説明

ゴム積層体の製造方法、ゴム積層体、それを用いたゴム成形品及びタイヤ

【課題】充填材としての気相成長炭素繊維に損傷を与えることなく、優れた熱・電気伝導性を有するゴム積層体の製造方法、ゴム積層体、それを用いたゴム成形品及びタイヤを提供する。
【解決手段】未加硫ゴムシート上に気相成長炭素繊維を散布し、さらにその上に未加硫ゴムシートを積層するゴム積層体の製造方法である。気相成長炭素繊維の散布と、未加硫ゴムシートの積層を複数回繰り返すことが好ましい。ゴム積層体の製造方法により製造されたゴム積層体である。ゴム積層体をプレス加硫して得られるゴム成形品である。ゴム積層体を用いたタイヤである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム積層体の製造方法、ゴム積層体、それを用いたゴム成形品及びタイヤに関し、詳しくは、充填材としての気相成長炭素繊維に損傷を与えることなく、優れた熱・電気伝導性を有するゴム積層体の製造方法、ゴム積層体、それを用いたゴム成形品及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム業界においては、従来、所定のゴム物性を得ることを目的として、ゴム成分に対し炭素繊維を配合することが一般的に行われている。特に、所定形状の炭素繊維を配合することにより所望の物性を有するゴム組成物を得る技術については、これまでに種々提案されてきている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ゴム成分に対し、シリカ質充填材に加えて所定の平均直径の気相成長炭素繊維を配合することで、シリカ配合による特性を低下させることなく導電性の向上を図った帯電防止性ゴム組成物が記載されている。当該文献には、用いる気相成長炭素繊維の平均直径が0.01〜3μm、特には0.05〜0.5μmの範囲内にあることで、ゴムを混練する際に気相成長炭素繊維が破砕されず、上記目的を良好に達成することができる一方、気相成長炭素繊維の平均直径が0.01μm未満であると、ゴムの混練の際に、気相成長炭素繊維がゴム中に良好に分散せずに凝集してしまう傾向を生じ、また、気相成長炭素繊維の平均直径が3μmを超えると、ゴムとの混練に際し気相成長炭素繊維が破砕されてしまう傾向を生じることがある旨も記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、弾性材料に対し、充填材として、所定の寸法を有する炭素繊維とカーボンブラックとが配合されてなる弾性体組成物が記載されており、炭素繊維としては、好適には長さ0.1〜30μm、直径2〜60nmの中空繊維であるいわゆるカーボンナノチューブや、気相成長法で製造されてなる、長さ1〜50μm、直径0.05〜0.5μmの繊維、いわゆる気相成長炭素繊維が好適であることも記載されている。
【0005】
さらに、ゴムに導電性・熱伝導性を付与するために、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブなどを複合化する技術として、特許文献3には、ジエン系ゴムと硫黄と繊維状フィラーとを配合してなるゴム組成物であって、上記繊維状フィラーとして、高アスペクト比フィラーと低アスペクト比フィラーとの2種を併用してなることを特徴とするロール成形用ゴム組成物が記載されている。この技術においては、気相成長炭素繊維配合ゴムの熱伝導性は卓越しているため、タイヤトレッド等に用いた場合、ゴム製品内部の熱を効率よく製品外部に逃がすことが期待され、タイヤの耐久性向上が期待される。
【0006】
一方、特許文献4には、混練によるゴム物性への影響を排除して、混練条件を変えた場合であっても、所望のゴム物性を確実に実現することができるゴム組成物を得ることを目的として、ゴム成分と、気相成長炭素繊維とを含むゴム組成物であって、混練後における前記気相成長炭素繊維の、長さが0.5〜1000μmの範囲内であり、かつ、直径が0.01〜50μmの範囲内であることを特徴とするゴム組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−127674号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】国際公開第03/050181号(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開2007−217458号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献4】特開2007−45942号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の従来技術では、ゴム成分に気相成長炭素繊維を配合し混練り加工する場合、練り時に材料が受ける剪断力により、気相成長炭素繊維の一部が破断、層状剥離、あるいは欠けなどの破壊を受け、気相成長炭素繊維素材の持つ優れた熱・電気伝導性が損なわれる場合があった。また、特許文献4記載の方法は、混練後の気相成長炭素繊維の長さ等を制限するものであり、気相成長炭素繊維の長さ等にとらわれない対策が望まれていた。
【0009】
そこで、本発明の目的は、充填材としての気相成長炭素繊維に損傷を与えることなく、優れた熱・電気伝導性を有するゴム積層体の製造方法、ゴム積層体、それを用いたゴム成形品及びタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、ゴム成分と気相成長炭素繊維とを混練りしない所定の製法を採用することで前記課題を解決し得ることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明のゴム積層体の製造方法は、未加硫ゴムシート上に気相成長炭素繊維を散布し、さらにその上に未加硫ゴムシートを積層することを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明のゴム積層体の製造方法は、気相成長炭素繊維の散布と、未加硫ゴムシートの積層を複数回繰り返すことが好ましい。
