属酸化物ナノ粒子についての公知の原則に従って合成することができる。たとえば以下の文献を参照されたい:Soederlind et al., J Colloid Interface Sci., 288 (2005) 140-148; Feldmann, Adv. Funct. Mater., 13 (2003) 101-107; Bazzi et al., 102 (2003) 445-450; Bazzi et al., J Colloid Interface Sci., 273 (2004) 191-197; Louis et al., Chem. Mater., 17 (2005) 1673-1682; Pedersen et al., Surface Sci., 592 (2005) 124-140;国際公開第2005 0088314号パンフレット(Perriat et al.);国際公開第2006031190号パンフレット (Uvdahl et al.);ならびに米国特許出願公開第2004 0156784(Haase et al.);米国特許第6638494(Pilgrimm et al.)。
【0095】
原則的には、その合成経路には以下のステップが含まれる:(i)所望の金属イオンの可溶性の塩たとえばハライドまたは硝酸塩を、適切な水酸化物たとえば金属水酸化物、たとえばLiOHおよびNaOHと、適切な溶媒の中で混合して溶解させるステップ;(ii)結晶の核を形成させるステップ(核形成);および(iii)結晶を成長させるステップ。その溶媒を選択して、出発の塩および水酸化物化合物に比較して、所望の金属酸化物が溶解しないようにするべきである。その混合物を加熱している間に各種のステップを実施するが、加熱温度は、典型的には、ステップが異なれば異なる。典型的には、ステップ(ii)の進行中に、ステップ(iii)が始まっている。粒子のサイズ、サイズ分布、およびモルホロジー(たとえば、結晶)は、温度、濃度、温置時間(incubation time)、添加物などに依存するであろう。実験の部、ならびに引用された公刊物を参照されたい。
【0096】
本発明において使用されるコア粒子を製造するための、将来性のある先行結果は、流通系の中で、ステップ(i)のための第一の領域、ステップ(ii)のための第二の領域、およびステップ(iii)のための第三の領域を含む三つのステップを実施し、そのプロセスの間に所定の順序でそれらの領域にその反応混合物を輸送させることによって、実施された。個々の領域が、必要により領域を独立して加熱することを可能とする個別の温度調節機能を有していても、有していなくてもよい。そのプロセスは連続モードで走らせることも可能である。小型化された流通系を使用することが、結晶成長を決める変数をより良好に調節することに役立ち、したがって、それは所望のサイズ、サイズ分布およびモルホロジー(たとえば、結晶構造)を有する粒子を得るためには重要なことである。小型化流通系には、その中で反応を実施させるマイクロチャンネルが含まれる。マイクロチャンネルは、典型的には、少なくとも一つの断面寸法≦1mmを有している。
【0097】
流通系を使用することに伴う重要な利点は、a)たとえば、系を連続モードで走らせたりおよび/または二つ以上の系/マイクロチャンネルを並行して走らせたりすることによって、高い生産性が得られるように、それを容易に設計できること、およびb)それによってプロセス変数を調節するのが容易となり、それにより、所定の品質のコア粒子が得やすくなることである。
【0098】
たとえば金属酸化物の、ナノサイズの粒子を調製するための流通系については、すでに記載がある。以下の文献を参照されたい:Kawa et al., J. Nanoparticle Res., 5 (81-85) 2002; deMellow J. & A., Lab Chip 4 (2004) 11N-15N (総説); Tanaka et al., Org. Lett., 9 (2007) 299-302。
【0099】
生体物質の可視化における造影剤としての、コーティングされるかもしくはコーティングされていない形態で使用するためのコア粒子を製造するための上述の流通プロセスは、本発明の第四の主たる態様を構成するが、特に強調されるのは、第一〜第三の態様の各種モードである。
【実施例】
【0100】
実験の部
酸化ガドリニウム粒子
