説明

コールタールピッチ結合剤を使用する短炭素繊維プレフォームの製法

コールタールピッチ結合剤を使用して、短炭素繊維プレフォームを形成する方法及びその生成物。

【発明の詳細な説明】
【優先権主張】
【0001】
本願は、2003年10月23日に出願された米国特許出願第10/476,017号の一部継続出願であると共に、米国特許法第119条(e)の規定により、2003年5月30日に出願された米国仮特許出願第60/475,107号の利益を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、コールタールピッチ結合剤を使用する摩擦材プレフォーム、より詳細には、コールタールピッチ結合剤及びその製法を使用する短(一定の長さに切り揃えた)炭素繊維プレフォームに関する。
【背景技術】
【0003】
コールタールは、分解蒸留又は石炭をコークスに乾留する際に生成される主要な副産物である。コークス生成物は、鉄鋼産業の燃料及び試薬源として利用されるが、コールタール材は、商業的に自立販売可能な一連の留分に蒸留される。蒸留される大部分のコールタール材は、ピッチ残留物である。アルミニウム精錬用の陽極の生産には勿論、鉄鋼産業に使用される電気アーク炉用の電極の生産にもピッチ残留物が利用される。ピッチ材の特性を評価するとき、主に陽極及び電極の生産工程に使用するのに適する結合剤となるコールタールピッチ材の性能を従来では重視してきた。軟化点、比重、QI(キノリン不溶分)として公知のキノリンに不溶性の物質割合及びコークス値等の種々の全特性が、前記種々の製法及び産業に適用されるコールタールピッチを特徴付けるものである。
【0004】
軟化点は、コールタールピッチを生成する際に蒸留工程の終留点を決定すると同時に、炭素生成物の生成中の混合温度、成形温度又は含浸温度を決定するのに利用される基本測定値である。本明細書に示す全軟化点は、メトラー法又はASTM(米国材料試験協会)規格D3104による。本明細書中に記載する付加的な特性は、ピッチ中の固形物質と高分子量物質の量を決定するのに利用するQI(キノリン不溶分)を含む。α−樹脂としてQIを参照でき、QIの重量百分率の決定に使用される標準試験手法は、ASTM規格D4746又はASTM規格D2318を含む。本明細書中にも記載するトルエンに不溶性の物質TIの百分率は、ASTM規格D4072又はD4312により決定される。
【0005】
ミルチ及びノエルは、スペインのグラナダで開催された「カーボン'94」で頒布した「アルミニウム産業に使用されるピッチ中の多環芳香族炭化水素」と称する文書中で、コールタールピッチのPAH(多環芳香族炭化水素)含有量を記載し、分類した。生体組織に対する前記物質の発癌性効果又は突然変異誘発性効果により、前記物質を分類した。論文は、公衆衛生に有害な可能性があると米国環境保護局が判断した14種のPAH物質を特定した。ベンゾ(a)ピレン、即ちB(a)Pに係数1を割り当てる標準任意割当てに基づき、発癌性効果の相対的序列が14種の各物質に割り当てられる。14種の各物質を個別に参照する必要がなく、物質の毒性の判定に有用な省略表現となるB(a)P当量に全合計PAH含有量を変換することにより、ピッチ材の潜在毒性を推定することができる。
【0006】
通常のコールタール結合剤ピッチは、表Iに示す特徴がある。
【0007】
表I
軟化点、℃ 111.3
トルエン不溶分、重量% 28.1
キノリン不溶分、重量% 11.9
コークス値、修正コンラドソン法(残留炭素分試験法)による、重量% 55.7
灰、重量% 0.21
比重、25/25℃ 1.33
硫黄、重量% 0.6
B(a)P当量、ppm 35,000
【0008】
一般的に、特にアルミニウム産業でコールタールピッチを使用する際に、最近2つの欠点が出現した。最初の欠点は、アルミニウム精錬陽極の物質と利用法の環境に対する影響の増大した感受性にある。他の欠点は、コークス製造工程からの原料コールタールの供給減少にある。種々の要因でコースク消費量が著しく減少したため、原料コールタールの入手可能性が低下してきた。近い将来、前記源材料の生産量減少が段階的に拡大することが予想され、ある期間中には、代替資源及び代替生産物が必要であった。しかしながら、アルミニウム産業のコールタールピッチに代わる商業上有望な代替品は、開発されなかった。
【0009】
従来のコールタール蒸留法には、連続式及びバッチ式の2種類がある。連続式蒸留法は、蒸留する材料、即ちコールタールを一定量供給し、生産物又は残留物、即ちコールタールピッチを一定量除去する工程を含む。通常圧力60mmHgと120mmHgとの間でかつ温度範囲350℃と400℃で実施される従来の連続式蒸留法は、通常約140℃の最高軟化点を有するコールタールピッチを生産することができる。バッチ式蒸留法は、沸騰水と同様に、るつぼ内で行われると考えることができる。るつぼ内にコールタールを滞留する時間が長い程、加熱温度レベルは、高くなる。バッチ式蒸留法を用いて温度170℃以下のより高い軟化点を達成できるが、加熱温度が高くかつ滞留時間が長くなる組み合わせにより、コールタールピッチが分解されかつ不要な中間相(液晶相又はメソフェーズ)ピッチが生成されることもある。公知の連続式蒸留法及びバッチ式蒸留法を用いてコールタールを蒸留する処理時間は、生産すべきコールタールピッチ生産物に依存して数分から数時間の範囲に及ぶ。
【0010】
蒸留容器中でほぼ300℃から450℃の高温範囲でかつほぼ5Torr以下の低圧域に材料を曝露して、より高い分子量でかつ揮発性より少ない成分から分子量がより低く、より揮発性の成分を発生させる高効率蒸発蒸留法は、公知である。前記特定の温度範囲と圧力範囲で作動しかつ強化減圧性能を有する従来の蒸留装置を用いて、上記高効率蒸発蒸留工程を行うことができる。また、薄膜蒸留装置、即ちWFEとして公知の装置により、WFE法と通常呼ばれる高効率蒸気化の蒸留法を行うことができる。同様に、薄膜型蒸発器として公知の装置により、薄膜型蒸発器法と通常呼ばれる高効率蒸発蒸留法を行うことができる。連続的に物質を蒸留する効率的で比較的速い方法として、WFE及び薄膜型蒸発器法を使用することもある。全般的に、WFE及び薄膜型蒸発器法は、一斉にほぼ5Torr以下の圧力範囲に減圧しながら、温度範囲ほぼ300℃から450℃で、通常、処理容器又は処理室の内壁である加熱表面上に材料薄層を形成する工程を含む。WFE法では、処理容器の内壁に回転体を近接させて、材料薄層が形成される。これとは対照的に、薄膜型蒸発器法の薄膜型蒸発器は、通常、遠心力により処理容器の内壁上に材料薄層を形成するスピナー構造を有する。原材料の連続投入と排出材料の流出を伴うWFE法及び薄膜型蒸発器法は、連続工程である。薄膜蒸留装置と薄膜型蒸発器とは何れも従来より公知である。
