説明

ゴム物品補強用コードの改質方法および改質ゴム物品補強用コード

【課題】 接着剤液の含浸とともに行うコードの改質を、より高効率化することができるゴム物品補強用コードの改質方法、およびこれにより得られる改質ゴム物品補強用コードを提供する。
【解決手段】 ゴム物品補強用としての有機繊維コード1を接着剤液14で含浸処理する含浸処理工程を含むゴム物品補強用コードの改質方法である。ゴム物品補強用コード1に対し複数のレーザー光源20からのレーザー照射を行う熱処理工程を含む。上記改質方法により得られる改質ゴム物品補強用コードである。4×10-2N/dtexのときの中間伸度が2〜4%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム物品補強用コード(以下、単に「コード」とも称する)の改質方法および改質ゴム物品補強用コードに関し、詳しくは、タイヤ等のゴム物品の補強に用いられるコードを高機能化するためのゴム物品補強用コードの改質方法およびこれにより得られる改質ゴム物品補強用コードに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤを始めとするゴム物品補強用として用いられるポリエステルやポリアミド(ナイロン)等の有機繊維コードは、通常、ゴムとの接着のためにレゾルシン・ホルマリン/ゴムラテックス(RFL)液等の接着剤液を含浸した後、乾燥、熱処理を施すことにより改質されて、補強用コードとしての所望のコード性能を付与される。このコード改質工程は、従来、有機繊維コードに対し張力をかけながら熱延伸していく方法により行われることが一般的である。
【0003】
この際、従来の熱延伸装置では、内部の熱処理ゾーンを空気加熱により加温して、この熱処理ゾーンにコードを通過させることで有機繊維コードを熱延伸している。かかる熱処理の主な目的としては、生コードの高弾性化、低熱収縮化等を行うためのコード改質と、コードと接着剤液の定着とを図ることにある。
【0004】
一方、有機繊維の改質に係る技術として、例えば、特許文献1〜3には、ポリエステル繊維の製造方法において、延伸時にレーザー光を照射する技術が記載されており、また、特許文献4および5には、熱可塑性樹脂に対しレーザー光を照射する工程を含む熱可塑性合成繊維の製造方法、および、熱可塑性合成樹脂からなるフラットヤーンの製造方法が夫々記載されている。
【特許文献1】特開昭61−75811号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2001−348727号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開2002−242040号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献4】特開2002−194761号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献5】特開2002−363820号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような空気加熱を用いた方法により有機繊維コードの改質を行う場合には、伝熱媒体が空気であるため、伝熱手段が対流伝熱に限られてしまい、大半の熱エネルギーが大気中に放出されることになる。そのため、コードに十分な量の熱エネルギーを与えて所望の改質を行い、工業的に大量生産するためには、改質機を大型化することが必要となっていた。
【0006】
そこで本発明の目的は、接着剤液の含浸とともに行うコードの改質を、より高効率化することができるゴム物品補強用コードの改質方法、およびこれにより得られる改質ゴム物品補強用コードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、コードの改質手段としてレーザーを利用することにより、コード改質処理の高効率化を図ることが可能となることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明のゴム物品補強用コードの改質方法は、ゴム物品補強用としての有機繊維コードを接着剤液で含浸処理する含浸処理工程を含むゴム物品補強用コードの改質方法において、
前記ゴム物品補強用コードに対し複数のレーザー光源からのレーザー照射を行う熱処理工程を含むことを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の改質ゴム物品補強用コードは、上記本発明のゴム物品補強用コードの改質方法により得られる改質ゴム物品補強用コードであって、4×10-2N/dtexのときの中間伸度が2〜4%であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、接着剤液塗布後のコードの改質を複数のレーザー光源からのレーザー照射を用いて行うものとしたことにより、改質工程の高効率化を図ることが可能となった。なお、前述したように、有機繊維をレーザー照射により処理する技術は上記特許文献1〜5等により公知であるが、これら公報に記載の技術はいずれも、合成繊維自体の製造工程において、延伸時にレーザー照射を適用するものであり、ゴム物品補強用としての有機繊維コードの改質においてレーザー照射を適用することにより優れた効果が得られることは、これまで得られていなかった知見である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
