説明

ゴム組成物及びそれを用いた空気入りタイヤ

【課題】タイヤの乾燥路面での操縦安定性及び氷上性能を向上させることが可能なゴム組成物を提供する。
【解決手段】ポリスチレン換算重量平均分子量が150,000を超えるゴム成分(A)に対し、ポリスチレン換算重量平均分子量が80,000を超えて且つ150,000以下で、芳香族ビニル化合物の結合量が5質量%以下の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体であって、未変性の低分子量重合体(B)と、充填剤(C)とを配合してなり、前記低分子量重合体(B)の配合量が、ゴム成分(A)100質量部に対して1〜60質量部であることを特徴とするゴム組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及び該ゴム組成物を用いた空気入りタイヤに関し、特にタイヤの乾燥路面での操縦安定性及び氷上性能を向上させることが可能なゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の低燃費性と安全性に対する要求が一段と厳しくなってきており、自動車のタイヤトレッド用ゴム材料に従来から要求されてきた耐摩耗性や破壊特性に加えて、ウェット、ドライ等のグリップ性能に優れたゴムが強く望まれるようになってきた。従来、耐摩耗性及び破壊特性を向上させる手法として、アロマオイル等の軟化剤に代えて低分子量の液状芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物重合体を用いる手法が行われるが、該芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物重合体としてスチレン−ブタジエン共重合体を用いる場合、ゴム組成物のガラス転移点(Tg)が高まり、タイヤの氷上性能を低下させる問題があった(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この問題に対し、特許第3457469号公報(特許文献2)には、タイヤの氷上性能及びウェット性能を両立させることが可能なゴム組成物として、結合スチレン量が30質量%以下の高分子量重合体成分に、結合スチレン量が30質量%以下の低分子量重合体成分を配合してなり、結合スチレン量とビニル含有量が特定の関係式を満たすゴム組成物が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−241358号公報
【特許文献2】特許第3457469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、特許第3457469号公報に開示のゴム組成物においては、低分子量重合体成分が非常に低いムーニー粘度を有しているため、重合体の製造上、乾燥が困難となり、また、マトリクスである高分子量重合体成分との相溶性も十分に確保することができないため、高温での高い貯蔵弾性率(G)/低温での低い貯蔵弾性率(G)の効果が最大限に発揮できないことが分かった。
【0006】
なお、高温とは、通常走行時のハンドリングに影響を及ぼす温度であり、一方、低温とは、氷雪上走行時の温度であって、-30〜0℃程度である。
【0007】
そこで、本発明の目的は、高温での貯蔵弾性率(G)が高く、低温での貯蔵弾性率(G)が低いゴム組成物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかるゴム組成物をトレッド部に用いた、乾燥路面での操縦安定性及び氷上でのグリップ性能(氷上性能)に優れた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定の重量平均分子量を有するゴム成分に対し、従来の軟化剤に代えて特定の重量平均分子量及び芳香族ビニル化合物の結合量を有する未変性の低分子量重合体と、充填剤とを配合することで、得られたゴム組成物の高温での貯蔵弾性率(G)を向上させると共に、低温での貯蔵弾性率(G)を低減できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明のゴム組成物は、ポリスチレン換算重量平均分子量が150,000を超えるゴム成分(A)に対し、ポリスチレン換算重量平均分子量が80,000を超えて且つ150,000以下で、芳香族ビニル化合物の結合量が5質量%以下の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体であって、未変性の低分子量重合体(B)と、充填剤(C)とを配合してなり、
前記低分子量重合体(B)の配合量が、ゴム成分(A)100質量部に対して1〜60質量部であることを特徴とする。
【0010】
なお、上記ポリスチレン換算重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定した値である。また、未変性は、例えば、スズ含有化合物、ケイ素含有化合物、窒素含有化合物等の変性剤で変性されていないことを示す。
