説明

ゴム複合体およびそれを用いたタイヤ

【課題】摩擦係数が高く、且つ耐摩耗性に優れたゴム複合体を提供する。また、上記特性を備え雪面等で性能を発揮するタイヤを提供する。
【解決手段】繊維とゴムからなるシート状ゴム複合体の多層積層体であって、下記要件を満足するゴム複合体。
a)平均粒径0.5〜10μmの無機粒子を5〜50重量%含有する芳香族ポリアミド短繊維を含有すること。
b)厚さが2〜200mmであり、厚さ方向に対して85°〜95°の角度で配向している芳香族ポリアミド短繊維の本数が50〜500本/mmであること。
また、上記ゴム複合体を最外層に用いたタイヤとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性に優れたゴム資材に関する。さらに詳しくは、無機粒子を含有する芳香族ポリアミド繊維を、ゴム複合体の厚み方向に対して特定本数垂直に配向させたゴム補強資材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香族ジカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とからなる芳香族ポリアミド繊維(全芳香族ポリアミド繊維)、特にパラ系の芳香族ポリアミド繊維は、その強度、高弾性率、高耐熱性といった特性を活かして、ゴム補強に好適に用いられている。
【0003】
ゴム補強として代表的な芳香族ポリアミド繊維としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)繊維やコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維がある。これらの繊維は多くの利点を有し、高機能タイヤの補強等にも活用されている。しかしながら、雪面等の摩擦係数の低い路面等ではゴム資材での滑りが生じ、より高性能な雪面用タイヤを作ることが困難であった。
【0004】
このような課題を解決するため、例えば特許文献1、2にはタイヤ用ゴム組成物に無機フィラーを添加する方法が提案されている。
しかしながら、上記方法では、高い摩擦係数のゴム複合体が得られるものの、耐摩耗性が悪く、無機微粒子が飛散するなどの問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−219031号公報
【特許文献2】特開2006−282806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術を背景になされたもので、その目的は、摩擦係数が高く、且つ耐摩耗性に優れたゴム複合体を提供することにある。また、上記特性を備え雪面等で性能を発揮するタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、無機粒子を含有する芳香族ポリアミド繊維をゴム複合体の厚さ方向に対して特定本数垂直方向に配向させたゴム複合体を用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち本発明によれば、
繊維とゴムからなるシート状ゴム複合体の多層積層体であって、下記要件を満足することを特徴とするゴム複合体、
a)平均粒径0.5〜10μmの無機粒子を5〜50重量%含有する芳香族ポリアミド短繊維を含有すること。
b)厚さが2〜200mmであり、厚さ方向に対して85°〜95°の角度で配向している芳香族ポリアミド短繊維の本数が50〜500本/mmであること。
また、別の発明の態様として、該ゴム複合体を含むタイヤ、
が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明のゴム複合体は、摩擦係数が高く且つ耐摩耗性に優れる。このため、凍結路面等での操縦安定性に優れており、雪面タイヤ用途に非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明のゴム複合体はゴム成分及び芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維と呼ぶ場合がある)からなる。本発明に用いられるゴムとしては、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、各種スチレン−ブタジエン共重合ゴム、各種ポリブタジエンゴム及び各種ハロゲン化ゴム等が挙げられる。なかでも、天然ゴム及びポリブタジエンゴムは発熱性能が良好であることから好ましい。
【0011】
本発明において用いられるアラミド繊維は、アラミドポリマーと無機粒子を溶媒中で混合した後に成型された繊維に、必要に応じて処理剤を付与し均一な長さでカットすることにより製造することができる。
【0012】
