説明

ゴルフクラブシャフト

【課題】大きなしなりが得られやすく、且つこのしなりが戻りやすいゴルフクラブシャフトの提供。
【解決手段】シャフト6は、繊維強化樹脂層の積層体からなる管状体である。この繊維強化樹脂層が、マトリクス樹脂と繊維とからなる。シャフト全体の中で最も厚みが小さい部分が最薄部とされるとき、この最薄部の全ては、第一位置から第二位置までの範囲内に存在している。シャフト先端からの軸方向距離がシャフト全長に対して50%である位置が上記第一位置でである。シャフト先端からの軸方向距離がシャフト全長に対して75%である位置が上記第二位置である。このシャフト6では、シャフト後端から175mmの地点における曲げ剛性値EIc(N/m)が、上記最薄部の曲げ剛性値EIm(N/m)の2倍以上3倍以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブシャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
スイング中において、ゴルフクラブシャフトには、しなりが生ずる。特に、ダウンスイングの初期段階においては、ヘッドの慣性に起因して、シャフトがしなる。ダウンスイングの初期段階において、シャフトは、ヘッドがダウンスイングの進行方向に対して遅れるようにしなる。ダウンスイングからインパクトまでの間に、シャフトの角加速度は次第に小さくなり、シャフトのしなりがリリースされる。このしなりのリリース(戻り)により、ヘッドスピードが加速され、大きな飛距離が得られる。
【0003】
シャフトは、曲げ剛性分布を有している。曲げ剛性分布は、スイング中のしなりに影響する。曲げ剛性分布は、スイング中におけるシャフトの挙動に影響する。
【0004】
シャフトの曲げ剛性の特性を示す指標として、調子(調子率)が知られている。一般に、先端側がしなりやすいシャフトは先調子と称される。また一般に、後端側がしなりやすいシャフトは元調子と称される。この先調子又は元調子という称呼は、シャフトの特性を示す指標として、市場において知られている。ただし、先調子及び元調子の基準は、当業者において必ずしも統一されていない。調子について、複数の基準が存在しているのが現状である。
【0005】
シャフトの曲げ剛性分布に関する発明として、特開2003−169871号公報、特開2005−34550号公報及び特開平11−206932号公報が挙げられる。
【特許文献1】特開2003−169871号公報
【特許文献2】特開2005−34550号公報
【特許文献3】特開平11−206932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、従来とは異なる技術思想に基づき、シャフトの曲げ剛性分布について検討を行った。スイング中のシャフトの挙動について、検討がなされた。その結果、シャフトの曲げ剛性分布に改善の余地があることが判明した。本発明のシャフトでは、大きなしなり量が得られやすく、且つ、しなりのリリース(戻り)がなされやすいことが判明した。このシャフトでは、大きなしなりが得られやすく、且つこのしなりがリリースされやすい。大きなしなりが戻ることにより、ヘッドスピードが加速される。このシャフトでは、大きなヘッドスピードが得られやすい。大きなヘッドスピードは、飛距離の増大に寄与する。
【0007】
しなりの戻りが不十分である場合、打球の方向性が悪化しやすい。しなりが戻りきらない場合、インパクトにおいてフェースが開きやすい。本発明のシャフトでは、しなりの戻りが起こりやすいので、打球の方向性が改善されうる。
【0008】
本発明の目的は、大きなしなりが得られやすく、且つこのしなりが戻りやすいゴルフクラブシャフトの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るゴルフクラブシャフトは、繊維強化樹脂層の積層体からなる管状体である。上記繊維強化樹脂層は、マトリクス樹脂と繊維とからなる。シャフト全体の中で最も厚みが小さい部分が最薄部とされるとき、この最薄部の全てが、第一位置から第二位置までの範囲内に存在する。シャフト先端からの軸方向距離がシャフト全長に対して50%である位置が上記第一位置であり、シャフト先端からの軸方向距離がシャフト全長に対して75%である位置が上記第二位置である。シャフト後端から175mmの地点における曲げ剛性値EIc(N/m)は、上記最薄部の曲げ剛性値EIm(N/m)の2倍以上3倍以下である。
【0010】
好ましくは、下記式で定義されるシャフトの調子率C1は、47%以下である。
C1=[F2/(F1+F2)]×100
ただし、F1は順式フレックス(mm)であり、F2は逆式フレックス(mm)である。
【0011】
好ましくは、上記シャフトは、表面研磨がなされている。好ましくは、シャフト全体の中で研磨量が最も小さい部分における研磨量(mm)がKsとされ、上記最薄部での研磨量(mm)がKmとされるとき、研磨量Kmが研磨量Ksよりも大きい。
【0012】
好ましくは、上記最薄部の厚みTmが0.6mm以上1.5mm以下である。
【0013】
好ましくは、上記最薄部の曲げ剛性値EImは30(N・m)以上60(N・m)以下である。
【発明の効果】
【0014】
最薄部の位置及び剛性分布が適切に設定されているため、大きなしなりが得られやすく、且つ、しなりが戻りやすい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。なお本願において「軸方向」とは、シャフトの軸方向を意味する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフクラブシャフト6を備えたゴルフクラブ2の全体図である。図2は、シャフト6の全体図である。ゴルフクラブ2は、ヘッド4と、シャフト6と、グリップ8と、フェラル10とを備えている。ヘッド4は、ウッド型ゴルフクラブヘッドである。シャフト6の先端部に、ヘッド4が設けられている。シャフト6の後端部に、グリップ8が設けられている。図示しないが、ヘッド4は、中空構造を有する。ヘッド4は、チタン合金製である。なおシャフト6に装着されるヘッド4及びグリップ8は限定されない。ヘッド4として、ウッド型ゴルフクラブヘッド、アイアン型ゴルフクラブヘッド、パターヘッド等が例示される。