【0011】
本発明のゴム組成物の好適例においては、前記ゴム成分(A)が、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体を含有する。
【0012】
本発明のゴム組成物においては、前記充填剤(C)の配合量が、ゴム成分(A)100質量部に対して5〜80質量部であることが好ましい。
【0013】
本発明のゴム組成物の他の好適例においては、前記充填剤(C)が、カーボンブラック及び/又はシリカである。
【0014】
本発明のゴム組成物は、前記ゴム成分(A)が、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体を含有する場合、前記ゴム成分(A)の芳香族ビニル化合物の結合量と、前記低分子量重合体(B)の芳香族ビニル化合物の結合量との差が、20質量%以下であることが好ましい。
【0015】
本発明のゴム組成物の他の好適例においては、前記ゴム成分(A)が、天然ゴム又は合成ゴムである。ここで、前記ゴム成分(A)としては、ポリブタジエンゴムが好ましい。
【0016】
また、本発明の空気入りタイヤは、上記のゴム組成物をトレッド部に用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、特定の重量平均分子量を有するゴム成分(A)に対し、特定の重量平均分子量及び芳香族ビニル化合物の結合量を有する未変性の低分子量重合体(B)と、充填剤(C)とを配合することで、高温での貯蔵弾性率(G)を向上させると共に、低温での貯蔵弾性率(G)が低減されたゴム組成物を提供することができる。また、かかるゴム組成物をトレッド部に用いた、乾燥路面での操縦安定性及び氷上性能に優れた空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明のゴム組成物は、ポリスチレン換算重量平均分子量が150,000を超えるゴム成分(A)に対し、ポリスチレン換算重量平均分子量が80,000を超えて且つ150,000以下で、芳香族ビニル化合物の結合量が5質量%以下の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体であって、未変性の低分子量重合体(B)と、充填剤(C)とを配合してなり、該低分子量重合体(B)の配合量が、ゴム成分(A)100質量部に対して1〜60質量部であることを特徴とする。
【0019】
本発明のゴム組成物は、アロマオイル等の軟化剤に代えて、特許第3457469号公報に記載の低分子量重合体成分より高分子量領域である低分子量重合体(B)を用いることで、低温での柔軟性と高温での貯蔵弾性率(G)を高度にバランスさせることができる。これにより、本発明のゴム組成物をタイヤのトレッド部に用いる場合、タイヤのブロック剛性の低下が抑制され、タイヤの乾燥路面での操縦安定性を向上させることができる。また、本発明の低分子量重合体(B)は、未変性であるので、ペイン効果が大きくなり、高温での貯蔵弾性率(G)を向上させることができる。これにより、本発明のゴム組成物をタイヤのトレッド部に用いる場合、タイヤのブロック剛性の低下が抑制され、タイヤの乾燥路面での操縦安定性を大幅に向上させることができる。更に、本発明のゴム組成物の低分子量重合体(B)は、芳香族ビニル化合物の結合量が5質量%以下であるため、ゴム組成物のガラス転移温度(Tg)が低く、低温での貯蔵弾性率(G)を低減することができる。これにより、本発明のゴム組成物をタイヤのトレッド部に用いる場合、氷上での摩擦係数(μ)を高め、タイヤの氷上性能を向上させることができる。
【0020】
本発明のゴム組成物のゴム成分(A)は、ポリスチレン換算重量平均分子量が150,000を超えることを要し、30万〜150万であることが好ましい。ゴム成分(A)のポリスチレン換算重量平均分子量が150,000以下では、低分子量重合体(B)を配合する際にゴム組成物のムーニー粘度が低下し、破壊特性及び耐摩耗性が悪化するのみならず、作業性が著しく低下する。
【0021】
上記ゴム成分(A)は、特定の重量平均分子量を有する限り特に制限されないが、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体を含有することが好ましい。上記芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体は、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とを共重合、又は共役ジエン化合物を重合して製造される。ここで、単量体としての共役ジエン化合物としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、1,3-ヘキサジエン等が挙げられる。一方、単量体としての芳香族ビニル化合物としては、スチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、クロロメチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。これら単量体の中でも、1,3-ブタジエンが好ましい。従って、上記ゴム成分(A)としては、天然ゴムや合成ゴムを用いることができるが、1,3-ブタジエンを重合して得られるポリブタジエンゴム(BR)が特に好ましい。なお、これら単量体は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
