説明

ゴム組成物、それを架橋してなる架橋ゴム組成物およびシール部材

【課題】耐塩素水性および耐熱性に優れた架橋ゴム組成物、並びに該架橋ゴム組成物を製造することができるゴム組成物を提供すること。
【解決手段】エチレン−α−オレフィン共重合体、疎水性シリカ、ナフテン系オイル、エポキシ系シランカップリング剤、および架橋剤を含有し、エチレン−α−オレフィン共重合体100質量部に対して、疎水性シリカの含有量が1〜150質量部であり、ナフテン系オイルの含有量が1.0〜50質量部であり、エポキシ系シランカップリング剤の含有量が0.1〜20質量部であり、架橋剤の含有量が0.1〜10質量部であるゴム組成物を架橋することによって、耐塩素水性および耐熱性に優れた架橋ゴム組成物が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐塩素水性および耐熱性に優れた架橋ゴム組成物およびシール部材、並びに前記架橋ゴム組成物および前記シール部材を製造することができるゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現行の水および食品関連機器に使用する架橋ゴム組成物の材料として、エチレン−α−オレフィン共重合体(例えばエチレン−プロピレンゴム(EPM)およびエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)など)、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(HNBR)、フッ素ゴム(FKM)、シリコーンゴム(VMQ)などが挙げられる。これらのゴムは、機械的強度、耐熱性、耐薬品性、コストなどを考慮しながら使い分けられている。これらの中でも、優れた耐水性や耐熱性を持ちながら、コストパフォーマンスに優れているEPMおよびEPDMが、よく使用されている。
【0003】
しかし、EPMおよびEPDMから形成された架橋ゴム組成物は、長時間水道水に接触すると、水道水に含まれる残留塩素により劣化する。その結果、架橋ゴム組成物に含まれるカーボンブラックが水に混入して、黒い汁を発生させることがある。これを墨汁現象という。特に飲料水または風呂用の機器に使用されるシール材から墨汁現象が発生すると、飲料水または風呂の水が黒く濁ったようになり、大きな問題となる。そのため、残留塩素(次亜塩素酸または次亜塩素酸塩)を含む水(以下「塩素水」と略称することがある)と接触する架橋ゴム組成物には、優れた耐塩素水性(すなわち塩素水に対する耐性)が要求される。
【0004】
耐塩素水性を向上させる方法として、HNBR、FKM、VMQなどを使用することが考えられる。しかし、これらはいずれもEPMおよびEPDMよりも高価であるという欠点がある。また、VMQは蒸気に弱いという欠点がある。
【0005】
コストを抑えながら耐塩素水性を向上させる方法として、オレフィン系熱可塑性エラストマーを使用することが考えられる。しかし、オレフィン系熱可塑性エラストマーを架橋しないで使用すると、耐熱性に問題が生じる。最近では、電気給湯器、エコ給湯器などが広く普及しつつあり、それに伴い、水関連機器用のシール用ゴムには、さらなる耐熱性が要求されている。
【0006】
これまで耐塩素水性を向上させる様々な技術が提案されている。例えば、特許文献1には、エチレン由来の構成単位および1−ブテン由来の構成単位を有するオレフィン系熱可塑性エラストマーを含有する組成物から形成され、放射線架橋されていることを特徴とする水摺動用シール材が提案されている。この水摺動用シール材は、耐塩素水性(次亜塩素酸耐性)に優れると記載されている。
【0007】
特許文献2には、(A)オレフィン系熱可塑性エラストマー、(B)超高分子量ポリエチレンおよび(C)ポリ−N−ビニルアセトアミドを含む熱可塑性エラストマー組成物から得られる水摺動シールが提案されている。この水摺動シールは、耐塩素水性(耐次亜塩素酸性)に優れると記載されている。
【0008】
特許文献3には、EPDMゴム、カーボンブラック、シリカおよびシランカップリング剤を配合してなる止水材が提案され、この止水材では、塩素劣化の際にもカーボンブラックの剥離が低減されると記載されている。
【0009】
特許文献4には、オレフィン系ポリマー、シリカ系充填剤、有機けい素化合物、オルガノポリシロキサンからなる組成物から得られるゴムホースが記載されている。特許文献4には、有機けい素化合物として、ヒドロキシ基とビニル基とを有する化合物などが例示されている。
【0010】