驚くべきことには、粒子合成プロセスの信頼性および再現性を得るためには、加熱された塩基性溶液を空気と接触させないようにすることが有利であることが判明した。このことは、調製される粒子の溶液の色を、褐色〜黄色から、無色または強くても淡黄色へと改良する。さらに、プロセスの再現性も向上され、結晶がより規則的となり、十分に成長した結晶面を示すことが電子顕微鏡法で示される。これらの結晶の表面がより良好に規制されていることから、そのコーティングがより規則的となり、そのために、結晶がより安定化される。本願発明者らはさらに、Bridot et al., J. Am. Chem. Soc., 2007, 129, 5076-5085に記載のプロセスにおいて、水酸化ナトリウムを水酸化リチウムによって置き換えることが有利であることを見出した。予想もしなかったことであるが、このことがさらに、より良好に成長した表面を有する結晶の割合を増加させる。
【0101】
実施例1:
水酸化ナトリウムを使用した、DEGコーティングされたGd粒子の合成
マグネチックスターラーバーを加えた丸底フラスコの中で、ジエチレングリコール(DEG、30mL)およびNaOH(0.3g、7.5mmol)を、窒素気流下で30分間撹拌する。NaOHペレットをまず乳鉢の中で粉砕してから、所要量を添加する。その混合物を激しく撹拌し、予め加熱しておいた油浴の中に30分間浸漬する。次いで、固形物を溶解させる。次いでその加熱浴を外す。別のフラスコの中で、これまた窒素雰囲気とマグネチックスターラーを用い、窒素下140℃で1時間加熱することによって、GdCl・6HO(2.23g、6mmol)をDEG(30mL)の中に溶解させる。その混合物の温度を上げて180℃とし、水酸化ナトリウム溶液を一度に添加する。その溶液を激しく撹拌し、180℃に4時間保ってから、窒素下で放冷させる。
【0102】
実施例2:
水酸化リチウムを使用した、DEGコーティングされたGd粒子の合成
マグネチックスターラーバーを加えた丸底フラスコの中で、ジエチレングリコール(DEG、30mL)およびLiOH(0.18g、7.5mmol)を、窒素気流下で30分間撹拌する。その混合物を激しく撹拌し、予め加熱しておいた油浴の中に30分間浸漬する。次いで、固形物を溶解させる。次いでその加熱浴を外す。別のフラスコの中で、これまた窒素雰囲気とマグネチックスターラーを用い、窒素下140℃で1時間加熱することによって、GdCl・6HO(2.23g、6mmol)をDEG(30mL)の中に溶解させる。その混合物の温度を上げて180℃とし、水酸化ナトリウム溶液を一度に添加する。その溶液を激しく撹拌し、180℃に4時間保ってから、窒素下で放冷させる。
【0103】
ガドリニウム−テルビウム酸化物のナノ粒子
合成手順:
テルビウムでドープされた酸化ガドリニウムナノ粒子は、Bazzi らによって開発された変性「ポリオール」法手順を適用することにより合成する(J. Colloid Interface Sci., 273 (2004) 191-197)。5%のTbでドープされたGdの場合、5.7mmolのGdCl・6HOと0.3mmolのTbCl・6HOとを、30mLのジエチレングリコール(DEG)の中で、強く撹拌し、シリコン油浴中140〜160℃で1時間加熱することにより分散させる。次いで、30mLのDEGに溶解させた7.5mmolのNaOHを添加する。それらの化合物が完全に溶解してから、その溶液を強い撹拌下で、180℃で4時間還流させると、黄緑色の透明な懸濁液が得られる。20%のTbでドープされたGdを合成するためには、NaOH溶液の添加を除いて上述の手順に従う(ただし、1.1mmolのTbCl・6HOを添加)。粒子のキャップされた粉体の形態を得るために、合成したままの懸濁液をまず、30分間かけて40℃で遠心−濾過(0.22μm)させて、完全に流体の集まりにする。このステップを実施することで、大きなサイズの粒子のアグロメレーションを除去する。その濾過した懸濁液を撹拌しながら加熱して140〜160℃とし、1mmolのNaOHを、少量のDEGの中に溶解させた1.5mmolのクエン酸一水和物(CA)またはジニコチン酸(NA)のいずれかと共に添加する。次いでその溶液を、強い撹拌下に180℃で30分間還流させると、白色〜緑色の分散体/沈殿物が得られる。メタノール中で数回、洗浄および遠心分離をしてから、真空下で乾燥させると、オフホワイト色の粉体が得られる。
【0104】
Tbでドープされたナノ粒子の特性決定
希土類酸化物で合成され、テルビウム元素でドープされたGdは、高分解能透過型電子顕微鏡写真(TEM)の観察からは、直径の平均サイズが3〜7nmのほとんど円形の形状の粒子である。それらの粒子は、規則正しい結晶格子の外観を有し、非晶質のバックグラウンドに重ね合わせて、(222)面を示している(d=約3.2Å)。クエン酸(CA)またはジニコチン(NA)酸のいずれかを用いて沈殿させた後に得られる粉体は、走査型電子顕微鏡法(SEM)の下では異なったモルホロジーを示す。CAキャップされたナノ粒子が多孔質のスポンジ様の構造を示すのに対して、NAキャップされたナノ粒子は、開放キャビティを有するアグロメレート化された球状の構造を示す。
