説明

ゴム試験片への切込み形成装置

【課題】ゴム試験片への切込み形成精度を常に確実に高めることができ、ひいては、接着強度等の物性の測定結果に対する信頼性を大きく向上させることができる、ゴム試験片への切込み形成装置を提供する。
【解決手段】短冊状のゴム試験片を平坦姿勢で載置する試料台4を設けるとともに、ゴム試験片の各側部への切込み形成用のカッター7,8を、ゴム試験片の厚み方向の所定位置に保持する一対の刃物台5,6を、試料台4の各側部に配設し、試料台4と、一対の刃物台5,6とをゴム試験片の長さ方向に相対変位可能としてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、加硫ゴム部材の剥離試験その他の物性試験に供される、短冊状をなす加硫ゴム試験片の側部への切込み形成装置に関するものであり、とくには、切込みの形成位置精度および、深さ精度等を十分に高めて、物性試験の信頼性の大きな向上を可能とする技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、加硫ゴム部材の、異種ゴム同士もしくは同種ゴム同士の接着強度を測定するときは、加硫ゴム試験片の接着界面に、ガイドと称される規定深さの切込みを形成した状態でその測定を行う必要があり、この場合の切込みは、所期した通りの位置に、所定の深さで正確に形成することが必要である。
【0003】
しかるに従来は、この種の切込みを、万力等で挟持した加硫ゴム試験片に対し、作業者が、ナイフ、カッター等を用いて手作業で形成することとしていたため、試験片の所要の厚み方向位置に所定の深さの切込みを、高い精度をもって常に確実に形成することが甚だ困難であり、これがため、その試験片を用いた測定結果には必然的に大きなばらつきが含まれることになり、測定結果に対する信頼性も自と低いものになるという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、従来技術が抱えるこのような問題点を解決することを課題とするものであり、それの目的とするところは、ゴム試験片への切込み形成精度を常に確実に高めることができ、ひいては、接着強度等の物性の測定結果に対する信頼性を大きく向上させることができる、ゴム試験片への切込み形成装置を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の、ゴム試験片への切込み形成装置は、短冊状の加硫済みゴム試験片を平坦姿勢で載置する試料台を設けるとともに、そのゴム試験片の各側部への切込み形成用のカッター、たとえば、水平面内で回動する回転刃カッターもしくは固定はカッターを、ゴム試験片の厚み方向の所定位置に保持する一対の刃物台を、試料台の各側部に配設し、試料台と、一対の刃物台とをゴム試験片の長さ方向に、駆動手段の作用の下で、または、手動操作によって相対変位可能としてなるものである。
【0006】
この場合の相対変位は、試料台および、一対の刃物台の少なくとも一方を、試料台に載置されるゴム試料片の長さ方向に移動可能とすることによって実現することができる。
【0007】
このような装置においてより好ましくは、ゴム試験片を試料台上に、たとえば、それの全体にわたって、もしくは部分的に位置決め保持して拘束する、たとえば蓋様の試料押えを設け、また好ましくは、この試料押えの上面レベルを、たとえば、刃物台に近接した位置で特定するガイドローラ、すなわち、水平軸線の周りで回転するガイドローラを設ける。
【0008】
そしてまた、一対の刃物台もしくは試料台の昇降機構部を設けること、各刃物台、ひいては、刃物台に保持したカッターの、試料台に対する進退機構部を設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
この発明の切込み形成装置では、試料台上に平坦姿勢で載置した短冊状ゴム試験片を、一対の刃物台のそれぞれのカッターに対し、試料台と刃物台との相対変位によってゴム試験片の長さ方向に変位させることにより、カッターの予め選択された高さ位置に基いて、ゴム試験片の厚さ方向の所定の位置に、常に確実に切込みを形成することができ、また、それらのカッターの、試料台側への、予め選択された突出量に基いて、ゴム試料片の両側部に、所要に応じた一定深さの切込みを、常に高い精度で形成することができ、このようにして形成される切込みの、ゴム試験片の厚さ方向位置、および深さのそれぞれを、切込みを形成される全てのゴム試験片について、高い精度をもってほぼ一定とすることができるので、それらの試験片を用いた、たとえば接着強度の測定結果を、ばらつきのない、信頼性の十分高いものとすることができる。
【0010】
ところで、試料台と、一対の刃物台との、ゴム試験片の長さ方向への相対変位は、それらのいずれか一方のみを、ゴム試験片の長さ方向に移動可能とした場合、および、それらの両者をともに移動可能とした場合のいずれにおいても、同等の精度の下で実現可能であるが、前者によれば、装置の構造を簡素化できる利点がある。
【0011】
またここで、ゴム試験片を試料台上に位置決め保持する試料押えを設けた場合は、ゴム試験片の、カッターからの逃げ変形等の、意図しない変形を防止して、切込みの形成精度を一層高めることができる。従ってこの場合は、試料押えを、ゴム試験片の全体にわたって位置決め保持するものとすることが、切込み形成精度をより高める上で好ましい。
