説明

コールドスプレー用ノズル

【課題】本発明の課題は、アルミニウム粒子が内面に付着することを防止するコールドスプレー用ノズルを提供することにある。
【解決手段】本発明は、アルミニウム粒子を噴射するコールドスプレー用ノズル1の内面が多結晶ダイヤモンド膜3で被覆されていることを特徴とする。このコールドスプレー用ノズル1は、所定のノズル基体2の内面に多結晶ダイヤモンド膜3を形成することで、作動ガス(プロセスガス)に同伴して流動するアルミニウム粒子がコールドスプレー用ノズル1の内面に付着することを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コールドスプレー用ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コールドスプレー(Cold Spray)法によって基材の表面に皮膜を形成する方法が知られている。この方法は、皮膜材料の融点又は軟化点よりも低い温度に設定した超音速で流れる作動ガス(プロセスガス)に皮膜材料の粒子を同伴させることによって、この粒子を基材の表面に衝突させる(噴射する)ものである。この方法では、皮膜材料の粒子が高速で基材の表面に衝突した際に、固相状態のままでその粒子が塑性変形することによって皮膜が形成される。このようなコールドスプレー法によれば、緻密な組織で密度の高い皮膜を基材の表面に形成することができる。
【0003】
一般に、コールドスプレー用ノズルとしては、ステンレス鋼、工具鋼、鋼硬合金等の材料で形成されたラバルノズルが知られている。このようなノズルを使用して、皮膜材料としてのアルミニウム粒子を噴射すると、ノズル内にアルミニウム粒子が付着し、更には付着したアルミニウム粒子によってノズルが閉塞する場合がある。そして、ノズルが閉塞すると、ノズルを交換するために、コールドスプレー操作を一旦中断しなければならない問題がある。次に参照する図3(a)は、従来のコールドスプレー用ノズルの断面図であって、ノズル内を流れる作動ガスの流線を併記した図、図3(b)は、図3(a)におけるIIIb部の部分拡大図、図3(c)は、従来のコールドスプレー用ノズルにおいて閉塞が生じる様子を示す概念図である。
【0004】
図3(a)に示すように、コールドスプレー用ノズル11に窒素、ヘリウム等の作動ガスGが導入されると、作動ガスGは絞り部14でその温度が上昇する。その一方で、絞り部14の下流側に形成される膨張部15においては、図3(b)に示すように、コールドスプレー用ノズル11の壁面近くで作動ガスGの流れに乱れTが生じる。そのため、特にこの膨張部15では作動ガスGに同伴させたアルミニウム粒子(図示省略)とコールドスプレー用ノズル11の壁面との摩擦が激しくなって、その壁面の温度が上昇する。したがって、この摩擦熱と、絞り部14における作動ガスGの昇温とによって、膨張部15の壁面の温度が他の部分における壁面の温度よりも高くなる。つまり、膨張部15には、いわゆるヒートスポットが形成される。
【0005】
その結果、従来のコールドスプレー用ノズル11においては、図3(c)に示すように、主に膨張部15でアルミニウム粒子の凝着物Aを形成して閉塞する。ちなみに、本発明者は、後記するように、工具鋼で形成された従来のコールドスプレー用ノズル11を使用した場合に、アルミニウム粒子の温度を400℃に設定し、アルミニウム粒子の速度を600m/sに設定したスプレー条件で、作動ガス(窒素ガス)の温度が550℃を超えると、このコールドスプレー用ノズル11が数分で閉塞することを確認している。
【0006】
そこで、従来、交換可能な筒状部を膨張部の下流側に設けたコールドスプレー用ノズルが知られている(例えば、特許文献1参照)。
このコールドスプレー用ノズルは、筒状部を取り外すことで、膨張部の壁面のメンテナンスが容易になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−95886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記したコールドスプレー用ノズル(例えば、特許文献1参照)は、膨張部のメンテナンスが容易になってはいるものの、付着したアルミニウム粒子をノズルから取り除くためにコールドスプレー操作を一旦中断しなければならない。
【0009】
そこで、本発明の課題は、コールドスプレー操作を中断することなく継続的に行うことができるコールドスプレー用ノズルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決する本発明のコールドスプレー用ノズルは、アルミニウム粒子を噴射するコールドスプレー用ノズルの内面が多結晶ダイヤモンド膜で被覆されていることを特徴とする。
