説明

コーン分画段階由来の上清を含んでなる哺乳動物細胞培地及びその使用

【課題】動物起源血清をヒト血漿画分に置き換えた哺乳動物細胞培地の提供。
【解決手段】基本培地の通常の栄養素に加えて、コーン法を用いたヒト血漿分画の1段階に由来する上清を含んでなる、哺乳動物細胞の培養のための培地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物細胞の培地で使用するための添加物に関するものである。この添加物は脱フィブリンヒト血漿(実質上フィブリノーゲン及びフィブリンを含まない)から得られ、培地に添加物として添加されると、培養細胞の良好な維持及び/又は増殖のための様々な栄養素及び因子を供給する。
【背景技術】
【0002】
細胞培養はバイオテクノロジー産業において主に組換え蛋白及びモノクローナル抗体の産生に使用される。しかし、近年、遺伝子治療との組み合わせ又は単独で、細胞療法に使用するための様々な種類の中核細胞を培養する技術が開発されている。
【0003】
様々なセルラインを良好に培養及び維持するためには、これらの細胞がインビボで見出される体内媒質の状態を模倣することが培地に求められる。一般に培地は、pH、栄養素及び塩類を提供する基本培地で構成され、これに、細胞増殖を確実にするため一連の添加物が加えられる。最も広く用いられる添加物の1つは動物の血清である。血清が動物起源である結果として、動物起源の残留物が外来抗原として認識され、レシピエントに有害反応を惹起することがあるため、ヒトに使用する生成物を得るための動物起源血清の使用には重大な制約があり得る。更に、異なる動物品種が使用されるため製造者間で大きなばらつきがあることから、動物の血清は、明確な組成の欠如という難点を有する。加えて、それらを取得する方法のせいでバッチ間に大きなばらつきがあり、それは、増殖能力及び特定の培養の産生に広範な変動性が生じ得ることを意味する。
【0004】
セルラインを確立する際の主たる問題は、天然培地、例えば胚抽出液、蛋白加水分解物又は血清に代わることのできる適当な栄養培地を取得することである。第一群の培地、例えばイーグル基本培地(MEM)(Eagle, H. (1955)「組織培養における哺乳動物細胞(L系統)の特異的アミノ酸要件」J. Biol. Chem. 214:839)、及び、より複雑なMorgan等の199培地(Morgan, J.G., Morton, J.H. and Parker, R.C. (1950)「組織培養における動物細胞の栄養。1 合成培地に関する初期研究」Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 73:1)は既知組成培地であるが、これらは5%〜20%の血清添加を必要とする。
【0005】
不確定的で複雑な培地の寄与を排除するため、より複雑な培地、例えば、NCTC 109(Evans, V.J., Bryant, J.C., Fioramonti, M.C., McQuilkin, W.T., Sanford, K.K. and Earle, W.R. (1956)「組織C細胞のための栄養培地のインビトロ研究。1 L系統細胞の培養のための無蛋白化学合成培地」Cancer Res. 16:77)、135(Evans, V.J. and Briant, J.C. (1965)「米国国立癌研究所における組織培養の進歩」(”Tissue culture”, C.V. Ramakrishnan, W. Junk編、The Hague, pp.145-167))、Ham F10及びF12(Ham, R.G.(1963)「二倍体チャイニーズハムスター及びヒトセルラインのための改良された栄養溶液」Exp. Cell Res. 29:515、Ham, R.G. (1965)「化学合成培地における哺乳動物細胞のクローン増殖」Proc. Natl. Sci. USA 53:288)、MCDB系列(Ham, R.G. and McKeehan, W.L. (1978)「正常二倍体細胞のクローン増殖のための改良された培地及び培養条件の開発」In vitro 14:11-22)ならびにホルモン添加佐藤培地(Barnes, D. and Sato, G. (1980)「無血清培地において培養細胞を増殖させる方法」Anal. Biochem. 102:255-270)が考案されている。
【0006】
既知組成培地を確立するために推奨されるアプローチは、高濃度の血清(20%)を添加した富栄養培地、例えばHam F12から開始して、血清量を削減するための添加物を、血清が削減され又は排除できるまで試験することである。
【0007】
培地の組成に関する長年の研究の後も、それらは未だに経験的な選択がなされている。
【0008】
使用されている主要な培地及びそれらの適用は、
− イーグル基本培地(EBM)。これは必須アミノ酸のみを含む基本培地である。これは常に10%牛胎児血清の添加を要する。これはマウス線維芽細胞及びHeLa細胞の増殖に使用される。
【0009】
− イーグル最小必須培地(MEM)。これは、EBMより多くのアミノ酸をより高濃度で含有する、最も一般的に使用される培地である。これはほぼ全ての種類の培養に使用され、血清(10%)の添加を必要とする。
【0010】
− R.P.M.I.1640。これは、懸濁状態のリンパ芽球及び白血病細胞セルラインの増殖のために設計された培地である。適当な添加物を使用すると、これは幅広い用途がある。
【0011】
− ダルベッコ改良イーグル培地(DMEM)。これはEBMの4倍濃度のアミノ酸及びビタミンを含有する。これは、HAT(ヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン)又はHT(ヒポキサンチン−チミジン)を添加したハイブリドーマの選択に用いられる。
【0012】
− イスコーブ改良DMEM(IMDM)。これは、牛アルブミン、トランスフェリン及び元素の中でも特にセレナイトを含む処方を有する、極めて完全な培地である。これは無血清培地におけるリンパ球の培養に非常に有用である。これは他の細胞型にも使用されるが、この場合は低濃度の血清を必要とする。
