説明

ゴム組成物及びそれを用いたタイヤ

【課題】高い熱伝導性を有し、放熱性に優れたゴム組成物及びそれを用いたタイヤを提供する。
【解決手段】ゴム材料を基材とし、充填剤として、平均アスペクト比が30〜5000である炭素繊維を含有するゴム組成物及びそれを用いたタイヤである。炭素繊維の含有量が、ゴム材料100質量部に対して0.01〜100質量部であることが好ましい。さらに、炭素繊維以外の充填剤として、カーボンブラックおよび/または無機充填剤を含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及びそれを用いたタイヤに関し、詳しくは、高い熱伝導性を有し、放熱性に優れたゴム組成物及びそれを用いたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
電気電子部品、タイヤ、ベルト等の各種製品には、その特性に応じて、種々の天然ゴムや各種合成ゴムを基材としたゴム組成物が使用されている。かかる製品の性能や機能は、基材としてのゴム材料と同様に、種々配合されている充填剤等の副資材や加硫条件などによっても大きく影響を受ける。
【0003】
例えば、天然ゴムの補強効果を得るための充填剤としてはカーボンブラックやシリカが広く知られており、熱伝導性を高めるためにはアルミナや窒化ホウ素等を、また、電気伝導性を付与するためには銅やニッケルのような金属粉や導電性カーボンを、夫々配合する等の手法が取られている。
【0004】
また、特許文献1では、気相成長炭素繊維を利用することにより高弾性率で耐亀裂成長性、反発弾性に優れた、熱伝導性が高いゴム組成物が得られることが報告されている。さらに、特許文献2では、シリカ配合による特性を低下させることなく導電性の向上を図るために、ゴムとシリカと、その平均直径が0.01〜3μmの気相成長炭素繊維とを含有するゴム組成物が報告されている。
【0005】
しかしながら、従来知られている充填剤においては、高い効果を得るためには配合量を増大するしかなく、結果として、充填剤の均一な分散を得ることができず性能にバラツキがでたり、粘度の上昇や物性の低下が大きくなって成型性が悪化したり、あるいは、得られたゴム物品の力学物性が低下して実用に供し得なくなるなどの欠点をも伴うものであった。
【0006】
そこで、40℃以上でのtanδ値、80℃以上でのモジュラスを改良した気相成長炭素繊維を配合するゴム組成物を提供することを目的として、特許文献3には、ゴム材料を基材とし、充填材として平均アスペクト比が10未満である気相成長炭素繊維を配合する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平1−287151号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開平8−127674号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開2003−327753号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3記載の方法では、平均アスペクト比が10未満である気相成長炭素繊維を配合しているため、力学特性等が良好で、かつ、熱伝導性、電気伝導性に優れているものの、大型タイヤに使用した場合には、蓄熱性が高く、未だ十分な耐久性が得られず、放熱性のより高いタイヤの開発が求められていた。
【0008】
そこで、本発明の目的は、高い熱伝導性を有し、放熱性に優れたゴム組成物及びそれを用いたタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の平均アスペクト比を有する炭素繊維を用いることで、前記課題を解決し得ることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のゴム組成物は、ゴム材料を基材とし、充填剤として、平均アスペクト比が30〜5000である炭素繊維を含有することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明のゴム組成物は、前記炭素繊維の含有量が、前記ゴム材料100質量部に対して0.01〜100質量部であることが好ましく、さらに、前記炭素繊維以外の充填剤として、カーボンブラックおよび/または無機充填剤を含有することが好ましい。
【0012】
さらにまた、本発明のゴム組成物は、加硫後において、熱伝導率が、炭素繊維を含有しないゴム組成物対比1.5倍以上であることが好ましい。
【0013】
本発明のタイヤは、前記ゴム組成物を用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、高い熱伝導性を有し、放熱性に優れたゴム組成物及びそれを用いたタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態について具体的に説明する。
本発明における炭素繊維は、充填剤として使用され、平均アスペクト比が30〜5000であり、好ましくは、30〜200である。平均アスペクト比が30未満であると十分な熱伝導性を得られないため、放熱性に劣り、一方、5000を超えると作業性が悪化し、好ましくない。
【0016】
平均アスペクト比は、炭素繊維の平均径と平均長さから得られるものである。そのため、本発明における炭素繊維は、平均アスペクト比の要件を満たせば、平均径及び平均長さは限定されないが、好ましくは、平均径が0.01〜10μmであり、平均長さが0.1〜100μmである。
【0017】
また、平均アスペクト比は、炭素繊維の平均径および平均長さの測定することにより求められる。炭素繊維の平均径および長さの測定方法は、特には限定されないが、例えば、炭素繊維の透過型電子顕微鏡写真を撮影し、この写真を観察して、写真中に写された炭素繊維から1000個のサンプルを無作為に選択し、選択した炭素繊維の直径を自動画像処理解析装置(LUZEXAP)の2点間距離測定により求めることができ、また、選択した炭素繊維の長さを自動画像処理解析装置(LUZEX AP)の書き込み線測定により求めることができる。これら直径および長さの値から、1000個の平均値を求めることができる。
