説明

コーティング材組成物及び塗装品

【課題】 優れた反射防止性能と高い表面強度を保持しつつ、高い防汚染性を有するコーティング被膜を形成することができるコーティング材組成物を提供する。
【解決手段】 下記(A)の加水分解物と金属酸化物微粒子とを混合した状態で下記(A)の加水分解物を加水分解した再加水分解物と、下記(B)の共重合加水分解物とを含有して、コーティング材組成物を調製する。
(A)一般式がSiX(Xは加水分解基) …(1)
で表わされる加水分解性オルガノシランを加水分解して得られる加水分解物
(B)式(1)の加水分解性オルガノシランと、フッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシランとの共重合加水分解物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止被膜等を形成するために使用されるコーティング材組成物、及びこのコーティング材組成物を塗装して反射防止被膜等として形成した塗装品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイの最表面に形成される反射防止被膜は、優れた反射防止性能とともに、傷の発生を防止する表面強度(すなわち耐擦傷性)、指紋等の汚れが簡単に除去できる表面撥水・撥油性(すなわち防汚染性)、クリーナー等の各種薬剤に対する耐薬品性が要求される。
【0003】
被膜屈折率を考慮しない場合には、UV硬化型、EB硬化型の樹脂コーティング材を使用することによって高い表面強度を得ることができるが、一般にUV硬化型、EB硬化型の樹脂は屈折率が高いので、樹脂リッチの被膜では反射防止能を得ることができず、中空シリカ微粒子等の低屈折率フィラーを複合させることが必要になる。そして単層で十分な反射防止能を得るためには中空シリカ微粒子の比率を増やす必要があり、この場合には被膜のマトリクス材料がUV硬化型、EB硬化型の樹脂であっても、十分な表面強度が得られなくなってしまう。また最近のディスプレイ(特に液晶ディスプレイ)の高精細化に伴なって、反射防止被膜のゴミ等の異物による欠点を極力無くさなければならないが、UV硬化型、EB硬化型の樹脂はコーティング後、希釈溶剤が蒸発してもUVあるいはEBが照射されるまでは、濡れたウエット感のある状態であるので、ゴミ等の異物が付着し易い。このため、コーティングゾーンと共に全乾燥ゾーンまでもクリーン度を維持する必要があり、大掛かりな設備が必要となる。
【0004】
クリーン度を維持する乾燥ゾーンのエリアを小さくするためには、マトリクス形成材料として熱硬化型の樹脂が好ましいが、一般の有機の熱硬化型樹脂は自身の屈折率が高いために、上記と同様に十分な表面硬度を得ることができない。またパーフルオロ樹脂に代表されるフッ素樹脂の屈折率は1.40未満と低いが、樹脂自身に起因して被膜強度が低くなるので、強度を得るためにはアクリル樹脂との複合が必要となって屈折率が高くなり、結局は十分な反射防止能と表面強度を両立させることは難しい。
【0005】
一方、SiX(Xは加水分解基)の化学式で表わされる加水分解性オルガノシランを加水分解して得られる加水分解物は、アクリル樹脂等の一般の有機樹脂と比較して被膜屈折率が低く、また優れた機械的強度の被膜を期待することができるマトリクス形成材料である。このため、この加水分解性オルガノシランの加水分解物をマトリクス形成材料として用いると、中空シリカ微粒子等の低屈折率フィラーを複合した被膜を形成する場合に、他の一般有機樹脂よりも中空シリカ微粒子の比率を削減することができるものであり、高い表面強度を有する被膜を形成し易い(例えば特許文献1、特許文献2等参照)。
【特許文献1】特開2003−201443号公報
【特許文献2】特開2002−79616号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、指紋の拭き取り性など防汚染性が強く要望される用途においては、上記の加水分解性オルガノシランの加水分解物をマトリクス形成材料とするものでは、撥水・撥油性が不十分であり、フッ素含有材料やオイル等をマトリクス形成材料に多量に添加したり、後加工で硬化被膜の表面をフッ素やオイルで撥水・撥油処理することが必要であった。
【0007】
