説明

ゴムローラの製造方法

【課題】高品質な導電性ローラを安定して低コストで製造できる導電性ローラの製造方法を提供すること。
【解決手段】芯金と、表面に硬度の異なる領域をパターン状に有する導電性加硫ゴム層とを有する導電性ゴムローラの製造方法であって、
芯金の周囲に形成した導電性加硫ゴム層の周面に、電子線の透過率の異なる部分がパターン状に配置されてなるマスク部材を介して電子線を照射し、該導電性加硫ゴム層の表面に電子線の照射強度の差に由来する硬度の異なる領域を形成する工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真プロセスを利用した画像形成装置に用いる導電性のゴムローラの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真プロセスを用いた画像形成装置において帯電ローラ等に使用される、芯金の周囲に導電性加硫ゴム層を有する導電性ゴムローラが有する課題として、苛酷な環境(40℃/90%RH)に置かれたときに、導電性加硫ゴム層から低分子量の成分が染み出してくる、所謂ブリードがある。ゴムローラの表面にブリードした低分子量成分が、感光体ドラムの表面に移行した場合、感光体ドラム周面の均一な帯電を妨げ、高品位な電子写真画像の形成に影響を与えることがある。かかる課題に対して、特許文献3は、ゴムローラの周面に電子線を照射して導電性加硫ゴム層の表面に固化層を形成する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−292640号公報
【特許文献2】特開平8−283578号公報
【特許文献3】特開平9−160355号公報
【特許文献4】特開2002−3651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、表面に電子線を照射して固化層を形成してなる導電性加硫ゴム層を有するゴムローラは、表面硬度が上昇してしまうことがあった。その結果、導電性ゴムローラの長期の使用に伴って、表面においてトナーや外添剤等の固着物の層が形成されていき、高品位な電子写真画像の形成に良くない影響を与えることがあった。
そこで、本発明の目的は、導電性加硫ゴム層の硬度上昇を抑えつつ、導電性加硫ゴム層中の低分子量成分が導電性ゴムローラの表面への染み出しを抑制することのできる導電性ローラの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る導電性ローラの製造方法は、芯金と、表面に硬度の異なる領域をパターン状に有する導電性加硫ゴム層とを有する導電性ローラの製造方法であって、
芯金の周囲に形成した導電性加硫ゴム層の周面に、電子線の透過率の異なる部分がパターン状に配置されてなるマスク部材を介して電子線を照射し、該導電性加硫ゴム層の表面に電子線の照射強度の差に由来する硬度の異なる領域を形成する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、トナー等の導電性ローラの表面への付着、および、低分子量化合物等の表面への染み出しを抑制した導電性ローラを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】押出機の模式図である。
【図2】電子線照射装置の一例を示す模式図である。
【図3】電子線照射装置の回転、搬送機構の概略を示す模式図である。
【図4】電子線照射装置の一例を示す模式図である。
【図5】マスク部材の一例を表す模式図(スリット形状)である。
【図6】マスク部材の一例を表す模式図(凹凸形状)である。
【図7】マスク部材の一例を表す模式図(円孔形状)である。
【図8】マスク部材の一例を表す模式図(メッシュ形状)である。
【図9】本発明に係る帯電ゴムローラ断面と、表面の硬度分布の示す模式図である。
【図10】画像形成装置の概略を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の導電性ローラ(帯電ローラ)の実施形態について詳細に説明する。まず、導電性ローラとしては芯金上に導電性弾性層が設けられた構成を有する。その導電性ローラの成形方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、円筒金型に同心に軸状の芯金を保持する2つの円筒駒を組み、ゴム材料を注入後加熱することにより材料を硬化させて導電性ローラを成形する射出成形が挙げられる。また、例えば、ゴム材料をチューブ状に押出した後、芯金にチューブ状のゴム材料を被せる、或いは芯金とゴム材料を一体に押出して円筒状の導電性ローラを成形する押出成形、トランスファー成形、プレス成形等が挙げられる。製造時間の短縮を考えるとゴム材料を芯金と一体に押出して導電性ローラを成形する押出成形が好ましい。
