説明

ゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードとその製造方法

【課題】高強力で且つ、低弾性域と高弾性域を具備したゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードを提供する。
【解決手段】一本以上の片撚り(下撚り)または諸撚りの芳香族ポリアミド繊維コード(コア)を中心に配置し、その周りに一本以上の片撚り(下撚り)の芳香族ポリアミド繊維コード(シース)をラセン状に撚り合わせたゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードであって、該コードの応力−伸び曲線が原点から変曲点に至る低弾性域と変曲点をこえる高弾性域を有し、かつ前記それぞれのコードの撚り係数(TM)が、コア用片撚り(下撚り)コードの撚り係数は5.6〜7.3の範囲、コア用諸撚り(上撚り)コードの撚り係数は7.9〜10.3の範囲、シース用コードの撚り係数は1.3〜2.0の範囲にそれぞれあると共に、該コードの撚り係数が1.4〜1.9の範囲にあるゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コード。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は応力−伸び曲線における低弾性域と高弾性域を併せ持ち接着性に優れたゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ、ベルト、ホースなどのゴム補強用繊維としては、脂肪族ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、芳香族ポリアミド繊維、ビニロン繊維、ガラス繊維、スチールコード等が用いられている。特に高強力化を目的とした場合は、芳香族ポリアミド繊維が用いられることが一般的である。
【0003】
伝動ベルトの特にサーペンタイン駆動においては、ベルトに加わる張力が高く、これに低弾性率繊維コードを芯線に用いた場合には、伸びが大きくベルト張力を保つことができないなどの不具合があるため、高弾性率な芳香族ポリアミド繊維コードの実用化が図られ、これによりベルトの伸びを小さくすることができたが、衝撃的な力がベルトに加わった場合は、その衝撃を吸収、緩和することができず、ベルトが破断するという問題があった。
【0004】
従来、ゴム補強用繊維コードの高強力、高伸度化を図る方法としては、高弾性繊維(芳香族ポリアミド繊維)と低弾性繊維(脂肪族ポリアミド繊維またはポリエステル繊維)を合撚した複合コード(例えば、特許文献1および2参照)や、高弾性繊維と低弾性繊維を引き揃え撚糸した複合コード(例えば、特許文献3参照)、さらに、低弾性域と高弾性域を有する複合コード(例えば、特許文献4参照)など挙げられるが、これらのコードでは十分な高強力化が図れないという問題があった。
【特許文献1】特開平4−110206号公報
【特許文献2】特開2005−256961号公報
【特許文献3】特許第3497030号
【特許文献4】特開2003−326915号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、上述した従来技術における問題点を解決し、低弾性域と高弾性域を併せ持つ芳香族ポリアミド繊維単一体のゴム補強用繊維コードとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明によれば、一本以上の片撚り(下撚り)または諸撚りの芳香族ポリアミド繊維コード(コア)を中心に配置し、その周りに一本以上の片撚り(下撚り)の芳香族ポリアミド繊維コード(シース)をラセン状に撚り合わせたゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードであって、該コードの応力−伸び曲線が原点から変曲点に至る低弾性域と変曲点をこえる高弾性域を有し、かつ下記式で示される前記それぞれのコードの撚り係数(TM)が、コア用片撚り(下撚り)コードの撚り係数は5.6〜7.3の範囲、コア用諸撚り(上撚り)コードの撚り係数は7.9〜10.3の範囲、シース用コードの撚り係数は1.3〜2.0の範囲にそれぞれあると共に、該コードの撚り係数が1.4〜1.9の範囲にあることを特徴とするゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードが提供される。
TM=T×√D / 303
〔但し、TM;撚り係数、T;撚り数(t/10cm)、D;トータル繊度dtexを示す〕。
【0007】
なお、本発明のゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードにおいては、
前記ゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードの原点から0.5%伸び時の応力が15.0N以下であり、2.0%伸び時の応力が98.0から150.0Nの範囲であること、および
前記ゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードは接着剤が塗布されていること
