ゴルフクラブのシャフト
【課題】ゴルフクラブを使用した際にゴルフクラブの各部位に発生する負荷に基づき、より実際の使用に耐え得る、軽量のゴルフクラブのシャフトを提供する。
【解決手段】ゴルフクラブのシャフト(100)の全長にわたって、繊維強化合成樹脂層の強化繊維が、軸線方向に対して±35度以上±55度以下の傾斜角度で配向されたバイアス層(111)と、軸線方向に配向されたストレート層(112)と、を有し、先側(110)と元側(120)には、それぞれ強化繊維が周方向に配向された先側周方向層(114)と元側周方向層(123)とをさらに有し、先側周方向層(114)の軸線方向の長さは、先端部から元側(120)へ、シャフト(100)の20%以上、50%以下とされ、元側周方向層(123)の軸線方向の長さは、少なくともグリップ(3)の長さとし、先側周方向層(114)と元側周方向層(123)に挟まれた中間部(130)が、全長の30%を超えるものとした。
【解決手段】ゴルフクラブのシャフト(100)の全長にわたって、繊維強化合成樹脂層の強化繊維が、軸線方向に対して±35度以上±55度以下の傾斜角度で配向されたバイアス層(111)と、軸線方向に配向されたストレート層(112)と、を有し、先側(110)と元側(120)には、それぞれ強化繊維が周方向に配向された先側周方向層(114)と元側周方向層(123)とをさらに有し、先側周方向層(114)の軸線方向の長さは、先端部から元側(120)へ、シャフト(100)の20%以上、50%以下とされ、元側周方向層(123)の軸線方向の長さは、少なくともグリップ(3)の長さとし、先側周方向層(114)と元側周方向層(123)に挟まれた中間部(130)が、全長の30%を超えるものとした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の繊維強化合成樹脂層からなるゴルフクラブのシャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
機能を維持しつつ、より扱い易いゴルフクラブを提供するには、ゴルフクラブのシャフトの軽量化が課題の一つとなる。そのため、繊維強化樹脂製のシャフトが広く知られている。すなわち、カーボン繊維、ガラス繊維、ボロン繊維等の強化繊維に合成樹脂を含浸した繊維強化プリプレグからなるシャフトは、従来の金属と比べ、比強度、比剛性に優れるからである。
【0003】
シャフトは、軸芯に対して強化繊維を傾斜方向とした傾斜方向繊維層と、軸芯と平行方向とした軸長方向繊維層と、軸芯に対して強化繊維を周方向とした周方向繊維層とを任意に選択して芯金に巻回し、加熱焼成して形成されるものが一般的である(例えば、特許文献1)。
繊維強化樹脂製のシャフトは、強化繊維の方向や積層条件によって、さらには、シャフトの形状や肉厚によってもシャフトの物性が大きく変化するため、これらの条件等を十分に知った上で、設計、製造等を行う必要がある。
【0004】
例えば、シャフトのつぶし強度を維持しながらシャフトの軽量化を図るために、強化繊維をシャフトの軸方向に対して90度の角度で配向させたフープ層(周方向繊維層)を除いたシャフトの外径と、その部分におけるフープ層を除いたシャフトの肉厚との関係が、外径/肉厚≧14.0となる範囲にのみフープ層を形成させる技術が知られている(例えば、特許文献1)。この技術は、外径と肉厚との関係を規定して、一定以上径が大きく、肉厚が薄くなる部分は、構造的に潰れやすくなるため、局所的に周方向繊維層で補強するものである。
【特許文献1】特開2004−57673号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、通常、シャフトの各部位に要求されるつぶし強度は、繊維強化プリプレグの繊維の方向、種類、層数、等の繊維強化層の積層条件や実際の使用条件などによって変化する。したがって、前記した従来技術のように外径と肉厚との関係だけを特定した場合には、前記した種々の条件を考慮したとき、必要な強度を維持しつつ、軽量化を図ることは困難な場合があった。
【0006】
すなわち、前記した周方向繊維層の巻回を外径と肉厚との関係のみで限定した場合(例えば、特許文献1)、周方向繊維層が巻回されるシャフトの軸線方向位置や、プレーヤーの個人差があるゴルフクラブとして使用される条件等によっては、破損等を防止するために必要な強度を維持しようとすると、重量が増大するおそれがあった。
【0007】
本発明は、ゴルフクラブを使用した際にゴルフクラブの各部位に発生する負荷に基づき、実際の使用に耐え得る、軽量のゴルフクラブシャフトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、先端部にクラブヘッドが備えられる先側と、グリップが配設される元側と、を備え、前記先側から前記元側へ外径を漸次拡大させた複数の繊維強化合成樹脂層からなるシャフトを備えたゴルフクラブであって、前記シャフトの全長にわたって、前記繊維強化合成樹脂層の強化繊維が、軸線方向に対して±35度以上±55度以下の傾斜角度で配向されたバイアス層と、前記繊維強化合成樹脂層の強化繊維が、軸線方向に配向されたストレート層と、を有し、前記先側と前記元側には、それぞれ前記強化繊維が周方向に配向された先側周方向層と元側周方向層とをさらに有し、前記先側周方向層の軸線方向の長さは、前記先端部から前記元側へ、前記シャフトの全長の20%以上、50%以下とされ、前記元側周方向層の軸線方向の長さは、少なくとも前記グリップの長さとし、前記先側周方向層と前記元側周方向層に挟まれた中間部が、全長の30%を超える長さとすることを特徴としている。
【0009】
かかる構成により、曲げ強度、捩り強度、つぶし(圧壊)強度を効率良く補強でき、軽量、高強度のシャフトにできる。
また、シャフトの元側は、使用中にグリップ部に異常なつぶし負荷が作用しても破損を防止でき、シャフトの先側はスイング中にヘッド近傍が大きく撓んでも破損を防止できるので、強度の向上、安定化が図れる。そして、周方向層は必要な部分にのみ備えるので、究極の軽量化と強度の向上、安定化が図れる。シャフトの中間部は、曲げ応力に対して強化繊維の伸縮とシャフト断面の変形を許容できるので、ゴルフクラブがスイングされるとき、シャフトの曲がりの極大点が相対的に先側から中間部分へ移動し易くなるとともに、キックポイント部分に十分なしなりと粘りを得ることができ、タメの効くスイングし易いゴルフクラブのシャフトとなる。
【0010】
ここで、キックポイントとは、ゴルフクラブのシャフトを評価する上で一般的に使われるものであり、以下のように定義される。
すなわち、キックポイントは、シャフトの一端から他端側へ、他端から一端側へ同時に圧縮力を作用させてシャフトを撓ませたときに、シャフトの一端と他端とを直線で結んだ線を基準ラインとし、撓んだシャフトの軸線のカーブをシャフトラインとすると、この基準ラインに対して、シャフトラインの最も離れた頂点位置をいう。なお、キックポイントの測定においては、両端から圧縮力を作用させてシャフトを撓ませ、基準ラインとシャフトラインとの距離が、最大5cmに達したときの頂点位置をキックポイントとしている。
【0011】
前記構成に加えて、前記中間部で、かつ、キックポイントから前記元側寄りに、前記元側から前記先側へ前記シャフトの外径が円錐状に縮小する急テーパ部を備え、前記急テーパ部の軸線方向の先側または/および元側に他のテーパ部を備えたとき、急テーパ部のテーパは、他のテーパ部と比べて大きいものとすることが好ましい。
【0012】
かかる構成により、シャフト中間部の径の小さい範囲を長くして、しなり易い範囲を拡大できるので、つぶし強度の安定化が図れるとともに、スイング中のヘッドの返りを円滑にでき、スイング操作し易いゴルフクラブのシャフトとなる。
【0013】
前記構成に加えて、前記先側は、内周側に前記バイアス層と、外周側に前記ストレート層と、前記バイアス層と前記ストレート層との間、もしくは、複数ある前記ストレート層の間に前記先側周方向層と、を備え、前記元側は、内周側に前記バイアス層と、外周側に前記ストレート層と、最外周側のストレート層の内周側に隣接した前記元側周方向層と、を備えることが好ましい。
【0014】
かかる構成により、先側周方向層は、バイアス層とストレート層の間、もしくは、複数あるストレート層の間に巻回されるので、実質的にストレート層を外層側に集中することによって曲げ剛性の最大化を図りつつ、つぶし強度を向上することができる。さらには、バイアス層と周方向層(先側周方向層)とストレート層という異なる繊維方向層を、ある範囲内に集中することで、各方向の繊維を強固に固定でき、打球時の衝撃的なねじり負荷に対し、安定的な強度を得ることができる。