【0013】
− マッコイ5a培地。ラット及びヒト両方の二倍体細胞セルラインの増殖用に設計された。
【0014】
− ライボビッツL−15培地。ウイルスの培養に使用される。
【0015】
− Ham F−10培地。これはヒトセルラインの増殖に用いられ、蛋白及びホルモンを添加せねばならない。これはFe、Cu及びZnといった金属を含有する。これは羊膜細胞の培養に用いられる。
【0016】
− Ham F−12培地。これは蛋白を添加してセルラインの増殖に用いられる。これはIMDMと組み合わせて無血清培地として使用できる。
【0017】
− 培地199。これは未分化細胞培養に、そして染色体疾患の研究のため、非常に幅広く使用される。
【0018】
全ての培地は以下の要素で構成される:
1.平衡塩類溶液(BSS)。
2.アミノ酸。
3.ビタミン。
4.その他の有機低分子量添加物(ヌクレオシド、クレブスサイクル中間体、ピルビン酸塩、脂質)。
5.ホルモン及び成長因子(血清)。
6.汚染物質増殖阻害剤(抗生物質及び抗真菌剤)。
【0019】
非合成培地において、血清は通常、ホルモン及び成長因子を供給する。使用される血清の種類は、仔牛血清(CF)、牛胎児血清(FCS)、ウマ血清(HS)及びヒト血清(HuS)である。最も広く用いられるのは仔牛血清であり、一方、牛胎児血清はより要求性の高いセルラインに、そしてヒト血清はヒトセルラインに使用される。
【0020】
血清の組成は部分的に判ってはいるものの、非常に多くの成分が可変的量で存在し、それらが培養に著しい影響を及ぼし得るため、血清の使用には問題がある。更に、血液を取得する技術の多様性、血清を取得する方法(血液凝固)及び血清を分離する条件、ならびに様々な血清供給源の間の相違のため、血清はバッチ毎に異なっている。そのうえ、血清バッチを変えるたびに、面倒でコストのかかる一連のチェックが必要である。更に、培地の生成物を精製しなければならない場合、血清中の可変的構成成分の存在は、これらの工程をはるかに困難にする。
【0021】
幾つかの血清因子、例えば血小板由来成長因子(PDGF)は線維芽細胞の増殖を刺激し、そのことは、特にそれらの含有量に多様性がある場合、特化された初代培養を樹立する際の問題となり得る。
【0022】
全体的に見ると、培地に血清が含まれている事は、実験プロトコルの標準化及び細胞産生にとって著しい難点である。それ故、細胞増殖のための既知組成培地を確立するために多大な努力が払われている。追求される再現性と共に、これが、求められている細胞型が増殖できる選択的培地の樹立を実現する。これらの培地の不利な点は、多くの場合において細胞増殖が低レベルであり、セルラインが生存し続ける世代数が少ないことである。
【0023】
現在使用されている血清によりもたらされる問題を回避する、細胞培地用添加物を創出するための様々な試みが行われている。これらの中でもヒト血漿由来の様々な画分が試験されているが、種々のヒト血漿画分の有用性に関する先行技術には著しい食い違いがある。
【0024】
一般に、コーン法及びその変法(Kistler and Friendli, Nischmann; in Curling, JM ed,Methods of plasma fractionation, Academic Press 1980)を用いる血漿分画に由来する種々のヒト血漿画分が試験されており(Cohn E.J. et al; J Am Chem Soc, 1946)、これらの試験は全て、該分画で得られる種々の沈殿、特にII+III、III、IV(IV1又はIV4)及びV画分、又は該分画法の様々な変法において得られるそれらの等価物の使用を目的とするものである。
【0025】
上に述べた画分(沈殿)を分離する際の最初の狙いは、特定蛋白の精製の出発点として、該蛋白、例えばII+III又はIII画分の場合はγ−グロブリンならびにα及びβ−グロブリン;IV画分の場合はα−グロブリン及びトランスフェリン、そしてV画分の場合はアルブミンに富む沈殿を取得することである。したがってこれらの画分は通常、単一型の蛋白を有し、他の蛋白は通常、遙かに少量の不純物として存在する。細胞培養にこれらの画分を使用するということは、主要な蛋白型及び不純物としてそれに付随する様々な蛋白を培地に添加することを含み、該物質の使用が成功すると思われる場合、その中に、培地中の細胞が必要とするものが存在しなければならない。今までのところ、これが細胞培地を補完する明白ではあるが非効率的な方法であった。分画法の僅かな変化は主要蛋白の収量には著しい影響を及ぼさないが、様々な付随蛋白の収量には多大な変動をもたらし得るため、間違いなくこれが、得られる結果における差異の原因である。例えば、コーン法を使用したII+III画分は、エタノール濃度20%〜25%、−5℃及びpH6.9で得られる。ニッチマン法を利用して同等の物質で開始すると、それはエタノール濃度19%、−5℃及びpH5.8で沈殿する。pHにおいてこの変化があると、異なる性質、特にγ−グロブリン及びその他の付随蛋白の含有量において異なる性質の画分が得られる。
【0026】
更に、沈殿した画分の使用と比較して、上清の使用は、培地中に高いアルブミン濃度が維持されること、及び特に、細胞増殖にとって重要であり、沈殿中には存在しないかも知れない、又は20%を超えるアルコール濃度(例えば或る条件でII+III画分を(25%)、又はIV1+IV4及びV画分を(40%エタノール)沈殿化させるのに利用されるようなアルコール濃度)の存在下では機能性を失うかも知れない成分(例えば、ホルモン、サイトカイン、脂質など)の喪失を回避すること、を包含する、さらなる利点を有する。
【0027】
文書EP0143648号(Macleod)は、培地用添加物として動物血清の代わりにII+III、III、IV1及びIV4画分を使用することを記載している。更にそれは、II画分及びV画分はこの適用に有用でないと述べている。あらゆる場合において、この文書は、コーン分画又はその変法で沈殿させた画分に限定して記載している。加えてこの文書は、培地への添加に好適な物質を上記の画分から取得する方法を開示している。この方法は、基本的に、沈殿を水に懸濁し、該沈殿をホモジナイズすることから成っている。次に、pHを調節して蛋白のより良好な溶解を達成し、細胞増殖のための生理的条件を創成する。更に、この方法は、ポリエチレングリコールを用いた沈殿化による、存在するγ−グロブリンの除去、及び分子排除クロマトグラフィーによる低分子量物質の分離をも考慮している。それ故、このようにして製造された物質の有効性は、個別的な製造法に大きく依存している。
