説明

ゴム材料のシミュレーション方法

【課題】ゴムと、シリカと、これらを結合する界面結合剤とが配合されたゴム材料の変形を精度良く解析するのに役立つゴム材料のシミュレーション方法を提供する。
【解決手段】ゴムと、シリカと、これらを結合する界面結合剤とを含むゴム材料を数値解析が可能な要素でモデル化したゴム材料モデルを設定するステップと、ゴム材料モデルに条件を設定して変形計算を行うステップと、変形計算から必要な物理量を取得するステップとを含むゴム材料のシミュレーション方法であって、ゴム材料モデル2は、ゴムマトリックスをモデル化したマトリックスモデル3と、マトリックスモデル3中に配置されかつシリカをモデル化した複数個のシリカモデル4と、各シリカモデル4の周りを環状に取り囲みかつ前記マトリックスモデルよりも硬い物性が定義された界面モデル5とを含む。シリカモデル4は、界面モデル5を介して紐状に連結された複数個を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムと、シリカと、これらを結合する界面結合剤とが配合されたゴム材料の変形を精度良く解析するのに役立つゴム材料のシミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤ、スポーツ用品、その他各種の工業製品に使用されているゴム材料には、その機械的特性を向上させるために、カーボンが多用されていた。しかしながら、近年では、カーボンに代えてシリカが多用されつつある。その理由は、シリカ配合はカーボン配合に比べてエネルギーロスが小さいので、例えばタイヤの転がり抵抗を小さくし、燃費性能の向上に寄与するためである。また、シリカは脱石油資源であるため、環境にも優しいフィラーとも言える。従って、シリカが配合されたゴム材料の変形を精度良くコンピュータシミュレーションで解析することは今後のタイヤ等の開発にきわめて有益となる。
【0003】
従来、コンピュータを用いたゴム材料のシミュレーション方法としては、下記の非特許文献1及び特許文献1などが知られている。特許文献1のものでは、ゴム材料モデルとして、数値解析が可能な要素でモデル化したマトリックスモデルとフィラーモデルとが設定され、フィラーの影響を考慮した有限要素法による変形計算が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3668238号公報
【非特許文献1】Ellen M. Arruda and Marry C. Boyce著「 A THREE-DIMENSIONAL CONSTITUTIVE MODEL FOR THE LARGE STRECH BEHAVIOR OF RUBBER ELASTIC MATERIALSS」 Journal of the Mechanics and Physics of Solids Volume 41, Issue 2, Pages 389-412 (February 1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、シリカ配合ゴム材料のシミュレーションを行う際には、図15に示されるように、ゴムマトリックスを模したマトリックスモデル21と、その中に分散配置されかつシリカをモデル化したシリカモデル22と、該シリカモデル22の表面を環状に取り囲む界面モデル23とからなるゴム材料モデル20が採用されていた。
【0006】
前記マトリックスモデル21及びシリカモデル22には、それぞれの物性が予め定義される。例えば、シリカモデル22は、硬質の弾性体として取り扱われるので、弾性率が設定される。また、マトリックスモデル21には、前記物性として、フィラーが配合されていないいわゆる純ゴムの引張試験の結果に基づいた物性(応力と伸びとの関係を示す関数)が定められる。
【0007】
また、シリカ配合ゴム材料では、シリカとゴムとを結合するために、シランカップリング剤等の界面結合剤が配合される。従って、これまでのシミュレーションにおいては、シリカとゴムとが界面結合剤によって結合されていることを前提として、シリカとゴムとの界面に前記界面モデル23が定義されていた。
【0008】
しかしながら、このようなゴム材料モデル20を使用して、例えば引張変形を与えたときのシミュレーションを行った場合、応力−伸びの結果が、実際の引張試験で得られた応力−伸びの結果と大きく異なる場合がある。種々の実験の結果、発明者らは、このような結果のずれは、シリカモデルの配置に原因があることを知見した。
【0009】
即ち、発明者らは、シリカの配置についてさらに鋭意研究を重ねた結果、界面結合材は、シリカとマトリックスゴムとを接着させるのみならず、シリカ同士を紐状に連結してシリカ粒子の動きを拘束しているとの仮定を打ち立てた。そして、このようなモデルに従ってシミュレーションを行った結果、実際の試験結果と非常に高い相関性を得ることができることを見出し本発明を完成させるに至った。
【0010】
以上のように、本発明は、精度良くシリカ配合ゴム材の変形を計算しうるシミュレーション方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のうち請求項1記載の発明は、ゴムと、シリカと、これらを結合する界面結合剤とを含むゴム材料を数値解析が可能な要素でモデル化したゴム材料モデルを設定するステップと、前記ゴム材料モデルに条件を設定して変形計算を行うステップと、前記変形計算から必要な物理量を取得するステップとを含むゴム材料のシミュレーション方法であって、前記ゴム材料モデルは、ゴムマトリックスをモデル化したマトリックスモデルと、前記マトリックスモデル中に配置されかつ前記シリカをモデル化した複数個のシリカモデルと、前記各シリカモデルの周りを環状に取り囲みかつ前記マトリックスモデルよりも硬い物性が定義された界面モデルとを含むとともに、前記シリカモデルは、前記界面モデルを介して紐状に連結された複数個を含むことを特徴とする。