しかしながら、フッ素含有材料やオイル等を多量に添加したマトリクス形成材料で被膜を形成すると、膜性能が低下するという問題があり、また後工程による処理では2コート処理になって工数が増えるという問題がある。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、優れた反射防止性能と高い表面強度を保持しつつ、高い防汚染性を有するコーティング被膜を形成することができるコーティング材組成物及び塗装品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係るコーティング材組成物は、下記(A)の加水分解物と金属酸化物微粒子とを混合した状態で下記(A)の加水分解物を加水分解した再加水分解物と、下記(B)の共重合加水分解物とを含有して成ることを特徴とするものである。
(A)一般式がSiX(Xは加水分解基) …(1)
で表わされる加水分解性オルガノシランを加水分解して得られる加水分解物
(B)式(1)の加水分解性オルガノシランと、フッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシランとの共重合加水分解物
また請求項2の発明は、請求項1において、金属酸化物粒子が、外殻がシリカ系金属酸化物で形成された中空微粒子であることを特徴とするものである。
【0010】
また請求項3の発明は、請求項1又は2において、再加水分解物と、共重合加水分解物(B)との含有質量比率が、99:1〜50:50であることを特徴とするものである。
【0011】
また請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかにおいて、式(2)で表されるシリコーンジオール(C)を含有することを特徴とするものである。
【0012】
【化1】

【0013】
本発明の請求項5に係る塗装品は、請求項1乃至4のいずれかに記載のコーティング材組成物の硬化被膜を、基材の表面に備えて成ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
加水分解物(A)と共重合加水分解物(B)をマトリクスとして硬化被膜を形成することができるので、屈折率が低い硬化被膜を形成することができるものであり、中空微粒子の配合量を少なくしても屈折率が低く優れた反射防止性能を有する硬化被膜を形成することができると共に、高い表面強度の硬化被膜を形成することができるものである。また、加水分解物(A)は金属酸化物微粒子を混合した状態で加水分解することによって、加水分解物(A)は金属酸化物微粒子との親和性が高くなっており、被膜を形成する際に、金属酸化物微粒子と親和性が高くない共重合加水分解物(B)が被膜の表層に浮き上がるように局在し、フッ素成分を有する共重合加水分解物(B)によって硬化被膜の表面の撥水・撥油性を高めることができ、防汚染性を向上することができるものである。
【0015】
このように、優れた反射防止性能と高い表面強度を保持しつつ、高い防汚染性を有するコーティング被膜を形成することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0017】
本発明に係るコーティング材組成物はマトリクス形成材料と金属酸化物微粒子からなるものであり、マトリクス形成材料は加水分解物(A)と共重合加水分解物(B)からなるものである。
【0018】
本発明において用いる加水分解物(A)は、
一般式がSiX(Xは加水分解基) …(1)
で表わされる4官能加水分解性オルガノシランを加水分解して得られる4官能加水分解物(4官能シリコーンレジン)である。この4官能加水分解性オルガノシランとしては、下記式(3)に示されるような4官能オルガノアルコキシシランを挙げることができる。
【0019】
Si(OR) …(3)
上記式(3)のアルコキシル基「OR」中の「R」は1価の炭化水素基であれば特に限定されるものではないが、炭素数1〜8の1価の炭化水素基が好適であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基等を例示することができる。アルコキシド基中に含有されるアルキル基のうち、炭素数が3以上のものについては、n−プロピル基、n−ブチル基等のように直鎖状のものであってもよいし、イソプロピル基、イソブチル基、t−ブチル基等のように分岐を有するものであってもよい。
【0020】
また4官能加水分解性オルガノシランの加水分解基Xとしては、上記のアルコキシル基の他に、アセトキシ基、オキシム基(−O−N=C−R(R'))、エノキシ基(−O−C(R)=C(R')R”)、アミノ基、アミノキシ基(−O−N(R)R')、アミド基(−N(R)−C(=O)−R')(これらの基においてR、R'、R”は、例えばそれぞれ独立に水素原子又は一価の炭化水素基等である)や、ハロゲン等を挙げることができる。
【0021】
