説明

コーティング剤

【課題】プラスチック廃棄物の再資源化を可能にしたコーティング剤を提供する。
【解決手段】疎水性の多塩基酸−ビニルモノマー共重合体を含有するコーティング剤であって、前記多塩基酸−ビニルモノマー共重合体は、ポリエステル部とその架橋部を含む熱硬化性樹脂が亜臨界水分解して得られた熱硬化性樹脂のポリエステル部とその架橋部を構成する有機酸の化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、熱硬化性樹脂を材料とするプラスチック廃棄物のほとんどは埋立処分されていた。しかしながら、埋立用地の確保が困難であること、埋立後の地盤の不安定化という問題があり、この熱硬化性樹脂を材料とするプラスチック廃棄物を再資源化することが望まれている。
【0003】
これまで超臨界水または亜臨界水を反応媒体とする熱硬化性樹脂の分解方法が提案されているが(例えば、特許文献1,2参照)、これらの方法ではその分解物をそのまま再利用することができなかった。そこで特許文献3−5では、上記分解方法を応用して、分解物に新たに変性を施し、再利用できるようにした熱硬化性樹脂の回収・再利用方法を提案している。さらに本出願人は、熱硬化性樹脂の低収縮材として再利用可能にした変性スチレンフマル酸共重合体を提案している(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−24274号公報
【特許文献2】特開2004−155964号公報
【特許文献3】特開2005−336322号公報
【特許文献4】特開2006−36938号公報
【特許文献5】国際公開WO2006/057250号パンフレット
【特許文献6】特開2008−31412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これまで報告されている文献はいずれも熱硬化性樹脂の分解が主な目的であり、その分解物の特性はあまり検討されておらず、分解物を有効に再利用するためには用途が限定的であった。分解物の用途が拡大されれば分解物の再利用がすすみ、資源を有効に活用できる。
【0006】
本発明は以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、プラスチック廃棄物の再資源化を可能にしたコーティング剤を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下のことを特徴としている。
【0008】
第1には、疎水性の多塩基酸−ビニルモノマー共重合体を含有するコーティング剤であって、前記多塩基酸−ビニルモノマー共重合体は、ポリエステル部とその架橋部を含む熱硬化性樹脂が亜臨界水分解して得られた熱硬化性樹脂のポリエステル部とその架橋部を構成する有機酸の化合物である。
【0009】
第2には、上記第1の発明において、さらに前記多塩基酸−ビニルモノマー共重合体を溶解する揮発性溶剤を含む。
【0010】
第3には、上記第1の発明において、さらに前記多塩基酸−ビニルモノマー共重合体を中和して水に可溶化させる揮発性塩基と、水とを含み、揮発性塩基により水に可溶化した多塩基酸−ビニルモノマー共重合体は揮発性塩である。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明によれば、多塩基酸−ビニルモノマー共重合体のビニルモノマー基の種々の性質に特徴付けられた優れたコーティング剤が提供され、表面コーティングのみに留まらず、塗布物に含浸させて使用することができる。例えば、紙に使用した場合には、耐水性を付与し、にじみ防止や紙力増強にも寄与することが期待できる。さらにプリント配線基板にコーティングすることにより、誘電率の改善や耐熱性の付与等も期待できる。またこのコーティング剤は、FRP等の熱硬化性樹脂の分解により得られるので、プラスチック廃棄物を利用することにより、プラスチック廃棄物の再資源化が可能になる。
【0012】
第2の発明によれば、揮発性溶剤に溶解させて液状化させることにより、希薄かつ均一なコーティングが可能となり、被塗布部から溶剤が揮発した後にコーティング剤の種々の性質を短時間で付与することができる。
【0013】
第3の発明によれば、水溶性の水系コーティング剤が得られ、希薄かつ均一なコーティングが可能となる。被塗布部に塗布して乾燥すると不可逆的に疎水性へと変化するため、被塗布物に耐水性を効果的に付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明のコーティング剤における多塩基酸−ビニルモノマー共重合体は熱硬化性樹脂の分解により得られるが、この熱硬化性樹脂はポリエステルを架橋して得られたものであり、ポリエステル部とその架橋部を含むものである。