上記ゴム成分(A)は、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体を50質量%以上含有することが更に好ましい。ここで、ゴム成分(A)が芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体及び共役ジエン化合物重合体以外のゴム成分を含む場合、ゴム工業界で使用される一般的なゴム成分をブレンドすることができ、具体的には、天然ゴム(NR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニリトル−ブタジエンゴム(NBR)等をブレンドすることができる。
【0023】
上記ゴム成分(A)が、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体を含有する場合、ゴム成分(A)の共役ジエン化合物の結合量が0〜80質量%の範囲であることが好ましい。ゴム成分(A)の共役ジエン化合物の結合量が80質量%を超えると、作業性、貯蔵弾性率(G)及び損失係数のバランスがとれない場合がある。
【0024】
一方、本発明のゴム組成物の低分子量重合体(B)は、ポリスチレン換算重量平均分子量が80,000を超えて且つ150,000以下であることを要し、80,000を超えて且つ130,000以下であることが好ましく、80,000を超えて且つ100,000以下であることが更に好ましい。上記低分子量重合体(B)のポリスチレン換算重量平均分子量が80,000以下では、高温での貯蔵弾性率(G)が十分に得られないため、タイヤの乾燥路面での操縦安定性を向上させることができず、一方、150,000を超えると、低温での柔軟性を十分に確保することができず、タイヤの乾燥路面での操縦安定性及び氷上性能を高度にバランスさせることができない。
【0025】
上記低分子量重合体(B)は、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体であり、芳香族ビニル化合物の結合量が5質量%以下であることを要する。該芳香族ビニル化合物の結合量が5質量%を超えると、ゴム組成物のガラス転移温度(Tg)が高くなり、低温での貯蔵弾性率(G)が上昇してしまう。
【0026】
上記低分子量重合体(B)は、共役ジエン化合物部分のビニル結合量が80%以下であることが好ましい。該共役ジエン化合物部分のビニル結合量が80%を超えると、ゴム組成物のガラス転移温度(Tg)が高くなり、低温での貯蔵弾性率(G)が上昇してしまう。
【0027】
上記低分子量重合体(B)は、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とを共重合、又は共役ジエン化合物を重合して製造される。ここで、芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、1-ビニルナフタレン、3-ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、4-シクロヘキシルスチレン及び2,4,6-トリメチルスチレン等が挙げられる。一方、上記共役ジエン化合物としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、1,3-ヘキサジエン等が挙げられる。これら単量体の中でも、1,3-ブタジエンが特に好ましい。従って、上記低分子量重合体(B)としては、ポリブタジエンが好ましい。なお、これら単量体は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
本発明のゴム組成物においては、上記低分子量重合体(B)の配合量が、ゴム成分(A)100質量部に対して1〜60質量部であることを要し、好ましくは5〜50質量部であり、更に好ましくは10〜30質量部である。低分子量重合体(B)の配合量が1質量未満では、タイヤの乾燥路面での操縦安定性及び氷上性能を十分に改良することができず、一方、60質量部を超えると、ゴム組成物のムーニー粘度が低くなり過ぎて生産性が悪くなる。
【0029】
本発明のゴム組成物においては、上記ゴム成分(A)の芳香族ビニル化合物の結合量と、上記低分子量重合体(B)の芳香族ビニル化合物の結合量との差が、20質量%以下であることが好ましい。かような芳香族ビニル化合物の結合量の差が20質量%を超えると、ゴム成分(A)と低分子量重合体(B)との相溶性が十分に確保されず、高温での高い貯蔵弾性率(G)/低温での低い貯蔵弾性率(G)の効果が最大限に発揮できない場合がある。