【0009】
ここで、図1には押出機の模式図を示す。押出機1はクロスヘッド2を備える。クロスヘッドは芯金送りローラ3によって送られた芯金4を後ろから挿入でき、芯金と同時に円筒状のゴム材料を一体に押出すことができる。ゴム材料を芯金の周囲に円筒状に成形した後に、端部を切断・除去処理5を行い、導電性ローラ6を得る。上記の芯金として使用する材質は、ニッケルメッキしたSUM材等の鋼材を含むステンレススチール棒、リン青銅棒、アルミニウム棒、耐熱樹脂棒が好ましい。
【0010】
また、芯金上に設けられたゴム層は導電性の弾性層である。ゴム材料としては天然ゴム、ブタジエンゴム、ヒドリンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッソゴム、塩素ゴム等が挙げられる。また、ゴム層中に分散させる導電粉としてはカーボンブラックや金属粉が挙げられる。
【0011】
導電性ローラの加熱方法に関しては、熱風炉、加硫缶、熱盤、遠・近赤外線、誘導加熱等のいずれの方法でも良く、更に加熱状態の円筒状または平面状の部材に回転させながら押し当てる方法を用いても良い。
【0012】
次に、本発明に用いることのできる電子線照射装置の概略構成図を図2に示して詳細に説明する。図2は、本発明に用いることのできる電子線照射装置の例の概略構成図である。また、図2に示す装置は、導電性ローラを回転させながらローラ表面に電子線を照射する機構を有する。図2に示すように、電子線照射装置は電子線発生部7と電子線照射室8と電子線照射口9とを備えている。電子線照射口には照射口箔13が設けられている。
【0013】
電子線発生部は、電子線を発生するターミナル10と、ターミナルで発生した電子線を真空空間(加速空間)で加速する加速管11とを有するものである。また電子線発生部の内部は、電子が気体分子と衝突してエネルギーを失うことを防ぐため、真空ポンプ等により10-6〜10-7Torrの真空に保たれている。
【0014】
電源によりフィラメント12に電流を通じて加熱するとフィラメントは熱電子を放出し、この熱電子のうち、ターミナルを通過したものだけが電子線として有効に取り出される。そして、電子線の加速電圧により加速管内の加速空間で加速された後、照射口箔13を突き抜け、照射口の下方の照射室内を搬送されるローラに照射される。
【0015】
ローラに電子線を照射する場合、照射室の内部雰囲気は特に限定しないが、一般的には窒素雰囲気又は空気雰囲気である。また、ローラは後述する機構で回転させながら、照射室内を搬送手段により、図2において左側から右側に移動する。ローラの搬送方法としては、順送りでもピッチ送りでもよいが、連続的に電子線を照射させることを考慮すると順送りの方が好ましい。ローラの回転数としては、電子線の照射時間にもよるが、照射時間が短いことを考慮すると100〜3000rpmが好ましい。尚、電子線発生部及び照射室の周囲は電子線照射時に二次的に発生するX線が外部へ漏出しないような材料で遮蔽されている。一般的には鉛で遮蔽されている。
【0016】
照射口箔は金属箔からなり、電子線発生部内の真空雰囲気と照射室内の空気雰囲気とを仕切るものであり、また照射口箔を介して照射室内に電子線を取り出すものである。ローラの照射に電子線を応用する場合においては、ローラに電子線を照射する照射室の内部は窒素雰囲気又は空気雰囲気である。したがって、電子線発生部と照射室との境界に設ける照射口箔としては、ピンホールがなく、電子線発生部内の真空雰囲気を十分維持できる機械的強度があり、しかも、電子線が透過しやすいように比重が小さく、肉厚の薄い金属が望ましい。例えば、照射口箔に使用される金属として厚さ約5〜15μm程度のチタンがよく使用される。なお、本実施例では、最大加速電圧150kV・最大電子電流40mAの電子線照射装置(岩崎電気株式会社製)を用いて行った。
【0017】
ここで、電子線の透過深さについて説明する。電子線の透過深さは、加速電圧と照射される物質の密度から算出され、下記で定義される。