【0017】
シャフト6は、繊維強化樹脂層の積層体からなる。シャフト6は、管状体である。図示しないが、シャフト6は中空構造を有する。図1が示すように、シャフト6は、先端(チップ端)Tpと後端(バット端)Btとを有する。先端Tpは、ヘッド4の内部に位置している。後端Btは、グリップ8の内部に位置している。
【0018】
シャフト6は、いわゆるカーボンシャフトである。好ましくは、シャフト6は、プリプレグシートを硬化させてなる。このプリプレグシートでは、繊維は実質的に一方向に配向している。このように繊維が実質的に一方向に配向したプリプレグは、UDプリプレグとも称される。「UD」とは、ユニディレクションの略である。UDプリプレグ以外のプリプレグが用いられても良い。例えば、プリプレグシートに含まれる繊維が編まれていてもよい。このプリプレグシートは、繊維とマトリクス樹脂とを有している。典型的には、この繊維は炭素繊維である。典型的には、このマトリクス樹脂は、熱硬化性樹脂である。
【0019】
好ましくは、シャフト6は、いわゆるシートワインディング製法により製造される。プリプレグの状態において、マトリクス樹脂は、半硬化状態にある。シャフト6は、プリプレグシートが巻回され且つ硬化されてなる。この硬化とは、半硬化状態のマトリクス樹脂を硬化させることである。この硬化は、加熱により達成される。シャフト6の製造工程には、加熱工程が含まれる。この加熱工程により、プリプレグシートのマトリクス樹脂が硬化する。
【0020】
なお、シャフト6は、プリプレグシートを用いることなく製造することもできる。シャフト6の他の製法として、フィラメントワインディング製法が例示される。
【0021】
図3は、本発明の一実施形態に係るシャフト6を構成するプリプレグシートの展開図(シート構成図)である。この図3は、後述される実施例1のシャフトの展開図を兼ねている。シャフト6は、複数枚のシートにより構成されている。具体的には、シャフト6は、s1からs9までの9枚のシートにより構成されている。本願において、図3等で示される展開図は、シャフトを構成するシートを、シャフトの半径方向内側から順に示している。展開図において上側に位置しているシートから順にマンドレルに巻回される。図3等の展開図において、図面の左右方向は、シャフト軸方向と一致する。図3等の展開図において、図面の右側は、シャフトのチップ端Tp側である。図3等の展開図において、図面の左側は、シャフトのバット端Bt側である。
【0022】
なお、図3等の展開図は、各シートの巻き付け順序のみならず、各シートのシャフト軸方向における配置をも示している。例えばシートs1の一端はチップ端Tpに位置している。例えばシートs5の他端はバット端Btに位置している。
【0023】
シャフト6は、ストレート層とバイアス層とを有する。図3等の展開図において、繊維の配向角度が記載されている。「0°」と記載されているシートが、ストレート層を構成している。ストレート層用のシートは、本願においてストレートシートとも称される。「−45°」及び「+45°」と記載されているシートが、バイアス層を構成している。バイアス層用のシートは、本願においてバイアスシートとも称される。
【0024】
ストレート層は、繊維の配向方向がシャフト軸方向に対して実質的に平行とされた層である。巻き付けの際の誤差等に起因して、通常、繊維の配向方向はシャフト軸線方向に対して完全に平行とはならない。ストレート層において、繊維の配向方向とシャフト軸線方向とのなす角度Afは、−10度以上+10度以下程度である。シャフト6において、ストレートシートは、シートs1、シートs4、シートs5、シートs6、シートs7、シートs8及びシートs9である。ストレート層は、シャフトの曲げ剛性及び曲げ強度との相関が高い。
【0025】
バイアス層は、シャフトの捻れ剛性及び捻れ強度を高める目的で設けられる。バイアス層は、繊維の配向方向が互いに逆方向に傾斜した2以上のシートから構成されている。バイアス層は、上記角度Afが−65度以上−25度以下の層と、上記角度Afが25度以上65度以下の層とを含む。シャフト6において、バイアス層を構成するシートは、シートs2及びシートs3である。なお、角度Afにおけるプラス(+)及びマイナス(−)は、バイアス層用シートの繊維が互いに逆方向に傾斜していることを示している。
【0026】
なお、図3の実施形態では、シートs2が−45度であり且つシートs3が+45度であるが、シートs2が+45度であり且つシートs3が−45度であってもよいことは当然である。
【0027】
なお、ストレート層及びバイアス層以外の層が設けられても良い。例えば、フープ層が設けられても良い。フープ層では、繊維の配向方向が、シャフト軸線に対して実質的に直角とされる。フープ層は、シャフトのつぶし剛性及びつぶし強度を高めるために設けられる。つぶし剛性とは、シャフトをその半径方向内側に向かって押し潰す力に対する剛性である。つぶし強度とは、シャフトをその半径方向内側に向かって押し潰す力に対する強度である。つぶし強度は、曲げ強度とも関連しうる。曲げ変形に連動してつぶし変形が生じうる。特に肉厚の薄い軽量シャフトにおいては、この連動性が大きい。つぶし強度の向上により、曲げ強度も向上しうる。フープ層は、繊維の配向方向がシャフト軸線方向に対して実質的に直角とされた層である。換言すれば、フープ層は、前記の配向方向がシャフトの周方向に対して実質的に平行とされた層である。巻き付けの際の誤差等に起因して、通常、繊維の配向方向はシャフト軸線方向に対して完全に直角とはならない。フープ層において、上記角度Afは、通常、90度±10度である。本実施形態のシャフト6では、フープ層は設けられていない。
