説明

ゴム組成物、並びに、熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法

【課題】高融点を有するフッ素樹脂等の硬度を制御できるゴム組成物と、耐熱性及び耐油性に優れるとともに柔軟性を有する熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】フッ素ゴムと、1分間半減期温度が280℃以上であるラジカル開始剤と、融点が200℃以上であり、かつ、炭素原子間の二重結合を2つ以上有する架橋助剤とを含有することを特徴とするゴム組成物;フッ素樹脂と、前記ゴム組成物とを含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物、並びに、熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂の硬度(柔軟性)を制御する方法としては、従来、動的架橋により樹脂中に架橋ゴムを分散する方法が提案されている。
たとえば、連続相と分散相とを有し、連続相が結晶性熱可塑性フルオロカーボン樹脂から本質的に成り、分散相が架橋されたフルオロエラストマーから成る、フッ素化熱可塑性エラストマー組成物が開示されている(特許文献1参照)。
また、ポリアミド系の樹脂とゴム成分とを含む樹脂組成物を用いた方法が開示されている(たとえば、特許文献2参照)。
【0003】
また、動的架橋によって得られる熱可塑性樹脂組成物の引張強度を高めるため、たとえば、フッ素三元共重合体を配合する方法が開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−57641号公報
【特許文献2】特表平7−503982号公報
【特許文献3】特開平10−101880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、フッ素樹脂又はフッ素ゴムは、耐熱性と耐油性を兼ね備えた材料として用いられている。フッ素樹脂は、溶融成形が可能であり、硬度の高い材料である。これに対して、フッ素ゴムは、硬度の低い材料である。
しかしながら、耐熱性や耐油性が要求される部位に樹脂材料を用いる場合、これまで、当該部位に求められる硬度に適したフッ素樹脂又はフッ素ゴムの一方しか利用することができなかった。
【0006】
これに対して、フッ素樹脂とフッ素ゴムとを用いて、上述した動的架橋によりフッ素樹脂の硬度を制御する方法が考えられる。
フッ素樹脂の硬度を制御する方法として、特許文献1に記載された発明を利用すると、硬化剤(架橋助剤)を加える際、フッ素樹脂の融点を下回る温度まで冷却が行われるため、フッ素樹脂中で架橋助剤の分散不良が起こり、フッ素ゴムの架橋効率が悪くなるとともに、フッ素ゴムの架橋がフッ素樹脂中で不均一に起こる問題がある。
特許文献2に記載された発明では、ポリアミド系の樹脂とゴム成分とが260℃で混合されている。しかし、フッ素樹脂を用いた場合には、フッ素樹脂の融点以上の温度(約280℃以上)でフッ素樹脂とフッ素ゴムとは混合されるため、その高温度下での動的架橋に使用可能なラジカル開始剤と架橋助剤を選択する必要がある。この点から、特許文献2の方法は、フッ素樹脂を用いた動的架橋に利用する方法としては不適切である。
特許文献3に記載されたフッ素三元共重合体は、低融点を有するため、フッ素樹脂の融点以上という高温での長時間の使用により熱劣化を起こしやすく、また、当該フッ素三元共重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物は耐熱性に劣る問題がある。
【0007】
このように、従来の方法においては、高融点を有するフッ素樹脂等の硬度を制御するのは困難であった。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、高融点を有するフッ素樹脂等の硬度を制御できるゴム組成物と、耐熱性及び耐油性に優れるとともに柔軟性を有する熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用した。
すなわち、本発明のゴム組成物は、フッ素ゴムと、1分間半減期温度が280℃以上であるラジカル開始剤と、融点が200℃以上であり、かつ、炭素原子間の二重結合を2つ以上有する架橋助剤とを含有することを特徴とする。
本発明のゴム組成物においては、前記ラジカル開始剤が、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン又はフッ化ピッチであることが好ましい。
また、本発明のゴム組成物においては、前記架橋助剤が、N,N’−m−フェニレン ビスマレイミドであることが好ましい。
【0009】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、フッ素樹脂と、前記本発明のゴム組成物とを含有することを特徴とする。
