説明

ゴルフクラブ用シャフトセット及びアイアンセット

【課題】 より同一のタイミングに近づけた状態でスイング可能なゴルフクラブ用シャフトセットを提供すること。
【解決手段】 シャフト12を番手ごとに有するゴルフクラブ用のシャフトセットであって、シャフトは、各番手共に、先端12a側から全長の25〜60%の範囲に、先端側から後端側に向かうにしたがって曲げ剛性が増大する中部領域MSと、前記中部領域の先端側にあって先端側に向かうにしたがって曲げ剛性が増大する前部領域FSと、前記中部領域の後端側にあって後端側に向かうにしたがって曲げ剛性が増大する後部領域BSとを有する。前記中部領域の先端側から後端側に亘る曲げ剛性分布は、全ての番手で略一致し、前記後部領域は、番手が大きくなるにしたがって前記前部領域よりも曲げ剛性が増大する率を大きくしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばゴルフクラブに用いられるゴルフクラブ用シャフトセット及びアイアンセットに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1は、長さが異なってもスイングのタイミングを取り易い曲げ剛性の分布を有するように、シャフトの先端から600mmから800mmの曲げ剛性値の変化量を、長いシャフトを有するクラブほど小さくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−154875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、シャフトの先端から後端に移動するにしたがって曲げ剛性を増加させ、シャフト長さが長いクラブほど先端側(ヘッド側)の剛性を大きく、シャフト長さが短いクラブほど先端側の剛性を小さくしているので、先端部においてスイング時の撓りに差が生じ、その差をスイングのタイミングを変えて対応する必要が生じる。また、先端部近傍の曲げ剛性の値の変化量が小さいため、撓りを感じにくく、打球が安定し難いクラブセット(シャフトセット)となる可能性がある。
【0005】
この発明は、このような課題を解決するためになされたもので、より同一のタイミングに近づけた状態でスイング可能なゴルフクラブ用シャフトセット及びアイアンセットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る、シャフトを番手ごとに有するゴルフクラブ用のシャフトセットであって、前記シャフトは、各番手共に、先端側から全長の25〜60%の範囲に、先端側から後端側に向かうにしたがって曲げ剛性が増大する中部領域と、前記中部領域の先端側にあって先端側に向かうにしたがって曲げ剛性が増大する前部領域と、前記中部領域の後端側にあって後端側に向かうにしたがって曲げ剛性が増大する後部領域とを有する。前記中部領域の全長に対する長さは全ての番手で略一致し、前記中部領域の先端側から後端側に亘る曲げ剛性分布は、全ての番手で略一致し、前記後部領域は、番手が大きくなるにしたがって前記前部領域よりも曲げ剛性が増大する率を大きくしている。
また、前記シャフトのうち、前記中部領域を前記シャフトのうちで最も曲げ剛性が低い領域としたことが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、前部領域の曲げ剛性をシャフトの先端側に向かうにしたがって増大させることによって、ヘッド14の撓りに対する耐性を増すことができる。また、高番手ほど曲げ剛性が高く、低番手ほど曲げ剛性が低いので、高番手ほどスイング時のシャフトを硬くし、低番手ほどスイング時のシャフトを柔らかくできるが、中部領域の全長に対する長さ(軸方向長さ)を全てのシャフトで一致させ、かつ、中部領域の曲げ剛性分布を全てのシャフトで略一致させることによって、中部領域は各シャフトで略同一の撓り感を得ることができる。そして、後部領域では、中部領域から離れるほど曲げ剛性を増大させ、高番手ほど曲げ剛性値の差が大きく、低番手ほど曲げ剛性値の差を小さくしているので、ゴルフクラブをスイングしたときに、曲げ剛性が高いゴルフクラブのグリップ側(後端側)でのコントロールを確実に行える。そして、相対的に高番手ほどスイング時の柔らかさを感じ易く、低番手ほどスイング時の柔らかさを感じ難くすることができるので、同一のタイミングでスイングし易いゴルフクラブセット(シャフトセット)を提供できる。
