説明

コーヒーの香り発生器

【課題】現在使用されているコーヒーの香りの素は、人工的な合成香料やコーヒーオイルを噴霧器で噴霧し、加熱し、又はお湯の水面に垂らして香りを発生させているが、求める自然なコーヒーの香りと異なる。コーヒー豆業界及び喫茶店業界は、長年月に亘って、コーヒーのドライな香り又はウエットな香りを長時間発生する装置を求めている。
【解決手段】自然なウエットなコーヒーの香りを発生することを目標とする。液体である湯気は通すが挽いたコーヒー粒は通さない程度の穴の空いた網目状の容器(コーヒーカプセル)10に挽いたコーヒー粒をいれ、蒸発部1から発生した湯気をファン6と湯気誘導管路9によって漏れなくこのコーヒー粒の層の中に通し、その過程でコーヒーの好ましい香りを液体である湯気に長時間かけて溶出し、この湯気を放出口121から周囲の大気中に放出してコーヒーの好ましい香りを漂わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に業務用あるいは家庭用に使用されるコーヒーの香り発生器に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒーの生豆には多糖類、アミノ酸、タンパク質、脂質、クロロゲン酸、カフェイン、トリゴネリン、カフェストール、カーウェオール等の成分が含まれ、これらが焙煎時に化学反応を起こすことにより多くの成分が生成する。その結果、焙煎豆には一説には800種類以上の成分が含まれると言われている。
コーヒーの生豆を焙煎すると、初期に、生豆中に含まれる水分が蒸発し、次に、焙焦反応と呼ばれる反応により、これらの成分が加熱分解されてさまざま低分子を生じる。コーヒーの苦味、酸味、甘味等を決定するのは、これらの分子が重要な役割をしていると言われている。
飲み物としてのコーヒーには、これらの成分のうち水溶性の高い成分が溶出される。それらの中でよく知られているのは0.04%程度含まれるカフェインであるが、それ以外の成分の多くは、ほとんど解明が進んでいないのが現状である。
ところで、コーヒーの香ばしさを生む香り成分で重要なのは、糖類の分解により生じるピラジン類であると言われている。又、コーヒーの香りの中には、焼きたてのクッキー、醤油、魚肉、かび臭さの感じの匂いも含まれていると言われている。
【0003】
コーヒーの香りが発生するのは、焙煎の時、コーヒー豆を挽く時、及びドリップ法などでコーヒーを淹れる時とされる。
コーヒー豆を販売する業界及びコーヒー豆を用いて飲み物としてのコーヒーを販売する喫茶店等にとって、コーヒー豆を焙煎する時、コーヒー豆を粒状に挽く時、更に飲み物としてコーヒーをドリップ式等で淹れる時に自然に発生するコーヒーの香りは、大変重要なものとなっている。
このコーヒーの香りを嗅ぐと、人によっては、和んだ落ち着いた気分になってコーヒーを飲みたくなり、今まさにコーヒーを飲まんとしている人は、香りに刺激されて一層美味しくコーヒーを味わうことができる。
事実、コーヒー豆店における焙煎時には、通りすがりの人が匂いに誘われて思わず店内に足を踏み入れ、その結果、コーヒー豆の売れ行きが伸び、また、喫茶店等においては、店外に漂うコーヒーの香りにつられて客数が増えるということは、コーヒー業界の周知の事実である。
【0004】
そこで、コーヒー業界及び喫茶業界においては、コーヒーの香りを長時間に亘って積極的に発生させる装置の開発に長年月腐心して来た。
その結果、現在までのところ実現し使用されている方法は、人工的に合成した香料や、あるいはコーヒー豆から抽出したコーヒーオイルを用いて、噴霧、加熱及び温水に浮かべる等で匂いを発生させるというものである。
しかし、これらの方法で発生した香りは、本来求めている自然な香りとは異なる。例えば、コーヒーオイルは少し甘味のある匂いでコーヒー菓子の匂いに近く、長時間この匂いに晒されると鼻につくようになり、およそ、和んだ落ち着いた気分とは程遠いものである。
喫茶店のチェーン店の中には、求める自然な香りとは異なることを承知の上でやむを得ず上記の方法で香りを発生させているところもあるが、やはりコーヒー及び喫茶店業界では、本来の自然なコーヒーの香りを発生させる装置の実現を根強く求めている。
【0005】
ところで、最近の傾向として、喫茶店等でコーヒーの香りがしない現象が起きている。
あるコーヒー豆メーカーの見解によると、これはコーヒーの淹れ方が変わった為とのことである。
すなわち、密閉構造の機械を用いてコーヒー豆を挽き、お湯を注ぎ、濾しを行い、濾されたコーヒーをタンクに貯めて保温しておき、注文時にボタン操作で必要量を注ぎ口からカップに注ぐ、という方法が取られるようになったことによる。