【0028】
Macleodによる別の文書(Advances in Biochemical Engineering/Biotechnology, Vol.37; 1988)は、恐らくは増殖インヒビターが存在するためII、III及びIV画分には細胞増殖に及ぼす効果が殆ど又は全くないことを指摘し、培地に添加する理想的な物質としてIV4画分に注目している。
【0029】
EP0440509号(Macleod)は、コーンのIV画分又はII+III画分に基づく細胞培地用添加物及びそれを取得する方法を記載している。記載された方法を利用して、実質上免疫グロブリンを含まず、ウイルスが不活化されており、且つ安定な生成物が得られる。免疫グロブリンはポリエチレングリコールによる沈殿化によって分離され、ウイルスは、安定剤としてのソルビトールの存在下で低温殺菌法により不活化される。この方法は特にIV(IV1又はIV4)画分に適用可能である。
【0030】
文書EP0264748号(Antoniades)は、動物血清に代わる細胞培地用添加物としてのコーンV画分の上清について記載している。この文書によれば、この物質の利点は、費用がかからず、20時間60℃まで加熱できることである。
【0031】
V画分の上清はコーン分画の最終廃棄物であり、したがってその使用には明らかにこの分画の利益を損ねる経済的コストがかからない。この物質はエタノール含有量が高く(40%)、それは極めて毒性であり、この文書では述べていないがそれは除去されねばならない。更に、記載されている60℃での処理のために、存在する蛋白を安定化せねばならないと思われるが、この詳細もまたこの文書では省略されており、そのことがこの発明を記載通りに実施することを困難にしている。この場合のような高濃度のエタノールによる変性効果もまた軽視すべきではない。
【0032】
WO94/18310号(Mankarious)は、コーンIV4画分から細胞培地用添加物を生成する方法を記載している。この方法は、懸濁液及びその後のIV4画分の清澄化、更には低温殺菌及び/又は濾過によるウイルスの不活化又は除去を検討している。
【0033】
特許GB2166756A号は、インターフェロン産生のための脾臓細胞の培養方法を記載している。この方法は、フィブリノーゲンが取り除かれた血清又は血漿から得られた血清画分が添加され、プレアルブミン及びγ−グロブリンが除去されているという特徴を有する、RPMI培地に基づいている(1頁、30〜34行)。好ましい態様では、この画分を、pH5.85で10%〜20%のアルコールを用いて沈殿化することにより精製する(1頁、37〜38行)。特別な態様(EPF画分を取得する)では、培地として使用される上清を、エタノール濃度19%及びpH5.85で取得する(2頁、44〜45行)。エタノールを除去するため、得られた上清を透析し、次いで凍結乾燥して保存する。任意により事前に透析をせずに凍結乾燥してもよく、その結果、エタノールもまた除去される。発明者等によれば、前記画分を添加した培地(RPMI)を使用することにより、優れたインターフェロン産生が実現できる。血漿のアルコール沈殿化においては、特定の蛋白を溶液中に維持し、その他のものを不溶化するため、工程条件(エタノール濃度、pH、培地のイオン強度、温度及び蛋白濃度)を注意深く設定し、その結果それらが沈殿し分離され得るようにしなければならない。前記条件の1又はそれ以上における変化が、得られる生成物に著しい相違を産み、エタノール濃度及びpHは、得られる沈殿及び上清の組成を決定する因子である。
【0034】
文書WO2004/055174号、EP1820852号又はCA1177424号に示されるように、牛胎児血清に代えてヒト起源の血清又は血清画分を使用して細胞培地を補完する、別の試みがなされている。全血又は血漿から得られる血清は、明確に組成決定及び特性解明されている血漿画分とは比べものにならないほど劣っており、バッチ間の再現性に欠けるという欠点がある。加えて、これらの文書のうちいかなるものも、使用される材料の正確な組成を確定し特性解明することに成功していない。故に、動物起源の血清を使用することに伴う問題の大部分が発生し続けている。
【0035】
Kwok et al. は、特定の細胞型の培養のために、牛胎児血清に代えて妊娠女性由来の血漿を使用することを開示しており、その効果を未知因子の存在に起因するとしている。更にこの発明者は、この種の培養におけるヒトアルブミンの相乗効果を主張している。妊娠女性由来の血漿を使用することにより、胎児血清の成長因子に匹敵する細胞成長因子の存在が追求されていることは当業者には明らかであるが、下記のようにこの材料の均質性は、何千人ものドナーに由来する血漿混合物とは比べものにならない。
【0036】
上記のように、細胞培地添加物としての動物血清を代替するために数多くの試みがなされてきた。これらの試みのうち幾つかは、ヒト血漿画分、特にコーン法を用いた画分からなされた。にもかかわらず、現在のところ哺乳動物細胞の培地用添加物として動物血清が広く使用され続けており、また、それをヒト血漿の誘導体に置換する試みは失敗している。
【0037】
上記の全てのことから、細胞培地の補完に使用でき、更に、病原体感染の点において安全であり、容認可能なコスト及び利益の工業スケールで取得でき、バッチ間に充分な均一性があり、そして医薬品等級の品質を有するヒト起源の材料を取得することは、先行技術においてはできないと推定される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0038】
