説明

ゴム組成物及びそれを用いた空気入りタイヤ

【課題】耐破壊特性及び耐摩耗性を低下させることなく、高いグリップ性能が得られるゴム組成物及びそれを用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】スチレン・ブタジエン共重合体ゴムを40質量部以上含むゴム成分に対し、カーボンブラックと、軟化点が135℃以上のp−tertブチルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂と、を含有するゴム組成物及びそれを用いた空気入りタイヤである。前記ゴム成分100質量部に対し、前記p−tertブチルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂を3〜50質量部含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及びそれを用いた空気入りタイヤに関し、特に高性能乗用車用タイヤのトレッド用ゴム組成物及びそれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の性能向上、道路の舗装化及び高速道路網の発達に伴い、高運動性能を備えた空気入りタイヤの要求が強まっている。この特性が高いほど、より高速で正確且つ安全に走行することが可能となる。とりわけ、加速性能やブレーキ性能に代表されるグリップ性能は重要な要求特性である。
【0003】
従来、高グリップ性能を得るために、タイヤトレッド用ゴム組成物にガラス転移温度の高いゴムである高スチレン含有率のスチレン・ブタジエン共重合体ゴムを使用する方法があった。しかし、この方法では、走行によるゴム温度の上昇と共にtanδ値が低下するため、タイヤ温度が上昇するとグリップ性能が低下してしまうという不都合があった。
【0004】
そこで、この不都合を解消するために、1,3−ブタジエン、スチレンまたはイソプレン等のモノマーと、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェートまたはジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート等のジフェニルホスフェート基を含むメタクリレート化合物またはアクリレート化合物とを共重合して得られる共重合体ゴムを使用する技術(特許文献1)が提案されている。
【特許文献1】特開昭59−187011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この方法では、天然ゴムに適用できないばかりでなく、製造条件によってはポリマー、例えばスチレン・ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴムの本来有すべき性質を損なう不都合があった。
【0006】
一方、プロセスオイル及びカーボンブラックを高充填した配合系を使用することにより、ゴム組成物のtanδ値を大きくする方法もあるが、この方法では、グリップ性能は向上するものの、破壊特性や耐摩耗性の著しい低下が起きるため、高充填には限界があり、要求レベルの高グリップ性能を得難いという不都合があった。
【0007】
さらに、ある種の樹脂を添加することによりゴム−路面間の凝着を高めてグリップ性能を向上する方法もあるが、一般的にグリップ性能が高い樹脂ほど、製造工程中に存在する金属ミキサー及び金属ロールとの密着性が高くなり、工場作業性を阻害する傾向となる。従って、樹脂を改良することによってグリップ性能向上を図る方法も難しいのが実情である。
【0008】
そこで本発明の目的は、耐破壊特性及び耐摩耗性を低下させることなく、高いグリップ性能が得られるゴム組成物及びそれを用いた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討した結果、ゴム組成物に高軟化点のp−tertブチルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂を配合することが有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のゴム組成物は、スチレン・ブタジエン共重合体ゴムを40質量部以上含むゴム成分に対し、カーボンブラックと、軟化点が135℃以上のp−tertブチルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂と、を含有することを特徴とするものである。
【0011】
本発明のゴム組成物においては、前記ゴム成分100質量部に対し、前記p−tertブチルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂を3〜50質量部含有することが好ましく、さらに好ましくは、10〜40質量部含有する。また、前記p−tertブチルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂の重量平均分子量(Mw)が1000以上であることが好ましい。さらに、前記ゴム成分100質量部に対し、前記カーボンブラックを30〜200質量部含有することが好ましく、前記カーボンブラックの、セチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)が100〜160m/gであり、かつ、ジブチルフタレート吸油量(DBP)が90〜150mL/100gであることが好ましい。また、前記スチレン・ブタジエン共重合体ゴムが20〜70質量%のスチレンを含有することが好ましい。
【0012】
本発明の空気入りタイヤは、前記ゴム組成物をトレッド部材に用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、耐破壊特性及び耐摩耗性を低下させることなく、高いグリップ性能をこれまでになく大幅に高めることができるゴム組成物及びそれを用いた空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態について具体的に説明する。
本発明のゴム組成物は、ゴム成分としては、スチレン・ブタジエン共重合体ゴムを40質量部以上含み、それ以外のゴム分では天然ゴム及び合成ゴムを単独使用でも併用でもよく、合成ゴムとしては、合成ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン・ブタジエン共重合体ゴム、ハロゲン化ブチルゴム、EPDMゴム、アクリルゴム等が挙げられる。スチレン・ブタジエン共重合体ゴムが40質量部未満であると所望の効果を得ることができない。また、スチレン・ブタジエン共重合体ゴムは、好ましくは50質量部以上である。
【0015】
本発明において使用するスチレン・ブタジエン共重合体ゴムは、スチレン含有量が20〜70質量%であることが好ましい。スチレン・ブタジエン共重合体ゴムのスチレン量が20質量%未満であると、高温時のグリップが不足することがあり、70質量%を超えると低温時のグリップが不足することがある。かかるスチレン・ブタジエン共重合体ゴムは市販品を使用することができ、油展されていてもよい。
【0016】
