説明

ゴルフクラブ用シャフトのシミュレーション方法。

【課題】少ないパラメータをコンピュータに入力して、簡単に精度良くシミュレーション計算を行うことができるゴルフクラブ用シャフトのシミュレーション方法を提供する。
【解決手段】シャフト10の基端から先端までの間を長さ方向に沿って連続的に複数のモデル領域12に分割し、この複数のモデル領域またはその接合部分16にそれぞれヤング率、剪断弾性率および断面2次モーメントの値を入力する。そして、シャフトを所定のスイングパターンでスイングさせたときのシャフトの挙動を解析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータを用いたゴルフクラブ用シャフトのシミュレーション方法に関し、さらに詳述すると、ゴルフクラブ用シャフトのスイング時における挙動を解析するためのシミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴルフクラブ用シャフトのスイング時における挙動を調べる場合、シャフトに複数個の歪みゲージを取り付け、これらの歪みゲージによってシャフトの歪み量などを計測することが行われている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
しかし、特許文献1、2の方法では、シャフトに取り付けた複数個の歪みゲージにそれぞれリード線を接続するので、ゴルフクラブが重くなり、ゴルファーがゴルフクラブをスイングするのが難しい。そのため、ゴルファーが同じスイングをすることが難しく、同じスイングを反復してシャフトの歪み量などを計測することが困難であった。
【0004】
一方、ゴルフスイングシミュレーション方法として、特許文献3に記載されたものが提案されている。この方法は、ゴルフクラブの実物を用いてゴルファーのスイング挙動を計測し、上記ゴルファーのスイング時の上記ゴルフクラブのグリップの座標の時刻歴データ、グリップの傾斜角の時刻歴データ、シャフトの幾何学的中心軸であるシャフト軸周りにおけるグリップの回転角の時刻歴データを得て、3つの上記時刻歴データを基に、ゴルフクラブモデルにスイングの動きを与え、ゴルフクラブモデルの捻転を考慮して、シミュレーションによりゴルフクラブモデルの挙動を解析するものである(請求項1)。
【0005】
しかし、特許文献3の方法は、シャフト材料の特性や、シャフトの体積、径といった多くのデータをコンピューターに入力するので、シミュレーションに時間を要するものであった。
【0006】
【特許文献1】特開2003−205053号公報
【特許文献2】特開2003−284802号公報
【特許文献3】特開2002−331060号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたもので、少ないパラメータをコンピュータに入力して、簡単に精度良くシミュレーション計算を行うことができるゴルフクラブ用シャフトのシミュレーション方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記目的を達成するため、コンピュータを用いたゴルフクラブ用シャフトのスイングのシミュレーション方法であって、シャフトの基端から先端までの間を長さ方向に沿って連続的に複数のモデル領域に分割し、前記複数のモデル領域またはその接合部分にそれぞれヤング率、剪断弾性率および断面2次モーメントの値を入力し、前記シャフトを所定のスイングパターンでスイングさせたときのシャフトの挙動を解析することを特徴とするゴルフクラブ用シャフトのシミュレーション方法を提供する。
【0009】
本発明では、コンピュータに入力するパラメータとして、シャフトの曲げ剛性、ねじり剛性と関連するヤング率、剪断弾性率および断面2次モーメントを選択したので、少ないパラメータをコンピュータに入力して、簡単に精度良くシミュレーションを行うことができる。また、コンピュータに入力するパラメータが少ないので、簡単にパラメータを変更して、シャフトの挙動の変化を即座に確認することができ、素早くゴルフクラブの設計に役立たせることができる。
【0010】
以下、本発明につきさらに詳しく説明する。本発明では、シャフトの基端から先端までの間を長さ方向に沿って連続的に複数のモデル領域に分割し、前記複数のモデル領域またはその接合部分にそれぞれヤング率、剪断弾性率および断面2次モーメントの値を入力する。この場合、シャフトの基端から先端までの間を5〜20個のモデル領域に分割することが適当である。また、シャフトの基端から長さ5〜20cmの領域をグリップ部を想定した第1モデル領域とし、第1モデル領域の先端とシャフトの先端との間を同じ長さの複数のモデル領域に分割することができる。
【0011】
本発明においては、複数のモデル領域にそれぞれヤング率、剪断弾性率および断面2次モーメントの値を入力する。ヤング率、剪断弾性率および断面2次モーメントの値は、下記のようにして求めることができる。
【0012】
[ヤング率、断面2次モーメント]
EI値は、曲げ剛性の指標値となるものであり、3点曲げ試験を行って、EI値を求めることができる。このEI値から、ヤング率(E)と断面2次モーメント(I)を求めることができる。具体的には、一定間隔(L)離れた一対の支持具でシャフトを水平に支持し、両支持点(支持具)の中心位置に垂直に荷重(P)を加え、その中心位置でのシャフトの歪み量(σ)を求める。