本発明者等は、培地添加物としての動物起源血清をヒト血漿画分に置き換えることを目的とする研究を行い、驚くべきことに、コーン分画上清、特にII+III画分の上清又はI画分の上清から出発して、細胞培地を補完し細胞増殖に関して優れた結果を得ることが可能であることを見出した。この物質はヒト起源であり、医薬品適正製造基準(GMP)を使用し容認可能なコスト及び利益を伴って工業的に取得でき、バッチ間で充分な均一性及び再現性を示し、そして医薬品等級の品質を有することから、この物質の使用が上に述べた問題を解決する。更に、この物質は病原体への感染を回避する方法で処理できる。
【0039】
これらの誘導体を製造する方法を下に述べる。
【0040】
まず、健康なドナー由来のヒト血漿を取得し、ここに、本発明の好ましい使用では、この血漿が凝固しないことを保証する充分量のクエン酸ナトリウムのみを含有する抗凝固剤溶液を加える。血液細胞の保存を改善するための物質(例えばグルコースのような炭水化物)の添加は必須でない。何故なら本発明で使用される血漿は、全血献血ではなく抗凝固剤の存在下で血漿交換により取得することが可能であることから、実質上無細胞であるためである。
【0041】
抗凝固剤の量、ならびにヒト血漿の取得、保存及び取り扱い方法が満たさねばならないその他の基準は、ヒト血漿分画工業に影響を与える公的に入手可能な国際基準、例えば米国連邦規則集、米国食品医薬品局(FDA)及び欧州医薬品審査庁(EMEA)の命令及び基準、ならびに医薬品規制調和国際会議(ICH)及び国際薬局方、例えば欧州、日本国又は米国薬局方の命令及び基準、そして更には現行の医薬品適正製造基準(cGMP)として知られる基準に記載されている。以降の本明細書において、これら全ての基準を、「薬学目的のためのヒト血漿分画に影響を与える一連の基準」と称する。この一連の基準は、下に述べる本発明の段階にも適用される。
【0042】
ヒト血漿が得られたならば、薬学目的のためのヒト血漿分画に影響を与える一連の基準に従って、そして、本発明の好ましい使用では、特に欧州薬局方モノグラフ0853の要件に従って、凍結し、保存し、そして輸送する。各々の血漿単位(献血)を分析して、ドナーにおけるウイルス感染マーカーの存在を排除するが、それらドナーには、前もって上記基準に従い質問票及び身体検査を課しておく。本発明の好ましい適用では、潜在的ドナーの血漿は、6ヶ月以内に2回の評価プロセスを受けるまでは使用されず、その時点で該ドナーが「適格ドナー」となる。
【0043】
本発明の好ましい適用では、各々の献血から得られた試料を分析して、例えばヒト免疫不全ウイルス(HIV)、B型及びC型肝炎ウイルス(HBV及びHCV)ならびにヒトに対して病原性のその他のウイルスのような感染症に対するマーカーの存在を排除する。少なくとも60日間、好ましくは少なくとも90日間の、管理下にある血漿献血の保存が本発明の一部であり、そのことにより、過去に健康であったドナーが献血後に病原体への感染又はその他の健康リスクファクターの徴候を示した場合、過去の献血を回収することができる。本発明の好ましい適用では、例えば10〜10000、好ましくは90〜2000、より好ましくは100〜1000といったように変動し得る可変的な数の献血から試験的混合物(ミニプール又は試験的プール)を作製した後、各ドナー由来の試料の分析を1回又はそれ以上反復する。ウイルスの遺伝子材料を増幅する方法、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)又は核酸試験(NAT)として知られる方法の中に一般的に包含されるその他の方法をこのような反復分析に利用できる。
【0044】
全ての分析及び管理保存期間(在庫保有)が終了し、その分析により不適当であると判明した単位を除外した後、血漿を本発明の後段階に使用できる。
【0045】
次の段階は、少なくとも100単位、好ましくは1000単位以上、より好ましくは4000単位以上の数の献血を解凍することから成る。本発明の好ましい適用では、解凍を0℃〜4℃の温度で実施できる。解凍工程の間に献血を混合し、血漿混合物(血漿プール)を作製する。解凍工程のために不安定であることから、任意により、沈殿した物質を分離してもよい。それは通常クリオプレシピテートと表現され、フォン・ビルブランド因子(FVW)、第VIII因子(FVIII)、フィブリノーゲン(FBN)、フィブロネクチン(FNC)及びその他の蛋白に富む。
【0046】
次に、本発明の好ましい使用では、96%医薬品等級エタノールを最大濃度およそ8%(容量/容量)まで血漿に加える。エタノールが血漿に溶解する発熱過程により蛋白が絶対に変性しないようにするため、容量を制御しながら添加する。同時に、そして同じ目的で、血漿プールの温度を徐々に下げ、およそ−2℃とする。エタノールの存在は、この血漿が凍結しないことを確実にする。これらの条件において蛋白画分が沈殿するが、それは極めてフィブリノーゲンに富み、そして、本発明の適用においてアルコール添加前に前記クリオプレシピテートが分離されていない場合には、クリオプレシピテート中に存在する蛋白の大部分が蛋白画分に含まれている。この画分は、基本的にEdwin J. Cohnの記載したプロセス(Cohn E.J. et al; J Am Chem Soc, 1946)に相当するプロセスにより取得されるため、一般的にコーン画分I(Fr−I)として知られる。この段階で得られた沈殿を分離すると、上清画分が実質的にフィブリノーゲンを含まないことが見出され、したがって細胞培養においてフィブリノーゲンが引き起こし得る妨害が存在しない。アルコールには細胞毒性があるため、添加されたアルコールがいったん除去されてしまったならば、この上清画分は、細胞培地用添加物として本発明の目的にとって好適である。
【0047】