【0011】
WFE装置の一従来技術は、ベアード名義の下記特許文献1に記載されている。特許文献1に記載される装置は、円筒型処理室又は円筒型処理容器を備える。処理室は、熱交換流体を導入する温度制御ジャケット(被覆体)により、包囲される。処理室は、一端に設けられた供給口と、対向端部に設けられた生産物の排出口とを備える。
【0012】
また、特許文献1に記載される装置の処理室は、蒸気排出口を有する蒸気室を備える。蒸気排出口に連絡して冷却器及び減圧手段を配置して、大気圧未満の圧力条件下で、発生した蒸気を凝縮することができる。処理室の一端から他端まで延伸する管状の回転体が電動機駆動される。回転体軸から外へ軸方向に延伸する複数の径方向ブレードは、非対称に湾曲されて、供給口から生産物排出口の間で処理室の一端から他端まで径方向に延伸する。回転体ブレードは、処理室の内壁に対して、僅かであるが、薄膜との関係でほぼ均一に近接して延伸して、ロータの回転時に、回転体ブレードは、処理室の内壁上に処理材料の薄膜、塗布膜又は乱流膜を形成する。
【0013】
作動の際に、処理すべき材料は、ポンプ又は重力により原料入口に供給される。材料を下方に移動させて、回転する回転体ブレードにより処理室の内壁上に薄膜に材料を形成する。蒸気等の熱交換流体は、温度制御ジャケット内に導入され、処理室の内壁は、予め選択された安定な温度に加熱され、相対的に揮発性の高い処理材料の成分を制御しながら蒸発させる。相対的に揮発性の低い材料は、生産物出口から回収され、蒸発した揮発性の高い材料は、蒸気出口を通じて蒸気室から回収される。
【特許文献1】米国特許第4,093,479号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
コールタールピッチの一主要用途は、炭素/黒鉛生成物用の結合剤である。炭素/黒鉛生成物の用途は、アルミニウムの生産用陽極から放電加工に使用する微粒黒鉛生成物にわたる。炭素/黒鉛生成物は、石油コークスとコールタールピッチとの2主成分を含む。コールタールピッチは、構造体を一緒に保持する結合剤である。最終生産物の生産での主工程は、炭素生産物の混合工程、成形工程、炭化工程及び炭化工程に続き、黒鉛生成物に対する黒鉛化工程である。前記工程でのピッチにより経験する主要問題は、炭化工程中に揮発性物質が発生する点にある。揮発性物質が発生すると、1)有機化合物が放出され、2)最終焼成生産物の密度が低下する重大な2問題が発生する。揮発性物質が排出されると、発生する有機化合物を捕捉し又は破壊するかの何れかにより対処しなければならない環境問題となる。炭素/黒鉛生成物の密度が低下すると、強度低下、反応性増大及び電気抵抗の増大によるによる製品の品質劣化が生ずる。従って、少ない揮発性物質を生ずる炭素/黒鉛生成物には利点がある。
【0015】
多くの無機置換基と有機の置換基とをフェノール樹脂で結合することにより、自動車ブレーキが生産される。自動車ブレーキの製法は、ある面では上記炭素/黒鉛生成物の製造法と同様である。自動車ブレーキが直面する重大な一問題は、フェード現象と呼ばれる特性である。フェード現象は、加熱時に摩擦材の摩擦特性が低下する現象である。自動車の運転者は、下り勾配でブレーキを掛け続けるときにフェード現象を経験する。ブレーキが加熱され始めたとき、同一ブレーキ性能を達成するのに、運転者は、ブレーキペダルをより強く踏まなければならない。フェード現象は、摩擦材のフェノール樹脂結合剤の熱不安定性により生ずると考えられる。ブレーキが熱を持ち始めるとき、フェノール樹脂が分解し始めて、2つの滑動部材間に気体層が形成される。この気体層は、ブレーキペダルをより強く踏む必要性を生ずる摩擦損失を与える。従って、フェード現象を低減するブレーキ形態には利点がある。
【0016】
航空機ブレーキは、炭素繊維プレフォームの炭素含浸により、生産される。炭素含浸に用いられる方法は、化学気相浸透法と呼ばれる。プレフォーム中のメタンガスをコークス化して、化学気相浸透法を実施すると、炭素で充填された炭素繊維プレフォームが得られる。化学気相浸透法は、最終生成物を製造するのに600時間と非常に長い処理時間を要する。従って、処理時間を短縮した炭素浸透法は、有利である。
【0017】
日々使用される多くの生産物を製造するのに天然ゴムが使用される。実生活に大きな役割を果たすゴム生産物には、タイヤがある。タイヤは、多くの異なるゴム組成物から製造される。タイヤのトレッド、サイドウォール、ベルトコーティング及びリムを形成するのに、異なる組成物が使用される。タイヤの形成に使用する異なるゴム組成物の中、最も重要な一特性は、各ゴム組成物間の接着性である。従って、大きな接着性を有するゴム組成物は、有利である。
【0018】
中間相ピッチは、電気又は熱を伝導できる性能と強度とが重要な用途に使用される高度組織化ピッチである。コールタールピッチから中間相ピッチを形成する重要な研究が行われたが、この研究は、ピッチのキノリン不溶分含有量のために、部分的な成功に過ぎなかった。コールタールピッチ中のキノリン不溶分粒子が中間相球体の凝結又は結合を阻害して、低品質の中間相を生じることが判明した。コールタールピッチから中間相を生成する公知の方法は、キノリン不溶分を除去する濾過工程又は遠心分離工程を必要とする。これらの工程は、非常に良好な作用を生じて、高品質の中間相を生成できるが、中間相生産物の製造価格が非常に高くなる。従って、高品質の中間相をより低価格で生成することは、有利である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、高効率蒸発蒸留法を使用する高軟化点コールタールピッチの製法並びに前記ピッチの使用法及び用途に関する。本発明の製法では、温度範囲70℃から160℃に軟化点を有する供給コールタールピッチは、温度範囲300℃から450℃に加熱されかつ圧力範囲5Torr以下に内部圧力を保持した処理容器内に供給される。産出コールタールピッチは、処理容器から回収される。