また、元側周方向層は、ストレート層の最外層の内側に巻回されるので、周方向層の繊維の蛇行や表面研磨時の繊維の切断をきたすことを防止でき、少ない繊維量で最大限のつぶしに対する補強効果を得ることができる。したがって、1本のシャフトの各部位に要求される軽量化と強度向上とを図ることができるゴルフクラブのシャフトとなる。
【0015】
前記構成に加えて、前記先側周方向層と前記元側周方向層は、前記バイアス層および前記ストレート層よりも肉厚が薄く、かつ、合成樹脂含浸量が前記バイアス層および前記ストレート層よりも多いプリプレグシートによって単層もしくは2層未満で巻回されることで形成されることが好ましい。
【0016】
かかる構成により、先側周方向層と元側周方向層の肉厚は最小の補強量とされ、これらの層の合成樹脂含浸量は、他の層より多く、かつ、異なる繊維方向に配向されることによって、剥離が防止されるので、より一層の軽量化と強度の向上、安定化が図れるゴルフクラブのシャフトとなる。
【発明の効果】
【0017】
このようなゴルフクラブのシャフトの構成によれば、ゴルフクラブを使用した際にゴルフクラブの各部位に発生する負荷に基づき、実際の使用に耐え得る、軽量のゴルフクラブシャフトを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係るゴルフクラブのシャフトについて、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るシャフトを備えたゴルフクラブ1の外観側面図である。ゴルフクラブ1は、後記する複数の繊維強化合成樹脂層から構成された中空部を有する管状のシャフト100と、このシャフト100の一端に取り付けられたヘッド2と、他端側に配設されたグリップ3とから構成される。
シャフト100は、ヘッド2が備えられた一端側を先側110とし、グリップ3が配設される他端側を元側120とすると、先側110から元側120へ外径を漸次拡大させており、後記するように複数のテーパを複合した形状となっている。
【0019】
先側110と元側120との間には中間部130があり、中間部130には、ゴルフクラブ1の重心Gが位置している。本実施形態は、プレーヤーがゴルフクラブをスイングするとき、シャフト100の曲がりの極大となるキックポイントKPは、重心Gの近傍で、ヘッド2寄りに位置するようにしている。
【0020】
次に、本実施形態に係るシャフト100の各部位について、図面を参照して説明する。図2は図1のAに示す先側110の拡大断面図であり、図3は図1のBに示す元側120の拡大断面図であり、図4は図1のCに示す中間部130の拡大断面図である。
以下図2〜図4を参照して、それぞれの部位を説明するが、後記するバイアス層111とストレート層112は、シャフト100の全長にわたって積層されている。
【0021】
先側110は、図2に示すように、最も内周側(軸線Xに近い側)に先側110の高負荷を補強するためのストレート層113と、ストレート層113と隣接する外周側にバイアス層111と、最も外周側にストレート層112と、バイアス層111とストレート層112との間に積層された先側周方向層114と、から構成されている。
ここで、バイアス層111は、強化繊維が軸線X方向に対して±35度以上±55度以下の傾斜角度で配向された繊維強化合成樹脂層であり、ストレート層112,113は強化繊維が軸線X方向に配向された繊維強化合成樹脂層であり、先側周方向層114は強化繊維が周方向に配向された繊維強化合成樹脂層である。
【0022】
なお、図2〜4に示された各合成樹脂層の積層数は、概略の構成を示す一例であり、図の層数に限定されず、負荷条件や使用する材料等によって適宜設定される。本実施形態では、シャフト全長にわたって積層されたストレート層112に加え、局所的に先側を補強するストレート層113を備えている。また、先側周方向層114は、ストレート層112,113間に積層することもできる。
【0023】
ストレート層112,113の強化繊維の配向は軸線X方向に対しておおよそ0度〜±10度の範囲、先側周方向層114の強化繊維の配向は軸線X方向に対しておおよそ90度±10度の範囲であればよい。
【0024】
強化繊維は、一般に高性能強化繊維として用いられるカーボン繊維、ガラス繊維、ボロン繊維等の繊維を適用できるが、軽量で高強度であることからカーボン繊維が好ましい。また、連続繊維が好ましく、繊維の配置形態等は適宜設定可能であるが、単一方向、シート状としたプリプレグの形態が好ましい。
【0025】
先側周方向層114が備えられる範囲HAは、図1に示すようにヘッド2の固定位置を含むシャフトの先側から全長Lの20%以上、50%以下の長さにわたっている。かかる構成によって、スイング中にヘッド2の近傍が大きく撓んでも破損を防止できるので、強度の向上、安定化を図ることができる。
【0026】
元側120は、図3に示すように、最も内周側のバイアス層111と、最も外周側のストレート層112aと、ストレート層112aの内周側のストレート層121bと、ストレート層121aとストレート層121bとの間の元側周方向層123と、から構成されている。バイアス層111、ストレート層122および元側周方向層123における強化繊維の配向は、前記した先側と同様である。また、ストレート層は、先側110のストレート層と同様に、シャフト全長にわたった繊維強化合成樹脂層であるストレート層112と、負荷条件、材料特性等によって積層されるストレート層122が積層されている。
【0027】
なお、元側周方向層123は、グリップ3が配設されている部分(図1の元側120の破線部分)と、グリップ3の一端部から先側110へ150mm以内の範囲GAとすることが好ましいが、これに限定されない。
かかる構成により、元側120は、使用中に異常なつぶし負荷が作用しても破損を防止でき、強度の向上、安定化が図れる。そして、周方向層は必要な部分にのみ巻回するので、究極の軽量化と強度の向上、安定化が図れる。
【0028】
また、元側周方向層123は、最外周側のストレート層112aの内周側に積層、巻回されたので、周方向層の繊維の蛇行や表面研磨時の繊維の切断をきたすことを防止でき、少ない繊維量で最大限のつぶし補強効果を得ることができる。したがって、1本のシャフト100の各部位に要求される軽量化と強度向上とを図ったゴルフクラブにできる。
【0029】
中間部130は、先側周方向層114と元側周方向層123に挟まれたシャフト100の軸線X方向の部分であり、図4(a)に示すように、先側110や元側120と異なり、周方向層を有さず、バイアス層111とストレート層112とで構成されている。ここで中間部は、全長の30%を超えるものとしている。
かかる構成によって、曲げ応力に対して強化繊維の伸縮とシャフト断面の変形を許容できるので、キックポイントKP(図1参照)を相対的に先部から中間部分へ移動し易くなるとともにキックポイントKP部分に十分なしなり(撓り)と粘りを得ることができ、タメの効く、スイングし易いゴルフクラブにできる。
【0030】
シャフト100は、前記したように先側110から元側120へ外径を漸次拡大させており(図1参照)、後記するように複数のテーパを複合した形状も適用されている。中間部130は、図4(b)に示すように、キックポイントKPから元側120寄りに急テーパ部STが形成されている。急テーパ部STは、その軸心X方向の先側110にあるテーパ部T1,元側120にあるテーパ部T2と比べ、大きなテーパを有するように形成されている。言い換えれば、テーパ部T1とテーパ部T2との間を大きなテーパである急テーパ部STで接続している。
【0031】
本実施形態では、テーパ部T1のテーパが5/1000以下、テーパ部T2のテーパが3/1000以下であるとき、急テーパ部STのテーパは、25/1000以上、好ましくは、30/1000以上としている。すなわち、急テーパ部STとその前後のテーパ部T1,T2の差は、15/1000以上、好ましくは、20/1000以上としている。なお、ヘッド2とグリップ3が取り付けられるシャフト100の全長にわたる強度的な観点から、急テーパ部STとその前後のテーパ部T1,T2の差は、55/1000以下とすることが好ましい。しかしながら、これらの諸元は負荷条件、材料特性、使用条件等から設定されるものであり、前記した数値に限定されないことは言うまでもない。
【0032】