本発明の熱可塑性樹脂組成物においては、前記フッ素樹脂中で前記ゴム組成物が架橋されていることが好ましい。
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物においては、前記フッ素樹脂が、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、又は、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)であることが好ましい。
【0010】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、フッ素ゴム、1分間半減期温度が280℃以上であるラジカル開始剤、及び融点が200℃以上であり、かつ、炭素原子間の二重結合を2つ以上有する架橋助剤を含有するゴム組成物と、フッ素樹脂とを280℃以上で混合し、溶融した前記フッ素樹脂中で前記ゴム組成物を架橋することを特徴とする。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法においては、前記ラジカル開始剤が、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン又はフッ化ピッチであることが好ましい。
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法においては、前記架橋助剤が、N,N’−m−フェニレン ビスマレイミドであることが好ましい。
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法においては、前記フッ素樹脂が、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、又は、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のゴム組成物によれば、高融点を有するフッ素樹脂等の硬度を制御できる。
また、本発明によれば、耐熱性及び耐油性に優れるとともに柔軟性を有する熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<ゴム組成物>
本発明のゴム組成物は、フッ素ゴムと、1分間半減期温度が280℃以上であるラジカル開始剤と、融点が200℃以上であり、かつ、炭素原子間の二重結合を2つ以上有する架橋助剤とを含有するものである。
【0013】
(フッ素ゴム)
本発明におけるフッ素ゴムは、分子内にフッ素原子を有するゴムであればよく、たとえば、フッ化ビニリデン・四フッ化エチレン・プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン・四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン・六フッ化プロピレン共重合体などのフッ化ビニリデンとこれと共重合可能な少なくとも一種の他のエチレン性不飽和単量体との含フッ素弾性共重合体;テトラフルオロエチレン・プロピレン共重合体などが挙げられる。なかでも、耐熱性と耐薬品性がより向上することから、テトラフルオロエチレン・プロピレン共重合体が好ましい。
フッ素ゴム中のフッ素原子の含有量は0.1〜40質量%であるものが好ましく、1〜40質量%であるものがより好ましい。この含有量が下限値以上であると、耐熱性、耐薬品性、摺動性(フッ素原子による効果)が良好となり、上限値以下であると、溶融特性、架橋効率(全てがフッ素原子だと架橋が困難である)が良好となる。
フッ素ゴムとして具体的には、旭硝子製のAFLAS100s(商品名)、デュポン社製のバイトン(商品名)、ダイキン社製のダイエル(商品名)等を用いることができる。
フッ素ゴムは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
(ラジカル開始剤)
本発明におけるラジカル開始剤としては、1分間半減期温度が280℃以上であるものが用いられる。1分間半減期温度が280℃以上のものであれば、熱劣化を起こしにくく、フッ素樹脂等の高融点を有する樹脂を用いた場合の高温下での動的架橋に利用できる。
1分間半減期温度の上限値は、併用するフッ素ゴムやフッ素樹脂の劣化を抑える点から、実質的には350℃以下のものが用いられる。
【0015】
ラジカル開始剤における「1分間半減期温度」とは、ラジカル開始剤が分解して発生するラジカルの量が1分間で半分になる際の温度を示す。
この1分間半減期温度は、次のようにして求められる値を示す。すなわち、ベンゼンを主溶媒として使用して、0.1mol/L濃度のラジカル開始剤溶液を調製し、窒素置換を行ったガラス管中に密封する。これを所定温度に調整した恒温槽に浸し、熱分解させる。そして、以下に示す、希薄溶液中の有機過酸化物の分解における関係式等、に準じた方法により1分間半減期温度を求めることができる。