【0013】
さらに、本発明のゴム積層体は、前記ゴム積層体の製造方法により製造されたことを特徴とするものである。
【0014】
さらにまた、本発明のゴム成形品は、前記ゴム積層体をプレス加硫して得られることを特徴とするものである。
【0015】
さらにまた、本発明のタイヤは、前記ゴム積層体を用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、充填材として気相成長炭素繊維に損傷を与えることなくゴム積層体の製造方法を提供することができ、得られたゴム積層体を加硫したゴム成形体は、優れた熱・電気伝導性を有する。よって、このゴム積層体を補強材として用いたタイヤも優れた熱・電気伝導性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態について具体的に説明する。
本発明のゴム積層体の製造方法は、未加硫ゴムシート上に気相成長炭素繊維を散布し、さらにその上に未加硫ゴムシートを積層する。また、得られたゴム積層体をプレス加硫することにより、気相成長炭素繊維の破断・破損を最小限に防ぎつつ、高い熱伝導性を有するゴム成形品を提供でき、特に力学物性の要求レベルが高くなく、気相成長炭素繊維がゴム成形品中に均一に分散していなくてもよい場合に有効である。
【0018】
また、本発明のゴム積層体の製造方法は、気相成長炭素繊維の散布と、未加硫ゴムシートの積層を複数回繰り返すことが好ましい。得られたゴム積層体をプレス加硫したゴム成形品は、気相成長炭素繊維の破損が少なく、気相成長炭素繊維が各層内に連なって存在するため、特に、これらの層に沿って(層と並行方向に)熱や電気を極めて効率的に伝達することができる。
【0019】
本発明において、気相成長炭素繊維の未加硫ゴムシート上への散布とは、所望の効果が得られるように、気相成長炭素繊維が未加硫ゴムシート上である程度連続的に結合して、熱や電気を伝達することができればよく、気相成長炭素繊維が未加硫ゴムシート上の全面を必ずしも覆う必要はなく、散在する気相成長炭素繊維の一部同士が結合していてもよいが、気相成長炭素繊維が未加硫ゴムシート上の全面を覆う層構造を構成していることが好ましい。かかる層構造を構成することにより、よりよく熱や電気を伝達することができる。
【0020】
かかる散布方法としては、例えば、(1)気相成長炭素繊維を乾燥状態で散布する方法、(2)水やアルコールなどの媒体中に分散させてスラリーを作製し、このスラリーを塗布する方法、あるいは(3)バインダーを用いて、気相成長炭素繊維粉体をハンドリングしやすい形状として、コーティングしたシート状気相成長炭素繊維層を作製して積層する方法などが挙げられる。
【0021】
また、本発明においては、気相成長炭素繊維の散布後における未加硫ゴムシートの積層時に、予め散布された気相成長炭素繊維の飛散を防ぐため、未加硫ゴムシート上の気相成長炭素繊維部分をメッシュや不織布などで軽く覆った後に、未加硫ゴムシートを積層していくことも可能である。
【0022】
本発明において使用される気相成長炭素繊維としては、所望の効果が得られれば特に限定されず、例えば、昭和電工株式会社製のVGCF−R(登録商標)およびVGCF−H(登録商標)等が挙げられる。
【0023】
また、かかる気相成長炭素繊維の繊維径は、所望の効果を得る上で、好ましくは5〜40nmである。
【0024】
本発明において使用される未加硫ゴムシートは、ゴム成分を主成分として含むものであり、かかるゴム成分としては、天然ゴム、汎用合成ゴム、例えば、乳化重合スチレン−ブタジエンゴム、溶液重合スチレン−ブタジエンゴム、高シス−1,4ポリブタジエンゴム、低シス−1,4ポリブタジエンゴム、高シス−1,4ポリイソプレンゴム等、ジエン系特殊ゴム、例えば、ニトリルゴム、水添ニトリルゴム、クロロプレンゴム等、オレフィン系特殊ゴム、例えば、エチレン−プロピレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、アクリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン等、その他特殊ゴム、例えば、ヒドリンゴム、フッ素ゴム、多硫化ゴム、ウレタンゴム等を挙げることができる。コストと性能とのバランスから、好ましくは、天然ゴムまたは汎用合成ゴムである。
【0025】
かかる未加硫ゴムシートにおいては、各種充填材を、ゴム成分100質量部に対して0〜120質量部含有することが好適である。更に好適には、充填材として、カーボンブラックおよび/または無機充填材を含有させる。未加硫ゴムシート中にカーボンブラックおよび/または無機充填材が適量含有されていると、より高い補強効果が得られる。カーボンブラックとしては、HAF級のものなど公知のものを使用することができる。また、無機充填材としては、シリカ、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0026】
また、上記未加硫ゴムシートは、上記ゴム成分の他、ゴム業界で通常用いられている各種添加剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜配合することができる。例えば、シランカップリング剤等のカップリング剤、軟化剤、硫黄等の加硫剤、ジベンゾチアジルジスルフィド等の加硫促進剤、N−シクロへキシル−2−ベンゾチアジル−スルフェンアミド、N−オキシジエチレン−ベンゾチアジル−スルフェンアミド等の老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、オゾン劣化防止剤、発泡剤、発泡助剤等が挙げられ、これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、これら各種添加剤としては、市販品を使用することができる。
