説明

ゴルフクラブ及びゴルフクラブ用グリップ

【課題】安定したスイングが得られやすくグリップの滑りが生じにくいゴルフクラブの提供。
【解決手段】本発明のゴルフクラブ2は、ヘッド4、シャフト6及びグリップ8を備えている。グリップ8の表面に、少なくとも1本のサイピング溝g1が設けられている。このサイピング溝g1は、グリップの深さ方向Ddにおいて曲がっている。このサイピング溝g1の溝幅Wgは、0.15mm以上で且つ1.5mm以下とされている。好ましくは、サイピング溝g1の開口縁e1が曲がっている。溝幅Wgは、0.20mm以上がより好ましい。溝幅Wgは、1.4mm以下がより好ましく、1.3mm以下が更に好ましい。サイピング溝g1の深さF1は、0.5mm以上が好ましく、3.5mm以下が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブ及びゴルフクラブ用グリップに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブには、グリップが装着されている。スイングの際に、グリップには摩耗が生じる。摩耗を抑制するためには、グリップの材質を硬くするのが好ましい。しかし、グリップの材質が硬くされた場合、握った際のフィーリング(握り心地)が悪化しやすい。また、グリップの材質が硬くされた場合、摩擦係数が低下しやすい。摩擦係数が低いグリップは、滑りやすい。特に、グリップの表面に汗や雨水が付着した場合、グリップは滑りやすい。握った際のフィーリングが良く且つ滑りにくいグリップが望まれている。
【0003】
特開平6−15019号公報は、グリップの表面に汗吸い込み用の凹部が形成されたゴルフクラブ用グリップを開示するとともに、この汗吸い込み用の凹部として、切り込み及び微少幅の溝を開示する。
【特許文献1】特開平6−15019号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スイング中のグリップには、押圧力や捻れ力が作用する。これらの力により、切り込みや微少幅の溝により区画された部分(以下、ブロックともいう)の倒れ込みが発生しうる。上記文献のグリップでは、このブロックの倒れ込みが発生しやすいことが判明した。この倒れ込みにより、スイング中においてグリップが過度に変形しうる。更に、この倒れ込みに伴うグリップの変形により、シャフト軸線がグリップ軸線に対して過度に変動し、クラブの挙動が不安定となりうる。クラブ挙動の不安定化は、スイングの安定性にも悪影響を与えうる。また、上記倒れ込みにより、グリップの偏摩耗が生じやすいことが判明した。
【0005】
本発明の目的は、ウエット時において滑りにくく且つスイングの安定性を高めうるゴルフクラブの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るゴルフクラブは、ヘッド、シャフト及びグリップを備えている。上記グリップの表面に少なくとも1本のサイピング溝が設けられている。上記サイピング溝は、グリップの深さ方向において曲がっている。上記サイピング溝の幅は0.15mm以上1.5mm以下である。
【0007】
好ましくは、上記サイピング溝の開口縁が曲がっている。
【0008】
本発明に係るゴルフクラブ用グリップは、グリップの表面に少なくとも1本のサイピング溝が設けられている。上記サイピング溝は、グリップの深さ方向において曲がっている。シャフトに取り付けられた状態において、上記サイピング溝の幅は0.15mm以上1.5mm以下となる。
【発明の効果】
【0009】
深さ方向で曲げられたサイピング溝により、倒れ込みが抑制され、スイングの安定性が向上しうる。また、このサイピング溝により、ウエット時における滑りにくさが向上しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフクラブ2の全体図である。ゴルフクラブ2は、ゴルフクラブヘッド4、ゴルフクラブシャフト6及びゴルフクラブ用グリップ8を有する。ヘッド4は、シャフト6の一端部に取り付けられている。グリップ8は、シャフト6の他端部に取り付けられている。
【0012】
ヘッド4は、限定されない。ヘッド4として、ウッド型ヘッド、アイアン型ヘッド及びパターヘッドが例示される。シャフト6は、限定されない。シャフト6として、いわゆるスチールシャフト及びいわゆるカーボンシャフトが例示される。
【0013】
図2は、図1におけるグリップ8部分の拡大図である。図3は、図2のグリップ8を略直方体状に切り出した切り出し材の斜視図である。図3の斜視図には、グリップ8の表面8aと、グリップ8の長手方向(軸線方向)に沿ったグリップ8の断面8bと、グリップ8の長手方向に対して垂直な方向に沿ったグリップ8の断面8cとが示されている。