本発明の好ましい適用では、前記の2種類の沈殿(クリオプレシピテート及びFr−I)のいずれかを分離又はいずれをも分離しなかった後に、現存する混合物に96%医薬品等級エタノールを20%〜25%(容量/容量)濃度まで加える。エタノールが血漿に溶解する発熱過程に起因する蛋白変性を回避するため、この添加は容量を制御しながら行う。同時に、そして同じ目的で、血漿プールの温度を徐々に下げ、およそ−5℃とする。エタノールの存在は、この血漿が凍結しないことを確実にする。これらの条件において蛋白画分が沈殿するが、それは、クリオプレシピテート中及びFr−I中に存在すると先に記載した蛋白に極めて富み(前記のように、もしそれがまだ分離されてしまっていなかった場合)、更に免疫グロブリン、主としてIgG及びIgMもまた豊富である。この画分は一般に、コーンFr−I画分が前もって分離されていなかった場合にはI+II+III画分(Fr−I+II+III)、コーンFr−Iが前もって分離されている場合にはII+III画分(Fr−II+III)と呼ばれている。この段階で得られた沈殿を分離すると、上清画分が実質的にフィブリノーゲン及び免疫グロブリンを含まないことが見出され、したがって細胞培養においてこれらの蛋白が引き起こし得る妨害が存在しない。アルコールには細胞毒性があるため添加されたアルコールがいったん除去されてしまったならば、この上清画分は、細胞培地用添加物として本発明の目的にとって好適である。
【0048】
上記の段階の最中には、そのプロセスが、蛋白濃度、pH、微生物数などについての必要な規格に従って実施されることを確実にするため、血漿由来物質を生成するこのプロセスへの管理を行う。
【0049】
これらの上清は、基本的にEdwin J. Cohnの記載した方法に相当する方法によって取得できるが、生産規模(献血の数及び血漿プールの容量)の変化、ならびに本発明方法及びその時採用された方法の間の違いのために、組成に相違があるかも知れない。
【0050】
ヒト血漿の工業的分画(コーン法に基づく)から直接得られるこのような上清は、含まれているエタノール(I画分の上清におよそ8%、そしてII+III画分の上清にはおよそ20%〜25%)の除去を別にすれば、その後の精製処理を必要としない。
【0051】
これらの上清に含まれるエタノールは、先行技術において知られる任意の方法によって除去できる。好ましくはそれは、透析もしくはダイアフィルトレーションによって、又は凍結乾燥、蒸発もしくは乾燥(例えば噴霧乾燥)によって直接的に実施し、このような方法は工業化が容易である。
【0052】
充分に安定な生成物を取得するための有効な製造法は、記載した上清のうち任意のものから出発し、任意により、pH7〜8、温度2〜8℃の注射用水、生理食塩水又は緩衝液で適宜希釈することで構成される。この溶液を、蛋白吸着に関して不活性なセルロースプレート又はディーププレートを通して清澄化し、最後におよそ0.5ミクロンの孔径に対して清澄化する。次いで、公称分子カットオフおよそ10kDaの膜を使用し、2容量又はそれ以上の注射用水、生理食塩水又は緩衝液に対して、好ましいpHおよそ7で生成物を透析する。好ましくはダイアフィルトレーション交換容量の数はおよそ5である。
【0053】
ダイアフィルトレートした溶液を、0.2〜0.1ミクロン孔径のフィルター勾配による絶対濾過により清澄化する。次に、好ましくは2〜8℃の温度及び1bar以下の膜間差圧で、孔径およそ35nm〜20nmで生成物をナノ濾過することができる。かける負荷は、小孔径フィルターについては好ましくは約70リットル/m2(面積)である。
【0054】
得られた生成物を、出発物質(上清)と同じ総蛋白濃度値まで限外濾過で濃縮でき、あるいは所望により更に濃縮できる。
【0055】
いずれの場合においても、得られた物質をガラスバイアル又は瓶に量り込み、好ましくは−30℃又はより低温で、使用時まで保存する。バイアル中への上清の量り込みに先立つ工程において、0.1〜0.2ミクロンの孔径で滅菌濾過を実施できる。
【0056】
凍結生成物を更に凍結乾燥又はその他の処理に付して、乾燥生成物を得ることができる。次いでこの生成物をγ線照射し、好ましくは2〜8℃で、使用時まで乾燥状態に維持できる。
【0057】
出発物質(S/Fr−I又はS/Fr−II+III、又は同等物質)にダイアフィルトレーションを行わず、凍結乾燥によるアルコールの直接的除去を選択する場合には、それをガラスバイアル又は瓶に量り込む。上清をバイアルに量り込む前に、孔径0.1〜0.2ミクロンの滅菌濾過操作を実施できる。秤量した物質を、好ましくは−30℃以下の温度で凍結し、既知技術を用いて凍結乾燥及びγ線照射する。
【0058】
任意により、この物質を、病原体の除去/不活性化のための方法で処理してもよい。好ましくは、凍結又は凍結乾燥したこの物質を、15〜35キログレイでγ線照射するが、組成物の安定性とウイルス除去の間の最適条件は25キログレイで得られる。
【0059】
凍結乾燥生成物は、好ましくは2〜8℃で長期保存ができる。
【0060】
細胞増殖に関して、Fr−II+IIIの上清は、フリーザー(2〜8℃)中に保存すると凍結乾燥形態で少なくとも168日間安定に保たれる(FCSに等しい(100±20)%又はより高い増殖パーセンテージ)。
【0061】
Ham F12培地中で再構成されたこの物質は、−18℃以下の温度で少なくとも113日間安定である(時刻0に等しい又はより高い細胞増殖パーセンテージ)。
【0062】
50%のS/Fr−II+IIIを添加したHam F12培地の安定性はフリーザー中で4日間である。
【0063】
使用時までこの物質を保存する好ましい方法は、最終包装状態で凍結乾燥物として保存することである。このようにして、それは直接投与量に秤量することができ、エタノールを実際の凍結乾燥プロセスで取り除くことができる。
【0064】
これらの上清を、無機塩類、アミノ酸及びビタミンその他細胞増殖に必要な成分を含有する常套的無血清培地、例えばHam F12培地又はダルベッコ改良培地(DMEM)に添加する。
【0065】
得られた培地は多岐にわたる哺乳動物細胞の培養に使用できる。この目的のため、当業者の知悉する常套的技術及び培養条件を使用する。
【0066】
凍結乾燥した上清は、基本培地、例えばHam F12培地又はダルベッコ改良最小必須培地(DMEM)に、又は蒸留水もしくは脱イオン化した非発熱性水に、又は生理食塩水もしくは細胞培養に一般的な緩衝液中に再構成できる。
【0067】
