説明

ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】シリカの分散性を向上してシリカ配合の優れたゴム物性を引き出し転がり抵抗やウェット性能等に優れるゴム組成物を提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム100重量部にシリカを20〜120重量部含有するゴム組成物において、前記シリカが、固体高分解能29Si−NMRスペクトルにおける−45ppmでのピーク強度が、−80〜−120ppm付近のピーク強度を100とした場合3〜10であるシランカップリング剤で処理された表面処理シリカを含むことを特徴とする。前記表面処理シリカは、シリカ重量に対して前記シランカップリング剤を2〜15重量%で、有機溶媒中において、室温〜160℃で処理されたものであり、処理後に前記有機溶媒を除去したものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物に関し、より詳しくは、表面処理シリカを含むゴム組成物であって、ゴム組成物の加硫特性を改善すると共に転がり抵抗を低減することができるゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、空気入りタイヤのトレッドに用いられるゴム組成物は、低燃費性の市場ニーズから転がり抵抗性の低減要求が強く、また安全性の面からの湿潤路面での制動性能や操縦安定性(ウェット性能)の向上が求められ、さらに耐久性、経済性の点で優れた耐摩耗性が求められている。
【0003】
このようなゴム組成物は、上記転がり抵抗特性とウェット性能とのバランスが得られやすいシリカを補強性充填剤に配合したゴム組成物が、カーボンブラックを補強剤とするゴム組成物に代えて使用されるようになっている。
【0004】
ところが、シリカは、親水性を有し、表面が極性の高いシラノール基に覆われているため強い自己凝集性を持ち、ゴム組成物の粘度を上昇させたり、疎水性を示すゴムへの分散が容易でなく混合工程で分散不良を起こし、後工程での加工性やゴム特性を低下させるという欠点がある。
【0005】
そこで、両末端にシリカ及びゴムのそれぞれに反応する官能基を有するシランカップリング剤を添加することにより、シリカとゴムとの親和性を高めてシリカの分散性を向上することが行われているが、それでもシリカ配合は粘度が高くゴムの混練時間を長くしたり混合ステップ数を多くし、またその後の押出工程などでも厳重な工程管理を必要として加工費用の増大につながるものとなっている。これらシランカップリング剤の改良も多数提案されているが、その効果は未だ十分満足できるとは言えない(例えば、特許文献1、2)。
【0006】
また、シリカ粒子の表面を改質しゴムとの親和性を高めることも提案されている。例えば、二酸化チタンや特定のシランカップリング剤で処理された表面処理シリカが開示されているが、シリカとゴム分子との結合に対する表面処理シリカの最適な表面状態は示されていない(例えば、特許文献3、4)。
【特許文献1】特開2000−336209号公報
【特許文献2】特開2005−2065号公報
【特許文献3】特開2004−292219号公報
【特許文献4】特開2006−28245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来技術によるシランカップリング剤をシリカ配合の混合時に添加し併用するもの、あるいはシリカ表面を改質した表面処理シリカを用いるものは、シリカとゴムとの親和性向上にある程度の効果は得られているものの、シランカップリング剤のカップリング作用が十分発揮されておらず未だ改良の余地があり、特にシリカとシランカップリング剤との最適な結合量や結合形態は報告されていない。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みてなしたものであり、シリカとシランカップリング剤との結合状態を把握することで、シランカップリング剤のカップリング効果を最適なものとし、シリカの分散性を向上してシリカ配合の優れたゴム物性を引き出し転がり抵抗やウェット性能等に優れるゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、シリカに固体高分解能29Si−NMRを適用し、シリカへのシランカップリング剤の結合量や結合形態を解析することで、シリカ配合に好適な表面性状を備えたシランカップリング剤処理による表面処理シリカを見出し本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明にかかる請求項1の発明は、ジエン系ゴム100重量部にシリカを20〜120重量部含有するゴム組成物において、前記シリカが、固体高分解能29Si−NMRスペクトルにおける−45ppmでのピーク強度が、−80〜−120ppm付近のピーク強度を100とした場合3〜10であるシランカップリング剤で処理された表面処理シリカを含むことを特徴とするゴム組成物である。
【0011】
請求項2の発明は、前記表面処理シリカが、シリカ重量に対して前記シランカップリング剤を2〜15重量%で処理したものであることを特徴とする請求項1のゴム組成物である。
【0012】
請求項3の発明は、前記表面処理シリカが、有機溶媒中において、室温〜160℃で処理されたものであることを特徴とする請求項2に記載のゴム組成物である。