【0016】
ポリエステル部は、多価アルコールと多塩基酸とを重縮合させることにより多価アルコール残基と多塩基酸残基とがエステル結合を介して互いに連結したポリエステルに由来する。ポリエステル部は、不飽和多塩基酸に由来する二重結合を含んでいてもよい。
【0017】
架橋部は、ポリエステル部を架橋する部分である。架橋部は、例えば架橋剤に由来する部分であるが、特に限定されない。架橋部は、1個の架橋剤に由来する部分であってもよく、複数の架橋剤が重合したオリゴマーまたはポリマーに由来する部分であってもよい。また、架橋部とポリエステル部の結合位置および結合様式も特に限定されない。
【0018】
したがって、「ポリエステル部とその架橋部を含む熱硬化性樹脂」とは、多価アルコールと多塩基酸から得られるポリエステルが架橋部を介して架橋された網状の熱硬化性樹脂(網状ポリエステル樹脂)である。
【0019】
上記熱硬化性樹脂は、主として加熱等により硬化(架橋)された樹脂であるが、加熱等により硬化(架橋)が進行する未硬化の樹脂または部分的に硬化された樹脂であってもよい。
【0020】
本発明において分解の対象となる熱硬化性樹脂としては、多価アルコールと不飽和多塩基酸からなる不飽和ポリエステルが架橋剤により架橋された網状ポリエステル樹脂が挙げられる。
【0021】
ポリエステル部の原料である多価アルコールの具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類等が挙げられる。これらは1種単独で、あるいは2種以上を併用して用いることができる。
【0022】
ポリエステル部の原料である多塩基酸の具体例としては、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸等の脂肪族不飽和二塩基酸等の不飽和多塩基酸が挙げられる。これらは1種単独で、あるいは2種以上を併用して用いることができる。また、無水フタル酸等の飽和多塩基酸を不飽和多塩基酸と併用してもよい。
【0023】
多価アルコールと多塩基酸の共重合体であるポリエステルを架橋する架橋剤は、不飽和の疎水性ビニルモノマーである。具体例としては、スチレンやメタクリル酸メチル、モノクロロスチレン、ジアリルフタレート、トリアリルフタレート等が挙げられる。
【0024】
また、本発明において分解の対象となる熱硬化性樹脂には、炭酸カルシウムや水酸化アルミニウム等の無機充填材、ロービングを切断したチョップドストランド等のガラス繊維等の無機物、その他の成分が含有されていてもよい。
【0025】
本発明における多塩基酸−ビニルモノマー共重合体は、反応溶媒としての水を上記熱硬化性樹脂に加え、温度と圧力を上昇させて亜臨界状態にした水(以下、亜臨界水ともいう)で分解して得られる。反応溶媒の添加量は、熱硬化性樹脂100質量部に対して好ましくは200〜500質量部の範囲である。
【0026】
本発明において「亜臨界水」とは、水の温度が水の臨界点(臨界温度374.4℃、臨界圧力22.1MPa)以下であって、且つ、温度が140℃以上であり、その時の圧力が0.36MPa(140℃の飽和水蒸気圧)以上の範囲にある状態の水をいう。この場合、イオン積が常温常圧の水の約100〜1000倍になる。また、亜臨界水の誘電率は有機溶剤並みに下がることから、亜臨界水の熱硬化性樹脂表面に対する濡れ性が向上する。これらの効果によって加水分解が促進され、熱硬化性樹脂をモノマー化および/またはオリゴマー化することができる。
【0027】
亜臨界水による熱硬化性樹脂の分解処理は、一般的に熱分解反応および加水分解反応によって起こるものであり、亜臨界水の温度や圧力を適切な条件とすることにより、選択的に加水分解反応が起こり、熱硬化性樹脂のポリエステル部がその由来の原料であるモノマー(多価アルコールと多塩基酸)に分解されるとともに、ポリエステル部とその架橋部を構成する部分が有機酸の化合物であるスチレンフマル酸共重合体等の多塩基酸−ビニルモノマー共重合体に分解される。なお、ポリエステル部とその架橋部を構成する有機酸の化合物とは、ポリエステル部の多塩基酸と架橋部との化合物(反応物)である。例えば、ポリエステル部がフマル酸基を有し、架橋部がスチレンポリマーである場合、上記化合物として次式(1)で示されるスチレンフマル酸共重合体が得られる。
【0028】
【化1】

【0029】
式中のmはビニルモノマー基/多塩基酸のモル比、nは多塩基酸−ビニルモノマー共重合体の重合度であり、m=1〜10、n=3〜300の値をとるものである。
【0030】