かかる構成により、シャフト中間部の径の小さい範囲を長くして、シャフト中間部30のしなり易い範囲を拡大できるので、つぶし強度の安定化が図れるとともに、スイング中のヘッド2の返りを円滑にでき、スイング操作し易いゴルフクラブとなる。
【0033】
次に、バイアス層、ストレート層、周方向層に適用される好ましいプリプレグについて説明する。
プリプレグは、強化繊維と、合成樹脂と、で構成され、複数の強化繊維を並べた上で合成樹脂を含浸させたものであり、その後の処理によって、樹脂が硬化させられることによって繊維強化合成樹脂となる。
【0034】
本実施形態ではバイアス層、ストレート層、周方向層に強化繊維として、高強度かつ軽量であることから炭素繊維を使用しているが、ガラス繊維、ボロン繊維等も使用することができる。この炭素繊維の物理特性の一例を挙げると、引張弾性率は、54GPa〜588GPaで、強度は、1100MPa〜3820MPaである。
【0035】
強化繊維に含浸される合成樹脂としては、強度に優れる熱硬化樹脂であるエポキシ樹脂を使用しているが、条件によっては、フェノール樹脂やフラン樹脂、もしくは熱可塑性樹脂なども使用することができる。
合成樹脂含浸量は、バイアス層およびストレート層では、15〜35wt%(重量%)が好ましく、より好ましくは20〜30wt%であり、周方向層の合成樹脂含浸量は、30〜60wt%が好ましく、より好ましくは34〜56wt%である。
かかる構成により、周方向層の肉厚は、最小の補強量とし、樹脂含浸量は、他の本体層より多くして異なる繊維方向による剥離を防止したので、より一層の軽量化と強度の向上、安定化が図れるゴルフクラブにできる。
【0036】
次に、図を参照して本実施形態に係るプリプレグの積層構成(裁断形状)の一実施例を説明する。図5は、積層構成を表し、バイアス層、ストレート層、先側周方向層、元側周方向層に適用されるプリプレグの裁断形状を表している。また、以下の説明では、図1を適宜参照する。
シャフト100は、これらのプリプレグを使用して、シートワインディング製法により作製されており、図5(b)〜(h)に示した裁断されたプリプレグの順で、順次内周側から図5(a)の芯金150に巻回して積層する。そして、加熱・加圧して合成樹脂を硬化させ、一体的に成形した後、芯金150を引き抜き、シャフト100が成形される。
【0037】
ここで、図5(b)〜(h)の図中の細線は、強化繊維の配向を示している。また、以下の説明では、成形された樹脂層ではなくプリプレグを対象とするため、前記した図1〜図4の各層と名称は同じ、もしくは近いものであっても、参照番号は変更している。
【0038】
芯金150は、図5(a)に示すように、ヘッド2が取り付けられる先側151を小径として、グリップ3が配設される元側152を大径とするように、径が先側151から元側152へ漸次拡大するテーパ部153を備える。芯金150の形状は、強化繊維合成樹脂層の厚さを考慮して、最終的なシャフトの最終形状を形成できるように設定されている。
なお、テーパ部は、前記したように急テーパ部STやテーパ部T1,T2(図4参照)を有するものもあるが、図5(a)は、これらの複数のテーパ部を有さない一実施例である。
【0039】
補強層160は、図5(b)に示すように、ヘッド2が取り付けられる先側151を補強する狭い幅のストレート層であり、芯金150に積層、巻回している。
ヘッド2は、ゴルフクラブ1がスイングされるとき、最も大きな速度となり、その近傍のシャフト100の負荷は高くなる。そのため、先側151の近傍はスイング中にヘッド近傍が大きく撓んでも破損を防止するべく、曲げ強度、捩り強度を補強層160によって、局所的な補強を図っている。
【0040】
バイアス層161は、図5(c)に示すように、シャフト100のテーパ形状に応じて、元側152の方が幅広い形状となっており、シャフト100の全長にわたって積層、巻回されている。本実施例では、強化繊維の配向を相互に異ならせた2枚のバイアス層161,161を、前記した補強層160の上から順に積層、巻回している。したがって、2枚のバイアス層161,161の強化繊維の配向は、交差状となる。また、図5(c)に示すように、2枚のバイアス層161,161は、周方向にずらして積層、巻回されることによって、プリプレグの端部における重なりをなくし、偏肉状態となることを防止している。
【0041】
先側周方向層162は、図5(d)に示すように、補強層160よりも幅広く、先側151をカバーするように、周方向層が積層、巻回されている。先側151は、前記したように、プレーヤーがゴルフクラブをスイング中、スイング軌道の最遠点にあるヘッド2によって、大きな、かつ、種々の方向(引張、ねじり、曲げ等)の負荷が発生する。本実施例では、このように、先側周方向層162が、必要な部分にのみ積層、巻回されるので、究極の軽量化と強度の向上、安定化が図れる。
また、先側周方向層162は、バイアス層161と後記する第1ストレート層163(図5(e)参照)との間に巻回したので、実質的にストレート層を外層側に集中し、曲げ剛性の最大化を図りつつつぶし強度を向上できる。
【0042】
第1ストレート層163は、図5(e)に示すように、シャフト100のテーパ形状に応じて、元側152の方が幅広い形状となっており、シャフト100の全長にわたって積層、巻回されている。本実施例では、2枚の第1ストレート層163,163を、前記したバイアス層161と先側周方向層162の上から順に積層、巻回している。
【0043】
前記したバイアス層161と、後記する第2ストレート層165と、この第1ストレート層163は、シャフト100の中間部130を形成する。かかる構成によって、シャフト100の中間部130は、曲げ応力に対して強化繊維の伸縮とシャフト断面の変形を許容できるので、キックポイントKPを相対的に先部から中間部分へ移動し易くなるとともにキックポイントKP部分に十分なしなり(撓り)と粘りを得ることができ、タメの効くスイングし易いゴルフクラブにできる。
【0044】
元側周方向層164は、図5(f)に示すように、元側152をカバーするように、第1ストレート層163の上から周方向層が積層、巻回されている。元側152は、グリップ3に該当する部分であり、プレーヤーがゴルフクラブ1をスイング中に強く握られる部分となる。
かかる構成によって、使用中にグリップ3に異常なつぶし負荷が作用しても破損を防止できるので、強度の向上、安定化が図れる。そして、周方向層は必要な部分にのみ巻回するので、究極の軽量化と強度の向上、安定化が図れる。
【0045】
元側周方向層164は、後記するシャフト100の最外周に積層、巻回される第2ストレート層(図5(g)参照)と隣接した内周側に積層、巻回されている。
元側周方向層164の軸線X方向の先側151の端面は、傾斜状に形成されることが好ましい。シャフト100が急激な強度分布となるのを回避するためである。
かかる構成により、後に取り付けられるグリップ3と元側周方向層164とが当接することを回避でき、周方向層の繊維の蛇行や表面研磨時の繊維の切断をきたすことが防止され、少ない繊維量で最大限のつぶし補強効果を得ることができる。したがって、1本のシャフトの各部位に要求される軽量化と強度向上とを図ったゴルフクラブにできる。
【0046】
第2ストレート層165は、図5(g)に示すように、シャフト100のテーパ形状に応じて、元側152の方が幅広い形状となっており、シャフト100の全長にわたって、第1ストレート層163と元側周方向層164の上から積層、巻回されている。第2ストレート層165の機能は、前記した第1ストレート層163と同様であるため、説明は省略する。
【0047】
補強層166は、図5(h)に示すように、グリップ3が環設される元側152を補強する狭い幅のストレート層であり、第2ストレート層165の上から積層、巻回している。
グリップ3は、前記したようにゴルフクラブ1がスイングされるとき、中間部130とは異なり、つぶし負荷が加わる。このような高い負荷に対して、局所的な補強を図っている。
【0048】
[第2実施形態]
次に、図を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。図6は、積層構成を表し、バイアス層、ストレート層、先側周方向層、元側周方向層に適用されるプリプレグの裁断形状を表している。なお、第1実施形態と重複する構成については省略し、差異のある部分について説明する。また、以下の説明では、図1を適宜参照する。
【0049】