本発明は、コールドスプレー用ノズルの内面に多結晶ダイヤモンドをコーティングすることで、内面の硬度、耐衝撃性及び耐熱性を向上させることのみならず、内面にアルミニウム粒子が付着し難くなることを本発明者が新たに見出してなされたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のコールドスプレー用ノズルによれば、アルミニウム粒子が内面に付着することを防止して、コールドスプレー操作を中断することなく継続的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)は、本発明の実施形態に係るコールドスプレー用ノズルの構成説明図、(b)は、(a)におけるIb部の部分拡大図である。
【図2】閉塞を生じない噴射条件でノズルを使用した際の、アルミニウム粒子の温度[℃]と、アルミニウム粒子の速度[m/s]との関係を表したグラフである。
【図3】(a)は、従来のコールドスプレー用ノズルの断面図であって、ノズル内を流れる作動ガスの流線を併記した図、(b)は、(a)におけるIIIb部の部分拡大図、(c)は、従来のコールドスプレー用ノズルにおいて閉塞が生じる様子を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1(a)に示すように、コールドスプレー用ノズル1(以下、単に「ノズル1」ということがある)は、多結晶ダイヤモンドをノズル1の内面にコーティングしたものである。つまり、本実施形態に係るノズル1の内壁面は、図1(a)及び(b)に示すように、多結晶ダイヤモンド膜3で被覆されている。
【0014】
ノズル1は、略筒状のラバラノズルの形状を有しており、その内側はアルミニウム粉体(粒子)を同伴する窒素、ヘリウム等の作動ガス(プロセスガス)が流通するようになっている。そして、ノズル1の内側には、絞り部4と、この絞り部4の下流側に形成される膨張部5とを備えている。
【0015】
ノズル基体2は、ノズル1と略同形状を有しており、鋼材で形成することができる。中でも、ノズル基体2の材料としては、低炭素鋼、チタン合金鋼、モリブデン合金鋼、及びチタンジルコニウムモリブデン鋼が望ましい。
【0016】
多結晶ダイヤモンド膜3は、CVD法、熱フィラメント法、プラズマジェット法、火炎法等の公知の方法によって形成することができ、中でもCVD法で形成されたCVD多結晶ダイヤモンドからなるものが望ましい。
【0017】
本実施形態に係るノズル1は、アルミニウム粒子を使用したコールドスプレー法に好適に使用することができる。
アルミニウム粉体の粒子(アルミニウム粒子)としては、特に制限はないが、本実施形態に係るノズル1を使用すると、後記するように、従来のコールドスプレー用ノズルの臨界条件を上回る条件で運転することができるので、例えば作動ガスの温度を従来の温度よりも高く設定することができる。したがって、従来のコールドスプレー用ノズルでは、良好な被膜が得難いとされていた、硬度が比較的に高い反面、もろいアルミニウム粉体(粒子)にも適用することが可能となる。
【0018】
作動ガス(プロセスガス)としては、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス等が挙げられる。ちなみに、作動ガスとして窒素ガスを使用する場合には、比較的に粒径が大きい(質量が大きい)アルミニウム粒子を使用することができる。また、作動ガスとしてヘリウムを使用する場合には、作動ガスの速度を高めることができるのでアルミニウム粒子の噴射速度を上げることができる。
【0019】
以上のようなノズル1によれば、内面が多結晶ダイヤモンド膜3で被覆されているので、例えばアルミニウム粒子等の金属粒子が内面に付着することを防止することができる。その結果、従来のコールドスプレー用ノズル(多結晶ダイヤモンド膜3を有しないもの)と比較して、作動ガスの温度や流速を一段と高めても、噴射される金属粒子による閉塞が回避されるので、より重い金属粒子を使用することができる。
【0020】
また、このノズル1は、内面が多結晶ダイヤモンド膜3で被覆されているので、内面の硬度及び耐衝撃性を向上させることができる。
【0021】
また、このノズル1は、内面が多結晶ダイヤモンド膜3で被覆されているので、内面の耐熱性を高めることができ、コールドスプレーの施工温度を向上させることができる。その結果、良好な皮膜を形成することができるように、好適なアルミニウム粒子の種類を選択する際に、その選択の幅が広がる。
【0022】
また、このノズル1は、内面が多結晶ダイヤモンド膜3で被覆されているので、内面の熱伝導性を高めることができる。その結果、局部的な温度上昇であるヒートスポットが生じるのを回避することができる。したがって、このノズル1によれば、焼き付きを防止することができる。
【0023】
本発明は前記実施形態に限定されず、種々の形態で実施することができる。
前記実施形態では、多結晶ダイヤモンド膜3をノズル1の内面の全体に亘って形成することを想定しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、膨張部5の内面のみに多結晶ダイヤモンド膜3を形成したものであってもよい。