【0012】
また請求項2記載の発明は、前記紐状に連結されたシリカモデルは、任意の軸線方向に関して、ゴム材料モデルの領域の全範囲を連続してのびる請求項1記載のゴム材料のシミュレーション方法である。
【0013】
また請求項3記載の発明は、前記ゴム材料モデルを設定するステップは、前記界面モデルに物性のパラメータを決定するパラメータ決定工程を含み、該パラメータ決定工程は、 解析対象となる前記ゴム材料モデルと同じ配合を有する第1の未加硫ゴム組成物と、該第1の未加硫ゴム組成物から界面結合剤を除いた配合の第2の未加硫ゴム組成物とを少なくとも準備する工程と、前記第1及び第2の未加硫ゴム組成物をそれぞれ溶剤に浸漬することにより、該第1及び第2の未加硫ゴム組成物からそれぞれマトリックスゴムを除去した第1及び第2の残留物を得る工程と、少なくとも前記第2の残留物のtanδのピーク温度T2と、前記第1の残留物のtanδのピーク温度T1とを測定し、これらに基づいて前記ピーク温度の差T2−T1を推定する工程と、前記第1の未加硫ゴム組成物からシリカを除いた配合の基本の加硫ゴム材料を少なくとも含むとともに該基本の加硫ゴム材料とは架橋密度のみが異なる複数種類の加硫ゴム材料を準備する工程と、前記各加硫ゴム材料のtanδのピーク温度を測定し、前記加硫ゴム材料のtanδのピーク温度と架橋密度との関係を得る工程と、前記関係から、tanδのピーク温度が前記基本の加硫ゴム材料のtanδのピーク温度T3に前記差T2−T1を加えた温度に等しい加硫ゴム材料の架橋密度を特定する工程と、前記特定された架橋密度の加硫ゴム材料の物性に基づいて前記界面モデルの前記パラメータを定義する工程とを含む請求項1又は2記載のゴム材料のシミュレーション方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ゴム材料モデルは、ゴムマトリックスをモデル化したマトリックスモデルと、該マトリックスモデル中に配置されかつシリカをモデル化した複数個のシリカモデルと、前記各シリカモデルの周りを環状に取り囲みかつ前記マトリックスモデルよりも硬い物性が定義された界面モデルとを含む。そして、前記シリカモデルは、界面モデルを介して紐状に連結された複数個を含む。このようなゴム材料を用いてシミュレーション(変形計算)を行うことにより、実際のシリカ配合ゴム材料の変形挙動と非常に相関の高い計算結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態で用いたコンピュータ装置の一例を示す斜視図である。
【図2】本実施形態の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】ゴム材料モデル(微視構造)の一実施形態を示す線図である。
【図4】(A)は粘弾性材料、(B)はその分子鎖1構造を説明する線図、(C)は1本の分子鎖の拡大図、(D)はセグメントの拡大図である。
【図5】(A)は粘弾性材料の網目構造体を示す斜視図、(B)は8鎖モデルの一例を示す斜視図である。
【図6】(A)、(B)は分子鎖の接合点の破断を説明する線図である。
【図7】マトリックスモデル及び界面モデルの物性の一例を示す応力−ひずみ曲線である。
【図8】ゴム材料モデル(微視構造)の他の実施形態を示す線図である。
【図9】シリカを配合していない加硫ゴムのtanδと温度との関係を示すグラフである。
【図10】変形シミュレーションの手順を示すフローチャートである。
【図11】均質化法を説明する微視構造と全体構造との関係を示す。
【図12】(a)〜(e)は、ゴム材料モデルの実施例、比較例を示す線図である。
【図13】実施例の8鎖モデルの構成図である。
【図14】シミュレーションの結果と実験値とを比較する公称応力−伸び曲線である。
【図15】従来のシリカ配合ゴム材料のモデルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明する。
図1には、本発明のシミュレーション方法を実施するためのコンピュータ装置1が示されている。このコンピュータ装置1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んで構成されている。本体1aの内部には、CPU、ROM、作業用メモリー及び磁気ディスク等のなどの大容量記憶装置が設けられる。また、本体1aには、CD−ROMやフレキシブルディスクのドライブ装置1a1、1a2が設けられる。そして、前記大容量記憶装置には後述する本発明のシミュレーション方法を実行するための処理手順(プログラム)が記憶されている。
【0017】
本実施形態のシミュレーション方法では、ゴムと、シリカと、これらを結合する界面結合剤とを含むシリカ配合ゴム材料の変形がシミュレーションされる。
【0018】