産出コールタールピッチは、温度範囲140℃から300℃の軟化点と5%未満の中間相とを有する。産出コールタールピッチに含有量5%を超える中間相が存在すると、アルミニウムの生成に使用する黒鉛電極及び陽極を生産する際に、炭素-炭素複合材の結合剤としての性能を劣化させる。産出コールタールピッチの好適範囲は、温度範囲150℃から250℃の軟化点と1%未満の中間相とを含む。また、産出コールタールピッチは、24,000ppm以下のB(a)P当量を有することが好ましい。供給コールタールピッチは、温度範囲110℃から140℃に軟化点を有することが好ましく、温度範囲300℃から450℃に処理容器を加熱することが好ましい。また、好適には、99℃(210°F)で2〜5センチストークス間の低粘度、好適には5,000ppm以下のB(a)Pである低B(a)P当量、コールタール又は30〜60%の混合物を構成する石油系油分を配合したコールタール等の可塑剤を産出コールタールピッチに配合してもよい。
【0020】
また、本発明は、10〜100%の中間相を有する中間相コールタールピッチの製法に関する。本発明の製法では、温度範囲300℃から450℃に加熱されかつ圧力範囲5Torr以下に内部を保持した処理容器内に70℃から160℃の範囲に軟化点を有する供給コールタールピッチが供給される。温度範囲25℃から60℃に軟化点を有しかつキノリン不溶分及び灰を含まない留出物が処理容器から得られる。留出物は、温度範囲370℃から595℃で3分から80時間熱処理される。
【0021】
また、本発明は、キノリン不溶分も灰分も含まないコールタールピッチの製法に関する。この製法は、温度範囲300℃から450℃に加熱しかつ内部圧力範囲を5Torr以下に保持した第1の処理容器内に温度範囲70℃から160℃の軟化点を有する供給コールタールピッチを供給する工程と、温度範囲25℃から60℃に軟化点を有しかつキノリン不溶分も灰分も含まない留出物を第1の処理容器から得る工程と、5分から40時間の間温度範囲350℃から595℃で留出物を熱処理する工程と、熱処理した留出物を蒸留して、所望の軟化点を有するピッチを得る工程と、温度範囲300℃から450℃に加熱した第2の処理容器内に所望の軟化点を有するピッチを供給する工程と、第2の処理容器から産出コールタールピッチを回収する工程とを含む。第1の処理容器と第2の処理容器は、同一でも異なる処理容器でもよい。
【0022】
本発明の各製法では、供給コールタールピッチの代わりに、別法として、コールタールピッチと石油ピッチとの混合物等の炭化水素混合物を供給原料として使用してもよい。炭化水素混合物は、少なくとも含有量50%のコールタールピッチを含むことが好ましい。
【0023】
従来の蒸留装置、薄膜蒸留装置又は薄膜型蒸発器を使用して、本発明の各製法を実施してもよい。従来の蒸留は、温度180℃の軟化点ピッチに限定される。
【0024】
約言すれば、本発明の少なくとも1つの好適な実施の形態は、炭素/黒鉛生成物を製造する際の「調節剤」として使用されかつ170℃より高い高軟化点を有する産出コールタールピッチを広範囲に企図する。本発明の高軟化点ピッチ生産物を利用して、より少ない数の揮発性物質を発生させることにより、生成時の揮発性物質の発生に付随する問題に対処することができる。揮発性物質の発生量を減少するほど、揮発性物質により捕捉され又は破壊される有機化合物の量を減少でき、得られる生成物がより高密度化して最終炭素/黒鉛生成物に優れた特性を付与できることを意味する。また、得られる炭素/黒鉛生成物の高軟化点コールタールピッチ部分は、収縮して、生成物の密度と強度とを改善することもできる。得られる生成物の熱伝導効率と電気伝導効率が増大する。
【0025】
更に、本発明の少なくとも1つの好適な実施の形態は、自動車ブレーキを形成する際の結合剤として使用する高軟化点コールタールピッチを広範囲に企図する。本発明の高軟化点ピッチ生成物をブレーキ組成物に添加すれば、ピッチが、分解せずかつフェード現象を誘引する気泡を発生せずに高温に対して非常に安定するため、フェード現象を低減することができる。
【0026】
更に、本発明の少なくとも1つの好適な実施の形態は、航空機ブレーキを形成する際の飽和剤として使用する高軟化点コールタールピッチを広範囲に企図する。本発明の高軟化点ピッチでは、約1時間で炭素繊維プレフォームを95%飽和させて炭素繊維プレフォームを飽和することができる。この予備的な短時間飽和により、プレフォームの完全な炭素飽和までに要する長時間を縮小できる可能性がある。また、高軟化点ピッチを使用して製造された最終航空機ブレーキを動力計で試験したところ、優れた摩擦特性結果を示した。
【0027】
更に、本発明の少なくとも1つの好適な実施の形態は、ゴム生成物の製造に使用する高軟化点コールタールピッチを広範囲に企図する。本発明のピッチを含むゴム組成物は、優れた接着特性を示した。
【0028】
更に、本発明の少なくとも1つの好適な実施の形態は、中間相ピッチの生成に使用する留出物を広範囲に企図する。本発明の留出生成物は、高品質中間相の生成を示すキノリン不溶分を含まないコールタール誘導物質である。また、本発明の中間相生産の経済的側面では、非常に安価に生産物が得られる。
【0029】
更に、本発明の少なくとも1つの現在好適な実施の形態は、フェノール樹脂を使用せず、摩擦材プレフォーム内に均一に短炭素繊維を配合する手段として高軟化点コールタールピッチを使用することを企図する。航空機ブレーキと自動車ブレーキのプレフォームは、通常、フェノール樹脂を使用して形成される。本発明では、前記プレフォームの製造に使用するフェノール樹脂は、高軟化点ピッチに置換される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明では、温度範囲300℃から450℃かつ圧力5Torr以下で作動する処理容器内で実施される高効率蒸発蒸留法を使用して、温度範囲70℃から160℃、好適には110℃から140℃にある軟化点を有する供給コールタールピッチを処理することにより、高軟化点でかつ低揮発性のコールタールピッチを生成することができる。最低温度に満たない温度で操作しても、生成物質に所望の軟化点を付与できず、また最高温度を超える温度で操作しても、生成物質に熱亀裂と熱劣化とが発生するので、前記温度範囲は、重要である。同様に、特定の最高範囲圧力より圧力が高ければ、所望の軟化点を達成するのに、生成物質の熱亀裂と熱劣化とを招来するより高い作動温度が必要となるので、前記圧力範囲は、重要である。
