説明

ゴム補強剤配合ゴム組成物及びその製造方法

【課題】 加硫時におけるスコーチ安全性が高く、速い加硫速度による、安全かつ経済的な製造をすることができるゴム補強剤配合ゴム組成物を提供する。
【解決手段】 アクリルアミド系重合体を、ニトロキシド化合物を用いたラジカル重合(NMP法)を使用することによりグラフト変性した共役ジエン系ゴム(A)のグラフト率が30〜100%、かつ1〜50重量部で、(A)以外の加硫可能なゴム(B)が50〜99重量部であり、さらにゴム補強剤(C)を30〜70重量部加える事を特徴とするゴム補強剤配合ゴム組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,4−シスポリブタジエンゴムをポリアクリルアミドでグラフト変性した共役ジエン重合体変性物が含まれたゴム補強剤配合ゴム組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業上、ほとんどのゴムへの利用可能性のため加硫ゴムの製造において充分に長いスコーチ安全時間と速い加硫時間を良好なバランスで保持すること強く求められてきた。
【0003】
一般に、スコーチ安全性(scorch safety)とはゴム配合物が昇温時や加硫時温度であっても、熱可塑性ポリマーのままで保持されうる時間の長さの事である。スコーチの初期に、熱可塑性ポリマー中のゴム成分が、架橋ネットワーク構造へと化学変化し始める。即ち、ゴム成分が所望の形状に成形される前にスコーチが起きてしまうと、ゴム加工がうまくいかず、ゴムは使用できなくなってしまう。したがって、スコーチ安全時間がより長いことが、常にゴム加工工程において好まれる。
【0004】
一方、スコーチ安全時間経過後、ゴム加硫物の加硫がさらに進行すると、高温で熱可塑性ポリマーから架橋ネットワーク構造に変化する。また、加硫速度はゴム加硫物の所望の架橋もしくは加硫状態に達するのに、どれだけの時間を必要とするかによって決定される。したがって、製造に関する経済的な面において加硫速度が速く、かつ短い加硫時間が好まれている(非特許文献1)。
【0005】
スコーチ安全時間と加硫時間との良好なバランスを達成するために、ゴム配合物に添加剤を添加することが求められてきた。N−シクロヘキシルチオフタルイミドのようなスコーチ防止剤(prevulcanization inhibitors、PVI)は、加工中のスコーチ安全時間を延ばすためにゴム組成物中に少量添加することにより、使用されている。一方、スルフェンアミド、チアゾール、グアニジンなどの加硫促進剤は一般に加硫速度を速めるため、若しくは加硫時間を短くするために使用されてきた(非特許文献1)。
【0006】
今までのようにスコーチ防止剤(加硫遅延剤)と加硫促進剤を使用せずにできる、スコーチ防止剤(加硫遅延剤)と加硫促進剤に含まれる官能基と同様な極性官能基を持つゴム組成物に使用されているジエンをベースとしたエラストマー自体を変性するグラフト共重合技術が最近注目を浴びている可能な一つの方法である。
【0007】
これまで大学や企業においてかなり研究されてきた、最もよく知られている例としては、モルフォロジーを制御した天然ゴムラテックス粒子を得るのに、メチルメタクリレート(MMA)とスチレンのフリーラジカルグラフト共重合体エマルジョンによる天然ゴムラテックスの変性である。形成されたラテックス粒子複合体は、塗料、ゴム接着剤、手袋、有機乳白剤、生体分子のキャリアーおよび熱可塑性樹脂の衝撃改質剤など幅広い用途に適用されている(非特許文献2〜5および特許文献1)。
【0008】
また、有機過酸化物やアゾ化合物のような一般的なラジカル開始剤を用いて、シス-ブタジエンゴムやビニル−1,2−ポリブタジエンのような合成ゴムの主鎖を極性モノマーでフリーラジカルグラフト化した共重合体も報告されている。しかしながら、グラフト効率やグラフトした後のポリブタジエンの構造を制御することが難しい。特に、ビニル−1,2−ポリブタジエンは、一般的により高いグラフト効率を示すことが知られている。(非特許文献6、7)
【0009】
安定ニトロキシドフリーラジカルを含む化合物、いわゆるニトロキシドを介したラジカル重合(NMPと略記)を使用することによる制御されたラジカル重合体(CRPと略記)の発見以来(非特許文献8、9)、極性共重合体の側鎖をグラフトする化学変性を目的としたNMPの適用は、分子鎖の長さや合成ゴム上への分散性のコントロールを伴っており、従来のフリーラジカルグラフト共重合より優れたものとなっている。
【0010】
例えば、初期に開示されている研究のひとつは、有機過酸化物のような従来のラジカル開始剤によりアリル水素を引き抜くことでポリブタジエンの主鎖にメチルアクリレートのような極性モノマーをグラフトするNMP法であった。そして、ジ−tert−ブチルニトロキシドのようなニトロキシドの働きによって、分子鎖の長さやグラフトした側鎖の分散性を制御がされる。
【0011】
しかし、水素引き抜きの副反応を防ぐために、溶媒として毒性の含塩素炭化水素を使用しなければならない不都合が有った(特許文献2)。
【0012】
近年、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPOと略記)のような分子中に安定フリーラジカルを持った化合物を使用した、合成ゴムへのグラフト化が報告されている。
この目的は、加工性や耐摩耗性のようなゴム化合物の物理特性を改善することにある(特許文献3および4)。更に可逆架橋剤としての使用を目的とした従来のラジカル開始剤の存在下、多機能ニトロキシドを用いたゴムへのグラフト化研究が報告されている。
しかし、ゴム中へ極性基を導入する化学的変性を目的とした報告は未だされていない(特許文献5)。
【0013】
更に近年、従来のフリーラジカル開始剤の存在下、溶媒を使用せずにミキサー中にて、ブチルゴムとニトロキシドフリーラジカルでグラフトしたエチレン-プロピレン共重合体に基づく合成ゴムの化学的変性の研究が開示されている。
ゴムへの極性基の導入は成功したものの、グラフトしたゴムの分子量は徐々に減少し、グラフト効率も低くなる不具合が生じた(特許文献6)。
【0014】
そこで、グラフトしたゴムの分子量の減少を抑えるための改善策として、機能化したニトロキシドフリーラジカルとラジカル開始剤のモル比を1.5以上にすることが効果的である(特許文献7)。
更に、前述の非溶媒系により、ゴムの主鎖にラジカル重合可能な極性モノマーをグラフト共重合したジエン系エラストマーである合成ゴムの化学的変性が報告されている。
グラフトしたゴムを含んだシリカ配合ゴム組成物では、シリカの分散性が改善され、ヒステリシスロスが更に低くなり、また耐摩耗性もわずかに改善される(特許文献8)。
【0015】
【特許文献1】米国特許第6423783号公報
【特許文献2】米国特許第4581429号公報
【特許文献3】特開平10-182881号公報
【特許文献4】特開2004-182926号公報
【特許文献5】特開2003-524037号公報
【特許文献6】特許第3963917号公報(米国特許第7282542号公報)
【特許文献7】特許第4101242号公報
【特許文献8】特開2008-297559号公報
【非特許文献1】Ignatz-Hoover, F., To, B.H., Rubber Compounding: Chemistry and Applications, Brendan Rodgers Edt., Marcel Dekker Inc., 2004, p. 505.