【0028】
以下において、シャフト6の製造に用いられるプリプレグシートs1からs9について説明がなされる。図示しないが、使用される前のプリプレグシートは、剥離シートにより挟まれている。剥離シートとは、離型紙及び樹脂フィルムである。使用される前のプリプレグシートは、離型紙と樹脂フィルムとで挟まれている。即ち、プリプレグシートの一方の面には離型紙が貼り付けられており、プリプレグシートの他方の面には樹脂フィルムが貼り付けられている。以下において、離型紙が貼り付けられている面が「離型紙側の面」とも称され、樹脂フィルムが貼り付けられている面が「フィルム側の面」とも称される。
【0029】
なお、図3の展開図は、フィルム側の面が表側とされた図である。即ち、図3等の展開図において、図面の表側がフィルム側の面であり、図面の裏側が離型紙側の面である。図3の状態では、シートs2の繊維方向とシートs3の繊維方向とは同じであるが、後述される貼り合わせの際にシートs3が裏返されることにより、シートs2の繊維方向とシートs3の繊維方向とは互いに逆となる。この点を考慮して、図3では、シートs2の繊維方向が「−45°」と表記され、シートs3の繊維方向が「+45°」と表記されている。図4、図5及び図6も、図3と同様に記載されている。
【0030】
以下において、シャフト6の製造方法の概略が説明される。この製造方法は、以下の工程(1)から(9)を含む。
【0031】
(1)裁断工程
裁断工程では、プリプレグシートが所望の形状に裁断される。この裁断により、全長シートと部分シートとが作製される。このようにシャフト6は、全長シートと部分シートとからなる。全長シートは、シャフト軸方向の全体に亘って設けられる。図3の実施形態において、全長シートは、シートs2、シートs3、シートs4及びシートs7である。部分シートは、シャフト軸方向の一部に設けられる。図3の実施形態では、部分シートは、シートs1、シートs5、シートs6、シートs8及びシートs9である。部分シートは、先端シートと後端シートとを含む。先端シートは、先端を含む位置に配置されている。後端シートは、後端を含む位置に配置されている。先端シートは、シートs1、シートs6、シートs8及びシートs9である。後端シートは、シートs5である。裁断は、裁断機によりなされてもよいし、カッターナイフ等により手作業でなされてもよい。
【0032】
(2)貼り合わせ工程
貼り合わせ工程では、バイアス層用のシート同士が貼り合わせられる。貼り合わせ工程は、裁断工程の後になされてもよいし、後述するように、裁断工程の前になされてもよい。通常、貼り合わせ工程は、裁断工程の後になされる。
【0033】
(3)巻回工程
巻回工程では、裁断されたシートがマンドレルに巻回される。巻回工程により、巻回体が得られる。この巻回体は、マンドレルの外側にプリプレグシートが巻き付けられてなる。この巻回工程は、樹脂フィルムが剥がされる工程と、フィルム側の面の巻き始め縁部が巻回対象物に貼り付けられる工程と、巻き始め縁部が貼り付けられた後に離型紙が剥がされる工程と、巻回対象物を回転させて樹脂フィルム及び離型紙が剥がされたプリプレグシートを巻回する工程とを含む。巻き始め縁部は、シャフト長手方向に沿った辺の縁部とされる。巻回対象物の回転は、平板上で巻回対象物を転がすことによりなされる。この巻回対象物の回転は、手作業によりなされてもよいし、ローリングマシン等と称される機械によりなされてもよい。
【0034】
(4)テープラッピング工程
テープラッピング工程では、上記巻回体の外周面にテープが巻き付けられる。このテープは、ラッピングテープとも称される。このラッピングテープは、張力を付与されつつ巻き付けられる。
【0035】
(5)硬化工程
硬化工程では、テープラッピングがなされた後の巻回体が加熱される。この加熱により、マトリクス樹脂が硬化する。この硬化の課程で、マトリクス樹脂が一時的に流動化する。このマトリクス樹脂の流動化により、シート間又はシート内の空気が排出されうる。ラッピングテープの張力(締め付け力)により、この空気の排出が促進されている。この硬化により、硬化積層体が得られる。
【0036】
(6)マンドレルの引き抜き工程及びラッピングテープの除去工程
マンドレルの引き抜き工程とラッピングテープの除去工程とがなされる。両者の順序は限定されないが、ラッピングテープの除去工程の能率を向上させる観点から、マンドレルの引き抜き工程の後にラッピングテープの除去工程がなされるのが好ましい。
【0037】
(7)両端カット工程
この工程では、硬化積層体の両端部がカットされる。このカットにより、シャフトのチップ端Tp及びバット端Btが形成される。このカットにより、チップ端Tpの端面及びバット端Btの端面が平坦とされる。
【0038】
(8)研磨工程
この工程では、硬化積層体の表面が研磨される。この研磨は、表面研磨とも称される。硬化積層体の表面には、ラッピングテープの跡として残された螺旋状の凹凸が存在する。研磨により、このラッピングテープの跡としての凹凸が消滅し、表面が平滑とされる。後述するように、この研磨工程によって、シャフトの厚み分布が調整されうる。研磨量は、シャフト全体で均一であってもよい。シャフトの長手方向位置によって研磨量が相違していてもよい。後述するように、本発明では、研磨量を不均一とすることが好ましい。
【0039】
(9)塗装工程
研磨工程後の硬化積層体に塗装が施される。
【0040】
本願において、シャフト全体の中で最も厚みが小さい部分が最薄部と称される。この最薄部の全てが、第一位置P1から第二位置P2までの範囲内に存在する。第一位置P1及び第二位置P2は、シャフト長手方向における位置である。