前記界面結合材として、本実施形態では、シランカップリング剤が用いられる。シランカップリング剤としては、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ポリスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ポリスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ポリスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)ポリスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)ポリスルフィドなどが挙げられ、これらのシランカップリング剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いても良い。なかでも、シランカップリング剤の添加効果およびコストの両立から、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドなどが好適に用いられる。
【0019】
図2には、本実施形態のシミュレーション方法の処理手順の一例が示される。本実施形態では、先ず、ゴム材料のモデルが設定される(ステップS1)。
【0020】
図3には、繰り返し最小単位の微視構造としてのゴム材料モデル2の一例が視覚化して示されている。該ゴム材料モデル2は、解析しようとするシリカ配合ゴム材料の微小領域が、有限個の小さな要素(メッシュ)2a、2b、2c…に置き換えられたものである。各要素2a、2b、2c…は、数値解析が可能に定義される。
【0021】
前記数値解析が可能とは、例えば有限要素法、有限体積法、差分法又は境界要素法といった数値解析法により、各要素ないし系全体についての変形計算が可能なことを意味する。具体的には、各要素2a、2b、2c…について、座標系における節点座標値、要素形状、材料特性などが定義される。各要素2a、2b、2c…には、例えば2次元平面としての三角形ないし四辺形の要素、3次元要素としては、例えば4ないし6面体の要素が好ましく用いられる。これにより、ゴム材料モデル2は、前記コンピュータ装置1にて取り扱い可能な数値データを構成する。
【0022】
この実施形態のゴム材料モデル2は、後述する変形シミュレーションにおいて平面ひずみ状態の解析、さらに詳しくはy軸方向の引張変形シミュレーションが行われる。つまり、本実施形態では、z方向にはひずみを持たない2次元のシミュレーションが行われる。この実施形態において、微視構造としてのゴム材料モデル2は、例えば300nm×300nmの正方形である。
【0023】
また、本実施形態のゴム材料モデル2は、ゴムマトリックス部分がモデル化されたマトリックスモデル3と、このマトリックスモデル3の中に配置されかつシリカがモデル化されたシリカモデル4と、各シリカモデル4の周りを環状に取り囲みかつ前記マトリックスモデル3よりも硬い物性が定義された界面モデル5とを含む。
【0024】
前記マトリックスモデル3は、ゴム材料モデル2の主要部を構成し、かつ、例えば三角形ないし四辺形の複数個の要素を用いて表現されている。変形計算を行うために、マトリックスモデル3を構成する各要素には、その物性として応力と伸びとの関係を表す関数が定義される。本実施形態のゴム材料のシミュレーション方法では、ゴム弾性応答を表現するために、前記マトリックスモデル3及び界面モデル5のゴム部分は、いずれも分子鎖網目理論に基づいて計算が行われる。
【0025】
分子鎖網目理論について念のため述べると、図4(A)、(B)に示されるように、連続体としてのゴム材料aは、微視構造として、無秩序に配向された分子鎖cが接合点bで連結された網目構造を持つとの考えを前提とするものである。接合点bは、例えば分子間の化学的結合であってそれには架橋点などが含まれる。
【0026】
分子鎖網目理論では、接合点bが原子の揺らぎ周期に対して長時間的には平均位置が変化しないものとし、接合点bの回りの摂動が無視される。さらに、二つの接合点b、bを両端に持つ分子鎖cの端−端ベクトル(end-to-end vector )は、それが埋め込まれているゴム材料の連続体と共変形するとの仮定が置かれる。
【0027】
また、1本の分子鎖cは、図4(C)に示されるように、複数のセグメントdから構成されるものとする。各セグメントdは、化学的には同図(D)に示すように、炭素原子が共有結合によって連結した複数個のモノマーfが連結したものに相当する。個々の炭素原子は、原子同士の結合軸の周りで互いに自由に回転しうるため、セグメントdは全体として曲がりくねるなど様々な形態をとることができる。モノマーfの数が十分多ければ、スケーリング則によってセグメントdの巨視的な性質は変わらないので、一つのセグメントdは、分子鎖網目理論において繰り返しの最小構成単位として取り扱われる。さらに、図4(C)に示される二つの接合点b、bによって定義される分子鎖の形態は非ガウス統計分布に従うものとされる。従って、二つの接合点b、bを結ぶ方向に伸び(ストレッチ)λを加えた場合に生じる応力σは、下式(1)で表すことができる。
【数1】

【0028】
そして、網目構造の全体的な応答特性は、個々の分子鎖の寄与を考慮して得ることができるが、それら全てを正確に考慮して計算するのは数学的に困難である。このため、分子鎖網目理論では、平均化手法が導入される。本実施形態では、8鎖モデルを採用した分子鎖網目理論に準拠している。即ち、この手法では、図5(A)に示されるように、超弾性体であるゴム材料は、巨視的には、微小な8鎖モデルg…が集合した立方体状の網目構造体hであると仮定される。また、一つの8鎖モデルgは、図5(B)に拡大して示されるように、立方体の中心に定められた一つの接合点b1から、各頂点に設けられた8つの各接合点b2にそれぞれ分子鎖cがのびているものと仮定して計算が行われる。
【0029】