【0105】
ナノ粒子のTbドープレベルおよび化学組成は、X線光電子分光法(XPS)およびエネルギー分散X線分光法(EDX)を用いて分析する。5%Tb−および20%TbでドープされたGdのTb対Gdの原子比は、それぞれ、0.055±0.004および0.226±0.031であることが判った。この結果はさらに、Tbが、酸化ガドリニウム粒子に対するイオン供給ドーパントとしてのみ存在していることも示している。DEG、CAおよびNAを用いたコーティングの成功は、XPSおよびIR分析の両方で検証される。
【0106】
その粉体の光ルミネセンス(PL)スペクトルは、類似のナノ粒子が、266nmでの励起で460〜640nmの間で4本の発光ピークを有しているという以前の発見とは矛盾しない(Louis et al., Chem. Mater., 17 (2005) 1673-1682)。
【0107】
本明細書の他の場所で述べたように、それらのナノ粒子は、たとえば、次の特許例で検討される鉄含有ナノ粒子についての記述のように、各種の2官能のシランを用いて、共有結合的にコーティングすることができる。
【0108】
ガドリニウム−鉄酸化物ナノ粒子
合成手順:
その手順は、先に引用した公刊物に説明されているのと実質的に同じである。
【0109】
参照粒子(ドープされていないGdナノ粒子):
2.71gのGd(NOまたは2.2gのGdCl(6mmol)を30mLのDEG中に溶解させ、マグネチックスターラーで撹拌しながら、還流下で加熱する。次いで、30mLのDEG中0.3gのNaOH(7.5mmol)を、Gd(NOの場合には95℃で、GdClの場合には140℃で添加する。次いでその反応を140℃で1時間かけて進行させ、その後温度を上げて、180℃で4時間加熱する。
【0110】
FeドープされたGdナノ粒子:
硝酸ガドリニウム、Gd(NO・6HO(1.9mmol)、Fe(NO(0.1mmol)、NaOH(2.5mmol)および脱イオン水(6滴)を、約15mLのジエチレングリコール(DEG)に添加する(ドーピングレベル(Fe/(Fe+Gd))=5%)。その混合物を撹拌しながら加熱して140℃とする。反応剤が溶解したら、温度をさらに上げて180℃とし、4時間一定に保つ。沈殿物が生成するので、それを遠心によって分離し、メタノールを用いて数回洗浄する。Gd(NOをGdClに置き換えることも可能であるが、そうすると、ナノ粒子が小さくなるという結果が得られるようである。
【0111】
反応混合物中のFe/(Fe+Gd)比を10%、20%および50%へと上げることによって、得られるナノ粒子のドーピングレベルが、それ相応に高くなる。
【0112】
ペロブスカイトGdナノ粒子(Feドーピングレベル:50%):
1mmolのGdCl・6HOおよび1mmolのFeCl・6HOを10mLのDEGに加え、加熱する。温度が180℃に達したら、10mLのDEGの中に溶解させた6mmolのKOHを添加する。温度をさらに上げて210℃とし、この温度で4時間維持する。暗褐色の沈殿物が生成するので、遠心によって分離し、メタノールを用いて2回洗浄する。サンプルの適当量を、空気中800℃で3時間かけてか焼する。遠心分離からの上澄み液を500℃で4時間加熱すると、褐色の粉体が得られるので、脱イオン水を用いてそれを洗浄する。
【0113】
X線回折計(XRD)では、ペロブスカイト、ガーネットおよび通常のGd結晶構造の存在に帰属されるピークを示すが、粒子物質中の、等モル量のGdClおよびFeClから得られる量が変化している。XRD測定は、Philips APD 粉末回折計で、CuKα線源(λ=1.5418Å、40kV、40mA)および2θで0.025度のステップサイズで、4秒/ステップを用いて実施する。
【0114】
ナノ粒子の処理
合成したナノ粒子は、Vivaspin濃縮機膜(concentrator membrane)(ポリエーテルスルホンすなわちPES、Vivascience Sartorius, Hannover)を使用した遠心分離器(Hermle Z513K)に30分間かける。孔径0.2μm、100 000分子量カットオフ(MWCO)および50 000分子量カットオフ(MWCO)のフィルターを使用する。速度を1750rpmに設定し、温度を40℃に設定する。孔径0.22μmのシリンジドライブフィルター(Millex(登録商標)GV Filter Unit 0.22μm、Durapore(登録商標)PVDF膜、Millipore, Corrigtwohill)についても試験する。それらの結果は、動的光散乱法(DLS)を使用して評価する。
【0115】