[希薄溶液中の有機過酸化物の分解における関係式等]
一般的に希薄溶液中の有機過酸化物の分解は近似的に一次反応として取り扱うことができるので、分解PO(過酸化物)量をx、分解速度定数をk、時間をt、PO初期濃度をaとすると、下式のように表すことができる。
dx/dt=k(a−x) 式(1)
ln a/(a−x)=kt 式(2)
ここで半減期はPO濃度が初期の半分に減少するまでの時間であることから、半減期をt1/2で示し、式(2)のxにa/2を代入することにより式(3)が得られる。
kt1/2=ln2 式(3)
したがって、ある一定温度で熱分解させ、時間(t)とln a/(a−x)との関係をプロットして得られる直線の傾きからkを求め、そのk値を式(3)に代入することにより、その温度における半減期t1/2を知ることができる。
そして、数点の所定温度についてt1/2を測定し、lnt1/2と1/T(絶対温度,K)との関係をプロットして得られる直線から、任意の半減期を得る分解温度が得られる。この方法を利用することにより、1分間半減期の分解温度(1分間半減期温度)が求まる。
【0016】
ラジカル開始剤のなかでも、フッ素ゴムの架橋効率がより高まることから、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン(1分間半減期温度285℃)、又はフッ化ピッチ(1分間半減期温度300℃)が好適なものとして挙げられる。
ラジカル開始剤として具体的には、日油製のノフマーBC(商品名)、大阪ガス製のフッ化ピッチ(商品名)等を用いることができる。
【0017】
ラジカル開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ゴム組成物中のラジカル開始剤の含有量は、フッ素ゴム100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、1〜5質量部がより好ましい。ラジカル開始剤の含有量が下限値以上であると、フッ素ゴムの架橋効率がより高まり、上限値以下であると、ラジカル開始剤による分解反応が抑制される。
【0018】
(架橋助剤)
本発明における架橋助剤としては、融点が200℃以上であり、かつ、炭素原子間の二重結合(>C=C<)を2つ以上有するものが用いられる。
本発明において「融点」とは、熱分析により測定される値を示す。
当該架橋助剤の融点は200℃以上であり、200〜320℃が好ましい。架橋助剤の融点が200℃以上であれば、熱劣化を起こしにくく、フッ素樹脂等の高融点を有する樹脂を用いた場合の高温下での動的架橋に利用できる。一方、架橋助剤の融点が320℃以下であると、架橋時に溶融することで架橋反応をよりよく進行させることができる。
当該架橋助剤は二重結合を2つ以上有するものであり、二重結合を2〜6つ有するものがより好ましい。二重結合を2つ以上有することにより、フッ素ゴムの間を繋いで架橋構造が形成される。一方、二重結合が6つ以下であれば、架橋密度が充分に高まる。また、耐熱特性が良好となる。
【0019】
架橋助剤としては、たとえば、N,N’−m−フェニレン ビスマレイミド(融点202℃)、2,2,−ビス(4−マレイミドフェニル)ヘキサフルオロメタン、2−トリフルオロメチル−4−マレイミドフェニルビフェニル等が挙げられる。
なかでも、架橋助剤としては、フッ素ゴムの架橋密度がより高まることから、N,N’−m−フェニレン ビスマレイミドであることが好ましい。
架橋助剤として具体的には、川口化学工業製のアクターPBM(商品名)等を用いることができる。
【0020】
架橋助剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ゴム組成物中の架橋助剤の含有量は、フッ素ゴム100質量部に対して3〜30質量部が好ましく、5〜20質量部がより好ましい。架橋助剤の含有量が下限値以上であると、フッ素ゴムの架橋密度がより高まり、上限値以下であると、柔軟特性が維持できる。
【0021】
(その他成分)
本発明のゴム組成物は、上述したフッ素ゴム、ラジカル開始剤及び架橋助剤以外のその他成分を含有してもよい。
その他成分としては、たとえば、金属粉末、無機粉末、無機酸化物、無機化合物、酸化防止剤、着色剤、光劣化防止剤等が挙げられる。
【0022】
本発明のゴム組成物は、上述したフッ素ゴムと、熱劣化を起こしにくい特定のラジカル開始剤及び架橋助剤とを組み合わせて用いていることにより、これまで困難であった高温下(フッ素樹脂の融点以上、約280℃以上)でも、フッ素ゴムを含有するゴム組成物の架橋を良好に行うことができる。