また、本実施形態では、分子鎖網目理論に、材料のひずみに応じた接合点bの消滅が考慮される。現実のゴム材料において、荷重の負荷における変形過程では、分子鎖の互いに絡み合った部分(即ち、前記接合点b)が大きなひずみによって消滅することが知られている。つまり、接合点bの数が減少する。例えば、図6(A)に示されるように、一つの接合点bで接合されている分子鎖c1ないしc4に矢印方向の引張応力が作用すると、各分子鎖c1ないしc4の伸びにより接合点bは大きなひずみを受けて消滅する。この結果、図6(B)に示されるように、これまで2本であった分子鎖c1及びc2は、1本の長い分子鎖c5になる。分子鎖c3及びc4についても同様である。このような現象は、ゴム材料の負荷変形が進むにつれて逐次発生する。また、接合点bの数の減少は、1本の分子鎖cに含まれるセグメントの数を増加させることになる。
【0030】
そして、上記の現象が、図5(A)に示した網目構造体hに適用される。該網目構造体hは、幅方向、高さ方向及び奥行き方向にそれぞれ8鎖モデルgがk個結合されているものとする。網目構造体hに含まれる接合点bの総数を「からみ数」として符号mで表すと、それは式(2)で表される。同様に、網目構造体hに含まれる分子鎖cの数(即ち、マトリックスモデル3の単位体積中に含まれる分子鎖の数)nは、式(3)で表される。
m=(k+1)3+k3 …式(2)
n=8k3 …式(3)
【0031】
ここで、kは十分に大きい数とすると、上式(2)からkの3次項以外を省略して次式(4)が得られる。さらに式(3)及び(4)の関係から、からみ数mは、nを用いて式(5)で表される。
m=2k3 …式(4)
m=n/4 …式(5)
【0032】
さらに、網目構造体hは、変形の前後で材料の出入りが無いので、そのセグメントの総数NA は常に一定と仮定できる。従って、式(6)及び(7)が成り立つ。
A =n・N …式(6)
N=NA /n=NA /4m …式(7)
【0033】
ここで、上述の接合点bの消滅は、マトリックスモデル3におけるからみ数mを減少させ、ひいては1本の分子鎖cに含まれるセグメントの数を増加させることに相当する。従って、8鎖モデルを用いた分子鎖網目理論に、上述の負荷変形(伸び)に伴った接合点の減少を導入するために、前記式(1)における分子鎖1本当たりの平均セグメント数Nを、ひずみに関するパラメータλcに応じて増大させる。このひずみに関するパラメータλcとしては、例えば、ひずみ、伸び、ひずみ速度又はひずみの1次の不変量などが挙げられる。また、上記負荷変形時とは、微小時間の間でモデルのひずみが増大する変形であり、逆に除荷変形時とは、ひずみが減少する変形とする。
【0034】
以上より、本実施形態のマトリックスモデル3では、1本の分子鎖当たりの平均セグメント数Nは、下式(8)のように、1本の分子鎖当たりの初期セグメント数N0に、材料のひずみに応じたパラメータf(λc)の項が加算された関数として定義される。
N(λc)=N0+f(λc) …(8)
【0035】
従って、上記式(8)で得られる平均セグメント数Nを用いた前記式(1)は、マトリックスモデル3のひずみに依存して応力を変化させることができる。そして、後述するゴム材料モデル2の変形シミュレーションでは、マトリックスモデル3の各要素について、負荷変形時においては前記パラメータλc が常時計算され、それらは式(8)に代入される。これにより、当該要素のセグメント数Nが常に更新されてシミュレーションに取り込まれる。
【0036】
次に、前記シリカモデル4は、シリカを四辺形の複数個の要素を用いてモデル化したもので、全体として円形に形成されている。本実施形態において、各シリカモデル4の粒子径(直径)は全て等しく設定されている。なお、三次元モデルの場合、シリカモデル4は、球形にモデル化されるのが望ましい。また、シリカは、直径約10〜300nm程度であり、ゴムに比べて非常に硬い粒子からなる。シリカモデル4には、このような解析対象となるシリカの物性とほぼ等しい物性が設定される。即ち、本実施形態において、シリカモデル4は、粘弾性体ではなく弾性体として取り扱われる。また、シリカモデル4の粒子の個数は、例えば、解析対象のゴム材料のシリカ配合量に基づいて決定することができる。
【0037】
前記界面モデル5は、シリカとマトリックスゴムとを化学的に結合させるシランカップリング剤の働きをシミュレーションに取り込むためにモデル化したものである。本実施形態の界面モデル5は、シリカモデル4の周りを小さい厚さtで環状に連続して取り囲むように設定されている。従って、界面モデル5の内周面はシリカモデル4の外周面に接触している。本実施形態では、界面モデル5の内周面とシリカモデル4の外周面とは、互いに剥離しない条件が設定されるが、必要に応じて、予め定めた値以上の応力が生じたときに、シリカモデル4と界面モデル5との境界を分離させるような条件が設定されても良い。なお、界面モデル5の外周面の大部分は、マトリックスゴムモデル3に接触している。
【0038】
前記界面モデル部6の厚さtは、特に限定されるものではないが、種々の実験結果などに鑑み、シリカモデル4の直径の10〜30%程度、より好ましくは15〜25%程度に設定されるのが実際のゴム材料と整合する点で望ましい。
【0039】
また、界面モデル5にも前記式(1)に準じた応力と伸びとの関係が定義される。しかし、界面モデル5で用いられる式(1)の平均セグメント数Nは、固定値N0に設定され、式(8)で採用されるようなf(λc)の項は含まれない。
【0040】
また、実際の界面結合材の物性に鑑み、この界面モデル5はマトリックスゴムよりも硬い物性が定義される。本実施形態では、式(8)の平均セグメント数Nの初期値N0が、マトリックスモデル3に適用される初期値N0よりも小さく設定されている。これにより、界面モデル5は、マトリックスモデル3よりも伸び難く定義される。つまり、界面モデル5には、マトリックスモデル4よりも硬い物性(正確には粘弾性特性)が定義される。ただし、界面モデル5は、シリカモデル4よりは軟らかいのは言うまでもない。