【非特許文献2】Schneider, M., Pith, T. and Lambla, M., J. Appl. Polym. Sci., 62: 273 (1996).
【非特許文献3】Schneider, M., Pith, T. and Lambla, M., Polym. Adv. Technol., 7: 577 (1996).
【非特許文献4】Teng, G. and Soucek, M.D., Polymer, 42: 2849 (2001).
【非特許文献5】Benny, G., Maiti, S.N., and Varma, I.K., J. Elastomers and Plastics, 38: 319 (2006).
【非特許文献6】Huang, N.J., Sundberg, D.C., J. Polym. Sci., Part A: Polym. Chem., 33, 2571 (1995).
【非特許文献7】Huang, N.J., Sundberg, D.C., J. Polym. Sci., Part A: Polym. Chem., 33, 2587 (1995).
【非特許文献8】Georges, M. K.; Veregin, R. P. N.; Kazmaier, P. M.; Hamer, G. K., Macromolecules, 26, 2987-2988 (1993).
【非特許文献9】Hawker, C. J.; Bosman, A. W.; Harth, E. Chem. Rev., 101, 3661-3688 (2001).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本願発明では、1,4−シス構造が94〜99%の1,4−シス-ポリブタジエンゴムを有機過酸化物及びアゾ化合物のような既存のラジカル開始剤を使用したニトロキシドを介した制御ラジカルグラフト共重合による技術で調製したグラフト変性共役ジエン系ゴムのグラフト率が30〜100%、かつ1〜50重量部で、(A)以外の加硫可能なゴム(B)さらにゴム補強剤(C)を加える事を特徴とするゴム補強剤配合ゴム組成物を用いることで、加硫時におけるスコーチ安全性が高く、速い加硫速度による、安全かつ経済的な製造をすることができる。
さらに、製造されたゴム補強剤配合ゴム組成物は、100%引張弾性、300%引張弾性が高く、すぐれた引張弾性を創出することができる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
以上の目的を達成するため、本願発明は1,4−シス構造が94〜99%の1,4−シス-ポリブタジエンゴムをNMP法によりポリアクリルアミドでグラフト率を30〜100%でグラフト変性したゴムを用いることで、ゴム配合物はスコーチ防止剤(加硫遅延剤)としての機能と促進剤としての機能との良好なバランス特性を示し、長いスコーチ安全時間とかつ速い加硫速度を達成する。
【0018】
アクリルアミド系重合体を、ニトロキシド化合物を用いたラジカル重合(NMP法)を使用することによりグラフト変性した共役ジエン系ゴム(A)のグラフト率が30〜100%、かつ1〜50重量部で、(A)以外の加硫可能なゴム(B)が50〜99重量部であり、さらにゴム補強剤(C)を30〜70重量部加える事を特徴とするゴム補強剤配合ゴム組成物に関する。
【0019】
該アクリルアミド系重合体がポリアクリルアミドであることを特徴とする前記のゴム補強剤配合ゴム組成物に関する。
【0020】
該共役ジエン系ゴムが1,4−シス構造を持ち、かつその割合が94〜99%である事を特徴とする前記のゴム補強剤配合ゴム組成物に関する。
【0021】
アクリルアミド系重合体を、ニトロキシド化合物を用いたラジカル重合(NMP法)を使用することによりグラフト変性した共役ジエン系ゴム(A)のグラフト率が30〜100%、かつ1〜50重量部で、(A)以外の加硫可能なゴム(B)が50〜99重量部であり、さらにゴム補強剤(C)を30〜70重量部加える事を特徴とするゴム補強剤配合ゴム組成物の製造方法に関する。
【0022】
該ゴム補強剤(C)がシリカであることを特徴とする前記のゴム補強剤配合ゴム組成物に関する。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明によれば、芳香族炭化水素溶媒に溶解したゴム溶液中に、既存のフリーラジカル開始剤とニトロキシドフリーラジカルを共存させ、ゴム分子主鎖にアクリルアミド類であるラジカル重合可能な極性モノマーをグラフト変性した1,4−ポリブタジエンを効率よく化学変性する方法を提供する事が出来る。
また、ラジカル開始剤、温度、重合度、さらにニトロキシドとラジカル開始剤のモル比などの重合条件を適当に調整することで、グラフトしたポリアクリルアミド側鎖の分子量を制御したグラフト変性1,4−シス-ポリブタジエンを製造することが出来る。
スコーチ防止剤(加硫遅延剤)としての機能と加硫促進剤としての機能との良好なバランス特性を得た該グラフト変性1,4−シス-ポリブタジエンを含んだシリカ配合ゴム組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】ポリアクリルアミドを用いてグラフト変性した1,4−シス−ポリブタジエンを製造する方法の概念図。
【図2】参考例Aに関わるPMMAグラフト化BR150L(グラフト率14.16%)のFT−IRスペクトルである。
【図3】参考例8に関わるPDMAグラフト化BR150L(グラフト率56.59%)のFT−IRスペクトルである。
【図4】PMMAグラフト化BR150L(比較例1)とPDMAグラフト化BR150L(実施例1)の配合物における加硫特性の比較を示す。
【図5】PMMAグラフト化BR150L(比較例1)とPDMAグラフト化BR150L(実施例1)の加硫物における網目密度の比較を示す。
【図6】加硫促進剤であるCZの補助による加硫の一般的機構を示す。
【図7】ポリアクリルアミドの存在のもと起こる加硫の提案された機構を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
ポリブタジエン
本発明に係る共役ジエン重合体変性物に用いられるポリブタジエンにおいて、特徴的であるのは高シスポリブタジエン(1,4−シス構造94〜99.9mol%)を適用したことにある。本発明に係る共役ジエン重合体変性物によれば、高シスポリブタジエンを適用することで、シリカ-ゴム相互作用を改善し、分子末端変性と比較して高シス構造のもつ高性能とポリブタジエン主鎖への変性の度合いのバランスを保つことができる。
【0026】
1,4−シス-ポリブタジエンゴムとしては、市販の宇部興産社製(UBEPOL BR150L)あるいは特殊合成した1,4−シス−ポリブタジエンゴムを使用することが出来るが、これらに限定されるものではない。
該1,4−シス-ポリブタジエンゴムの1,4−シス構造の割合は、好ましくは94〜99.9%であり、より好ましくは94.5〜99%、最も好ましくは95〜98%である。
【0027】
またムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、好ましくは37〜48が好ましく、39〜46がより好ましく、42〜44が特に好ましい。更にゴムのリニアリティー(直鎖性)の指標である5wt%のトルエン溶液粘度(Tcp cps)は、98〜110が好ましく、100〜108がより好ましく、103〜107が特に好ましい。
1,4−シス構造の割合が、94%より低い場合、あるいはTcpが98より低いと、ゴムの粘弾性特性と同様に耐摩耗性も劣るので好ましくない。
【0028】
その他、適用出来るゴムとしては、加硫可能なゴムを使用する事が可能である。例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリル−クロロプレンゴム、アクリロニトリル−イソプレンゴム、スチレン−クロロプレンゴム、スチレン−イソプレンゴムなどのジエン系ゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−ブテンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)などのエチレン-α-オレフィン系共重合ゴムが挙げられる。これらを単独でもよいし複数組み合わせて使用してもよい。
【0029】
好ましくは本願発明の狙いでもある高シス構造を持ったゴム成分であり、より好ましくは、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)などである。
特に高シス−ブタジエンゴム(BR)が好ましい。
【0030】
ラジカル開始剤
また、本願発明で用いられるラジカル開始剤は、フリーラジカルを得るために熱分解を経て、1,4−シス-ポリブタジエン主鎖上に炭素ラジカルを発生させるものである。ラジカル開始剤には、有機過酸化物やアゾ化合物類を使用することが出来る。
【0031】
例えば、ジベンゾイルパーオキシド、ジラウロイルペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシド、tert−ブチルペルオキシピバレート、tert−ヘキシルペルオキシピバレート、ジ−n−オクタノイルペルオキシド、tert−ブチルペルオキシベンゾエート、ジクミルペルオキシド、tert−ブチルクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−tert−ブチルペルオキシ−3−ヘキシン、2,4−ジクロロジベンゾイルパーオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシ−ジイソプロピルベンゼン、1,1−ビス(tert−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルペルオキシ)バレレート、2,2−ビス(tert−ブチルペルオキシ)ブタン、ジイソブチルペルオキシド、クミルペルオキシネオデカネート、ジ−n−プロピルペルオキシジカーボネート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルペルオキシジカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシネオデカネート、ジ(4−tert−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、1−シクロヘキシルジカーボネート、tert−ヘキシルペルオキシネオデカネート、ジメトキシブチルペルオキシカーボネート、tert−ブチルペルオキシネオデカネート、tert−ヘキシルペルオキシネオカーボネート、ジメトキシブチルペルオキシカーボネート、ジ−(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)ペルオキシドがある。さらに、アゾ化合物類も使用することが出来る。
例えば、1,1’−アゾビス(シアノシクロヘキサン)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)などがある。
【0032】
これらラジカル開始剤の中で、ジベンゾイルパーオキシドおよび2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBNと略記)がより好ましい。さらに、AIBNが特に好ましい。
【0033】
安定化ニトロキシドフリーラジカルに含まれる化合物
安定化ニトロキシドフリーラジカルに含まれる化合物は、市販のTEMPOやTEMPO誘導体を使用することが出来る。ここにTEMPOは、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルであり、TEMPO誘導体とは、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(OH−TEMPO)や4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(OXO−TEMPO)である。特にTEMPOの使用が好ましい。
【0034】
ラジカル重合可能な極性モノマー
ラジカル重合可能な極性モノマーは、特に限定されるものではないが、アクリルアミド類の使用が好ましい。アクリルアミド類としては、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、N−ヘキシルアクリルアミド、N−(イソ−ブトキシメチル)アクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジイソプロピルアクリルアミド、N,N−ジ−n−ブチルアクリルアミド、N,N−ジヘキシルアクリルアミド、N−メチル−N−エチルアクリルアミド、N−エチル−N−ヘキシルアクリルアミドと4−アクリロイルモルフォリン、N,N−ジメチルアミノエチルアクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、N,N−ジイソプロピルメタクリルアミド、N,N−ジ−n−ブチルメタクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ジアセトンアクリルアミド、N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、イソ−ブトキシメタアクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリルアミドが上げられる。これらを単独であるいは2つ以上組み合わせて使用しても良い。
【0035】
溶媒
本願発明において制御ラジカルグラフト共重合をする際に、1,4−シス-ポリブタジエンを溶解する溶媒としては、芳香族炭化水素類が好ましく、特にベンゼン、トルエンおよびキシレンが好ましく、最も好ましくはトルエンである。
【0036】
1,4−シス-ポリブタジエンの主鎖同士を架橋することなく、かつ分子鎖の長さを制御したポリアクリルアミドを用いてグラフト変性した1,4−シス-ポリブタジエンを製造する方法を、図1に示す。以下に操作の手順示す。
【0037】
(反応操作方法)
(1)均一のゴム溶液が得られるまで、1,4−シス-ポリブタジエンを芳香族炭化水素溶媒に溶解する。