したがって、本発明においても、上記の熱硬化性樹脂を亜臨界水に接触させて処理することにより、多価アルコールと多塩基酸および多塩基酸−ビニルモノマー共重合体に分解することができる。
【0031】
多塩基酸−ビニルモノマー共重合体の一例として示した上記式(1)のスチレンフマル酸共重合体のように多塩基酸部がカルボン酸の状態、もしくは次式(2)に示すように加熱脱水処理により多塩基酸部のカルボン酸を無水化した状態(以下、カルボン酸無水物ともいう)では多塩基酸−ビニルモノマー共重合体全体の性質が疎水性になるため、本実施形態ではこれを適当な溶剤に1〜10%、好ましくは3〜6%程度の濃度に溶解させたものをコーティング剤として用いる。紙等にこのコーティング剤を用いてコーティング処理を施すと耐水性を付与することができる。その際の多塩基酸−ビニルモノマー共重合体の部分的な作用としては、多塩基酸−ビニルモノマー共重合体の多塩基酸部のカルボン酸が親水性を示して紙のセルロースとなじんで接触し、ビニルモノマー部が疎水性に大きく寄与することになる。
【0032】
【化2】

【0033】
式中のmはビニルモノマー基/多塩基酸のモル比、nは多塩基酸−ビニルモノマー共重合体の重合度であり、m=1〜10、n=3〜300の値をとるものである。
【0034】
なお、分解して得られた多価アルコールと多塩基酸は、回収して熱硬化性樹脂の製造原料として再利用することができる。
【0035】
本発明において、分解反応時における亜臨界水の温度は、熱硬化性樹脂の熱分解温度未満であり、好ましくは180〜270℃の範囲である。分解反応時の温度が180℃未満であると、分解処理に多大な時間を要するため処理コストが高くなる場合があり、さらに多塩基酸−ビニルモノマー共重合体の収率が低くなる傾向がある。分解反応時の温度が270℃を超えると、多塩基酸−ビニルモノマー共重合体の熱分解が著しくなり、多塩基酸−ビニルモノマー共重合体が低分子化されて多塩基酸の誘導体やビニルモノマーにまで分解されて多塩基酸−ビニルモノマー共重合体として回収することが困難になる傾向がある。亜臨界水による処理時間は、反応温度等の条件によって異なるが、通常は1〜8時間である。分解反応時における圧力は、反応温度等の条件によって異なるが、好ましくは2〜15MPaの範囲である。
【0036】
亜臨界水による熱硬化性樹脂の分解処理においては、亜臨界水にアルカリを共存させてもよい。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の1価のアルカリ金属水酸化物を例示することができる。このような1価のアルカリ金属水酸化物を用いて熱硬化性樹脂を亜臨界水分解して得られる多塩基酸−ビニルモノマー共重合体は、多塩基酸部のカルボン酸の末端部分がアニオン性の塩、例えば、多塩基酸部のカルボキシル基がカルボキシレートアニオンとしてナトリウムやカリウム等のアルカリ金属と結合した状態(COONaやCOO)のカルボン酸ナトリウム塩やカルボン酸カリウム塩等となり、水溶性塩である。このため亜臨界水分解後は、分解反応により生成したポリエステル由来のモノマー(多価アルコールと多塩基酸)と多塩基酸−ビニルモノマー共重合体は水可溶成分として水溶液中で回収され、未分解の熱硬化性樹脂は固形分として水溶液と分離して回収される。熱硬化性樹脂に無機物等を含む場合には、無機物等は未分解の熱硬化性樹脂とともに固形分として回収される。したがって、ろ過等の方法で固液分離することで、多塩基酸−ビニルモノマー共重合体を含む水溶液をろ液として回収することができる。多塩基酸−ビニルモノマー共重合体が水溶性塩の状態ではコーティング剤として使用することができないため、このろ液に硫酸や塩酸等の酸を加え、上記式(1)のスチレンフマル酸共重合体のように多塩基酸−ビニルモノマー共重合体の多塩基酸部をカルボン酸の状態にする。これによって多塩基酸−ビニルモノマー共重合体全体の性質が疎水性になり、ろ液中に析出し、これをろ過等の方法により固液分離することによりコーティング剤として使用可能な多塩基酸−ビニルモノマー共重合体を固形分として回収することができる。
【0037】
このようにして得られた多塩基酸−ビニルモノマー共重合体(末端:カルボン酸)を上述したように適当な溶剤を用いて溶解させることによりコーティング剤を得る。この多塩基酸−ビニルモノマー共重合体(末端:カルボン酸)をカルボン酸無水物の状態にしてコーティング剤に用いてもよい。カルボン酸無水物の状態にすると溶剤への溶解特性が変わり、使用可能な溶剤の範囲が広がるという利点がある。
【0038】