本発明のゴム組成物において、カーボンブラックは、ゴム成分100質量部に対し30〜200質量部含有することが好ましく、ゴム組成物における補強性充填剤として使用される。カーボンブラックの含有量が30質量部未満であると高いグリップ性能を得ることができないことがあり、200質量部を超えると破壊特性や耐摩耗性の著しい低下が起きることがあり、好ましくない。
【0017】
カーボンブラックとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。カーボンブラックは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、また、市販品を使用することができるが、カーボンブラックのセチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)が100〜160m/gであることが好ましい。セチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)が、100m/g未満であると、ゴム組成物の耐摩耗性が十分でないことがあり、160m/gを超えると加工性や伸び特性が低下することがある。
【0018】
なお、セチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)は、ASTM−D 3765−80又はJIS K6217−3:2001に規定されており、単位質量当たりのセチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(m/g)を意味する。
【0019】
また、カーボンブラックのジブチルフタレート吸油量(DBP)としては、90〜150mL/100gが好ましい。ジブチルフタレート吸油量(DBP)が90mL/100g未満であると、耐熱性が十分に確保できないことがあり、150mL/100gを超えると、加工性や伸び特性に劣り、ゴムとしての一般的性質が悪化することがある。
【0020】
なお、ジブチルフタレート吸油量(DBP)は、JIS K6217−4:2001に従って測定した値であり、カーボンブラック100g当たりに吸収されるジブチルフタレートの量(mL)を意味する。
【0021】
本発明のゴム組成物において、p−tertブチルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂は、軟化点が135℃以上のものが含有されていれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。p−tertブチルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂の軟化点が135℃未満であると、所望の効果を得ることができない。軟化点は、140〜180℃であることが好ましい。さらに、p−tertブチルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
本発明のゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対し、p−tertブチルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂を好ましくは3〜50質量部、より好ましくは10〜40質量部を含有する。p−tertブチルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂の含有量が3質量部未満であると、十分な性能が発揮できないことがあり、50質量部を超えると加工性が極端に悪化すると同時に十分な性能が発揮できないことがある。
【0023】
本発明のゴム組成物において、p−tertブチルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより得られた、ポリスチレン換算の重量平均分子量が1000以上のものであることが好ましい。
【0024】
本発明のゴム組成物においては、軟化点が135℃以上のp−tertブチルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂を含有することが重要であるが、本発明の効果を損なわない限り、他の軟化剤を目的に応じて適宜併用することができる。他の軟化剤は、特に限定されないが、具体的には、アロマティックオイル、低温軟化剤、熱可塑性樹脂などを用いることができる。かかる軟化剤は、1種単独の物質で構成されていてもよいし、2種以上が併用されて構成されていてもよい。後者の場合には、ゴム組成物の硬さの温度依存性を広範囲化することができる点で好ましい。
【0025】
低温軟化剤としては、軟化点が0℃以下、好ましくは−10℃以下のものが好適である。このような低温軟化剤としては、従来ゴム用軟化剤として慣用されているもの、例えば、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイルなどのプロセス油、重合した高沸点強芳香族系オイル、流動パラフィン、ホワイトオイルなどの鉱物系軟化剤、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、やし油、落花生油、トール油などの植物系軟化剤などの中から、適宜選択して用いることができる。
【0026】
熱可塑性樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂などが好適に挙げられる。
【0027】
C5系石油樹脂は、ナフサの熱分解によって得られるC5留分の樹脂である。C5留分としては、例えば、オレフィン系炭化水素、ジオレフィン系炭化水素、などが挙げられる。オレフィン系炭化水素としては、例えば、ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテンなどが挙げられる。C5系石油樹脂としては、市販品を好適に使用することができ、市販品としては、例えば、ストラクトールTS30(ストラクトール社製)、TX−500(三井化学(株)製)などが挙げられる。
【0028】
C9系石油樹脂は、ナフサの熱分解によって得られるC9留分の樹脂である。C9留分としては、例えば、ジオレフィン系炭化水素等が挙げられる。ジオレフィン系炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、α−メチルスチレン、1、2−ペンタジエンなどが挙げられる。C9系石油樹脂としては、市販品を好適に使用することができ、市販品としては、例えば、ネオポリマー(日本石油(株)製)、ペトコール(東ソー株式会社製)、ペトロタック(東ソー株式会社製)、トーホーハイレジン(東邦化学株式会社製)などが挙げられる。
【0029】
熱可塑性樹脂の融点としては、60〜160℃が好ましく、120〜160℃がより好ましい。熱可塑性樹脂の融点が、60℃未満であると、高温時のゴムの剛性が不足することがあり、160℃を超えると、低温時のゴムの柔軟性が不足することがある。
【0030】