(2)所望のグラフト変性共重合温度にて前述した熱分解性ラジカル開始剤により水素引き抜きを経由して1,4−シス-ポリブタジエン主鎖上に炭素ラジカルを発生させる。
この段階で、分子安定ニトロキシドフリーラジカルを含む化合物あるいはTEMPO誘導体が、可逆反応にて炭素ラジカルを消滅させるために1,4−シス-ポリブタジエン主鎖上の炭素ラジカルを攻撃する。
(3)所望の重合時間にてゴム溶液中の1,4−シス-ポリブタジエン主鎖を、グラフト共重合を行うためにアクリルアミドモノマーを加える。
(4)所望のポリアクリルアミドのホモポリマーとグラフトした1,4−シス-ポリブタジエンを含んだゴム溶液を大容量のメタノールを用いて沈殿させる。それをろ過、乾燥する。
(5)室温で大容量のメタノール中の攪拌にてグラフトした1,4−シス-ポリブタジエンからポリアクリルアミドのホモポリマーを簡単に抽出する。
得られたグラフト化1,4−シス-ポリブタジエン生成物は、ポリアクリルアミド含量、グラフト率、分子量、分子量分布、ゲル量などの諸物性が評価された。
【0038】
トルエン溶液中の1,4−シス-ポリブタジエンゴムの濃度は、制御されたグラフト共重合に大いに影響を及ぼす重要な要素である。好ましいゴム濃度は、0.015〜0.07g/ml、より好ましくは0.02〜0.06g/ml,最も好ましくは0.025〜0.045g/mlである。
0.07g/ml以上のゴム濃度では、粘度が高すぎるために不均一な重合溶液となるため好ましくない。特に制御できないグラフト共重合体や高すぎるゲル含量の原因になる。
逆に0.015g/ml以下では、ゴム濃度が低すぎるためグラフト率が低くなり、あるいは溶液中のゴムにグラフトするモノマーの反応率が、均一重合速度より低くなるため好ましくない。
【0039】
グラフト共重合の温度は理論的に、前述のラジカル開始剤がフリーラジカルを発生するのに1時間で初期量の半分が分解する温度(T(℃)1-h t1/2)である。本願発明では、グラフト共重合の好ましい温度は、70〜100℃、より好ましくは75〜95℃、特に好ましくは80〜90℃である。
温度が100℃以上では、重合で使用される芳香族炭化水素溶媒の沸点に近くなり、ガラス反応器内での突沸や圧力上昇の原因となるので好ましくない。逆に温度が70℃よりも低すぎると、発生ラジカルの数が少なすぎて、グラフト共重合の効率が低下する原因となる。
【0040】
1,4−シス-ポリブタジエン主鎖上のグラフトサイトの数は、1〜5mol%が良く、2〜4mol%がより好ましく、2.5〜3mol%が特に好ましい。1mol%より少ないグラフトサイト数では、グラフト共重合の効果が低く、1,4−シス-ポリブタジエンにグラフトしたポリアクリルアミドの量が少なくなる。そのため、ゴム中の極性の増加が期待できない。これに反して、5mol%より多いグラフトサイト数では、ゴム主鎖間で制御不能のゲル化おこり、その結果ゲルが大量発生するので好ましくない。
【0041】
グラフトサイトに対するラジカル開始剤のモル比(開始剤/グラフトサイト)は、通常0.5〜1.5が好ましく、0.7〜1.2が特に好ましい。
【0042】
ラジカル開始剤に対するTEMPOあるいはTEMPO誘導体のモル比(TEMPO/開始剤)は、0.7〜1.5がよく、1.0〜1.2が特に好ましい。TEMPO/開始剤のモル比が1.0〜1.2の間、共重合速度(アクリルアミドモノマーの転化率)とリビング重合的特性を持つグラフト共重合の制御可能性との間のバランスをとる最適条件になる。
【0043】
グラフトサイトに対するアクリルアミドのモル比あるいは重合度(DPn)は、1,4−シス-ポリブタジエン主鎖にグラフトしたポリアクリルアミドの所望の分子長さに対する理論的数値である。
本願発明では、1,4−シス-ポリブタジエン主鎖にグラフトしたポリアクリルアミドの短鎖の構造は、グラフトサイトの数に相対的に近い分岐鎖の数あるいは分岐鎖の分散性を持っていることが好ましい。
更に、好ましいグラフトサイトに対するモノマーのモル比(DPn)は、20〜150の範囲であり、より好ましくは40〜120、特に好ましくは50〜100である。
【0044】
DPnの値が20より小さいと、グラフトしたポリアクリルアミドの短鎖が短すぎてしまい、1,4−シス-ポリブタジエン主鎖での極性増大の効果が低くなるため好ましくない。
一方、DPnの値が150より大きいと、グラフトしたポリアクリルアミドの短鎖が長すぎてしまい、その結果グラフト側鎖が硬くなるため、加硫工程での障害になる。また、あまりにも硬すぎるグラフト側鎖は、エラストマーの重要な特性を失わせる原因ともなり、好ましくない。
【0045】
ラジカル開始剤としてAIBNを用いたグラフト共重合の具体例を表1に示す。
【0046】
表1において、AIBNを使ったグラフト共重合の結果から前述のグラフト共重合条件では、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)(PDMA)グラフト化1,4−シス-ポリブタジエン(PDMA−グラフト化BR150L)がよく制御されたグラフト共重合体であった。グラフト化BR150Lの数平均分子量(Mn)が4,800〜52,000の範囲で増加する結果となっている。重量平均分子量(Mw)は2,000〜273,000の範囲で増加している。さらに、分子量分布(MWD)は2.0〜2.9の範囲となっている。
【0047】
ゲル量を0.2wt%以下にするような条件では、1,4−シス-ポリブタジエンにグラフトしているポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)の最大含有量が48.67%、グラフト率 (Percent Grafting, PG) が94.82%であり、参考例Aのポリ(メチルメタクリレート)グラフト化1,4−シス−ポリブタジエン(PMMA−グラフト化BR150L)よりかなり効率が高かった。よく制御されたグラフト共重合体では、TEMPO/開始剤のモル比の増加を伴ってゲル量の減少が得られる。ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)のグラフト率 (PG)は、グラフトサイト数、DMA/グラフトサイトのモル比 (DPn)の増加を伴って増加を示すが、TEMPO/AIBNのモル比の増加を伴って、急激な減少を示す。
【0048】
本願発明における、好ましいグラフト率 (Percent Grafting, PG)は、30〜100%であり、40〜80%がより好ましく、50〜70%が特に好ましい。
上記PGの範囲での変性ゴムを使用することで、理想的なスコーチ安全性を示す加硫挙動を得ることができる。
しかしながら、PGが30%より低いと、加硫初期での加硫速度が速すぎるためスコーチ安全性が劣り、かつ加硫後期での加硫速度が遅くなり、経済的なプロセスでの加硫を創出することが難しい。
一方、PGが100%より高いと弾性や耐摩耗性などのエラストマーの重要な特性を失わせる原因のようなことが生ずるので好ましくない。
【0049】
ゲル量を0.02wt%以下では、1,4−シス−ポリブタジエンにグラフトしているポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)の最大含量は48.67%、最大グラフト率は、94.82%である。