そして、4官能シリコーンレジンである加水分解物(A)を調製するにあたっては、上記4官能オルガノアルコキシシラン等の4官能加水分解性オルガノシランを加水分解(部分加水分解も含む)することによって行なうことができる。ここで、得られる4官能シリコーンレジンである加水分解物(A)の重量平均分子量は特に限定されるものではないが、中空シリカ微粒子など中空微粒子に対して、より少ない割合のマトリクス形成材料によって硬化被膜の機械的強度を得るためには、重量平均分子量は200〜2000の範囲にあることが好ましい。重量平均分子量が200より小さいと被膜形成能力に劣るおそれがあり、逆に2000を超えると硬化被膜の機械的強度に劣るおそれがある。
【0022】
ここで、このように加水分解性オルガノシランを加水分解して加水分解物(A)を調製するにあたって、本発明では、金属酸化物微粒子を混合した状態で加水分解物(A)をさらに加水分解するようにしてあり、加水分解物(A)を金属酸化物微粒子と混合させた状態の再加水分解物を得るようにしてある。この再加水分解物において、加水分解物(A)は加水分解の際に金属酸化物微粒子の表面と反応し、金属酸化物微粒子に加水分解物(A)は化学的に結合された状態になっており、金属酸化物微粒子に対する加水分解物(A)の親和性を高めることができるものである。金属酸化物微粒子を混合した状態で加水分解する際の反応条件は、20〜30℃程度の室温で行なうのが好ましい。温度が低いと反応が進まず、親和性を高める効果が不十分であり、逆に温度が高いと反応が速く進み過ぎて一定の分子量の確保が困難になると共に、分子量が大きくなり過ぎて膜強度が落ちるおそれがある。
【0023】
尚、このように加水分解性オルガノシランを加水分解して加水分解物(A)を調製した後に、金属酸化物微粒子を混合した状態で加水分解物(A)をさらに加水分解して再加水分解物を得るようにする他に、金属酸化物微粒子を混合した状態で加水分解性オルガノシランを加水分解することによって、加水分解物(A)を調製すると同時に金属酸化物微粒子と混合させた状態の再加水分解物を得るようにしてもよい。
【0024】
そして上記の金属酸化物微粒子としては、内部が空洞でない非中空微粒子や、外殻の内部が空洞となった中空微粒子を用いることができる。非中空の金属酸化物微粒子としては、特に限定されるものではないが、シリカ微粒子を用いることができる。このシリカ微粒子を配合することによって、コーティング材組成物によって形成される硬化被膜の機械的強度を向上させることができるものであり、さらには表面平滑性と耐クラック性をも改善することができるものである。このシリカ微粒子の形態としては、特に限定されるものではなく、例えば、粉体状の形態でもゾル状の形態でもよい。シリカ微粒子をゾル状の形態、すなわちコロイダルシリカとして使用する場合、特に限定されるものではないが、例えば、水分散性コロイダルシリカあるいはアルコール等の親水性の有機溶媒分散性コロイダルシリカを使用することができる。一般にこのようなコロイダルシリカは、固形分としてのシリカを20〜50質量%含有しており、この値からシリカ配合量を決定することができる。このシリカ微粒子の配合量は特に限定されるものではないが、コーティング材組成物中における固形分全量に対して、0.1〜60質量%になるように設定するのが好ましい。0.1質量%未満ではこのシリカ微粒子の配合による効果が得られないおそれがあり、逆に60質量%を超えると硬化被膜の屈折率を高くするように悪影響を及ぼすおそれがある。
【0025】
また、外殻が金属酸化物で形成された中空微粒子としては、中空シリカ微粒子を用いることができる。中空シリカ微粒子はシリカ系金属酸化物の外殻の内部に空洞が形成されたものであり、このようなものであれば特に限定されるものではないが、具体的には次のようなものを用いることができる。例えば、シリカ系無機酸化物からなる外殻(シェル)の内部に空洞を有した中空シリカ微粒子を用いることができる。シリカ系無機酸化物とは、(A)シリカ単一層、(B)シリカとシリカ以外の無機酸化物とからなる複合酸化物の単一層、及び(C)上記(A)層と(B)層との二重層を包含するものをいう。外殻は細孔を有する多孔質なものであってもよいし、細孔が後述する操作により閉塞されて空洞を密封したものであってもよい。外殻は、内側の第1シリカ被覆層及び外側の第2シリカ被覆層からなる複数のシリカ系被覆層であることが好ましい。外側に第2シリカ被覆層を設けることにより、外殻の微細孔を閉塞させて外殻を緻密化したり、さらには、外殻で内部の空洞を密封した中空シリカ微粒子を得ることができるものである。
【0026】