本実施形態のシャフトは、これらのプリプレグを使用して、シートワインディング製法により作製されており、図6(b)〜(i)に示した裁断されたプリプレグの順で、順次内周側から図6(a)の芯金250に巻回して積層する。そして、加熱・加圧して合成樹脂を硬化させ、一体的に成形した後、芯金250を引き抜き、シャフトが成形される。
なお、図6(b)〜(i)の図中の細線は、図5と同様に、強化繊維の配向を示している。
【0050】
芯金250は、図6(a)に示すように、ヘッド2が取り付けられる先側251を小径として、グリップ3が配設される元側252を大径とするように、径が先側251から元側252へ漸次拡大しており、先側251から順に第1緩テーパ部MT1、第2緩テーパ部MT2、急テーパ部ST1、第3緩テーパ部MT3、ストレート部ETを備える。なお、芯金250の形状は、強化繊維合成樹脂層の厚さを考慮して、最終的なシャフトの最終形状を形成できるように設定されている。
ここで、それぞれのテーパ部は、シャフトが成形された段階で、前記したテーパ部TP1,TP2が、それぞれ第2緩テーパ部MT2、第3緩テーパ部MT3に相当し、急テーパ部STが、急テーパ部ST1に相当する(図4も併せて参照)。
【0051】
図5と図6とを比べて分かるように、図5(b)と図6(b)の補強層160、図5(d)と図6(d)の先側周方向層162、図5(h)と図6(i)の補強層166は、同形状で同機能を有する部位であるため説明を省略する。
【0052】
バイアス層261は、図6(c)に示すように、シャフト200のテーパ形状に応じて第2緩テーパ部MT2、急テーパ部ST1および第3緩テーパ部MT3に合わせた、元側152の方が幅広い形状となっており、シャフトの全長にわたって積層、巻回されている。
第1緩テーパ部MT1については、補強層160が内周側に積層、巻回されるため、またストレート部ETについては、第3緩テーパ部MT3からの変化が小さいため、図6(c)では、形状を変化させていないが、実際の製造に当たっては、これらの形状等も考慮してもよい。
【0053】
本実施例では、第1実施形態と同様に、強化繊維の配向を相互に異ならせた2枚のバイアス層261,261を、前記した補強層160の上から順に積層、巻回している。したがって、2枚のバイアス層261,261の強化繊維の配向は、交差状となる。また、図6(c)に示すように、2枚のバイアス層261,261は、周方向にずらして積層、巻回されることによって、プリプレグの端部における重なりをなくし、偏肉状態となることを防止している。
【0054】
調整ストレート層267は、図6(e)に示すように、先側周方向層162の軸線X方向の元側の端面に一部重なる重複部Eを有するように、バイアス層261と先側周方向層162の上から積層、巻回されている。調整ストレート層267は、急テーパ部ST1の形状に対応して備えられるものであり、例えば、破線で示す切り込みDを入れることによって、強化繊維の蛇行を防止することもできる。
【0055】
第1ストレート層263は、図5(f)に示すように、シャフトのテーパ形状に応じて第2緩テーパ部MT2、急テーパ部ST1および第3緩テーパ部MT3に合わせた、元側152の方が幅広い形状となっており、シャフトの全長にわたって、先側周方向層162と調整ストレート層267の上から積層、巻回されている。
第1緩テーパ部MT1については、補強層160が内周側に積層、巻回されるため、またストレート部ETについては、第3緩テーパ部MT3からの変化が小さいため、図6では、形状を変化させていないが、実際の製造に当たっては、これらの形状等も考慮してもよい。
なお、前記した調整ストレート層267(図6(e))の切り込みDは、第1ストレート層263に適用することもできる。
【0056】
元側周方向層264は、図6(g)に示すように、後記するシャフトの最外周に積層、巻回される第2ストレート層(図6(h)参照)と隣接した内周側に積層、巻回されている。
元側周方向層264の軸線X方向の先側251の端面は、第1実施形態と異なり、直線状に形成されている。これは、他の層によって、層厚の調整が図られているためであり、第1実施形態のように傾斜状に形成してもよい。
かかる構成により、後に取り付けられるグリップ3と元側周方向層264とが当接することを回避でき、周方向層の繊維の蛇行や表面研磨時の繊維の切断をきたすことが防止され、少ない繊維量で最大限のつぶし補強効果を得ることができる。したがって、1本のシャフトの各部位に要求される軽量化と強度向上とを図ったゴルフクラブにできる。
【0057】
第2ストレート層265は、図6(h)に示すように、シャフトのテーパ形状に応じて第2緩テーパ部MT2、急テーパ部ST1および第3緩テーパ部MT3に合わせた、元側152の方が幅広い形状となっており、シャフトの全長にわたって、第1ストレート層163と元側周方向層164の上から積層、巻回されている。第2ストレート層の機能は、前記した第1ストレート層163と同様であるため、説明は省略する。
【0058】
以上、好ましい実施の形態について説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱することのない範囲内において適宜の変更が可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1実施形態に係るシャフトを備えたゴルフクラブの外観側面図である。
【図2】図1の一点鎖線で囲った範囲Aに示す先側の拡大部分断面図である。
【図3】図1の一点鎖線で囲った範囲Bに示す元側の拡大部分断面図である。
【図4】図1の一点鎖線で囲った範囲Cに示す中間部の拡大部分断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係るシャフトのプリプレグ積層構成を表し、(a)は芯金を、(b)〜(h)はバイアス層、ストレート層、先側周方向層、元側周方向層に適用されるプリプレグの裁断形状を表している。
【図6】本発明の第2実施形態に係るシャフトのプリプレグ積層構成を表し、(a)は芯金を、(b)〜(i)はバイアス層、ストレート層、先側周方向層、元側周方向層に適用されるプリプレグの裁断形状を表している。
【符号の説明】
【0060】
1 ゴルフクラブ
2 ヘッド
3 グリップ
100 シャフト
110 先側
111 バイアス層
112,113,122 ストレート層
114 先側周方向層
120 元側
123 元側周方向層
130 中間部
150 芯金
KP キックポイント
ST 急テーパ部
T1,T2 テーパ部
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の繊維強化合成樹脂層からなるゴルフクラブのシャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
機能を維持しつつ、より扱い易いゴルフクラブを提供するには、ゴルフクラブのシャフトの軽量化が課題の一つとなる。そのため、繊維強化樹脂製のシャフトが広く知られている。すなわち、カーボン繊維、ガラス繊維、ボロン繊維等の強化繊維に合成樹脂を含浸した繊維強化プリプレグからなるシャフトは、従来の金属と比べ、比強度、比剛性に優れるからである。
【0003】
シャフトは、軸芯に対して強化繊維を傾斜方向とした傾斜方向繊維層と、軸芯と平行方向とした軸長方向繊維層と、軸芯に対して強化繊維を周方向とした周方向繊維層とを任意に選択して芯金に巻回し、加熱焼成して形成されるものが一般的である(例えば、特許文献1)。
繊維強化樹脂製のシャフトは、強化繊維の方向や積層条件によって、さらには、シャフトの形状や肉厚によってもシャフトの物性が大きく変化するため、これらの条件等を十分に知った上で、設計、製造等を行う必要がある。
【0004】
例えば、シャフトのつぶし強度を維持しながらシャフトの軽量化を図るために、強化繊維をシャフトの軸方向に対して90度の角度で配向させたフープ層(周方向繊維層)を除いたシャフトの外径と、その部分におけるフープ層を除いたシャフトの肉厚との関係が、外径/肉厚≧14.0となる範囲にのみフープ層を形成させる技術が知られている(例えば、特許文献1)。この技術は、外径と肉厚との関係を規定して、一定以上径が大きく、肉厚が薄くなる部分は、構造的に潰れやすくなるため、局所的に周方向繊維層で補強するものである。