透過深さ(μm)=0.0667×{加速電圧(kV)}5/3/物質の密度(g/cm3
【0018】
電子線の透過深さは、電子線による改質の指標の一つになる。算出された透過深さまで電子線が到達して改質が行われる。また、電子線の線量は下記で定義される。
線量(kGy)=[装置定数K×電子電流(mA)]/処理スピード(m/min)
【0019】
ここで、装置定数Kは、装置個々の効率を表す定数であって、装置の性能の指標となる。例えば本来、電子線照射装置では、K=18以上とする。したがって、一定の電子電流と処理スピードに対して、加速電圧を変えて線量を測定し、これから得られる装置定数Kが所定の値以上になるような加速電圧を求めることより、加速電圧についての制限が得られる。
【0020】
電子線の線量については、表面処理の効果に応じて適宜選択すれば良い。その調節は、電子電流、処理スピードのいずれでも行うことが可能であり、所望の線量が得られるように決めればよい。本実施態様では、あらかじめ線量フィルムを用いてある電子電流・処理スピードでの線量を測定し装置定数Kを算出して、それを基に電子線の線量を算出した。また、導電性ローラの表面に直接、電子線を照射する場合には線量としては、100〜3000kGyが好ましい。
【0021】
ここで、本発明の導電性ゴムローラの製造方法である電子線照射方法について更に詳細に説明する。導電性加硫ゴム層のゴム材料としては、上記に示しているが、電子線の照射によるゴムローラ表面の改質・硬化を考慮すると、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、ヒドリンゴムが好ましい。これらのゴムに電子線が照射されると、ポリマーの結合が切断されると共に、架橋が進行することで、高架橋、高硬度になる。高架橋化することにより、低分子量化合物などの染み出しを少なくすることができる。
【0022】
電子線の加速電圧については、50〜300kVが好ましい。加速電圧が300kV以下とすることにより、導電性ローラ表面の硬度が大きくなりすぎない。そのため、導電性ローラの表面とトナー又はトナーに付着している外添剤等との圧力が大きくなって押し潰されることがなくなり、導電性ローラが汚れないように容易にすることができる。更に電子線照射装置としても小型化を図ることができる。また、加速電圧が50kV以上とすることにより、導電性ローラ表面からの電子線の透過深さを深くでき、硬度を十分に上げることができる。そのため、導電性弾性層からの低分子量化合物等の染み出しを容易に防ぐことができ、導電性ローラ表面及び感光体ドラム表面が汚れないように容易にすることができる。
【0023】
マスク部材を配置する場合の電子線照射装置内の導電性ローラの送り、回転機構としては、図2,3或いは図4に模式的に示すような装置を用いることができる。なお、図3には図2の搬送部分だけを抜き出した平面図を示したものである。
【0024】
図3において、14はマスク部材であり、円筒形状を有する。マスク部材14は、円筒形状に部材を形成したもの、又はシート状のマスク部材をまるめて円筒形状にしたものでもよい。ワーク保持部材15はワークを保持すると共に同軸上に円筒形状のマスク部材を保持することができる。また、片端に設けられたスプロケット18をチェーン17で駆動することによって、ワークと同期して回転することが可能である。以上からなるワーク保持冶具は搬送用のチェーン16に複数個取り付けられ、電子線照射口9を一定速度でとおりぬけることができる。また、ワークの回転速度はチェーン16と17の速度差によって任意に調整可能である。ワークの回転速度としては200rpm以上1000rpm以下が好ましく、ワークの送り速度は0.1m/min以上5m/min以下に調整できることが好ましい。
【0025】
また、図4には、別の構造の照射装置を示した。図4において、マスク部材14は平板状であり、電子線照射口の下部に固定して置かれる。ワーク保持冶具の回転速度(周速)はワーク送り速度と同一に設定し、かつ回転方向を電子線照射口から見てワーク送り方向と逆方向にワークを回転させることで、マスク部材の位置とローラの表面の位置は概ね一対一の対応になる。つまり、マスク部材のパターンをほぼ転写させた照射強度分布を持つ電子線でローラを処理することと同等のことが可能となる。ワーク回転方向のパターンがきちんと転写されるようにするため、ワーク保持冶具の回転速度とワーク送り速度を同一に設定することが好ましい。また、二重にパターンが転写されることを防ぐため、マスク部材の幅はワークの外周と同一長さにすることが好ましい。さらにはマスク部材以外の部分から電子線が照射されないように覆いをつけることが好ましい。