【0041】
また、界面モデル5には、マトリックスモデル3よりも小さい限界ストレッチが定義されるのが望ましい。実際のシリカ配合ゴム材料では、シリカ粒子間にも多くの界面結合剤が存在していると考えられるため、その部分の架橋密度がゴムマトリクス部分に比べて高いと推察することは合理的である。この状態をシミュレーションに反映させるために、図7に示されるように、界面モデル5については、応力が立ち上がり始めるひずみ(限界ストレッチ)を、マトリックスモデル3のそれよりも小さく設定するのが望ましい。
【0042】
さらに、ゴム材料モデル2は、界面モデル5を介して紐状に連結された複数個のシリカモデル4(以下、このようなシリカモデルの連結体を「紐状体6」と呼ぶ場合がある。)を含んでいる。発明者らは、実際のシリカ配合ゴム中でのシリカの配列を完全に解明し得てはいないが、透過型電子顕微鏡による測定等の種々の解析でシリカ配置を特定したところ、概ね、シリカ配合ゴムのシリカ粒子は、その約30%程度が界面結合材を介して他のシリカと紐状に連結されたネットワーク構造を有することを知見した。これは、界面結合剤同士が縮合反応により結合したためと考えられる。また、縮合反応を起こした界面結合剤は、架橋剤として働き、シリカ周辺の架橋密度を高めることも判明している。従って、上述のようなネットワーク構造は、シリカ粒子間の距離を小さく維持してゴムの変形に対する抵抗となり、シリカ粒子自体の補強効果との相乗作用により、ゴム全体をさらに固くする役割を担っていると考えられる。従って、ゴム中のシリカ粒子の配置をゴム材料モデル2に正確に取り込むことは、さらに精度の高いシミュレーションを実現するのに役立つ。この効果については、後の実施例で明らかにする。
【0043】
本実施形態において、前記紐状体6は、任意の軸線方向に関して、ゴム材料モデル2の領域の全範囲を連続してのびている。即ち、この実施形態では、各紐状体6は、引張シミュレーションの引張方向であるy軸方向に沿って直線状に上下にのびる。また、紐状体6は、x軸方向に間隔を開けて複数本が設けられるのが望ましい。なお、紐状体6が「ゴム材料モデル2の領域の全範囲を連続してのびる」とは、紐状体6の両端それぞれの界面モデル5a、5bが微視構造1の任意の方向(この例ではy軸方向)の端部2A、2Bに接しており、その間で界面モデル5が途切れることなく連結されていることを意味している。
【0044】
紐状体6の形状は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、図8に示されるように、紐状体6は、微視構造のセル中のy軸方向の全領域を右下がりにのびる第1部分7と、この第1部分7に交差してy軸方向の全領域を左下がりにのびる第2部分8とを含む略X字状のランダムな配置をとることもできる。また、紐状体6は、さらに複雑な屈曲形状をとることもできる。
【0045】
また、界面モデル5にも、マトリックスゴム3及びシリカモデル4同様、その物性についてのパラメータ(密度、弾性率等)が入力される。しかしながら、界面モデル5の物性を直接測定して調べることは現実的には困難である。従来では、シミュレーションの解析対象となるゴム材料モデルと同等のシリカ配合ゴムと同じような変形挙動(例えば同じような引張試験の結果が得られるような挙動)となるように、界面モデル5の物性に関するパラメータが設定されている。しかしながら、このようなパラメータの入力では、試験条件が異なると、計算精度が大きく悪化する場合がある。そこで、本実施形態では、界面モデル5の物性については、以下で説明されるような工程に従って、界面モデル5の物性のパラメータを決定している。
【0046】
先ず、解析対象のゴム材料モデルと同じ配合を有する第1の未加硫ゴム組成物と、該第1の未加硫ゴム組成物から界面結合剤のみを除いた配合を有する第2の未加硫ゴム組成物とが少なくとも準備される。なお、第1の未加硫ゴム組成物には、界面結合剤が8wt%及び硫黄が1phr含まれているものとする。第1の未加硫ゴム組成物と第2の未加硫ゴム組成物とは、界面結合剤の有無のみで異なっており、残余の配合は同一である。本実施形態では、より好ましい態様として、第1の未加硫ゴム組成物とは異なる配合量の界面結合剤を含む複数種類の他の未加硫ゴム組成物も準備される。これらの各ゴム組成物は、バンバリーミキサーなどで十分かつ均一に混練された状態で準備される。
【0047】
次に、各未加硫ゴム組成物をそれぞれ溶剤に浸漬することにより、少なくとも第1及び第2の未加硫ゴム組成物からそれぞれマトリックスゴムを除去した第1及び第2の残留物を得る工程が行われる。一例として、塊状の前記各未加硫ゴム組成物を例えば150メッシュ程度の金網カゴに入れ、これを室温環境下でトルエンに約48時間浸漬させる。これにより、各組成物からマトリックスゴムがトルエン中に溶出する。従って、金網カゴの第1の未加硫ゴム組成物からは、シリカ、界面結合剤、硫黄及びその他の添加剤を含む第1の残留物が得られる。他方、金網カゴの第2の未加硫ゴム組成物や他の未加硫ゴム組成物からは、シリカ、硫黄及びその他の添加剤を含む第2の残留物が得られる。
【0048】
なお、加硫ゴムでは、マトリックスゴムを溶剤に溶出させることができないので、上記工程では、加硫前のゴム組成物が用いられる。また、上記第1の残留物は、マトリックスゴムを実質的に又は完全に含まないため、前記ゴム材料モデル2からマトリックスモデル3を除いて得られるシリカモデル4及び界面モデル5の結合物と等価なものと見なすことができる。従って、後述するように第1の残留物を利用することで、より正確な界面モデル5のパラメータを設定することができる。