過剰のDEG、および後の方のステップにおいて官能化に使用した未反応の分子(たとえば、シラン)を除去するために、いずれにおいても透析を使用する。DEGを除去するためには、ミリQ水に対して1000MWCO膜(SpectraPor 6、折り径(flat width)18mm、SpectrumLabs, Rancho Dominguez, CA)を用いて、マグネチックスターラー上で懸濁液を透析する。第1日には水を少なくとも3回は交換し、以後は毎日2回交換する。ナノ粒子懸濁液対水の比率は、理想的には1:1000である。透析時間のアグロメレーションに対する効果を評価するために、Vivaspin 0.2μmを用いて濾過したナノ粒子の懸濁液を、48時間、72時間および96時間かけて透析し、DLSを用いてその結果を評価する。官能化ステップの後に、未反応の化学種を除去するためには、1000MWCOおよび10 000MWCOの両方のフィルターを使用する。12mmおよび18mmの折り径を有する10 000MWCOの膜を使用する。前者の方がより早く透析できるが、後者はより容易に使用でき、安価である。透析した懸濁液は4℃で保存する。
【0116】
サイズ分画:
1バッチのナノ粒子は、Rotina 35R Centrifuge(Hettich Centrifugen)中で、Vivaspin 20限外濾過スピンカラムを使用し、より高いMWCOのフィルターからの濾液中のナノ粒子を、より低いMWCOのフィルターを通過させて濾過することによって、MWCOが低くなるようにフィルターを使用することで、サイズ群に分画することができる。100000MWCO、50000MWCO、30000MWCOおよび10000MWCOのフィルター(これらは、13.3nm、6.67nm、4nm、および1.33nmのカットオフサイズに相当する)を、この順序で連続的に使用すると、それによって、4種のサイズ群、すなわちそれぞれのフィルターの上に集められたナノ粒子と、それに加えて10000MWCOを通過した濾液の中のナノ粒子が得られるであろう。100000MWCOフィルターの上で得られたナノ粒子は、それらが各種のタイプのサイズおよび組成が不明のものの凝集体を含んでいるので、廃棄する。
【0117】
粒子サイズの測定
これは、動的光散乱法(DLS)および透過型電子顕微鏡法(TEM)により実施する。DLS:上述のペロブスカイト物質(800℃に加熱していないもの)のコロイド状懸濁液の粒子サイズは、AV/DLS-5000系(Lange)で測定する。最適な計数率は、約250mHzであり、規格化強度相関関数曲線は、二次の指数関数アルゴリズム(200グリッドポイント)に注意深く当てはめる。懸濁液の粒子での流体力学的半径は、4.8±0.3nmおよび5.7±1.0nmであることが判る。TEM:これらの検討は、Philips CM20 ST電子顕微鏡(200kVで操作)と、FEI Tecnai G2電子顕微鏡(200kV)とを用いて実施する。TEM分析のためのサンプルは、合成したままで、透析にはかけていない反応生成物をメタノール中に溶解させることにより調製する。その分散体を、非晶質炭素被覆銅グリッドの上で乾燥させる。約500000倍の倍率で撮影したTEM画像を使用することによって、サイズ分布のヒストグラムを作り、それを基にして、平均サイズを推測することができる。ペロブスカイト物質の場合では、平均して3.5〜4.0nmのサイズであると推定される(結晶コア)。
【0118】
ナノ粒子の官能化:
a)ヘテロ2官能シランを使用することによるナノ粒子のシラン化と、その後のさらなる官能化、たとえば、PEG化(PEG-ylation)(2段PEG化手順)。
濾過したナノ粒子を15分間超音波処理をして、アグロメレートを破壊させる。次いで、1mLの水懸濁液中のナノ粒子(典型的には、それより前のステップで透析したもの)をエッペンドルフ管に入れ、50μLの2官能シラン、たとえば、3−アミノプロピルトリエトキシシランを加え、ボルテックスさせ、超音波処理に1時間かける。その反応の間に、そのシランの官能基がナノ粒子の表面に結合し、もう一つの官能基たとえばアミノ官能基が遊離の形で残って、次の官能化ステップ、たとえば親水性ポリマー、たとえばポリエチレングリコールの導入(PEG化)に使用される。必要があれば、シランと共に溶媒を添加するが、シランの重合に比較して、シランとナノ粒子との間の反応が優先するように気を付ける必要がある。次いで、10μLのミリQを添加し、その後で、その懸濁液を1時間超音波処理し、一夜ミキサーテーブル(mixer table)上に置いて、全反応時間を20時間とする。シランコーティングされた粒子の精製は、1000MWCO膜を使用してミリQに対して48時間の透析を行うことにより実施する。0.5μLおよび10μLのシランを用いても、同様の手順を実施する。この官能化は、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)を用いて実施する。
