説明

コーティング組成物及びコーティングフィルム

【課題】任意の外装表面などの基材に自己洗浄性を持たせるためのコーティング膜を、その基材を分解劣化させることなく形成でき、しかも、少ない量の水であっても表面に粒状となって付着することを防ぐことができるコーティング組成物及びコーティングフィルムを提供する。
【解決手段】本発明にかかるコーティング組成物は、可視光を透過させることができる金属酸化物の微粒子と、メチルシリケートまたはエチルシリケートを過剰な水で加水分解することによって得られた水溶性メチルシリケートまたは水溶性エチルシリケートを含有する。該金属酸化物の微粒子の含有率が1〜25重量%で、該水溶性メチルシリケートまたは水溶性エチルシリケートの含有率が1〜25重量%であってもよい。本発明にかかるコーティングフィルムは、本発明にかかるコーティング組成物で形成した薄膜層を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外装表面の親水性を高めるためのコーティング組成物及びコーティングフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
暴露放置され、汚れやすい環境にある建築物や車両の外装を、清掃作業によることなくきれいに保つための自己洗浄性に関する様々な技術が、近年開発されている。なお、自己洗浄機能とは、汚れの原因となる物質の外装表面に対する結合力を低下させ外装表面に付着しにくい状態とする性質である。
【0003】
外装表面に自己洗浄性を持たせる方法として、光触媒機能を有する酸化チタン微粒子を溶媒に分散させた溶液でコーティング膜を形成する方法が広く知られているが、酸化チタンには、コーティング膜が形成された外装表面(基材)を分解劣化させるという問題があった。そこで、本発明者は、特開2001−172545号に開示されているコーティング組成物を提案している。このコーティング組成物は、金属酸化物の超微粒子とイソシアネートシランでシリル化されたポリビニールアルコールを含むバインダーとを含有するもので、このコーティング組成物でコーティング膜を形成した場合、バインダーが、外装表面などの基材を分解劣化させることなく、その基材に自己洗浄性を持たせることができる。
【特許文献1】特開2001−172545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のコーティング組成物で形成したコーティング膜は、自己の持つ親水性により自己洗浄機能を付与するものであり、その親水性により、コーティング膜の表面は雨水などが伝い落ちやすい状態となっている。しかしながら、水がこのコーティング膜表面を伝い落ちる状態となるために、ある程度まとまった量を要していた。そのため、降雨量が少ない場合、雨がコーティング膜表面に粒状となって付着し、それが例えば窓ガラスの表面に形成されたものであれば、視界を悪化させるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、任意の外装表面などの基材に自己洗浄性を持たせるためのコーティング膜を、その基材を分解劣化させることなく形成でき、しかも、少ない量の水であっても表面に粒状となって付着することを防ぐことができるコーティング組成物及びコーティングフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかるコーティング組成物は、可視光を透過させることができる金属酸化物の微粒子と、メチルシリケートまたはエチルシリケートを過剰な水で加水分解することによって得られた水溶性メチルシリケートまたは水溶性エチルシリケートを含有する。
【0007】
該金属酸化物の微粒子の含有率が1〜25重量%で、該水溶性メチルシリケートまたは水溶性エチルシリケートの含有率が1〜25重量%であってもよい。
【0008】
該金属酸化物はInO、SnO又はZnOの何れかであってもよい。
【0009】
本発明にかかるコーティング組成物は、コロイダルシリカの微粒子を更に含有してもよい。
【0010】
本発明にかかるコーティングフィルムは、上記の本発明にかかるコーティング組成物で形成した薄膜層を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかるコーティング組成物によれば、含有物である水溶性メチルシリケートまたは水溶性エチルシリケート(以下、水溶性バインダという場合がある)がポリマーとなり、このコーティング組成物が塗布された基材表面に、微細な凹凸を有する膜を形成する。そして、この膜は、水溶性バインダの粒子の持つ超親水性と、ポリマー構造と、微細な凹凸との相乗的効果により、極めて高い親水性を備えたものとなる。そのため、この膜の表面においては、少ない量の水であっても表面に粒状となって付着することはない。しかも、この膜は、コーティング組成物が塗布された基材を分解劣化させるような性質を持つものでもない。一方、水溶性バインダとともにこの膜を形成する要素となっている金属酸化物の微粒子は、その光活性により、上記膜の表面に付着した汚れを分解離脱させるため、従来のコーティング膜と同様の自己洗浄性を基材に持たせることができる。従って、このコーティング組成物によれば、任意の外装表面などの基材に自己洗浄性を持たせるためのコーティング膜を、その基材を分解劣化させることなく形成でき、しかも、少ない量の水であっても表面に粒状となって付着することを防ぐことができる。
【0012】
含有物である水溶性メチルシリケートまたは水溶性エチルシリケートは、メチルシリケートまたはエチルシリケートを過剰な水で加水分解することによって得られたものである必要がある。なぜなら、通常の加水分解されたエチルシリケートまたはメチルシリケートは不安定なので、室温で放置するとゲル化する。そして、安定化させるために直ちにエチルアルコールまたはメチルアルコールで20%以下の濃度になるよう希釈する必要がある。また、この加水分解物は水には相溶せず、しかも、被塗布物に塗布して得られた乾燥膜は水滴接触角が60°以上になり親水性塗膜を形成しない。これに対し、本発明の、過剰な水で加水分解することによって得られたエチルシリケートまたはメチルシリケートは、水溶性で安定であり、また被塗布物に塗布して得られた乾燥膜は水滴接触角が10°以下の超親水性を発現するからである。