培地中に再構成した上清を、再構成上清を2%〜50%(v/v)添加することにより基本培地の補完に使用できる。例えば、培地中に再構成した画分Iの上清又は画分II+IIIの上清2mlを、基本培地98mlと共に使用する(2%)。別の例は、培地中に再構成された画分Iの上清又はII+IIIの上清50mlを、基本培地50mlに添加することである(50%)。
【0068】
水、生理食塩水又は細胞培養に好適な緩衝液中に再構成したこの上清を、基本培地に2%〜20%(v/v)、例えば培地80ml中、再構成された上清20ml(20%)を加えることが推奨される。濃度50%(v/v)が求められる場合は、再構成された上清を、二倍に濃縮した基本培地(2X)に添加、例えば、水に入れた画分Iの上清又は画分II+IIIの上清50mlを2X基本培地50mlに添加せねばならないであろう。
【0069】
添加培地は通常の培養技術のために使用でき、この添加培地は直接使用、又は事前に0.22μmで濾過することができる。
【0070】
保存された凍結材料(上清)は、基本培地への添加に先立ち解凍せねばならない。いったん解凍したならば、それを2%〜20%(v/v)で基本培地に添加、例えば画分II+IIIの上清20mlを培地80ml中に再構成することが推奨される(20%)。濃度50%(v/v)が求められる場合は、培地に添加する際、画分I又は画分II+IIIの上清を、二倍濃度で(2X)、例えば画分II+IIIの上清50mlを2X基本培地50mlに添加せねばならないであろう。
【0071】
添加培地は通常の培養技術のために使用でき、この添加培地は直接又は0.22μmで濾過後に使用することができる。
【実施例1】
【0072】
画分I及びII+IIIの上清の製造
血漿交換により生産した個々の血漿献血を混合及び解凍するが、解凍は0℃〜4℃に温度制御された反応機中で実施する。最終的に3783kgの血漿が得られる。
【0073】
クリオプレシピテートを分離するため、0℃〜4℃に遠心温度を維持しながら血漿を9000〜12000xgで遠心分離する。
【0074】
画分Iを分離するため、およそ5%であるべきクリオプレシピテート上清(C/S)の蛋白濃度を確認する。もし高いようならば注射用水で希釈する。pHもまたほぼ7に調節する。
【0075】
C/Sから出発して、エタノールを濃度8%(容量/容量)まで添加する。変性を回避するため、穏やかに撹拌しつつ、エタノールを添加する速度は遅くなければならない(2kg/分以下)。エタノール添加中に、最終温度が−2℃に到達するまで、沈殿反応機中の上清の温度を徐々に下げる。最終pHはおよそ7としなければならない。
【0076】
約2時間反応させた後、遠心分離を行って画分Iを分離する。この遠心分離は9000〜12000xgで行う。得られた上清(S/Fr−I)の温度を0℃〜−4℃に維持する。
【0077】
この時点で、又はC/Sにおいて、任意によりプロトロンビン複合体をイオン交換クロマトグラフィーで抽出してもよい(Curling, JM ed; 「血漿分画の方法」 Academic Press 1980)。
【0078】
画分II+IIIを分離するため、S/Fr−IのpHをおよそ7に調節し、次いでエタノールをおよそ20%(容量/容量)となるまで加える。変性を回避するため、穏やかに撹拌しつつ、エタノールを添加する速度は遅くなければならない(2kg/分以下)。エタノール添加中に沈殿反応機中の上清の温度を徐々に下げ、最終温度をおよそ−5℃とする。最終pHは約7とすべきである。
【0079】
本実施例において、およそ6時間の反応時間の後に画分II+IIIが分離される。
【0080】
この時点(画分II+IIIの上清)において、又はC/Sにおいて、又はS/FrIにおいて、任意により抗トロンビンをヘパリン親和クロマトグラフィーで抽出してもよい(Fernandez J. et al., Sangre 41(supl.3) 42(1996))。
【実施例2】
【0081】
用量測定及び凍結乾燥
実施例1に従って得られた画分II+IIIの上清を、pH7〜8、温度2℃〜8℃まで注射用水で希釈し、エタノール濃度8%を達成する。この溶液を、最大0.5ミクロン孔径のセルロースプレートを通して清澄化する。次に、任意により、公称分子カットオフ10kDaのポリスルホン膜を使用しpH7の注射用水の存在下で生成物をダイアフィルトレーションしてエタノールを除去してもよい。ダイアフィルトレーション中の交換容量数は5である。
【0082】
この溶液を、0.2ミクロン〜0.1ミクロン孔径のフィルター勾配による絶対濾過によって清澄化する。次に、任意により生成物を、銅アンモニウムセルロースフィルターを使用し、温度2℃〜8℃、膜間差圧1bar未満で、最大限フィルターが詰まるまで、35nm及び20nmの孔径でナノ濾過してもよい。
【0083】
生成物を、出発物質と同じ総蛋白濃度になるまで限外濾過で濃縮し、孔径0.2ミクロンで滅菌濾過した後、ガラスバイアル中に量り込み、使用時まで−30℃で保存する。
【0084】
凍結した生成物を凍結乾燥して乾燥生成物を得、これをγ線照射し、使用時まで2℃〜8℃で保存することができる。
【実施例3】
【0085】
実施例2に従って得られた異なるバッチの物質(H2O中に再構成した凍結乾燥上清)の大部分の組成を牛胎児血清の組成と比較し、下の表に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

【実施例4】
【0089】
画分Iの上清を添加した培地によるCHOセルラインの細胞増殖試験。
CHOセルラインは、上皮形態を有し、付着して増殖するチャイニーズハムスター卵巣細胞で構成される。使用された培養は、欧州細胞培養コレクション(ECACC)、カタログ番号85050302に由来するものである。
【0090】
画分Iの上清を前記のようにHam F12培地で再構成する。
【0091】
異なる濃度(容量/容量)の画分Iを、培地(20%;40%;60%;80%及び100%)ならびに20%(v/v)牛胎児血清(FCS)添加培地及び非添加培地で培養する。
【0092】
非添加培地に入れた5x105〜1x106細胞/ml濃度のCHO細胞懸濁液を、96ウェルプレートにウェルあたり50μl撒く。
【0093】