【0041】
シャフト先端Tpからの軸方向距離がシャフト全長に対して50%である位置が第一位置P1とされる。シャフト先端Tpからの軸方向距離がシャフト全長に対して75%である位置が第二位置P2とされる。
【0042】
最薄部の軸方向長さは限定されない。最薄部は、シャフト軸方向の1箇所のみであってもよい。この場合、最薄部の軸方向長さは、ほぼ0mmに近い。一方、最薄部は、シャフト軸方向において範囲を有していても良い。例えば、最薄部の軸方向長さは10mmであってもよい。この場合、10mmの長さを有する最薄部の全てが、第一位置P1から第二位置P2までの間に位置している必要がある。
【0043】
最薄部において、シャフトは曲がりやすい。最薄部の存在により、シャフトのしなりが大きくされうる。最薄部の軸方向長さが短くされることにより、最薄部の剛性を低下させつつ、最薄部よりも後端の部分の剛性を高めることが、容易となる。この構成により、大きなしなりと、しなりの戻りやすさとが両立しやすい。この観点から、最薄部の軸方向長さは、50mm以下が好ましく、30mm以下がより好ましく、10mm以下がより好ましい。
【0044】
しなりが大きく且つしなりが戻りやすいシャフトにより、ヘッドスピードが加速されやすい。大きなヘッドスピードにより飛距離が増大しうる。しなりが戻りきらずにインパクトを迎えることは、ヘッドスピードの低下を招来しうる。更に、インパクトにおいてしなりが戻りきらない場合、インパクトでフェースが開いた状態となり、スライスが発生しやすい。一方、しなりが戻りすぎ、ヘッドが先行した状態でインパクトされた場合、インパクトでフェースが閉じた状態となり、フックが発生しやすい。最薄部の位置が適切に設定されることにより、しなりが大きくなり、且つしなりの戻りが適正となりうる。
【0045】
シャフトの厚みは、例えば、以下の(a)から(d)の要素により決定される。(a)から(d)は、シャフト長手方向の位置ごとに設定されうる。これらの要素を調整することにより、薄肉部の位置が調整されうる。後述するように、研磨量によりシャフト厚みが調整されているのが好ましい。
(a)積層された材料(プリプレグ)の合計厚み
(b)ラッピングテープの締め付けの圧力
(c)硬化工程において流出した樹脂の量
(d)研磨工程における研磨量
【0046】
なお、最薄部が軸方向長さを有している場合において、最薄部における曲げ剛性値が一定でない場合がある。この場合、曲げ剛性値EIm(N/m)は、最薄部の曲げ剛性値のうちの最小値であると定義される。
【0047】
好ましくは、下記式で定義されるシャフトの調子率C1は、47%以下とされる。
C1=[F2/(F1+F2)]×100
ただし、F1は順式フレックス(mm)であり、F2は逆式フレックス(mm)である。順式フレックスF1及び逆式フレックスF2の測定方法は、後述される。
【0048】
好ましくは、このシャフトには、表面研磨がなされる。上記の通り、この表面研磨は、研磨工程においてなされる。好ましい形態では、シャフトの軸方向位置によって研磨量が相違させられる。この場合、研磨量により、最薄部の位置が調整されうる。なお、研磨量とは、研磨により削り取られた厚みを意味する。
【0049】
シャフト全体の中で研磨量が最も小さい部分における研磨量(mm)がKsとされる。換言すれば、研磨量Ksは、シャフト中における研磨量の最小値である。一方、上記最薄部での研磨量(mm)がKmとされる。このとき、好ましくは、研磨量Kmは研磨量Ksよりも大きくされる。このように、研磨量を不均一とすることにより、最薄部の位置の調整が容易となり、生産性が向上しうる。本願において、この研磨量Ksは、最小研磨量とも称される。
【0050】
最薄部の位置調整を容易とする観点から、差(Km−Ks)は、0.01mm以上が好ましく、0.02mm以上がより好ましく、0.03mm以上がより好ましい。最薄部への応力集中を緩和してシャフト強度を高める観点から、差(Km−Ks)は、0.1mm以下が好ましく、0.08mm以下がより好ましく、0.07mm以下がより好ましい。
【0051】
表面の平滑性の観点から、研磨量Ksは、0.01mm以上が好ましく、0.02mm以上がより好ましく、0.03mm以上がより好ましい。材料の有効利用の観点から、研磨量Ksは、0.08mm以下が好ましく、0.06mm以下がより好ましく、0.05mm以下がより好ましい。
【0052】
最薄部の位置調整を容易とする観点から、研磨量Kmは、0.02mm以上が好ましく、0.04mm以上がより好ましく、0.05mm以上がより好ましい。シャフト強度の観点から、研磨量Kmは、0.13mm以下が好ましく、0.10mm以下がより好ましく、0.08mm以下がより好ましい。
【0053】
シャフト強度の観点から、最薄部の厚みTm(mm)は、0.6mm以上が好ましく、0.7mm以上がより好ましい。最薄部の曲がりに起因するしなりを増加させる観点、及びシャフト重量の観点から、厚みTmは、1.5mm以下が好ましく、1.3mm以下がより好ましい。
【0054】
シャフト後端から175mmの地点におけるシャフトの厚みが、厚みTc(mm)と称される。シャフト強度の観点から、厚みTcは、0.6mm以上が好ましく、0.7mm以上がより好ましい。シャフト重量を抑制する観点から、厚みTcは、2.3mm以下が好ましく、2.0mm以下がより好ましい。
【0055】
しなりの戻りを達成しやすくする観点から、比[Tc/Tm]は、1.00より大きいのが好ましく、1.05以上がより好ましく、1.1以上がより好ましい。しなりの戻りすぎを抑制する観点から、比[Tc/Tm]は、1.5以下が好ましく、1.4以下がより好ましく、1.3以下がより好ましい。
【0056】