【0013】
なお、通常の加水分解は、エチルシリケートに氷酢酸等の酸触媒を溶解し、pH3〜5に調整しておき、攪拌機で攪拌しながら徐々に水を滴下し、所定の水を理論必要量(エチルシリケート:水≒6:1)処方し完了する。これに対し、本発明の加水分解法は、エチルシリケートに理論必要量より過剰の水、例えば、理論必要量の5倍の水を加え、触媒としてpH3に調整したパラトルエンスルホン酸溶液を攪拌しながら加え瞬時に加水分解させる。
【0014】
金属酸化物の微粒子及び水溶性バインダの割合は、このコーティング組成物を塗布して形成するコーティング膜に必要とされる性質に応じ適宜決めればよいが、金属酸化物の微粒子の含有量が1〜25重量%、特に5〜15重量%、水溶性バインダの含有量が1〜25重量%、特に2〜5重量%であることが好ましい。ただし、微粒子と水溶性バインダの含有比率で、微粒子の含有率が水溶性バインダより多くなると親水性がより強くなるが、コーティング膜強度が弱くなり、水溶性バインダの含有率が微粒子より多くなるとコーティング膜強度は強くなるが、親水性が弱くなる。
【0015】
金属酸化物に制限はないが、適用の容易さを考慮すると、広く市場に流通しているInO、SnO又はZnOの何れかであることが好ましい。なお、これらの金属酸化物は導電性を備えるため、静電気の帯電を防止し、帯電による浮遊粒子の付着を防ぐことができるという効果を得ることができる。また、特にZnOは、紫外線吸収機能を有するので紫外線によって劣化する被塗布基材フィルムを使用する場合は劣化防止にも有効である。
【0016】
更に、コロイダルシリカの微粒子を更に含有する場合、コーティング表面のフラクタル性が強くなり、より親水性に優れたコーティング膜が得られる。
【0017】
本発明にかかるコーティングフィルムは、上記コーティング組成物で形成した薄膜層を有するため、貼付された基材に自己洗浄性を持たせるためのコーティング膜を、その基材を分解劣化させることなく形成でき、しかも、少ない量の水であっても表面に粒状となって付着することを防ぐことができる。また、上記コーティング組成物を塗布できない部位にも、貼付することにより、上記コーティング組成物を塗布した場合と同様の効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明にかかるコーティング組成物で形成したコーティング膜を拡大して示す模式図である。なお、図1において、水溶性バインダは複数粒子が結合した状態となっているが、説明を明確にするため図示を簡略化するものとする。
【0019】
本発明にかかるコーティング組成物が塗布された基材表面においては、含有物である水溶性バインダ2がポリマーとなり、微細な凹凸4を有する膜1を形成する。そして、この膜は、水溶性バインダ2の粒子の持つ超親水性と、ポリマー構造と、微細な凹凸との相乗的効果により、極めて高い親水性を備えたものとなる。一方、水溶性バインダ2とともにこの膜1を形成する要素となっている金属酸化物の微粒子3は、その光活性により、この膜1の表面に付着した汚れを分解離脱させるため、従来のコーティング膜と同様の自己洗浄性を基材に持たせることができる。
【0020】
図2は、本発明にかかるコーティングフィルムの構造の具体例を模式的に示す拡大断面図である。
本発明にかかるコーティングフィルムは、また、上記コーティング組成物を塗布できない部位にも、貼付することにより、上記コーティング組成物を塗布した場合と同様の効果を得ることができるもので、上記コーティング組成物で形成した、親水性を持つ薄膜層11を有している。薄膜層11は、このコーティングフィルムの基材であるPETフィルム13の表面に紫外線吸収層12を介して形成されている。PETフィルム13の裏面には粘着層14が設けられており、この粘着層14を利用して任意の基材に貼付することができる。なお、薄膜層11の表面は、貼付作業終了する前に傷がつくことを防ぐためのEVA保護剥離フィルム15で被覆されている。一方、粘着層15は、貼付作業を行うまで粘着力を維持するためのPET保護剥離フィルム16で被覆されている。
【0021】
次に、本発明を具体的な例によって説明する。ただし、本発明は以下に示す具体例に何ら限定されるものではない。
【0022】
「実施例1」
エチルシリケート(コルコート株式会社製)100g、脱イオン水180g、パラトルエンスルホン酸10%溶液5gをビーカーで混合し、スターラーで攪拌混合した。混合直後は白濁するが、若干の発熱とともに加水分解の反応が完了すると透明のエチルシリケート35%濃度の水溶液が得られた。そして、このエチルシリケート水溶液10gと、超微粒子酸化錫30%水分散液30g、脱イオン水60gを混合し、超親水性コーティング液100gを調整し、実施例1に使用した。
【0023】
「比較例1」
イソシアネートシランによりシリル化されたポリビニルアルコール5%濃度の水溶液10g、酸化錫超微粒子15%水分散液3g、平均粒径15nm(粒径分散5%)コロイダルシリカの水分散液9g、脱イオン水78gを混合し、親水性コーティング液100gを調整し、比較例1に使用した。
【0024】
「比較例2」
アイソタクティック型ポリビニルアルコール5%濃度の水溶液7g、酸化チタン超微粒子15%水分散液9g、脱イオン水84gを混合し、親水性コーティング液100gを調整し、比較例2に使用した。
【0025】
易接着性PETフィルム(東洋紡A4300)にバーコーター16番で実施例1、比較例1及び比較例2のコーティング液を塗布し室温で乾燥させ、試験フィルム各3枚を作成した。そして、これら試験フィルムの各1枚に対し、スーパーUVテスター(ダイプラウインテス株式会社製KU-R401A)で耐候性加速試験200時間を実施した。その結果を表1に示す
【表1】