【0014】
なお、図3において両矢印Dnは、グリップ8の長手方向を示している。図3において両矢印Ddは、グリップ8の深さ方向を示している。また、理解しやすい図面とする目的で、図3においては、溝g1同士の間隔が実際よりも広く図示されている。
【0015】
図示しないが、シャフト6は円筒状である。図示しないが、グリップ8は、円筒状である。グリップ8の表面8aは、略円周状の曲面である。図示しないが、グリップ8は、いわゆるバックラインを有しているので、その表面8aの断面形状は真円では無い。ただしこの表面8aの断面形状は略円形である。
【0016】
図2及び図3が示すように、グリップ8の表面8aには、溝g1が設けられている。このサイピング溝g1は、多数設けられている。図2が示すように、このサイピング溝g1は、外観において曲がっている。即ち、サイピング溝g1の開口縁e1は曲がっている。グリップ8の表面において、サイピング溝g1は曲がりつつ延在している。なお、図2が示すように、グリップ8が有する溝は、溝g1のみである。
【0017】
図示されていないが、サイピング溝g1は、グリップ8の周方向の全体に亘って設けられている。またサイピング溝g1は、グリップ8の長手方向の一部に設けられている。即ち、グリップ8の先端部分には、サイピング溝g1が設けられていない。
【0018】
図3において両矢印Wgで示されているのは、サイピング溝g1の幅である。この溝幅Wgは、0.15mm以上であり、且つ1.5mm以下である。溝g1は溝幅が狭い。このため本願の図面において、溝g1は、一本の線で示されている。この溝幅Wgは、0mmを超えている。よって実際には、1本の溝g1あたり2本の開口縁e1が存在する(図3の拡大部参照)。1本の溝g1が有する2本の開口縁e1は、互いに平行であるのが好ましい。溝g1は、幅Wgを有さない切れ込みとは異なる。この溝を、本願においてサイピング溝とも称する。本発明では、サイピング溝g1と共に、幅が1.5mmを超える溝が設けられてもよい。
【0019】
なお溝幅Wgは、シャフト6に取り付けられた状態において測定される。シャフト6が挿入されることにより、グリップ8が周方向に伸ばされることがある。このため、この溝幅Wgは、グリップ8が単独とされた場合の溝幅よりも大きくなることがある。グリップ8が単独とされた状態における溝幅が0.0mmであり、且つ溝幅Wgが0.15mm以上となる場合がありうる。
【0020】
開口縁e1は折れ曲がっている。開口縁e1は、ジグザグ状に曲がっている。グリップ8には、同一形状のサイピング溝g1が複数設けられている。開口縁e1は、グリップ8の周方向に往復しつつ、グリップ8の長手方向に延在している。隣接するサイピング溝g1同士の間隔は、一定とされている。隣接する開口縁e1は、互いに平行である。開口縁e1の曲がり方は、略周期的である。開口縁e1が、非周期的に曲がっていてもよい。開口縁e1がランダムに曲がっていてもよい。隣接するサイピング溝g1同士の間隔が一定でなくてもよい。
【0021】
なお、本発明において、開口縁e1の曲がりの仕様は限定されない。開口縁e1は、本実施形態のように折れ曲がっていてもよいし、滑らかな曲線であってもよい。例えば開口縁e1は波状に曲がっていてもよい。また、1本の溝g1における開口縁e1は、1箇所以上において曲がっていればよい。本発明では、開口縁e1が曲がったサイピング溝と、開口縁e1が曲がっていないサイピング溝とが混在していてもよい。
【0022】
図3が示すように、サイピング溝g1は、深さ方向Ddにおいて曲がっている。即ちサイピング溝g1は、深さ方向Ddに沿った断面において曲がっている。深さ方向Ddに沿った断面は、無数に存在する。シャフト軸線を含む平面に沿った断面は、深さ方向Ddに沿った断面の一例である。シャフトの半径方向に沿った断面は、深さ方向Ddに沿った断面の一例である。図3が示す断面8cは、シャフトの半径方向に沿った断面である。サイピング溝g1は、少なくともこの断面8cにおいて曲がっている。断面8cには、折れ曲がり点b1が存在する。
【0023】
このように、サイピング溝g1は、深さ方向において曲がっている。サイピング溝g1は、深さ方向において折れ曲がっている。グリップ8には、同一形状のサイピング溝g1が複数設けられている。全てのサイピング溝g1は、グリップ内部でも同じである。仕様の異なるサイピング溝g1が設けられてもよい。
【0024】