得られるフッ素ゴムの架橋体は、架橋密度が高く、引張強度及び柔軟性がいずれも良好であり、耐熱性にも優れる。
かかるゴム組成物を用いて動的架橋を行うことにより、前記のフッ素ゴムの架橋体が、フッ素樹脂等の樹脂中に均一に分散した状態で導入される。これにより、高融点を有するフッ素樹脂等であってもその硬度を制御できる。
【0023】
<熱可塑性樹脂組成物>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、フッ素樹脂と、前記本発明のゴム組成物とを含有するものである。
【0024】
(フッ素樹脂)
本発明におけるフッ素樹脂は、分子内にフッ素原子を有する樹脂であればよく、なかでも高い柔軟性が得られやすいことから、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、又は、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)が好適なものとして挙げられる。
フッ素樹脂として具体的には、三井デュポン製の130J(商品名)、旭硝子製のP−63PT(商品名)、旭硝子製のC−88AP(商品名)等を用いることができる。
【0025】
熱可塑性樹脂組成物中、フッ素樹脂と前記ゴム組成物との混合割合は、前記ゴム組成物中のフッ素ゴムとフッ素樹脂との質量比で、フッ素ゴム/フッ素樹脂=0.5/99.5〜50/50であることが好ましく、10/90〜40/60であることがより好ましい。当該質量比の下限値以上である(フッ素ゴムの含有割合が多くなる)と柔軟性が高まる。一方、当該質量比の上限値以下である(フッ素ゴムの含有割合が少なくなる)と硬度が高まる。
【0026】
(その他成分)
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上述したフッ素樹脂及びゴム組成物以外のその他成分を含有してもよい。
その他成分としては、たとえば、金属粉末、無機粉末、無機酸化物、無機化合物、酸化防止剤、着色剤、光劣化防止剤等が挙げられる。
【0027】
本発明の熱可塑性樹脂組成物においては、耐熱性及び耐油性に優れるとともに、より高い柔軟性が得られ、又は硬度を制御しやすいことから、前記フッ素樹脂中で前記ゴム組成物が架橋されていることが好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造する方法は、特に限定されず、一例として後述する<熱可塑性樹脂組成物の製造方法>が、前記フッ素樹脂中で前記ゴム組成物が架橋された熱可塑性樹脂組成物を容易に調製できることから、好適な方法として挙げられる。
【0028】
<熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、フッ素ゴム、1分間半減期温度が280℃以上であるラジカル開始剤、及び融点が200℃以上であり、かつ、炭素原子間の二重結合を2つ以上有する架橋助剤を含有するゴム組成物と、フッ素樹脂とを280℃以上で混合し、溶融した前記フッ素樹脂中で前記ゴム組成物を架橋する方法である。
かかる製造方法で用いるフッ素ゴム、ラジカル開始剤、架橋助剤及びフッ素樹脂は、上述したフッ素ゴム、ラジカル開始剤、架橋助剤及びフッ素樹脂とそれぞれ同じものが挙げられる。
なかでも、特に、前記ラジカル開始剤は、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン又はフッ化ピッチであることが好ましく、前記架橋助剤は、N,N’−m−フェニレン ビスマレイミドであることが好ましく、前記フッ素樹脂は、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)又はエチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)であることが好ましい。
【0029】
前記フッ素樹脂と前記ゴム組成物とを混合する際の温度条件は、280℃以上であり、300℃以上が好ましく、300〜350℃がより好ましい。混合する際の温度が280℃以上であれば、溶融したフッ素樹脂中で動的架橋を行うことができる。混合する際の温度が上限値以下であると、ゴム組成物に含まれる成分の熱劣化が抑制される。
前記フッ素樹脂と前記ゴム組成物とを混合する時間は、5分間以上が好ましく、5〜10分間がより好ましい。混合する時間が前記範囲であると、フッ素樹脂とゴム組成物とを充分に溶融混練できる。前記の混合する時間は、前記の混合する際の温度条件により変化させることができる。また、5分間以上の溶融混練を行わない場合は、溶融混練を行う際の温度と同じ温度条件下で総加熱時間が5分間を超えるようにすることが好ましい。
前記フッ素樹脂と前記ゴム組成物との混合方法は、特に限定されず、従来公知の混合方法を用いることができる。
【0030】