【0026】
また、上記それぞれの試験フィルムについて、注射器シリンジに同量の脱イオン水を入れて滴下し、顕微鏡で基材と水滴の接触角を加速試験前後で測定した。この測定により得られた水滴接触角変化の結果を表2に示す。なお、この角度が低い程、親水性は強くなる。
【表2】

【0027】
表1に示す結果より、実施例1を塗布した基材は、比較例1を塗布した基材と同様に、分解劣化していないことが確認された。また、表2に示す結果より、実施例1を塗布して形成したコーティング膜は、比較例1を塗布して形成したコーティング膜よりも親水性の高いことが確認できた。しかも、その親水性は長時間経過しても高い状態で維持され、耐候性にも優れていることが確認できた。
【0028】
次に、実施例1の酸化錫超微粒子と水溶性エチルシリケートの含有比率を変えて、親水性の強さの度合いとコーティング膜強度及び密着性変化を測定した。測定結果を表3に示す。なお、測定サンプルは実施例1と同様に易接着性PETフィルムに下記配合比率で作成したコーティング液をバーコーター16番で塗布作成した。
「実施例2」
酸化錫超微粒子:水溶性エチルシリケート=1:99
「実施例3」
酸化錫超微粒子:水溶性エチルシリケート=20:80
「実施例4」
酸化錫超微粒子:水溶性エチルシリケート=40:60
「比較例3」
酸化錫超微粒子:水溶性エチルシリケート=0:100
「比較例4」
酸化錫超微粒子:水溶性エチルシリケート=100:0
【表3】