【0031】
本発明では、WFE装置を使用して生成工程を実施することができ、説明の便宜上WFE装置を使用する生成工程を説明するが、本発明は、この生成工程に限定されない。しかしながら、本明細書に記載する温度と圧力で操作できる限り、従来の蒸留装置と薄膜型蒸発器を使用できることは理解されよう。薄膜型蒸発器を使用するとき、好適には供給材料に含まれる最大QI粒子の厚みより小さくない最小厚さを有する膜を薄膜型蒸発器の内部壁上に形成すべきである。
【0032】
温度範囲300℃から450℃かつ圧力5Torr以下でWFE装置を作動できる限り、任意の公知のWFE装置を使用することができる。好適には1mmの最小膜厚加工し、200rpmから3000rpmの塗布速度範囲でWFE装置を作動できるすべきである。WFE装置の処理室又は処理容器壁は、温度範囲300℃から450℃の間、好適には300℃から400℃の間に加熱される。WFE装置内に投入する供給コールタールピッチの適切な供給速度は、処理容器の処理表面積に依存する。供給速度は、50〜500kg/m2(10〜100ポンド/平方フィート)(表面積)/時間、好適には175〜250kg/m2(35〜50ポンド/平方フィート)(表面積)/時間である。50〜500kg/m2(10〜100ポンド/平方フィート)(表面積)/時間の速度でWFE装置に供給コールタールピッチを供給すれば、WFE装置内での供給コールタールピッチの滞留時間は、約1〜60秒である。35〜50ポンド/平方フィート(表面積)/時間の好適な速度で供給コールタールピッチを供給すれば、WFE装置内での供給コールタールピッチの滞留時間は、約5〜30秒である。WFE装置の残留物は、140℃から300℃範囲、好適には150℃から250℃範囲の軟化点を有しかつ0%から5%の範囲、好適には0%から1%範囲の最小生成中間相を有する産出コールタールピッチである。特定の温度と圧力で作動する従来の蒸留装置を使用するとき、産出コールタールピッチは、140℃から180℃の範囲の軟化点を有する。従来の蒸留装置を使用して、180℃を超える軟化点の産出コールタールピッチを生成するのに必要な滞留時間により、過剰な中間相が生成される等の欠陥を生じるので、本発明により180℃を超える軟化点の産出コールタールピッチを達成するには、WFE装置又は薄膜型蒸発器を使用する必要がある。また、WFE法等の高効率蒸発蒸留法を使用して、高沸点のPAH、特にベンゾ(a)ピレンを供給コールタールピッチから除去することを促進することにより、24,000ppm以下のB(a)P当量を有する産出コールタールピッチを生じることができる。所定の容器温度での産出量コールタールピッチの収率は、供給コールタールピッチの軟化点に依存する。
【0033】
例1
335℃の温度でかつ絶対圧力18.5mmHgで作動する0.13m2(1.4平方フィート)の容器を有するWFE装置内に109℃の軟化点を有する供給コールタールピッチが385kg/m2(77ポンド/平方フィート)(表面積)/時間の供給速度で供給される。WFE装置の産出コールタールピッチは、85%のピッチ収率を有する。産出コールタールピッチの実験室分析結果を下表IIに示す。
【0034】
表II
軟化点、℃ 140.6
トルエン不溶分、重量% 32.9
キノリン不溶分、重量% 15.1
コークス値、修正コンラドソン法、重量% 64.9
灰分、重量% 0.20
比重、25/25℃ 1.35
ベータ樹脂、重量% 17.8
【0035】
例2
335℃の温度と絶対圧力10.4mmHgで作動する0.13m2(1.4平方フィート)の容器を有するWFE装置内に、109℃の軟化点を有する供給コールタールピッチが475kg/m2(95ポンド/平方フィート)(表面積)/時間の供給速度で供給される。WFE装置の産出コールタールピッチは、73%のピッチ収率を有する。産出コールタールピッチの実験室分析結果を下表IIIに示す。
【0036】
表III
軟化点、℃ 163.0
トルエン不溶分、重量% 37.7
キノリン不溶分、重量% 17.0
コークス値、修正コンラドソン法、重量% 71.6
灰分、重量% 0.22
比重、25/25℃ 1.36
ベータ樹脂、重量% 20.7
【0037】
例3
350℃の温度と絶対圧力5.0mmHgで作動する0.13m2(1.4平方フィート)の容器を有するWFE装置に、109℃の軟化点を有する供給コールタールピッチが65ポンド/平方フィート(表面積)/時間の供給速度で供給される。WFE装置の産出コールタールピッチは、74.2%のピッチ収率を有する。産出コールタールピッチの実験室分析結果を下表IVに示す。
【0038】
表IV
軟化点、℃ 200.0
トルエン不溶分、重量% 42.2
キノリン不溶分、重量% 18.2
コークス値、修正コンラドソン法、重量% 76.5
灰分、重量% 0.27
比重、25/25℃ 1.378
ベータ樹脂、重量% 24.1
【0039】
例4
365℃の温度でかつ絶対圧力5.0mmHgで作動する0.13m2(1.4平方フィート)の容器を有するWFE装置内に、109℃の軟化点を有する供給コールタールピッチが67ポンド/平方フィート(表面積)/時間の供給速度で供給される。WFE装置の産出コールタールピッチは、67%のピッチ収率を有する。産出コールタールピッチの実験室分析結果を下表Vに示す。
【0040】
表V
軟化点、℃ 225
トルエン不溶分、重量% 48.9
キノリン不溶分、重量% 23.3
コークス値、修正コンラドソン法、重量% 81.2
灰分、重量% 0.24
比重、25/25℃ 1.365
ベータ樹脂、重量% 25.7
【0041】
アルミニウムの生産に使用される黒鉛電極及び陽極を製造する際に、炭素-炭素複合材と摩擦材用との結合剤として、140℃から300℃の範囲、好適には150℃から250℃の範囲の軟化点を有する産出コールタールピッチを使用することができる。更に、140℃から300℃の範囲、好適には150℃から250℃の範囲の軟化点を有する産出コールタールピッチに可塑剤を混合して、セーデルベリ結合剤ピッチを含むアルミニウム陽極の製造と、非常に低いPAH含有量が要求される全ての他の産業上の利用に適する110℃の軟化点を有するピッチを生産することができる。可塑剤は、好適には99℃(210°F)で2〜5センチストークス間の低粘度でありかつ好適には5,000ppm以下のB(a)Pの低B(a)P当量であるコールタール又は混合物の30〜60%を構成する石油を配合したコールタールでもよい。好適な可塑剤の1つは、マッケンリーその他名義の米国特許第5,746,906号に記載されたコールタールピッチ混合物であり、その開示内容を本明細書に組み込むものとする。