溶剤としては、揮発性良溶媒が考慮される。揮発性良溶媒の具体例としては、多塩基酸−ビニルモノマー共重合体が上記式(1)のスチレンフマル酸共重合体あるいは上記式(2)のようにカルボン酸無水物の場合、メタノール、エタノール、アセトン、THF等が挙げられる。なお、多塩基酸−ビニルモノマー共重合体のベース構造により良溶媒も変わるため、上記のものに限定されない。揮発性良溶媒は多塩基酸−ビニルモノマー共重合体を高濃度で溶解させることが可能であり、被塗布物に塗布する際の溶液濃度、塗布量を調整することにより、溶媒揮発後に被塗布物上に形成されたコーティング膜厚を制御することが可能となる。また、希薄かつ均一なコーティングが可能となる。
【0039】
揮発性良溶媒以外の溶剤としては、揮発性塩基水溶液としてアンモニウム化合物水溶液を挙げることができる。前記多塩基酸−ビニルモノマー共重合体(末端:カルボン酸)をアンモニウム化合物水溶液で中和することにより、多塩基酸部のカルボキシル基がカルボキシレートアニオンとしてアンモニウムイオンと結合してカルボン酸アンモニウム塩(COONH)となり、水に可溶化する。このため水系コーティング剤として使用可能である。アンモニウム化合物(揮発性塩基)としては、水酸化アンモニウム(アンモニア水)、炭酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等が例示される。
【0040】
以上のようにして得られた末端がカルボン酸アンモニウム塩である多塩基酸−ビニルモノマー共重合体(以下、多塩基酸−ビニルモノマー共重合体揮発性塩という)は水溶性であり、この水溶液を被塗布部に塗布し乾燥を施すと、水分およびアンモニア(NH)が揮発し、その結果、被塗布部には疎水性の多塩基酸−ビニルモノマー共重合体(末端:カルボン酸)が残り、水系溶剤での疎水性コーティングが可能となる。
【0041】
亜臨界水による熱硬化性樹脂の分解処理において、アルカリが2価以上の水酸基含有の無機化合物、例えば、水酸化カルシウムや水酸化アルミニウム等を含む場合、またはアルカリを共存させずに熱硬化性樹脂にその他の成分として炭酸カルシウムが含まれている場合には、亜臨界水分解して得られる多塩基酸−ビニルモノマー共重合体は、2価以上の塩、例えばカルシウム塩(例えば、スチレンフマル酸共重合体の場合、2つのカルボン酸がCa原子を介して閉環する)となる。このものは不溶塩として、未分解の熱硬化性樹脂、および、熱硬化性樹脂に無機物等を含む場合にはその無機物等ともに固形分として混在している。そこで、まず亜臨界水分解後は固液分離して多塩基酸−ビニルモノマー共重合体の固体塩を含む固形分を回収する。次いで、この固形分に硫酸や塩酸等の酸を加えてその固形分に含まれる多塩基酸−ビニルモノマー共重合体の不溶塩を、上記式(1)のスチレンフマル酸共重合体のように多塩基酸部をカルボン酸の状態にした多塩基酸−ビニルモノマー共重合体(末端:カルボン酸)にする。これによってコーティング剤として使用可能な状態になる。次に、この多塩基酸−ビニルモノマー共重合体(末端:カルボン酸)を固形分中から回収するために、上記した揮発性良溶媒もしくは揮発性塩基水溶液を固形分に加えて多塩基酸−ビニルモノマー共重合体(末端:カルボン酸)を抽出し、固液分離したろ液をコーティング剤として使用する。
【0042】
亜臨界水による熱硬化性樹脂の分解処理において、亜臨界水にアルカリを共存させず、かつ、熱硬化性樹脂にその他の成分として炭酸カルシウムを含まない場合には、亜臨界水分解後の多塩基酸−ビニルモノマー共重合体は多塩基酸部がカルボン酸の状態で得られるので、硫酸や塩酸等の酸を加えることなく、上記した揮発性良溶媒もしくは揮発性塩基水溶液を用いて多塩基酸−ビニルモノマー共重合体(末端:カルボン酸)を抽出してコーティング剤として使用する。
【0043】
また、亜臨界水による熱硬化性樹脂の分解処理において、水酸化アンモニウム(アンモニア水)、炭酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等のアンモニア化合物を含む水で亜臨界水分解すると、上記した多塩基酸−ビニルモノマー共重合体(末端:カルボン酸)を揮発性塩基水溶液としてのアンモニウム化合物水溶液で溶解したコーティング剤と同様の水溶液が得られるため、亜臨界水分解後に固液分離したろ液を水系コーティング剤として使用することができる。アンモニア化合物を含む水のアンモニア化合物の濃度としては、反応効率やコスト面を考慮すると、一般的には、熱硬化性樹脂を分解して得られる多塩基酸−ビニルモノマー共重合体に含まれるカルボン酸の理論モル数に対し、2〜10モル当量とすることが好ましい。
【0044】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
<実施例1>