本発明では、シャフト後端から175mmの地点Pcにおける曲げ剛性値EIcと、最薄部の曲げ剛性値EImとが考慮されるのが好ましい。好ましくは、値EIc(N/m)は、値EIm(N/m)の2倍以上3倍以下とされる。即ち、比[EIc/EIm]が2以上3以下とされるのが好ましい。なお、曲げ剛性値は、後述される方法によって測定される。
【0057】
しなりが戻りきらない状態でのインパクトを抑制する観点から、比[EIc/EIm]は、2以上が好ましい。しなりの戻りすぎを抑制する観点から、比[EIc/EIm]は、3以下が好ましく、2.8以下がより好ましく、2.5以下がより好ましい。
【0058】
比[EIc/EIm]の調整は、例えば、以下の方法によりなされうる。
(1)シャフトの後端部に用いられている部分シートの繊維弾性率を大きくして、曲げ剛性値EIcを大きくする。
(2)シャフトの後端部に用いられている部分シートの繊維弾性率を小さくして、曲げ剛性値EIcを小さくする。
(3)シャフトの後端部に用いられている部分シートの量(厚さ)を増やして、曲げ剛性値EIcを大きくする。
(4)シャフトの後端部に用いられている部分シートの量(厚さ)を減らして、曲げ剛性値EIcを小さくする。
(5)最薄部におけるマンドレルの外径を調整する。
(6)シャフト後端から175mmの点におけるマンドレルの外径を調整する。
(7)シャフトの最薄部に用いられているプリプレグの繊維弾性率を小さくして、曲げ剛性値EImを小さくする。
(8)シャフトの最薄部に用いられているプリプレグの繊維弾性率を大きくして、曲げ剛性値EImを大きくする。
【0059】
一般に、曲げ剛性値(EI)は、弾性率Eと断面二次モーメントIとの積により計算されうる。円形の管状体の断面二次モーメントIは、π(ds−dn)/64で表される。ただし、dsは外径を表し、dnは内径を表す。これらを考慮して、曲げ剛性値を調整することができる。
【0060】
シャフトの中心点よりも後端側の剛性を低くして、しなりを大きくする観点から、第一位置P1とシャフト先端Tpとの軸方向距離は、シャフト全長に対して50%であるのが好ましく、55%であるのがより好ましく、60%であるのがより好ましい。シャフトの後端部の曲げ剛性を高くして、しなりの戻りが発生しやすくする観点から、第二位置P2とシャフト先端Tpとの軸方向距離は、シャフト全長に対して75%であるのが好ましく、70%であるのがより好ましく、65%であるのがより好ましい。
【0061】
過度のしなりが生じた場合、シャフトが戻りにくくなる。しなりの戻りやすさの観点から、最薄部の曲げ剛性値EImは、30(N・m)以上が好ましく、35(N・m)以上がより好ましい。しなりを大きくする観点から、曲げ剛性値EImは、60(N・m)以下が好ましく、50(N・m)以下がより好ましい。
【0062】
しなりの戻りを容易とする観点から、曲げ剛性値EIcは、60(N・m)以上が好ましく、65(N・m)以上がより好ましい。しなりの戻りすぎを抑制し、打球の方向性を高める観点から、曲げ剛性値EIcは、100(N・m)以下が好ましく、90(N・m)以下がより好ましく、85(N・m)以下がより好ましい。
【0063】
上記調子率C1が小さいシャフトは、「元調子」と称されることがある。このシャフトでは、後端側(手元側)が曲がりやすい傾向となる。後端側(手元側)が曲がりやすい場合、この曲がりやすい点からヘッドまでの距離が大きい。この距離の大きさにより、大きなしなり量が得られる。その反面、この大きなしなりは、戻りにくい。調子率C1が小さいシャフトでは、しなり量は大きくなりやすいが、しなりの戻りが生じにくい。
【0064】
本発明により、調子率C1の値を小さくしたまま、適正なしなりの戻りが得られうることが判明した。本発明では、調子率C1が小さいシャフトの利点であるしなりの大きさが維持されうることが判明した。更に本発明では、調子率C1が小さいながらも、しなりの戻りやすさが達成されうることが判明した。即ち本発明は、元調子のシャフトが有していた欠点を効果的に解決しうる。この観点から、本発明の効果は、調子率C1が小さい場合において顕在化しうる。よって、調子率C1は、47%以下が好ましい。前述した最薄部は、シャフトの長手方向中心よりも後端側でありながら、しなりの戻りを減少させにくい位置に配置されている。この最薄部の位置設定により、調子率C1の値が小さくされつつ、適正なしなりの戻りが得られうる。この適正なしなりの戻りは、[EIc/EIm]の値により実現されうることが判明した。
【0065】
調子率C1の下限値は限定されない。しなりの戻りの観点から、調子率C1は、40%以上が好ましい。
【0066】
シャフトの長さL1は限定されない。大人のゴルファーがスイングしやすいという観点から、長さL1は、762mm以上が好ましく、1219mm以下が好ましい。また本発明は、飛距離と方向性とが特に要求されるウッド型ゴルフクラブ用シャフトにおいて大きな効果を発揮しうる。この観点から、長さL1は、965mm以上が好ましく、1067mm以上がより好ましい。シャフトが長すぎる場合、ナイスショットの確率が低下しやすい。この観点から、長さL1は、1219mm以下が好ましく、1194mm以下がより好ましく、1168mm以下がより好ましい。
【0067】
シャフト重量が軽すぎる場合、シャフトのフレックスが柔らかくなり、しなりの戻りが達成されにくい。この観点から、シャフト重量は、50g以上が好ましく、52g以上がより好ましい。ゴルフクラブの操作性を高める観点から、シャフト重量は、70g以下が好ましく、68g以下がより好ましい。
【実施例】
【0068】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0069】
[実施例1]