【0050】
図2は、参考例A(グラフト率14.16%)におけるポリ(メチルメタクリレート)グラフト化1,4−シス−ポリブタジエン(PMMA−グラフト化BR150L)と未変性1,4−シス−ポリブタジエン(BR150L)のFT−IRスペクトルを比較して示したものである。
グラフトしたポリメチルメタクリレートのC=O伸縮振動が1734cm−1に観測されている。
【0051】
図3は、参考例8(グラフト率56.59%)におけるポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)グラフト化1,4−シス−ポリブタジエン(PDMA−グラフト化BR150L)と未変性1,4−シス−ポリブタジエン(BR150L)のFT−IRスペクトルを比較して示したものである。
グラフトしたポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)のC=O伸縮振動が1635cm−1に観測されているが、1,4−シス−ポリブタジエンの主鎖のC=C伸縮振動のピークと重なっている。しかし、グラフトしたポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)の
C−N−C伸縮振動は1155cm−1に単独で観測されている。
【0052】
(ポリアクリルアミドグラフト化1,4−シス-ポリブタジエンを含んだシリカ配合ゴム組成物)
表2にシリカ配合ゴム組成物の配合成分およびその量を示す。ここに、「phr」は「重量部」であり、エラストマーあるいはゴムの重量100に対する重量の割合である。
【0053】
(A)ポリアクリルアミドグラフト化1,4−シス-ポリブタジエンの量としては、1〜50重量部が良く、5〜30重量部がより好ましく、8〜25重量部が特に好ましい。
1重量部未満のポリアクリルアミドグラフト化1,4−シス-ポリブタジエンは、ゴム組成物中におけるアクリルアミドの極性の効果が無い。一方、50重量部より多くなると耐摩耗性が悪くなる原因となる。
【0054】
(B)(A)以外の加硫可能なゴムとしては、天然ゴムあるいは1,4−シス-ポリイソプレン、1,4−シス-ポリブタジエンなどが好ましく、特に天然ゴムと1,4−シス-ポリブタジエンの混合物が好ましい。その混合物の使用量は、50〜99重量部が良く、より好ましくは70〜95重量部、特に好ましくは75〜92重量部である。また、ムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、40〜100が好ましく、50〜80がより好ましく、60〜70が特に好ましい。
【0055】
前記(B)にて記載の(A)以外の天然ゴムと1,4−シス-ポリブタジエンの混合物に含まれる1,4−シス-ポリブタジエンの量は、前記混合物に対して10〜90wt%が良く、20〜70wt%がより好ましく、30〜60wt%が特に好ましい。さらに、1,4−シス-ポリブタジエンのミクロ構造は1,4−シス構造が80〜98%、1,2−ビニル構造が1〜19%であることが好ましい。また、ムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、10〜70が好ましく、30〜60がより好ましい。
例えば、1,4−シス-ポリブタジエンは市販の1,4−シス-ポリブタジエンに限定されず、コバルト(II)オクトエートのようなコバルト系触媒とジエチルアルミニウムクロリドのような有機アルミニウム化合物の存在下、1,3−ブタジエンを溶液重合して得られたものを使用しても良い。
【0056】
(C)ゴム補強剤としては、無機系ゴム補強剤および有機系ゴム補強剤のいずれの補強材も適用することが出来る。無機系ゴム補強剤としては、沈降シリカ、金属酸化物、アルカリ金属塩およびカーボンブラックである。しかし、これらに限定されるものではない。有機系ゴム補強剤としては、例えば、繊維状の1,2−ポリブタジェンである。しかし、これに限定されるものではない。
【0057】
ゴム補強剤としては、上述した各補強剤を単独で用いる以外に、2種数以上を組み合わせても良い。例えば、シリカとカーボンブラックを併用して用いても良い。
【0058】
ゴム補強剤がシリカの場合、沈殿シリカの使用が最も好ましく、特にケイ酸ナトリウムのような可溶ケイ酸の酸性化によって得られるものが好ましい。さらに、上述のようにこれらのシリカをカーボンブラックと組み合わせても良い。
【0059】
沈降シリカを使用する場合、使用する量は、20〜80重量部が良く、30〜70重量部がより好ましい。また、沈降シリカのBET比表面積は100〜300m/gであり、粒径0.01〜0.1ミクロンであることが好ましい。
沈降シリカの比表面積が高すぎると加工段階や加硫後にゴムマトリクス中で凝集が起こりやすいので好ましくない。
【0060】
本願発明で使用される沈降シリカあるいは業界で一般にゴム配合物として使用される沈降シリカは、ケイ酸ナトリウムのような可溶性ケイ酸塩の酸化性によって得られるものであることが好ましい。
様々な市販の沈降シリカが利用でき、特にPPG社製のシリカ、Hi−Silの商標で知られるRhodia社製のZ1165MPやZ165GRのシリカ、さらにEvonik(Degussa AG)社製でVN2やVN3(商標Nipsilで知られる東ソ社製VN3を含む)で知られるシリカを使用することが出来る。
【0061】
シリカ表面上のシラノール基をもつ結合を形成する時のシラン部分とエラストマーに相互作用を及ぼす際の2〜6の反応硫黄原子をもつポリスルフィド部分をもつシランカップリング剤の量としては、1〜10重量部が良く、1〜5重量部がより好ましい。
【0062】
本願発明では使用するシランカップリング剤の量を、シリカ配合ゴム組成物に通常使用するケースと比較して、減らすことが出来る利点がある。
一方、シランカップリング剤の量が10重量部より多すぎると、複合化の段階で架橋が進みすぎて、甚大な結果をもたらす為、良くない。更に、シランカップリング剤の量が1重量部より少ないと、ゴムマトリクス中にシリカが分散しにくくなる原因となり、好ましくない。
【0063】