また、シャフトのうち、中部領域を前記シャフトのうちで最も曲げ剛性が低い領域としたことによって、より確実に前部領域と中部領域との間、中部領域と後部領域との間の曲げ剛性の差を認識し易くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1から第3実施形態に係るゴルフクラブを示す概略図。
【図2】第1から第3実施形態に係るゴルフクラブ用シャフトを示す概略図。
【図3】第1実施形態に係るゴルフクラブ用シャフトを製造する際に用いる芯金、芯金に対するプリプレグシートの形状、強化繊維の繊維方向、巻回順を示す概略図。
【図4】第1実施形態に係るゴルフクラブ用シャフトを製造する際に芯金に対してプリプレグシートを巻回した状態の概略的な断面図。
【図5】第1実施形態に係るゴルフクラブ用シャフトの各番手ごとの先端からの長さに対する曲げ剛性を示すグラフ。
【図6】第2実施形態に係るゴルフクラブ用シャフトを製造する際に用いる芯金、芯金に対するプリプレグシートの形状、強化繊維の繊維方向、巻回順を示す概略図。
【図7】第3実施形態に係るゴルフクラブ用シャフトを製造する際に用いる芯金、芯金に対するプリプレグシートの形状、強化繊維の繊維方向、巻回順を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながらこの発明を実施するための形態について説明する。
第1実施形態について図1から図5を用いて説明する。
ゴルフクラブセットのうち、アイアンセットは、一般には、例えば3番アイアンから9番アイアン、ピッチングウェッジ、アプローチウェッジ、サンドウェッジ等がセットとなっている。なお、アイアンセットには、1番アイアン、2番アイアン、その他のウェッジを含んでも良い。
【0010】
以下、主に3番アイアンから9番アイアンのセットの例について説明するが、セットと称する場合、1番アイアン、2番アイアン、ピッチングウェッジ、アプローチウェッジ、サンドウェッジ等を適宜に含むことはもちろんである。また、ピッチングウェッジ、アプローチウェッジ、サンドウェッジ等を含めて、シャフトの長さが長くロフト角α(図1参照)が小さいほど番手が小さく、シャフトの長さが短くロフト角αが大きいほど番手が大きい、としてゴルフクラブ10及びシャフト12を規定する。また、「隣接する番手」には、番手間(例えば3番と4番、4番と5番等、n番と(n+1)番)だけでなく、例えば3番及び4番のひとくくりと、5番及び6番のひとくくりとの間のように複数の番手が同じシャフトの構造である場合を含む。
【0011】
図1に示すように、アイアンセットの各ゴルフクラブ10は、各番手とも同様に、繊維強化プリプレグシートの積層体からなる中空のシャフト(繊維強化複合材料製の管状体)12と、このシャフト12の先端(一端, TIP側)12a(図2参照)の細径部分に取り付けられたヘッド14と、シャフト12の後端(他端, BUTT側)12b(図2参照)の太径部分に取り付けられたグリップ16とを有する。なお、図1に示すシャフト12の先端12aはヘッド14のホーゼル14a内に挿入された状態で固定されている。本実施形態ではゴルフクラブセットがアイアンセットとして形成されるので、例えばヘッド14やグリップ16は各番手で同様の装飾等がなされていることが好ましい。もちろん、シャフト12に各番手で同様の装飾等がなされていることも好ましい。
【0012】
図1に示すシャフト12とヘッド14のフェース14bとのロフト角αは、一般に、番手が上がるにつれて、20°から60°の間で4°ずつ大きくなる。また、シャフト12の全長は、例えば3番アイアンのシャフト12の長さLは39インチ(略99cm)から、番手が上がるにつれて、0.5インチ(略1.27cm)ずつ短くなる。シャフト12の先端12aの外径は後述するように同じ厚さのプリプレグシートを用いるので番手によらず一定で例えば約9.00mmから10.00mm程度であり、後端12bの外径は後述するように厚さが異なるプリプレグシートを用いるので番手ごとに異なるが例えば約14.20mmから16.50mm程度である。シャフト12の外周面は中心軸Cに対して約8/1000から10/1000程度の傾き(テーパ角度)を有するようにテーパ状に形成されていることが好ましい。シャフト12がテーパ状であることにより、シャフト12の先端径に対するグリップ径の関係でゴルファーがグリップを握り易く、グリップ力を発揮し易い外径にできる。
【0013】