第1シリカ被覆層の厚みは1〜50nm、特に5〜20nmの範囲とすることが好ましい。第1シリカ被覆層の厚みが1nm未満であると、粒子形状を保持することが困難となって、中空シリカ微粒子を得ることができないおそれがあり、また第2シリカ被覆層を形成する際に、有機珪素化合物の部分加水分解物等が核粒子の細孔に入り、核粒子構成成分の除去が困難となるおそれがある。逆に、第1シリカ被覆層の厚みが50nmを超えると、中空シリカ微粒子中の空洞の割合が減少して屈折率の低下が不十分となるおそれがある。さらに、外殻の厚みは、平均粒子径の1/50〜1/5の範囲にあることが好ましい。第2シリカ被覆層の厚みは、第1シリカ被覆層との合計厚みが上記1〜50nmの範囲となるようにすればよく、特に外殻を緻密化する上では、20〜49nmの範囲が好適である。
【0027】
空洞には中空シリカ微粒子を調製するときに使用した溶媒及び/又は乾燥時に浸入する気体が存在している。また、空洞には空洞を形成するための前駆体物質が残存していてもよい。前駆体物質は、外殻に付着してわずかに残存していることもあるし、空洞内の大部分を占めることもある。ここで、前駆体物質とは、第1シリカ被覆層を形成するための核粒子からその構成成分の一部を除去した後に残存する多孔質物質である。核粒子には、シリカとシリカ以外の無機酸化物とからなる多孔質の複合酸化物粒子を用いる。無機酸化物としては、Al、B、TiO、ZrO、SnO、Ce、P、Sb、MoO、ZnO、WO等の1種又は2種以上を挙げることができる。2種以上の無機酸化物として、TiO−Al、TiO−ZrO等を例示することができる。なお、この多孔質物質の細孔内にも上記溶媒あるいは気体が存在している。このときの構成成分の除去量が多くなると空洞の容積が増大し、屈折率の低い中空シリカ微粒子が得られ、この中空シリカ微粒子を配合して得られる透明被膜は低屈折率で反射防止性能に優れる。
【0028】
中空シリカ微粒子の平均粒子径は5nm〜2μmの範囲にある。5nmよりも平均粒子径が小さいと、中空によって低屈折率になる効果が小さく、逆に2μmよりも平均粒子径が大きいと、透明性が極端に悪くなり、拡散反射(Anti-Glare)による寄与が大きくなってしまう。硬化被膜に高い透明性が要求される用途として、例えばディスプレイ等の反射を防止するためには、中空シリカ微粒子の平均粒子径は5〜100nmの範囲が好ましい。なお、上記平均粒子径は動的光散乱法によって求めることができる。
【0029】
中空微粒子の配合量は特に限定されるものではないが、コーティング材組成物における重量割合が、中空微粒子/その他の成分(固形分)=95/5〜20/80の範囲になるように設定するのが好ましく、より好ましくは80/20〜30/70である。中空微粒子が95より多いと、コーティング材組成物によって得られる硬化被膜の機械的強度が低下するおそれがあり、逆に中空微粒子が20より少ないと、硬化被膜の低屈折率を発現させる効果が小さくなるおそれがある。
【0030】
また、本発明において用いる共重合加水分解物(B)は、加水分解性オルガノシランと、フッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシランとの共重合加水分解物である。
【0031】
加水分解性オルガノシランとしては、上記の式(1)の4官能加水分解性オルガノシランを用いるものであり、この4官能加水分解性オルガノシランとしては上記の式(3)の4官能オルガノアルコキシシランを挙げることができる。
【0032】
またフッ素置換アルキル基含有加水分解性オルガノシランとしては、下記式(4)〜(6)で表される構成単位を有するものが好適である。
【0033】
【化2】

【0034】
(式中、Rは炭素数1〜16のフルオロアルキル基またはパーフルオロアルキル基を示し、Rは炭素数1〜16のアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルケニル基、またはアルコキシ基、水素原子あるいはハロゲン原子を示す。またXは−(C)−を示し、aは1〜12の整数、b+cは2aであり、bは0〜24の整数、cは0〜24の整数である。このようなXとしては、フルオロアルキレン基とアルキレン基とを有する基が好ましい。)
上記の加水分解性オルガノシランとフッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシランとを混合し、加水分解させて共重合することによって、共重合加水分解物(B)を得ることができるものである。加水分解性オルガノシランとフッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシランの混合比率(共重合比率)は、特に限定されるものではないが、縮合化合物換算の質量比率で、加水分解性オルガノシラン/フッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシラン=97/3〜50/50の範囲が好ましい。フッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシランの量が3質量%未満であると、フッ素成分による撥水・撥油性や防汚性を十分に発現させることができず、逆に50質量%を超えると、被膜強度の低下や、被膜の白濁が生じ、また塗装時にはじいたりする不良の原因になるおそれがある。共重合加水分解物(B)の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、200〜5000の範囲が好ましい。200未満であると被膜形成能力が劣り、逆に5000を超えると被膜強度が低下するおそれがある。
【0035】
そして、上記の金属酸化物微粒子を混合した再加水分解物と、共重合加水分解物(B)を混合することによって、加水分解物(A)からなる再加水分解物と共重合加水分解物(B)との混合物をマトリクス形成材料とし、金属酸化物微粒子をフィラーとして含有するコーティング材組成物を得ることができるものである。加水分解物(A)からなる再加水分解物(金属酸化物微粒子を含む)と、共重合加水分解物(B)との質量比率は、99:1〜50:50の範囲に設定するのが好ましい。共重合加水分解物(B)の比率が1質量%未満であると、撥水・撥油性や防汚性を十分に発現させることができず、逆に50質量%を超えると、後述のように共重合加水分解物(B)が再加水分解物の上に浮き上がる作用が顕著には現われなくなり、加水分解物(A)と共重合加水分解物(B)を単に混合したコーティング材組成物との差がなくなる。
【0036】
上記のように調製したコーティング材組成物を基材の表面に塗装して被膜を形成すると共にこの被膜を乾燥硬化させることによって、表面に低屈折率を有する硬化被膜が形成された塗装品を得ることができる。なお、コーティング材組成物が塗装される基材としては、特に限定されるものではないが、例えば、ガラスに代表される無機系基材、金属基材、ポリカーボネートやポリエチレンテレフタレートに代表される有機系基材を挙げることができ、また基材の形状としては、板状やフィルム状等を挙げることができる。さらに、基材の表面に1層以上の層が形成されていても構わない。
【0037】
コーティング材組成物を基材の表面に塗装するにあたって、その方法は特に限定されるものではないが、例えば、刷毛塗り、スプレーコート、浸漬(ディッピング、ディップコート)、ロールコート、フローコート、カーテンコート、ナイフコート、スピンコート、テーブルコート、シートコート、枚葉コート、ダイコート、バーコート等の通常の各種塗装方法を選択することができる。
【0038】
また、基材の表面に形成した被膜を乾燥させた後に、これに熱処理を行うのが好ましい。この熱処理によって、硬化被膜の機械的強度をさらに向上させることができるものである。熱処理の際の温度は、特に限定されるものではないが、100〜300℃の比較的低温で5〜30分処理することが好ましい。このように低温で熱処理を行っても、高温で熱処理を行うときと同等の機械的強度を得ることができるので、製膜コストを低減することが可能となり、また高温による熱処理の場合のように、基材の種類が制限されることがなくなるものである。しかも、例えばガラス基材の場合には熱伝導率が低いため、温度の上昇と冷却に時間がかかり、高温による熱処理ほど処理スピードが遅くなるのに対し、低温による熱処理では逆に処理スピードを早めることができるものである。基材の表面に形成する硬化被膜の膜厚は、使用用途や目的に応じて適宜選択することができ、特に限定されるものではないが、50〜150nmの範囲が好ましい。
【0039】
そして、本発明に係るコーティング材組成物を用いれば、低屈折率の硬化被膜を容易に形成することができ、反射防止用途に好適である。例えば、基材の屈折率が1.60以下の場合には、この基材の表面に屈折率が1.60以上の硬化被膜を形成してこれを中間層とし、さらにこの中間層の表面に、本発明に係るコーティング材組成物による硬化被膜を形成するのが有効である。中間層を形成するための硬化被膜は、公知の高屈折率材料を用いて形成することができ、またこの中間層の屈折率は1.60以上であれば、本発明に係るコーティング材組成物による硬化被膜との屈折率の差が大きくなり、反射防止性能に優れた反射防止基材を得ることができるものである。また反射防止基材の硬化被膜の着色を緩和するために、中間層を屈折率の異なる複数の層で形成してもよい。反射防止の用途としては、例えば、ディスプレイの最表面、自動車のサイドミラー、フロントガラス、サイドガラス、リアガラスの内面、その他車両用ガラス、建材ガラス等を挙げることができる。
【0040】