【0042】
供給コールタールピッチの代わりに、本発明の別の実施の形態では、別法として、コールタールピッチ及び石油ピッチの混合物等の炭化水素混合物を供給材料として使用してもよい。本実施の形態では、炭化水素混合物は、少なくとも50%のコールタールピッチ含有量を有するのが好ましい。供給材料として炭化水素混合物を使用するときに生成される留出物を後述の製法に使用できる。
【0043】
WFE装置内で供給コールタールピッチを処理して生成される留出物は、本明細書に記載される0%から0.5%範囲のQIと、0%から0.1%範囲の灰分は、キノリン不溶分も灰分も含まないことを意味する。不溶性キノリンも灰分も含まない留出物は、少なくとも2つの理由により好ましい。第1に、留出物を使用して、炭素構造体内の気孔を充填する含浸ピッチとして使用される材料を生産することができ、QI及び灰分が気孔への充填能力を阻害することは公知である。第2に、留出物を使用して、中間相ピッチを生成でき、QIが中間相球体の結合を阻害することは公知である。留出物は、25℃から60℃範囲の軟化点を有するピッチを含む。
【0044】
5分から40時間の間に350℃から595℃の間の温度で留出分を第1の熱処理を行うことにより、留出物を使用して、キノリン不溶分も灰分も含まない所望の高軟化点のピッチを生成できる。例えば、短い蒸留塔を備えるフラスコ内に留出物を収容し、絶対圧力600mmHg以下の僅かな真空下で留出物を加熱しかつ撹拌することにより、熱処理工程を実施することができる。留出物の熱処理工程により、60℃から110℃の範囲の軟化点を有するピッチが得られる。その後、公知の従来手段により熱処理された留出物を蒸留し、所望の軟化点を有するピッチ残留物が得られる。得られたピッチを使用して、炭素繊維及び燃料電池を生産できる。別法として、300℃から450℃の範囲の温度と、5Torr以下の圧力とによるWFE法又は薄膜型蒸発器法等の高効率蒸発蒸留法を使用する熱処理及び蒸留により生産されるキノリン不溶分及び灰分を含まないピッチを更に処理して、狭い沸点領域でかつキノリン不溶分を含まないピッチを生産してもよく、狭い沸点領域のピッチは、更なる処理の残留物である。
【0045】
例5
110℃の軟化点を有する供給コールタールピッチから生成される25〜30℃の軟化点の留出物を360℃で約8時間熱処理して、60℃の軟化点を有するピッチを生成することができる。塔頂物(オーバーヘッド)温度400℃で60℃軟化点ピッチをバッチ/ポット蒸留器内で蒸留し、98.9℃の軟化点を有するピッチを70%の収率で生成することができる。得られるピッチの実験室分析結果を下表VIに示す。
【0046】
表VI
トルエン不溶分、重量% 18.3
キノリン不溶分、重量% 0.5
コークス値、修正コンラドソン法、重量% 46
灰分、重量% 0.04
比重、25/25℃ 1.29
ベータ樹脂、重量% 17.8
【0047】
別法として、時間3分から40の間に温度範囲370℃から595℃で留出物を熱処理することにより、70%から100%の範囲、好適には75%から85%の範囲の中間相含有量を有する中間相ピッチを留出物から生産してもよい。中間相ピッチの収率は、ほぼ70%から100%の範囲である。炭素繊維、リチウムイオン電池及び黒鉛フォーム(発泡体)に中間相ピッチを使用できる。
【0048】
供給コールタールピッチの代わりに、本発明の別の実施の形態では、別法として、コールタールピッチと石油ピッチとの混合物等の炭化水素混合物を原材料として使用してもよい。本実施の形態の炭化水素混合物は、少なくとも50%のコールタールピッチ含有量を有するのが好ましい。
【0049】
炭素/黒鉛生成物
本発明は、高軟化点を有する産出コールタールピッチの用途にも関連する。第1の用途では、従来の方法でコークスから110℃の軟化点のコールタールピッチを生産する炭素/黒鉛生成物の製造法において、好適には150〜250℃の範囲、より好適には160〜220℃の範囲、最も好適には170〜200℃の範囲の高軟化点を有する産出コールタールピッチを「調節剤」として使用することができる。本発明の一実施の形態は、炭素/黒鉛生成物の生産の際に、110℃の軟化点のコールタールピッチを160℃の軟化点のコールタールピッチに置換する工程を含む。他の実施の形態では、炭素/黒鉛生成物の生産の際に、コークスの一部の代わりに、高軟化点を有する産出コールタールピッチが使用される。
【0050】
例6
直径0.79cm(5/16インチ)×長さ30.48cm(12インチ)の穿孔杆(グージング・ロッド)を押出成形により形成する際に使用される110℃軟化点ピッチに代えて、160℃軟化点ピッチを使用する。約60重量%の投入割合でこのピッチをコークスに混合し、最終片に押出成形される。形成物は、焼成されかつ黒鉛化される。前記生産物の特性を表VIIに示す。
【0051】
表VII
【表1】

【0052】
通常の110℃のピッチより高い160℃の高軟化点のピッチを使用したので、製造された炭素−黒鉛生成物では、密度特性、強度特性及び抵抗率特性が向上した。黒鉛密度は、3.8%向上し、黒鉛強度は、14.3%向上した。
【0053】
直径1−5/8インチ×長さ24インチ及び直径1−5/8インチ×長さ48インチの黒鉛片に使用されるコークス粉に代えて、180℃の軟化点ピッチが使用される。調合の際に、10重量%のコークス粉を除去して、15重量%の180℃ピッチが粉末化固体で混合物に添加される。混合物は、焼成され黒鉛化される。前記生成物の特性を表VIIIに示す。
【0054】
表VIII
【表2】

【0055】
180℃の高軟化点ピッチを使用して製造される炭素−黒鉛生成物は、通常のコークスより密度特性及び電気抵抗率特性が向上した。黒鉛の密度は、4.7%向上し、電気抵抗率は、6.7%向上した。
【0056】
摩擦材料
第2の用途では、産出コールタールピッチは、航空機及び自動車等種々の輸送手段に使用されるブレーキ用摩擦材料を製造する際に使用される。
【0057】
