説明

ゴム補強用繊維コードの接着剤処理方法

【課題】 ホルマリンレスの接着剤処理によりゴム層と接着させることができ、送り時にカスが生じず摩擦係数が低いゴム補強用繊維コードを得る。
【解決手段】 繊維コード21に、トリアジンチオールの濃度が0.5〜4質量%であり、ジエン系ゴムの濃度が0.5〜4質量%であり、トリアジンチオールとジエン系ゴムとの合計濃度が1〜5重量%である接着剤溶液51を付着させる接着剤処理工程と、繊維コード21を乾燥させる乾燥工程と、乾燥後の繊維コード21を糸道装置5を経て次工程へ送るコード送り工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムホース、タイヤ、ベルト等の各種ゴム製品の補強のためにゴム層に接着して用いられる繊維コードの接着剤処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホース、タイヤ、ベルト等の各種ゴム製品には、ナイロン繊維やポリエステル繊維等の有機繊維とゴムからなる繊維ゴム材料が、実用的な耐疲労性を有することから広く利用されている。これらの繊維ゴム材料は、ゴムを含んでなる基材が、撚りが付与された繊維束に接着剤等を付着させてなるコードにより補強されてなるものである。炭素繊維が用いられた繊維ゴム材料は寸法安定性、耐候性等に優れているが、単繊維同士の擦過によるコードの破断やコードとゴムとの界面において剥離が生じやすく、耐疲労性に劣りやすい。これに対して、レゾルシン−ホルマリン(RF)樹脂、ゴムラテックスからなるRFL液、及びエポキシ樹脂を含む樹脂組成物を炭素繊維束に含浸させる処方はゴムとの接着カが強く一般的な処方である。
【0003】
しかし、補強コードとゴム層との接着にRFL樹脂を用いた場合、強固な層間接着力が得られるが、RFLの合成段階で使用するホルマリンはVOC(揮発性有機化合物)該当物質であり、さらにホルマリンはアレルギー誘発、発ガン性も懸念されており、これらに問題が生じないホルマリンレスの製品が求められている。また、RFL処理をした繊維コードは糸道装置によりガイドされて編組工程等の次工程に送られるが、糸道装置のプーリー、ローラー、シャフト等を通過する際、RFL又は繊維の一部が削れることにより接着不良になったり、カスが生じたりする。ここで、製品にカスが付着する問題や、カスの堆積による設備不具合が起きることがある。ホルマリンレスの繊維ゴム材料の関連特許を以下に記す。
【0004】
(1)特許文献1には、A成分としての末端変性(エポキシ基、アミノ基、ビニル基、カルボキシル基)NBRと、B成分としての1.8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7塩(DBU塩:CHR/FKM等接着付与剤、CHR促進剤)と、C成分としての有機溶剤(MEK、メタノール、トルエン、イソプロピルアルコール、メチルセロソルブアセテート、ジメチルホルムアミド)とからなる処理液により、ゴム層と繊維補強層とを接着したラジエータホースが開示されている。
(2)特許文献2には、マレイン酸ポリマーと、18−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7塩(DBU塩)と有機溶剤(MEK、メタノール、トルエン、イソプロピルアルコール、メチルセロソルブアセテート、ジメチルホルムアミド)とからなる処理液により、ゴム層と繊維補強層とを接着したラジエータホースが開示されている。成分比は特許文献1と同等である。
(3)特許文献3には、A成分としてのエポキシ樹脂と、B成分としてのシランカップリング剤と、C成分としての有機溶剤(MEK、メタノール、トルエン、イソプロピルアルコール、メチルセロソルブアセテート、ジメチルホルムアミド)からなる処理液(また斬油性ポリマーを添加するとより好ましい)により、ゴム層と繊維補強層とを接着したラジエータホースが開示されている。
【0005】
(4)特許文献4には、レゾルシン−ホルマリン初期縮合物にメチレンドナーであるホルマリンの代替としてニトロアルコール使用とラテックスからなる接着剤により、ゴム層と繊維補強層とを接着した複合体が開示されている。この接着剤は、繊維−ゴムの接着性を損なうことなしにホルムアルデビドの使用量低減となるRFLである。
(5)特許文献5には、トリアジンチオール化合物からなる接着活性剤により、ゴム層と繊維補強層とを接着した補強ホースが開示されている。
【特許文献1】特開2004−150458公報
【特許文献2】特開2004−150459公報
【特許文献3】特開2004−150460公報
【特許文献4】特開平11−100561号公報