シートワインディング製法により、シャフトを作製した。金属製のマンドレルに複数枚のプリプレグを巻き付けて積層した。積層されたプリプレグの展開図が、図3で示される。図示しないマンドレルに、プリプレグs1、プリプレグs2、・・・、プリプレグs9の順で、9枚のプリプレグを巻き付けた。図3において上側に示されているプリプレグほど、内側に積層された。
【0070】
プリプレグs1は、先端部を補強する層である。プリプレグs1において、繊維の配向角度は、シャフト軸線に対して実質的に0度である。即ち、プリプレグs1は、ストレート層を構成する。プリプレグs2は、シャフトの全長に亘って設けられている。プリプレグs2は、いわゆるバイアス層である。プリプレグs2において、繊維の配向角度は、シャフト軸線に対して実質的に−45度である。プリプレグs3も、シャフトの全長に亘って設けられている。プリプレグs3は、いわゆるバイアス層である。プリプレグs3において、繊維の配向角度は、シャフト軸線に対して実質的に+45度である。なお、プリプレグs2とプリプレグs3とは、互いに重ねられた状態とされ、この状態で巻き付けられる。プリプレグs2とプリプレグs3とを重なる際に、プリプレグs3は、図3の状態から裏返される。この裏返しにより、プリプレグs2の繊維配向角度とプリプレグs3のそれとが互いに逆向きとなる。プリプレグs4は、全長シートである。プリプレグs4において、繊維の配向角度は、シャフト軸線に対して実質的に0度である。即ち、プリプレグs4は、ストレート層を構成する。プリプレグs5は、部分シートである。プリプレグs5は、後端部を補強する層を構成する。プリプレグs5において、繊維の配向角度は、シャフト軸線に対して実質的に0度である。即ち、プリプレグs5は、ストレート層を構成する。プリプレグs6は、部分シートである。プリプレグs6は、シャフトの先端部を補強する層を構成する。プリプレグs6において、繊維の配向角度は、シャフト軸線に対して実質的に0度である。即ち、プリプレグs6は、ストレート層を構成する。プリプレグs7は、シャフトの全長に亘って設けられている。プリプレグs7において、繊維の配向角度は、シャフト軸線に対して実質的に0度である。即ち、プリプレグs7は、ストレート層を構成する。プリプレグs8は、先端部を補強する層を構成する。プリプレグs8において、繊維の配向角度は、シャフト軸線に対して実質的に0度である。即ち、プリプレグs8は、ストレート層を構成する。プリプレグs9は、先端部を補強する層を構成する。プリプレグs9において、繊維の配向角度は、シャフト軸線に対して実質的に0度である。即ち、プリプレグs9は、ストレート層を構成する。プリプレグs1からプリプレグs9の寸法は、図3で示された通りである。この寸法の単位は、mmである。後述される図4、図5及び図6においても、プリプレグの寸法が両矢印で示されている。これらの寸法の単位は、mmである。
【0071】
プリプレグs1からプリプレグs9までに用いられたプリプレグの品種名(製品名)及びその炭素繊維の弾性率が、下記の表1により示される。表1で示された品種は、いずれも三菱レイヨン社製のプリプレグである。表1で示された全品種において、マトリックス樹脂はエポキシ樹脂である。なお、表2、表3及び表4で示された品種も、全て三菱レイヨン社製のプリプレグである。表2、表3及び表4で示された全品種において、マトリックス樹脂はエポキシ樹脂である。
【0072】
9枚のプリプレグが巻回されてなる積層体の外側に、ポリプロピレン製のテープを巻き付けた。これをオーブン中で加熱及び加圧することにより、樹脂を硬化させつつ成形した。オーブンから取り出された成形体からマンドレルを引き抜いた。長さを揃えるため両端部をカットし、表面研磨を行い、実施例1に係るシャフトを得た。シャフト先端Tpから720mm隔てた点が最薄部となるように、研磨ペーパー式の研磨装置を用いて、表面研磨がなされた。このシャフトに、ヘッド及びグリップを装着して、ゴルフクラブを得た。ヘッドとして、SRIスポーツ株式会社製の、「SRIXON ZR−700 ロフト9.5度」が用いられた。クラブ長さは45インチとされ、クラブバランス(スイングウェート)はD2とされた。
【0073】
[実施例2]
実施例2のシャフトの展開図が、図4で示される。実施例2では、プリプレグe1からプリプレグe9までの9枚のプリプレグが用いられた。実施例2のプリプレグの品種が、表2で示される。図4及び表2で示されるプリプレグ構成とされた他は実施例1と同様にして、実施例2に係るシャフト及びゴルフクラブを得た。この実施例2でも、シャフト先端Tpから720mm隔てた点が最薄部となるように、表面研磨がなされた。
【0074】
[比較例3]
比較例3のシャフトの展開図が、図4で示される。比較例3では、プリプレグe1からプリプレグe9までの9枚のプリプレグが用いられた。比較例3のプリプレグの品種が、表2で示される。比較例3と実施例2との差異は、表面研磨のみである。比較例3では、端Tpから520mm隔てた点が最薄部となるように、表面研磨がなされた。その他は実施例2と同様にして、比較例3に係るシャフト及びゴルフクラブを得た。
【0075】
[比較例4]
比較例4のシャフトの展開図が、図5で示される。比較例4では、プリプレグf1からプリプレグf8までの8枚のプリプレグが用いられた。比較例4のプリプレグの品種が、表3で示される。この比較例4では、シャフトの全長に亘って研磨量が略均一となるように、表面研磨がなされた。その他は実施例1と同様にして、比較例4に係るシャフト及びゴルフクラブを得た。
【0076】
[比較例5]
比較例5のシャフトの展開図が、図6で示される。比較例5では、プリプレグg1からプリプレグg8までの8枚のプリプレグが用いられた。比較例5のプリプレグの品種が、表4で示される。この比較例5では、シャフトの全長に亘って研磨量が略均一となるように、表面研磨がなされた。その他は実施例1と同様にして、比較例5に係るシャフト及びゴルフクラブを得た。
【0077】