なお、表3の密着性は、JIS K540法によるものである。また、膜強度は、ガーゼにエチルアルコールを含浸させ、手でコーティング面を10往復摩擦した結果である。
【0029】
表3より、酸化錫超微粒子の比率が多くなると親水性に優れたものとなる反面膜強度が低下し、水溶性エチルシリケートの比率が多くなると膜強度が高くなる反面親水性が低下することが確認できた。
【0030】
次に、実施例1〜4において得られたエチルシリケート水溶液と市販のエチルシリケート加水分解物(イソプロピルアルコール溶液)により得られた水溶液の性状を比較した。
【0031】
まず、実施例1〜4において生成されたエチルシリケート水溶液100gに脱イオン水100gを加え混合した場合、この際に得られるエチルシリケート水溶液(以下、水溶液Aという)は無色透明で相溶した。これに対し、通常のエチルシリケート加水分解製品(HAS-10、コルコート株式会社製)(以下、IPA溶液Bという)100gに脱イオン水100gを加えて混合して得られる水溶液は瞬時にゲル化する点で相違することが確認された。
【0032】
また、水溶液AとIPA溶液Bを、それぞれ易接着性PETフィルムにバーコーター16番で塗工乾燥し、親水性の度合いを比較した。その結果を表4に示す
【表4】

この結果、エチルシリケートに理論必要量(エチルシリケート:水≒6:1)より過剰の水を加えて得られた水溶液Aは、理論必要量の水を加える通常の方法で得られたIPA溶液Bよりも、親水性に優れることが確認できた。
【0033】
更に、上記乾燥膜をNMRでシラノール基(Si−OH)含有率を比較測定したところ、水溶液Aは63%、IPA溶液Bは22%であった。このことから、上記親水性の相違点はシラノール基の含有率に起因することがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明にかかるコーティング組成物で形成したコーティング膜を拡大して示す模式図である。
【図2】本発明にかかるコーティングフィルムの構造を模式的に示す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 膜
2 水溶性バインダ
3 微粒子
4 凹凸
11 薄膜層
12 紫外線吸収層
13 PETフィルム
14 粘着層
15 EVA保護剥離フィルム
16 PET保護剥離フィルム



【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光を透過させることができる金属酸化物の微粒子と、メチルシリケートまたはエチルシリケートを過剰な水で加水分解することによって得られた水溶性メチルシリケートまたは水溶性エチルシリケートを含有することを特徴とするコーティング組成物。
【請求項2】
該金属酸化物の微粒子の含有量が1〜25重量%で、該水溶性メチルシリケートまたは水溶性エチルシリケートの含有量が1〜25重量%である請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
該金属酸化物はInO、SnO又はZnOの何れかである請求項1又は2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
コロイダルシリカの微粒子を更に含有する請求項1〜3の何れか一つの項に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
可視光を透過させることができる金属酸化物の微粒子と、メチルシリケートまたはエチルシリケートを過剰な水で加水分解することによって得られた水溶性メチルシリケートまたは水溶性エチルシリケートを含有するコーティング組成物で形成した薄膜層を有することを特徴とするコーティングフィルム。
【請求項6】
該コーティング組成物における該金属酸化物の微粒子の含有率が1〜25重量%で、該水溶性メチルシリケートまたは水溶性エチルシリケートの含有率が1〜25重量%である請求項6に記載のコーティングフィルム。
【請求項7】
該金属酸化物はInO、SnO又はZnOの何れかである請求項5又は6の項に記載のコーティングフィルム。
【請求項8】
該コーティング組成物は、コロイダルシリカの微粒子を更に含有する、請求項5〜7の何れか一つの項に記載のコーティングフィルム。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−208252(P2008−208252A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−47389(P2007−47389)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(598164371)
【Fターム(参考)】