なお、本発明において、深さ方向における曲がりの仕様は限定されない。深さ方向において、サイピング溝g1は折れ曲がっていてもよいし、滑らかな曲線であってもよい。例えばサイピング溝g1は、深さ方向において波状に曲がっていてもよい。また、深さ方向において、サイピング溝g1は、1箇所以上で曲がっていればよい。本発明では、サイピング溝g1と共に、深さ方向において曲がっていない溝が設けられてもよい。
【0025】
グリップの材質は限定されず、ゴム組成物や樹脂組成物が例示される。このゴム組成物におけるゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などが用いられうるが、特に天然ゴム、又は天然ゴムに親和性の良いエチレンプロピレンジエンゴムもしくはスチレンブタジエンゴムなどをブレンド(混合)したものが好ましい。
【0026】
ゴム組成物にはオイルが配合されてもよい。このオイルとしては、例えばアロマチック系オイル、ナフテン系オイル、パラフィン系オイルなどが用いられうる。
【0027】
グリップのゴム組成物には、上記ゴムと硫黄とオイル以外に、例えば補強剤、充填剤、加硫促進剤、加硫助剤などが必要に応じて適宜配合されてもよい。さらに老化防止剤、加工助剤などが配合されてもよい。
【0028】
上記補強剤としては、例えば、カーボン、シリカなどが用いられうる。充填剤としては、例えばハードクレー、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、クレーなどが用いられ、加硫助剤としては、例えば酸化亜鉛とステアリン酸などが用いられる。加硫促進剤は、公知の方法に従い、使用するゴムにあわせて適宜選択されうる。
【0029】
グリップの材質として、樹脂組成物も用いられうる。この樹脂組成物に含まれる樹脂として、熱可塑性樹脂が挙げられる。この熱可塑性樹脂は、射出成形に用いられうる。この熱可塑性樹脂として、熱可塑性エラストマーが好ましく、ソフトセグメントとハードセグメントとを含む熱可塑性エラストマーがより好ましい。グリップ性と耐摩耗性との両立の観点から、ウレタン系熱可塑性エラストマーがより好ましい。
【0030】
ゴム100質量部に対する好ましい配合比率は、補強剤が5〜70質量部、充填剤が10〜70質量部、加硫促進剤が0.1〜3質量部、加硫助剤が1〜10質量部である。ただし、これらの比率に限定されない。
【0031】
グリップ8の製法は限定されない。グリップ8は、公知の製法により製造されうる。この製法として、プレス成形と射出成形とが例示される。
【0032】
プレス成形では、ゴム組成物を金型内に充填し、加圧及び加熱がなされる。加熱温度は、通常、130〜200℃とされるが、これに限定されない。加熱時間は、通常、3〜15分間とされるが、これに限定されない。
【0033】
図4は、プレス成形に用いられるプレス金型10の一例を示している。プレス金型10は、下型12と、図示しない上型と、コア金型(マンドレル)14を有する。上型の構成は、下型12と同様である。下型12及び上型は、グリップの外面を形成するための金型内面m1を有する。図示しないが、更にプレス金型10は、グリップの先端を形成するための先端部材と、グリップの後端を成形するための後端部材とを有する。先端部材及び後端部材は、略円盤状の部材である。先端部材及び後端部材の中心部には、コア金型14の端と係合しうる係合部が設けられている。
【0034】
プレス金型10を用いた製造方法の一例について説明する。先ず、シート状に加工されたゴム組成物が、短冊状に裁断されて、下型用ゴムシートが得られる。この下型用ゴムシートを、下型12の金型内面m1に配置する。次に、先端部材、後端部材及びコア金型14が下型12に取り付けられる。上記先端部材は金型内面m1の先端部に取り付けられる。上記後端部材は金型内面m1の後端部に取り付けられる。コア金型14の先端は先端部材に取り付けられる。コア金型14の後端は後端部材に取り付けられる。取り付けられたコア金型14は、金型内面m1との間に隙間を有した状態で固定される。次に、コア金型14の上側に、上型用ゴムシートが配置される。この上型用ゴムシートは、下型用ゴムシートと同様である。次に、上型と下型12とが突き合わされ、プレス金型10が閉じられる。加熱及び加圧が終了した後、プレス金型10が開けられ、成形物が取り出される。この成型物からコア金型14を抜き取り、グリップ8が得られる。 なお、この製造方法では、プレス金型10に充填される材料として上型用ゴムシートと下型用ゴムシートとを用いたが、これらに代わり、充填される材料が、コア金型14に巻き付けられてもよい。
【0035】