なお、上記実施例1及び実施例2においては、必要に応じて、研磨材(砥石)に当てる時間をシャフトの長手方向位置によって相違させ、研磨量が部分的に調整された。また、上記実施例1及び実施例2においては、最薄部での研磨量Kmが、上記最小研磨量Ksよりも大きくされた。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
【表3】

【0081】
【表4】

【0082】
[曲げ剛性EIの測定方法]
図7は、曲げ剛性EIの測定方法を説明するための図である。曲げ剛性EIは、インテスコ製2020型(最大荷重500kg)を用いて測定した。図7に示すように、2つの支持点22、24によってシャフト20を下方から支えつつ、測定点Pに上方から荷重Fを加えたときのたわみ量αを測定した。支持点22と支持点24との間の距離(スパン)は、200mmとされた。測定点Pは、支持点22と支持点24との間を2等分する位置とされた。上方から荷重Fを加える圧子26の先端は、丸められている。圧子26の先端の断面形状は、シャフト軸方向に対して平行な断面において、10mmの曲率半径を有する。シャフト軸方向に対して垂直な方向な断面において、圧子26の先端の断面形状は、直線であり、この直線の長さは45mmである。
【0083】
支持体28は、支持点22においてシャフト20を下方から支持する。支持体28の先端は、凸状の丸みを有する。支持体28の先端の断面形状は、シャフト軸方向に対して平行な断面において、15mmの曲率半径を有する。シャフト軸方向に対して垂直な断面において、支持体28の先端の断面形状は、直線であり、この直線の長さは50mmである。支持体30の形状は、支持体28と同一である。支持体30は、支持点24においてシャフト20を下方から支持する。支持体30の先端は、凸状の丸みを有する。支持体30の先端の断面形状は、シャフト軸方向に対して平行な断面において、15mmの曲率半径を有する。シャフト軸方向に対して垂直な方向な断面において、支持体30の先端の断面形状は、直線であり、この直線の長さは50mmである。
【0084】
支持体28及び支持体30を固定しつつ、5mm/minの速度で圧子26を下方へと移動させた。荷重Fが20kgに達した時点で圧子26の移動を終了した。圧子26の移動を終了した瞬間におけるシャフト20のたわみ量α(mm)が測定された。曲げ剛性EI(N・m)は、次の式により計算した。
EI(N・m)=32.7/α
【0085】
[順式フレックスF1の測定]
図8(a)は、順式フレックスF1の測定方法を説明するための図である。図8(a)が示すように、シャフト後端Btから75mmの位置に、第一支持点32を設定した。更に、シャフト後端Btから215mmの位置に、第二支持点36を設定した。第一支持点32には、シャフト20をを上方から支持する支持体34を設けた。第二支持点36には、シャフト20を下方から支持する支持体38を設けた。荷重のない状態において、シャフト20のシャフト軸線は略水平とされた。シャフト後端Btから1039mmである荷重点m1に、2.7kgの荷重を鉛直下向きに作用させた。荷重のない状態から、荷重をかけた状態までの荷重点m1の移動距離(mm)が、順式フレックスF1とされた。この移動距離は、鉛直方向に沿った移動距離である。
【0086】
なお、支持体34の、シャフトと当接する部分(以下、当接部分という)の断面形状は、次の通りである。シャフト軸方向に対して平行な断面において、支持体34の当接部分の断面形状は、凸状の丸みを有する。この丸みの曲率半径は、15mmである。シャフト軸方向に対して垂直な断面において、支持体34の当接部分の断面形状は、凹状の丸みを有する。この凹状の丸みの曲率半径は、40mmである。シャフト軸方向に対して垂直な断面において、支持体34の当接部分の水平方向長さ(図8における奥行き方向長さ)は、15mmである。支持体38の当接部分の断面形状は、支持体34のそれと同一である。荷重点m1において2.7kgの荷重を与える荷重圧子(図示省略)の当接部分の断面形状は、シャフト軸方向に対して平行な断面において、凸状の丸みを有する。この丸みの曲率半径は、10mmである。荷重点m1において2.7kgの荷重を与える荷重圧子(図示省略)の当接部分の断面形状は、シャフト軸方向に対して垂直な断面において、直線である。この直線の長さは、18mmである。このようにして、順式フレックスF1が測定された。
【0087】
[逆式フレックスF2の測定]
逆式フレックスの測定方法が、図8(b)で示される。第一支持点32がシャフト先端Tpから12mm隔てた点とされ、第二支持点36がシャフト先端Tpから152mm隔てた点とされ、荷重点m2がシャフト先端Tpから932mm隔てた点とされ、荷重が1.3kgとされた以外は順式フレックスF1と同様にして、逆式フレックスF2が測定された。
【0088】
実施例及び比較例の仕様が、下記の表5で示される。図9は、実施例及び比較例のシャフト厚みを示すグラフである。図10は、実施例及び比較例の曲げ剛性分布を示すグラフである。なお、図9及び図10のグラフにおいて、プロットされた点は、測定値である。プロットされた点を結ぶ曲線は、計算値に基づいて描かれている。この計算値は、マンドレルの外径、積層されたプリプレグの厚み、研磨量及びプロットされた点の上記測定値に基づいて計算された。
【0089】
【表5】

【0090】
[テスターによる評価]
10名のテスターが各ゴルフクラブについて10球づつ打球し、各打球のそれぞれについて、飛距離が測定された。10名のテスターのヘッドスピードは、ドライバーで、およそ38(m/s)から51(m/s)の範囲である。ボールとして、SRIスポーツ社製の商品名「SRIXON(スリクソン)Z−UR」が用いられた。この「SRIXON(スリクソン)Z−UR」は、3ピースソリッドゴルフボールである。測定された項目は、次の通りである。
(1)ヘッドスピード
