説明

コーティング剤組成物

【課題】基材の表面を保護すると共に美感を維持し、汚れとして特に目立ちやすい指紋を目立たなくし、また付着した指紋を除去し易くし、更には、傷等により補修の必要性が生じた際の基材から塗膜の除去を容易に行えるコーティング剤組成物の提供。
【解決手段】物体の内外装に備えられた無機系部材からなる基材の表面に塗布されるコーティング剤組成物であって、有効成分として、下記(a)、(b)を含有し、固形分中の(a)+(b)の重量%が、100重量%以下40重量%以上で、(a)と(b)の混合比率が、(a)が0%〜100%、(b)が0%〜100%であるコーティング剤組成物。(a)アクリル系共重合物のエマルジョン(b)水性ウレタン系樹脂

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の内外装に備えられたステンレス等の無機質部材からなる基材の表面に塗布し、その表面を保護すると共に美感を維持するコーティング剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、エレベータのカーゴ内やパネル部分等に使用されるステンレス材は、人の手指脂(以下、指紋という。)等が付着すると表面が見難くなると同時に汚れが更に雑菌を呼ぶという悪循環に至る。また、海岸近くの場所では風に運ばれる塩分により本来あり得ないことであるが、錆の発生ケースも認められている。こうした汚れからステンレス等からなる基材を護り、その美観を長く保持する保護剤が求められている。
【0003】
市場では溶剤型の塗料等が、これらの要求を満たすべく塗布されている例がある。しかしながら、これらの塗膜は一度傷が付くとその補修時には溶剤処理しなければならないし、再塗布するには極めて手間がかかるといった問題があった。
【0004】
汚れとして特に目立ちやすい指紋を目立たなくし、また付着した指紋を除去し易くするものとして、液晶モニタ、テレビ、ショーケース、時計や計器のカバーガラスなどの基材の表面に貼着される、電離放射線硬化型樹脂を含む塗料から形成された樹脂層の表面にぬれ張力が25mN/m以上としたフィルム(例えば、特許文献1参照。)や、主骨格に酸素原子を有する樹脂を含有させて、電気陰性度の高い酸素原子により指紋を大きく濡れ広げさせて目立ち難くさせる塗料(例えば、特許文献2参照。)が提案されている。
【0005】
しかし、これらのフィルムや塗料にあっては、前者は電離放射線により硬化する樹脂を含む塗料から形成された樹脂層(塗膜)は基材から容易に除去できず、また同様に、後者にあっても熱硬化型樹脂からなるため成膜した後は容易に除去することができないので、傷等により補修の必要性が生じた際の補修が困難であるといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】再公表04−46230号公報
【特許文献2】特開2007−314609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、汚れから基材を護るものとして知られている溶剤型の塗料等ではその補修時には溶剤処理しなければならず、再塗布するには極めて手間がかかるといった問題があり、また、基材の表面に貼着される、電離放射線硬化型樹脂を含む塗料から形成された樹脂層の表面にぬれ張力が25mN/m以上としたフィルムや主骨格に酸素原子を有する樹脂を含有させて、電気陰性度の高い酸素原子により指紋を大きく濡れ広げさせて目立ち難くさせる塗料では、塗膜を容易に除去することができないので、傷等により補修の必要性が生じた際の補修が困難であるといった問題があった。
【0008】
本発明の目的は、基材の表面を保護すると共に美感を維持し、汚れとして特に目立ちやすい指紋を目立たなくし、また付着した指紋を除去し易くし、更には、傷等により補修の必要性が生じた際の基材から塗膜の除去を容易に行えるコーティング剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明者等は、アクリル系共重合物のエマルジョンや水性ウレタン系樹脂の屈折率が指紋成分の屈折率とほぼ同程度であることを見出し、本発明を完成するに至った。
請求項1に記載の発明は、物体の内外装に備えられた無機系部材からなる基材の表面に塗布されるコーティング剤組成物であって、有効成分として、下記(a)、(b)を含有し、固形分中の(a)+(b)の重量%が、100重量%以下40重量%以上で、(a)と(b)の混合比率が、(a)が0%〜100%、(b)が0%〜100%であることを特徴とする。
(a)アクリル系共重合物のエマルジョン
(b)水性ウレタン系樹脂
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載のコーティング剤組成物によれば、ステンレス等の無機系部材からなる基材の表面に塗布することにより、基材の表面を塵埃等から護り、また、表面に付着した指紋を目立たなくし、また、付着した指紋を容易に拭き取り除去することができる塗膜を基材の表面に形成することができる。