熱硬化性樹脂の硬化物として、多価アルコールであるグリコール類のプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、およびジプロピレングリコールと、不飽和多塩基酸である無水マレイン酸を当量配合したワニスに対して架橋剤としてスチレンを当量配合した熱硬化性樹脂100質量部に、炭酸カルシウム165質量部とガラス繊維90質量部を配合した硬化物を用意し、計量しやすいように2mmアンダー程度に粉砕した。
【0046】
硬化物4gに対し、0.8NのNaOH水溶液16mlを反応管に仕込み、230℃(2.8MPa)の恒温槽に浸漬し、反応管内の反応媒体を亜臨界状態にして2時間浸漬したまま放置し、硬化物の分解処理を行った。その後、反応管を恒温槽から取り出して冷却槽に浸漬し、反応管を急冷して室温まで戻した。分解処理後の反応管の内容物は、スチレンフマル酸共重合体を含む水可溶成分と、炭酸カルシウムとガラス繊維を含む固形分であり、この内容物をろ過することにより水可溶成分を固形分と分離して反応管から水溶液を回収した。回収した水溶液に塩酸を添加して固形分を析出させ、末端カルボン酸のスチレンフマル酸共重合体固形物0.65gを得た。この固形物に対し、固形物:メタノール=1:19となるようにメタノールに溶解させて溶剤液(5%溶液)を調製した。
<実施例2>
実施例1で得たスチレンフマル酸共重合体固形物(末端カルボン酸)0.5gを、1%のアンモニア水10g中に攪拌しながら溶解させた。その後、加熱して過剰分のアンモニアを揮発させてから、水を足して10gとし、スチレンフマル酸共重合体アンモニウム塩5%の水溶液を調製した。
<比較例>
実施例1において、亜臨界水分解後固形物を固液分離した水溶液(カルボン酸ナトリウム塩)に塩酸を添加する前の状態のものを用いた。この水溶液に酸を添加して析出した樹脂重量を測りとることにより、樹脂成分4.0%の水溶液であることを確認した。
【0047】
以上の溶液の濃度は、いずれも末端カルボン酸重量換算における濃度である。
<評価>
実施例1−2、比較例の各溶液を紙に塗工して表面コーティングを行い、ステキヒトサイズ法により、撥水性能を比較した。
【0048】
手順としては、各溶液を塗工液とし、ろ紙(5C)に浸して乾燥し、0.01〜0.015mg/mm程度の塗布量となるように塗布量を調整し、塗工された各試験体(乾燥後ろ紙)をチオシアン酸アンモニウムの水溶液に四片折して浮かべると同時に、塩化第二鉄溶液を滴下し、にじんで、両者が反応して赤変するまでの時間を計測した。評価結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
比較例の水溶液中に含まれるスチレンフマル酸ナトリウム塩は、疎水基スチレン鎖を持つもののスチレンフマル酸ナトリウム塩全体の性質は水溶性であるため、水とすばやくなじみ、塩化鉄溶液とチオシアン酸アンモニウムが添加とほぼ同時に反応して赤変した。一方、実施例1〜2は、構造全体として疎水性を示す末端カルボン酸の多塩基酸−ビニルモノマー共重合体が均一に塗布された結果、いずれも耐水効果を示した。実施例1,2は、いずれも塗布後ベース樹脂がスチレンフマル酸共重合体であり、塗布量の差異を考慮すると各実施例の効果に大差がないと考えられる。よって実施例2について水溶性アンモニウム塩が乾燥して実施例1と同様カルボン酸として機能したと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性の多塩基酸−ビニルモノマー共重合体を含有するコーティング剤であって、前記多塩基酸−ビニルモノマー共重合体は、ポリエステル部とその架橋部を含む熱硬化性樹脂が亜臨界水分解して得られた熱硬化性樹脂のポリエステル部とその架橋部を構成する有機酸の化合物であることを特徴とするコーティング剤。
【請求項2】
さらに前記多塩基酸−ビニルモノマー共重合体を溶解する揮発性溶剤を含むことを特徴とする請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項3】
さらに前記多塩基酸−ビニルモノマー共重合体を中和して水に可溶化させる揮発性塩基と、水とを含み、揮発性塩基により水に可溶化した多塩基酸−ビニルモノマー共重合体は揮発性塩であることを特徴とする請求項1に記載のコーティング剤。

【公開番号】特開2010−248503(P2010−248503A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72650(P2010−72650)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】