なお、アラミドポリマーへ無機粒子をブレンドする際は、該無機粒子の凝集を抑制する必要がある。このため、アラミドポリマードープを調製するに際し、その方法は特に限定されるものではないが、無機粒子分散液を、アラミドポリマー溶液に一定の圧力で注入し、ダイナミックミキシングおよび/またはスタティックミキシングする方法が好ましい。
【0013】
本発明に用いられる無機粒子は、酸化鉄、酸化チタン、タングステン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化銅などを好ましく例示することができる。無機粒子の平均粒径は10μm以下が好ましく、さらに好ましくは8μm以下である。平均粒径が10μmを超えると無機粒子が芳香族ポリアミド繊維から脱落するため本発明の効果が得られず好ましくない。
【0014】
芳香族ポリアミド繊維に含まれる無機粒子の含有量は5〜50重量%が好ましく、さらに好ましくは10〜40重量%である。無機粒子の含有量が5重量%未満では無機粒子による芳香族ポリアミド繊維の補強効果が無く耐磨耗性が低下するため好ましくない。また、無機粒子の含有量が50重量%を超えると芳香族ポリアミド繊維中に無機粒子が均一に分散せず、無機粒子の脱落が生じるため好ましくない。
【0015】
上記芳香族ポリアミド繊維の具体例としては、芳香族ジカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分、もしくは芳香族アミノカルボン酸成分から構成されるアラミドポリマー、またはこれらの共重合アラミドポリマーからなる繊維であり、例えばポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維、ポリメタフェニレンテレフタルアミド繊維などが例示できる。なかでも、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維が高い強度を有すると同時に耐久性に優れているので特に好ましい。
【0016】
また、得られた芳香族ポリアミド繊維をゴムへ添加する方法は特に限定されるものではないが、オープンロール、加圧ニーダー、バンバリーミキサーで混練することが好ましい。
【0017】
混練後、芳香族ポリアミド繊維およびゴム混練物をオープンロールでシート状に成型することが好ましい。ここでオープンロールの間隙を調整してシート状ゴム複合体(ゴムシートと呼ぶ場合がある)の厚みを2mm以下とすることが好ましい。2mm以下とする時、芳香族ポリアミド短繊維がシート送り出し方向に均一に配向する(厚さ方向に対して垂直方向に配向する)ため好ましい。芳香族ポリアミド短繊維がロール間隙を通過する際にせん断力により芳香族ポリアミド短繊維がシート厚さ方向に対して垂直方向に配向しやすい。一方ゴムシートの厚さが2mmを超えると芳香族ポリアミド短繊維の配向が不均一となるため好ましくない。
ここで厚さ方向に対して垂直方向とは、厚さ方向に対して85°〜95°の角度で配向していることを意味する。
【0018】
このようにして得られたゴムシートを繊維が同一方向に配向するように積層して多層積層体とし、積層ゴムシートを芳香族ポリアミド繊維配向方向と垂直に均等な厚みとなるように切断し、求める形状に並べた後、蒸気加硫又はプレス加硫により成型することにより芳香族ポリアミド繊維が厚さ方向に対して垂直方向に配向したゴム複合体が得られる。
【0019】
また、タイヤに用いる場合は、上記シート状ゴム複合体をタイヤ製造工程において、トレッド部に積層した後、加硫成型することで芳香族ポリアミド繊維が厚さ方向に対して垂直方向に配向したタイヤが得られる。
【0020】
ゴム複合体の厚さ方向に対して垂直方向に配向している芳香族ポリアミド繊維の本数は1mmあたり50〜500本が好ましく、さらに好ましくは100〜400本である。
ゴム複合体の厚さ方向に対して垂直方向に配向している芳香族ポリアミド繊維の本数が1mmあたり50本未満では芳香族ポリアミド繊維の補強効果が無く耐摩耗性が低下するため好ましくない。また、ゴム複合体厚さ方向に対して垂直方向に配向している芳香族ポリアミド繊維の本数が1mmあたり500本を超えると外部と接触するゴムの表面積が減り摩擦係数が低下するため好ましくない。
【実施例】
【0021】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0022】
<測定・評価方法>
実施例および比較例における各特性値は、以下の方法により測定・評価を行った。
(1)ゴム複合体厚さ方向に対して垂直方向に配向している芳香族ポリアミド繊維の本数
試験タイヤのトレッド部から5cm×2cmのサンプルを切り出し、神鋼株式会社製スライサーで厚み0.5mmのシートに削り、目視で厚さ方向に対して垂直方向に配向している繊維本数を数え、サンプルの体積当たりの数値を算出した。
(2)動摩擦係数