【特許文献1】特開2004−57673号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、通常、シャフトの各部位に要求されるつぶし強度は、繊維強化プリプレグの繊維の方向、種類、層数、等の繊維強化層の積層条件や実際の使用条件などによって変化する。したがって、前記した従来技術のように外径と肉厚との関係だけを特定した場合には、前記した種々の条件を考慮したとき、必要な強度を維持しつつ、軽量化を図ることは困難な場合があった。
【0006】
すなわち、前記した周方向繊維層の巻回を外径と肉厚との関係のみで限定した場合(例えば、特許文献1)、周方向繊維層が巻回されるシャフトの軸線方向位置や、プレーヤーの個人差があるゴルフクラブとして使用される条件等によっては、破損等を防止するために必要な強度を維持しようとすると、重量が増大するおそれがあった。
【0007】
本発明は、ゴルフクラブを使用した際にゴルフクラブの各部位に発生する負荷に基づき、実際の使用に耐え得る、軽量のゴルフクラブシャフトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、先端部にクラブヘッドが備えられる先側と、グリップが配設される元側と、を備え、前記先側から前記元側へ外径を漸次拡大させた複数の繊維強化合成樹脂層からなるシャフトを備えたゴルフクラブであって、前記シャフトの全長にわたって、前記繊維強化合成樹脂層の強化繊維が、軸線方向に対して±35度以上±55度以下の傾斜角度で配向されたバイアス層と、前記繊維強化合成樹脂層の強化繊維が、軸線方向に配向されたストレート層と、を有し、前記先側と前記元側には、それぞれ前記強化繊維が周方向に配向された先側周方向層と元側周方向層とをさらに有し、前記先側周方向層の軸線方向の長さは、前記先端部から前記元側へ、前記シャフトの全長の20%以上、50%以下とされ、前記元側周方向層の軸線方向の長さは、少なくとも前記グリップの長さとし、前記先側周方向層と前記元側周方向層に挟まれた中間部が、全長の30%を超える長さとすることを特徴としている。
【0009】
かかる構成により、曲げ強度、捩り強度、つぶし(圧壊)強度を効率良く補強でき、軽量、高強度のシャフトにできる。
また、シャフトの元側は、使用中にグリップ部に異常なつぶし負荷が作用しても破損を防止でき、シャフトの先側はスイング中にヘッド近傍が大きく撓んでも破損を防止できるので、強度の向上、安定化が図れる。そして、周方向層は必要な部分にのみ備えるので、究極の軽量化と強度の向上、安定化が図れる。シャフトの中間部は、曲げ応力に対して強化繊維の伸縮とシャフト断面の変形を許容できるので、ゴルフクラブがスイングされるとき、シャフトの曲がりの極大点が相対的に先側から中間部分へ移動し易くなるとともに、キックポイント部分に十分なしなりと粘りを得ることができ、タメの効くスイングし易いゴルフクラブのシャフトとなる。
【0010】
ここで、キックポイントとは、ゴルフクラブのシャフトを評価する上で一般的に使われるものであり、以下のように定義される。
すなわち、キックポイントは、シャフトの一端から他端側へ、他端から一端側へ同時に圧縮力を作用させてシャフトを撓ませたときに、シャフトの一端と他端とを直線で結んだ線を基準ラインとし、撓んだシャフトの軸線のカーブをシャフトラインとすると、この基準ラインに対して、シャフトラインの最も離れた頂点位置をいう。なお、キックポイントの測定においては、両端から圧縮力を作用させてシャフトを撓ませ、基準ラインとシャフトラインとの距離が、最大5cmに達したときの頂点位置をキックポイントとしている。
【0011】
前記構成に加えて、前記中間部で、かつ、キックポイントから前記元側寄りに、前記元側から前記先側へ前記シャフトの外径が円錐状に縮小する急テーパ部を備え、前記急テーパ部の軸線方向の先側または/および元側に他のテーパ部を備えたとき、急テーパ部のテーパは、他のテーパ部と比べて大きいものとすることが好ましい。
【0012】
かかる構成により、シャフト中間部の径の小さい範囲を長くして、しなり易い範囲を拡大できるので、つぶし強度の安定化が図れるとともに、スイング中のヘッドの返りを円滑にでき、スイング操作し易いゴルフクラブのシャフトとなる。
【0013】
前記構成に加えて、前記先側は、内周側に前記バイアス層と、外周側に前記ストレート層と、前記バイアス層と前記ストレート層との間、もしくは、複数ある前記ストレート層の間に前記先側周方向層と、を備え、前記元側は、内周側に前記バイアス層と、外周側に前記ストレート層と、最外周側のストレート層の内周側に隣接した前記元側周方向層と、を備えることが好ましい。
【0014】
かかる構成により、先側周方向層は、バイアス層とストレート層の間、もしくは、複数あるストレート層の間に巻回されるので、実質的にストレート層を外層側に集中することによって曲げ剛性の最大化を図りつつ、つぶし強度を向上することができる。さらには、バイアス層と周方向層(先側周方向層)とストレート層という異なる繊維方向層を、ある範囲内に集中することで、各方向の繊維を強固に固定でき、打球時の衝撃的なねじり負荷に対し、安定的な強度を得ることができる。
また、元側周方向層は、ストレート層の最外層の内側に巻回されるので、周方向層の繊維の蛇行や表面研磨時の繊維の切断をきたすことを防止でき、少ない繊維量で最大限のつぶしに対する補強効果を得ることができる。したがって、1本のシャフトの各部位に要求される軽量化と強度向上とを図ることができるゴルフクラブのシャフトとなる。
【0015】
前記構成に加えて、前記先側周方向層と前記元側周方向層は、前記バイアス層および前記ストレート層よりも肉厚が薄く、かつ、合成樹脂含浸量が前記バイアス層および前記ストレート層よりも多いプリプレグシートによって単層もしくは2層未満で巻回されることで形成されることが好ましい。
【0016】
かかる構成により、先側周方向層と元側周方向層の肉厚は最小の補強量とされ、これらの層の合成樹脂含浸量は、他の層より多く、かつ、異なる繊維方向に配向されることによって、剥離が防止されるので、より一層の軽量化と強度の向上、安定化が図れるゴルフクラブのシャフトとなる。
【発明の効果】
【0017】
このようなゴルフクラブのシャフトの構成によれば、ゴルフクラブを使用した際にゴルフクラブの各部位に発生する負荷に基づき、実際の使用に耐え得る、軽量のゴルフクラブシャフトを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係るゴルフクラブのシャフトについて、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るシャフトを備えたゴルフクラブ1の外観側面図である。ゴルフクラブ1は、後記する複数の繊維強化合成樹脂層から構成された中空部を有する管状のシャフト100と、このシャフト100の一端に取り付けられたヘッド2と、他端側に配設されたグリップ3とから構成される。
シャフト100は、ヘッド2が備えられた一端側を先側110とし、グリップ3が配設される他端側を元側120とすると、先側110から元側120へ外径を漸次拡大させており、後記するように複数のテーパを複合した形状となっている。
【0019】
先側110と元側120との間には中間部130があり、中間部130には、ゴルフクラブ1の重心Gが位置している。本実施形態は、プレーヤーがゴルフクラブをスイングするとき、シャフト100の曲がりの極大となるキックポイントKPは、重心Gの近傍で、ヘッド2寄りに位置するようにしている。
【0020】
次に、本実施形態に係るシャフト100の各部位について、図面を参照して説明する。図2は図1のAに示す先側110の拡大断面図であり、図3は図1のBに示す元側120の拡大断面図であり、図4は図1のCに示す中間部130の拡大断面図である。
以下図2〜図4を参照して、それぞれの部位を説明するが、後記するバイアス層111とストレート層112は、シャフト100の全長にわたって積層されている。
【0021】
先側110は、図2に示すように、最も内周側(軸線Xに近い側)に先側110の高負荷を補強するためのストレート層113と、ストレート層113と隣接する外周側にバイアス層111と、最も外周側にストレート層112と、バイアス層111とストレート層112との間に積層された先側周方向層114と、から構成されている。
ここで、バイアス層111は、強化繊維が軸線X方向に対して±35度以上±55度以下の傾斜角度で配向された繊維強化合成樹脂層であり、ストレート層112,113は強化繊維が軸線X方向に配向された繊維強化合成樹脂層であり、先側周方向層114は強化繊維が周方向に配向された繊維強化合成樹脂層である。
【0022】