また、形成された塗膜は、傷等により補修の必要性が生じた際にはアルカリ性洗剤で容易に除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る物体の内外装に備えられたステンレス等の無機系部材からなる基材の表面の表面に塗布されるコーティング剤組成物について説明する。
本発明は、有効成分として、下記(a)、(b)を含有し、固形分中の(a)+(b)の重量%が、100重量%以下40重量%以上で、(a)と(b)の混合比率が、(a)が0%〜100%、(b)が0%〜100%である。
(a)アクリル系共重合物のエマルジョン
(b)水性ウレタン系樹脂
アクリル系共重合物のエマルジョンや水性ウレタン系樹脂の屈折率[n]は、1.48〜1.50であり、指紋成分の屈折率[n](1.46〜1.52程度)とほぼ同程度である。
【0012】
前記アクリル系共重合物のエマルジョンとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステルの1種若しくは2種以上及び又はメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ラウリル等のメタクリル酸エステルの1種若しくは2種以上との共重合体、また、これらとスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、メチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル等のビニルエーテル、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸等のカルボキシル基含有ビニル単量体、β−ハイドロキシエチルアクリレート、β−ハイドロキシエチルメタクリレート、β−ハイドロキシプロピルアクリレート、β−ハイドロキシプロピルメタクリレート、アリルアルコール、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等の水酸基含有ビニル単量体、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルアリルエーテル等のエポキシ基含有ビニル単量体等の上記アクリル酸エステル及び又はメタクリル酸エステルと共重合可能なビニル単量体の1種若しくは2種以上との共重合体であり、該共重合体で通常30〜60%のエマルジョンで提供される。
【0013】
前記水性ウレタン系樹脂としては、芳香族または脂肪族、脂環族イソシアネートとポリエステル又はポリカーボネート、ポリエーテル系ポリオールから生成されるウレタン樹脂の水溶液、コロイダルディスパージョン、エマルジョン等が利用できる。このうち特に、傷隠蔽性や耐傷付き性といった面から、水性ウレタン系樹脂がウレタンディスパージョンであることが好ましく、そして、このなかでも特に耐傷付き性といった面から、ウレタンディスパージョンのウレタンが脂肪族ポリエステル系ウレタンであることが好ましい。
【0014】
更に、ワックスエマルジョン、アルカリ可溶性樹脂、造膜助剤、可塑剤、濡れ剤、消泡剤、防腐剤、紫外線吸収剤を加えることができる。
前記ワックスエマルジョンとしては、植物系のキャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、木ロウなど、動物系の蜜ロウ、ラノリン、鯨ロウなど、鉱物系のモンタンワックス、オゾケライト、セレシンなど、石油系のパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムなど、合成炭化水素系のフィッシャートロプシュワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリエチレンワックス、アクリル−エチレン共重合体ワックスなど、変性ワックス系のモンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体、水素添加ヒマシ油などのワックスを乳化分散したものが利用できる。
アルカリ可溶性樹脂としては、スチレン−無水マレイン酸共重合樹脂や、フェノール系樹脂、アルキッド樹脂、アクリル系樹脂などがあるが、スチレン−無水マレイン酸共重合樹脂がより好ましい。
造膜助剤としては、エチルカルビトール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール等、可塑剤としては、ジブチルフタレート、トリブトキシエチルフォスフェート等がある。
【実施例】
【0015】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の特徴について例証する。但し、本発明はこれらの実施例及び比較例によって何等制限されるものではない。
【0016】
実施例1〜10及び比較例1、2
表1(実施例1〜5)、表2(実施例6〜10)、表3(比較例1、2)に示す組成を有するコーティング剤組成物を調整し、乾燥光沢、指紋付着性、指紋の拭き取り易さ、塗膜除去性を評価した。
表中の数字は重量%を示す。
【表1】