【0049】
次に、本実施形態では、各残留物(本実施形態では、第1、第2及び他の残留物)について、例えば粘弾性試験が行われ、それぞれのtanδのピーク温度が測定される。この測定では、例えば金網カゴに残存しているシリカと界面結合剤とを主体的に含む残留物をプレスしてバルク状のサンプルを得、このサンプルから加硫ゴムの粘弾性試験で用いられるのと同様の試験片を切り出して測定が行われる。なお、tanδの測定条件は、次の通りである。
初期ひずみ:10%
変形モード:引張
周波数:10Hz
片振幅:1%
【0050】
次に、本実施形態では、上記測定されたtanδのピーク温度の結果等に基づいて前記ピーク温度の差T2−T1を推定する工程が行われる。図9(a)は、各残留物について、tanδのピーク温度と、界面結合材の配合量との関係を示すグラフである。この実施形態では、得られたデータについて線形近似を行うことにより、残留物のtanδのピーク温度と界面結合剤との関係を示す近似直線が計算されている。近似直線は、y=0.8167x−38.396で表される。近似直線の精度を高めるためにも、本実施形態のように他の残留物を含むのが望ましい。また、前記近似直線を用いると、第2の残留物のtanδのピーク温度T2と第1の残留物のtanδのピーク温度T1との差T2−T1は、約6.5336℃と推定できる。なお、温度の差T2−T1を推定する工程は、このような線形の近似直線を用いる場合のみならず、二次以上の近似曲線を用いても良いのは言うまでもない。
【0051】
次に、前記第1の未加硫ゴム組成物からシリカを除いた配合の基本の加硫ゴム材料が準備される。また、この基本の加硫ゴム材料の他にも、該基本の加硫ゴム材料とは架橋密度のみが異なる複数種類の加硫ゴム材料が準備される。そして、これらの各加硫ゴム材料について、例えば粘弾性試験を行い、前記各加硫ゴム材料のtanδのピーク温度が測定される。測定条件は、上記の通りである。
【0052】
図9(b)は、各加硫ゴム材料について、tanδのピーク温度と、架橋密度(これは、硫黄量で便宜的に表される。)との関係を示すグラフである。この実施形態では、得られたデータについて線形近似を行うことにより、加硫ゴム材料のtanδのピーク温度と架橋密度(硫黄量)との関係を示す近似直線が計算されている。近似直線は、y=3.0159x−37.906で表される。なお、この加硫ゴム材料についても、近似直線の精度を高めるために、サンプル数を多く確保することが望ましい。
【0053】
次に、前記加硫ゴム材料のtanδのピーク温度と架橋密度(硫黄量)との関係から、tanδのピーク温度が前記基本の加硫ゴム材料(硫黄量:1phr)のtanδのピーク温度T3に前記差T2−T1を加えた温度(T3+T2−T1)に等しい加硫ゴム材料の架橋密度(硫黄量)が特定される。この実施形態において、基本の加硫ゴム材料は、硫黄量1phrであるため、そのtanδのピーク温度T3は前記近似式から−28.3565℃になる。従って、温度(T3+T2−T1)は、−28.3565℃になる。従って、この温度を前記近似式に代入して変数xを求めると、その値は約3.17になる。この値は、tanδのピーク温度が、温度T3+T2−T1である加硫ゴム材料の硫黄量(phr)と推定(特定)できる。
【0054】
従って、上記で特定された架橋密度(硫黄量)の加硫ゴム材料の物性を調べ、それに基づいて前記界面モデル5の物性に関する前記パラメータを定義することができる。
【0055】
このように、本実施形態では、硫黄を1phr含む残留物の界面結合剤を0wt%(界面結合剤の影響なしでマトリックスゴムと性質同等)から8wt%としたときのtanδのピーク温度の上昇量T2−T1と、シリカ及び界面結合材を含まずかつ硫黄の配合量が1phrからいくらか増量させたとき(この例では2.17phrの増量させたとき)の加硫ゴムのtanδのピーク温度の上昇量とが一致するとき、その加硫ゴムの物性を界面モデルの物性として定義している。即ち、シリカの界面結合剤に由来している界面モデルの架橋密度を、硫黄量を用いて近似的に見積もっている。種々の実験の結果、界面結合剤を配合することによる残留物のtanδのピーク温度の上昇量と、硫黄を配合することによる加硫ゴムのtanδのピーク温度の上昇量とは相関があることが判明している。従って、このようにしてパラメータを決定することでより精度の良い計算結果が得られる。
【0056】
よって、上述の加硫ゴム材料が特定できれば、その物性を種々測定し、それらの値に基づいて前記界面モデル5のパラメータを容易に定義することができる。例えば、上記工程で求まった架橋密度(平均架橋密度)となるように、シリカを配合していない架橋ゴムを別途作成し、それについて再度、物性試験を行い、その物性を界面モデル5の物性値のパラメータとして決定することができる。
【0057】
次に、ゴム材料モデル2を変形させるための変形条件が設定される(ステップS2)。本実施形態では、図3のy方向に任意の平均ひずみ速度を加えてゴム材料モデル2に引張変形を与える条件が定義される。ただし、変形条件は種々定めうるのは言うまでもない。
【0058】
次に本実施形態のシミュレーション方法では、上述のように設定されたゴム材料モデル2を用いて変形シミュレーションが行われる(ステップS3)。変形シミュレーションの具体的な処理手順は、図10に示される。変形シミュレーションでは、先ずゴム材料モデル2の各種のデータがコンピュータ装置1に入力される(ステップS31)。入力されるデータには、各要素に定義された節点の位置や材料特性といった情報が含まれる。