特許文献5には、エチレン−プロピレン−エチリデンノルボルネンゴム、無機補強剤、有機過酸化物およびシランカップリング剤を含有するゴム組成物を加硫形成して得られるバタフライ弁のラバーシートが記載されている。その実施例では、ゴム組成物にγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(即ち不飽和二重結合を有するシランカップリング剤)およびパラフィン系プロセスオイルが添加されている。
【0011】
特許文献6には、ゴム成分、シリカ及びシランカップリング剤を含有する耐塩素水性ゴム組成物が記載されており、ビニル系シランカップリング剤、アクリロキシ系シランカップリング剤、及びメタクリロキシ系シランカップリング剤(即ち不飽和二重結合を有するシランカップリング剤)が好ましいと記載されている。
【0012】
特許文献7には、エチレンプロピレンゴムおよび疎水性シリカを含有するゴム組成物が記載されている。その実施例では、エチレンプロピレンゴム、疎水性シリカ、シランカップリング剤を含有するゴム組成物をプレス加硫することによって得られた架橋ゴム組成物が、耐塩素水性に優れることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−63359号公報
【特許文献2】特開2003−129037号公報
【特許文献3】特開2007−2094号公報
【特許文献4】特開昭60−34588号公報
【特許文献5】特開平5−44857号公報
【特許文献6】特開2007−211162号公報
【特許文献7】特開2008−106131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記特許文献1または2に記載の水摺動シール材、特許文献3に記載の止水材、特許文献4に記載のゴムホース、特許文献5に記載のバタフライ弁のラバーシート、特許文献6に記載の耐塩素水性ゴム、および特許文献7に記載の架橋ゴム組成物は、いずれも耐塩素水性に優れると記載されている。しかし、耐塩素水性に対するユーザーの要求は厳しくなってきており、高温での耐塩素水性が優れた架橋ゴム組成物が求められている。本発明はこのような事情に着目してなされたものであって、その目的は、高温での耐塩素水性および耐熱性に優れた架橋ゴム組成物およびシール部材、並びに前記架橋ゴム組成物および前記シール部材を製造することができるゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は以下の通りである:
[1] エチレン−α−オレフィン共重合体、疎水性シリカ、ナフテン系オイル、エポキシ系シランカップリング剤、および架橋剤を含有し、前記エチレン−α−オレフィン共重合体100質量部に対して、前記疎水性シリカの含有量が1〜150質量部であり、前記ナフテン系オイルの含有量が1.0〜50質量部であり、前記エポキシ系シランカップリング剤の含有量が0.1〜20質量部であり、前記架橋剤の含有量が0.1〜10質量部であるゴム組成物。
[2] 前記エチレン−α−オレフィン共重合体が、エチレン−プロピレン共重合体である上記[1]に記載のゴム組成物。
[3] 前記エチレン−α−オレフィン共重合体が、ジエン成分を含む上記[1]または[2]に記載のゴム組成物。
[4] 架橋剤が、有機過酸化物である上記[1]〜[3]のいずれか一つに記載のゴム組成物。
[5] さらに共架橋剤を含有する上記[1]〜[4]のいずれか一つに記載のゴム組成物。
[6] 上記[1]〜[5]のいずれか一つに記載のゴム組成物を架橋することによって得られる架橋ゴム組成物。
[7] 上記[1]〜[5]のいずれか一つに記載のゴム組成物を架橋することによって得られるシール部材。
【発明の効果】
【0016】
本発明のゴム組成物から得られる架橋ゴム組成物は、耐塩素水性および耐熱性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に使用するエチレン−α−オレフィン共重合体は、HNBRなどと比べて安価であり、且つVMQに比べて蒸気に強い。ここでα−オレフィンとは、炭素−炭素二重結合がα位(即ち末端)に位置するオレフィンをいい、プロピレンが好ましい。エチレン−α−オレフィン共重合体は、α−オレフィンが1種類のものを単独で使用してもよく、α−オレフィンが異なる2種以上を併用しても良い。エチレン−α−オレフィン共重合体は、エチレン成分、α-オレフィン成分以外の成分として、1種または2種以上のジエン成分を含有してもよい。エチレン−α−オレフィン共重合体は、好ましくはエチレン−プロピレンゴム(EPM)および/またはエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)であり、より好ましくはEPDMである。