従来の、コーヒー豆を挽き、そしてお湯を注ぐ時に発生する香りは、上記の機械の場合は、密封構造の為に内部に閉じ込められてしまい、僅かな漏れ分が香るのみであり、香りを楽しむにはほど遠い。そこで、ますますコーヒーの香りが望まれる状況にある。
ちなみに、この失われたコーヒーの香りを短時間で提供する考案が、特許文献1に示されている。これは、自動販売機において、コーヒーを注ぐ時に、わざわざ一粒ないし数粒をミルで挽いて、この香りをカップに吹き付け、あたかもカップに注がれたコーヒーから香りが匂い立っているかの如く思わせる効果を狙っている。
【0006】
【特許文献1】特開平10-275275号公報
【特許文献2】特開平07-289624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、コーヒーの香りを長時間に亘って積極的に発生させる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係るコーヒーの香り発生器は、
a) 本体内に設けられた蒸気発生器と、
b) 発生された蒸気が上昇する誘導管と、
c) 該誘導管内に配置される、メッシュ製のコーヒーカプセルと、
d) 本体の上部に設けられた、コーヒー粒入りのコーヒーカプセルを通過した蒸気を外部に放出するフードと、
を有することを特徴とする。
【0009】
このコーヒーの香り発生器では、本体の上部に、フードから放出される蒸気を扇ぐためのファンを設けることが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
コーヒーの自然な香りを如何に積極的に長時間発生させるかを課題として、種々の実験を行ったが、その結果、次の取り組みで開発することとした。
【0011】
まず、自然なコーヒーの香りを次の二種類に大別した。なお、次の命名は、発明者が便宜上行ったものであり、コーヒー業界等で認知されたものではない。
(1) ドライな香り … コーヒーの焙煎時及びコーヒー豆を挽く時に発生する香り
(2) ウエットな香り … 挽いたコーヒー粒を用いて飲み物としてのコーヒーをドリップ式等で淹れる時に発生する香り
【0012】
ドライな香りに対しては、既に特許文献2で装置の考案がなされているが、本発明者が同装置を用いて実験を行ったところ、この方法ではドライな香りが十分には得られないことが判明した。その原因は、同方法には加熱プロセスが無いためであると判断した。
【0013】
そこで、コーヒー豆そのもの、挽いたコーヒー粒及び飲み物のコーヒーを淹れた後の使用済みコーヒー粒を用いて、それぞれ加熱した容器に入れて、発生する香りを約10名のモニターに嗅がせてアンケートをとった。
【0014】
加熱温度は、およそ80℃から150℃の範囲内で行った。その結果、低温では香りが弱く、一方、高温では最初は良い香りがしていても、十数分後には焦げ臭い匂いが混じり始めて良い香りが失われてしまい、長時間持続させることが困難であった。喫茶店等の業務形態及び投資対効果を考慮すると、少なくとも2、3時間以上は継続的に香りが発生することが望まれる。
【0015】
ウエットな香りに対しては、ドリップ式等でコーヒーを淹れる時に発生する香りを長時間発生させることを目指した。
従来より、お湯を注いでコーヒーを淹れる時、上手いコーヒーの淹れ方が取り沙汰されている。一説によると、淹れ方の上手い下手は、コーヒー内部に含まれる好ましい成分と好ましくない成分が、それぞれコーヒー豆表面に染み出して来る温度と速度の違いを上手く利用できたかできなかったかによると言われている。
【0016】
上手い淹れ方のコツは、コーヒー全体を蒸らしてほとんどのコーヒー粒が同じような温度になるようにして、好ましくない成分が染み出す前に好ましい成分を染み出させて、注がれたお湯に溶出し、好ましくない成分が染み出すころには、注がれたお湯が濾されて無くなるようにすることであると言われる。
【0017】
しかし、簡単にはこのように上手くコーヒーを入れることは難しく、コーヒー愛好者間で喫茶店の人気不人気の生じる所以である。
【0018】
しかし、ここで注目されるべきは、味覚としての飲み物の上手い不味いがあっても、お湯を注ぐ時に発生する嗅覚としての香りに対して、味覚程には鋭敏に差異が出て反応することが無いように思われることである。
【0019】
そこで、本発明者らは、このお湯を注ぐ時に発生する香りに注目することにした。
コーヒーを淹れる時に発生する香りは、一旦沸騰したお湯を少し冷まして(一説には、湯温90〜95℃、あるいは82〜83℃)、挽いたコーヒー粒に注ぐ時に、液体としての湯気(蒸気)が立つと同時に発生する。