本発明のゴム物品補強用コードの改質方法は、ゴム物品補強用としての有機繊維コードを接着剤液で含浸処理する含浸処理工程を含むものであり、さらに、熱処理工程として、かかるゴム物品補強用コードに対し複数のレーザー光源からのレーザー照射を行う点に特徴を有する。
【0012】
図1に、本発明の改質方法に係るレーザーを利用したゴム物品補強用コードの処理機10の概略図を示す。本発明に係る熱処理は、例えば、図示する処理機10において行うことができる。図示するように、処理機10においては、巻出ロール11から巻き出されたコード1に対し、延伸ロール12により張力をかけながら、保温ボックス13内で複数のレーザー光源20からのレーザー照射により熱処理を行った後、接着剤液14による含浸処理を行う。含浸処理後のコード1は、乾燥ゾーン15で乾燥されて、巻取ロール16に巻き取られる。ここで、保温ボックス13は、レーザー加熱による発熱を保持し、かつ、レーザー光を外部に漏らさないために用いられる。なお、本発明に係る熱処理工程は、含浸処理工程の前後のいずれにおいて行ってもよいが、好ましくは図示するように、含浸処理工程前に行う。
【0013】
この場合、図3に示すように、1基のみのレーザー光源20を用いたレーザー照射により、コード改質を行うことも考えられる。これによっても一定の効果は得られるが、この場合、処理速度を上げると、所望のコード中間伸度を得るためにはレーザー出力を増大させる必要があり、このとき、中間伸度の低下とともに破断強力の低下が引き起こされるという問題が生ずる。この場合、得られる改質コードにより補強を行ったゴム物品、例えば、タイヤの耐久性をも低下してしまう可能性がある。これは、高出力レーザーをコードの一点に集中して照射するために、コードが均一に加熱されないことが原因となっているものと考えられる。そのため本発明においては、高出力レーザー1基に代えて、低出力レーザーを複数用いてレーザー照射を行うことで、コードの均一な加熱を実現したものである。
【0014】
具体的には、図示するように、複数のレーザー光源20からのレーザー照射を、コードの長手方向略同一点に対し同時に行う。複数のレーザー光源20を用いて、コード一本ごとに、その全周からレーザーを照射することによって、コード1を偏りなく均一に加熱することが可能となる。従って、処理速度を高めて改質工程のさらなる高効率化を図っても、破断強度の低下等の問題を引き起こすことがなく、従って、改質コードを適用したゴム物品における耐久性の低下についても防止することが可能となる。特には、図2(a)、(b)のレーザー照射部におけるコード断面の概略図に示すように、3ないし4基のレーザー光源20を用い、これらをコード1の周方向に略等間隔に配置して加熱することが好ましく、これにより、本発明に係る熱処理条件を最適化することができる。
【0015】
具体的な処理条件としては、かかる熱処理工程において、含浸処理されたゴム物品補強用コードに対し、コード質量あたり250〜38000kJ/kgのエネルギーを付与することが好ましい。250kJ/kgとは、ポリエステルの一種であるポリエチレンテフタレート(PET)を融解させるのに必要なエネルギー量であり、一方、38000kJ/kgとは、従来の熱処理方法で付与されているエネルギー量であるので、この範囲内程度のエネルギー量をコードに付与することで、従来方法と同等の改質効果を得ることができる。かかる付与エネルギー量は、レーザー出力および処理速度、即ち、熱処理工程におけるコードの速度を適宜調整することにより制御することができる。
【0016】
レーザーの出力および熱処理工程におけるコードの速度は、必要な付与エネルギー量に合わせ適宜設定することができ、特に制限されるものではないが、例えば、レーザーの出力は10〜30Wの範囲内とすることができ、また、熱処理工程におけるコードの速度は5〜100m/minの範囲内とすることができる。レーザー出力およびコード速度をそれぞれこの程度の範囲内とすることにより、コードの改質を、高効率でかつ十分に行うことが可能となる。特に、本発明は、コード速度を25m/min以上とした場合において、より効果的であり、この程度まで処理速度を高めてもコードに対し十分な量の熱エネルギーを付与することができるため、破断強度の低下等の問題を引き起こすことなくより高効率でコードの改質を行うことが可能となる。
【0017】
本発明に用いることのできるレーザー光源としては、上記処理条件を満足させるために、処理される有機繊維コードに吸収される波長のもの、即ち、主として赤外線領域のレーザーであって、かつ、上記好適範囲程度の出力が得られるものを用いることが必要であり、例えば、波長10600nmのCO2レーザーなどを好適に用いることができる。