【0018】
エチレン−α−オレフィン共重合体のジエン成分としては、例えば、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1、4−ヘキサジエン、メチルテトラヒドロインデン、5−メチレン−2−ノルボルネン、シクロオクタジエンなどが挙げられる。これらの中でも、エチリデンノルボルネンおよびジシクロペンタジエンが好ましい。ジエン成分を含有する場合、その量は、エチレン−α−オレフィン−ジエン共重合体中、好ましくは1.5〜11.0質量%、より好ましくは4.5〜8.0質量%である。
【0019】
エチレン−α−オレフィン共重合体(特にEPM)およびエチレン−α−オレフィン−ジエン共重合体(特にEPDM)は、通常の重合方法によって製造することができ、また市販したものを使用すればよい。
【0020】
本発明のゴム組成物は、1種または2種以上の疎水性シリカを含有する。本発明における疎水性シリカとしては、(1)乾式シリカおよび(2)湿式法疎水性シリカが挙げられる。
【0021】
乾式シリカとは、高温気相反応(即ち、いわゆる乾式法)によって生成されるシリカである。乾式シリカは、その表面に水酸基を殆ど有しておらず、酸性を示すことを特徴とする。乾式シリカの製法としては、乾式法に分類されものであれば、間接法および直接法のいずれでもよい。湿式法疎水性シリカとは、液相反応(即ち、いわゆる湿式法)によって生成されるシリカであって、その表面の水酸基を焼成によって減少させたシリカ、またはその表面の水酸基を化学的処理によって疎水性基(例えばメチル基など)で置換したシリカである。耐水性の点から乾式シリカが好ましい。
【0022】
疎水性シリカの疎水化度(%)は、好ましくは、40〜80%である。疎水化度は、疎水化度測定法(Methanol Wettability)によって測定することができる。詳しくは、まず、シリカ試料0.2gを100mLビーカーに秤取し、その中に純水50mLを加える。次いで撹拌しながら、ビーカー中のシリカ分散水にメタノールを加える。液面中にシリカ試料が認められなくなった時点を終点とする。加えたメタノール量A(mL)から、次式により疎水化度(%)を算出する。
疎水化度(%)=100×A/(50+A)
【0023】
疎水性シリカの平均粒径は、好ましくは1〜40nm、より好ましくは4〜20nmである。この平均粒径が1nmより小さいと、凝集性が大きくなり、エチレン−α−オレフィン共重合体中に分散させるのが難しくなり、また、得られる架橋ゴム組成物の伸びが小さくなる傾向がある。一方、この平均粒径が40nmを超えると、補強効果が低下し、引張強さや硬さを充分に上昇させるために疎水性シリカを多量に配合しなければならず、また、得られる架橋ゴム組成物の圧縮永久歪が低下する傾向がある。なお、疎水性シリカの平均粒径とは、その一次粒子の平均粒径をいう。疎水性シリカの平均粒径は、電子顕微鏡写真を撮影し、該写真にて3000〜5000個の粒子の直径を測定し、測定した直径を算術平均することによって算出することができる。
【0024】
疎水性シリカの含有量は、架橋ゴム組成物に与える特性(硬さ、引張強さ、伸び、圧縮永久歪など)などを考慮して、適宜選択することができる。疎水性シリカの含有量は、エチレン−α−オレフィン共重合体100質量部に対して、通常1〜150質量部、好ましくは10〜100質量部、より好ましくは15〜80質量部である。疎水性シリカの含有量が1質量部未満であると、予備成形性が低下する傾向にある。具体的には、オープンロールなどを用いて混練を行う場合、ロールにゴム組成物が巻きつかなくなるなどの混練り性の低下をまねき、また分出し工程を行うときに、ロールから取り出した混練物がシート状になりにくく、シートの凹凸が大きくなったり、穴あきが生じたりする。また、疎水性シリカの含有量が1質量部未満であると、架橋ゴム組成物の耐塩素水性が低下し、引張強さが小さくなるため好ましくない。一方、疎水性シリカの含有量が150質量部を超えても、混練の際にゴム組成物がロールに巻きつかなくなり、また、1質量部未満の場合と同様に、予備成形性が低下するため好ましくない。また、疎水性シリカの含有量が150質量部を超えると、架橋ゴム組成物の硬さが上昇し、伸びおよび圧縮永久歪が低下するため好ましくない。
【0025】