図5は、射出成形に用いられるインジェクション金型16の一例を示す斜視図である。インジェクション金型16は、下型18と、図示しない上型と、コア金型(マンドレル)20を有する。上型の構成は、下型18と同様である。下型12及び上型は、グリップの外面を形成するための金型内面m1を有する。図示しないが、更にインジェクション金型16は、グリップの先端を形成するための先端部材と、グリップの後端を成形するための後端部材とを有する。先端部材及び後端部材は、略円盤状の部材である。先端部材及び後端部材の中心部には、補強部材20の端と係合しうる係合部が設けられている。
下型18及び上型は、材料注径路22を有する。材料は材料注径路22から金型内に注入される。
【0036】
インジェクション金型16による製造方法の一例では、先ずインジェクション金型16が閉じられ、次に材料注径路22から材料が注入される。閉じられたインジェクション金型16の構成は、前述したプレス金型10と同様である。その後、成型物が取り出される。なお、インジェクション金型としては、図5で示すような金型16以外に、例えば上下に分割されていない金型なども用いられうる。
【0037】
図6は、図4及び図5におけるVI−VI線に沿った断面図である。金型内面m1には、サイピング溝g1を成形するための凸部t1が設けられている。凸部t1は、サイピング溝g1の数に対応して多数設けられている。なお、図4及び図5では、凸部t1の記載が省略されている。
【0038】
凸部t1は、金型本体h1と一体成形されてもよい。この一体成形の方法として、金型をロストワックス法により鋳造する方法が例示される。ただし、多数の凸部t1を設ける場合、この一体成形には手間と労力とが必要となる。
【0039】
本実施形態では、凸部t1を形成するための溝成形体s1が用いられる。この溝成形体s1は、金型本体h1とは別に成形される。金型本体h1は、溝成形体s1を差し込むための差し込み溝v1を有している。溝成形体s1は、差し込み溝v1に差し込まれることにより、金型本体h1に固定されている。
【0040】
溝成形体s1は、薄い板が曲げられてなる形状を呈する。溝成形体s1は、鍛造や鋳造等により作製されうる。特に複雑な形状の溝成形体s1の場合、溝成形体s1は鋳造されるのが好ましい。複雑な形状に加工しやすい観点から、溝成形体s1の材質として、金属が好ましく、特にアルミニウム合金がより好ましい。また、一本のサイピング溝g1が一個の溝成形体s1により成形されてもよいし、一本のサイピング溝g1が複数の溝成形体s1により成形されてもよい。
【0041】
溝成形体s1の形状は、サイピング溝g1の形状に対応している。溝成形体s1の断面形状は、グリップの深さ方向において曲がっている。なお、他の実施形態に係る溝成形体s1として、三浦折りの形状を有する溝成形体s1が挙げられる。三浦折りは、平行四辺形面を組み合わせてなる。三浦折りは、山折りと谷折りとによって分割された平行四辺形により構成される。これらの平行四辺形は、互いに合同である。三浦折りは、歪みのしわ寄せを生じることなく平面を三次元的に折りたたむことを可能とする。よって三浦折りの溝成形体s1は成形しやすい。この三浦折りは、宇宙科学研究所の三浦教授によって発案された。
【0042】
グリップ8の表面に付着した水や汗は、サイピング溝g1の内部に入り込みうる。これにより、グリップ8の表面に存在する水や汗がグリップ8の内部に吸収されうる。サイピング溝g1により、ウエット時におけるグリップ性が向上しうる。またサイピング溝g1の開口縁e1は、いわゆるエッジ効果を奏しうる。即ち開口縁e1が人間の手の表面と当接することにより、滑りにくさが発現しうる。
【0043】
グリップ8は、プレーヤーの手から、押圧力や捻れ力などの力を受ける。この力により、前述したように、ブロックの倒れ込みが生じうる。深さ方向において曲がるサイピング溝g1により、この倒れ込みが抑制されうる。深さ方向に曲がったサイピング溝g1により、グリップに作用した力が効果的に分散され、倒れ込みが抑制されうる。また、開口縁e1が曲がっていることにより、力の分散がより一層促進され、倒れ込み抑制効果が更に向上しうる。この倒れ込み抑制効果により、グリップの過度な変形が抑制され、スイング時におけるクラブ挙動が安定化しうる。
【0044】
ウエット時におけるグリップ性を高める観点、及び金型の製造コストを抑制する観点から、溝幅Wgは、0.15mm以上が好ましく、0.20mm以上がより好ましい。溝幅Wgが過度に広い場合、開口縁e1が手に当たってごつごつした感じが生ずることがあり、握りのフィーリングが悪化しうる。また、溝幅Wgが過度に広い場合、グリップの剛性が低下し、スイング時におけるクラブ挙動が不安定となったり、スイングが不安定となったりしうる。これらの観点から、溝幅Wgは、1.5mm以下が好ましく、1.4mm以下がより好ましく、1.3mm以下が更に好ましい。