【0030】
上記ゴム成分(A)及び上記低分子量重合体(B)は、特に制限されず、例えば、重合反応に不活性な炭化水素溶媒中で、単量体である共役ジエン化合物を単独で、又は単量体である芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との混合物を、リチウム系重合開始剤により重合して得られる。ここで、上記炭化水素溶媒としては、特に限定されるものではないが、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素等を用いることができる。これら炭化水素は、1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。これら炭化水素の中では、脂肪族炭化水素及び脂環式炭化水素が好ましい。
【0031】
また、上記リチウム系重合開始剤としては、有機リチウム化合物が好ましく、該有機リチウム化合物としては、エチルリチウム、プロピルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム等のアルキルリチウム;フェニルリチウム、トリルリチウム等のアリールリチウム;ビニルリチウム、プロペニルリチウム等のアルケニルリチウム;テトラメチレンジリチウム、ペンタメチレンジリチウム、ヘキサメチレンジリチウム、デカメチレンジリチウム等のアルキレンジリチウム;1,3-ジリチオベンゼン、1,4-ジリチオベンゼン等のアリレンジリチウムの他;1,3,5-トリリチオシクロヘキサン、1,2,5-トリリチオナフタレン、1,3,5,8-テトラリチオデカン、1,2,3,5-テトラリチオ-4-ヘキシル-アントラセン等が挙げられる。これらの中でも、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム及びテトラメチレンジリチウムが好ましく、n-ブチルリチウムが特に好ましい。上記リチウム系重合開始剤の使用量は、反応操作における重合速度及び生成させる重合体の分子量によって決定される。
【0032】
上記重合反応は、ランダマイザーの存在下で実施してもよい。該ランダマイザーは、重合体の共役ジエン化合物部分のミクロ構造を制御することができ、より具体的には、重合体の共役ジエン化合物部分のビニル結合量を制御したり、重合体中の共役ジエン化合物単位と芳香族ビニル化合物単位とをランダム化する等の作用を有する。上記ランダマイザーとしては、ジメトキシベンゼン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ビステトラヒドロフリルプロパン、トリエチルアミン、ピリジン、N-メチルモルホリン、N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン、1,2-ジピペリジノエタン、カリウム-t-アミレート、カリウム-t-ブトキシド、ナトリウム-t-アミレート等が挙げられる。これらランダマイザーの使用量は、重合開始剤1モル当り0.01〜100モル当量の範囲が好ましい。
【0033】
上記ゴム成分(A)及び重合体(B)を得るための重合反応は、バッチ重合方式、連続重合方式のいずれの方式によっても行うことができる。また、重合反応の重合温度は、0〜150℃の範囲が好ましく、20〜130℃の範囲が更に好ましい。更に、重合反応は、等温重合、昇温重合及び断熱重合のいずれの重合形式によっても行うことができる。また更に、該重合は、発生圧力下で実施できるが、通常は、使用する単量体を実質的に液相に保つのに十分な圧力下で行うことが好ましい。ここで、重合反応を発生圧力より高い圧力下で実施する場合、反応系を不活性ガスで加圧することが好ましい。更にまた、重合を行う際には、反応容器内にゲルが生成するのを防止するために、1,2-ブタジエン等のアレン化合物を添加することもできる。なお、重合に使用する単量体、重合開始剤、溶媒等の原材料は、水、酸素、二酸化炭素、プロトン性化合物等の反応阻害物質を予め除去したものを用いることが好ましい。
【0034】
本発明のゴム組成物は、上記ゴム成分(A)に対し、充填剤(C)を配合することを要し、カーボンブラック及び/又はシリカを配合することが好ましい。また、本発明のゴム組成物においては、充填剤(C)の配合量が、ゴム成分(A)100質量部に対して5〜80質量部であることが好ましい。充填剤(C)の配合量が5質量未満では、加硫ゴムの破壊特性及び耐摩耗性が十分でなく、一方、80質量部を超えると、作業性が悪化する傾向がある。
【0035】