【0013】
請求項4の発明は、前記表面処理シリカが、前記有機溶媒を除去したものであることを特徴とする請求項3に記載のゴム組成物である。
【0014】
請求項5の発明は、前記表面処理シリカが、シリカ総量の20重量%以上含まれている
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のゴム組成物である。
【0015】
請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載のゴム組成物をトレッドに用いた
ことを特徴とする空気入りタイヤである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、固体高分解能29Si−NMRスペクトルにおける−45ppmでのピーク強度が、−80〜−120ppm付近のピーク強度を100とした場合3〜10であるシランカップリング剤で処理された表面処理シリカは、シランカップリング剤がシリカ表面に化学的に安定な結合をしたゴムとの親和性に優れる相溶性シリカとなり、分散性を向上するとともにゴム分子と反応して強い結合力を得ることで、優れたゴム物性を引き出し転がり抵抗やウェット性能等に優れるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0018】
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム100重量部にシリカを20〜120重量部含有するゴム組成物である。
【0019】
ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)及びスチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ポリイソプレンゴム(IR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などのジエン系合成ゴムが挙げられる。これらのジエン系ゴムは、単独使用でも2種類以上のブレンド使用でもよい。
【0020】
シリカの配合量は、シリカ総量(未処理シリカと表面処理シリカとの合計量)でゴム成分100重量部に対し20〜120重量部であり、20重量部未満ではシリカ配合による補強性、低発熱性などの特長が発揮されず本発明の目的が達せられず、120重量部を超えると耐摩耗性、耐疲労性などの特性が低下傾向を示し好ましくない。
【0021】
本発明に使用されるシリカとしては、特に制限されることはなく、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸),乾式シリカ(無水ケイ酸),ケイ酸カルシウム,ケイ酸アルミニウム等が挙げられるが、中でも補強特性や低発熱性が良好である湿式シリカが好ましく、また生産性に優れる点からも好ましい。
【0022】
上記シリカは、窒素吸着比表面積(BET)が100〜300m/g、DBP吸油量が150〜300ml/100gにあるものが好ましく、BETが100m/g未満であるとシリカの補強効果が得られにくくなり、300m/gを超えるとシリカの分散性が著しく低下し、加工性(混合、押出性)が悪化する傾向にある。また、DBP吸油量を150〜300ml/100gとすることで分散性を良好に維持することができる。このようなシリカとしては、東ソーシリカ工業(株)のニプシールAQ、VN3、トクヤマ(株)のトクシールUR、U−13、デグサ社製のウルトラジルVN3などの市販品が使用できる。なお、シリカのBETはISO 5794に記載のBET法に、DBP吸油量はJIS K6221に記載の方法に準拠し測定される。
【0023】
本発明にかかる表面処理シリカは、上記シリカをシランカップリング剤によって処理したものである。
【0024】
上記シリカの表面処理に用いられるシランカップリング剤としては、ゴム用のシランカップリング剤であれば特に制限なく使用することができる。
【0025】
中でも、分子中にスルフィド結合を有する化合物からなるシランカップリング剤が好ましい。これらのシランカップリング剤は2種類以上を混合し用いてもよい。
【0026】
上記スルフィド結合を有するシランカップリング剤としては、下記一般式(1)、及び一般式(2)で表される化合物が好ましい例として挙げられる。
【0027】
(C2a+1O)−Si−(CH−S−(CH−Si−(C2a+1O) ・・・(1)
式(1)中、aは1〜3の整数、bは1〜4の整数である。cはスルフィド部の硫黄数を表し、平均値は1.5〜3.5である。
【0028】
(C2x+1O)Si−(CH−S−CO−C2z+1 ・・・(2)
式(2)中、xは1〜3の整数、yは1〜5の整数、zは5〜9の整数である。
【0029】
上記式(1)で表されるシランカップリング剤は、スルフィド部の平均硫黄数が1.5未満であるとシランカップリング剤とポリマーとの反応性が劣る傾向があり、3.5を超えると、加工中などにゲル化を促進するおそれがある。
【0030】