疎水性シリカは市販されている。市販の疎水性シリカとしては、例えば、レオロシール(トクヤマ社製)、カープレックス(塩野義製薬社製)、シルトン(水澤化学社製)、アエロジル(日本アエロジル社製)、ニップシール(東ソー・シリカ社製)などが挙げられる。
【0026】
本発明のゴム組成物は、軟化剤として、1種または2種以上のナフテン系オイルを含有する。下記実施例に示すように軟化剤としてナフテン系オイルを使用すると、パラフィン系オイルを使用する場合と比べて、架橋ゴム組成物の耐塩素水性が向上する。
ナフテン系オイルの動粘度は、好ましくは16〜470mm2/s、より好ましくは16〜150mm2/s、さらに好ましくは16〜100mm2/sである。動粘度が16mm2/s以上であると、架橋ゴム組成物の耐水性が良好である(動粘度が低すぎると、ナフテン系オイルが抜けやすくなり、耐水性が低下する傾向にある)。また、動粘度が470mm2/s以下であると、ゴム組成物の混練加工性が良好である(動粘度が高すぎると、混練の際にゴム組成物にオイルを投入しづらくなったり、混練時に該組成物が流れにくくなる傾向にある)。なお、ナフテン系オイルの動粘度は、JIS K 2283(動粘度試験法)により測定することができる。
【0027】
ナフテン系オイルの含有量は、エチレン−α−オレフィン共重合体100質量部に対して、通常1.0〜50質量部、好ましくは1〜30質量部である。ナフテン系オイルの含有量が1.0質量部未満であると、ゴム組成物の流動性および架橋ゴム組成物の離型性が低下する傾向があり、また架橋ゴム組成物の伸びが低下するため好ましくない。一方、ナフテン系オイルの含有量が50質量部を超えると、架橋ゴム組成物の耐塩素水性が低下し、塩素水に浸漬した前後での架橋ゴム組成物の硬さ変化、質量変化率および体積変化率などが大きくなる。また、ナフテン系オイルの含有量が50質量部を超えると、圧縮永久歪が低下するため好ましくない。
【0028】
ナフテン系オイルは市販されている。市販のナフテン系オイルとしては、例えば、ダイアナプロセスオイルNP−24、NR−26、NR−68、NS−90S、NS−100、NM−280(出光興産社製)、シェルフレックスシリーズ371JY、371N(シェルジャパン社製)、JOMOプロセスRH25、RW50、R200、R1000(ジャパンエナジー社製)、Sunthene 410、415、420、430、450、480、4130、4240、310、3125、250J(Sun Oil社製)などが挙げられる。
【0029】
本発明のゴム組成物は、1種または2種以上のエポキシ系シランカップリング剤を含有する。ここでエポキシ系シランカップリング剤とは、エポキシシクロヘキシル基や3-グリシドキシ基などのエポキシ基を有するシランカップリグ剤を意味する。下記実施例に示すようにエポキシ系シランカップリング剤を使用すると、上記特許文献4〜6に記載されているような不飽和二重結合(ビニル基など)を有するシランカップリング剤を使用する場合と比べて、架橋ゴム組成物の耐塩素水性が向上する。
【0030】
上述したようにエポキシ系シランカップリング剤は、エチレン−α−オレフィン共重合体と疎水性シリカとの界面の作用力を向上させる。このエポキシ系シランカップリング剤によって、加工性が良好で、硬度が架橋ゴム組成物(特にシール部材)に最適であるバウンドラバーが得られると考えられる。ここでバウンドラバーとは、エポキシ系シランカップリング剤を介して、疎水性シリカの周りにエチレン−α−オレフィン共重合体が化学結合している集合体をいう。
【0031】
エポキシ系シランカップリング剤としては、2−(3,4−エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0032】
エポキシ系シランカップリング剤の含有量は、エチレン−α−オレフィン共重合体100質量部に対して、通常0.1〜20質量部、好ましくは0.5〜10質量部、より好ましくは1〜8質量部である。エポキシ系シランカップリング剤の含有量が0.1質量部未満であると、耐塩素水性の効果が充分に発揮されないことがあり、また架橋ゴム組成物の耐摩耗性が低下するため好ましくない。一方、エポキシ系シランカップリング剤の含有量が20質量部を超えると、架橋ゴム組成物の離型性および伸びが低下するため好ましくない。
【0033】
エポキシ系シランカップリング剤は、公知の手法によって適宜製造することができ、また市販されている。市販のエポキシ系シランカップリング剤としては、例えば、Z−6040、6044、6042、6043(東レダウコーニング社製)、KBM−303、403(信越化学工業社製)、KBE−402、403(信越化学工業社製)などを挙げることができる。
【0034】