【0027】
本発明において、気相成長炭素繊維の散布量は、ゴム成分100質量部に対して0.01〜100質量部とすることが好ましく、5〜20質量部とすることがさらに好ましい。0.01質量部未満では所期の性能を十分に得ることができない場合があり、一方、100質量部を超えて含有させても、所期の性能のさらなる向上効果は発現しにくい場合があり、いずれも好ましくない。
【0028】
また、本発明のゴム成形品は、上記ゴム積層体をプレス加硫して得られる。プレス加硫の方法としては、加硫してゴム成形品を得ることができれば特に制限はなく、通常のゴム加硫を行う方法で行なうことができる。
【0029】
さらに、本発明のゴム積層体は、常法に従い適宜装置、条件、手法等にて熱入れ、押出等することにより調製し、タイヤ等の各種ゴム製品に好適に適用することができ、特にタイヤに好適に使用できる。
【0030】
熱入れまたは押出についても、熱入れまたは押出の時間、熱入れまたは押出の装置等の諸条件について特に制限はなく、所望に応じ適宜選択することができる。また、熱入れまたは押出の装置についても、市販品を好適に使用することができる。
【0031】
また、本発明のタイヤは、トレッド、ベルトなどの部材に上記本発明のゴム積層体を補強材として用いたものであればよく、その具体的な構造や他の材料等については特に制限されるものではない。なお、本発明の空気入りタイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0032】
次に、本発明を実施例により更に詳しく説明する。本発明は、この例によって限定されるものではない。
【0033】
実施例1および2
混練り条件
下記の表1に示す各種成分を用いて、ラボプラストミル(東洋精機(株)製)にて、スチレンブタジエンゴム(SBR#1500)を70℃、50rpmで3分間素練りした後、加硫促進剤および硫黄を除く各添加剤を投入して、70℃にて30rpmで更に混合した(ノンプロ配合)。得られた混合物を取り出して、冷却、秤量した後、残りの亜鉛華、加硫促進剤および硫黄を投入し、プラベンダーを用いて、50℃にて30rpmで再度混合した(プロ配合)。
【0034】
未加硫ゴムシート作製条件
混練りした混合物をロールにて1mm厚の未加硫ゴムシートを作製した。
【0035】
加硫ゴムシート(成形品)作製条件
得られた未加硫ゴムシート上に、昭和電工株式会社製のVGCF−R(登録商標)を、下記表1記載の量(質量部)で均一に散布し、もう1枚の同じ組成の未加硫ゴムシートをその上に積層し、所定時間加硫することにより、一体物の加硫ゴムシート(ゴム成形品)を得た。得られた加硫ゴムシートを用い、熱伝導率を評価し、結果を表1に併記する。
【0036】
比較例1〜3
下記の表1に示す各種成分を用いて、上記と同様に混練りおよび未加硫ゴムシート作製を行った。得られた未加硫ゴムシート上に、もう1枚の同じ組成の未加硫ゴムシートをその上に積層し、所定時間加硫することにより、一体物の加硫ゴムシート(ゴム成形品)を得た。得られた加硫ゴムシートを用い、熱伝導率を評価し、結果を表1に併記する。
【0037】
加硫ゴムシートの熱伝導率の測定
京都電子(株)製の迅速熱伝導率計QTM−500を用いて、加硫ゴムシートの熱伝導率を測定し、比較例1の値を100として、評価した。数値が大なる程、結果が良好である。
【0038】
【表1】

*1)カーボンブラック:HAF(シースト3、東海カーボン株式会社製)
*2)気相成長炭素繊維:VGCF−R(昭和電工株式会社製)
*3)老化防止剤:N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン
*4)加硫促進剤:N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジル・スルフェンアミド
【0039】
表1の結果から、実施例1および2では、VGCF−Rが高濃度に層状に配置されるため、電気・熱を効率的に伝える成形体が得られることが分かる。一方、同じ量のVGCF−Rを未加硫ゴムシート中に満遍なく配合した比較例2および3では、混練り加工中にVGCF−Rの破断・破損が発生し、電気・熱伝導性能が低下した。また、VGCF−Rがゴムシート全体に均一に分散するため、VGCF−R同士の効率のよい熱・電気伝導が得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未加硫ゴムシート上に気相成長炭素繊維を散布し、さらにその上に未加硫ゴムシートを積層することを特徴とするゴム積層体の製造方法。
【請求項2】
気相成長炭素繊維の散布と、未加硫ゴムシートの積層を複数回繰り返す請求項1記載のゴム積層体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のゴム積層体の製造方法により製造されたことを特徴とするゴム積層体。
【請求項4】
請求項3記載のゴム積層体をプレス加硫して得られることを特徴とするゴム成形品。
【請求項5】
請求項3記載のゴム積層体を用いたことを特徴とするタイヤ。

【公開番号】特開2010−240995(P2010−240995A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92669(P2009−92669)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】