なお、図2〜4に示された各合成樹脂層の積層数は、概略の構成を示す一例であり、図の層数に限定されず、負荷条件や使用する材料等によって適宜設定される。本実施形態では、シャフト全長にわたって積層されたストレート層112に加え、局所的に先側を補強するストレート層113を備えている。また、先側周方向層114は、ストレート層112,113間に積層することもできる。
【0023】
ストレート層112,113の強化繊維の配向は軸線X方向に対しておおよそ0度〜±10度の範囲、先側周方向層114の強化繊維の配向は軸線X方向に対しておおよそ90度±10度の範囲であればよい。
【0024】
強化繊維は、一般に高性能強化繊維として用いられるカーボン繊維、ガラス繊維、ボロン繊維等の繊維を適用できるが、軽量で高強度であることからカーボン繊維が好ましい。また、連続繊維が好ましく、繊維の配置形態等は適宜設定可能であるが、単一方向、シート状としたプリプレグの形態が好ましい。
【0025】
先側周方向層114が備えられる範囲HAは、図1に示すようにヘッド2の固定位置を含むシャフトの先側から全長Lの20%以上、50%以下の長さにわたっている。かかる構成によって、スイング中にヘッド2の近傍が大きく撓んでも破損を防止できるので、強度の向上、安定化を図ることができる。
【0026】
元側120は、図3に示すように、最も内周側のバイアス層111と、最も外周側のストレート層112aと、ストレート層112aの内周側のストレート層121bと、ストレート層121aとストレート層121bとの間の元側周方向層123と、から構成されている。バイアス層111、ストレート層122および元側周方向層123における強化繊維の配向は、前記した先側と同様である。また、ストレート層は、先側110のストレート層と同様に、シャフト全長にわたった繊維強化合成樹脂層であるストレート層112と、負荷条件、材料特性等によって積層されるストレート層122が積層されている。
【0027】
なお、元側周方向層123は、グリップ3が配設されている部分(図1の元側120の破線部分)と、グリップ3の一端部から先側110へ150mm以内の範囲GAとすることが好ましいが、これに限定されない。
かかる構成により、元側120は、使用中に異常なつぶし負荷が作用しても破損を防止でき、強度の向上、安定化が図れる。そして、周方向層は必要な部分にのみ巻回するので、究極の軽量化と強度の向上、安定化が図れる。
【0028】
また、元側周方向層123は、最外周側のストレート層112aの内周側に積層、巻回されたので、周方向層の繊維の蛇行や表面研磨時の繊維の切断をきたすことを防止でき、少ない繊維量で最大限のつぶし補強効果を得ることができる。したがって、1本のシャフト100の各部位に要求される軽量化と強度向上とを図ったゴルフクラブにできる。
【0029】
中間部130は、先側周方向層114と元側周方向層123に挟まれたシャフト100の軸線X方向の部分であり、図4(a)に示すように、先側110や元側120と異なり、周方向層を有さず、バイアス層111とストレート層112とで構成されている。ここで中間部は、全長の30%を超えるものとしている。
かかる構成によって、曲げ応力に対して強化繊維の伸縮とシャフト断面の変形を許容できるので、キックポイントKP(図1参照)を相対的に先部から中間部分へ移動し易くなるとともにキックポイントKP部分に十分なしなり(撓り)と粘りを得ることができ、タメの効く、スイングし易いゴルフクラブにできる。
【0030】
シャフト100は、前記したように先側110から元側120へ外径を漸次拡大させており(図1参照)、後記するように複数のテーパを複合した形状も適用されている。中間部130は、図4(b)に示すように、キックポイントKPから元側120寄りに急テーパ部STが形成されている。急テーパ部STは、その軸心X方向の先側110にあるテーパ部T1,元側120にあるテーパ部T2と比べ、大きなテーパを有するように形成されている。言い換えれば、テーパ部T1とテーパ部T2との間を大きなテーパである急テーパ部STで接続している。
【0031】
本実施形態では、テーパ部T1のテーパが5/1000以下、テーパ部T2のテーパが3/1000以下であるとき、急テーパ部STのテーパは、25/1000以上、好ましくは、30/1000以上としている。すなわち、急テーパ部STとその前後のテーパ部T1,T2の差は、15/1000以上、好ましくは、20/1000以上としている。なお、ヘッド2とグリップ3が取り付けられるシャフト100の全長にわたる強度的な観点から、急テーパ部STとその前後のテーパ部T1,T2の差は、55/1000以下とすることが好ましい。しかしながら、これらの諸元は負荷条件、材料特性、使用条件等から設定されるものであり、前記した数値に限定されないことは言うまでもない。
【0032】
かかる構成により、シャフト中間部の径の小さい範囲を長くして、シャフト中間部30のしなり易い範囲を拡大できるので、つぶし強度の安定化が図れるとともに、スイング中のヘッド2の返りを円滑にでき、スイング操作し易いゴルフクラブとなる。
【0033】
次に、バイアス層、ストレート層、周方向層に適用される好ましいプリプレグについて説明する。
プリプレグは、強化繊維と、合成樹脂と、で構成され、複数の強化繊維を並べた上で合成樹脂を含浸させたものであり、その後の処理によって、樹脂が硬化させられることによって繊維強化合成樹脂となる。
【0034】
本実施形態ではバイアス層、ストレート層、周方向層に強化繊維として、高強度かつ軽量であることから炭素繊維を使用しているが、ガラス繊維、ボロン繊維等も使用することができる。この炭素繊維の物理特性の一例を挙げると、引張弾性率は、54GPa〜588GPaで、強度は、1100MPa〜3820MPaである。
【0035】
強化繊維に含浸される合成樹脂としては、強度に優れる熱硬化樹脂であるエポキシ樹脂を使用しているが、条件によっては、フェノール樹脂やフラン樹脂、もしくは熱可塑性樹脂なども使用することができる。
合成樹脂含浸量は、バイアス層およびストレート層では、15〜35wt%(重量%)が好ましく、より好ましくは20〜30wt%であり、周方向層の合成樹脂含浸量は、30〜60wt%が好ましく、より好ましくは34〜56wt%である。
かかる構成により、周方向層の肉厚は、最小の補強量とし、樹脂含浸量は、他の本体層より多くして異なる繊維方向による剥離を防止したので、より一層の軽量化と強度の向上、安定化が図れるゴルフクラブにできる。
【0036】
次に、図を参照して本実施形態に係るプリプレグの積層構成(裁断形状)の一実施例を説明する。図5は、積層構成を表し、バイアス層、ストレート層、先側周方向層、元側周方向層に適用されるプリプレグの裁断形状を表している。また、以下の説明では、図1を適宜参照する。
シャフト100は、これらのプリプレグを使用して、シートワインディング製法により作製されており、図5(b)〜(h)に示した裁断されたプリプレグの順で、順次内周側から図5(a)の芯金150に巻回して積層する。そして、加熱・加圧して合成樹脂を硬化させ、一体的に成形した後、芯金150を引き抜き、シャフト100が成形される。
【0037】
ここで、図5(b)〜(h)の図中の細線は、強化繊維の配向を示している。また、以下の説明では、成形された樹脂層ではなくプリプレグを対象とするため、前記した図1〜図4の各層と名称は同じ、もしくは近いものであっても、参照番号は変更している。
【0038】
芯金150は、図5(a)に示すように、ヘッド2が取り付けられる先側151を小径として、グリップ3が配設される元側152を大径とするように、径が先側151から元側152へ漸次拡大するテーパ部153を備える。芯金150の形状は、強化繊維合成樹脂層の厚さを考慮して、最終的なシャフトの最終形状を形成できるように設定されている。
なお、テーパ部は、前記したように急テーパ部STやテーパ部T1,T2(図4参照)を有するものもあるが、図5(a)は、これらの複数のテーパ部を有さない一実施例である。
【0039】
補強層160は、図5(b)に示すように、ヘッド2が取り付けられる先側151を補強する狭い幅のストレート層であり、芯金150に積層、巻回している。
ヘッド2は、ゴルフクラブ1がスイングされるとき、最も大きな速度となり、その近傍のシャフト100の負荷は高くなる。そのため、先側151の近傍はスイング中にヘッド近傍が大きく撓んでも破損を防止するべく、曲げ強度、捩り強度を補強層160によって、局所的な補強を図っている。
【0040】