ここで、上記のように金属酸化物微粒子を混合した状態で加水分解物(A)を加水分解することによって、金属酸化物微粒子に対する加水分解物(A)の親和性を高めるようにしてあり、この後に共重合加水分解物(B)を混合してコーティング材組成物を調製するようにしてある。そして、コーティング材組成物を基材の表面に塗布して被膜を形成するにあたって、共重合加水分解物(B)は被膜の表層に浮き上がって局在する傾向にある。このように共重合加水分解物(B)が被膜の表層に局在する理由は明らかではないが、加水分解物(A)は金属酸化物粒子に親和して被膜中に均一に存在するが、金属酸化物粒子に対する親和性を特に有しない共重合加水分解物(B)は金属酸化物粒子から離れて、被膜の表層に浮き上がるものと推測される。特に基材がガラスなど共重合加水分解物(B)との親和性の低いものである場合、共重合加水分解物(B)は基材から離れた被膜の表層に局在し易いので、この傾向は大きくなる。そしてこのように表層に共重合加水分解物(B)が偏在した状態で硬化被膜が形成されると、硬化被膜の表層には共重合加水分解物(B)に含有されているフッ素成分が局在することになり、フッ素成分の局在によって硬化被膜の表面の撥水・撥油性を高めることができるものであり、硬化被膜の表面の防汚染性を向上することができるものである。
【0041】
また、本発明のコーティング材組成物には、マトリクス形成材料の一部としてシリコーンジオール(C)をさらに含有させるようにしてもよい。シリコーンジオール(C)は、上記の式(2)で表わされるジメチル型のシリコーンジオールである。上記の式(2)において、ジメチルシロキサンの繰り返し数nは特に限定されるものではないが、n=20〜100の範囲が好ましい。nが20未満であると、後述のような摩擦抵抗の低減の効果を十分に得ることができず、逆にnが100を超えると、他のマトリクス形成材料との相溶性が悪くなる傾向があり、硬化被膜の透明性に悪影響を及ぼしたり、硬化被膜に外観ムラが発生するおそれがある。シリコーンジオール(C)の配合量は特に限定されるものではないが、コーティング材組成物の全固形分(中空微粒子やマトリクス形成材料の縮合化合物換算固形分)に対して1〜10質量%の範囲が好ましい。
【0042】
このようにコーティング材組成物にマトリクス形成材料の一部としてシリコーンジオールを含有させると、硬化被膜にはこのシリコーンジオールが導入されるので、硬化被膜の表面摩擦抵抗を小さくすることができる。従って、硬化被膜の表面への引っ掛かりを低減して、傷が入り難くなるようにすることができ、耐擦傷性を向上することができるものである。特に本発明で用いるジメチル型のシリコーンジオールは、被膜を形成した際には被膜の表面にシリコーンジオールが局在し、被膜の透明性を損なわないものである(ヘーズ率が小さい)。またジメチル型のシリコーンジオールは本発明で用いるマトリクス形成材料と相溶性に優れ、しかもマトリクス形成材料のシラノール基と反応性を有するために、マトリクスの一部として硬化被膜の表面に固定されるものであり、単にシリコーンオイル(両末端もメチル基)を混入しただけの場合のように硬化被膜の表面を拭くと除去されてしまうようなことがなく、長期に亘って硬化被膜の表面摩擦抵抗を小さくして耐擦傷性を長期間維持することができるものである。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、特に断らない限り、「部」はすべて「質量部」を、「%」は、後述する全光線透過率、反射率及びヘーズ率を除き、すべて「質量%」を表す。また、分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、測定機種として東ソー(株)のHLC8020を用いて、標準ポリスチレンで検量線を作成し、その換算値として測定したものである。
【0044】
(実施例1)
テトラエトキシシラン208部にメタノール356部を加え、さらに水18部及び0.01Nの塩酸水溶液18部(「HO」/「OR」=0.5)を混合し、これをディスパーを用いてよく混合した。この混合液を25℃恒温槽中で2時間撹拌して、重量平均分子量を850に調整した加水分解物(A)(4官能シリコーンレジン)を得た。そしてシリカ微粒子としてシリカIPA(イソプロパノール)分散ゾル(触媒化成工業社製「OSCAL1432」、固形分30%)を用い、このシリカ微粒子を加水分解物(A)に、シリカ微粒子/加水分解粒(A)(縮合化合物換算)が固形分基準で40/60の質量比になるように配合し、さらに25℃恒温槽中で1時間撹拌して、重量平均分子量を1500に調整した再加水分解物(固形分10%)を得た。
【0045】