b)2官能PEG誘導体を使用することによるシラン化(1段PEG化手順)。
3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン(MPTES)およびヘテロ2官能MaI−PEG−NHS誘導体(MaI=PEGの一端の酸素にスペーサー(−(CHCO−)を介して結合されているN−マレイジル、そしてPEGの他の端の酸素にスペーサー(−CHn’COO−)を介して結合されているN−スクシンイミジル(nおよびn’=1以上の整数)である)を、予備ステップにおいて、メルカプト基がMaIの中のC−C二重結合とチオエーテル結合を形成できるような条件下で相互に反応させる。15mgのMaI−PEG−NHS(3μmol)を300μLのエタノールの中に超音波処理を使用して溶解させるが、その理由は、溶解させるには加熱が必要であるからである。次いで0.5μLのMPTESを添加し、超音波浴の中で1時間かけてその反応を進行させる。次いで、1mLのGd−DEGナノ粒子懸濁液(濾過し、72時間の透析を行ったもの)を添加し、ボルテックスさせてから、2時間超音波処理をする。次いでそのチューブを、一夜ミキサーテーブル上に置いて、少なくとも20時間の全反応時間を与える。過剰のMaI−PEG−NHSおよびMPTESを除去するために、10 000MWCO膜を使用し、ミリQに対して48時間の透析を実施する。5mgのMaI−PEG−NHSと0.05μLのMPTES、ならびに10mgのMaI−PEG−NHSと0.1μLのMPTESを使用して、同じ手順を実施する。このようにしてNHS官能化されたナノ粒子のNHS基は、次いで、アミノ基を示す目標基、たとえば発蛍光団などのようなラベルを用いてさらなる官能化をさせることも可能である。
c)PEGシラン、たとえばPEG−トリエトキシシランを使用することによるシラン化(1段PEG化手順)。
このタイプのシラン(MWPEG=4000および5000ダルトン)を、他のシランについて上で述べたようにして、たとえばモノメトキシル化された形態のPEG残基と反応させる。
【0119】
ナノ粒子の磁気的性質および安定性
ナノ粒子の安定性/分解性の測定:
上述のようにして合成し、ミリQ水中に分散させた、所望のナノ粒子を、7日間の透析(1000MWCO透析膜)のために調製する。分散体の中のGd(III)の濃度/含量を、三つの異なる場合、すなわち、透析前、5日後、および7日後に、透析時間の関数として求める。その透析は室温で実施する。ナノ粒子懸濁液中のGd含量は、Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry (ICP-MS), Analyticaによって分析する。
【0120】
MRI測定:
Engstroem et al., Magn Reson Mater Phy, 19 (2006) 180-186参照。
【0121】
各種のナノ粒子の比較検討結果(緩和速度および安定性):
それらの結果から、所定のおよび/または改良された性質、たとえば、所定のおよび/または改良された緩和速度(1/Tおよび1/T)、緩和性(rおよびr)ならびに安定性/寿命を有する、磁気共鳴映像法に適した常磁性ナノ粒子を合成することが可能であることが示される。このことは、以下の知見から説明される:a)PEGシラン官能化Gdナノ粒子は、高い1/Tおよび1/T(T(1mM)=0.012ms−1)と、早い分解速度(短寿命)(t1/2=4日)を有し;b)PEGシラン官能化された5%FeドープされたGdナノ粒子は、高い1/Tおよび1/T(1/T(1mM)=0.012ms−1)および比較的に低い分解速度(より長い寿命(t1/2=10日)を有し;そしてc)DEGコーティングされたドープされていないGdナノ粒子は、1/T(1mM)=0.012ms−1、t1/2=14日である。市販されており臨床的に使用される、Gd3+−DPTAは、同一の条件下では、1/Tおよび1/Tがより低い(たとえば、1/T=0.005ms−1)。緩和性(rおよびr)ならびに緩和性比(r/r)における変動は次の表に示される:
【0122】
【表2】

【0123】
本発明とその利点を詳しく説明してきたが、添付の特許請求の範囲により規定される本発明の精神と範囲から外れることなく、ここで各種の変化、置き換え、および変更が可能であることは理解されるべきである。さらに、本発明の適用の範囲が、本明細書に記載された特定の実施態様のプロセス、機械、製造法、物質組成、手段、方法、およびステップに限定されることは意図されていない。当業者ならば、本発明の開示から容易に評価できるので、既に存在しているかまたは将来的に開発されるであろう、本明細書に記載の対応する実施態様と実質的に同じ機能を示すか、または実質的に同じ結果を与える、プロセス、機械、製造法、物質組成、手段、方法、またはステップを、本発明に従って利用することができる。しがたって、添付の特許請求の範囲は、そのようなプロセス、機械、製造法、物質組成、手段、方法、またはステップを、それらの範囲の内に含むことが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