【0026】
また、電子線照射口は矩形であることが好ましく、電子線照射口の長手方向の長さは、導電性加硫ゴム層の長手方向の長さ以上であることが好ましい。特に好ましくは、ローラの全長よりも20mmから100mm程度長いと良い。つまり、搬送するゴムローラと平行方向の電子線照射口の幅を導電性加硫ゴム層の長手方向の長さ以上とすることにより、一度のゴムローラの通過で導電性加硫ゴム層に電子線照射を行うことができる。また、電子線照射口の短手方向の長さは、導電性加硫ゴム層の外周と同一の長さにすることが好ましい。これは、上述のように、二重にパターンが転写されることを防ぐためである。
【0027】
ただし、図5のようにローラ送り方向に同一断面形状となるパターンのマスク部材を用いる場合には、ワーク回転速度とワーク送り速度を同一に設定しなくてもマスク部材のパターンを転写させることが可能である。
【0028】
また、ローラを回転させなくても、ローラの円周方向から均一に電子線を照射する装置を用いて処理を行っても良い(例えば、アイリングビーム 岩崎電気株式会社製)。その場合には、円筒状のマスク部材をローラの周囲に配置し、円筒状の照射空間を通すだけでローラ全面にマスク部材のパターンを転写させることができる。
【0029】
マスク部材は、同じ形状の穴や凹凸が少なくとも一つの方向に等間隔で繰り返されている、つまり構成部及び開口部又は薄膜部及び厚膜部からなる構成単位が少なくとも一つの方向に繰り返されるパターン形状を有する。
【0030】
パターンの形状としては、例えば図5〜図8に示す構成例を挙げることができる。
【0031】
例えば図5に示すマスク部材19は、スリット形状に開口部が設けられている。また、線AA’の間の構成単位が繰り返し並べて形成されたパターン形状を有する。図5に示すマスク部材を用いることにより、上述のように、電子線の照射を容易に行うことができる。つまり、例えば図4に示す電子線照射装置の電子線照射口にマスク部材19を配置しておくことにより、ゴムローラを回転させながら電子線照射口の下を通過させるだけで、導電性加硫ゴム層に高硬度領域と低硬度領域を形成することができる。この際、ゴムローラの搬送速度や回転速度を調整したり、電子線照射口の寸法を選択したりする必要はない。したがって、マスク部材は、その薄膜部又は開口部はスリット形状に設けられていることが好ましい。
【0032】
例えば図6に示すマスク部材20は、薄膜部と厚膜部からなる凹凸形状であって、格子形状に厚膜部を設けたパターン形状を有する。また、線AA’BB’で囲まれた構成単位が繰り返し並べて形成されたパターン形状を有する。なお、マスク部材20は、四角形状の薄膜部を等間隔に繰り返し並べたパターン形状としても認識できる。
【0033】
例えば図7に示すマスク部材21は、円形状の開口部が等間隔に設けられている。また、線AA’BB’で囲まれた構成単位が繰り返し並べて形成されたパターン形状を有する。
【0034】
例えば図8に示すマスク部材22は、構成部はメッシュ形状であり、開口部は四角形状である。また、線AA’BB’で囲まれた構成単位が繰り返し並べて形成されたパターン形状を有する。また、四角形状としては、例えば正方形、長方形などが挙げられる。
【0035】
図5乃至8に示すように、開口部又は薄膜部は、例えば、スリット形状、円形状(楕円も含む)、四角形状にすることができる。また、構成部は、例えばメッシュ形状、格子形状とすることができる。厚膜部は、例えば格子形状とすることができる。
【0036】
マスク部材は電子線の透過率が異なる部分がパターン状に配置されている。すなわち、マスク部材の開口部又は薄膜部は、マスク部材の構成部又は厚膜部よりも電子線の透過率が高い。そのため、マスク部材の開口部又は薄膜部においては電子線がより透過し、導電性加硫ゴム層表面における電子線の照射強度に差を設けることができる。したがって、マスク部材の膜厚差あるいは開口形状によって電子線の照射強度の差に由来するパターン状に差を設けることができるため、マスク部材の開口部或いは薄膜部のパターンと近似するパターンの高硬度領域がローラ表面に形成される。つまり、電子線の照射により、ローラ表面の開口部又は薄膜部に対応する位置に高硬度領域を形成することができる。マスク部材の厚膜部に相当する部分では内部とほぼ同一か、僅かに高硬度の状態となるが、本明細書中では高硬度領域との比較という意味合いで低硬度領域と呼ぶ。