【表2】

【表3】

防腐剤: ローム&ハース社製 ケーソンCG/ICP(1.5%)
濡れ剤: セイミケミカル社製 サーフロンS−111N
消泡剤: ワッカーシリコーン社製 SE−21
造膜助剤: 日本触媒社製 シーホゾールDG
可塑剤: 大八化学社製 TBXP
アクリル系共重合物エマルジョン(1):
ローム&ハース社製 プライマルNT−6035、固形分;38%
アクリル系共重合物エマルジョン(2):
ローム&ハース社製 プライマルB−924、固形分;38%
アクリル系共重合物エマルジョン(3):
ローム&ハース社製 プライマルB−505、固形分;40%
水性ウレタン系樹脂(1):
DSMネオレジン社製 ネオレッツR−9603、固形分;34%
水性ウレタン系樹脂(2):
DSMネオレジン社製 ネオレッツR−970、固形分;39%
ポリエチレンワックスエマルジョン(1):
東邦化学工業社製 ハイテックE−4000、固形分;40%
ポリエチレンワックスエマルジョン(2):
表4で示す配合で調製した。
【表4】

注1:ハネウエル社製 ACポリエチレン#540
注2:花王社製 エマルゲン420
アクリル可溶性樹脂溶液:
アトケム社製 SMA17352、固形分;15%の水溶液
【0017】
(試験項目の評価方法)
1.乾燥光沢; 配合物をステンレス(ヘアライン仕上げ)に均一に塗布し、乾燥塗膜の状態を目視で観察した。
評価:ステンレスの未塗布状態と比較して、同等な光沢を◎とし、やや低いものを○、明らかに低いものを×とした。
2.指紋付着性;乾燥塗膜上に人の指を押しつけた後、その目立ち易さを目視評価した。
評価:ステンレスと比較して、同等な目立ち易さを×とし、一見して目立たないものを○、明らかに目立たないものを◎とした。
3.指紋の拭き取り易さ;乾いた綿の布を使用して指紋上を拭いて、指紋の除去性を調べた。
評価:ステンレスと比較して、同じように拭き取りにくいものを×とし、数回拭き上げて除去できたものを○、1回で容易に除去できたものを◎とした。
4.塗膜除去性;アルカリ性洗剤(リンレイ「ギガパワープロ」)を希釈した洗浄液(10倍)で表面を濡らし、綿ガーゼで軽く表面を擦り塗膜の除去性を調べた。
評価:容易に除去できたものを◎とし、繰り返し擦ることで除去できたものを○、除去できなかったものを×とした。
【0018】
これらの試験結果は、表5に示す。

【表5】

【0019】
表5の結果をみても明らかなように、実施例1〜10のものはいずれも乾燥光沢、指紋付着性、指紋の拭き取り易さ、塗膜除去性は良好、比較例1,2はいずれも乾燥光沢、指紋付着性、指紋の拭き取り易さ、塗膜除去性は不良であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の内外装に備えられた無機系部材からなる基材の表面に塗布されるコーティング剤組成物であって、有効成分として、下記(a)、(b)を含有し、固形分中の(a)+(b)の重量%が、100重量%以下40重量%以上で、(a)と(b)の混合比率が、(a)が0%〜100%、(b)が0%〜100%であることを特徴とするコーティング剤組成物。
(a)アクリル系共重合物のエマルジョン
(b)水性ウレタン系樹脂

【公開番号】特開2011−105857(P2011−105857A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262644(P2009−262644)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(390039712)株式会社リンレイ (18)
【Fターム(参考)】