図3に示す、本実施形態に係る各ゴルフクラブ10用のシャフト12を作製するための芯金(マンドレル)20は、アイアンセットに共通して1つの形状のものが用いられる。芯金20は、その先端20aから後端20bに向かって順に、第1テーパ部22と、第2テーパ部24と、第3テーパ部26と、第4テーパ部28と、第5テーパ部30と、ストレート部32とを有し、先端20a側が後端20b側に比べて細く形成されている。第1テーパ部22と第2テーパ部24との間、第2テーパ部24と第3テーパ部26との間、第3テーパ部26と第4テーパ部28との間、第4テーパ部28と第5テーパ部30との間、第5テーパ部30とストレート部32との間には、それぞれ芯金20の外周面の傾きを変化させるための境目となる円周状の変位部23,25,27,29,31が形成されている。
そして、芯金20は、主に、その先端20a側の前方領域FMと、その後端20b側の後方領域(グリップ側領域)BMと、前方領域FM及び後方領域BMの間の中間領域MMとの3つに分けることができる。
【0014】
なお、第2テーパ部24は第1テーパ部22(例えば傾き8/1000から9/1000程度)に対して略4倍傾きが大きい。第4テーパ部28は、第5テーパ部30に対して長さが短く緩い(傾きが小さい)テーパである。言い換えると、第5テーパ部30は、第4テーパ部28に対して、長く急な(傾きが大きい)テーパである。
また、第3テーパ部26と第5テーパ部30とは略同一の傾きであることが好ましい。第5テーパ部30にある一定肉厚のプリプレグシートを載せたときに、そのプリプレグシートの外周面と第3テーパ部26の外周面とが面一になるからである。そして、これら第3テーパ部26及び第5テーパ部30の傾きは、シャフト12の外周面の上述した傾きと略同一である。
【0015】
図2に示すように、本実施形態に係るシャフト12は、主に、その先端12a側でヘッド14が取り付けられる前部領域(ヘッド側領域)FSと、その後端12b側でグリップ16が取り付けられる後部領域(グリップ側領域)BSと、前部領域FS及び後部領域BSの間の中部領域MSとの3つに分けることができる。
前部領域FSは、シャフト12の先端12aを0としたときに、先端12aから200mm〜250mm程度の範囲にあり、シャフト12の全長の略25%程度であることが好ましい。中部領域MSは、シャフト12の先端12aから200mm〜250mm程度の範囲から350mm〜400mm程度の範囲にあり、シャフト12の全長の略25%程度であることが好ましい。後部領域BSは、シャフト12の先端12aから350mm〜400mm程度の範囲から1000mm〜1100mm程度の範囲にあり、シャフト12の全長の略50%程度であることが好ましい。すなわち、シャフト12の先端12aを0%、後端12bを100%としたときに、前部領域FSが0%から略25%の位置に、中部領域MSが略25%から略50%の位置に、後部領域BSが略50%から100%の位置にある。
【0016】
シャフト12は、それぞれ強化繊維に合成樹脂が含浸した繊維強化プリプレグシートである、第1から第3の前部補強プリプレグシート42,44,46と、第1から第3の後部補強プリプレグシート52,54,56と、第1から第3の本体プリプレグシート62,64,66と、第4の前部補強プリプレグシート48とを芯金20に巻回することにより形成される。
【0017】
各プリプレグシートの強化繊維には、主に炭素繊維が用いられるが、金属繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等、種々の繊維を用いても良い。強化繊維に含浸させるマトリクス樹脂(合成樹脂)としては、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂のいずれを用いても良い。熱硬化性樹脂であれば、例えばエポキシ、ピスマレイミド、ポリイミド、フェノール等が用いられる。熱可塑性樹脂であれば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミド(PA)、ポリプロピレン(PP)等が用いられる。
【0018】
そして、以下の表1には、シャフト12を構成する各プリプレグシートの芯金20に対する強化繊維の繊維方向を示す。
【表1】

【0019】
表1に示すように、例えば第1から第3前部補強シート42,44,46及び第1から第3の後部補強シート52,54,56は、それぞれ芯金20の軸長方向に繊維方向を配している。すなわち、第1から第3前部補強シート42,44,46及び第1から第3の後部補強シート52,54,56はそれぞれ芯金20の軸長方向に繊維方向を配する軸長方向繊維層を形成し、補強や曲げ剛性の調整に用いられる。第4前部補強シート48も第1から第3の前部補強シート42,44,46と同様に、芯金20の軸長方向に繊維方向を配する軸長方向繊維層を形成し、外径の調整、補強及び曲げ剛性の調整に用いられる。