【0037】
なお、メッシュ形状とは、線材を編んだものを指し、編み方としては一般的な平織、綾織や、平畳織、トンキャップ織、フラットトップ織が挙げられ、或いは亀甲金網や菱形金網などの形状でも良い。
【0038】
硬度分布を形成するパターンの大きさとしては、パターンの繰り返し幅が20μm以上500μm以下が好ましく、40μm以上200μm以下が特に好ましい。パターンの繰り返し幅を20μm以上とすることにより、繰り返し幅が小さすぎて硬度差が正確に転写されないために表面の柔軟性が不足することを防ぎ易くなる。また、パターンの繰り返し幅を500μm以下とすることにより、繰り返し幅が大きすぎて高硬度の分布が汚れムラなどを引き起こすために画像上に欠陥が現れることを防ぎ易くなる。
【0039】
ここで、パターンの繰り返し幅とは、繰り返されるパターンの最小単位形状一つ(開口、凹凸など)を抜き取ったときに、隣に存在するパターンとの距離を指す。方向によって距離が異なる場合には、もっともその距離が小さくなる長さを最小繰り返し長さとする。ある方向にしか繰り返されていない場合には、繰り返されている方向の繰り返し長さである。また、パターンが複雑な形状であったりする場合には、パターンの重心位置を計算し、重心位置同士の距離を計算することで導き出せる。異なるパターンを複数個組み合わせて、組み合わされたパターンを連続的に配置しても良いが、この場合の繰り返し幅は、組み合わされた異なるパターンの重心位置の距離を隣り合うパターン間で求め、平均化した値を代表値とすることができる。
【0040】
マスク部材とワークとの距離は、マスク部材のパターンをより正確に転写させるためには、近いほうが良い。ただし、あまり近すぎると接触する恐れがあるため、好ましくは0.5mm〜10mm、より好ましくは0.5mm〜2mmである。
【0041】
マスク部材によって表面近傍に微細な硬度分布をパターン状に形成することで、高硬度の部分、つまり高架橋な部分ではゴムローラからの低分子量化合物等の染み出しが低減される。また、高硬度部と比較して低硬度な部分、つまり低架橋な部分が存在することで、ゴムローラの表面近傍の過度の高硬度化を抑制して、トナー及びトナーに付着している外添剤等のゴムローラ表面の汚れ防止を図ることができる。
【0042】
表面近傍の硬度が抑制されるのは、高硬度領域が膜として振舞うのではなく、高硬度領域の間にある低硬度領域が柔軟さを有し、容易に変形できるためと考えられる。したがって、ミクロ的に見ると高硬度領域が多く存在するが、マクロ的な挙動としては低硬度で柔軟性があると考えられる。
【0043】
また、本発明に係る製造方法により得られる導電性ローラの表面硬度は、測定端子が大きいと、同じ照射条件で全面に電子線を照射して高硬度化した場合よりも小さい値が得られる。
【0044】
以上のような特性は、全面に電子線を1回照射して製造する方法では条件を調整しても達成できない。
【0045】
また、高硬度の材料と低硬度の材料をブレンドしてローラを形成したものと比較すると、ブレンドしたものだと内部まで高硬度の部分が存在するため、本発明により得られるローラと比較すると全体としての硬度が高くなってしまう。そのため、ローラによっては柔軟性が足りない場合もある。また、ロットによるばらつきや、ローラ一本内でのばらつきが大きい場合もあるため、本発明の方がよりローラ表面の硬度を最適化することができる。
【0046】
マスク部材の材質としては特に制限は無いが、電子線に対して耐久強度があり、電子線透過方向の厚みの加工精度が出しやすいもので、チタン、ステンレス、アルミニウム、銀、セラミック、ガラス、ポリスチレン等が好ましい。また、耐久強度を考慮するとチタンがより好ましい。
【0047】
これらの材質の比重と膜厚から透過する電子線の強さが計算できるため、所望の強度で照射されるように、膜厚部と薄膜部の厚さを選択することができる。
【0048】
また、電子線の照射は、マスク部材を介して照射した後に、再びマスク部材を介さないで照射しても良い。また、マスク部材を介して照射する前に、予め若干の電子線照射を実施してもよい。さらには、紫外線照射、プラズマ照射等と組合せても良い。
【0049】