このような式(1)で表されるシランカップリング剤としては、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ポリスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルプチル)ポリスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ポリスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ポリスルフィドなどが挙げられる。中でも、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドやビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドなどが好ましく、市販品としては、デグサ社の「Si−69」、「Si−75」などを使用することができる。
【0031】
また、上記式(2)で表されるシランカップリング剤は保護化メルカプトシランであり、式(2)において、x=2、y=3、z=7である、GEシリコーンズ社や日本ユニカー(株)の「NXT」が市販品として挙げられる。
【0032】
本発明においては、シリカ重量に対して、シランカップリング剤2〜15重量%の量でシリカに処理し、シリカ表面に吸着又は化学反応される。より好ましいシランカップリング剤量は2〜10重量%である。
【0033】
シランカップリング剤がシリカ重量に対して、2重量%未満であるとシリカのシラノール基とシランカップリング剤との結合量が不足し本発明を達成できず、またゴムとのカップリング効果が得られずゴム物性が発現され難い。15重量%を超えるとシリカとシランカップリング剤との結合形態や結合量のコントロールが困難となり、またシランカップリング剤の体積効果によりゴム組成物自体が軟化しやすくなり補強性や耐摩耗性などの特性低下の原因となる。
【0034】
本発明の表面処理シリカを得る方法は、特に限定されず、例えば、乾式処理法あるいは湿式処理法を用いることができる。
【0035】
乾式処理法は、例えば、シリカに所定量のシランカップリング剤を混合しミキサー等で攪拌し、必要に応じ100〜170℃程度に加熱処理する方法が挙げられる。
【0036】
また、湿式処理法は、シランカップリング剤を分散あるいは溶解した溶液中にシリカを添加混合しスラリー状にした後、必要に応じて加熱、攪拌した後、乾燥して表面処理シリカを得る方法が挙げられる。
【0037】
本発明においては、有機溶媒中で、シリカに所定量のシランカップリング剤を混合し、室温〜160℃にて乾燥し、シリカ表面にシランカップリング剤を処理し吸着又は反応させる方法が好適である。
【0038】
有機溶媒はシランカップリング剤と反応せずに溶解するので、シリカ表面及びストラクチャー内部に浸透して、シランカップリング剤が均一かつストラクチャーのすみずみまで吸着又は化学結合することができる。
【0039】
また、シリカの表面処理後は、有機溶媒やそれに含まれる水分を除去することが好ましい。例えば、表面処理シリカを160℃程度の空気中で加熱処理する、真空ポンプ等を用いた真空中に放置する、などの方法によることができる。有機溶媒や水分が表面処理シリカに残存していると、表面処理シリカとゴム分子との反応性を低下させゴム物性を低下させたり、架橋反応を遅らせるからである。
【0040】
ここで、有機溶媒としては、ヘキサン、シクロヘキサン、四塩化炭素、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、ジエチルエーテル、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、アセトン、メタノール、エタノールなどの脂肪族溶媒、ベンゼン、トルエン、ナフタレン、クロロベンゼンなどの芳香族溶媒が挙げられる。中でも、ヘキサン、シクロヘキサン、四塩化炭素などが好ましい。溶媒は2種類以上を混合し用いてもよい。
【0041】
上記の表面処理シリカは、固体高分解能NMRによる、29Si−NMRスペクトルにおける−45ppmでのピーク強度が、−80〜−120ppm付近のピーク強度を100とした場合3〜10の範囲にあるものが、シリカとシランカップリング剤との結合形態、結合量を最適にして、シリカのゴム中への分散性、ゴム分子との結合強度を高めてゴム物性を向上させることを本発明者は実験結果より見出したものである。ピーク強度が3未満であると、転がり抵抗などの改善効果が少なく、強度が2程度で転がり抵抗が改善できる場合にもモジュラスや強度などのゴム物性が低下する傾向にあり耐疲労性や耐摩耗性が悪化する。また、上限の10を超えると、架橋しずらくなりやはりゴム物性が低下する。
【0042】
この表面処理シリカは、シリカの表面にシランカップリング剤(有機ケイ素化合物)のクラスターを有することを特徴とするものであり、このクラスター形成は、シリカ表面の官能基(シラノール基)に有機シランが結合する結果起こるものであり、すなわち、有機シランがそれ自体で幾らかの縮合反応を起こして、Si−O−Si結合を介してシリカ表面と化学的に結びついた構造を形成すると考えられる。
【0043】
すなわち、固体高分解能29Si−NMRスペクトルにおける化学シフト−45ppmのピークは、シリカ表面上のSi原子と1つの有機シラン(シランカップリング剤)とが化学的に結合したしたシラン原子を示している(図1(a)の結合形態)。一方、化学シフト−56ppmのピークは、シリカ表面における2つのSi原子と2つの有機シランとが化学的に結合したシラン分子を示している(図1(b)の結合形態)。また、−100ppm付近のピークは未反応のシリカを示すものである。そして、それぞれの結合形態の結合量は、ピーク強度で示される。