【0045】
図3において両矢印F1で示されているのは、サイピング溝g1の深さである。深さF1は、グリップ8に装着されるシャフト6の半径方向に沿って測定される。握りのフィーリングが過度に硬くなることを抑制し、且つウエット時のグリップ性を向上させる観点から、深さF1は、0.5mm以上が好ましく、0.75mm以上がより好ましく、1.0mm以上が更に好ましい。成形時における金型からの取り出しを容易とする観点、及びグリップの剛性を高めてクラブ挙動及びスイングを安定させる観点から、深さF1は、3.5mm以下が好ましく、3.0mm以下がより好ましく、2.5mm以下が更に好ましい。
【0046】
グリップの過度な変形を抑制するとともに、特にドライ時におけるグリップ性を高める観点から、グリップのJIS−A硬度は、30以上が好ましく、35以上がより好ましく、40以上が特に好ましい。握りのフィーリングが過度に硬くなることを抑制し、ウエット時におけるグリップ性を高める観点から、グリップのJIS−A硬度は、70以下が好ましく、60以下がより好ましく、50以下が特に好ましい。このJIS−A硬度は、JIS−K−6253の規定に従い測定される。
【0047】
図7は、変形例に係るグリップを略直方体状に切り出した切り出し材の斜視図である。このグリップは、サイピング溝g2を有している。このサイピング溝g2は、深さ方向Ddにおいて、1箇所の曲がり部b1を有している。サイピング溝g2における開口縁e2の形態は、サイピング溝g1の開口縁e1と同じである。
【0048】
図8は、他の変形例に係るグリップを略直方体状に切り出した切り出し材の斜視図である。このグリップは、サイピング溝g3を有している。このサイピング溝g3は、深さ方向Ddにおいて、2箇所の曲がり部b1を有している。サイピング溝g3は、深さ方向Ddにおいて、ジグザグ状に曲がっている。サイピング溝g3における開口縁e3の形態は、サイピング溝g1の開口縁e1と同じである。
【0049】
図9は、更に他の変形例に係るグリップを略直方体状に切り出した切り出し材の斜視図である。このグリップは、サイピング溝g4を有している。サイピング溝g6の開口縁e4は、グリップの長手方向Dnに沿っている。開口縁e4は、シャフト軸線に沿っている。このサイピング溝g4は、深さ方向Ddにおいて、1箇所の曲がり部b1を有している。サイピング溝g4における開口縁e4の形態は、サイピング溝g1の開口縁e1と同じである。
【0050】
本発明において、サイピング溝の設置範囲は限定されない、サイピング溝は、グリップ表面の全体に設けられても良いし、グリップ表面の一部に設けられても良い。サイピング溝は、グリップの周方向の全体に設けられても良いし、グリップの周方向の一部に設けられても良い。
【実施例】
【0051】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0052】
[実施例1]
1.8質量%の硫黄、62.5質量%のポリイソプレン(イソプレンゴム)、5.5質量%のカーボンブラック及び22.2質量%の無機成分を配合して、ゴム組成物を得た。無機成分として、AI、SiO、CaO、Fe、ZnO及びBaSOが用いられた。このゴム組成物を、前述したプレス金型を用いてプレス成形し、実施例1に係るグリップを得た。このグリップには、図9で示されたサイピング溝が形成されていた。溝幅Wgは隣り合うサイピング溝の間隔は2mmとされた。グリップのJIS−A硬度は45であった。溝幅Wgは0.30mmとされた。サイピング溝の深さF1は2.50mmとされた。このグリップをシャフトの後端部に装着し、シャフトの先端部にヘッドを装着して、実施例1に係るゴルフクラブを得た。
【0053】
[実施例2]
サイピング溝の形態が図7で示された形態とされた他は実施例1と同様にして、実施例2に係るグリップ及びゴルフクラブを得た。
【0054】
[比較例1]
サイピング溝の形態が図10で示された形態とされた他は実施例1と同様にして、比較例1に係るグリップ及びゴルフクラブを得た。比較例1のグリップにおいて、サイピング溝g5の開口縁e5は曲がっていない。またこのサイピング溝g5は、深さ方向Ddにおいて曲がっていない。
【0055】
[比較例2]
深さF1が1.00mmに変更された他は比較例1と同様にして、比較例2に係るグリップ及びゴルフクラブを得た。
【0056】
上記実施例及び比較例の仕様と評価結果が、下記の表1で示される。
【0057】
実施例及び比較例が、以下の方法により評価された。