【0018】
本発明における炭素繊維としては、例えば、昭和電工株式会社製のVGCF−H(登録商標)およびVGCF−R(登録商標)等が挙げられる。
【0019】
本発明におけるゴム材料としては、天然ゴム、汎用合成ゴム、例えば、乳化重合スチレン−ブタジエンゴム、溶液重合スチレン−ブタジエンゴム、高シス−1,4ポリブタジエンゴム、低シス−1,4ポリブタジエンゴム、高シス−1,4ポリイソプレンゴム等、ジエン系特殊ゴム、例えば、ニトリルゴム、水添ニトリルゴム、クロロプレンゴム等、オレフィン系特殊ゴム、例えば、エチレン−プロピレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、アクリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン等、その他特殊ゴム、例えば、ヒドリンゴム、フッ素ゴム、多硫化ゴム、ウレタンゴム等を挙げることができる。コストと性能とのバランスから、好ましくは、天然ゴムまたは汎用合成ゴムである。
【0020】
本発明に係る炭素繊維の含有量は、ゴム材料100質量部に対して0.01〜100質量部とすることが好ましい。0.01質量部未満では所期の性能を十分に得ることができず、また、100質量部を超えて含有させても、所期の性能のさらなる向上効果は発現しにくく、混合や成型等における作業性が低下するため、いずれも好ましくない。
【0021】
本発明の組成物においては、本発明に係る炭素繊維以外の各種充填剤を、ゴム材料100質量部に対して0〜120質量部含有することが好適である。更に好適には、充填剤として、カーボンブラックおよび/または無機充填剤を含有させる。組成物中にカーボンブラックおよび/または無機充填剤が適量含有されていると、本発明に係る炭素繊維のみを添加した場合に比してより高い補強効果が得られる。カーボンブラックとしては、HAF級のものなど公知のものを使用することができる。また、無機充填剤としては、シリカ、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0022】
また、本発明のゴム組成物には、上記ゴム成分および炭素繊維の他、ゴム業界で通常用いられている各種添加剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜配合することができる。例えば、シランカップリング剤等のカップリング剤、軟化剤、硫黄等の加硫剤、ジベンゾチアジルジスルフィド等の加硫促進剤、N−シクロへキシル−2−ベンゾチアジル−スルフェンアミド、N−オキシジエチレン−ベンゾチアジル−スルフェンアミド等の老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、オゾン劣化防止剤、発泡剤、発泡助剤等が挙げられ、これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、これら各種添加剤としては、市販品を使用することができる。
【0023】
また、本発明のゴム組成物は、加硫後において、熱伝導率が、炭素繊維を含有しないゴム組成物対比1.5倍以上であることが好ましく、1.6〜2倍であることがより好ましい。ゴム組成物の熱伝導率が1.5倍以上であると、大型タイヤに使用した場合、十分な熱伝導性を得られ、特に好ましい。
【0024】
本発明において、熱伝導率の測定方法は、例えば、京都電子(株)製の迅速熱伝導率計QTM−500を用いて測定する。
【0025】
本発明のゴム組成物は、常法に従い適宜装置、条件、手法等にて混練り、熱入れ、押出等することにより調製し、タイヤ等の各種ゴム製品に好適に適用することができ、特に大型タイヤに好適に使用できる。
【0026】
また、本発明において、混練りは、混練り装置への投入体積、ローターの回転速度、ラム圧等や、混練り温度、混練り時間、混練り装置等の諸条件について特に制限はなく、所望に応じ適宜選択することができる。混練り装置としては、例えば、ロールなどの開放式混練機やバンバリーミキサーなどの密閉式混練機等が挙げられ、市販品を好適に使用することができる。
【0027】
さらに、熱入れまたは押出についても、熱入れまたは押出の時間、熱入れまたは押出の装置等の諸条件について特に制限はなく、所望に応じ適宜選択することができる。また、熱入れまたは押出の装置についても、市販品を好適に使用することができる。
【0028】
さらにまた、本発明のタイヤは、トレッド、ベルトなどの部材に上記本発明のゴム組成物を用いたものであればよく、これにより熱伝導による放熱効果で発熱を抑制することができるものであり、その具体的な構造や他の材料等については特に制限されるものではない。なお、本発明の空気入りタイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0029】
次に、本発明を実施例により更に詳しく説明する。本発明は、この例によって限定されるものではない。
【0030】
炭素繊維の物性測定
下記の表1記載の炭素繊維について、アスペクト比及び熱伝導率(W/mK)を以下のようにして測定した。得られた結果を下記の表1に併記する。
【0031】
アスペクト比の測定
炭素繊維の透過型電子顕微鏡写真を撮影し、この写真を観察して、写真中に写された炭素繊維から1000個のサンプルを無作為に選択し、選択した炭素繊維の直径を自動画像処理解析装置(LUZEXAP)の2点間距離測定により求めた。また、選択した炭素繊維の長さを自動画像処理解析装置(LUZEX AP)の書き込み線測定により求めた。これら直径および長さの値から、1000個の平均値を求め、アスペクト比を求めた。
【0032】
熱伝導率の測定
京都電子(株)製の迅速熱伝導率計QTM−500を用いて、粉体を圧縮することにより熱伝導率を測定して、熱伝導性を評価した。測定条件をそろえるために、密度を0.1g/cmの条件で測定した。
【0033】
【表1】

