説明

ゴム組成物及びそれを用いた空気ばね

【課題】小径化した空気ばねの耐疲労性を向上させることが可能なゴム組成物及びそれを用いた空気ばねを提供する。
【解決手段】内面ゴム2層および外面ゴム層4と、該両層2,4の間に介在する補強層3とを備え、補強層3が補強コードと、補強コードをトッピングするトッピングゴムとからなる空気ばねにおいて、トッピングゴムとして、イソプレン系ゴムを主成分とし、ブタジエンゴムを含有するゴム成分100重量部に、芳香族アミン系老化防止剤を6重量部〜13重量部配合したゴム組成物を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐疲労性に優れたゴム組成物およびそれを用いた空気ばねに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、空気ばねの仕様は、特許文献1に示すように、バストラックの軽量化や低床化の動きと連動して設置スペースの縮小化が行なわれており、これに対応するため、空気ばねの小型スリム化が進んでいる。
【特許文献1】特開2006−112500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
具体的には、空気ばねとして径の小さいものが要求されている。しかしながら、このような空気ばねの小径化は、空気ばねの単位面積当たりにかかる圧力の増大を招くことになり、このような圧力の負荷が大きい状態で伸縮を繰り返すと、従来の空気ばねでは耐久性が低下するという問題が生じていた。
【0004】
そこで、本願発明においては、耐疲労性を向上させることが可能なゴム組成物及びそれを用いた空気ばねを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係るゴム組成物は、イソプレン系ゴムを主成分とし、ブタジエンゴムを含有するゴム成分100重量部に、芳香族アミン系老化防止剤を6重量部〜13重量部配合したことを特徴とする。
【0006】
上記ゴム組成物は加硫後の耐疲労性に優れ、小径化した空気ばね用のゴム組成物として用いることで、耐久性に優れた空気ばねを得ることができる。
【0007】
本発明者は、通常、ゴムの老化を防止するために配合する芳香族アミン系老化防止剤の量は、ゴム成分100重量部に対して1重量部程度とされるところ、芳香族アミン系老化防止剤をゴム成分に対して過剰に配合することにより加硫ゴムの耐疲労性を向上させることができることを見いだして本発明を完成するに至ったものである。
【0008】
芳香族アミン系老化防止剤の配合量としては、上記ゴム成分100重量部に対して6重量部〜13重量部とするのが好ましく、7重量部〜12重量部とするのがより好ましい。芳香族アミン系老化防止剤の配合量が上記範囲に満たない場合、耐疲労性向上の効果が小さくなり、また、上記範囲を超える場合には、加硫ゴムの強度低下が生じることがある。
【0009】
ここで重要なのは、芳香族アミン系老化防止剤を配合するゴム成分としてイソプレン系ゴムとブタジエンゴムとのブレンドゴムを使用することである。ゴム成分としてイソプレン系ゴム100%のものを使用した場合には芳香族アミン系老化防止剤の配合量を増やしても耐疲労性の向上は認められない。その理由については不明であるが、芳香族アミン系老化防止剤と、イソプレン系ゴム及びブタジエンゴムとの相乗効果によるものと考えられる。
【0010】
ゴム成分におけるイソプレン系ゴムとブタジエンゴムとの量的な関係としては、イソプレン系ゴムを主成分とするのが必要とされる。さらに、耐疲労性をより効果的に向上させることができるという点から、ゴム成分として、イソプレン系ゴム65重量部〜85重量部と、ブタジエンゴム35重量部〜15重量部を含有するものが好ましく、イソプレン系ゴム70重量部〜80重量部と、ブタジエンゴム30重量部〜20重量部を含有するものがより好ましい。
【0011】
イソプレン系ゴムとしては、イソプレンゴムのほかに、天然ゴムを使用することも可能であり、これらを単独で使用したり、併用することもできる。ただ、耐疲労性に影響を与えるおそれのある夾雑物を含まないという点からいえば、イソプレンゴムを使用するのが好ましい。
【0012】
上述したゴム組成物は、耐疲労性に優れており、該ゴム組成物を使用してなる空気ばねは、小径のものであっても優れた耐久性を発揮する。
【0013】
空気ばねの具体的な構造としては、内面ゴム層および外面ゴム層と、該両層の間に介在する補強層とを備え、補強層は、補強コードと、該補強コードを被覆するトッピングゴムとからなっている。本発明に係るゴム組成物は、上記内面ゴム層、外面ゴム層及びトッピングゴムのいずれに用いてもよいが、耐久性試験に供した空気ばねの劣化が先ず補強層の亀裂となって現れることからトッピングゴムとして使用するのが好ましい。
【0014】