ウェルあたり50μlの被験培地をプレートの各カラムに加え、最終希釈が、非添加培地、10%FCSならびに10%、20%、30%、40%及び50%の画分Iの上清を添加した培地となるようにする。
【0094】
この96ウェルプレートを、37℃、8%CO2雰囲気、及び高い相対湿度(細胞培養インキュベーター)で48時間インキュベートする。
【0095】
比較試料として非添加培地100μlをカラムに加える。
【0096】
48時間インキュベートした後、市販のMillipore細胞増殖アッセイキット(カタログ番号2210)由来のWST−1/ECS試薬10μlを各ウェルに加える。
【0097】
このセルラインのための通常の培養条件(37℃;8%CO2)で2〜4時間インキュベートした後、プレートを1分間振盪し、マイクロプレートリーダーで波長420〜480nmの吸光度を測定する。リファレンス波長の読みは600nmより大きい(プレートは通常Tecan SUNRISEリーダーにおいて波長450nm及びリファレンス波長620nmで読み取り、装置をチェックするための読み取り及びデータ解析のため、MagellanソフトウェアV6.3を使用する)。
【0098】
比較試料プラスその標準偏差の二倍高い吸光度値を、この方法について陽性であると考える。
【0099】
次の工程では、比較試料の平均値をそのプレート中の残余ウェルから差し引く。
【0100】
各カラムのウェルの平均値を算出し(この方法のための比較試料を差し引いたうえで)、この各カラムの平均値を、非添加培地、及びFCSもしくは異なる濃度の画分Iの上清を添加した培地それぞれについての平均値と照合する。
【0101】
非添加培地中の細胞は増殖しない(0%)と考え、よってこのカラムの平均吸光度値を、全カラムの全平均値から差し引く。
【0102】
リファレンス培地(FCS10%を添加したHam F12培地)の吸光度値を100%増殖値とみなし、よって、非添加培地の値を差し引いた後、前の点から得た全ての平均値をこの値で除し、リファレンス培地と比較した増殖パーセンテージを得る。
【0103】
原則として、20%〜50%の画分Iの上清を添加した培地を使用すると、得られる増殖パーセンテージは、リファレンス培地(10%牛胎児血清を伴う培地)と同程度であるか、又は遙かに高い(50%の画分Iの上清を伴う培地)。
【0104】
増殖結果をパーセンテージとして下に示す。
【0105】
FCS又はS/FrIを添加したHam F12培地におけるCHO細胞増殖(%)。
【表4】

【実施例5】
【0106】
画分II+IIIの上清を添加した培地によるCHOセルラインの細胞増殖試験。
【0107】
行われた試験は前記の試験と同じであるが、画分Iの上清ではなく画分II+IIIの上清を培地に添加した。
【0108】
増殖結果に関して、培地の補完に20%の画分II+IIIの上清を使用すると、結果はリファレンス培地(10%FCS添加)で得られる結果と同等であり、また、50%の画分II+IIIの上清を添加した培地を使用した場合は、増殖結果はリファレンス培地で得られる結果より大きい。
【0109】
増殖結果をパーセンテージとして下に示す。
【0110】
FCS及びS/Fr−II+IIIを添加したHam F12培地におけるCHO細胞増殖(%)(n=4)。
【表5】

【実施例6】
【0111】
γ線照射した画分II+IIIの上清を添加した培地によるCHOセルラインの細胞増殖試験。
【0112】
行われた試験は前記の試験と同じであるが、25及び35kGy(キログレイ)線量でγ線照射した画分II+IIIの上清を培地に添加した。
【0113】
増殖結果に関して、照射をしなかった画分II+IIIの上清で得られた結果及び25及び35kGyで照射した結果の間に有意な差異は認められない。
【0114】
増殖結果をパーセンテージとして下に示す。
【0115】
FCS、S/Fr−II+III又はγ線照射されたS/Fr−II+IIIを添加したHam F12培地におけるCHO細胞増殖(%)。
【表6】

【実施例7】
【0116】
γ線照射した画分II+IIIの上清(25kGy)を添加した培地によるVeroセルラインの細胞増殖試験。
【0117】
行われた試験は実施例1の試験と同じであるが、基本培地としてダルベッコ改良最小必須培地(DMEM)を、そしてCHOセルラインの代わりにVeroセルラインを使用した。
【0118】
Veroセルラインはアフリカミドリザルの腎細胞より成り、この細胞の形態は線維芽細胞に類似し(線維芽細胞様)付着増殖性を有する。使用された培養は、欧州細胞培養コレクション(ECACC)、カタログ番号84113001に由来するものである。
【0119】
得られた増殖結果は、γ線照射した画分II+IIIの上清を30%以上添加すると、リファレンス培地で得られる結果に極めて類似した又はより大きな結果を示す。γ線照射した画分II+IIIの上清を20%添加した培地は、リファレンス培地(10%FCSを添加した基本培地)に極めて類似した結果を与える。
【0120】
増殖結果をパーセンテージとして下に示す。
【0121】
FCS又はγ線照射されたS/Fr−II+IIIを添加したDMEM培地におけるVero細胞の増殖(%)(n=8)。
【表7】

【実施例8】
【0122】
画分II+IIIの上清(25kGy)を50%添加したHam F12培地によるCHOセルラインの継代培養。
【0123】
ほぼコンフルエンスに近いCHO細胞培養を入れた瓶を使用する。
【0124】
この培養をデカンテーションする。
【0125】
細胞単層を、20℃〜37℃の温度で、25cm2あたりおよそ10mlの燐酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて洗浄し、デカンテーションする。
【0126】
トリプシン0.05%/EDTA0.02%を含有する溶液を、培養表面25cm2あたり2ml加える(このトリプシンは組換え又は動物起源のものであってよい)。この溶液を表面全体に広げて薄い膜を形成するようにし、過剰の溶液をデカンテーションする。
【0127】
この瓶を、細胞が表面から分離するまで20℃〜37℃の温度に維持する。
【0128】