【特許文献5】特開平11−280954号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3はトリアジン以外の接着剤を用いており、その接着力は弱く、一部のホース製品にしか適用できない。
特許文献4はRFLのホルマリン代替にニトロアルコールを使用しており、レゾルシン樹脂との縮合反応が起こりにくいという問題がある。
特許文献5はホルマリンレスであるが、予めゴム層の表面にトリアジンチオール化合物を浸透性の溶媒によって含浸させておくものであり、均一な塗布・含浸が困難である。
【0007】
本発明の目的は、上記課題を解決し、(1)ホルマリンレスの接着剤処理によりゴム層と接着させることができ、(2)接着剤処理された繊維コードを送る際にカスが生じにくいため、いわゆるブツや接着不良といった不具合が起きにくく、(3)また、摩擦係数が低く且つ安定しているため、糸道装置をスムーズに通過でき、繊維コードのテンション変動が無くなる、ゴム補強用繊維コードを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は次の手段を採ったものである。
(1)ゴム製品の補強のためにゴム層に接着して用いられる繊維コードに、トリアジンチオールの濃度が0.5〜2質量%である接着剤溶液を付着させる接着剤処理工程と、
前記繊維コードを50〜180℃にて乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥後の繊維コードを糸道装置を経て次工程へ送るコード送り工程とを含むゴム補強用繊維コードの接着剤処理方法。
【0009】
(2)ゴム製品の補強のためにゴム層に接着して用いられる繊維コードに、トリアジンチオールの濃度が0.5〜4質量%であり、ジエン系ゴムの濃度が0.5〜4質量%であり、トリアジンチオールとジエン系ゴムとの合計濃度が1〜5重量%である接着剤溶液を付着させる接着剤処理工程と、
前記繊維コードを50〜180℃にて乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥後の繊維コードを糸道装置を経て次工程へ送るコード送り工程とを含むゴム補強用繊維コードの接着剤処理方法。
【0010】
上記の各手段において、次の態様を例示できる。
[ゴム層]
・ゴム層のゴム種類は、特に限定されず、特に接着剤にトリアジンチオールとジエン系ゴムとの混合を用いる場合には、極性ゴムのみならず非極性ゴムでもよいし、ジエン系ゴムでもよい。
・ゴム層の非極性ゴムとしては、特に限定されないが、NR(天然ゴム)、SBR(スチレンブタジエンゴム)、BR(ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンジエン共重合物)、IIR(イソブチレンイソプレン共重合物)等を例示できる。
・ゴム層のジエン系ゴムとしては、特に限定されないが、NR、SBR、BR、NBR、CR(クロロプレンゴム)等を例示できる。
・従って、両者の公約数、すなわちゴム層の非極性ゴム又はジエン系ゴムとしては、NR、SBR、BR、EPDM、IIR、NBR及びCRから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。
【0011】
[繊維コード]
・各種繊維製の撚糸コードを用いることができるが、極性を材料的に有する繊維コードか、又は極性を材料的に有しない繊維コードに付与処理により極性を付与してなる繊維コードが好ましい。
・極性を材料的に有する繊維コードとしては、特に限定されないが、ポリアミド、アラミド、レーヨン、ビニロン等を例示できる。
・極性を材料的に有しない繊維コードとしては、特に限定されないが、ポリエステル等を例示できる。これらの繊維コードは、付与処理により極性が付与されたものとする。この付与処理としては、特に限定されないが、エポキシ処理(イソシアネート含む)等を例示できる。
【0012】
繊維コードの編組の態様としては、特に限定されないが、ブレード、スパイラル編み等を例示できる。
【0013】
[接着剤及び接着剤溶液]
接着剤のトリアジンチオールとしては、2−ブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジン等を例示できる。
接着剤のジエン系ゴムとしては、1,2ポリブタジエン、1,4ポリブタジエン等を例示できる。
接着剤溶液の溶媒としては、MEK(メチルエチルケトン)、トルエン等を例示できる。
【0014】