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【0008】
また、本発明のゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードの製造方法は、前記コアおよびシース用芳香族ポリアミド繊維コードを、下撚りコードの形態で接着剤処理した後にコアとシース用コードを引き揃えて加撚するか、またはコア下撚りコードを引き揃えて加撚した後にコードとシース用コードを引き揃えて加撚することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、以下に説明するとおり、芳香族ポリアミド繊維単一体から構成されてなり、高強力で且つ、低弾性域と高弾性域とを併せて具備し接着性に優れたゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0011】
図1はゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードの応力−伸び曲線における変曲点を示す図である。
【0012】
本発明のゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードは、一本以上の片撚り(下撚り)または諸撚りの芳香族ポリアミド繊維コード(コア)を中心に配置し、その周りに一本以上の片撚り(下撚り)の芳香族ポリアミド繊維コード(シース)をラセン状に撚り合わせたゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードであって、該コードの応力−伸び曲線が原点から変曲点に至る低弾性域と変曲点をこえる高弾性域を有し、かつ下記式で示される前記それぞれのコードの撚り係数(TM)が、コア用片撚り(下撚り)コードの撚り係数は5.6〜7.3の範囲、コア用諸撚り(上撚り)コードの撚り係数は7.9〜10.3の範囲、シース用コードの撚り係数は1.3〜2.0の範囲にそれぞれあると共に、該コードの撚り係数が1.4〜1.9の範囲にあることを特徴とするものである。
TM=T×√D / 303
〔但し、TM;撚り係数、T;撚り数(t/10cm)、D;トータル繊度dtexを示す〕。
【0013】
ここで、ゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードの変曲点とは、図1に示すゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードの応力−伸び曲線Sにおいて、伸び0の状態における曲線に接する接線X1と、破断点Eにおける曲線に接する接線X2とが交わる交点Yを応力−伸び曲線の変曲点Mとして定義する。
【0014】
本発明のゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードのそれぞれのコードの撚り係数(TM)において、コア用片撚り(下撚り)コードの撚り係数が5.6未満では、伸び0から変曲点に至る間の低弾性域が得られず、7.3を超えると、変曲点から破断点に至る間の高弾性域が得られないため好ましくない。
【0015】
また、コア用諸撚り(上撚り)コードの撚り係数が7.9未満では、伸び0から変曲点に至る間の低弾性域が得られず、10.3を超えると、変曲点から破断点に至る間の高弾性域が得られないため好ましくない。
【0016】
さらに、シース用コードの撚り係数が1.3未満では、伸び0から変曲点に至る間の低弾性域が得られず、2.0を超えると、変曲点から破断点に至る間の高弾性域が得られないため好ましくない。
【0017】
そして、コードの撚り係数が1.4未満では、伸び0から変曲点に至る間の低弾性域が得られず、1.9を超えると、変曲点から破断点に至る間の高弾性域が得られないため好ましくない。
【0018】
本発明で使用する芳香族ポリアミド繊維とは、芳香族ポリ−P−フェニレンテレフタルアミドおよびコポリパラフェニレン−3−4’オキシジフェニレンテレフタルアミドを、公知の手段で紡糸、延伸してなる繊維を意味する。
【0019】
本発明のゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードは、ゴム補強用として用いるため、通常、接着剤処理および熱処理が施されている。
【0020】
本発明のゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードを製造するに際しては、接着剤処理を、ゴム補強用芳香族ポリアミド繊維の下撚りコードの形態の段階で行った後、加撚してゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードとなすことが好ましい。
【0021】
芳香族ポリアミド繊維のフィラメント(原糸)の段階で接着剤処理した場合には、接着剤が固着して撚糸工程においてフィラメント切れが多発し、毛羽となりゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードとして供しえないことになるため好ましくない。
【0022】