好ましくはMRIにより、生体物質を可視化するための方法であって、
(i)コーティングされたナノ粒子の個体群を前記生体物質と接触させるステップであって、前記ナノ粒子のそれぞれが、a)遷移金属の金属酸化物(前記金属酸化物は、好ましくは常磁性であり、そして好ましくはランタニド(+III)たとえばガドリニウム(+III)を含む)、およびb)前記コア粒子の表面を被覆するコートを含む、ステップ、ならびに
(ii)画像を記録するステップ、を含み
前記コートが、親水性であって、前記コア粒子の表面に隣接して位置するシラン層を含み、そして1個、2個またはそれ以上の異なったシラン基を含むが、そのそれぞれが有機基Rとシラン−シロキサン結合−O−Si−C−を含み、ここで
a)前記有機基Rが、親水性有機基R’および疎水性スペーサーBを含み、
b)Oが、前記金属酸化物の表面金属イオンに直接結合している酸素原子であり、そして
c)Cが、炭素原子であって、疎水性スペーサーBの一部でもある、
方法。
【請求項2】
前記コア粒子が、≦20nm、好ましくは≦10nm、たとえば≦8nm、かつ≧0.5nm、たとえば≧1nmの平均幾何学的直径を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ナノ粒子(コーティングされたコア粒子)が、≦20nm、好ましくは≦10nm、たとえば≦6nm、かつ≧0.5nm、たとえば≧1nmの平均流体力学的直径を有する、請求項1〜2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記コートが、≦10nm、たとえば≦5nmまたは≦1nmまたは≦0.7nmの厚みを有し、典型的な下限が0.1nmまたは0.5nmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記コートが、単分子層の範囲に入る厚みを有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記コート中のケイ素と、前記コア粒子の中の金属イオンとの間のモル比が、酸素を介して前記コア粒子の表面中の金属イオンに直接結合しているケイ素と、前記コア粒子中の金属イオンとの間のモル比の最大値の、≧50%、たとえば≧80%または≧90%、かつ典型的には≦1000%、たとえば≦250%または≦150%である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
酸素を介して前記コア粒子の表面中の金属イオンに直接結合しているケイ素と、前記コア粒子中の金属イオンとの間のモル比が、この比率の最大値の≧50%、たとえば≧80%または≧90%、かつ≦100%である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記コート中のケイ素と、たとえば、酸素を介して前記コア粒子の表面金属イオンに直接結合されているケイ素に直接結合されている炭素(シラン炭素)との間のモル比が、≧1、かつ典型的には≦5、たとえば≦2.5または≦1.5、好ましくは≦1.25または≦1.1である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記疎水性スペーサーBが、
−(C2n−2a)− (式I)
[式中、1個、2個またはそれ以上の水素が、低級アルキル基または低級アルキレン基でそれぞれ置換され、nが1〜15の整数、好ましくは1、2、3、4もしくは5の整数であり、aが0、1、2、3、などの整数であるが、ただしa≦nである]
を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記1個、2個またはそれ以上のシラン基の中の前記親水性有機基R’が、一つ、二つまたはそれ以上の位置で、
a)O、N、およびSから選択されるヘテロ原子を含む少なくとも2価の官能基によって中断されているか、および/または
b)
(i)ヒドロキシル、または場合によってはヒドロキシもしくはアミノで置換された低級アルコキシで置換されているか、場合によってはヒドロキシで置換された低級アルキルで場合によっては置換されている、
(ii)前記親水性有機基の中に存在しているのと同一の構造要素から選択される構造要素を含む分岐基と共に、前記炭素鎖の分岐点である、