バイアス層161は、図5(c)に示すように、シャフト100のテーパ形状に応じて、元側152の方が幅広い形状となっており、シャフト100の全長にわたって積層、巻回されている。本実施例では、強化繊維の配向を相互に異ならせた2枚のバイアス層161,161を、前記した補強層160の上から順に積層、巻回している。したがって、2枚のバイアス層161,161の強化繊維の配向は、交差状となる。また、図5(c)に示すように、2枚のバイアス層161,161は、周方向にずらして積層、巻回されることによって、プリプレグの端部における重なりをなくし、偏肉状態となることを防止している。
【0041】
先側周方向層162は、図5(d)に示すように、補強層160よりも幅広く、先側151をカバーするように、周方向層が積層、巻回されている。先側151は、前記したように、プレーヤーがゴルフクラブをスイング中、スイング軌道の最遠点にあるヘッド2によって、大きな、かつ、種々の方向(引張、ねじり、曲げ等)の負荷が発生する。本実施例では、このように、先側周方向層162が、必要な部分にのみ積層、巻回されるので、究極の軽量化と強度の向上、安定化が図れる。
また、先側周方向層162は、バイアス層161と後記する第1ストレート層163(図5(e)参照)との間に巻回したので、実質的にストレート層を外層側に集中し、曲げ剛性の最大化を図りつつつぶし強度を向上できる。
【0042】
第1ストレート層163は、図5(e)に示すように、シャフト100のテーパ形状に応じて、元側152の方が幅広い形状となっており、シャフト100の全長にわたって積層、巻回されている。本実施例では、2枚の第1ストレート層163,163を、前記したバイアス層161と先側周方向層162の上から順に積層、巻回している。
【0043】
前記したバイアス層161と、後記する第2ストレート層165と、この第1ストレート層163は、シャフト100の中間部130を形成する。かかる構成によって、シャフト100の中間部130は、曲げ応力に対して強化繊維の伸縮とシャフト断面の変形を許容できるので、キックポイントKPを相対的に先部から中間部分へ移動し易くなるとともにキックポイントKP部分に十分なしなり(撓り)と粘りを得ることができ、タメの効くスイングし易いゴルフクラブにできる。
【0044】
元側周方向層164は、図5(f)に示すように、元側152をカバーするように、第1ストレート層163の上から周方向層が積層、巻回されている。元側152は、グリップ3に該当する部分であり、プレーヤーがゴルフクラブ1をスイング中に強く握られる部分となる。
かかる構成によって、使用中にグリップ3に異常なつぶし負荷が作用しても破損を防止できるので、強度の向上、安定化が図れる。そして、周方向層は必要な部分にのみ巻回するので、究極の軽量化と強度の向上、安定化が図れる。
【0045】
元側周方向層164は、後記するシャフト100の最外周に積層、巻回される第2ストレート層(図5(g)参照)と隣接した内周側に積層、巻回されている。
元側周方向層164の軸線X方向の先側151の端面は、傾斜状に形成されることが好ましい。シャフト100が急激な強度分布となるのを回避するためである。
かかる構成により、後に取り付けられるグリップ3と元側周方向層164とが当接することを回避でき、周方向層の繊維の蛇行や表面研磨時の繊維の切断をきたすことが防止され、少ない繊維量で最大限のつぶし補強効果を得ることができる。したがって、1本のシャフトの各部位に要求される軽量化と強度向上とを図ったゴルフクラブにできる。
【0046】
第2ストレート層165は、図5(g)に示すように、シャフト100のテーパ形状に応じて、元側152の方が幅広い形状となっており、シャフト100の全長にわたって、第1ストレート層163と元側周方向層164の上から積層、巻回されている。第2ストレート層165の機能は、前記した第1ストレート層163と同様であるため、説明は省略する。
【0047】
補強層166は、図5(h)に示すように、グリップ3が環設される元側152を補強する狭い幅のストレート層であり、第2ストレート層165の上から積層、巻回している。
グリップ3は、前記したようにゴルフクラブ1がスイングされるとき、中間部130とは異なり、つぶし負荷が加わる。このような高い負荷に対して、局所的な補強を図っている。
【0048】
[第2実施形態]
次に、図を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。図6は、積層構成を表し、バイアス層、ストレート層、先側周方向層、元側周方向層に適用されるプリプレグの裁断形状を表している。なお、第1実施形態と重複する構成については省略し、差異のある部分について説明する。また、以下の説明では、図1を適宜参照する。
【0049】
本実施形態のシャフトは、これらのプリプレグを使用して、シートワインディング製法により作製されており、図6(b)〜(i)に示した裁断されたプリプレグの順で、順次内周側から図6(a)の芯金250に巻回して積層する。そして、加熱・加圧して合成樹脂を硬化させ、一体的に成形した後、芯金250を引き抜き、シャフトが成形される。
なお、図6(b)〜(i)の図中の細線は、図5と同様に、強化繊維の配向を示している。
【0050】
芯金250は、図6(a)に示すように、ヘッド2が取り付けられる先側251を小径として、グリップ3が配設される元側252を大径とするように、径が先側251から元側252へ漸次拡大しており、先側251から順に第1緩テーパ部MT1、第2緩テーパ部MT2、急テーパ部ST1、第3緩テーパ部MT3、ストレート部ETを備える。なお、芯金250の形状は、強化繊維合成樹脂層の厚さを考慮して、最終的なシャフトの最終形状を形成できるように設定されている。
ここで、それぞれのテーパ部は、シャフトが成形された段階で、前記したテーパ部TP1,TP2が、それぞれ第2緩テーパ部MT2、第3緩テーパ部MT3に相当し、急テーパ部STが、急テーパ部ST1に相当する(図4も併せて参照)。
【0051】
図5と図6とを比べて分かるように、図5(b)と図6(b)の補強層160、図5(d)と図6(d)の先側周方向層162、図5(h)と図6(i)の補強層166は、同形状で同機能を有する部位であるため説明を省略する。
【0052】
バイアス層261は、図6(c)に示すように、シャフト200のテーパ形状に応じて第2緩テーパ部MT2、急テーパ部ST1および第3緩テーパ部MT3に合わせた、元側152の方が幅広い形状となっており、シャフトの全長にわたって積層、巻回されている。
第1緩テーパ部MT1については、補強層160が内周側に積層、巻回されるため、またストレート部ETについては、第3緩テーパ部MT3からの変化が小さいため、図6(c)では、形状を変化させていないが、実際の製造に当たっては、これらの形状等も考慮してもよい。
【0053】
本実施例では、第1実施形態と同様に、強化繊維の配向を相互に異ならせた2枚のバイアス層261,261を、前記した補強層160の上から順に積層、巻回している。したがって、2枚のバイアス層261,261の強化繊維の配向は、交差状となる。また、図6(c)に示すように、2枚のバイアス層261,261は、周方向にずらして積層、巻回されることによって、プリプレグの端部における重なりをなくし、偏肉状態となることを防止している。
【0054】
調整ストレート層267は、図6(e)に示すように、先側周方向層162の軸線X方向の元側の端面に一部重なる重複部Eを有するように、バイアス層261と先側周方向層162の上から積層、巻回されている。調整ストレート層267は、急テーパ部ST1の形状に対応して備えられるものであり、例えば、破線で示す切り込みDを入れることによって、強化繊維の蛇行を防止することもできる。
【0055】
第1ストレート層263は、図5(f)に示すように、シャフトのテーパ形状に応じて第2緩テーパ部MT2、急テーパ部ST1および第3緩テーパ部MT3に合わせた、元側152の方が幅広い形状となっており、シャフトの全長にわたって、先側周方向層162と調整ストレート層267の上から積層、巻回されている。
第1緩テーパ部MT1については、補強層160が内周側に積層、巻回されるため、またストレート部ETについては、第3緩テーパ部MT3からの変化が小さいため、図6では、形状を変化させていないが、実際の製造に当たっては、これらの形状等も考慮してもよい。
なお、前記した調整ストレート層267(図6(e))の切り込みDは、第1ストレート層263に適用することもできる。
【0056】