(2)インパクトにおけるロフト角
(3)打ち出し角
(4)キャリー飛距離
(5)ラン
(6)トータル飛距離
(7)左右ズレ
【0091】
「インパクトにおけるロフト角」は、インパクトの瞬間における、鉛直方向に対するロフト角である。この「インパクトにおけるロフト角」は、インパクトの瞬間を撮影した映像を解析することにより得られた。キャリー飛距離は、ボールが最初に落下した地点までの飛距離である。トータル飛距離は、ボールが最終的に静止した地点までの飛距離である。「左右ズレ」は、目標方向に対するズレ距離である。右にズレた場合のズレ距離がプラスの値とされ、左にズレた場合のズレ距離がマイナスの値とされた。「左右ズレ」は、ボールが最終的に静止した地点に基づいて測定された。「左右ズレ」は、その絶対値が小さいほど、良好である。各データのそれぞれについて、合計100個のデータが平均された。この平均値が、下記の表6に示される。
【0092】
【表6】

【0093】
表6に示されるように、実施例は、比較例に比べて評価が高い。実施例2と比較例3とは、プリプレグ構成は同一であるが、研磨により最薄部の位置が異なっている。比較例3は、最薄部が先端寄りであるため、しなり量が実施例2よりも少ない。よって、比較例3は、ヘッドスピード及び飛距離が実施例2よりも小さい。比較例4は、[EIc/EIm]が小さいため、シャフトの戻りが少なく、目標よりも右に飛ぶ結果となった。また、比較例4では、最薄部の位置が過度に後端寄りであることも、しなりの戻りが少ない理由である。比較例5は、調子率C1が大きいため、方向性が悪かった。また比較例5は、調子率C1が大きいため、しなり量が小さく、ヘッドスピード及び飛距離が小さかった。比較例5は、先調子のシャフトの特徴を示している。実施例1及び実施例2は、大きなしなり量に起因して、ヘッドスピードが大きい。実施例1及び実施例2の結果は、元調子のシャフトでありながら、しなりの戻りが良好であることを示している。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のシャフトは、ウッド型ゴルフクラブヘッド、アイアン型ゴルフクラブヘッドなど、あらゆるゴルフクラブに適用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るシャフトが装着されたゴルフクラブの全体図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係るシャフトを示す図である。
【図3】図3は、実施例1のシャフトの展開図である。
【図4】図4は、実施例2のシャフト及び比較例3のシャフトの展開図である。
【図5】図5は、比較例4のシャフトの展開図である。
【図6】図6は、比較例5のシャフトの展開図である。
【図7】図7は、曲げ剛性(EI)の測定方法を示す図である。
【図8】図8(a)は、順式フレックスの測定方法を示し、図8(b)は、逆式フレックスの測定方法を示す。
【図9】図9は、実施例及び比較例のシャフトの厚み分布を示すグラフである。
【図10】図10は、実施例及び比較例のシャフトの曲げ剛性分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0096】
2・・・ゴルフクラブ
4・・・ヘッド
6・・・シャフト
8・・・グリップ
10・・・フェラル
P1・・・第一位置
P2・・・第二位置
Pc・・・シャフト後端から175mm隔てた位置
Tp・・・シャフトの先端
Bt・・・シャフトの後端
20・・・シャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化樹脂層の積層体からなる管状体であり、
上記繊維強化樹脂層が、マトリクス樹脂と繊維とからなり、
シャフト全体の中で最も厚みが小さい部分が最薄部とされるとき、この最薄部の全てが、第一位置から第二位置までの範囲内に存在し、
シャフト先端からの軸方向距離がシャフト全長に対して50%である位置が上記第一位置であり、
シャフト先端からの軸方向距離がシャフト全長に対して75%である位置が上記第二位置であり、
シャフト後端から175mmの地点における曲げ剛性値EIc(N/m)が、上記最薄部の曲げ剛性値EIm(N/m)の2倍以上3倍以下であるゴルフクラブシャフト。
【請求項2】
下記式で定義されるシャフトの調子率C1が、47%以下である請求項1に記載のゴルフクラブシャフト。
C1=[F2/(F1+F2)]×100
ただし、F1は順式フレックス(mm)であり、F2は逆式フレックス(mm)である。
【請求項3】
表面研磨がなされており、
シャフト全体の中で研磨量が最も小さい部分における研磨量(mm)がKsとされ、上記最薄部での研磨量(mm)がKmとされるとき、研磨量Kmが研磨量Ksよりも大きい請求項1又は2に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項4】
上記最薄部の厚みTmが0.6mm以上1.5mm以下である請求項1から3のいずれかに記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項5】
上記最薄部の曲げ剛性値EImが30(N・m)以上60(N・m)以下である請求項1から4のいずれかに記載のゴルフクラブシャフト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−22749(P2010−22749A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−190598(P2008−190598)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(504017809)SRIスポーツ株式会社 (701)
【Fターム(参考)】