炭素を含む、
炭素鎖を含む、
請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記1個、2個またはそれ以上のシラン基の少なくとも一つの中の前記親水性有機基R’が、荷電された基を、好ましくは前記ナノ粒子に≧20mVたとえば≧30mVの絶対ゼータ電位を与えるような量および組合せで含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記1個、2個またはそれ以上のシラン基の少なくとも一つの中の前記親水性有機基R’が、次式
−(ACHCH(OCHCHA’(CHn’X (式II)
[式中、
a)n’は、0〜15、好ましくは1〜5の整数であり、
b)mは、0〜10、好ましくは2〜5の整数であり、
c)oおよびpは、等しくても異なっていてもよい0または1の整数であるが、ただし、mが0の場合には、それらの内の一つが0であるのが好ましく、
d)AおよびA’は、ヘテロ原子含有2官能性基であるが、前記ヘテロ原子は、酸素、窒素および硫黄から選択され、前記2官能性基は好ましくはエーテル、チオエーテルまたはアミノであり、そして
e)Xは、カルボキシレートアルキルエステル、ホスホネートアルキルエステル(モノまたはジアルキル)、スルホネートアルキルエステル、N−アルキルアミド(モノまたはジアルキル)、N−アルキルホスホン酸アミド(モノまたはジアルキル)、N−アルキルスルホンアミド、アルキルエーテルおよび、それらに対応する加水分解された形から選択される。]に従う基から選択される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記1個、2個またはそれ以上のシラン基の少なくとも一つの中の前記親水性有機基R’が分岐状であって、たとえば、式IIにおける1個または複数の水素が、それぞれ互いに独立して、一つまたは複数の位置(一つ、二つ、またはそれ以上の分岐点)で、式IIに従う基を用いて置換されている、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記コーティングされたナノ粒子および/または前記コア粒子が単分散系である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
その表面に常磁性金属酸化物を含むコア粒子の個体群をコーティングする方法であって、前記方法が、
(i)前記コア粒子の個体群を準備するステップ、
(ii)前記コア粒子を、1種、2種、3種またはそれ以上の異なったシラン反応剤と接触させるステップであって、前記シラン反応剤のそれぞれが、
a)前記シラン反応剤のケイ素を含む反応性基、および
b)有機基であって、
b1)各種のシラン反応剤とは異なっている、
b2)最終的なコートの一部である(R基に等しい)、または
b3)そのような部分に変換可能である(R基に変換可能である)、
有機基を含み、
前記接触ステップが、前記シラン反応剤のそれぞれの有機基が、−O−Si−C−結合によって、前記コア粒子の表面に直接結合できるような条件下で起こり、そして、
(iii)(b3)に従う場合においては、前記有機基を、前記コートの一部に(=前記コートのR基に)変換させるステップ、
を含む方法。
【請求項16】
前記異なったシラン反応剤のためのステップ(ii)が、同時に(=競合的に)実施される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記粒子が、網状化反応性シリケートたとえばテトラアルキルオルトシリケートと、ステップ(ii)と同時に(競合的に)、またはステップ(ii)に続けてのいずれかで反応させられる、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記シラン反応剤の少なくとも1種がb2に従う、請求項15〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記シラン反応剤の少なくとも1種が、そのケイ素原子に直接結合された疎水性スペーサー基を含む、請求項15〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記シラン反応剤の少なくとも1種が、そのケイ素原子に直接結合している疎水性スペーサー基および前記スペーサー基に結合している親水性基を含む有機基を含む、請求項15〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記有機基、前記スペーサー基および前記親水性基が、前記シラン反応剤の1種または複数の中にそれらが存在している範囲内で、請求項1および9〜13のいずれか一項においてR、R’およびBとして定義されたものである、請求項15〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