シランカップリング剤は、一般に市販のものを使用することができる。例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド,ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド,ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド,ビス(2−トリエトキシシリルプロピル) テトラスルフィド,ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド,ビス(2−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド,3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン,3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン,2−メルカプトエチルトリメトキシシラン,2−メルカプトエチルトリエトキシシラン,3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド,3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド,2−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド,3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド,3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド,3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド,3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィドがあげられるが、これらに限定されるものではない。これらのシランカップリング剤を単独で用いるだけでなく、複数組み合わせて用いても良い。この中でも特に、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドの使用が好ましい。
【0064】
その他使用するものとしては、ゴムの複合化や加硫段階で一般に使用されるものを用いることが出来る。例えば、プロセスオイル、酸化亜鉛、ステアリン酸、酸化防止剤、加硫促進剤およびイオウのような加硫剤である。プロセスオイルとしては、パラフィンオイル、ナフテンオイルやアロマオイルが用いられるが、これらに限定されるものではない。この中でもアロマオイルが最も使用に好ましく、ゴム組成物の引張強さ、耐摩耗性など、優れた物性を維持することが可能である。
さらに、使用する量としては1〜50重量部が良く、5〜30重量部がより好ましい。
【0065】
加硫剤としてはイオウが用いられるが、イオウに限定されるものでなく他の加硫剤も使用が可能である。使用量としては、0.1〜10重量部、より好ましくは1〜5重量部である。加硫剤の量が10重量部より多すぎると加硫が進みすぎてしまい、ゴムの弾性が失われるので良くない。一方、加硫剤の量が0.1重量部より少なすぎると、加硫不足による引張強度や耐摩耗性などの物性が十分得られないので良くない。
【0066】
加硫促進剤としては、2−メルカプトベンゾチオゾール(Mと略す)、ジベンジルゾチアジルジスルフィド(DMと略す)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(CZと略す)およびジフェニルグアニジン(Dと略す)などであるが、これらに限定されるものではない。この中でも特に、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(CZ)およびジフェニルグアニジン(D)の使用が好ましい。
使用する量としては、0.1〜5重量部がよく、1〜3重量部がより好ましい。
【0067】
図5は、加硫促進助剤としての酸化亜鉛/ステアリン酸と、加硫促進剤としてのCZ/Dの存在のもと起こるゴムの加硫の一般に知られている機構を示している(非特許文献1)。全体的な加硫の速度を制御する重要な段階は、(a)の生成と(b)の生成の過程である。一般に、この段階がスコーチ安全時間に関係してくるためこの段階での(a)の生成速度はできるだけ遅いほうが好ましい。一方、この段階での(b)の生成速度は加硫速度に関係してくるためできるだけ速いほうが好ましい。全体的には速い加硫速度が高い生産性につながる。
【0068】
(I)混合工程(第1ゴム組成物)
混合工程において、加硫剤および加硫促進剤を除く全成分は、プラストミルのような密閉式混合機で90℃、5分以内にて混合される。その後直ちに、混合物がミキシングロールを使用して30〜60℃の温度範囲にて冷却後、シート状に形成される。シート状のゴム組成物のサンプルを用いて、ムーニー粘度が測定される。
シリカ配合ゴム組成物のムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、110〜150が好ましく、120〜135がより好ましい。
【0069】
(II)加硫予備工程(第2ゴム組成物)
前述した混合工程から得られたシリカ配合ゴム組成物のシートは、30〜60℃の温度範囲でミキシングロールを使用して、イオウのような加硫剤や加硫促進剤とともに混合したものである。加硫予備工程におけるゴム組成物は、シート状に引かれ、そのサンプルはムーニー粘度(ML1+4,100℃)、RPA−2000における150℃での最適加硫点(2%、5%、10%、50%、90%加硫での時間)および加硫中のtanδの測定がなされる。
【0070】
加硫予備工程による第2ゴム組成物のムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、混合工程から得られた第1化合物のムーニー粘度より減少し、その値は、60〜110、より好ましくは70〜100である。加硫予備工程による第2ゴム組成物の150℃での90%加硫での時間(t90)は、5〜15分間が良く、より好ましくは7〜12分間である。
【0071】
表3及び図4に示された結果より、参考例8であるPDMA−g−BR150Lを含むゴム組成物 (実施例1)は、基準値であるBR150L(比較例2)と比較して、2%、5%、10%加硫時間が明らかに遅く、50%と90%加硫時間は比較的速い時間であり、非常に優れた加硫特性を示した。このことは長いスコーチ安全時間と速い全体的な加硫速度との良好なバランスを示唆している。本願発明におけるPDMA−g−BR150Lを含むゴム組成物は、スコーチ防止剤(加硫遅延剤)と加硫促進剤としての両方の機能を保持していることがわかる。
一方、参考例AであるPMMA−g−BR150L(比較例1)を含むゴム組成物はこれとは逆の加硫特性を示した。参考例であるBR150Lの加硫特性と比較すると2%、5%、10%加硫時間がわずかに速いが、50%と90%では明らかに遅い加硫時間が確認された。通常、これはゴム加工業界においては好ましくない加硫特性である。
【0072】
図6は、PDMA−g−BR150Lの存在のもとで加硫促進助剤である酸化亜鉛/ステアリン酸と加硫促進剤であるCZ/Dと起こるゴムの加硫の提案された機構を示している。PDMAのアミド基は酸化亜鉛に配位されやすく、(a)の生成を妨害もしくは生成速度を遅らせることが示唆される。しかしながら、その間、(a)の生成が完了した後にPDMAのアミド基は(b)の生成速度を速めさせ又(b)の亜鉛錯体を安定させて、ジエンベースのゴムからのアリル水素引抜作用により加硫段階がさらに進行し、CZのシクロヘキシルアミンの官能基と同様に機能し、加硫速度を速める効果を示している。
【0073】
(III)加硫工程およびシリカ配合ゴム加流物の物性
表3にPDMA−g−BR150Lを含んだシリカ配合ゴム組成物の物性を示す。
【0074】
加硫予備工程による第2ゴム組成物は、加硫時間の測定をした150℃でプレス成形される。生成したゴム加流物サンプルは、温度掃引、引張張力、網目密度、粘弾性特性などの物性が測定される。
【0075】