本発明のゴム組成物は、1種または2種以上の架橋剤(加硫剤)を含有する。架橋剤は、好ましくは、有機過酸化物である。なお、エチレン−α−オレフィン共重合体がジエン成分を含む場合、硫黄系の架橋剤(特に硫黄)も使用することができる。架橋剤に使用する有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、1,1−ビス−t−ブチル−パーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、n−ブチル−4,4−ビス−t−ブチルオパーオキシバレレート、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジ−(t−ブチルパーオキシ)mジ−イソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−t−ブチルパーオキシルヘキシン−3、t−ブチルパーオキシクメンなどが挙げられる。これらの中で、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−t−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシヘキサンが好ましい。
【0035】
架橋剤の含有量は、エチレン−α−オレフィン共重合体100質量部に対して、通常0.1〜10質量部、好ましくは2〜6質量部である。1質量部以上であると、伸び及び圧縮永久ひずみが好適であり、10質量部以下であると、圧縮永久ひずみが好適である。
【0036】
本発明のゴム組成物は、1種または2種以上の共架橋剤を含有していてもよい。ここで共架橋剤とは、架橋剤と共に用いられる配合剤であり、架橋速度の調整および架橋ゴムの物性を向上させる作用を有する。共架橋剤としては、例えば、マレイミド系の共架橋剤、メタクリレート系の共架橋剤、アリル系の共架橋剤、キノンジオキシム系の共架橋剤などが挙げられる。マレイミド系の共架橋剤としては、例えば、N,N−m−フェニレンジマレイミド、マレイミド、フェニルマレイミドなどが挙げられる。アリル系の共架橋剤としては、例えば、トリアリルシアヌレート、ジアリルフマレート、ジアリルフタレート、テトラアリルオキシエタン、トリアリルイソシアヌレート、トリメタクリルイソシアヌレートなどが挙げられる。メタクリレート系の共架橋剤としては、例えば、エチレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどが挙げられる。キノンジオキシム系の共架橋剤としては、p−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシムなどが挙げられる。これらの中で、N,N−m−フェニレンジマレイミド、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリアリルイソシアヌレートが好ましい。
【0037】
共架橋剤を使用する場合、その含有量は、エチレン−α−オレフィン共重合体100質量部に対して、好ましくは0.5〜20質量部、より好ましくは1〜10質量部である。0.5質量部以上であると、圧縮永久ひずみ及び伸びが好適であり、20質量部以下であると、圧縮永久ひずみが好適である。
【0038】
本発明の目的を阻害しない範囲内で、該分野において公知の添加剤(例えば、老化防止剤、酸化防止剤、加工助剤、金属酸化物、着色剤、顔料(カーボンブラックなど)など)を本発明のゴム組成物に適宜配合することができる。公知の添加剤としては、老化防止剤および加工助剤が好ましい。老化防止剤および/または加工助剤を使用する場合、エチレン−α−オレフィン共重合体100質量部に対して、老化防止剤の含有量を10質量部以下、加工助剤を10質量部以下に制限することが望ましい。
【0039】
本発明のゴム組成物は、エチレン−α−オレフィン共重合体100質量部に対して、疎水性シリカ1〜150質量部、ナフテン系オイル1.0〜50質量部、エポキシ系シランカップリング剤0.1〜20質量部および架橋剤0.1〜10質量部、並びに必要に応じて共架橋剤および公知の添加剤を、混練機(例えばインターミックス、ニーダー、バンバリーミキサーなど)またはオープンロールなどによって混練することで製造することができる。
【0040】
また、本発明の架橋ゴム組成物は、前記ゴム組成物を架橋することによって製造することができる。架橋には、例えば加硫プレス、圧縮成型機、射出成型機などを用いることができる。架橋の温度は、通常150〜200℃程度であり、その時間は、通常3〜60分程度である。また、前記架橋(即ち一次架橋)の後に、オーブン加硫(二次架橋)を行ってもよい。オーブン加硫(二次架橋)の温度は、通常120〜200℃程度であり、その時間は、通常1〜24時間程度である。