半金属製の自動車ブレーキを製造する際に、好適には150〜250℃の範囲、より好適には170〜240℃の範囲、最も好適には180〜230℃の範囲の高軟化点を有するコールタールピッチが結合剤として使用される。架橋結合添加剤を使用して、177℃(350°F)から232℃(450°F)の範囲の温度に硬化後のピッチの軟化点を更に高めるのが好ましい。
【0058】
例7
半金属製の自動車ブレーキパッドにおける計8重量%のフェノール樹脂の3重量%に代えて、180℃の軟化点コールタールピッチを使用することができる。
【0059】
表IX
通常(対照)の半金属製の自動車ブレーキパッド組成は、以下の通りである。
【0060】
34重量% 鋼繊維
25重量% 海綿鉄
15重量% 黒鉛
5重量% 石油コークス
8重量% フェノール樹脂
6重量% 充填材
3重量% 摩擦ポリマー
3重量% 酸化マグネシウム
1重量% 酸化アルミニウム
【0061】
混合
フェノール樹脂8重量%の内、3重量%を除去し、200メッシュ篩を通して50%に粉末化した180℃軟化点コールタールピッチを3重量%それに代えて加えた後に、常温で混合した。
【0062】
表X
例7による半金属製の自動車ブレーキパッド組成物は、下記組成を有する。
【0063】
34重量% 鋼繊維
25重量% 海綿鉄
15重量% 黒鉛
5重量% 石油コークス
5重量% フェノール樹脂
6重量% 充填材
3重量% 摩擦ポリマー
3重量% 酸化マグネシウム
1重量% 酸化アルミニウム
3重量% 180℃軟化点コールタールピッチ
【0064】
138℃(280°F)の温度で0.54トン/cm2〜0.62トン/cm2(3.5〜4.0トン/平方インチ)の圧力により、半金属製ブレーキ混合物が成型される。45秒、90秒、135秒及び180秒経過時に、圧力を解除し、成型体を取り出す。成型サイクルの合計時間は、5分である。その後、ブレーキパッドを177℃(350°F)で4時間、後硬化させる。組成物の特性を表XIに示す。
【0065】
【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【0066】
表XIに示すように、コールタールピッチを使用して、摩耗、特に高温摩耗(425℃)の改善結果を示す。表XIの(1),(2)に示すように、対照組成物(ピッチ無し)と比較して、例7では、厚さ減少(mm)及び重量減少(グラム)の両方の摩耗量が29%及び24%減少する。表XIの(3)に示すように、本発明のコールタールピッチを使用することにより、フェード加熱サイクル最小値は、7.5%改善する。対照組成物と比較してコールタールピッチを使用する場合、エネルギ状態の全範囲にわたりブレーキパッドを試験したとき、更に安定な摩擦係数が得られる。明示する数値による効果に基づいて表がこれを示す。
【0067】
航空機ブレーキを製造する際に、好適には160〜240℃の範囲、より好適には170〜220℃の範囲、最も好適には180〜200℃の範囲の高軟化点を有するコールタールピッチが、航空機ブレーキ用の炭素繊維プレフォームの飽和に使用される。
【0068】
例8
低QI(キノリン不溶分)の180℃軟化点コールタールピッチを使用して、航空機ブレーキ炭素繊維プレフォームを飽和し、プレフォームの気孔率を75体積%から5体積%まで下記の方法で減少できる。
【0069】
約25体積%の炭素繊維を有する炭素繊維プレフォームを真空圧(10mmHg未満)下に配置して、325℃に加熱する。低QI(10重量%未満)の180℃軟化点コールタールピッチを325℃で炭素繊維プレフォーム中に導入する。コールタールピッチの飽和した炭素繊維プレフォームを窒素によって、1.05kg/cm2(15psig)に加圧する。飽和した炭素繊維プレフォームが冷却される。化学蒸気浸透法(CVI)を使用する高密度化工程を開始して、飽和した炭素繊維プレフォームが、更に処理される。
【0070】
CVI工程前に、炭素繊維プレフォームをコールタールピッチによって飽和させて、炭素繊維プレフォームの初期密度を増加することにより、表XIIに示すように、密度仕様を満足するのに必要なCIV工程の実時間を顕著に短縮(30%程度)することができる。これは、航空機ブレーキディスクを製造する炭素繊維プレフォームの処理に費用面で優れた利点がある。
【0071】
【表7】

【0072】
表XII(前記)
ゴム生成物
本発明の別の用途では、好適には100〜200℃の範囲、より好適には120〜180℃の範囲、最も好適には140〜180℃の範囲の高軟化点を有するコールタールピッチを利用して、組成中に天然ゴムを含むタイヤ組成物等のゴム生産物が製造される。
【0073】
例9
追加の硫黄0.5部を含むワイヤベルトコート組成物の調合に140℃軟化点コールタールピッチ6部が配合される。
【0074】
表XIII
通常のワイヤベルトコート組成物の調合(対照組成物)は、下記の組成を有する。
【0075】
100部 天然ゴム
55部 カーボンブラック
15部 二酸化ケイ素
4部 パラフィン系石油
2部 ステアリン酸
6部 酸化亜鉛
1部 酸化防止剤、TMQ(トリメチルキノリン)
0.75部 ナフテン酸コバルト
3部 レゾルシノール
2.5部 HMMM(ヘキサメトキシメチルメラミン)
4.0部 硫黄
0.9部 TBSI(ターシャリブチルベンゾチアゾールスルフェンイミド)
【0076】
ワイヤベルトコート組成物の調合からレゾルシノール及びHMMMを除去し、200メッシュ篩を通して50%に粉末化した140℃軟化点コールタールピッチ6部と、追加の硫黄0.5部とが添加される。
【0077】
表XIV
例9によるワイヤベルトコート組成物の調合(コールタールピッチ配合物)は、下記組成を有する。
【0078】
100部 天然ゴム
55部 カーボンブラック
15部 二酸化ケイ素
4部 パラフィン系石油
2部 ステアリン酸
6部 酸化亜鉛
1部 酸化防止剤、TMQ
0.75部 ナフテン酸コバルト
4.5部 硫黄
0.9部 TBSI
6部 140℃軟化点コールタールピッチ
【0079】
以下の通り、ワイヤベルトコート組成物を調合した。
【0080】
段階1
開始温度、℃:66〜71(°F:150〜160) ロータ速度、rpm:70 ラム圧力、kg/cm2:3.49(50psi)
時間、
成分又は手順
0 1/2ゴム、二酸化ケイ素、1/2カーボンブラック、1/2ゴム