【0012】
そしてまた、このような蓋様の試料押えの上面レベルを特定する水平なガイドローラを、たとえば、刃物台に近接させて設けたときは、ガイドローラによる、試料押えの拘束下で、上述したような試料押えの作用と相俟って、カッターによる切込みの形成精度をより一層高めることができる。
【0013】
ここで、一対の刃物台もしくは試料台の昇降機構部を設けたときは、その昇降機構部の作用下で、ゴム試験片に対する切込みの形成位置を、ゴム試験片の厚み方向に、十分な精度をもって適宜変更することができ、また、カッターを保持する各刃物台の、試料台に対する進退機構部を設けたときは、刃物台、ひいては、そこに保持したカッターの、試料台上のゴム試験片に対する進退位置を所期した通りに調整して、カッターにて形成される切込みの深さを、高い精度でコントロールすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1はこの発明の実施の形態を示す平面図であり、図2は、図1の部分断面側面図である。
図中1はベースプレートを、2は、ベースプレート1の長さ方向の両端、図では左右の両端に立設させて設けた一対のブラケットをそれぞれ示し、これらの一対のブラケット2は、それらに水平に取付けた上下二本の平行ガイドロッド3a,3bを介して、後に詳述する試料台4を、ガイドロッド3a,3bの延在方向へ摺動自在に支持する。
【0015】
また図中5,6はそれぞれ、試料台4の各側部でベースプレート1上に固定配置した一対の刃物台をそれぞれ示し、各刃物台5,6は、カッター7,8、図では水平面内で回動する回転刃カッターを水平姿勢で保持する。
なお、これらのカッター7,8は固定刃カッターに変更できることはもちろんである。
【0016】
ここで、試料台4、図ではガイドロッド3a,3b上での後退姿勢で示す試料台4は、短冊状のゴム試験片を平坦姿勢で載置する窪み部4aをその上面側に有する。
この窪み部4aは、たとえば、幅、長さおよび厚みのそれぞれを、10mm×120mm×5〜7mmとすることができる図示しないゴム試験片に対し、幅、長さおよび深さのそれぞれを、10.2mm×122mm×2.0mmの寸法を有するものとすることができる。
【0017】
ここでより好ましくは、窪み部4a内に平坦姿勢で載置した加硫ゴム試験片に対する位置決め保持をより確実なものとするべく、試料台4の窪み部4aと対応する位置に、図2から明らかなように、窪み部4a内のゴム試験片に対して蓋様に機能する試料押え9を配設する。
【0018】
ところで、窪み部4a内のゴム試験片上にこのような試料押え9を配設してなお、試料台4の、刃物台5,6に対する相対変位に基いて、そのゴム試験片の側部に、刃物台5,6に保持したカッター7,8による切り込みの形成を可能とするためには、試料押え9の配設状態の下でなお、その試料押え9と試料台4との間に、図2に示すような、カッター7,8の進入を許容する隙間を設けることが必要になる。
【0019】
なお、この実施形態の下での、試料台4の、刃物台5,6に対する上記相対変位は、試料台4を、図ではその左端部に設けたノブ10を把握して、ガイドロッド3a,3bの案内下で、位置固定の刃物台5,6に対して図の左方側へ摺動変位させることによって行うことができる。
【0020】
そしてこの場合、より好ましくは、試料押え9の上面に接触して、それの上面レベルを特定する水平なガイドローラ11を、たとえば、刃物台5,6の近傍位置でベースプレート1上に配設し、これにより、ゴム試験片に形成される切込みの、ゴム試験片の厚み方向の位置精度の一層の向上をもたらす。
【0021】
ここで、ベースプレート1に固定配置される刃物台5,6で保持するカッター7,8の高さ方向位置、いいかえれば、試料台4の窪み部4a内に平坦姿勢で載置されるゴム試験片の厚み方向位置の調整は、一対の刃物台5,6もしくは試料台4、図では試料台4を水平変位可能としている都合上、刃物台5,6に昇降機構部を設けて、たとえば、図3に、図2のIII−III線に沿う断面で示すように、調整ノブ12の回動操作に基いて、刃物台5,6の所要の昇降変位をもたらし、カッター7,8が所定の高さ、たとえば、ゴム試験片の厚みの丁度1/2に達したときに、クランプつまみ13によって刃物台5,6の高さを特定することに行うことができる。
【0022】
また、それぞれの刃物台5,6で保持したカッター7,8の、ゴム試験片への切込み深さの調整は、各刃物台5,6の、試料台4に対する図示しない進退機構部の作用の下で、たとえば、刃物台5,6を固定しているボルトをゆるめ、刃物台5,6の横に設置されているスケールを目安としてゴム試験片の幅方向に刃物台5,6を移動させて、カッター刃間隔を調整することによって行うことができる。
【0023】