【0041】
本発明の架橋ゴム組成物は、上述の加硫プレス、圧縮成型機、射出成型機などによって所望の形状に成型することができる。成型品の形状および大きさは、特に限定されず、使用目的に応じて適宜選択することができる。成型品としては、例えばO−リング、パッキン、軸シール、伸縮継手などのシール部材などが挙げられる。
【0042】
本発明のゴム組成物から得られる架橋ゴム組成物は、高温での耐塩素水性および耐熱性に優れる。より詳しくは、本発明の架橋ゴム組成物は、90℃の1000ppm次亜塩素酸ナトリウム水溶液に240時間浸漬しても、外観に欠陥が観察されず、浸漬前後での体積変化率および質量変化率が、例えば0〜8%(好ましくは0〜5%)である。また、本発明の架橋ゴム組成物は、耐熱性の指標として、優れた圧縮永久歪を示す。例えば、本発明の架橋ゴム組成物の圧縮永久歪率(JIS K 6262に準拠して測定、70℃×22時間、25%圧縮)は、例えば8〜30%(好ましくは8〜16%)である。
【0043】
本発明のゴム組成物から得られる架橋ゴム組成物が優れた耐塩素水性を発揮するのは、(1)エポキシ系シランカップリング剤が、エチレン−α−オレフィン共重合体と疎水性シリカとの界面の作用力(例えば化学結合力、分子間力、水素結合力など)を向上させること、(2)ナフテン系オイルが、架橋ゴム組成物の表面および内部に撥水作用を付与すること、(3)エポキシ系シランカップリング剤が、エチレン−α−オレフィン共重合体中への疎水性シリカの分散性を向上させること、などの相乗効果によるものと推定される。また、本発明のゴム組成物は、その架橋剤の作用によって、耐熱性に優れた架橋ゴム組成物を形成することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0045】
1.原料
実施例および比較例で使用した原料を以下に記載する。
【0046】
(1)エチレン−α−オレフィン共重合体(EPDM):EPT3045(三井化学社製、ジエン成分:ENB、ジエン成分含有量:4.5質量%)
【0047】
(2)老化防止剤(ベンズイミダゾール系老化防止剤):ノクラックMB(大内新興化学工業社製、2-メルカプトベンズイミダゾール)
(3)金属酸化物:酸化亜鉛
【0048】
(4)充填剤
・疎水性シリカ:DM−10(トクヤマ社製、乾式シリカ、平均粒径15nm)
・親水性シリカ:トクシールU(トクヤマ社製、湿式法シリカ、平均粒径14nm)
【0049】
(5)軟化剤
・ナフテン系オイル:RW50(ジャパンエナジー社製、動粘度:31.16mm2/s)
・パラフィン系オイル:PW−32(出光興産社製、動粘度:30.85mm2/s)
【0050】
(6)シランカップリング剤
・エポキシ系シランカップリング剤:Z−6042(東レ・ダウコーニング社製、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン)
・ビニル系シランカップリング剤:Z−6300(東レ・ダウコーニング社製、ビニルトリメトキシシラン)
・アミノ系シランカップリング剤:Z−6011(東レ・ダウコーニング社製、3−アミノプロピルトリエトキシシラン)
【0051】
(7)共架橋剤(メタクリレート系):ハイクロスM(精工化学社製、トリメチロールプロパントリメタクリレート)
(8)架橋剤(有機過酸化物):DCP(日油社製、ジクミルパーオキサイド)
【0052】
2.ゴム組成物および架橋ゴム組成物の製造
下記表1および2に示す量で上記原料を、6インチロールで混練することによって、ゴム組成物を製造した。得られたゴム組成物を、プレスで170℃および20分で一次架橋し、次いで電気炉で150℃および4時間でオーブン加硫(二次架橋)することによって、架橋ゴム組成物を製造した。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
3.ゴム組成物および架橋ゴム組成物の評価
ゴム組成物の流動性、並びに架橋ゴム組成物の離型性および常態物性(硬さ、引張強さ、および伸び)、耐熱性および耐塩素水性を、以下のようにして評価した。なお、耐熱性は圧縮永久歪試験によって、耐塩素水性は浸漬試験によって評価した。結果を下記表3および4に示す。
【0056】
(1)ゴム組成物の流動性