(a)前記シラン反応剤の少なくとも1種が、(b2)に従っていて、荷電された基、好ましくは負に荷電された基を含み、そして
(b)前記の残りのシラン反応剤の少なくとも1種が、そのような反応剤が使用されるという範囲において、(b2)に従っていて、荷電されていない、
請求項15〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
基(a)シラン反応剤と基(b)シラン反応剤との間のモル比が、≦20、好ましくは≦1、かつ≧0.5、たとえば≧0.1であり、好ましくは、少なくとも2種の前記シラン反応剤(基(a)の少なくとも一つと基(b)の少なくとも一つとの)を、競合条件下で前記粒子と前記反応をさせることを実施する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記網状化反応性シリケートと前記シラン反応剤の合計したものとの間のモル比が、0〜0.5である、請求項15〜16および18〜23のいずれか一項と組み合わせた、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
前記シラン反応剤の少なくとも1種が、分岐状である有機基を含む、請求項15〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
典型的には生体内映像化、たとえばMRI、X線、PET、CTおよび蛍光映像化、好ましくはMRIおよびX線における造影剤として使用するための、生体物質を可視化することを目的とする組成物であって、前記組成物が、請求項1〜14のいずれか一項において定義されるナノ粒子の個体群を含む、組成物。
【請求項27】
前記ナノ粒子が、生理学的に許容される水性液体相の中に、前記金属酸化物の遷移金属イオンの濃度が、≧500mM、好ましくは≧1Mとなるように分散され、前記金属イオンが、典型的には、ランタニド(+III)、好ましくはガドリニウム(+III)である、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
前記液体相が、前記組成物が投与される対象の前記有機体の血液と等浸透圧である、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
前記コア粒子の製造に由来する溶媒残渣を含まない、請求項26〜28のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項30】
ジエチレングリコール(DEG)を含まない、請求項26〜29のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項31】
前記金属酸化物の金属イオンの濃度が0.5Mの場合のその粘度が、≦50mPas、好ましくは≦25mPasまたは≦15mPasである、請求項26〜30のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項32】
前記コア粒子が、連続流通プロセスによって製造された、請求項26〜31のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項33】
前記コア粒子が、窒素雰囲気下で製造された、請求項26〜32のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項34】
前記ナノ粒子が、≧1ヶ月、たとえば≧1年にわたって、水性溶液中で安定である、請求項26〜33のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項35】
前記ナノ粒子の≧50%、たとえば≧80%または≧90%が、その投与対象となった前記生体の身体から48時間以内に排泄される、請求項26〜34のいずれか一項に記載の組成物。

【公表番号】特表2010−518070(P2010−518070A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−548769(P2009−548769)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際出願番号】PCT/IB2008/050084
【国際公開番号】WO2008/096280
【国際公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【出願人】(507081164)スパーゴ・イメージング・アー・ベー (2)
【Fターム(参考)】