マスク部材のパターンは長手方向に異なるものを組み合わせても良く、また一部に異なるパターンの領域を設けても良い。また、規則性のある繰り返しパターンそれぞれの位置にランダム状のばらつきをわざと与えてずらしたものを用いても良い。
【0050】
また、マスク部材が平板状の場合は、その形状が長方形であるものを配しても良いし、繋ぎ目が目立たないように平行四辺形であるものを配しても良い。
【0051】
本発明の実施の形態である導電性ローラの製造方法により得られた導電性ローラは、LBP(Laser Beam Printer)、複写機又はファクシミリ等の画像形成装置の電子写真用部材として用いられる。ここでは、帯電ローラとして用いた場合の使用形態を図10に示した。画像形成装置は、回転ドラム型・転写方式の電子写真装置であって、26は像担持体としての電子写真感光体(感光ドラム)であり、時計方向に所定の周速度(プロセススピード)をもって回転駆動される。感光ドラムは、その回転過程で帯電手段としての電源E1から帯電バイアスを印加した帯電ローラ27により周面が所定の極性・電位(本実施例では−500V)に一様帯電処理される。次いで、露光系28により目的の画像情報に対応したネガ画像露光(原稿像のアナログ露光、デジタル走査露光)を受けて周面に目的画像情報の静電潜像が形成される。次いで、その静電潜像がマイナストナーによる反転現像方式のトナー現像ローラ29によりトナー画像として現像される。そして、感光ドラムと転写手段としての転写ローラ30との間の転写部に不図示の給紙手段から所定のタイミングで転写材が給送され、感光ドラム面の反転現像されたトナー像が転写材に対して順次転写されていく。転写ローラに対しては電源E2から約+2〜3KVの転写バイアスが印加される。トナー画像の転写を受けた転写材は、感光ドラム面から分離されて不図示の定着手段へ導入されて像定着処理を受ける。トナー画像転写後の感光ドラム面は、クリーニング手段31で転写残りトナー等の付着汚染物の除去処理を受けて清浄面化されて繰り返して作像に供される。
【0052】
本発明の実施の形態で述べた帯電ローラは、芯金と、芯金上に形成した導電性弾性層を有する導電性ローラである。本発明では、芯金上の導電性加硫ゴム層の表面にマスク部材を介して電子線を、加速電圧50〜300kVの範囲内で、マスク部材を介して電子線を照射することが好ましい。その結果、帯電ローラの表面近傍の硬度分布を制御して、トナー及びトナーに付着している外添剤等のローラ表面の汚れを防ぎ、且つローラからの低分子量化合物等の染み出しを防止して感光体ドラムに対しても汚染しない帯電ローラを提供することができる。また、本発明は芯金上の導電性弾性層の表面に電子線を照射するだけで帯電ローラを提供できるので量産性にも優れる。さらには、同一の加硫ゴムローラから照射条件、マスク部材の変更等で種々の導電性ローラを得ることが可能であり、高品質な導電性ローラを安定して低コストで製造することが可能である。
【0053】
図9に本発明で得られた帯電ローラ断面と表面の硬度分布の概念図を示す。23は芯金、25は導電性弾性層、24はマスク部材を介して電子線が強く照射され、高硬度化した部分を示している。マスク部材として例えばメッシュ形状のものを使用した場合、内部或いは電子線が強く照射されなかった部分に関しては高硬度化はしておらず、ほぼ照射前の硬度を維持しているものと考えられる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。
【0055】
[実施例1〜6]
〈ゴムローラの作製〉
以下の原料を加圧式ニーダーで15分間混練した。
・NBR 100質量部
(商品名「Nipol DN219」:日本ゼオン社製)
・カーボンブラック1 14質量部
(商品名「旭HS−500」:旭カーボン社製)
・カーボンブラック2 4質量部
(商品名「ケッチェンブラックEC600JD」:ライオン社製)
・ステアリン酸亜鉛 1質量部
・酸化亜鉛 5質量部
・炭酸カルシウム 30質量部
(商品名「ナノックス#30」:丸尾カルシウム社製)
【0056】
更に、加硫促進剤(DM:ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド)1質量部、加硫促進剤(TBzTD:テトラベンジルチウラムジスルフィド)3質量部及び加硫剤(イオウ)1.2質量部を加え、15分間オープンロールで混練して未加硫ゴム組成物を得た。次いで、外径φ6mm、長さ252mmのステンレス棒の芯金を用意した。次いで、クロスヘッド押出機を用いて上記芯金と未加硫ゴム組成物とを一体に押出してゴムローラを成形した。その後、160℃、1時間の加熱加硫を行い、更に回転砥石を用いた乾式研磨、端部の切断・除去処理により、厚み1.25mm、長さ232mmのゴムローラを得た(ゴムローラ外径φ8.5mm)。