【0044】
本発明にかかる表面処理シリカは、前記−45ppmでのピーク強度(T1)が3〜10の範囲にあるとともに、−56ppmでのピーク強度(T2)が2〜10の範囲にあり、かつ、T1/T2比が0.3〜1.2にあることがより好ましい。シリカとシランカップリング剤とを、この範囲の結合形態と結合量にコントロールすることによりゴムとの親和性がより高いものとなると考えられる。
【0045】
上記表面処理シリカの使用量は、ゴム組成物に配合されるシリカ総量の20重量%以上であることが好ましく、シリカの全量を表面処理シリカとしてもよい。残部の未処理シリカは表面処理に用いられた同じ種類のシリカであっても、異なっていてもよい。
【0046】
表面処理シリカが、シリカ総量の20重量%未満では、上記分散性向上の効果が不十分となり、本発明の効果が得られ難くなる。この点から、表面処理シリカは30重量%以上、より好ましくは40重量%以上使用することが望ましい。
【0047】
また、本発明のゴム組成物においては、補強性充填剤として上記シリカと併用してカーボンブラックを用いてもよい。カーボンブラックを配合することで、補強性や耐摩耗性を向上し、シリカによる混合時の発熱(スコーチ)の問題や粘度の上昇を抑えることができる。カーボンブラックとしては、SAF,ISAF,HAF、FEF級のカーボンブラックが例示され、その配合量としてはゴム成分100重量部に対して前記シリカとの合計量で20〜120重量部の範囲で使用することができる。
【0048】
本発明のゴム組成物には、上記成分の他に、ゴム工業において通常に用いられる硫黄等の加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、プロセスオイル、亜鉛華、ステアリン酸、ワックス、加硫助剤、樹脂類などの各種配合剤を、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じ適宜配合し用いることができる。
【0049】
本発明のゴム組成物は、原料ゴムと上記成分に各種配合剤を配合しバンバリーミキサー、ロール、ニーダーなどの各種混練機を使用して常法に従い作製することができ、空気入りタイヤのトレッド、サイドウォールなどに、また防振ゴムなどの車両用部品、免震ゴム、コンベヤベルト、建築用部材などの各種工業用、家庭用ゴム製品に使用できるが、特に空気入りタイヤのトレッドゴムとして好適である。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0051】
[表面処理シリカの調製]
・表面処理シリカA(実施例1):ステンレス製バットを用い、ヘキサン400mL中にシランカップリング剤(デグサ社「Si75」)8gを加え、良く攪拌し溶解させた後、シリカ(東ソーシリカ工業(株)ニプシールAQ)100gを加え室温で8時間乾燥した。これを熱風乾燥機中で80℃2時間乾燥してヘキサンを除去し表面処理シリカAを得た。
【0052】
・表面処理シリカB(実施例2):80℃熱風乾燥機中で2時間乾燥の代わりに、熱風乾燥機中で160℃2時間乾燥した以外は実施例1と同様にして表面処理シリカBを得た。
【0053】
・表面処理シリカC(比較例2):8時間乾燥後2時間真空乾燥以外は実施例1と同様にして表面処理シリカCを得た。
【0054】
・表面処理シリカD(比較例3):シランカップリング剤を1.5gとした以外は実施例1と同様にして表面処理シリカDを得た。
【0055】
・表面処理シリカE(比較例4):シランカップリング剤を20gとした以外は実施例1と同様にして表面処理シリカEを得た。
【0056】
[NMR測定]
表面処理シリカA〜H及び未処理シリカの固体高分解能29Si−NMR測定を行った。
【0057】
核磁気共鳴(NMR)装置はBRUKER社製、DPX400型を使用し、粒子状の上記表面処理シリカA〜H及び未処理シリカの各300mgを固体NMR用7mmMASプローブに仕込み、公知の29Si−NMR法(CP−MAS条件)でNMR測定を行い、それぞれのNMRスペクトルを得た。表面処理シリカAと未処理シリカのNMRスペクトルを図2に示す。
【0058】
図2のスペクトルにおいて、化学シフト−100ppm付近のピーク(c)は未反応のシリカを示し、表面処理シリカAは−45ppm付近(a)と、−56ppm付近(b)にピークを現すが、未処理シリカのスペクトルでは、−45ppm及び−56ppmにピークが現れない。
【0059】
前記NMRスペクトルにおける化学シフト−45ppmのピーク(a)は、上記した図1(a)に示すシリカ−シランカップリング剤の結合形態を指し、すなわちシリカ表面上のSi原子と1つのシランカップリング剤とが結合した状態であり、化学シフト−56ppmのピーク(b)は、図1(b)に示すシリカ−シランカップリング剤の結合形態を指し、すなわちシリカ表面上の2つのSi原子と2つのシランカップリング剤とが結合した状態を示す。
【0060】
表面処理シリカA〜Hおよび未処理シリカの−45ppmと−56ppmにおけるピーク強度T1、T2及びその比(T1/T2)を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
[ゴム組成物の調製]