1−3/4 TBSI、酸化亜鉛、HMMM、硫黄を除く全て
3−1/2 掃引
5 掃引
6 ダンプ
【0081】
ミルロール温度を54℃(130°F)に設定。バンド段階Iの混合。
【0082】
各側面3回切断、3端通過、シート冷却。
【0083】
段階II
開始温度、℃:38〜43(100〜110°F) ロータ速度、rpm:60 ラム圧力、kg/cm2:3.49(50psi)
時間、分 成分又は手順
0 1/2段階I、TBSI、硫黄、HMMM、酸化亜鉛、1/2段階I
1 掃引
2−1/2 ダンプ
【0084】
ミルロール温度を54℃(130°F)に設定。バンド段階IIの混合。
【0085】
各側面5切断、5端部通過、2分間粒子セット、シート冷却。
【0086】
試験及び硬化前に、22℃(72°F)24時間配合物放置。
【0087】
コールタールピッチ組成物を使用するワイヤベルトコート組成物の特性を表Vに示す。
【0088】
【表8】

【表9】

【表10】

【0089】
試験結果は、対照配合物を含む非ピッチの特性に対し、表XVの(1)に示すように、改善されたデマティア屈曲効果、表XVの(2)に示すように、改善されたゴム対ゴム接着性及び改善された感熱特性を有するコールタールピッチ含有組成物を示す。
【0090】
中間相ピッチ
更に、本発明の別の好適な実施の形態は、中間相ピッチの生成に使用する留出物を広範囲に企図する。
【0091】
高軟化点(SP)ピッチ(140〜240℃SP)を準備する間に、蒸留留出物(塔頂物)も生成される。塔頂物は、0.1重量%未満のキノリン不溶分(QI)及び1重量%未満のトルエン不溶分(TI)を含む。その物質は、250℃を超える沸点(380℃を超える最高沸点)の芳香族炭化水素を主に含む。その芳香族特性及び固体欠損(QI)のため、適切な処理条件の下で、塔頂物を中間相に変換できる。中間相は、光学的異方性の液晶炭素質相又は適切な条件の下で塔頂物から生成するピッチとして通常定義される。炭素/炭素複合材、リチウム電池、熱処理装置、フォーム及びメソカーボンビーズ(メソ炭素粒体)等の特別な用途に中間相ピッチを使用できる。
【0092】
種々の熱処理法により、1体積%未満から80体積%を超える範囲の濃度にまで中間相を製造できる。
【0093】
例10
750cc/分の窒素雰囲気掃引の下500mlのガラス反応器内で、約500gの塔頂物を400℃に熱処理した。40時間後、中間相含有量は、0.9体積%であったが、68時間後に46.0重量%に増加した。
【0094】
例11
例1に使用したのと同様の装置内で、塔頂物を440℃で熱処理した。35時間後、中間相含有量は、80.2体積%であった。
【0095】
例12
蒸留間の熱処理による減圧蒸留により、塔頂物を107℃SPピッチに初期蒸留した。20mlの蓋付るつぼ内で450℃で2時間、得られたピッチ(1.1体積%の中間相)を熱処理した。中間相含有量は、76.6体積%であった。るつぼ内でピッチを430℃で3時間熱処理して、15.8体積%の中間相含有量を生成した。窒素浄化なしで炉中で前記試験を行った。
【0096】
例13
100mlのガラス反応器内で430℃で15、17及び19時間、塔頂物を熱処理した。中間相含有量は、それぞれ6.9、35.3及び81.8体積%であった。熱処理した材料全体に窒素を450cc/分の速度で掃引した。
【0097】
例14
熱処理しない塔頂物を軟ピッチ(54.0℃SP)に減圧蒸留した。その後、窒素浄化と共に、100mlのガラス反応器内で軟ピッチを熱処理した。400℃で39時間保持した後に、中間相は、3.9体積%であった。また、合計31時間の間に430℃から455℃の温度範囲で31時間軟ピッチを熱処理した結果、中間相含有量は、82.4体積%であった。
【0098】
例15
5%の酸素を浄化用ガスに加えて、100mlのガラス反応器で塔頂物を440℃で熱処理した。8時間後、中間相含有量は、19.8体積%であった。中間相の特性は、酸素の存在により変化した。大球体化又はモザイク構造体化への中間相小球体の合体が阻止された。10μmの球体の各個体性が維持された。
【0099】
例16
窒素浄化と共に、4リットルのガラス反応器内に多量(約2kg)の中間相材料を準備した。塔頂物を410℃から440℃の温度範囲で36時間熱処理した。生産物の中間相含量は、28.8体積%であった。
【0100】
炭化プレフォーム
例17
短炭素繊維炭化プレフォーム10の形成手順は、下記工程(図1〜図4)の通りである。
【0101】
1. 最終プレフォームに要求される大きさの内部寸法と外部寸法に合わせて(仕上がり寸法に機械加工する)成形型盤12を作成する。プレス板14の仕上がり寸法より、成形型盤12の高さを大きくすべきである(図1b)。
【0102】
2. 着脱可能な内部スリーブ16及び外部スリーブ18をプレフォーム型高さの数倍の高さに作成する。成形型盤12上に内部スリーブ16と外部スリーブ18とを配置する(図1b)。
【0103】
3. 押形型盤12及び内部スリーブ16と外部スリーブ18中に短炭素繊維20を特定の深さで配合して、圧密化工程後に、必要な最終炭素繊維容積に達する(図1b)。
【0104】
4. 短炭素繊維20上に有孔プレス板14を配置し、所定の高さに短炭素繊維20をプレス成形する(図2a及び図2b)。
【0105】
5. 例えば鋼鉄ピン等のロック装置22により、適所(図2a)に有孔プレス板14を係止する。
【0106】
6. 内部スリーブ16と外部スリーブ1と8を除去する(図3)。
【0107】
7. 成形型盤12上に真空/加圧室24を配置し、真空/加圧室24を成形型盤12に密封する(図4)。
【0108】
8. 真空/加圧室24と成形型盤12とを減圧する(図4)。
【0109】
9. 140℃以上の軟化点を有する液体コールタールピッチ26を成形型盤12内へ導入し、短炭素繊維の室内を液体コールタールピッチ26で充填する。
【0110】
10. 2.09kg/cm2(30psi)以上の窒素圧力で真空/加圧室26と成形型盤12とを加圧し、短炭素繊維を完全に飽和させる。
【0111】
11. 圧力を解除し、真空/加圧室24を除去する。
【0112】
12. 成形型盤12を冷却して、成形型盤12内のプレフォーム10を炭化する。
【0113】
13. 有孔プレス板14及び炭化プレフォーム10を取り出す。
【0114】
例18