【実施例】
【0024】
次に、本発明の効果を確認した実施例について説明する。
(実施例)
実施例では、図1(a)及び(b)に示すように、工具鋼からなるノズル基体2の内面の全体に亘って、多結晶ダイヤモンド膜3を形成した。この多結晶ダイヤモンド膜3は、CVD法によって形成した。
次に、このノズル1を使用したコールドスプレー法を想定して、アルミニウム粉体(アルミニウム粒子)を同伴する窒素ガス(作動ガス)をノズル1で噴射した。アルミニウム粒子の粒径は25〜45μmであった。噴射条件を図2に示す。ここで参照する図2は、閉塞を生じない噴射条件でノズルを使用した際の、アルミニウム粒子の温度[℃]と、アルミニウム粒子の速度[m/s]との関係を表したグラフである。そして、図2には、アルミニウム粒子の温度[℃]を粒子温度[℃]と記し、アルミニウム粒子の速度[m/s]を粒子速度[m/s]と記すと共に、作動ガスの温度を「ガス温度」として併記している(以下の比較例1及び比較例2においても同じ)。
【0025】
図2に示すように、本実施例では、アルミニウム粒子の温度を500℃前後に設定すると共に、アルミニウム粒子の速度を700m/s前後に設定した3回の噴射工程のいずれにおいても、ノズル1におけるアルミニウム粒子の閉塞は無かった。
ちなみに、窒素ガスのガス温度は40〜700℃であった。
【0026】
(比較例1)
比較例1では、多結晶ダイヤモンド膜3を形成しない、工具鋼からなるノズル基体2を使用して、アルミニウム粉体(アルミニウム粒子)を同伴する窒素ガス(作動ガス)を噴射した。アルミニウム粒子の粒径は25〜45μmであった。噴射条件を図2に示す。ちなみに、図2中の破線は、多結晶ダイヤモンド膜3を形成しないノズル基体2を使用した際に、ノズル基体2が閉塞しない、アルミニウム粒子の温度(粒子温度)及びアルミニウム粒子の速度(粒子速度)の臨界条件Cを示す線分である。
【0027】
図2に示すように、比較例1では、図2中の破線で示す臨界条件Cを下回るように、粒子温度[℃]及び粒子速度[m/s]を設定して3回の噴射工程を行った。窒素ガスのガス温度は40〜400℃であった。なお、この比較例1では、臨界条件Cを下回るように噴射条件を設定したので、ノズル基体2はアルミニウム粒子で閉塞しなかった。
【0028】
(比較例2)
比較例2では、多結晶ダイヤモンド膜3を形成しない、工具鋼からなるノズル基体2を使用して、アルミニウム粉体(アルミニウム粒子)を同伴する窒素ガス(作動ガス)を噴射した。アルミニウム粒子の粒径は25〜45μmであった。噴射条件を図2に示す。
【0029】
図2に示すように、比較例2では、図2中の破線で示す臨界条件Cの近傍で3回の噴射工程を行った。なお、比較例2での窒素ガスのガス温度は40〜550℃であった。
そして、図示しないが、アルミニウム粒子の温度を400℃に設定し、アルミニウム粒子の速度を600m/sに設定したスプレー条件で、作動ガス(窒素ガス)の温度が550℃を超えると数分で閉塞することが確認された。
【0030】
(実施例及び比較例のノズルの評価)
多結晶ダイヤモンド膜3を内面に形成した実施例のノズル1を使用すると、図2中の破線で示す臨界条件Cを超える領域でアルミニウム粒子の温度(粒子温度)及びアルミニウム粒子の速度(粒子速度)を設定してもアルミニウム粒子による閉塞が生じないことが確認された。
【0031】
また、この際、多結晶ダイヤモンド膜3を形成しないノズル基体2を臨界条件Cの近傍で噴射条件を設定した比較例2では、閉塞を起さなかった作動ガスの最高温度が、550℃であるのに対して(図2参照)、実施例の多結晶ダイヤモンド膜3を有するノズル1では、閉塞を起さなかった作動ガスの最高温度が、700℃であった(図2参照)。つまり、実施例の多結晶ダイヤモンド膜3を有するノズル1では、多結晶ダイヤモンド膜3を有しないノズル基体2と比較して、作動ガスの最高温度に150℃のアドバンテージを有することが確認された。
【符号の説明】
【0032】
1 コールドスプレー用ノズル(ノズル)
2 ノズル基体
3 多結晶ダイヤモンド膜
4 絞り部
5 膨張部
G 作動ガス
A 凝着物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム粒子を噴射するコールドスプレー用ノズルの内面が多結晶ダイヤモンド膜で被覆されていることを特徴とするコールドスプレー用ノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−584(P2011−584A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−243936(P2009−243936)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】