上記表面処理シリカA〜H、未処理シリカ、シランカップリング剤など配合剤を表1に記載の処方(重量部)にて配合し、容量20Lのバンバリーミキサーを用いて常法により混合しゴム組成物を作製し、加硫特性、ゴム物性、転がり抵抗、ウェット性能を評価した。使用したゴム成分、その他の配合剤は下記の通りである。
【0063】
[ゴム成分、配合剤]
・スチレンブタジエンゴム(SBR):JSR(株)「SBR1502」
・未処理シリカ:東ソーシリカ工業(株)「ニプシールAQ」BET=210m/g
・シランカップリング剤:デグサ社「Si75」
・オイル:ジャパンエナジー(株)「プロセスX−140」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)「亜鉛華1号」
・ワックス:大内新興化学工業(株)「サンノック」
・ステアリン酸:花王(株)「ルナックS−20」
・老化防止剤6C:大内新興化学工業(株)「ノクラック6C」
・硫黄:細井化学工業(株)「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」
・加硫促進剤CZ:大内新興化学工業(株)「ノクセラーCZ」
・加硫促進剤D:大内新興化学工業(株)「ノクセラーD−P」
【0064】
[加硫特性]
加硫特性として、JIS K6300に準拠し加硫速度t90を評価した。結果を表2に示す。
【0065】
[ゴム物性]
加硫ゴム物性(160℃、20分加硫)として、JIS K6251に準拠し引張特性(M300、TB、EB)を評価した。結果を表2に示す。
【0066】
次に、得られた各ゴム組成物を用いてキャップ/ベース構造のトレッドを有するタイヤのキャップトレッドに適用し、205/65R15 94Hのラジアルタイヤを常法に従い製造し、転がり抵抗とウェット性能を評価した。結果を表2に示す。
【0067】
[転がり抵抗]
使用リムを15×6.5JJとしてタイヤを装着し、空気圧230kPa、荷重450kgfとして、転がり抵抗測定用の1軸ドラム試験機にて23℃で80km/hで走行させたときの転がり抵抗を測定した。比較例1の値を100とした指数で示す。指数が小さいほど、転がり抵抗が小さく、従って燃費性に優れることを示す。
【0068】
[ウェット性能]
2000ccの国産FF車に各タイヤを4本装着し、2〜3mmの水深で水を散布したアスファルト路面上を走行し、時速90kmでABSを作動させて20km/hまで減速時の制動距離を測定した。比較例1の値を100とした指数で示す。指数が小さいほどウェット性能に優れることを示す。
【0069】
【表2】

【0070】
表2の結果に示されるように、本発明にかかる表面処理シリカを用いた実施例1、2は、通常の未処理シリカを用いたシリカ配合(比較例1)に比べ加硫速度を速めて、しかも引張特性を向上し、シリカ配合の特長を発揮し転がり抵抗とウェット性能に優れることが分かる。これに対して、シリカCを用いた比較例2は加硫の遅れや物性低下が見られ、シランカップリング剤の処理量の少ない比較例3はM300等の物性が低い。逆にシランカップリング剤が過剰な比較例4はウェット性能が大きく低下する。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のゴム組成物は、トレッドを始めとしてタイヤの各部位に、防振ゴム、ベルトなど各種用途のゴム製品に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】シリカ−シランカップリング剤の結合形態を示すシリカ表面の模式図である。
【図2】固体高分解能29Si−NMRのスペクトル図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100重量部にシリカを20〜120重量部含有するゴム組成物において、
前記シリカが、固体高分解能29Si−NMRスペクトルにおける−45ppmでのピーク強度が、−80〜−120ppm付近のピーク強度を100とした場合3〜10であるシランカップリング剤で処理された表面処理シリカを含む
ことを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記表面処理シリカが、シリカ重量に対して前記シランカップリング剤を2〜15重量%で処理したものである
ことを特徴とする請求項1のゴム組成物。
【請求項3】
前記表面処理シリカが、有機溶媒中において、室温〜160℃で処理されたものである
ことを特徴とする請求項2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記表面処理シリカが、前記有機溶媒を除去したものである
ことを特徴とする請求項3に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記表面処理シリカが、シリカ総量の20重量%以上含まれている
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のゴム組成物をトレッドに用いた
ことを特徴とする空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−106114(P2008−106114A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−289192(P2006−289192)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】