【0020】
第1及び第2本体シート62,64は芯金20の軸長方向に対して傾斜した傾斜方向繊維層を形成し、捩れ剛性の調整用に用いられる。第1本体シート62は強化繊維が軸長方向に対して例えば+(プラス)30度から50度程度(特に好ましくは+45度)傾斜し、第2本体シート64は強化繊維が軸長方向に対して例えば−(マイナス)30度から50度程度(特に好ましくは−45度)傾斜している。第3本体シート66は芯金20の軸長方向に繊維方向を配する軸長方向繊維層を形成し、曲げ剛性の調整に用いられる。
なお、第1及び第2本体シート62,64は樹脂量(繊維含有率)が20〜40wt%、引張弾性率が10〜400GPaのものが用いられる。第3本体シート66は樹脂量(繊維含有率)が20〜40wt%、引張弾性率が10〜400GPaのものが用いられる。ただし、本実施形態では、第1から第3本体シート62,64,66は、番手によらず3番アイアンから9番アイアンまで同一のものを用いる。
【0021】
したがって、シャフト12の前部領域FSは、第1から第3の前部補強プリプレグシート42,44,46と、第1から第3の本体プリプレグシート62,64,66と、第4の前部補強プリプレグシート48とにより芯金20の前方領域FMに対応して形成される。シャフト12の後部領域BSは、第1から第3の後部補強プリプレグシート52,54,56と、第1から第3の本体プリプレグシート62,64,66とにより芯金20の後方領域BMに対応して形成される。シャフト12の中部領域MSは、第1から第3の本体プリプレグシート62,64,66により芯金20の中間領域MMに対応して形成される。
芯金20の前方領域FMにプリプレグを巻回して前部領域FSを形成し、芯金20の後方領域BMにプリプレグを巻回して後部領域BSを形成し、芯金20の中間領域MMに沿うとともに前部領域FS及び後部領域BSの外周にプリプレグを巻回して前部領域FSと後部領域BSとの間に中部領域MSを形成することによってシャフト12を作製できる。このため、シャフト12の曲げ剛性の調整をするに当たり、積層構造を簡易にして製造精度のバラツキを少なくすることが可能となる。
【0022】
各番手のシャフト12の前部領域FSに用いられる第1から第3前部補強シート42,44,46は、表2のF1からF3の組成のプリプレグシートが適宜に用いられる。表2のF1からF3のプリプレグシートは、目付量及びシート厚さが同一(又は略同一であっても良い)で、繊維弾性率が異なっている。繊維弾性率はF1よりもF2の方が例えば50GPa大きく、F2よりもF3の方が例えば110GPa大きい。ただし、繊維弾性率の差は適宜に設定できる。すなわち、F1とF2の繊維弾性率の差は例えば60GPa等、50GPaよりも大きくても良いし、40GPa等、小さくても良い。F2とF3の繊維弾性率の差も同様である。
【表2】

【0023】
各番手のシャフト12の後部領域BSに用いられる第1から第3後部補強シート52,54,56は、表3のB1からB5の組成のプリプレグシートが適宜に用いられる。表3のB1からB4のプリプレグシートは繊維弾性率が同一(又は略同一であっても良い)で、目付量、シート厚さが異なっている。なお、B5の強化繊維の繊維弾性率はB1からB4の強化繊維の繊維弾性率よりも大きい。また、目付量及びシート厚さは、それぞれB1よりもB2、B2よりもB3、B3よりもB4、B4よりもB5が大きい。
【表3】

【0024】
なお、第1から第3の前部補強シート42,44,46、第1から第3の後部補強シート52,54,56、第1から第3の本体シート62,64,66、第4の前部補強シート48はそれぞれ一定肉厚のものが用いられる。
【0025】
そして、図3に示すように、第1前部補強シート42は芯金20の第1テーパ部22と、第2テーパ部24の前側部分に巻回される。第2及び第3前部補強シート44,46は、第1前部補強シート42の先端に第2及び第3前部補強シート44,46の先端を合わせた状態で第1前部補強シート42の外周に巻回される。このとき、第2及び第3前部補強シート44,46は芯金20の第1テーパ部22と、第2テーパ部24との外周に巻回されることとなる。このため、図4に示すように、芯金20の先端(一端)20a側には第1前部補強層72が形成される。
【0026】