EI=(L/48)・(P/σ)(kg・mm×10
L:両支持具間の距離(mm) …300mm
P:シャフトに垂直に加えた荷重(Kg) …20kg
σ:荷重を加えたときの歪み量(mm)
断面2次モーメント(I)は、シャフト断面から、計算式で求めることができる。
I=π×(d−d1)/64
d:シャフトの外径
d1:シャフトの内径
上記結果よりヤング率(E)を求めることができる。
E=(L/48)・(P/σ)/I
[剪断弾性率]
まず、剪断弾性率を求めるためにトルクを各部分で求める。つまり、シャフトのある箇所を回転しないように固定し、その固定箇所より先端方向または手元方向に一定方向離れた箇所に一定の回転力を加え、その回転力を加えた箇所が回転した角度を測定する。本発明では、シャフトの固定位置をチャックで固定し、100mm離れた箇所に回転力(1ft・lbt:138.25kgf・mm:1.35N・m)を加え、回転した角度を測定する。
T=G・Ip(x)・dθ/dx
T:トルク(ねじりモーメント)
G:剪断弾性率
Ip(x):断面2次極モーメント
dθ/dx:単位あたりの回転角度
断面2次極モーメントは、シャフト断面から、計算式で求めることができる。
Ip(x)=π×(d−d1)/32
d:シャフトの外径
d1:シャフトの内径
よって、剪断弾性率は、以下の式で求めることができる。
G=T/(Ip(x)・dθ/dx)
【0013】
本発明においては、クラブヘッドの重量、重心距離および重心深さをシミュレーションの入力要素に加えることができ、これにより実際のクラブでスイングした時にシャフトにかかる負荷を再現することができる。また、クラブヘッドの特性に合わせたシャフト設計を行うためのシミュレーションを行うことができる。
【0014】
本発明においては、クラブヘッドの重量、重心距離、重心深さおよび重心高さをシミュレーションの入力要素に加えることにより、後述するインパクト時のダイナミックロフトやフェースアングルを出力することができ、これによってインパクト時のヘッドの状態を推測することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、シャフトの機械的要素(曲げ剛性、ねじり剛性)を長さ方向の各モデル領域にそれぞれ設定することで、コンピューター上で、スイング中のシャフトのしなりやねじりなどを調べ、それぞれのスイングパターンの違いによって、どのようにシャフトのしなりやねじりが変化するかが分かる。また、シャフトに取り付けるヘッドのデータを加えることで、インパクト時の情報などを得ることができる。このシミュレーション方法によって、ヘッドの大きさなどから、各部分のシャフトデータを与えることで、最適値に近づけ、短期間にシャフトの設計を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明するが、本発明は下記例に限定されるものではない。図1に示すように、コンピュータ内において、シャフト10の基端から先端までの間を長さ方向に沿って連続的に複数(本例では10個)のモデル領域12に分割するとともに、シャフト10の先端にクラブヘッド14を取り付けた。そして、入力パラメータとして、シャフトの重量、ヤング率、断面2次モーメントおよび剪断弾性率、ならびにクラブヘッドの重量、重心距離および重心深さを入力した。この場合、弾性体としてのパラメータであるシャフトのヤング率、断面2次モーメントおよび剪断弾性率は、各モデル領域12同士の接合部分16に入力し、これによりシャフト10を弾性体として表現した。本例では、シャフト10として下記5種類のシャフトを作製した。
STD:標準シャフト
TipDown:先端側のヤング率が低いシャフト
TipUp:先端側のヤング率が高いシャフト
ButtDown:手元側のヤング率が低いシャフト
ButtUp:手元側のヤング率が高いシャフト
【0017】
また、図2に示す4種類のスイングパターンをコンピュータに入力した。「加速:大」は、インパクト直前におけるヘッド角速度の加速が大きいスイングパターン、「加速:小」は、インパクト直前におけるヘッド角速度の加速が小さいスイングパターン、「減速:大」は、インパクト直前におけるヘッド角速度の減速が大きいスイングパターン、「減速:小」は、インパクト直前におけるヘッド角速度の減速が小さいスイングパターンである。
【0018】
この場合、図3に示すように、上腕部に相当する第1リンク20、下腕部に相当する第2リンク22、シャフト部24およびヘッド部26を連結し、かつ、第1リンク20の上端部に全体の回転運動を行う第1回転モーション28、第1リンクと第2リンクとの接続部に手首のコックを再現する第2回転モーション30を配した2リンクモデル32をコンピュータ内で構築し、第1回転モーション28および第2回転モーション30による回転速度を調整することにより前記4種類のスイングパターンを構成した。
【0019】
前記5種類のシャフトを前記4種類のスイングパターンでスイングさせたときのシャフトの挙動を解析した。この場合、シャフト10は、水平面に対して50°傾けてスイングさせた。また、シャフトの手元部分の角速度を一定とし、シャフトを撓まないものと仮定したときのシャフト先端部分のヘッドスピードを45m/sとした。出力パラメータとして、シャフトの先端と手元の速度差、ダイナミックロフトおよびフェースアングルを出力した。