【0018】
本発明においては、上記のような熱処理工程により改質を行うことで、4×10-2N/dtex(66N/1670dtex)のときの中間伸度が2〜4%である改質ゴム物品補強用コードを得ることができる。これに対し、未改質コード(生コード)の中間伸度は、5〜7%程度である。
【0019】
本発明は、接着剤液による含浸処理工程とともに行うゴム物品補強用コードの熱処理による改質方法の改良に係る技術であり、かかる改質を複数のレーザー光源からのレーザー照射を用いた熱処理工程により行う以外の点については特に制限されるものではない。例えば、本発明を適用可能なゴム物品補強用の有機繊維コードとしては、ポリアミド(ナイロン)、レーヨン、ポリエステル、芳香族ポリアミド、高強度高弾性率ポリビニルアルコール繊維等のコードを用いることができる。また、本発明において得られる改質ゴム物品補強用コードは、タイヤを初めとする各種ゴム物品に使用することが可能である。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
実施例、比較例および参考例
下記に示すコード条件を備える有機繊維コードを測定に用いた。
・材質:PET
・原糸繊度:1670dtex
・撚本数:2本
・上撚数×下撚数:39本×39本
【0021】
上記有機繊維コードをRFL液で含浸処理した後、下記の表1中に夫々示す条件にて、実施例については4基のレーザー光源を用いてレーザー照射(レーザー光源:CO2レーザー(波長:10600nm、ビーム径:6mm)使用)を行うことにより、コード改質を行った(図2(b)参照)。また、比較例1については上記レーザー照射に代えて従来の加熱空気を用いた熱処理を行うことにより、比較例2については1基のみのレーザー光源を用いてレーザー照射を行うことにより、それぞれコード改質を行った。さらに、参考例は、未熱処理の生コードの中間伸度データを示す。
【0022】
【表1】

【0023】
上記表1中の結果からわかるように、複数のレーザー光源を用いたレーザー照射により熱処理を行った実施例においては、短時間でかつ確実に、十分な量の熱エネルギーをコードに付与することができ、過熱空気を用いた比較例1に比し高効率でコードを改質できることが確かめられた。また、低出力レーザーによる処理であることから、処理速度(コード速度)を25m/minと比較的速くしても、高出力レーザー1基のみを用いた比較例2のような破断強力の低下を生ずることなく、所望の中間伸度が得られることが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るレーザーを利用したコード処理機を示す概略図である。
【図2】(a)、(b)は、本発明の好適実施形態に係るレーザー照射部におけるコード断面を示す概略図である。
【図3】レーザーを利用した他のコード処理機を示す概略図である。
【符号の説明】
【0025】
1 ゴム物品補強用コード
10 コード処理機
11 巻出ロール
12 延伸ロール
13 保温ボックス
14 接着剤液
15 乾燥ゾーン
16 巻取ロール
20 レーザー光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム物品補強用としての有機繊維コードを接着剤液で含浸処理する含浸処理工程を含むゴム物品補強用コードの改質方法において、
前記ゴム物品補強用コードに対し複数のレーザー光源からのレーザー照射を行う熱処理工程を含むことを特徴とするゴム物品補強用コードの改質方法。
【請求項2】
前記複数のレーザー光源からのレーザー照射を、前記ゴム物品補強用コードの長手方向略同一点に対し同時に行う請求項1記載のゴム物品補強用コードの改質方法。
【請求項3】
3ないし4基のレーザー光源を用いる請求項1または2記載のゴム物品補強用コードの改質方法。
【請求項4】
前記レーザーの出力を10〜30Wとする請求項1〜3のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用コードの改質方法。
【請求項5】
前記熱処理工程における前記ゴム物品補強用コードの速度を、5〜100m/minとする請求項1〜4のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用コードの改質方法。
【請求項6】
請求項1〜5のうちいずれか一項記載のゴム物品補強用コードの改質方法により得られる改質ゴム物品補強用コードであって、4×10-2N/dtexのときの中間伸度が2〜4%であることを特徴とする改質ゴム物品補強用コード。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−52474(P2006−52474A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−232549(P2004−232549)
【出願日】平成16年8月9日(2004.8.9)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】