このとき、第1前部補強層72の外周面は芯金20の第3テーパ部26の外周面と略面一である。
図3に示す第1から第3前部補強シート42,44,46はそれぞれ略三角形状部分42a,44a,46aを有する。図4に示すように、これら略三角形状部分42a,44a,46aは芯金20の第2テーパ部24に巻回され、第3テーパ部26の外周面と第1の前部補強層72の外周面とを略面一にする外径調整層(前部側外径調整領域)72aを形成している。なお、外径調整層72aはその軸長方向長さ(軸長方向幅)がシャフト12の全長Lに対して例えば4%から6%程度で小さい。このため、略三角形状部分42a,44a,46aによってシャフト12の周方向に生じる異方性の存在を抑制できる。
【0027】
この外径調整層72aは第1及び第2テーパ部22,24間の変位部23の外側位置のシャフト12の内周面と、第2及び第3テーパ部24,26間の変位部25の外側位置のシャフト12の内周面とを滑らかに連続させる。このとき、芯金20の第3テーパ部26の外周面とシャフト12の第1の前部補強層72の外周面とを略面一に形成するので、第1及び第2テーパ部22,24間の変位部23の外側位置のシャフト12の第1前部補強層72の肉厚を後端側に向かうにつれて徐々に減肉させて、第2及び第3テーパ部24,26間の変位部25の外側位置でのシャフト12の第1前部補強層72の肉厚を略0としている。なお、ここでの減肉は、第1から第3前部補強シート42,44,46自体を減肉させるものではなく、各シート42,44,46の略三角形状部分42a,44a,46aを芯金20の第2テーパ部24に巻回することにより次第に減肉させた状態と同様の状態にしていくものである。
したがって、外径調整層72aにより、シャフト12の内周面に急激な段差が生じるのを防止しシャフト12の内径変化を少なくできるとともに、シャフト12の軸方向に沿った方向の急激な強度変化を防止できる。すなわち、外径調整層72aは、シャフト12のうち、第1テーパ部22の外周位置に対応する部位と第3テーパ部26の外周位置に対応する部位との間の剛性差を、急激な段差を有する場合(外径調整層72aが存在しない場合)よりも緩やかに変化させることができる。
【0028】
図3に示すように、第1から第3の後部補強シート52,54,56は、第4テーパ部28及び第5テーパ部30に巻回される。第1後部補強シート52は芯金20の第4テーパ部28と、第5テーパ部30とに巻回される。第2及び第3後部補強シート54,56は、第1後部補強シート52の後端に第2及び第3後部補強シート54,56の後端を合わせた状態で第1後部補強シート52の外周に巻回される。このとき、第2及び第3後部補強シート54,56は芯金20の第4テーパ部28と、第5テーパ部30との外周に巻回されることとなる。このため、図4に示すように、第4テーパ部28及び第5テーパ部30の外周面には後部補強層74が形成されている。
このとき、第1前部補強層72及び後部補強層74の外周面は芯金20の第3テーパ部26の外周面と略面一である。
【0029】
そして、図3に示す第1から第3後部補強シート52,54,56はそれぞれ略三角形状部分52a,54a,56aを有する。図4に示すように、これら略三角形状部分52a,54a,56aは第4テーパ部28に巻回され、芯金20の第3テーパ部26の外周面と、第4テーパ部28及び第5テーパ部30に巻回されたシャフト12の後部補強層74の外周面とを面一にする外径調整層(後部側外径調整領域)74aを形成している。なお、外径調整層74aはその軸長方向長さ(軸長方向幅)がシャフト12の全長Lに対して例えば4%から6%程度で小さい。このため、略三角形状部分52a,54a,56aによってシャフト12の周方向に生じる異方性の存在を抑制できる。
【0030】
この外径調整層74aは第3及び第4テーパ部26,28間の変位部27の外側位置のシャフト12の内周面と、第4及び第5テーパ部28,30間の変位部29の外側位置のシャフト12の内周面とを滑らかに連続させる。このとき、芯金20の第3テーパ部26の外周面とシャフト12の後部補強層74の外周面とを略面一に形成するので、第4及び第5テーパ部28,30間の変位部29の外側位置のシャフト12の後部補強層74の肉厚を先端側に向かうにつれて徐々に減肉させて、第3及び第4テーパ部26,28間の変位部27の外側でのシャフト12の後部補強層74の肉厚を略0としている。なお、ここでの減肉は、第1から第3の後部補強シート52,54,56自体を減肉させるものではなく、シート52,54,56の略三角形状部分52a,54a,56aを芯金20の第4テーパ部28に巻回することにより次第に減肉させた状態と同様の状態にしていくものである。