図5は、BR150L(比較例2)とPMMA−g−BR150L(比較例1)のゴム加硫物と比較された本願発明(実施例1)におけるPDMA−g−BR150Lが含まれたゴム加硫物の網目密度の結果を示している。
【0076】
PDMA−g−BR150L(実施例1)が含まれるゴム加硫物の網目密度は比較例2であるBR150Lよりも高い値であった(およそ29%程度高い)。この結果は、前述したような全体的に速い加硫速度に一致する。同一のゴム組成物においても共に、高い網目密度は架橋ネットワークの高い度合いを明らかに示しており、これはまたポリスルフィド(Sx)の短鎖が表れていると考えられ、これはおそらく前述したようなPDMAのアミド基の加硫促進機能による効果である。
【0077】
一方、PMMA−g−BR150L(比較例1)が含まれるゴム加硫物の網目密度はBR150L(比較例2)よりもわずかだけ低い値であった。したがって、架橋ネットワークの度合いとポリスルフィド鎖の長さは、比較例1と比較例2の両方のゴム加硫物にほとんど類似している。
【0078】
表3に示された引張特性の結果より、本願発明のPDMA−g−BR150Lを含んだゴム加硫物(実施例1)はBR150L(比較例2)と比較して300%伸びにおける引張モジュラスが極めて高く、45%程度高いことがわかる。しかしながら、架橋ネットワークが高い度合いで形成されていることによって期待されたよりも破断強度はわずかに低く、破断伸びも低かった。
【0079】
産業上の利用可能性
本願発明で用いられている天然ゴム、UBEPOL BR150Lおよびポリアクリルアミドグラフト化BR150Lからなるシリカ配合ゴム組成物は、1,4−ポリブタジエンの主鎖にグラフトしたポリアクリルアミド鎖のような極性官能基を導入することで、
長いスコーチ安全時間と速い加硫時間との良好なバランスを示すゴム加硫物を提供することが可能となる。
その結果として、本願発明のようなゴムの容易な加工工程と高い生産性を実現することが期待出来る。
これらのゴム加流物は、数多くの用途として、天然ゴムやジエン系合成ゴムを組み合わせたゴム成分として使用される高い可能性を示す。特に以下に限定されるもではないが、具体的用途としては、工業用ベルト、ホース、シール材を含む他の産業用エラストマーなどがあげられる。
【0080】
以下に本願発明で調製したゴムの分析内容を示す。
(変性ゴム中のグラフトしたポリ(N,N-ジメチルアクリルアミド)含量)
変性ゴム中のグラフトしたポリ (N,N-ジメチルアクリルアミド)含量は、標準KBr法を用いて、島津製作所製Shimadzu−8700を用いたFT−IRスペクトルを測定することで行った。
トルエン溶液中、AIBNとTEMPOの存在下(TEMPO/AIBNモル比=0.3)、90℃、6時間の条件でのラジカル重合で合成されたポリ(N,N-ジメチルアクリルアミド)(Mn= 8,560、MWD=2.06)とBR150Lをブレンドしたものの検量線は、全ピーク面積に対するC−N−C伸縮振動(波数〜1150cm−1)のピーク面積の比によってプロットした。
それぞれのグラフトしたサンプルゴムの全ピーク面積に対するC−N−C伸縮振動(波数〜1150cm−1)のピーク面積の比の結果は、ゴム中のグラフト含量を決定するのに、検量線を用いて比較される。
【0081】
(変性ゴム中のグラフト率(Percent Grafting,PG))
グラフト率(PG)は重量%で表され、前述したFT−IR測定から得られたグラフトしたポリマーの含量の結果から以下の計算式によって求めることが出来る。
【0082】
【数1】

【0083】
(ゴムの分子量及び分子量分布)
分子量及び分子量分布は、東ソー社製HLC−8220 GPCを用い、カラムを2本直列にて使用し、標準ポリスチレンの検量線により算出した。使用したカラムはShodex GPC KF−805L columnsであり、THF中でのカラム温度を40℃に測定することで行った。
【0084】
(ゴムのゲル含量)
ゲル含量の測定は、ゴムサンプル1gをトルエン50mlに溶解し、室温にて24時間攪拌して行った。
ゴムのトルエン溶液は予め重量を測定してあるNo.250メッシュのろ過器を使ってろ過した後、トルエンで数回洗浄した。膨潤したゲルを濾したろ過器は、100℃の真空状態で30分間乾燥し、デシケーター中で保管され、その後、重量が測定される。
ゲル含量(%)は以下の式で計算される。
【0085】
【数2】

【0086】
(ムーニー粘度)
ムーニー粘度(ML1+4,100℃)測定は、JIS K−6300に準拠して行った。
【0087】
(加硫時間測定)
ゴムの加硫時間は、ゴム組成物の加硫状態が90%進行した時間(t90)として測定した。測定装置は、Alpha Technologies社製のRPA−2000を用い、温度150℃にて、周波数を1Hzおよび角度0.5度に固定した条件で測定し、JIS K−6300−2に準拠して行われた。
【0088】
(破壊特性(引張特性))
破壊特性における引張強度や引張伸びの測定は、JIS K−6251に準拠して、TENSILON RTG−1310張力計(A&D社製)を用いて行われた。
【0089】
(加硫物の網目密度測定)
厚さ2mmのシートを適当な大きさにカットし、JIS K 6258に従いトルエン中で30℃、72時間浸漬させ、トルエンの密度を0.8716(g/cm)、シリカの密度を1.9(g/cm)として膨潤法によってゴムの網目密度を算出した。
【0090】
以下にポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)−グラフト化BR150L(PDMA−g−BR150L)の合成方法を示す。
(参考例1)
窒素雰囲気下にて攪拌翼、還流器、熱電対を伴った1リットルのガラス反応器がオイルバスに設置され、その中に使用前に窒素で1時間バブリングし、かつモレキュラーシーブスで脱水しておいた350mlのトルエン溶媒を入れた後、窒素が加圧状態で小さくカットした15g(0.278mol)の1,4−シス-ポリブタジエン(BR150L)小片を入れた。BR150Lを室温、1.5〜2時間、攪拌速度350〜400(回/分)にてトルエン溶液に溶かした。その後、1.09g(TEMPOとAIBNのモル比=1.0になるよう)の2,2,6,6−テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)を窒素雰囲気下で投入した。その後、1.14g、即ち0.278mol(2.5%グラフトサイト数)に相当するアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を窒素雰囲気下で投入した。
温度を80℃に上げ、その温度にて攪拌速度350(回/分)かつ30分間熟成をした。その後、35.5mlのCaH2上、減圧蒸留したN,N−ジメチルアクリルアミド(DMA)(グラフトサイトに対するDMAのモル比あるいはDPn=50になるように)をシリンジからゴム膜を貫通させることで反応器に加えた。ガスタイトシリンジで採取した0.25mlのトルエン溶液のサンプルを直ぐにメタノールとイソプロパノール(1ml)の混合冷媒10mlに投入して、沈殿させた。