すなわち、本発明に係るゴム組成物をトッピングゴムに使用することで、補強層における亀裂の発生を抑制するとともに、内面ゴム層及び外面ゴム層については、主にクロロプレンゴム等の耐オゾン性及び耐熱性に優れたゴム成分を含有するゴム組成物を使用することで空気ばね全体としての耐久性を効果的に向上させることが可能となる。
【0015】
本発明で用いられる芳香族アミン系老化防止剤としては、ジフェニルアミンとアセトンとの反応物、ジフェニルアミンとメチルエチルケトンとの反応物等のアミン−ケトン系老化防止剤や、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン等のp-フェニレンジアミン系老化防止剤や、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン等のジアリールアミン系老化防止剤を例示することができる。これらは単独で使用、あるいは、2種以上併用することができる。これらの中でも特に、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンと、ジフェニルアミンとアセトンとの反応物とを併用するのが好ましい。
【0016】
老化防止剤としては、上記芳香族アミン系老化防止剤以外に、他の特性、例えば、耐熱性等を向上させることを目的としてキノリン系など他の系統の老化防止剤を併用することも可能である。
【0017】
ブタジエンゴムの種類については特に限定はないが、シス1,4結合の含有量が90%以上の高シス型のブタジエンゴムを使用すれば、加硫ゴムの加工性や耐疲労性を向上させることができる点で好ましく、シス1,4結合の含有量が95%以上のものを使用するのがより好ましい。
【0018】
本発明に係るゴム組成物は、バストラック用空気ばね、鉄道車両用空気ばね用のゴム組成物をして使用できるほか、建設用ホースジョイント等の耐疲労性の要求されるゴム製品用のゴム組成物として好適に使用することができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を挙げて本発明について更に詳細に説明するが、本発明をその要旨を越えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0020】
[ゴム組成物の調製]
本実施例においては、ゴム組成物として、表1に示すように、ゴム成分の構成及び芳香族アミン系老化防止剤の種類・量を変化させた9種類(試料1〜9)を調製して評価を行なった。
【0021】
ゴム成分としては、イソプレン系ゴムとしてイソプレンゴム(IR)又は天然ゴム(NR)を使用し、ブタジエンゴム(BR)として、高シス型BR(ランクセス社製:商品名「BUNA CB22」、シス1,4結合の含有量98%)を使用した。
【0022】
芳香族アミン系老化防止剤としては、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン(6C)及びジフェニルアミンとアセトンとの反応物(B-N)をそれぞれ単独使用あるいは併用した。
【0023】
表1に記載した9種類の試料には、上記ゴム成分及び芳香族アミン系老化防止剤以外の成分として、カーボンブラック、プロセスオイル、硫黄、加硫促進剤、酸化亜鉛、ステアリン酸を共通して配合して混練後、加硫して評価試験に供した。
【0024】
【表1】

【0025】
[評価試験]
(1)加硫ゴムの常態物性
表1に記載した各試料を加硫し、硬度(JIS K6253に準拠)と、300%モジュラス、引張強さ及び伸び(いずれもJIS K6251に準拠)とを測定した。結果を表1に示す。
(2)加硫ゴムの耐疲労性試験
表1に記載した各試料を加硫し、耐疲労性試験としてデマッチャ伸張疲労試験(JIS K6270に準拠)を実施した。結果を表1に示す。
【0026】
[評価結果]
各試料の耐疲労性については、表1に示すように、ゴム成分としてIRとBRとを適正にブレンドしたものを用い、これに芳香族アミン系老化防止剤を適正範囲よりも少なくして配合した場合(試料4〜6)には、耐疲労性はほとんど向上しないことがわかる。
【0027】
また、芳香族アミン系老化防止剤の配合量を適正範囲としたものを用いても、ゴム成分としてIRとBRとのブレンド比が適切でない場合(試料1、試料4)には、やはり耐疲労性は向上しない。
【0028】
ところが、ゴム成分としてIRとBRとを適正にブレンドしたものを用い、これに対して、芳香族アミン系老化防止剤を適正量配合した本発明に係るゴム組成物(試料2及び試料3)においては、他の試料に比べて著しく耐疲労性が向上しており、さらに加硫ゴムの常態物性も十分なレベルであることがわかる。
【0029】
なお、本実施例においては、従来、空気ばね用として使用されていた2種類のゴム組成物を試料8及び試料9として加えている。本発明に係るゴム組成物(試料2及び試料3)は、これら試料8、試料9と比べても十分耐疲労性が向上していることがわかる。
【0030】
[製品耐久試験]