【0020】
この現象は、水溶性の比較的高いコーヒー成分が、お湯に溶出すると同時に液体である湯気にも溶出し、周囲に拡散して人の鼻に到達し、コーヒーの香りとして感じさせているものと推定される。
そこで、この湯気と同時に発生する香りを継続的に発生させる方法を検討した。
【0021】
先ず、挽いたコーヒー粒と水を混合して加熱し、温度が上昇するにつれて液面から発生する香りの変化を確かめたが、最終的には、香りの中に好ましくない匂いが混じる結果となった。
【0022】
これは、挽いたコーヒー粒表面に好ましい成分が染み出した後に続いて好ましくない成分も染み出し、コーヒー粒を取り囲んでいるお湯に溶出し、更に、両成分を溶解したお湯が蒸発する時に、同時に両成分も気化して、好ましくない香りが出たものと推定した。
更に、この方法は、コーヒー粒とお湯の混合液の廃液処理が煩雑であることが予測され、一般用の汎用機器としては、問題があると判断し、これらは、今後の課題とした。
【0023】
上記の原因は、コーヒー豆の周囲に溶解能力の高いお湯が存在するためであると仮定して、このお湯を無くすことにした。
【0024】
同じ体積の容器に入ったお湯と湯気では、水溶性の高い物質を短時間当たり溶解する速度は、明らかに湯気の方が遅いことが、容易に判断される。
【0025】
この事実を利用すれば、コーヒー豆表面に染み出す速度が速い好ましい成分をゆっくりと時間をかけて湯気に溶出させ、好ましくない成分が遅れてコーヒー表面に染み出そうとしても好ましい成分の皮膜で押え込み、長時間好ましいコーヒーの香りを発生させることができると推定した。
【0026】
このような着想に基づいて実験を重ねた結果、コーヒー豆メーカーも含めたモニターの評価として、コーヒーを淹れる時に発生する香りそのものであるとの評価となり、香りの持続時間も湯気に触れるコーヒーの面積を大きくすることで3時間以上持続させることができた。
【0027】
一方、水出しコーヒーあるいはダッチコーヒーと呼ばれる方法は、室温の水を用いて一滴づつ注ぎ、6〜8時間かけてコーヒーを淹れる。愛好家によっては、この方法が一番コーヒーが美味しいとの評価を下すことがあるが、このことを考慮すると、湯気の温度が低い時は、コーヒー粒が湯気に触れる面積を大きくすれば、必要な香りの量は求めることができると推定する。
【0028】
また、この方式によれば、従来廃棄処分されていたクズ豆を再利用することもでき、資源の有効活用につながる。
【実施例】
【0029】
実験に使用した香り発生器の試作機第3号機の外観を図1に、その内部構造の概念図を図2に、それぞれ示す。
【0030】
図2に示すように、香り発生器の本体である収納ボックス15の内部は、機密性のある仕切り板14で上下二つの部屋に仕切られている。
下の部屋には、お湯を沸かして沸騰させるか又は水分を含んだ布等を加熱することにより水を蒸発させる蒸発部(蒸気発生器)1、蒸発部1を加熱する加熱部2、加熱部の過熱及び空焼き防止の為の温度フューズやサーモスタット等の保護素子3、万一収納ボックス15が転倒した時に装置を停止させて保護する為の転倒時保護スイッチ4、水切れ防止の為の水位スイッチ5、電源回路の過熱防止と蒸発部1で発生した湯気の流れに指向性を持たせ、且つ、蒸発率を上げる為のファン6、これらに電力を供給し制御し保護動作を行う電源部7が収納されている。
上の部屋には、給水タンク8、発生した湯気を誘導する湯気誘導管路9、挽いたコーヒーを入れるコーヒーカプセル10、これを支持するステージ11、コーヒーの香りを含んだ湯気を外部に放出する放出口121を有するフード12、各構成部品を組み立てる時の装着部からの湯気の漏れを防止するシール材13が収納されている。
【0031】
上の部屋で万一湯気の漏れや給水漏れが起きても、下の部屋の電源部7等の電気的絶縁の劣化を防止するよう、仕切り板14には密閉性を持たせている。
【0032】
湯気誘導管路9は、蒸発部1の蒸発面から発生した湯気がコーヒーカプセル10に到達するまでに損失する湯気の熱エネルギーを抑える為に熱伝導率の低い絶縁材料パイプで構成されている。
【0033】
コーヒーカプセル10は、湯気が通り抜けやすく、且つ、挽いたコーヒー粒が落ちない適度の穴の空いた網目状の表面をしている。ステージ11の支持部とコーヒーカプセル10との間にはシール材13を介在させている。これにより、湯気の漏洩を防止し、必ず湯気がコーヒー粒の層を通過するようにしている。
【0034】