1)VGCF−H(登録商標):炭素繊維(昭和電工株式会社製)
2)VGCF−R(登録商標):炭素繊維(昭和電工株式会社製)
3)XN−100−05M:炭素繊維(日本グラファイトファイバー株式会社製)
4)XN−100−10M:炭素繊維(日本グラファイトファイバー株式会社製)
5)XN−100−15M:炭素繊維(日本グラファイトファイバー株式会社製)
【0034】
実施例1、2及び比較例1〜4
混練り条件
表1に示す各種炭素繊維を用いて、ラボプラストミル(東洋精機(株)製)にて、スチレンブタジエンゴム(SBR)を70℃、50rpmで3分間素練りした後、下記の表2に示す、加硫促進剤および硫黄を除く各添加剤を投入して、70℃にて30rpmで更に混合した(ノンプロ配合)。得られた混合物を取り出して、冷却、秤量した後、残りの加硫促進剤および硫黄を投入し、プラベンダーを用いて、50℃にて30rpmで再度混合した(プロ配合)。
【0035】
ゴムシート作製条件
混練りした混合物を高温プレスを用いて150℃×15分にて加硫して、1mm厚の加硫ゴムシートを作製した。
【0036】
ゴムシートの熱伝導率の測定
京都電子(株)製の迅速熱伝導率計QTM−500を用いて、ゴムシートの熱伝導率を測定し、炭素繊維を含有しない比較例4の値を100として、評価した。数値が大なる程、結果が良好である。ゴムシートの熱伝導率の測定結果を表2に併記する。
【0037】
【表2】

6)SBR:スチレンブタジエンゴム(JSR社製)
7)HAF:カーボンブラック(シースト3、東海カーボン株式会社製)
8)老化防止剤:N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン
9)加硫促進剤:N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジル・スルフェンアミド
【0038】
表2の結果から、比較例1〜3では、アスペクト比に低い炭素繊維を用いているためそれほど大きな熱伝導向上効果は見られないことが分かる。それに対し、実施例1及び2では、アスペクト比の高い炭素繊維を用いることにより放熱性の高いゴム組成物を得られることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム材料を基材とし、充填剤として、平均アスペクト比が30〜5000である炭素繊維を含有することを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記炭素繊維の含有量が、前記ゴム材料100質量部に対して0.01〜100質量部である請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記炭素繊維以外の充填剤として、カーボンブラックおよび/または無機充填剤を含有する請求項1または2記載のゴム組成物。
【請求項4】
加硫後において、熱伝導率が、炭素繊維を含有しないゴム組成物対比1.5倍以上である請求項1〜3のうちいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか一項に記載のゴム組成物を用いたことを特徴とするタイヤ。

【公開番号】特開2009−144110(P2009−144110A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325455(P2007−325455)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】