【0057】
〈電子線照射方法〉
得られた加硫ゴムローラの表面に電子線を照射して帯電ローラを得た。電子線の照射には、最大加速電圧150kV・最大電子電流40mAの電子線照射装置(岩崎電気株式会社製)を用い、照射時には窒素ガスパージ(酸素濃度は約200ppm)を行った。電子線照射条件は、表1に示す電子線照射条件(加速電圧/電子電流)を用い、約1secの間電子線が照射されるように送り速度を1.5m/minに設定した。ゴムローラの回転速度は500rpmで回転させながら搬送した(ただし、実施例2のみ送り速度0.75m/minとした)。
【0058】
なお、電子線照射は、ローラの回転と搬送には図2及び3に模式的に示す装置を用い、表1に示すパターンを有する円筒形状のマスク部材を配置して行った。マスク部材の形状はメッシュ形状であり、メッシュの線径と目開き、材質を共に表1に示した。メッシュ形状は図8に模式的に示すように、長さ8a、8bが同一である形状を用いた。網目は平織りである。繰り返し長さは、線径8cと目開き8dを足し合わせたものとなる。円筒形状のマスク部材の直径はφ10mm、長さは240mmのものを用い、加硫ゴムローラと接触させずに全面を覆い、かつ同軸上に配置した。電子線照射孔9からの距離は30mmとした。なお、電子線照射孔9は加硫ゴムローラの長手方向に450mm、送り方向に30mmの開口部を持つ。
【0059】
【表1】

【0060】
〈耐久画像汚れ評価〉
得られた帯電ローラを図10に示す画像形成装置に組込み、感光体ドラムの両端に500gずつの荷重を負荷した状態で圧接し、23.5℃/60%の環境でハーフトーン画像による連続6000枚(6Kと表すことがある)を通して耐久画像汚れ評価を行った。この耐久画像汚れ評価において、下記事項を評価した。得られた結果を表5に示した。
【0061】
連続通紙6000枚間を耐久画像とした。帯電ローラに固着したトナーや外添剤による、点状もしくは線状の画像不良、或いは帯電ムラによる黒または白の横スジ状の画像不良の有無を目視で観察して検査した。得られた検査結果に基づき、下記基準で画像評価を行った。
A:帯電ローラにトナーや外添剤の付着が起因の画像不良が全く出ていないもの
B:上記の画像不良が極わずかに発生したもの
C:上記の画像不良がわずかに発生したもの
D:上記の画像不良がはっきりと発生したもの
【0062】
〈Cset画像評価〉
また、上記とは別の帯電ローラを図10に示す画像形成装置に組込み、感光体ドラムの両端に500gずつの荷重を負荷した状態で圧接し、40℃/95%の環境で30日間放置した。放置後、23.5℃/60%の環境でハーフトーン画像による通紙1〜10枚間を初期画像としてCset画像評価を行った。このCset画像評価において、下記事項を評価した。得られた結果を表5に示した。
【0063】
帯電ローラの導電性弾性層からの低分子量化合物等の染み出しによる、帯電ローラピッチ及び感光体ドラムピッチの帯電ムラによる黒または白のピッチスジ画像不良の有無を目視で観察して検査した。得られた検査結果に基づき、下記基準で画像評価を行った。
A:帯電ローラからの染み出しが起因の画像不良が全く出ていないもの
B:上記の画像不良が極わずかに発生したもの
C:上記の画像不良がわずかに発生したもの
D:上記の画像不良がはっきりと発生したもの
【0064】
[実施例7〜9]
マスク部材の形状を表2に示すような形状に変更した以外は、実施例1と同様の手順で、加硫ゴムローラを作製し、電子線照射を行って帯電ローラを得た。電子線照射条件等は表1に示した。マスク部材の形状は、図6に模式的に示すような形状であり、四角の形状の凹部を図に示すようなパターンで配置したものである。今回用いたものは6c、6dが等しい正方形形状の凹部であり、厚い部分の厚さを厚さA、薄い部分の厚さを厚さBとし、表1に併せて示した。なお、繰り返し長さとしては6a、6b共に等しいものである。材質としてはポリスチレンのシートを用いた。なお、マスク部材の外寸サイズ、装置内の配置等も実施例と同様である。また、上記の帯電ローラを使用して実施例1と同様に耐久画像汚れ評価とCset画像評価を行った。結果を表5に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