一方、上記のようにして得た加水分解物(A)とフルオロシラン(東芝シリコーン社製「TSL8233」)を、フルオロシラン/加水分解物(A)(縮合化合物換算)が固形分基準で50/50の質量比になるように配合し、さらに25℃恒温槽中で1時間撹拌して、重量平均分子量を1500に調整した共重合加水分解物(B)を得た。
【0046】
そして再加水分解物(シリカ微粒子を含む)と共重合加水分解物(B)を、再加水分解物/共重合加水分解物(B)が固形分基準で80/20の質量比になるように配合し、さらに全固形分が1%になるようにIPAで希釈することによって、コーティング材組成物を調製した。
【0047】
このコーティング材組成物を1時間放置した後に、予め酸化セリウム微粒子で研磨洗浄しておいたソーダライムガラスの表面にワイヤーバーコーターによって塗布し、100℃で10分間熱処理することによって、膜厚が100nmの硬化被膜を得た。
【0048】
(実施例2)
実施例1において、再加水分解物(シリカ微粒子を含む)と共重合加水分解物(B)を、再加水分解物/共重合加水分解物(B)が固形分基準で50/50の質量比になるように配合した以外は、実施例1と同様にしてコーティング材組成物を調製した。
【0049】
そして、このコーティング材組成物を実施例1と同様に塗布し、その後熱処理することによって硬化皮膜を得た。
【0050】
(実施例3)
実施例1において、コーティング材形成成分としてシリコーンジオール(式(2)のn≒40)を、コーティング材組成物の全固形分に対して1%添加するようにした以外は、実施例1と同様にしてコーティング材組成物を調製した。
【0051】
そして、このコーティング材組成物を実施例1と同様に塗布し、その後熱処理することによって硬化皮膜を得た。
【0052】
(実施例4)
実施例1において、シリカ微粒子の代りに、中空シリカ微粒子として中空シリカIPA分散ゾル(固形分20%:触媒化成工業社製)を用いるようにした以外は、実施例1と同様にしてコーティング材組成物を調製した。
【0053】
そして、このコーティング材組成物を実施例1と同様に塗布し、その後熱処理することによって硬化皮膜を得た。
【0054】
(比較例1)
実施例1と同じ、シリカ微粒子(触媒化成工業社製「OSCAL1432」、固形分30%)と、加水分解物(A)(4官能シリコーンレジン)と、フルオロシラン(東芝シリコーン社製「TSL8233」)を、32:58:10の質量比になるように配合し、さらに25℃の恒温槽で1時間攪拌して、重量平均分子量1500、固形分10%のコーティング材組成物を調製した。その後全固形分が1%になるようにIPAで希釈することによって、実施例1と成分比率が同じコーティング材組成物を得た。
【0055】
そして、このコーティング材組成物を実施例1と同様に塗布し、その後熱処理することによって硬化皮膜を得た。
【0056】
(比較例2)
実施例1と同じ、シリカ微粒子(触媒化成工業社製「OSCAL1432」、固形分30%)と、加水分解物(A)(4官能シリコーンレジン)と、フルオロシラン(東芝シリコーン社製「TSL8233」)を、32:38:30の質量比になるように配合し、さらに25℃の恒温槽で1時間攪拌して、重量平均分子量1500、固形分10%のコーティング材組成物を調製した。その後全固形分が1%になるようにIPAで希釈することによって、コーティング材組成物を得た。
【0057】
そして、このコーティング材組成物を実施例1と同様に塗布し、その後熱処理することによって硬化皮膜を得た。
【0058】
(比較例3)
実施例1と同じ、シリカ微粒子(触媒化成工業社製「OSCAL1432」、固形分30%)と、加水分解物(A)(4官能シリコーンレジン)と、フルオロシラン(東芝シリコーン社製「TSL8233」)を、20:55:25の質量比になるように配合し、さらに25℃の恒温槽で1時間攪拌して、重量平均分子量1500、固形分10%のコーティング材組成物を調製した。その後全固形分が1%になるようにIPAで希釈することによって、実施例2と成分比率が同じコーティング材組成物を得た。
【0059】
そして、このコーティング材組成物を実施例1と同様に塗布し、その後熱処理することによって硬化皮膜を得た。
【0060】
(比較例4)
比較例1において、シリカ微粒子の代りに、中空シリカ微粒子として中空シリカIPA分散ゾル(固形分20%:触媒化成工業社製)を用いるようにした以外は、実施例1と同様にしてコーティング材組成物を調製した。
【0061】
そして、このコーティング材組成物を実施例1と同様に塗布し、その後熱処理することによって硬化皮膜を得た。
【0062】
(配合比率)
実施例1〜4及び比較例1〜4のコーティング材組成物における配合比率を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