上記手段(1)において、トリアジンチオールの濃度が0.5〜2質量%である接着剤溶液を用い、上記手段(2)において、トリアジンチオールの濃度が0.5〜4質量%であり、ジエン系ゴムの濃度が0.5〜4質量%であり、トリアジンチオールとジエン系ゴムとの合計濃度が1〜5重量%である接着剤溶液を用いる理由は、接着力獲得とカス発生防止及び摩擦係数低減とを両方満たすためである。すなわち、各接着剤成分の濃度が各範囲の下限より低いと、接着力が低下する傾向となり、各範囲の上限より高いと、カスが生じ摩擦係数も高くなる傾向となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のゴム補強用繊維コードの接着剤処理方法によれば、(1)ホルマリンレスの接着剤処理によりゴム層と接着させることができ、(2)接着剤処理された繊維コードを送る際にカスが生じにくいため、いわゆるブツや接着不良といった不具合が起きにくく、(3)また、摩擦係数が低く且つ安定しているため、糸道装置をスムーズに通過でき、繊維コードのテンション変動が無くなる、という優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図2に実施形態に係るゴム補強用繊維コードの接着剤処理方法を含んで製造された繊維補強層付ゴムホースHを示す。この繊維補強層付ゴムホースHは、内周から外周へ順に接合された、ゴム内管1と第一繊維補強層10とゴム中間層2と第二繊維補強層20とゴム外皮3とからなる。ゴム内管1とゴム中間層2とゴム外皮3は例えばEPDMからなる。第一繊維補強層10と第二繊維補強層20は、例えば極性を材料的に有しないポリエステル繊維製の撚糸コードにエポキシ処理して極性を付与してなる繊維コード11,21を、トリアジンチオール単体又はトリアジンチオールとジエン系ゴムとからなる接着剤で処理し乾燥した後、それぞれゴム内管1の外周とゴム中間層2の外周にブレード又はスパイラル編みしてなるものである。そして、ゴム中間層2と第二繊維補強層20との間、第二繊維補強層20とゴム外皮3との間が、前記接着剤により接着されている。
【0017】
図1に、ゴム補強用繊維コードの接着剤処理方法を含む繊維補強層付ゴムホースHの製造方法を示す。
(1)接着剤処理工程:ボビン23に巻かれた繊維コード21を解いて、槽50内の、トリアジンチオール単体又はトリアジンチオールとジエン系ゴムとの混合を溶媒に溶解した接着剤溶液51に通して、繊維コード21に接着剤溶液51を付着させる。
・トリアジンチオール単体の場合、接着剤溶液51におけるその濃度は0.5〜2質量%である。
・トリアジンチオールとジエン系ゴムとの混合の場合、接着剤溶液51におけるトリアジンチオールの濃度は0.5〜4質量%、ジエン系ゴムの濃度は0.5〜4質量%、但し両者の合計濃度は1〜5重量%の範囲である。
(2)乾燥工程:前記繊維コード21を乾燥装置60に通すことにより、50〜180℃にて50〜240秒間で乾燥させ、(a)接着剤溶液51の溶媒を完全に蒸発させ、(b)接着剤(トリアジンチオールとジエン系ゴム)と繊維コード21とを反応させる。この乾燥後の繊維コード21はボビン22に巻き取られる。
【0018】
(3)ゴム内管形成工程:第一押出装置31によりゴム内管1を連続的に押出成形する。押し出された未加硫のゴム内管1の管内にはマンドレル(図示略)が入っている。
(4)第一繊維積層工程:ボビン12に巻かれた繊維コード11を解いて糸道装置5によりガイドして第1編込装置41に送り、該第1編込装置41により前記ゴム内管1の外周に繊維コード11をブレード又はスパイラル編みして第一繊維補強層10を積層する。
【0019】
(5)ゴム中間層形成工程:前記第一繊維補強層10の外周に、シートゴム材2aを巻き付けることによりゴム中間層2を被覆形成する。
(6)コード送り工程及び第二繊維積層工程:前記乾燥工程後のボビン22に巻かれた繊維コード21を解いて糸道装置5によりガイドして第2編込装置42に送り、前記ゴム中間層2の外周に繊維コード21をブレード又はスパイラル編みして第二繊維補強層20を積層する。このとき、繊維コード21は糸道装置5のプーリー6、ローラー、シャフト等を通過する。しかし、前記接着剤で処理された繊維コード21は、前記通過の際にも、接着剤又は繊維の一部が削れにくいため、接着不良になったり、カスが生じたりすることが少ない。このため、製品にカスが付着する問題や、カスの堆積による設備不具合が起きにくい。また、摩擦係数が低く且つ安定しているため、糸道装置5をスムーズに通過できるとともに、繊維コード21のテンション変動が無く、第二繊維補強層20の径寸法が一定になる。なお、この編組時のコード張力により第二繊維補強層20はゴム中間層2の外周に適度に圧接する。
【0020】
(7)ゴム外皮形成工程:第二押出装置32により前記第二繊維補強層20の外周にゴム外皮3を被覆形成する。これにより、第二繊維補強層20はゴム外皮3にも適度に圧接したことになり、接着剤は第二繊維補強層20とゴム外皮3との界面にも付着したことになる。