以上のように構成してなる切込み形成装置をもって、短冊状の加硫ゴム試験片に所要の切込みを形成するに当っては、試料台4上に載置して、試料押え9でそこに拘束されるゴム試験片に対し、刃物台5,6の高さを上述したようにして予め調整して、たとえばカッター7,8を、ゴム試験片の厚みの半分の高さ位置となるようにセットするとともに、そのゴム試験片のそれぞれの側部に対する、カッター7,8の切込み深さを、たとえば、カッター刃間隔を5mmに調整した後、ゴム試験片に切り込みを形成し、10倍の倍率を有するマイクロスコープによって切り込み深さを測定して、切り込み深さが2.5mmから0.25mm以上外れていた場合は再度カッター刃間隔を微調整し、2.5±0.25mmになるまでこの操作を繰り返すことによって調整する。
【0024】
この一方で、試料押え9の上面レベルを、水平なガイドローラ11をもって特定するべく、ガイドローラ11が、試料押え9の上面に丁度接触するように、ベースプレート1に立設させたガイドローラ支柱14の伸縮位置を特定し、その後、試料台4のノブ10を把持して、その試料台4を、そこに位置決め載置したゴム試験片とともに、図1、2の左方側へ変位させる。
【0025】
これらのことによれば、予め高さを調整されるととも、ゴム試験片に対する切込み深さを調整されたそれぞれのカッター7,8により、そのゴム試験片の両側部で、厚み方向の所定位置に所期した通りの深さの切込みが高い精度で常に確実に形成されることになるので、図4に斜視図で例示するような切込みを形成されたその試験片を用いた、接着強度等の物性測定結果に対する信頼性は、従来技術に比して大きく向上することになる。
【実施例】
【0026】
幅が10mm、長さが150mmそして厚さが6mmの加硫ゴム試験片の、厚みの1/2の位置に、2.5mmの深さの切込みを試験片の両側から、図4に例示するように形成する場合の、切込みの形成精度を、カッターナイフを用いた従来技術による場合と、図示の発明装置を用いた場合とのそれぞれについて求めたところ表1に示す結果を得た。
なお表1中の数値は、切込みの深さ、および、切込み位置を10倍の倍率を有するマイクロスコープによって測定することにより求めた。
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示すところによれば、発明装置を用いて切込みを形成する場合は、従来技術に比して、切込み形成精度を大きく高め得ることが明らかであり、この結果として、接着強度等の物性の測定結果に対する信頼性を大きく高め得ることが解かる。
【0029】
以上、試料台4と、刃物台5,6との、ゴム試験片の長さ方向への相対変位を、固定配置した刃物台5,6に対し、試料台4を変位させることによって行う場合について述べたが、同様の相対変位は、固定した試料台4に対して刃物台5,6を変位させることによって行うこともでき、また、それらの両者をともに変位させることによって行うこともできる。
【0030】
なお、このような相対変位置は、ブラケットに設けたガイドロッドによることなく、ベースプレート1上に配設したガイドレール等の作用の下で行われることもできる。
そしてまた、図では刃物台5,6に設けた昇降機構部を試料台4に設けることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明の実施の形態を示す斜視図である。
【図2】図1の部分断面側面図である。
【図3】図2のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】図示の装置で切込みを形成したゴム試験片を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0032】
1 ベースプレート
2 ブラケット
3a,3b ガイドロッド
4 試料台
4a 窪み部
5,6 刃物台
7,8 カッター
9 試料押え
11ガイドローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
短冊状のゴム試験片を平坦姿勢で載置する試料台を設けるとともに、ゴム試験片の各側部への切込み形成用のカッターを、ゴム試験片の厚み方向の所定位置に保持する一対の刃物台を、試料台の各側部に配設し、試料台と、一対の刃物台とをゴム試験片の長さ方向に相対変位可能としてなる、ゴム試験片への切込み形成装置。
【請求項2】
試料台および、一対の刃物台の少なくとも一方を、試料台に載置されるゴム試験片の長さ方向に移動可能としてなる請求項1に記載のゴム試験片への切込み形成装置。
【請求項3】
ゴム試験片を試料台上に位置決め保持する試料押えを設けてなる請求項1もしくは2に記載のゴム試験片への切込み形成装置。
【請求項4】
試料押えの上面レベルを特定するガイドローラを設けてなる請求項3に記載のゴム試験片への切込み形成装置。
【請求項5】
一対の刃物台もしくは試料台の昇降機構部を設けてなる請求項1〜4のいずれかに記載のゴム試験片への切込み形成装置。
【請求項6】
各刃物台の、試料台に対する進退機構部を設けてなる請求項1〜5のいずれかに記載のゴム試験片への切込み形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−54226(P2010−54226A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216764(P2008−216764)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】