上記の実施例1〜4及び比較例1〜4の硬化被膜に対して機械的強度、指紋除去性、耐アルカリ性を評価した。結果を表2に示す。
【0065】
(機械的強度)
スチールウール#0000で硬化被膜表面を擦り、発生する傷の発生レベルで機械的強度を次のように判定した。
A:傷が発生しない
B:傷が僅かに発生する
C:傷が発生する
D:傷が多数発生する(または剥離する)
(指紋除去性)
硬化被膜の表面に指紋を付着させ、その指紋後を布でふき取ることにより、次の基準で指紋除去性を判定した。
A:数回で除去できる
B:10数回程度で除去できる
C:かなり拭くと何とか除去できる
D:除去できない(跡がのこる)
(耐アルカリ性)
1NのNaOH水溶液(25℃)に1時間浸漬し、被膜の状態を観察して次の基準で判定した。
A:被膜に変化無し
B:膜に浸漬した跡が見えるが、布で擦っても剥離異常なし
C:浸漬だけでは剥離は見られないが、布で擦ると剥離する
D:浸漬により剥離する
【0066】
【表2】

【0067】
表2にみられるように、実施例1〜4のものは、特に機械的強度と指紋除去性で総てA〜Bという良好な結果を示しているのに対して、比較例1〜4のものはCあるいはDの評価があり、満足できる結果のものは見受けられなかった。
【0068】
そして、実施例1及び比較例1は、被膜中に含有される全成分の比率は同じであるが、実施例1の被膜は表面に(B)成分のフルオロシランが局在化しているため、全固形分中のフルオロシラン量が10%という少量であっても指紋除去性、機械的強度(表面滑り性)に大きな効果が見られ、また比較例2のように実施例1と同等の指紋除去性を付与させるためフルオロシランを増量させたものと比較すると、実施例1は被膜中のフルオロシラン量が少量のため密着等への効果もあり、耐アルカリ性等の耐久性も良好であった。
【0069】
また、実施例2及び比較例3は、被膜中に含有される全成分の比率は同じであるが、実施例1に比べ膜表面に浮かび上がる(B)成分の比率を増量している。そのため実施例1と比較例1の間ほどの顕著な差は見られないものの、(A)成分/(B)成分=50/50においても当該効果がみられた。
【0070】
また実施例3は、実施例1に対してシリコーンジオールを添加したものであり、これによりさらに機械的強度が向上効果がみられた。
【0071】
また、実施例4と比較例4においてはフィラーとして中空シリカ微粒子を用いているが、この際にも実施例1と比較例1の間と同様な効果の差ががみられた。
【0072】
上記のように、本発明に係るコーティング材組成物を基材に塗布して乾燥して得られる硬化被膜は、機械的強度、指紋ふき取り性、耐久性を向上させることができることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)の加水分解物と金属酸化物微粒子とを混合した状態で下記(A)の加水分解物を加水分解した再加水分解物と、下記(B)の共重合加水分解物とを含有して成ることを特徴とするコーティング材組成物。
(A)一般式がSiX(Xは加水分解基) …(1)
で表わされる加水分解性オルガノシランを加水分解して得られる加水分解物
(B)式(1)の加水分解性オルガノシランと、フッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシランとの共重合加水分解物
【請求項2】
金属酸化物粒子が、外殻がシリカ系金属酸化物で形成された中空微粒子であることを特徴とする請求項1記載のコーティング材組成物。
【請求項3】
再加水分解物と、共重合加水分解物(B)との含有質量比率が、99:1〜50:50であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のコーティング材組成物。
【請求項4】
式(2)で表されるシリコーンジオール(C)を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のコーティング材組成物。
【化1】

【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のコーティング材組成物の硬化被膜を、基材の表面に備えて成ることを特徴とする塗装品。

【公開番号】特開2006−111780(P2006−111780A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−302237(P2004−302237)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】