上記カーボンブラックとしては、特に限定されるものではないが、FEF,SRF,HAF,ISAF,SAFグレードのもの等が挙げられる。また、該カーボンブラックとしては、ヨウ素吸着量(IA)が60mg/g以上で、且つジブチルフタレート(DBP)吸油量が80mL/100g以上のカーボンブラックが好ましい。カーボンブラックを配合することで、ゴム組成物の諸物性を改善することができるが、耐摩耗性を向上させる観点からは、HAF,ISAF,SAFグレードのものが更に好ましい。一方、上記シリカとしては、特に限定されず、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらの中でも、破壊特性の改良効果並びにウェットグリップ性及び低転がり抵抗性の両立効果に優れる点で、湿式シリカが好ましい。
【0036】
本発明のゴム組成物には、上記ゴム成分(A)、低分子量重合体(B)、充填剤(C)の他に、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、軟化剤、老化防止剤、シランカップリング剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫剤等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合することができる。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。上記ゴム組成物は、ゴム成分(A)に、低分子量重合体(B)及び充填剤(C)と、必要に応じて適宜選択した各種配合剤とを配合して、混練り、熱入れ、押出等することにより製造することができる。
【0037】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物をトレッド部に用いたことを特徴とする。上記ゴム組成物をトレッド部に用いたタイヤは、乾燥路面での操縦安定性及び氷上性能に優れる。なお、本発明の空気入りタイヤは、上述のゴム組成物をトレッド部に用いる以外特に制限は無く、常法に従って製造することができる。また、該タイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
以下の方法で重合体(A-1)及び重合体(B-1)〜(B-12)を合成し、得られた重合体の結合スチレン量、ビニル結合量、及びポリスチレン換算重量平均分子量を下記の方法で測定した。
【0040】
(1)結合スチレン量及びミクロ構造
重合体のミクロ構造を赤外法(モレロ法)で求め、また、重合体の結合スチレン量をフェニル基の吸収(699cm-1)に基づいた赤外法による検量線から求めた。
【0041】
(2)重量平均分子量(Mw)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー[GPC:東ソー製HLC−8020、カラム:東ソー製GMH−XL(2本直列)、検出器:示差屈折率計(RI)]で単分散ポリスチレンを基準として、各重合体のポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0042】
<重合体(A-1)の製造例>
乾燥し、窒素置換した800mLの耐圧ガラス容器に、シクロへキサン300g、1,3-ブタジエン50g、ジテトラヒドロフリルプロパン0.66mmolを注入し、更にn-ブチルリチウム(n-BuLi)0.500mmolを加えた後、50℃で1.5時間重合反応を行った。この際の重合転化率は、ほぼ100%であった。その後、重合反応系に、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT)のイソプロパノール溶液(BHT濃度:5質量%)0.5mLを加えて、重合反応を停止させ、更に常法に従って乾燥して重合体(A-1)を得た。なお、重合体(A-1)のポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は、2.5×105であった。
【0043】
<重合体(B-1)の製造例>
乾燥し、窒素置換した800mLの耐圧ガラス容器に、シクロへキサン300g、1,3-ブタジエン50g、ジテトラヒドロフリルプロパン0.33mmolを注入し、更にn-ブチルリチウム3.52mmolを加えた後、50℃で1.5時間重合反応を行った。この際の重合転化率は、ほぼ100%であった。その後、重合反応系に、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT)のイソプロパノール溶液(BHT濃度:5質量%)0.5mLを加えて、重合反応を停止させ、更に常法に従って乾燥して重合体(B-1)を得た。分析値を表1に示す。
【0044】
<重合体(B-2)の製造例>
乾燥し、窒素置換した800mLの耐圧ガラス容器に、シクロへキサン300g、1,3-ブタジエン30g、スチレン25g、ジテトラヒドロフリルプロパン0.33mmolを注入し、更にn-ブチルリチウム3.52mmolを加えた後、50℃で1.5時間重合反応を行った。この際の重合転化率は、ほぼ100%であった。その後、重合反応系に、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT)のイソプロパノール溶液(BHT濃度:5質量%)0.5mLを加えて、重合反応を停止させ、更に常法に従って乾燥して重合体(B-2)を得た。分析値を表1に示す。