ゴム組成物に含まれるその他の成分としては、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択し、使用することができ、例えば、無機充填剤、硫黄等の加硫剤、ジベンゾチアジルジスルフィド等の加硫促進剤、加硫助剤、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジル−スルフェンアミド、N−オキシジエチレン−ベンゾチアジル−スルフェンアミド等の老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、オゾン劣化防止剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、酸化防止剤、カップリング剤、発泡剤、発泡助剤等の添加剤などの他、通常ゴム業界で用いる各種配合剤などが挙げられる。これらは、市販品を好適に使用することができる。
【0031】
また、空気入りタイヤに本発明のゴム組成物をトレッド部材として使用することができる。これにより、低温時の作動性及び耐摩耗性を低下させることなく、高いグリップ性能が得られる。
【実施例】
【0032】
次に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明は、この例によって何ら限定されるものではない。
【0033】
(p−tertブチルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂合成法(樹脂C))
p−tertブチルフェノール1000質量部、37%ホルマリン432質量部、界面活性剤1質量部および蓚酸5質量部を、攪拌機、温度計および凝集器をセットした反応フラスコに投入した。次いでフラスコ内容物を攪拌混合しながら還流状態で90分間反応させた。凝集器をはずして脱水容器に連結し、常圧下で内容物を昇温して脱水した。減圧下(80mmHg)で昇温して脱水・脱モノマーを行ない、200℃到達後に内容物をフラスコから取り出して冷却し、固形樹脂を得た。
【0034】
(ゴム組成物調製法)
表1及び表2に示す配合処方に従って、バンバリーミキサーを用いて混練し、タイヤトレッド用ゴム組成物を調製した。得られたゴム組成物を160℃15分間の条件で加硫し、グリップ性能の評価を行った。なお、タイヤのグリップ性能についての評価は下記方法により行った。得られた評価結果を下記の表1及び表2に併記する。
【0035】
(ヒステリシス特性)
各ゴム組成物を加硫して得られた加硫ゴムに対して、レオメトリックス社製粘弾性測定試験機を用いて、動的歪1%の条件下で50℃におけるtanδを測定し、比較例1のゴム組成物のtanδを100として指数表示した。指数値が大きいほどtanδが大きく、グリップ性能に優れることを示す。
【0036】
(ドライスキッド性)
スキッドテスター(スタンレー・ロンドン社製)により乾いた路面上で評価し、比較例1を100とした数値で示した。この値が大きいほど良好である。
【0037】
(グリップ性)
タイヤのグリップ性は、上記のゴム組成物をトレッドとして用いたタイヤサイズ:225/40R18のタイヤを作製して評価した。乗用車に前記のタイヤを4本装着してドライアスファルト路面のテストコースを走行して評価を行い、グリップ性能についてテストドラーバーが7段階で評価した。
7段階 7:非常に良い、6:良い、5:やや良い、4:普通、3:やや悪い、2:悪い、1:非常に悪い、−:未評価
【0038】
【表1】

*1 旭化成製タフデン4350(結合スチレン含有率39%、ビニル結合量38%、ゴム成分100質量部に対し50質量部のアロマチックオイルで油展)
*2 カーボンブラック(CTAB吸着法による外部表面積148m/g、24M4DBP吸油量102mL/100g)
*3 コレシン(BASF社製)
*4 Durez32333(Durez社製、p−tertブチルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂、軟化点130℃)
*5 p−tertブチルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂(合成品、軟化点143℃)
*6 N−1,3−ジメチル−ブチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン
*7 N−t−ブチル−2−ベンゾチアジル−スルフェンアミド
*8 テトラキス−2−エチルヘキシルチウラムジスルフィド
【0039】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン・ブタジエン共重合体ゴムを40質量部以上含むゴム成分に対し、カーボンブラックと、軟化点が135℃以上のp−tertブチルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂と、を含有することを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム成分100質量部に対し、前記p−tertブチルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂を3〜50質量部含有する請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記ゴム成分100質量部に対し、前記p−tertブチルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂を10〜40質量部含有する請求項2記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記p−tertブチルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂の重量平均分子量(Mw)が1000以上である請求項1〜3のうちいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記ゴム成分100質量部に対し、前記カーボンブラックを30〜200質量部含有する請求項1〜4のうちいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記カーボンブラックの、セチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)が100〜160m/gであり、かつ、ジブチルフタレート吸油量(DBP)が90〜150mL/100gである請求項1〜5のうちいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記スチレン・ブタジエン共重合体ゴムが20〜70質量%のスチレンを含有する請求項1〜6のうちいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のうちいずれか一項記載のゴム組成物をトレッド部材に用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2008−214590(P2008−214590A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−57788(P2007−57788)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】