画分II+IIIの上清(25kGy)を50%添加したHam F12培地を、1培養瓶あたり5ml〜15ml加える。
【0129】
瓶の振盪又はピペッティングによって細胞を分離し、その細胞を計数する。
【0130】
それらを、1:3〜1:10の比率に分配して新たな培養瓶に分注する。
【0131】
新たな培養瓶中の、画分II+IIIの上清(25kGy)を50%添加したHam F12培地の総容量は、0.2〜0.3ml/cm2(培地表面)とならねばならない。
【0132】
この瓶を、高い相対湿度及び使用培地に適したCO2濃度(この場合8%)を有する37℃の細胞培養インキュベーター中でインキュベートする。
【0133】
培地は1〜3日毎に交換しなければならない。
【0134】
50%のS/Fr−II+III(25kGy)を添加した培地を使用する様々な継代の後も、この培養が生存し続け且つ増殖能を持つことが観察された。
【0135】
生存能力、集団倍加時間(PDT)及び75cm2表面上の総細胞数を、連続する16の継代について監視し、平均生存能力92.79%、平均PDT73.8時間、及び平均総細胞数4.34x106細胞/75cm2という結果を得た。連続9継代の間にリファレンス培地を使用して得られた結果は、平均生存能力97.81%、平均PDT27.49時間、及び平均総細胞数1.28x107細胞/75cm2であった。
【0136】
第二の実験では、50%、20%及び10%のS/Fr−II+IIIを用いて培養するCHOにおいて、3〜7継代の間に同じパラメータを監視した。50%のS/Fr−II+IIIを添加した培地で培養した細胞について、PDT103.22、生存能力90.21%及び6.14x106細胞/75cm2であった。20%のS/Fr−II+IIIを添加した培地で培養した細胞については、PDT70.45、生存能力94.89%及び7.72x106細胞/75cm2であった。10%のS/Fr−II+IIIを添加した培地で培養した細胞については、PDT83.04、生存能力91.07%及び5.87x106細胞/75cm2であった。
【実施例9】
【0137】
画分II+IIIの上清(25kGy)を20%添加したHam F12培地によるCHOセルラインの継代培養。
【0138】
50%ではなく20%の画分II+IIIの上清(25kGy)を添加したHam F12培地を使用する以外は前実施例と同じ方法で継代培養を行う。
【0139】
20%のS/Fr−II+III(25kGy)を添加した培地を使用する様々な継代の後も、この培養が生存し続け且つ増殖能を持つことが観察された。
【0140】
この場合、生存能力、PDT及び75cm2中の総細胞数を連続6継代の間監視したところ、平均生存能力97.13%、平均PDT86.32時間、及び平均総細胞数5.96x106細胞/75cm2であった。
【実施例10】
【0141】
10%牛胎児血清を添加した培地と比較した、Ham F12中で再構成したFr−II+IIIの上清を50%添加したCHO細胞の増殖パーセンテージとして測定された、Fr−II+III上清の安定性。
【0142】
【表8】

【0143】
Fr−II+IIIの上清は、フリーザー(2℃〜8℃)に保存された凍結乾燥形態において少なくとも168日間安定性を維持する((100±20)%に等しい又はFCSを上回る増殖パーセンテージ)。
【0144】
【表9】

【0145】
Ham F12培地中で再構成されたこの物質は、−18℃又はそれを下回る温度において少なくとも113日間安定である(細胞増殖パーセンテージが時刻0に等しいか又はより高い)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物細胞培養のための基本培地中の通常の栄養素に加えて、コーン法を用いたヒト血漿分画の1段階に由来する上清を含んでなる、哺乳動物細胞の培養のための培地。
【請求項2】
上清がコーン法の画分Iの上清である、請求項1に記載の培地。
【請求項3】
上清がコーン法の画分II+IIIの上清である、請求項1に記載の培地。
【請求項4】
コーン画分の上清が少なくとも1000名のヒトドナー由来の混合物(プール)から得られる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の培地。
【請求項5】
コーン画分の上清が乾燥されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の培地。
【請求項6】
コーン画分の上清が凍結されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の培地。
【請求項7】
コーン法によるヒト血漿分画の1工程の該上清の製造が、
− エタノールによる沈殿化、
− 上清の分離、
− 凍結又は乾燥、
の工程、及び、任意により、
− 希釈及び/又は、
− 透析もしくはダイアフィルトレーション及び/又は、
− 病原体の除去、
という工程を含んでなり、且つ、このようにして製造された上清をその後基本培地に添加することを含んでなる、請求項1〜6に記載の哺乳動物細胞培地の製造方法。
【請求項8】
乾燥した上清を、基本培地に、蒸留水もしくは脱イオン化及び非発熱性水に、又は生理食塩水もしくは細胞培養で一般的に使用される緩衝液中に再構成する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
乾燥した上清を基本培地に再構成する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
ヒト血漿が少なくとも1000名のヒトドナー由来の混合物(プール)から得られることを特徴とする、請求項7〜9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜6に記載のコーン法の段階の幾つかに由来する上清を含んでなる培地の、哺乳動物細胞の培養への使用。
【請求項12】
該上清がコーン法の画分Iの上清である、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
該上清がコーン法の画分II+IIIの上清である、請求項7に記載の方法。