また、芳香族ポリアミド繊維コード(コア)を中心に配置し、その周りを芳香族ポリアミド繊維コード(シース)をラセン状に撚り合わせたコードを接着剤処理すると、処理時の張力の影響によりコードが伸ばされ、応力−伸び曲線が原点から変曲点に至る間の低弾性域を得ることができない。
【0023】
接着剤処理は1回でもよいが、2回以上行うことが好ましい。
【0024】
本発明で使用する接着剤としては、エポキシ系、ブロックドイソシアネート系、レゾルシン・ホルムアルデヒド・ゴムラテックスの混合(RFL)液の組み合わせ、もしくは単独で使用することができるが、接着剤はこれらに限定されるものではない。
【0025】
また、上記RFLに含まれるゴムラテックスとしては、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、スチレン−ブタジエン系ラテックス、アクリロニトリル−ブタジエン系ラテックス、クロロプレン系ラテックス、クロロスルホン化ポリエチレンゴムラテックス、アクリレート系ゴムラテックス、天然ゴムラテックス、および塩化ビニル共重合体ラテックスなどが挙げられるが、なかでもビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスを用いた場合に最も良好な結果が得られる。
【0026】
接着剤の固形分濃度は2〜20.0%の範囲が用いられる。接着剤の粘度調整剤としてアルギン酸ソーダやケイ酸化合物なども添加利用することができる。
【0027】
芳香族ポリアミド繊維コードのコアおよびシースの接着剤固形分付着量は、それぞれのコードに対し3.0〜15.0重量%であり、好ましくは5.0〜10.0重量%である。
【0028】
熱処理条件としては、乾燥温度100〜160℃、滞留時間0.5〜5.0分、熱処理温度200〜260℃、滞留時間0.5〜5.0分が好ましい。
【0029】
乾燥が不十分な場合、機械汚れを招き、熱処理が200℃未満では、ゴムとの接着性が不十分であり、260℃を越えると、芳香族ポリアミド繊維自体の特性が阻害されるため好ましくない。
【0030】
かくして得られる本発明のゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードは、高強力で且つ、低弾性域と高弾性域とを併せて具備し接着性に優れることから、それらの特性を活かして、衝撃力の吸収、緩和を必要とする伝動ベルトやホース等のゴム資材分野に広く利用できる。
【実施例】
【0031】
次に、実施例により、本発明を具体的に説明する。各測定値は次の方法により求めたものである。
【0032】
[樹脂付着量(重量%)]
処理前コードおよび処理後コードを105℃、2時間乾燥した後重量を測定し、〔(処理後コードの重量−処理前コードの重量)/処理前コードの重量×100で求めた。
【0033】
[T−引抜力(N/cm)]
JIS L−1017(2002年)の接着力−A法に準じ、下記条件で処理コードをタイヤカーカス用未加硫ゴムに埋め込み、加圧下で初期引抜力は150℃、30分間加硫を行い、放冷後コードをゴムブロックから30cm/分の速度で引き抜き、その引き抜き荷重をN/cmで表示した。
【0034】
[コード強力(N)]
テンシロンを使用して、JIS L−1017(2002年)に準じて測定した。
【0035】
[実施例1]
第1処理液として、ソルビトールポリグリシジルエーテルに蒸留水を加えて、ホモジナイザーを用い、エポキシ水溶液を得た。次いで、ジフェニルメタン−ビス−4、4’−カルバモイル・εカプロラクタムの水分散体と、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエンラテックスとケイ酸化合物とを、固形分比率10.0:20.0:67.0:3.0で混合し、固形分濃度5.2%の第1処理液を得た。
【0036】
第2処理液として、苛性ソーダの存在下でレゾルシン1モルに対しホルムアルデヒドを1.25モルを反応させて得られたレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物(RF)を、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエンラテックス(L)にRF:L(固形分重量比)=1:8.8の割合で混合し、24時間熟成させた。該混合物の固形分100重量部に対し、ジフェニルメタン−ビス4,4’−メチルエチルケトンオキシカルパメートの水分散液を15部(固形分)添加混合し、固形分濃度15.0%の第2処理液を得た。
【0037】
デュポン社の芳香族ポリアミド繊維、440dtexのマルチフィラメント(商品名:ケブラー)を、リング撚糸機(加地鉄工社製)を用いて、表1に示すコア下撚り係数で撚り方向Zのコード2本を得た。
次いで、1670dtexのマルチフィラメント(商品名:ケブラー)を、表1に示すシース撚り係数にて撚り方向Sのコードを2本用意した。
【0038】
これらコアおよびシース用コードを、コンピュートリータ処理機(リッツラー社製)を用いて前記第1処理液に浸漬し、150℃で133秒間乾燥し、続いで240℃で53秒間熱処理した。次いで、第2処理液に浸漬し、140℃で133秒間乾燥し、続いて230℃で53秒間熱処理した。
【0039】