【0059】
コンピュータ装置1では、入力されたデータに基づいて各要素の剛性マトリックスを作成し(ステップS32)、しかる後、全体構造の剛性マトリックスが組み立てられる(ステップS33)。全体構造の剛性マトリックスには、既知節点の変位、節点力が導入され(ステップS34)、剛性方程式の解析が行われる。そして、未知節点変位が決定され(ステップS35)、各要素のひずみ、応力、主応力といった物理量を計算し、出力する(ステップS36ないし37)。
【0060】
ステップS38では、計算を終了させるか否かの判定がなされ、否定的である場合には、ステップS32以降が繰り返される。このようなシミュレーション(変形計算)は、例えば有限要素法を用いたエンジニアリング系の解析アプリケーションソフトウエア(例えば米国リバモア・ソフトウェア・テクノロジー社で開発・改良されたLS−DYNA等)を用いて行うことができる。
【0061】
また、本シミュレーションは、均質化法(漸近展開均質化法)に基づいて行われる。均質化法は、図11に示されるように、図3に示した微視構造(均質化法では「ユニットセル」とも呼ばれる)を周期的に持っているゴム材料全体Mを表現するxI と、前記微視構造を表現するyI との独立した2変数が用いられる。微視的スケールと巨視的スケールという異なる尺度の場におけるそれぞれ独立した変数を漸近展開することにより、図3に示した微視構造のモデル構造を反映させたゴム材料全体の平均的な力学応答を近似的に求めることができる。
【0062】
前記変形計算が行われると、その結果から必要な物理量を取得することができる(ステップS4)。物理量としては、シリカ配合ゴムの変形挙動を調べるために、応力−ひずみ曲線が特に有効である。また、前記ゴム材料モデル2の各要素の時系列的な変形状態や物理量の分布を視覚化して表示することもできる。この際、各要素には、応力に応じた着色を施すことが望ましい。
【0063】
そして、本実施形態では、上述のような界面モデル5を含むゴム材料モデル2を用いてシミュレーションを行うことにより、これまで以上に精度良い計算結果が得られる(後述の実施例参照)。これは、外力が加えられたときのシリカとマトリックスゴムとの界面挙動は勿論のこと、シリカ粒子間の動きが現実のゴム材料の内部での挙動と近似しているためと推測できる。
【0064】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、種々の態様に変形して実施することができる。
【実施例】
【0065】
1)解析モデル
図12(a)〜(e)に示した微視構造のモデル1〜5をそれぞれ周期的に持っているシリカ配合ゴム材料の全体巨視的モデルが設定された。
【0066】
2)8鎖モデルの具体的構成式
この実施例では、ゴムの粘弾性挙動をさらに正確に記述するために、図13に示されるように、粘弾性8鎖モデルとダンパーで構成されるモデルとを用いた。実際のゴムの分子鎖は、周囲の分子鎖との摩擦に起因した粘性を持っている。このような摩擦を表現するために、8鎖モデルAの各分子鎖に、粘性抵抗をもつバネ・ダンパーの標準モデルが導入された。従って、単分子鎖の二つの接合点を結ぶ方向に伸びλc を加えた場合に生じる応力σcは、前記式(1)から次式で表すことができる。
【0067】
【数2】

【0068】
また,図13に示す単分子鎖の各要素のストレッチをλα、λβ、λγとすると、λα=λcである。その他の添え字α、β、γについても,図13に示す要素と対応させている.ただし,λc=λβ・λγである。
【0069】
また、変形前の体積を基準とした単位体積当たりの仕事に相当するひずみエネルギー密度関数Wを用いると、応力σcは、次式のように表される。
【0070】
【数3】

【0071】
上記2つの式より、恒等的に次式が成り立つ。
【0072】
【数4】

【0073】
また、8鎖モデルの場合、主ストレッチをλ1、λ2、λ3とすると、分子鎖のストレッチλcは、√{(λ12+λ22+λ32)/3}と表すことができるので、下式が成り立つ。
【0074】
【数5】

【0075】
上記3つの式より、上記8鎖モデルAの主ストレッチ方向の応力σiAと、ストレッチλiとは次の関係で与えられる。
【数6】

【0076】
また、上記8鎖モデルBの主ストレッチ方向の応力σiBと、ストレッチλi’とは次の関係で与えられる。
【数7】

【0077】
また、この実施例では、非圧縮性ゴム材料を扱うものとする。従って、非圧縮性を満たすために静水圧pを用いる。このとき、上の2つの式を用いると、非圧縮性ゴム材料の構成式は、次のようになる。
σi=σiA+σiB−p
【0078】
また、上記構成式の速度形式は、次のように表すことができ、この実施例ではこの式が用いられる。
【数8】

【0079】
3)マトリックスモデルの1本の分子鎖の平均セグメント数N
下式が採用された。
N(λc )=N0+f(λc)
=N0+a0+a1λc+a2λc2
ここで、f(λc)の具体的な関数の決め方の一例について述べる。まず、マトリックスモデルの材料変形に伴うからみ点の変化は、λc(伸び)のみに依存する。従って、最初に、シリカ未充填の純ゴムでの応力−ひずみ曲線をうるシミュレーションを行ない、その結果が実際の純ゴムの試験結果と整合するようにf(λc)の係数が決定される。先ず、1回目の負荷変形サイクルでは、負荷時のからみ点数が変化(減少)し、除荷時は、除荷開始時の値から変化しないものとする。そして、シミュレーションの結果と、実際の試験結果とが整合するよう、前記関数f(λc)の係数が決定される。なお、一旦、除荷された後の再負荷時においては、からみ点数の変化は不可逆的なものとする。即ち、再負荷時において、前回の負荷変形サイクルで到達した最大伸び以下の変形領域では、平均セグメント数Nは変化しないものとする。つまり、1回目の変形サイクルの除荷と、2回目の変形サイクルの再負荷でのNの値は同一になる。そして、さらに変形が進み、1回目の変形サイクルで経験した最大伸びを超えた場合、Nの値が再び変化(減少)するものとして定められる。なお、本実施形態では上式の定数部などを次のように定めた。