下記の工程を使用して、プレフォーム型内に均一に短炭素繊維を分散させて、フェノール樹脂を用いずに繊維を結合(適切に固定する)(図1〜3、5及び6)することにより、高軟化点を有するコールタールピッチ結合剤を使用して短炭素繊維プレフォームを形成する。
【0115】
工程
1. 要求される最終プレフォームのサイズ(最終寸法に機械加工できる)の内部寸法と外部寸法で成形型盤12を作成する。プレス板14を配置できるように、成形型盤12の高さを最終寸法より大きくすべきである(図1b)。
【0116】
2. プレフォーム型の高さの数倍に着脱可能な内部スリーブ16と外部スリーブと18を作成する。成形型盤12上に内部スリーブ16と外部スリーブ18とを配置する(図1b)。
【0117】
3. 多量の短炭素繊維と、140℃以上の軟化点を有する粉砕された(粉末状の)高軟化点コールタールピッチと、例えば黒鉛及び/又はコークス等の他の摩擦添加剤とを混合する。
【0118】
4. 成形型盤12と内部スリーブ16及び外部スリーブ18内に前記3.の混合物を均一に分散させる(図1b)。
【0119】
5. 混合物上に有孔プレス板14を配置し、所定のプレフォーム高さに混合物をプレス成形する(図2a)。
【0120】
6. 有孔プレス板14をロック装置22の最適位置に固定する(図2a)。
【0121】
7. 内部スリーブ16と外部スリーブ18とを除去する(図3)。
【0122】
8. 有孔プレス板14と成形型12とを800℃に焼成して、成形型盤12内で高軟化点ピッチを融解し炭化する。
【0123】
9. 有孔プレス板14及び炭化プレフォームを冷却して取り出す。プレフォームの取り出しが難しいとき、図5及び図6に示すプレフォーム取出治具28を使用して、プレフォームを抜き取ってもよい。プレフォーム取出治具28は、中央スリーブ32を有する鋼鉄板30である。中央スリーブ32上に配置された取付装置34を使用して、プレフォーム取出治具28を引き抜いてもよい。更に、プレフォームを抜くとき、下方で固定するリップ36(好ましくは1.27cm(1/2インチ))をプレフォームに設けてもよい。
【0124】
前記工程では、得られる生成物に実質的な影響が生じない限り、工程の追加又は削除が可能である。
【0125】
本明細書では、特に明確な反対表示がない限り、本明細書の何れかに開示された同様の成分及び/又は方法と上記の全成分及び/又は全工程とを、適切な場合に、交換できると考慮することができる。
【0126】
本明細書に特に明記しなくても、本明細書中の考察又は明記した任意及び全ての特許、特許公報、論文及びその他の刊行物の全内容は、本明細書中に記載されるものとして、参照により、本明細書の一部とする。
【0127】
最も実用的かつ好適な実施態様であると現在考えられる図面及び好適な実施の形態に基づいて、本発明を詳細に説明したが、前記詳細な説明は、単に説明の目的に過ぎず、本発明は、開示された実施の態様に限定されず、逆に特許請求の範囲の企図及び範囲内の変更及び同等のものを包含することを企図するものであることは理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1a】プレフォーム成形型盤の平面図
【図1b】内部スリーブと外部スリーブとを着脱自在に挿入したプレフォーム成形型盤を示す図1のA−A線に沿う横断面図
【図2a】有孔プレス板を有するプレフォーム成形型盤の断面図
【図2b】有孔プレス板の平面図
【図3】着脱自在な内部スリーブと外部スリーブとを除去したプレフォーム成形型盤の断面図
【図4】真空/加圧室を有するプレフォーム成形型盤の断面図
【図5】別の実施例によるプレフォーム成形型盤の断面図
【図6】プレフォーム取出治具の平面図
【符号の説明】
【0129】
(10)・・炭化プレフォーム、 (12)・・成形型盤、 (14)・・プレス板、 (16)・・内部スリーブ、 (18)・・外部スリーブ、 (20)・・短炭素繊維、 (24)・・真空/加圧室、 (26)・・液体コールタールピッチ、 (28)・・プレフォーム取出治具、



【特許請求の範囲】
【請求項1】
着脱可能な内部スリーブ及び着脱可能な外部スリーブを成形型盤上に配置する工程と、
成形型盤、内部スリーブ及び外部スリーブ中に短炭素繊維を配合する工程と、
プレス板により短炭素繊維を押圧する工程と、
内部スリーブと外部スリーブとを除去する工程と、
成形型盤に真空/加圧室を密封し、真空/圧力室に真空圧力を加える工程と、
成形型盤内に液体コールタールピッチを導入する工程と、
窒素により真空/加圧室を加圧する工程と、
圧力を解除し、真空/加圧室を除去する工程と、
成形型盤を冷却する工程と、
プレス板と炭化プレフォームとを取り出す工程とを含むことを特徴とする炭化プレフォームの製法。
【請求項2】
請求項1の製法により形成された炭化プレフォーム。
【請求項3】
着脱可能な内部スリーブ及び着脱可能な外部スリーブを成形型盤上に配置する工程と、
粉末化した高軟化点コールタールピッチと短炭素繊維とを含有する混合物を成形型盤、内部スリーブ及び外部スリーブ内に配合する工程と、
プレス板により短炭素繊維を押圧する工程と、
内部スリーブと外部スリーブとを除去する工程と、
成形型盤内の混合物を焼成する工程と、
成形型盤を冷却する工程と、
プレス板と炭化プレフォームとを成形型盤から取り出す工程とを含むことを特徴とする炭化プレフォームの製法。
【請求項4】
プレフォーム取出治具を使用して、成形型盤からプレフォームを取り出す工程を更に含む請求項3に記載の製法。
【請求項5】
請求項3の製法により形成された炭化プレフォーム。

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2007−526195(P2007−526195A)
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515131(P2006−515131)
【出願日】平成16年6月1日(2004.6.1)
【国際出願番号】PCT/US2004/017506
【国際公開番号】WO2004/108859
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(505443827)コッパーズ・デラウェア・インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】