【0058】
[摩耗試験]
JIS L 0849の規定に準拠し、白綿布に代えて220番研磨紙を用いて、学振式摩擦試験機にてグリップの表面を摩耗させた。切り出されたグリップ片と研磨紙とを500回摺動させたときの摩耗量が、計測された。この摩耗量の指数値が、下記の表1で示されている。摩耗量は、実施例1の摩耗量を100として指数化されている。この指数が、下記の表1で示される。指数が大きいほど摩耗量が大きいことを示す。
【0059】
[フィーリング]
10名のゴルファーが、スイングの安定性を1点から5点までの点数で5段階評価した。実施例1の評価が3点とされ、最高点が5点とされ、最低点が1点とされた。10名のゴルファーの平均値が、下記の表1で示される。なお、点数の小数点以下は四捨五入された。グリップの変形が少なく、スイングの安定性が高いものほど高い点数とされた。グリップの剛性が不足し、スイングの安定性が低いものほど低い点数とされた。このフィーリングは、グリップ表面を濡らさない状態(ドライ状態)で評価された。
【0060】
[グリップ性]
グリップ表面を濡らした後にスイングを行い、ウエット時のグリップ性を評価した。実施例1の評価が3点とされ、最高点が5点とされ、最低点が1点とされた。10名のゴルファーの平均値が、下記の表1で示される。なお、点数の小数点以下は四捨五入された。グリップの滑りが少ないものほど高い点数とされた。滑りやすいものほど低い点数とされた。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示されるように、実施例は、比較例に比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、あらゆるゴルフクラブのグリップに適用されうる。このゴルフクラブとして、ウッド型ゴルフクラブ、アイアン型ゴルフクラブ及びパタークラブが例示される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフクラブの全体図である。
【図2】図2は、図1のゴルフクラブにおけるグリップ付近の拡大図である。
【図3】図3は、図2のグリップを略直方体状に切り出した切り出し材の斜視図である。
【図4】図4は、グリップを作製するための金型の一例を示す斜視図である。
【図5】図5は、グリップを作製するための金型の一例を示す斜視図である。
【図6】図6は、図4及び図5におけるVI−VI線に沿った断面図である。
【図7】図7は、変形例のグリップを略直方体状に切り出した切り出し材の斜視図である。
【図8】図8は、他の変形例のグリップを略直方体状に切り出した切り出し材の斜視図である。
【図9】図9は、更に他の変形例のグリップを略直方体状に切り出した切り出し材の斜視図である。
【図10】図10は、比較例1のグリップを略直方体状に切り出した切り出し材の斜視図である。
【符号の説明】
【0065】
2・・・ゴルフクラブ
4・・・ヘッド
6・・・シャフト
8・・・グリップ
10・・・プレス金型
12・・・下型
14・・・コア金型
16・・・インジェクション金型
18・・・下型
t1・・・凸部
s1・・・溝成形体
v1・・・差し込み溝
g1、g2、g3、g4、g5・・・サイピング溝
e1、e2、e3、e4、e5・・・開口縁
Dd・・・深さ方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド、シャフト及びグリップを備え、
上記グリップの表面に少なくとも1本のサイピング溝が設けられており、
上記サイピング溝が、グリップの深さ方向において曲がっており、
上記サイピング溝の幅が0.15mm以上1.5mm以下であるゴルフクラブ。
【請求項2】
上記サイピング溝の開口縁が曲がっている請求項1に記載のゴルフクラブ。
【請求項3】
グリップの表面に少なくとも1本のサイピング溝が設けられており、
上記サイピング溝が、グリップの深さ方向において曲がっており、
シャフトに取り付けられた状態において、上記サイピング溝の幅が0.15mm以上1.5mm以下となるゴルフクラブ用グリップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−136375(P2009−136375A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313418(P2007−313418)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(504017809)SRIスポーツ株式会社 (701)
【Fターム(参考)】