【0020】
シャフトの先端と手元の速度差の解析結果を図4に示す。シャフトの先端と手元の速度差は、シャフト手元の速度が同じ場合に予測されるシャフト先端の速度を表し、シャフトに同じ運動量の入力がなされた場合に、シャフトの特性により得られるヘッドスピードアップあるいはダウンの量を表すものである。図4では、基準シャフト(STD)の速度差の値を1として表示している。図4より、インパクト直前に加速度が大きいスイングパターン(加速:大)を除き、ほとんどのスイングパターンで、先端側および手元側の剛性値が低いほうが、手元側に比べ先端側の速度が速く、ヘッドスピードアップが期待できると言える。特に、先端剛性を下げることによる効果は大きい傾向にある。
【0021】
ダイナミックロフトの解析結果を図5に示す。ダイナミックロフトは、インパクトの瞬間のロフト(水平面を基準とした)であり、ボールの打出角、つまりボールの上がりやすさを表すものである。図5では、STDのダイナミックロフトを0°(基準)とし、STDのダイナミックロフトとの差を表示している。なお、図5では、表示上、STDのダイナミックロフトを0°としているが、実際にはSTDのダイナミックロフトもゼロ以外の特定の数値を有する。図5より、先端剛性が低いほうがダイナミックロフトが大きいという傾向は、スイングモードに因らず一定であり、手元剛性については、スイングモードによって傾向が変化することがわかる。
【0022】
フェースアングルの解析結果を図6に示す。ここでのフェースアングルは、インパクトの瞬間のフェースアングルであり、ボールのつかまり易さを表すものである。図6では、STDのフェースアングルを0°(基準)とし、STDのフェースアングルとの差を表示している。図6より、インパクト時に減速するスイングパターンの場合、先端剛性が低いと、フェース面が大きくクローズ(左に向く)することがわかる。
【0023】
以上の結果より、出力パラメータの中には、スイングパターンとシャフト剛性分布との関係によって傾向が変化しないものと、傾向が変化するものとがあり、したがって本発明のシミュレーション方法により、シャフトの部分による曲げ剛性、ねじり剛性の持つ意味を明確にすることができ、目標とする特性を持つシャフト設計や、スイングパターンに応じたシャフトの設計が可能となり、本発明のシミュレーション方法がゴルフクラブの設計に役立つことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】シャフトを複数のモデル領域に分割した状態を示す説明図である。
【図2】各種スイングパターンにおけるヘッド角速度の経時変化を示すグラフである。
【図3】各種スイングパターンを構成するための2リンクモデルを示す説明図である。
【図4】本発明によるシャフトの先端と手元の速度差の解析結果を示すグラフである。
【図5】本発明によるダイナミックロフトの解析結果を示すグラフである。
【図6】本発明によるフェースアングルの解析結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0025】
10 シャフト
12 モデル領域
14 クラブヘッド
16 接合部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを用いたゴルフクラブ用シャフトのスイングのシミュレーション方法であって、シャフトの基端から先端までの間を長さ方向に沿って連続的に複数のモデル領域に分割し、前記複数のモデル領域またはその接合部分にそれぞれヤング率、剪断弾性率および断面2次モーメントの値を入力し、前記シャフトを所定のスイングパターンでスイングさせたときのシャフトの挙動を解析することを特徴とするゴルフクラブ用シャフトのシミュレーション方法。
【請求項2】
シャフトの基端から先端までの間を5〜20個のモデル領域に分割することを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブ用シャフトのシミュレーション方法。
【請求項3】
シャフトの基端から長さ5〜20cmの領域を第1モデル領域とし、第1モデル領域の先端とシャフトの先端との間を同じ長さの複数のモデル領域に分割することを特徴とする請求項1または2に記載のゴルフクラブ用シャフトのシミュレーション方法。
【請求項4】
クラブヘッドの重量、重心距離および重心深さをシミュレーションの入力要素に加えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のゴルフクラブ用シャフトのシミュレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−50518(P2009−50518A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−220919(P2007−220919)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【出願人】(592014104)ブリヂストンスポーツ株式会社 (652)
【Fターム(参考)】