【0045】
<重合体(B-3)〜(B-10)の製造例>
n-ブチルリチウムの使用量を変えた他は、上記重合体(B-1)と同様にして重合体(B-3)〜(B-10)を合成した。分析値を表1に示す。
【0046】
<重合体(B-11)〜(B-12)の製造例>
スチレン及びn-ブチルリチウムの使用量を変えた他は、上記重合体(B-2)と同様にして重合体(B-11)〜(B-12)を合成した。分析値を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
次に、上記重合体(A-1)及び重合体(B-1)〜(B-12)を用いて、表2に示す配合処方のゴム組成物を常法に従って調製し、160℃で15分間加硫して得た加硫ゴムに対し、50℃及び-20℃での貯蔵弾性率(G)を下記の方法により測定した。結果を表3に示す。
【0049】
(3)貯蔵弾性率(G
レオメトリックス社製の粘弾性測定装置を用いて、温度50℃,-20℃、周波数10Hz、歪0.1%で貯蔵弾性率(G)を測定し、50℃での貯蔵弾性率(G)/-20℃での貯蔵弾性率(G)の値を求め、比較例1のゴム組成物についての計算値を100として指数表示した。指数値が大きい程、タイヤの乾燥路面での操縦安定性及び氷上性能が高度にバランスされていることを示す。
【0050】
【表2】

【0051】
*1 重合体(A-1).
*2 重合体(B-1)〜(B-12)の種類を表3に示す.
*3 ISAF,シースト3H,東海カーボン(株)製.
*4 ノクラック6C,N-フェニル-N'-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン,大内新興化学工業(株)製.
*5 ノクセラーD,1,3-ジフェニルグアニジン,大内新興化学工業(株)製.
*6 ノクセラーNS,N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド,大内新興化学工業(株)製.
【0052】
【表3】

【0053】
実施例1〜6のゴム組成物は、特定の重量平均分子量及び芳香族ビニル化合物の結合量を有する低分子量重合体(B)を含有することで、比較例1〜2及び比較例4〜6のゴム組成物に比べて、タイヤの乾燥路面での操縦安定性及び氷上性能を高度にバランスできることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン換算重量平均分子量が150,000を超えるゴム成分(A)に対し、ポリスチレン換算重量平均分子量が80,000を超えて且つ150,000以下で、芳香族ビニル化合物の結合量が5質量%以下の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体であって、未変性の低分子量重合体(B)と、充填剤(C)とを配合してなり、
前記低分子量重合体(B)の配合量が、ゴム成分(A)100質量部に対して1〜60質量部であることを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム成分(A)が、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体又は共役ジエン化合物重合体を含有することを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記充填剤(C)の配合量が、ゴム成分(A)100質量部に対して5〜80質量部であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記充填剤(C)が、カーボンブラック及び/又はシリカであることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記ゴム成分(A)の芳香族ビニル化合物の結合量と、前記低分子量重合体(B)の芳香族ビニル化合物の結合量との差が、20質量%以下であることを特徴とする請求項2に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記ゴム成分(A)が、天然ゴム又は合成ゴムであることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記ゴム成分(A)が、ポリブタジエンゴムであることを特徴とする請求項6に記載のゴム組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のゴム組成物をトレッド部に用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2009−155445(P2009−155445A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−334665(P2007−334665)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】