(8)加硫工程:前記ゴム外皮形成工程後、加硫装置70により145〜165℃にて15〜30分加熱し、ゴム内管1、ゴム中間層2及びゴム外皮3を加硫するとともに、接着剤とゴム内管1、ゴム中間層2及びゴム外皮3とを反応させる。以上の工程により、繊維補強層付ゴムホースHが完成する。
【実施例】
【0021】
次の手順により、実施例及び比較例の各試験片を作成した。
1.ポリエステル繊維製の撚糸コードにエポキシ処理により極性を付与してなる繊維コードを用いた。繊維コードは200〜400本のフィラメントが束ねられたものである。
2.次のものを混合して接着剤溶液を調整した(詳しくは下記の表1に示す。但し、比較例1の接着剤溶液はRFL液である)。
トリアジンチオールとしての2−ブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジン(TDT): 1〜4質量%
ジエン系ゴムとしての1,2ポリブタジエン(1,2BR): 0〜4質量%
溶媒としてのMEK(メチルエチルケトン)とトルエン: 残部
3.繊維コードを槽内の接着剤溶液に通すことにより繊維コードに接着剤溶液を付着させ、この繊維コードを100℃にて60秒乾燥して、溶媒を蒸発させるとともに接着剤と繊維コードとを反応させた。
【0022】
糸道装置で発生する摩擦力の評価として、間隔をおいて設置したプーリー等に上記の繊維コードを掛け回し、繊維コードの一端におもりを付けて垂下させ、繊維コードの他端を1m/分で引張る試験を行った。その引張りに要した力を摩擦力として求めるとともに、繊維コードにおけるカスの発生を調べた。その結果を下記の表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
比較例1は、接着剤として従来のRFLを用いたものであり、摩擦力の点では問題がないが、カスが生じた。比較例2は、接着剤としてトリアジンチオールのみを用いたものであり、カスは生じなかったが、濃度が高いため摩擦力及びそのバラツキが大きかった。比較例3は、接着剤としてトリアジンチオールとジエン系ゴムとの混合を用いたものであり、カスは生じなかったが、各濃度が高いため摩擦力及びそのバラツキが大きかった。これに対し、実施例1〜4は、接着剤として所定濃度のトリアジンチオールとジエン系ゴムとの混合を用いたものであり、カスは生じず、摩擦力及びそのバラツキも小さかった。
【0025】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、例えば次のように、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
(1)繊維コードは、ゴムホース以外にも、タイヤ、ベルト等の各種ゴム製品の繊維補強層に用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るゴム補強用繊維コードの接着剤処理方法を含む、繊維補強層付ゴムホースの製造方法を示す断面図である。
【図2】同繊維補強層付ゴムホースを示し、(a)は端部を破断した斜視図、(b)は半断面図である。
【符号の説明】
【0027】
5 糸道装置
11 繊維コード
21 繊維コード
50 槽
51 接着剤溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム製品の補強のためにゴム層に接着して用いられる繊維コードに、トリアジンチオールの濃度が0.5〜2質量%である接着剤溶液を付着させる接着剤処理工程と、
前記繊維コードを50〜180℃にて乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥後の繊維コードを糸道装置を経て次工程へ送るコード送り工程とを含むゴム補強用繊維コードの接着剤処理方法。
【請求項2】
ゴム製品の補強のためにゴム層に接着して用いられる繊維コードに、トリアジンチオールの濃度が0.5〜4質量%であり、ジエン系ゴムの濃度が0.5〜4質量%であり、トリアジンチオールとジエン系ゴムとの合計濃度が1〜5重量%である接着剤溶液を付着させる接着剤処理工程と、
前記繊維コードを50〜180℃にて乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥後の繊維コードを糸道装置を経て次工程へ送るコード送り工程とを含むゴム補強用繊維コードの接着剤処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−274494(P2006−274494A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−96061(P2005−96061)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【出願人】(391046252)ニシヨリ株式会社 (2)
【Fターム(参考)】