収納ボックス15の上面には開口が設けられ、そこにフード12が配置される。その収納ボックス15とフード12の接続部である開口には、メンテナンスが容易に行えるように、ワンタッチ構造の装着部が設けられている。この装着部には、発泡ポリエチレン等の軟質性且つ気密性のある材料から成るシール材13が用いられている。
【0035】
このシール材13は、当初は単純な形状をしているが、そこを通過する湯気による温度上昇とシール材に乗る構造物の自重によって、周辺の装着部の形状に沿った形に変形し、接触面積が増加する。従って使用を重ねることによってシール効果が自動的に向上するようになっている。
【0036】
湯気の放出口121はフード12を回転させるだけで簡単に目的の方向に向けることができる。
【0037】
蒸発部1で生成された湯気は、湯気誘導管路9を通って上昇し、コーヒーカプセル10内に収納された焙煎済みのコーヒー粒の層を潜り抜け、コーヒーの香りをたっぷり含む。こうしてコーヒーの香りを含んだ湯気が放出口121から外部に放出する。上述の通り、フード12は、収納ボックス15の上面の開口に設けた装着部に挿入するだけで、特別にロックをしなくても、フード12の自重で本体とのシール性が十分確保される。また、フード12はコーヒーカプセル10と鎖16で繋がれている。これにより、挽いたコーヒー粒を入れ替える時は、フード12を持ち上げるとそれに連れてコーヒーカプセル10も引き上げられ、簡単にコーヒー粒の入れ替えが行えるようになっている。
【0038】
例えば室内が無風状態の場合等のように、発生器を使用する部屋の換気状態によってはコーヒーの香りが天井に停滞して、部屋全体に万遍なく香りがゆきわたらなくなるおそれがある。その場合に備えて、フード12の後ろに小型の扇風機17を設置するとよい。扇風機17により放出口121に送風するだけで、簡単に部屋全体にコーヒーの香りをゆきわたらせることができる。なお、扇風機17の代わりに収納ボックス15内に、外部の空気をコーヒーカプセル10の上方に送風するブロワを設けてもよい。この場合、コーヒーカプセル10を通過した湯気がブロワから送風された空気と合流して放出口121から勢いよく放出されるため、コーヒーの香りを部屋全体にゆきわたらせることができる。
【0039】
図2に示すように、蒸発部1等はユニット化されており、発生器を使用する部屋の大きさに応じてこのユニットの数を増減させることで対応することが出来る。本実施例の試作機3号機では、2ユニットを用いている。2ユニット構造とした場合には、湯気誘導管路9は二股の構造になる。なお、これらは、同時に用いてもよいし、1ユニットずつ交替で用いるようにしてもよい。
【0040】
この香り発生器を用いて、コーヒーカプセル10に挽いたコーヒー粒約60gを入れて実験をした結果、3時間以上、コーヒーの好ましい香りが持続した。6時間連続運転を行った場合にも、シール部からの湯気の漏れはみられなかった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施例の外観図。
【図2】本実施例の内部構成図。
【符号の説明】
【0042】
1…蒸発部
2…加熱部
3…保護素子
4…転倒時保護スイッチ
5…水位スイッチ
6…ファン
7…電源部
8…給水タンク
9…湯気誘導管路
10…コーヒーカプセル
11…ステージ
12…フード
121…湯気の放出口
13…シール材
14…仕切り板
15…収納ボックス
16…鎖
17…扇風機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 本体内に設けられた蒸気発生器と、
b) 発生された蒸気が上昇する誘導管と、
c) 該誘導管内に配置される、メッシュ製のコーヒーカプセルと、
d) 本体の上部に設けられた、コーヒー粒入りのコーヒーカプセルを通過した蒸気を外部に放出するフードと、
を有することを特徴とするコーヒーの香り発生器。
【請求項2】
本体の上部に、フードから放出される蒸気を扇ぐためのファンが設けられていることを特徴とする請求項1に記載のコーヒーの香り発生器。
【請求項3】
本体の取り付け部とフードとの間に、軟質シール材が介挿されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のコーヒーの香り発生器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−43251(P2008−43251A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−222011(P2006−222011)
【出願日】平成18年8月16日(2006.8.16)
【出願人】(391032761)株式会社コスモテック (2)
【Fターム(参考)】