0=1.20
1=−2.19
2=0.99
[要素A]
RβA=0.22MPa
初期セグメントNA0=14
総セグメント数N=7.54×1026
[要素B]
RαB=0.22MPa
初期セグメントNB0=14
[粘弾性要素]
1A=5.0×105
2A=−0.5
A=3.5
1D=3.0×105
2D=−0.5
D=5.5
【0080】
4)界面モデル
次のように定数等を設定した。
N=N0
初期セグメント数(N=N0):8.0(固定値)
総セグメント数NA:7.54×1026
界面部の厚さ:シリカモデルの径の10%
第1の接続部の幅T1:シリカモデルの径の20%
第2の接続部の幅T2:シリカモデルの径の35%
αRs =0.385MPa
【0081】
5)シリカモデルなどのパラメータ
粒子径は全て同一
シリカモデルの縦弾性率:100MPa
シリカモデルのポアソン比:0.3
シリカモデルの体積含有率μ:20%
【0082】
6)他の条件
材料温度:T=296K
B =1.38066×10-29
ペナルティ定数:100
カップリング剤の含有率:8wt%
【0083】
7)変形条件
上記巨視的モデルに一様な一軸引張変形を発生させるため、図11のx2方向に一定の変形速度100mm/minを加え、伸びが20%になるまで変形を与えた。なお上記巨視的モデルは、厚さ方向(図3のZ軸方向)に変化しないように8鎖モデルを用いた分子鎖網目理論に基づいて計算を行った。
【0084】
8)計算結果
図14には、実施例、比較例の各ゴム材料モデルの応力−伸び曲線について、シミュレーションと実験値とが記載されている。図14から明らかなように、実施例のモデルは、いずれも従来例に比して、実験値と非常に相関が高いことが確認できた。特に、引張方向に沿って直線状でかつゴム材料モデルの領域の全範囲を連続してのびるモデル1及びモデル3の精度が特に良好であることが確認できた。一方、比較例のモデルは、実施例に比べると、実験値に比べて相関が低いことが確認できる。
【符号の説明】
【0085】
1 コンピュータ装置
2 ゴム材料モデル
3 マトリックスモデル
4 シリカモデル
5 界面モデル
6 紐状体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムと、シリカと、これらを結合する界面結合剤とを含むゴム材料を数値解析が可能な要素でモデル化したゴム材料モデルを設定するステップと、
前記ゴム材料モデルに条件を設定して変形計算を行うステップと、
前記変形計算から必要な物理量を取得するステップとを含むゴム材料のシミュレーション方法であって、
前記ゴム材料モデルは、ゴムマトリックスをモデル化したマトリックスモデルと、
前記マトリックスモデル中に配置されかつ前記シリカをモデル化した複数個のシリカモデルと、
前記各シリカモデルの周りを環状に取り囲みかつ前記マトリックスモデルよりも硬い物性が定義された界面モデルとを含むとともに、
前記シリカモデルは、前記界面モデルを介して紐状に連結された複数個を含むことを特徴とするゴム材料のシミュレーション方法。
【請求項2】
前記紐状に連結されたシリカモデルは、任意の軸線方向に関して、ゴム材料モデルの領域の全範囲を連続してのびる請求項1記載のゴム材料のシミュレーション方法。
【請求項3】
前記ゴム材料モデルを設定するステップは、前記界面モデルに物性のパラメータを決定するパラメータ決定工程を含み、
該パラメータ決定工程は、
解析対象となる前記ゴム材料モデルと同じ配合を有する第1の未加硫ゴム組成物と、該第1の未加硫ゴム組成物から界面結合剤を除いた配合の第2の未加硫ゴム組成物とを少なくとも準備する工程と、
前記第1及び第2の未加硫ゴム組成物をそれぞれ溶剤に浸漬することにより、該第1及び第2の未加硫ゴム組成物からそれぞれマトリックスゴムを除去した第1及び第2の残留物を得る工程と、
少なくとも前記第2の残留物のtanδのピーク温度T2と、前記第1の残留物のtanδのピーク温度T1とを測定し、これらに基づいて前記ピーク温度の差T2−T1を推定する工程と、
前記第1の未加硫ゴム組成物からシリカを除いた配合の基本の加硫ゴム材料を少なくとも含むとともに該基本の加硫ゴム材料とは架橋密度のみが異なる複数種類の加硫ゴム材料を準備する工程と、
前記各加硫ゴム材料のtanδのピーク温度を測定し、前記加硫ゴム材料のtanδのピーク温度と架橋密度との関係を得る工程と、
前記関係から、tanδのピーク温度が前記基本の加硫ゴム材料のtanδのピーク温度T3に前記差T2−T1を加えた温度に等しい加硫ゴム材料の架橋密度を特定する工程と、
前記特定された架橋密度の加硫ゴム材料の物性に基づいて前記界面モデルの前記パラメータを定義する工程とを含む請求項1又は2記載のゴム材料のシミュレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−242336(P2011−242336A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116597(P2010−116597)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】