元側周方向層264は、図6(g)に示すように、後記するシャフトの最外周に積層、巻回される第2ストレート層(図6(h)参照)と隣接した内周側に積層、巻回されている。
元側周方向層264の軸線X方向の先側251の端面は、第1実施形態と異なり、直線状に形成されている。これは、他の層によって、層厚の調整が図られているためであり、第1実施形態のように傾斜状に形成してもよい。
かかる構成により、後に取り付けられるグリップ3と元側周方向層264とが当接することを回避でき、周方向層の繊維の蛇行や表面研磨時の繊維の切断をきたすことが防止され、少ない繊維量で最大限のつぶし補強効果を得ることができる。したがって、1本のシャフトの各部位に要求される軽量化と強度向上とを図ったゴルフクラブにできる。
【0057】
第2ストレート層265は、図6(h)に示すように、シャフトのテーパ形状に応じて第2緩テーパ部MT2、急テーパ部ST1および第3緩テーパ部MT3に合わせた、元側152の方が幅広い形状となっており、シャフトの全長にわたって、第1ストレート層163と元側周方向層164の上から積層、巻回されている。第2ストレート層の機能は、前記した第1ストレート層163と同様であるため、説明は省略する。
【0058】
以上、好ましい実施の形態について説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱することのない範囲内において適宜の変更が可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1実施形態に係るシャフトを備えたゴルフクラブの外観側面図である。
【図2】図1の一点鎖線で囲った範囲Aに示す先側の拡大部分断面図である。
【図3】図1の一点鎖線で囲った範囲Bに示す元側の拡大部分断面図である。
【図4】図1の一点鎖線で囲った範囲Cに示す中間部の拡大部分断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係るシャフトのプリプレグ積層構成を表し、(a)は芯金を、(b)〜(h)はバイアス層、ストレート層、先側周方向層、元側周方向層に適用されるプリプレグの裁断形状を表している。
【図6】本発明の第2実施形態に係るシャフトのプリプレグ積層構成を表し、(a)は芯金を、(b)〜(i)はバイアス層、ストレート層、先側周方向層、元側周方向層に適用されるプリプレグの裁断形状を表している。
【符号の説明】
【0060】
1 ゴルフクラブ
2 ヘッド
3 グリップ
100 シャフト
110 先側
111 バイアス層
112,113,122 ストレート層
114 先側周方向層
120 元側
123 元側周方向層
130 中間部
150 芯金
KP キックポイント
ST 急テーパ部
T1,T2 テーパ部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部にクラブヘッドが備えられる先側と、グリップが配設される元側と、を備え、前記先側から前記元側へ外径を漸次拡大させた複数の繊維強化合成樹脂層からなるシャフトを備えたゴルフクラブであって、
前記シャフトの全長にわたって、前記繊維強化合成樹脂層の強化繊維が、軸線方向に対して±35度以上±55度以下の傾斜角度で配向されたバイアス層と、前記繊維強化合成樹脂層の強化繊維が、軸線方向に配向されたストレート層と、を有し、
前記先側と前記元側には、それぞれ前記強化繊維が周方向に配向された先側周方向層と元側周方向層とをさらに有し、
前記先側周方向層の軸線方向の長さは、前記先端部から前記元側へ、前記シャフトの全長の20%以上、50%以下とされ、
前記元側周方向層の軸線方向の長さは、少なくとも前記グリップの長さとし、
前記先側周方向層と前記元側周方向層に挟まれた中間部が、全長の30%を超える長さを有することを特徴とするゴルフクラブのシャフト。
【請求項2】
前記中間部で、かつ、キックポイントから前記元側寄りに、前記元側から前記先側へ前記シャフトの外径が円錐状に縮小する急テーパ部を備え、
前記急テーパ部の軸線方向の先側または/および元側に他のテーパ部を備えたとき、急テーパ部のテーパは、他のテーパ部と比べて大きいものとしたことを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブのシャフト。
【請求項3】
前記先側は、少なくとも内周側に前記バイアス層と、少なくとも外周側に前記ストレート層と、前記バイアス層と前記ストレート層との間、もしくは、複数ある前記ストレート層の間に前記先側周方向層と、を備え、
前記元側は、内周側に前記バイアス層と、外周側に前記ストレート層と、最外周側のストレート層の内周側に隣接した前記元側周方向層と、を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のゴルフクラブのシャフト。
【請求項4】
前記先側周方向層と前記元側周方向層は、前記バイアス層および前記ストレート層よりも肉厚が薄く、かつ、合成樹脂含浸量が前記バイアス層および前記ストレート層よりも多いプリプレグシートによって単層もしくは2層未満で巻回されることで形成されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のゴルフクラブのシャフト。
【請求項1】
先端部にクラブヘッドが備えられる先側と、グリップが配設される元側と、を備え、前記先側から前記元側へ外径を漸次拡大させた複数の繊維強化合成樹脂層からなるシャフトを備えたゴルフクラブであって、
前記シャフトの全長にわたって、前記繊維強化合成樹脂層の強化繊維が、軸線方向に対して±35度以上±55度以下の傾斜角度で配向されたバイアス層と、前記繊維強化合成樹脂層の強化繊維が、軸線方向に配向されたストレート層と、を有し、
前記先側と前記元側には、それぞれ前記強化繊維が周方向に配向された先側周方向層と元側周方向層とをさらに有し、
前記先側周方向層の軸線方向の長さは、前記先端部から前記元側へ、前記シャフトの全長の20%以上、50%以下とされ、
前記元側周方向層の軸線方向の長さは、少なくとも前記グリップの長さとし、
前記先側周方向層と前記元側周方向層に挟まれた中間部が、全長の30%を超える長さを有することを特徴とするゴルフクラブのシャフト。
【請求項2】
前記中間部で、かつ、キックポイントから前記元側寄りに、前記元側から前記先側へ前記シャフトの外径が円錐状に縮小する急テーパ部を備え、
前記急テーパ部の軸線方向の先側または/および元側に他のテーパ部を備えたとき、急テーパ部のテーパは、他のテーパ部と比べて大きいものとしたことを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブのシャフト。
【請求項3】
前記先側は、少なくとも内周側に前記バイアス層と、少なくとも外周側に前記ストレート層と、前記バイアス層と前記ストレート層との間、もしくは、複数ある前記ストレート層の間に前記先側周方向層と、を備え、
前記元側は、内周側に前記バイアス層と、外周側に前記ストレート層と、最外周側のストレート層の内周側に隣接した前記元側周方向層と、を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のゴルフクラブのシャフト。
【請求項4】
前記先側周方向層と前記元側周方向層は、前記バイアス層および前記ストレート層よりも肉厚が薄く、かつ、合成樹脂含浸量が前記バイアス層および前記ストレート層よりも多いプリプレグシートによって単層もしくは2層未満で巻回されることで形成されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のゴルフクラブのシャフト。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2009−219652(P2009−219652A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66942(P2008−66942)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000002495)ダイワ精工株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000002495)ダイワ精工株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】
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