試験タイヤを神戸機械社製の転がり抵抗試験機で、荷重365kgf、内圧290kPa、速度80km/時で走行させ、転がり抵抗を測定し、実施例1を100とする指数で評価した。
(3)耐摩耗性
試験タイヤを、荷重178kgf、内圧290kPaの条件で10分間同じ速度でドラム上を走行させるとともに、速度を10km/時で加速させ、速度270km/時まで走行させ、完走を合格、途中バーストしたものを不合格とした。
【0023】
[実施例1]
(芳香族ポリアミド繊維の作成)
平均粒径8μmの酸化鉄にN−メチルピロリドンを添加混合して酸化鉄が10重量%のN−メチルピロリドン溶液を作成した。この酸化鉄分散液をコポリパラフェニレン−3,4’オキシジフェニレンテレフタルアミドの6重量%のN−メチルピロリドン溶液に対して、酸化鉄が繊維全重量に対して20重量%になるように添加して紡糸原液を作成し、孔径0.3mmでホール数667のノズルから吐出し半乾半湿式紡糸法により紡糸し、水洗乾燥後10倍に延伸し550℃で熱セットして製糸し芳香族ポリアミド長繊維を得た。カットして単糸繊度1.67dtex、長さ3mmの短繊維を得た。
【0024】
(ゴム複合体の作成)
クロロプレンゴム500gにゴム添加剤250gを加え加圧ニーダーで10分混練した後、上記の芳香族ポリアミド短繊維200gを加えさらに加圧ニーダーで15分混練した。
この芳香族ポリアミド繊維混練ゴムに20gの酸化亜鉛と10gの酸化マグネシウムを加硫剤として添加しオープンロールで10分混練した後、厚み1.5mmのゴムシートを得た。得られたゴムシート中の繊維はローラー進行方向に配向していた。本ゴムシートを20枚積層した積層体を繊維垂直方向に40mm間隔でカットしたゴム複合体を隙間無く並べることによりシート状の複合体を得た。
【0025】
(タイヤの作成)
タイヤは、剛性コアの外面上にカーカスコード延在させ、該カーカスの両端部をビードコアの周りで折り返し、次いで該カーカスのクラウン部の外周上に、内外二層のスチールコード層よりなるベルトを配設することでベルト補強層を配設した後、サイドゴム、トレッドゴムを配置して生タイヤを成形した。
この生タイヤのトレッドゴムに前記のゴム複合体を用いた。生タイヤを所定のモールド中で加硫することにより、タイヤを得た。
得られたタイヤ最外層のトレッド部ゴム複合体中のゴム複合体厚さ方向に対して垂直に配向している芳香族ポリアミド繊維の本数は1mmあたり220本であった。該タイヤの評価結果を表1にまとめた。
【0026】
[比較例1]
酸化鉄の平均粒径が15μmであること以外は実施例1と同様にしてタイヤを得た。評価結果は表1にまとめた。
【0027】
[比較例2]
酸化鉄の添加量が3重量%であること以外は実施例1と同様にしてタイヤを得た。評価結果は表1にまとめた。
【0028】
[比較例3]
酸化鉄の添加量が55重量%であること以外は実施例1と同様にしてタイヤを得た。評価結果は表1にまとめた。
【0029】
[比較例4]
芳香族ポリアミド繊維の添加量が100gであること以外は実施例1と同様にしてタイヤを得た。評価結果は表1にまとめた。
【0030】
[比較例5]
芳香族ポリアミド繊維の添加量が700gであること以外は実施例1と同様にしてタイヤを得た。評価結果は表1にまとめた。
【0031】
[比較例6]
ゴムシートの厚みが3mmであること以外は実施例1と同様にしてタイヤを得た。評価結果は表1にまとめた。
【0032】
[比較例7]
芳香族ポリアミド繊維を加えなかったこと以外は実施例1と同様にしてタイヤを得た。評価結果は表1にまとめた。
【0033】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のゴム複合体は、摩擦係数が高く、且つ耐摩耗性に優れており、かかる性能を必要とするタイヤ、ベルト等のゴム資材に広く用いることができる。特に、上記ゴム複合体を用いた本発明のタイヤは、上記特性を備え雪面等で性能を遺憾なく発揮する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維とゴムからなるシート状ゴム複合体の多層積層体であって、下記要件を満足することを特徴とするゴム複合体。
a)平均粒径0.5〜10μmの無機粒子を5〜50重量%含有する芳香族ポリアミド短繊維を含有すること。
b)厚さが2〜200mmであり、厚さ方向に対して85°〜95°の角度で配向している芳香族ポリアミド短繊維の本数が50〜500本/mmであること。
【請求項2】
請求項1記載のゴム複合体を用いたタイヤ。

【公開番号】特開2012−153778(P2012−153778A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13043(P2011−13043)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】