ゴム組成物を厚み2.2mmに分出ししてから、それを145mm角に裁断し、プレスで一次架橋して150mm角のシートを成形し、そのシートをオーブン加硫(二次架橋)し、得られたシートから、下記基準でゴム組成物の流動性を評価した。
○:きれいなシートが得られる
×:表面に凹凸があるシートが得られる
【0057】
(2)架橋ゴム組成物の離型性
上記流動性の評価と同様にして、150mm角のシートをプレスで一次架橋し、その際の型離れから、下記基準で架橋ゴム組成物の離型性を評価した。
○:すぐに型離れする
△:シートが型に少し付着し、シートを型から手で取り出す必要がある
×:シートが型に強固に付着し、シートをかなりの力をかけて型から取り出す必要がある。或いは、型から取り外すときにシートが破れる。
【0058】
(3)架橋ゴム組成物の常態物性
ゴム組成物の一次およびオーブン加硫(二次架橋)を実施してシートを作製し、これから、JIS K 6251で定められたダンベル状3号形の試験片を作製した。
硬さは、上記試験片を3枚重ねて、JIS K 6253におけるデュロメーター硬さ(タイプA)試験により測定した。
引張強さは、JIS K 6251における引張強さ試験で上記試験片を用いることによって測定した。
伸びは、JIS K 6251における引張切断時伸び試験で上記試験片を用いることによって測定した。
(4)圧縮永久歪試験
ゴム組成物の一次およびオーブン加硫(二次架橋)を実施して、大形試験片(直径:29.0±0.5mm、厚さ:12.5±0.5mm)を作製した。この試験片を用いて、JIS K 6262に準拠して(70℃×22時間、25%圧縮)、圧縮永久歪率を測定した。
【0059】
(5)浸漬試験
ゴム組成物の一次およびオーブン加硫(二次架橋)を実施してシートを作製し、これから、JIS K 6251で定められたダンベル状3号形の試験片および体積変化測定用の試験片(25mm×50mm×2mm)を作製した。JIS K 6258に従い、これらの試験片を90℃の1000ppm次亜塩素酸ナトリウム水溶液に72時間(浸漬試験1)または240時間(浸漬試験2)浸漬し、浸漬前後での硬さ変化、体積変化率および質量変化率を測定した。また、浸漬後の外観を目視で観察して、下記基準で評価した。
○:異常なし
×:肌荒れあり
【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のゴム組成物から製造される架橋ゴム組成物は、塩素水に接する水関連機器および食品関連機器に好適に使用することができる。特に、本発明の架橋ゴム組成物は、上水(飲料水)、下水および排水に関連する機器、風呂用の機器、電気給湯器、エコ給湯器、食品加工機器などのシール部材として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−α−オレフィン共重合体、疎水性シリカ、ナフテン系オイル、エポキシ系シランカップリング剤、および架橋剤を含有し、
前記エチレン−α−オレフィン共重合体100質量部に対して、前記疎水性シリカの含有量が1〜150質量部であり、前記ナフテン系オイルの含有量が1.0〜50質量部であり、前記エポキシ系シランカップリング剤の含有量が0.1〜20質量部であり、前記架橋剤の含有量が0.1〜10質量部であるゴム組成物。
【請求項2】
前記エチレン−α−オレフィン共重合体が、エチレン−プロピレン共重合体である請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記エチレン−α−オレフィン共重合体が、ジエン成分を含む請求項1または2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記架橋剤が、有機過酸化物である請求項1〜3のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
さらに共架橋剤を含有する請求項1〜4のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のゴム組成物を架橋することによって得られる架橋ゴム組成物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のゴム組成物を架橋することによって得られるシール部材。

【公開番号】特開2012−87254(P2012−87254A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236769(P2010−236769)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】