表1に記載された試料のうち、耐疲労性が最も良好であった本発明に係るゴム組成物(試料3)を用いて、実際に空気ばねを作製し、製品としての耐久性について評価を行なった。なお、比較品としては、従来のゴム組成物である試料8を用いた。以下に試験内容を記す。
(1)空気ばねの作製
本発明に係る空気ばねとして、図1に示すように、略円筒状のものを作製した。この空気ばね1は、図2に示すように、内面ゴム層2と、内面ゴム層2の外周側に配置される補強層3と、補強層3の外周側に配置される外面ゴム層4を備えている。
【0031】
補強層3は、補強コードと、補強コードを被覆するトッピングゴムとからなっている。本実施例においては、トッピングゴムとして、本発明に係るゴム組成物(試料3)を用い、内面ゴム層2及び外面ゴム層3を構成するゴム組成物としては、耐オゾン性及び耐熱性に優れたクロロプレンゴムを主成分とするゴム組成物を使用することで空気ばね全体としての耐疲労性を効果的に向上させるようにしている。
【0032】
補強コードに使用される繊維としては、レーヨン、ナイロン、アラミド、カーボン、ポリエステルなどの有機繊維及びガラス、スチールなどの無機、金属繊維などを挙げることができるが、本実施例では補強コードとしてナイロンコードを使用している。
【0033】
補強層を形成するには、未加硫の内面ゴム層の外周に、補強コードをトッピングゴムで被覆したゴム被覆コードを空気ばねの軸線に対し、コード方向が交差するように、交互に複数層巻きつける。本実施例では、補強層3は、ゴム被覆コード2層巻き付けた2層構造とされている。
【0034】
ゴム被覆コードを巻き付けた後、その外周に未加硫の外面ゴム層を形成し、加硫成形することにより、空気ばねを得ることができる。以上のようにして得られた空気ばねを発明品とした。なお発明品と同様の手順で、ゴム組成物のみ試料8を用いて作製した空気ばねを従来品とした。
(2)製品耐久試験
上記(1)で得られた発明品および従来品の空気ばねを使用して製品耐久試験を実施した。具体的には、図3に示すように、空気ばね1の上端と下端をそれぞれ上面板5とピストン6に固定する。上面板5は図示しない試験機に固定され、ピストン6は該試験機のアームに取り付けられている。
【0035】
空気ばね1の下端部は、ピストン6を上向きに押し込んだように内側に折り返される。アームは、一定周期で上下動するようになっており、これにより、空気ばね1が一定ストロークで伸縮する構造となっている。
【0036】
具体的な試験条件としては、セット高さを268mm、アームのストロークを±80mm、空気ばねの内圧を0.63MPa、振動数2Hzとした。
【0037】
上記試験の結果、発明品は250万回まで空気もれを発生することなく使用することが可能であったのに対して、従来品は40万回で空気もれを生じた。これにより、本発明に係るゴム組成物を用いて作製した空気ばねは優れた耐久性を発揮することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る空気ばねを示す図であり、左半分は断面図を、右半分は外観図を示す。
【図2】図1の空気ばねの一部断面図
【図3】図1の空気ばねの取り付け状態を示す断面図
【符号の説明】
【0039】
1 空気ばね
2 内面ゴム層
3 補強層
4 外面ゴム層
5 上面板
6 ピストン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソプレン系ゴムを主成分とし、ブタジエンゴムを含有するゴム成分100重量部に、芳香族アミン系老化防止剤を6重量部〜13重量部配合したことを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム成分は、イソプレン系ゴム65重量部〜85重量部と、ブタジエンゴム35重量部〜15重量部とからなることを特徴とする請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記イソプレン系ゴムは、イソプレンゴム及び/又は天然ゴムであることを特徴とする請求項1又は2記載のゴム組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のゴム組成物を使用してなる空気ばね。
【請求項5】
内面ゴム層および外面ゴム層と、該両層の間に介在する補強層とを備え、前記補強層が補強コードと、該補強コードをトッピングするトッピングゴムとからなり、前記トッピングゴムとして前記ゴム組成物が使用されてなる請求項4記載の空気ばね。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−332325(P2007−332325A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−168774(P2006−168774)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】