接着剤処理したコア用下撚りコード2本を引き揃えて、表1のコア上撚り係数で撚り方向Sのコードを作製した。更に、該コアコードと接着剤処理したシース用コード2本を引き揃えて表1の補強コード撚り係数にて、撚り方向Sのゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードを得た。得られたゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードの評価結果を表1に示した。
【0040】
[実施例2〜4、比較例1〜4]
コア用およびシース用コード並びにゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードの撚り係数として、表1に示す撚り係数を用いた以外は、実施例1と同一条件で処理し評価した。
【0041】
[比較例5]
芳香族ポリアミド繊維、1670dtexのマルチフィラメントの下撚り係数7.4の撚り方向Zの下撚りコードを2本作製し、該下撚りコードを2本引き揃え上撚り係数10.5の撚り方向Sの諸撚り構造のコードを作製した後、実施例1と同じ接着処理条件で処理(樹脂付着量は6.4重量%)した後評価した。
【0042】
[実施例5]
芳香族ポリアミド繊維、440dtexのマルチフィラメントを2本引き揃えて表1に示すコア下撚り係数にて撚り方向Sの片撚りコード(コア)を1本とした以外は、実施例1と同一条件で処理し評価した。
【0043】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードは、高強力で且つ、低弾性域と高弾性域とを併せて具備し接着性に優れることから、それらの特性を活かして、衝撃力の吸収、緩和を必要とする伝動ベルトやホース等のゴム資材分野に広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】ゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードの応力−伸び曲線における変曲点を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
M :変曲点
X1:原点における曲線の接戦
X2:破断点における曲線の接戦
Y :X1とX2との交点
S :曲線
E :破断点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一本以上の片撚り(下撚り)または諸撚りの芳香族ポリアミド繊維コード(コア)を中心に配置し、その周りに一本以上の片撚り(下撚り)の芳香族ポリアミド繊維コード(シース)をラセン状に撚り合わせたゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードであって、該コードの応力−伸び曲線が原点から変曲点に至る低弾性域と変曲点をこえる高弾性域を有し、かつ下記式で示される前記それぞれのコードの撚り係数(TM)が、コア用片撚り(下撚り)コードの撚り係数は5.6〜7.3の範囲、コア用諸撚り(上撚り)コードの撚り係数は7.9〜10.3の範囲、シース用コードの撚り係数は1.3〜2.0の範囲にそれぞれあると共に、該コードの撚り係数が1.4〜1.9の範囲にあることを特徴とするゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コード。
TM=T×√D / 303
〔但し、TM;撚り係数、T;撚り数(t/10cm)、D;トータル繊度dtexを示す〕。
【請求項2】
前記ゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードの原点から0.5%伸び時の応力が15.0N以下であり、2.0%伸び時の応力が98.0から150.0Nの範囲であることを特徴とする請求項1記載のゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コード。
【請求項3】
前記ゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードは接着剤が塗布されていることを特徴とする請求項1または2記載のゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コード。
【請求項4】
前記コアおよびシース用芳香族ポリアミド繊維コードを、下撚りコードの形態で接着剤処理した後にコアとシース用コードを引き揃えて加撚するか、またはコア下撚りコードを引き揃えて加撚した後にコードとシース用コードを引き揃えて加撚することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のゴム補強用芳香族ポリアミド繊維コードの製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2009−24285(P2009−24285A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−189394(P2007−189394)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】