[実施例10]
マスク部材の形状を表3に示すような形状に変更した以外は、実施例1と同様の手順で、加硫ゴムローラの作製し、電子線照射を行って帯電ローラを得た。電子線照射条件等は表1に示した。マスク部材の形状は、図7に模式的に示すような形状であり、円孔が繰り返し長さ7a(=7b)で繰り返し配置されており、円孔の直径7cと併せて表1に示した。マスク部材の外寸サイズ、配置等は実施例1と同様である。また、上記の帯電ローラを使用して実施例1と同様に耐久画像汚れ評価とCset画像評価を行った。結果を表5に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
[実施例11〜12]
実施例1と同様の手順でローラを作製した後、図4に模式的に示すような搬送、回転機構を用いた装置を用いて電子線照射を行い、帯電ロールを得た。図4において、マスク部材は平板状の形状であり、ローラ上端からは距離0.5mmの高さに配置してある。ローラがφ8.5mmの外径を持つため、送り速度1m/min、回転速度37.45rpmに設定した。マスク部材の送り方向の幅はローラ外周約一周分である27mmとした。マスク部材の形状は、実施例11では実施例1と同様の形状を持つメッシュを平板状に配置した。実施12では図5に模式的に示すように平板状にローラ送り方向と平行なスリットが開けられた形状のものを用いた。スリット形状の寸法は表4に示すように、繰り返し幅5aで線径5bの金属線が張ってあるものである。平板状のマスク部材は、電子線照射孔から30mmはなれた位置に電子線照射孔と平行に配置し、加硫ゴムローラはその位置から0.75mm下方に電子線照射孔と平行に配置した。また、上記の帯電ローラを使用して実施例1と同様に耐久画像汚れ評価とCset画像評価を行った。結果を表5に示す。
【0069】
【表4】

【0070】
[比較例1〜2]
マスク部材を用いないで電子線を照射した以外は、実施例1と同様の手順で帯電ローラを得た。電子線の照射条件は、比較例1は80KV、35mA、比較例2は150KV、35mAとした。また、上記の帯電ローラを使用して実施例1と同様に耐久画像汚れ評価とCset画像評価を行った。結果を表5に示す。
【0071】
[比較例3]
実施例1と同様の手順で加硫ゴムローラを得た。得られた加硫ゴムローラに対し、本比較例では電子線照射は行わずに、紫外線照射を下記に示すような条件で行った。紫外線照射は低圧水銀ランプ(ハリソン東芝ライティング製)を用い、加硫ゴムローラを回転させながらランプと並行に配置して5分間行った。紫外線ランプからの距離は約30mmであり、回転速度は30rpmとした。低圧水銀ランプに関しては、主に254nmの波長を代表とする紫外線で、この時の紫外線積算光量は約10000mJ/cm2であった(紫外線強度は35mW/cm2)。その後、上記の帯電ローラを使用して実施例1と同様に耐久画像汚れ評価とCset画像評価を行った。結果を表5に示す。
【0072】
【表5】

【符号の説明】
【0073】
1 押出機
2 押出機のクロスヘッド
3 芯金送りローラ
4 芯金
5 切断・除去処理
6 ゴムローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯金と、表面に硬度の異なる領域をパターン状に有する導電性加硫ゴム層とを有する導電性ゴムローラの製造方法であって、
芯金の周囲に形成した導電性加硫ゴム層の周面に、電子線の透過率の異なる部分がパターン状に配置されてなるマスク部材を介して電子線を照射し、該導電性加硫ゴム層の表面に電子線の照射強度の差に由来する硬度の異なる領域を形成する工程を有することを特徴とする導電性ゴムローラの製造方法。
【請求項2】
前記導電性加硫ゴム層が、カーボンブラックとニトリルゴムである請求項1に記載の導電性ゴムローラの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−123357(P2011−123357A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281732(P2009−281732)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】