本発明の製造方法においては、フッ素樹脂とゴム組成物とを280℃以上で混合することにより、フッ素樹脂が溶融するとともに、ラジカル開始剤が熱分解する際にラジカルを発生し、架橋助剤のアリル位の炭素原子がラジカル化される。次に、当該ラジカル化により発生したラジカルが、フッ素ゴムの炭化水素部分の炭素原子をラジカル化することで架橋反応が進行する。溶融したフッ素樹脂中での前記架橋反応により、ゴム組成物からなる耐熱性に優れたフッ素ゴムの架橋体が形成され、当該架橋体がフッ素樹脂中に均一に分散したフッ素樹脂が製造される。
かかる製造方法により得られる本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐熱性及び耐油性に優れるとともに柔軟性を有する新しい材料である。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
本実施例で用いた成分を以下に示す。
【0032】
(フッ素ゴム)
商品名:AFLAS100s、旭硝子製、比重1.55、フッ素原子の含有量57質量%。
【0033】
(ラジカル開始剤)。
・2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、商品名:ノフマーBC、日油製、分子量238.38、1分間半減期温度285℃。
・フッ素化炭化水素、商品名:フッ化ピッチ、大阪ガス製、1分間半減期温度300℃。
【0034】
ラジカル開始剤の比較成分。
・2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、商品名:パーヘキシン25B、日油製、分子量290.45、1分間半減期温度194.3℃。
【0035】
(架橋助剤)。
・N,N’−m−フェニレン ビスマレイミド、商品名:アクターPBM、川口化学工業製、分子量268、融点202℃。
・2−トリフルオロメチル−4−マレイミドフェニルビフェニル、自社合成品、分子量420。合成方法:2,2−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンをテトラヒドロフランに溶解させ、次いで、無水マレイン酸を添加し、60℃で加熱しながら30分間反応させた。その後、ピリジンと無水酢酸を加え、さらに1時間反応させた。得られた反応液から、エバポレーターにより溶媒を除去し、得られた固体を無水酢酸により再結晶して、純品の2−トリフルオロメチル−4−マレイミドフェニルビフェニルを得た。
【0036】
架橋助剤の比較成分。
・トリアリルイソシアヌレート、商品名:TAIC M−60、日本化成製、融点23〜27℃。
【0037】
(フッ素樹脂)。
・FEP、商品名:130J、三井デュポン製、比重2.16、MFR0.8〜35g/10分、引張強度20MPa、融点270℃。
・PFA、商品名:P−63PT、旭硝子製、比重2.12、MFR7〜18g/10分、引張強度30MPa、融点310℃。
・ETFE、商品名:C−88AP、旭硝子製、比重1.74、MFR4.5〜6.7g/10分、引張強度48MPa、融点260℃。
【0038】
<フッ素ゴムの架橋体の製造>
表1に示す組成に従い、各成分を、バッチ式混練機(二軸スクリュー押出機)を用いて下記混練条件で混合し、下記熱プレス条件で成形することによりフッ素ゴムのシート状架橋体を製造した。
混練条件:スクリュー回転数50rpm、混練機温度150℃、混練時間5分間。
熱プレス条件:圧力25MPa、温度300℃、プレス時間5分間。
【0039】
<熱可塑性樹脂組成物の製造>
表2に示す組成に従い、フッ素ゴムとラジカル開始剤と架橋助剤とを混合してゴム組成物を調製し、当該ゴム組成物とフッ素樹脂とを、バッチ式混練機(二軸スクリュー押出機)を用いて下記混練条件で混合し、下記熱プレス条件で、溶融したフッ素樹脂中でフッ素ゴムを架橋させて押し出すことにより、熱可塑性樹脂組成物のシート状成形体を製造した。
混練条件:スクリュー回転数50rpm、フッ素樹脂としてFEPとETFEを用いた場合の混練機温度280℃、PFAを用いた場合の混練機温度320℃、混練時間5分間。
熱プレス条件:圧力25MPa、フッ素樹脂としてFEPとETFEを用いた場合の温度300℃、PFAを用いた場合の温度320℃、プレス時間5分間。
【0040】
<評価>
得られたフッ素ゴムのシート状架橋体の架橋密度を測定した。
また、得られたシート状架橋体と、熱可塑性樹脂組成物のシート状成形体について、引張強度及び伸びの測定と、耐熱性の評価とをそれぞれ行った。これらの結果を表1、2に示した。
架橋密度、引張強度及び伸びの測定方法、耐熱性の評価方法を以下に示す。
【0041】
[架橋密度]
良溶媒である10mL中にフッ素ゴムのシート状架橋体1gを浸漬し、振動撹拌を24時間継続した。24時間経過後に、当該シート状架橋体の質量を測定し、浸漬前後の質量変化を測定することにより架橋密度(質量%)を求めた。