グラフト共重合反応は、温度80℃、攪拌速度350(回/分)にて4時間行った。4時間後、0.25mlのトルエン溶液サンプルが再度ガスタイトシリンジで抜き出され、直ぐにメタノールとイソプロパノール(1ml)の混合冷媒10mlに投入して、沈殿させた。重合前後でのアルコール溶液は、沈殿したゴムを取り除くためにろ過され、次いでDMAの転化率を決定するのにガスクロマトグラフに注入した。
反応器を40℃以下に冷却し、直ぐに反応器のトルエン溶液を冷やした大容量のメタノール中に投入して沈殿させ、攪拌しながら一晩放置した。
ろ過後、沈殿したゴムを50℃で4時間、重量が一定になるまで真空乾燥した。
ろ過の際に生じたろ液はエバポレータで溶媒を飛ばした後、トルエンに溶かして、n-ヘキサンに沈殿させ、更にろ過し50℃で重量が一定になるまで乾燥させ、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)(PDMA)のオリゴマーを得た。
PDMAグラフト化BR150Lを、FT−IR、GPCおよびゲル量の測定をした。PDMAオリゴマーのサンプルも同様に、GPCで測定を行った。
【0091】
(参考例2)
参考例2のPDMAグラフト化BR150Lは、グラフトサイト数を3.5にした以外は、参考例1と同様の方法で合成した。
【0092】
(参考例3)
参考例3のPDMAグラフト化BR150Lは、グラフトサイト数を4.5にした以外は、参考例1と同様の方法で合成した。
【0093】
(参考例4)
参考例4のPDMAグラフト化BR150Lは、重合温度を90℃にし、かつTEMPO/AIBN モル比を0.8にした以外は、参考例1と同様の方法で合成した。
【0094】
(参考例5)
参考例5のPDMAグラフト化BR150Lは、重合温度を90℃にした以外は、参考例1と同様の方法で合成した。
【0095】
(参考例6)
参考例6のPDMAグラフト化BR150Lは、重合温度を90℃にし、かつTEMPO/AIBN モル比を1.2にした以外は、参考例1と同様の方法で合成した。
【0096】
(参考例7)
参考例7のPDMAグラフト化BR150Lは、重合温度を90℃にし、かつTEMPO/AIBN モル比を1.4にした以外は、参考例1と同様の方法で合成した。
【0097】
(参考例8)
参考例8のPDMAグラフト化BR150Lは、重合温度を90℃、TEMPO/AIBN モル比を1.2にし、かつDMA/graft site モル比(DPn)を75にした以外は、参考例1と同様の方法で合成した。
【0098】
(参考例9)
参考例9のPDMAグラフト化BR150Lは、重合温度を90℃、TEMPO/AIBN モル比を1.2にし、かつDMA/graft site モル比(DPn)を100にした以外は、参考例1と同様の方法で合成した。
【0099】
(参考例10)
参考例10のPDMAグラフト化BR150Lは、重合時間を2.5時間にした以外は、参考例1と同様の方法で合成した。
【0100】
(参考例A)
参考例AのPMMAグラフト化BR150Lは、DMAの代わりにCaH2上、減圧蒸留したメチルメタクリレート(MMA)をモノマーとして使用し、重合温度を85℃、TEMPO/AIBN モル比を0.95にし、アセトン還流でPMMAオリゴマーを抽出した以外は、参考例1と同様の方法で合成した。
【0101】
シリカ配合ゴム組成物の実施例は以下の通りである。
表2に比較例2、実施例1および比較例1の詳細を示す。
(実施例1および比較例1)
開始温度が90℃、終了温度が150℃、混合時間が5分間以内で容量250mlの東洋精機社製ラボプラストミル中で混錬することで、天然ゴムと市販グレードのシス−1,4−ポリブタジエン(UBEPOL BR150L)であるジエン系ゴム成分が、最初に参考例8のポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)(PDMA)グラフト化BR150 (PDMA−g−BR150L、56.59%グラフト率)と共にブレンドされた。
その後、沈降シリカ(Nipsil VN3)が、シランカップリング剤(Si69)や混合前成分であるシリカ、アロマオイル、酸化亜鉛、ステアリン酸および酸化防止剤(6C)が加えられ、ブレンドされた。
混合工程から得られた第一ゴム組成物は、6インチのミキシングロールを用い、温度30〜60℃にて延伸された。そのサンプルは、ムーニー粘度測定が行われた。
加硫予備工程においては、得られた第1ゴム組成物シートが、6インチのミキシングロールを用い、温度30〜60℃にて、硫黄と加硫促進剤(CZ and D)と共に加えられ、さらに延伸されてシート化された。得られた第二ゴム組成物のサンプルは、ムーニー粘度測定とAlpha Technologies社製 RPA−2000を用いて、加硫時間(t90)測定が行われた。
加硫予備工程から得られたシリカ配合ゴム組成物は、実際の加硫時間(2t90)にて温度150℃で成形加工された。本願発明における様々な形態のゴム加硫物サンプルは、引張強度および網目密度を測定するために用いられた。
【0102】
(比較例2)
比較例2のシリカ配合ゴム組成物は、PDMAグラフト化BR150LあるいはPMMAグラフト化BR150Lを使用していないことを除いては、実施例1および比較例1と同様の方法で調製した。


【0103】
【表1】

【0104】
【表2】

【0105】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリルアミド系重合体を、ニトロキシド化合物を用いたラジカル重合(NMP法)を使用することによりグラフト変性した共役ジエン系ゴム(A)のグラフト率が30〜100%、かつ1〜50重量部で、(A)以外の加硫可能なゴム(B)が50〜99重量部であり、さらにゴム補強剤(C)を30〜70重量部加える事を特徴とするゴム補強剤配合ゴム組成物。
【請求項2】
該アクリルアミド系重合体がポリアクリルアミドであることを特徴とする請求項1に記載のゴム補強剤配合ゴム組成物。
【請求項3】
該共役ジエン系ゴムが1,4−シス構造を持ち、かつその割合が94〜99%である事を特徴とする、請求項1〜2のいずれかに記載のゴム補強剤配合ゴム組成物。
【請求項4】
アクリルアミド系重合体を、ニトロキシド化合物を用いたラジカル重合(NMP法)を使用することによりグラフト変性した共役ジエン系ゴム(A)のグラフト率が30〜100%、かつ1〜50重量部で、(A)以外の加硫可能なゴム(B)が50〜99重量部であり、さらにゴム補強剤(C)を30〜70重量部加える事を特徴とするゴム補強剤配合ゴム組成物の製造方法。
【請求項5】
該ゴム補強剤(C)がシリカであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のゴム補強剤配合ゴム組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−184512(P2011−184512A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49055(P2010−49055)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】