【0042】
[引張強度、伸び]
JIS K6251ゴムの引張強度測定に準拠して、引張強度と伸びをそれぞれ測定した。
【0043】
[耐熱性]
得られたフッ素ゴムのシート状架橋体と、熱可塑性樹脂組成物のシート状成形体とを、それぞれ275℃で500時間、空気中にて保管した後、上記と同様にして引張強度を測定した。
そして、当該保管前後の引張強度変化の割合を求め、下記の基準に基づいて耐熱性の評価を行った。
引張強度変化の割合(%)=保管後の引張強度/保管前の引張強度×100
○:引張強度変化の割合が70%以上であった。
×:引張強度変化の割合が70%未満であった。
【0044】
【表1】

【0045】
表1の結果から、実施例1〜4のフッ素ゴムのシート状架橋体は、比較例のものに比べて、架橋密度が高く、引張強度と伸び(柔軟性)がいずれも良好であり、耐熱性にも優れていることが分かる。
【0046】
【表2】

【0047】
表2の結果から、実施例5〜9の熱可塑性樹脂組成物のシート状成形体は、柔軟性を有するとともに、比較例のものに比べて、耐熱性に優れていることが分かる。
また、実施例5と実施例8との対比から、フッ素樹脂としてFEPを用いた場合、ゴム組成物の組成を変更することにより、フッ素樹脂の硬度を制御できることが分かる。
さらに、実施例5〜9の熱可塑性樹脂組成物のシート状成形体は、フッ素樹脂及びフッ素ゴムが用いられていることから耐油性にも優れていると云える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素ゴムと、
1分間半減期温度が280℃以上であるラジカル開始剤と、
融点が200℃以上であり、かつ、炭素原子間の二重結合を2つ以上有する架橋助剤とを含有することを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記ラジカル開始剤が、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン又はフッ化ピッチである請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記架橋助剤が、N,N’−m−フェニレン ビスマレイミドである請求項1又は請求項2記載のゴム組成物。
【請求項4】
フッ素樹脂と、
請求項1〜3のいずれか一項に記載のゴム組成物とを含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記フッ素樹脂中で前記ゴム組成物が架橋されている請求項4記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記フッ素樹脂が、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、又は、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)である請求項4記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
フッ素ゴム、1分間半減期温度が280℃以上であるラジカル開始剤、及び融点が200℃以上であり、かつ、炭素原子間の二重結合を2つ以上有する架橋助剤を含有するゴム組成物と、フッ素樹脂とを280℃以上で混合し、
溶融した前記フッ素樹脂中で前記ゴム組成物を架橋することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記ラジカル開始剤が、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン又はフッ化ピッチである請求項7記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記架橋助剤が、N,N’−m−フェニレン ビスマレイミドである請求項7又は請求項8記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
前記フッ素樹脂が、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、又は、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)である請求項7〜9のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2012−17432(P2012−17432A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156668(P2010−156668)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】