したがって、外径調整層74aにより、シャフト12の内周面に急激な段差が生じるのを防止できるとともに、シャフト12の軸方向に沿った方向の急激な強度変化を防止できる。すなわち、外径調整層74aは、シャフト12のうち、第3テーパ部26の外周位置に対応する部位と第5テーパ部30の外周位置に対応する部位との間の剛性差を急激な段差を有する場合(外径調整層74aが存在しない場合)よりも緩やかに変化させることができる。
【0031】
第1本体シート62は、第1から第3の前部補強シート42,44,46と、第1から第3の後部補強シート52,54,56との外周に巻回される。このため、図3に示すように、第1本体シート62が直接芯金20に巻回されるのは、第3テーパ部26だけである。
このとき、第1本体シート62の強化繊維の繊維方向は芯金20の中心軸C(軸長方向)に対して傾斜しているので、芯金20の軸長方向に強化繊維の繊維方向を有するプリプレグ材を積層するよりも巻き付けが難しいため強化繊維を巻回する際に蛇行し易くなるが、第1本体シート62を硬度のある芯金20の第3テーパ部26に直接巻回できるので、プリプレグシート(第1前部補強層72及び後部補強層74)上に第1本体シート62を巻回するよりも強固に巻き付けることができ、第3テーパ部26の外周での強化繊維の蛇行量を少なくすることができる。
このように、芯金20の第3テーパ部26の外周に直接、軸長方向に対して傾斜した方向に強化繊維を有するプリプレグシートを巻回するので、シャフト12の強度を安定化することができる。なお、軸長方向に対して傾斜した方向として、軸長方向に対して直交する周方向に強化繊維を有するプリプレグシートを巻回する場合も同様である。
【0032】
なお、第3テーパ部26の外周面と第1の前部補強層72の外周面との間、第3テーパ部26の外周面と後部補強層74の外周面との間は略面一であるので、略同一のテーパ角度を有する。この外周に肉厚が一定の第1本体シート62を巻回するので、第1本体シート62の外周面もシャフト12の外周面と略同一のテーパ角度を有する。このとき、第3テーパ部26の外周面と第1の前部補強層72の外周面との間、第3テーパ部26の外周面と後部補強層74の外周面との間に段差がないので、第1本体シート62を巻回する際に容易に巻回(積層)できる。
【0033】
そして、肉厚が一定の第2本体シート64を第1本体シート62の外周に巻回し、第1本体シート62及び第2本体シート64で第1本体層76を形成する。このため、第1本体層76の外周面はシャフト12の外周面と略同一のテーパ角度を有する。
また、第1本体シート62、第2本体シート64は強化繊維の繊維方向が軸長方向に対して互いに反対方向に例えば略等角度ずつずらしているので、シャフト12の捩り剛性を良好に発揮させることができる。
【0034】
第1本体層76の外周に肉厚が一定の第3本体シート66を巻回して第2本体層78を形成する。そして、第2本体層78の外周面はシャフト12の外周面を形成し、芯金20の中心軸Cに対して一定のテーパ角度を有する。
なお、このとき、第3本体シート66の強化繊維の繊維方向は軸長方向であるので、中部領域MSでもシャフト12の曲げ剛性を良好に発揮させることができる。
【0035】
第4前部補強シート48は、第1から第3前部補強シート42,44,46、第1から第3本体シート62,64,66の先端に第4前部補強シート48の先端を合わせた状態で第3本体シート66の外周に巻回される。このため、第4前部補強シート48で第2本体層78の先端部外周に第2前部補強層80を形成している。
【0036】
そして、通常の成形と同様に、第2本体層78及び第2前部補強層80の外側からテーピングにより締め付け成型、芯金20及びシャフト12の加熱硬化、芯金20の除去、テーピングのテープの除去、研磨等により、ゴルフクラブ用シャフト12を得ることができる。
【0037】
図4に示すように、シャフト12の内側から除去された芯金20の第1テーパ部22及び第2テーパ部24の外周に対応する位置には第1から第3の前部補強シート42,44,46により第1前部補強層72が形成されている。さらに、第4前部補強シート48により第2前部補強層80が形成されている。すなわち、シャフト12の前部領域FSは、第2本体層78の第3本体シート66だけでなく、軸長方向に強化繊維の繊維方向を有する第1前部補強層72及び第2前部補強層80によって、図5に示すように、第3本体シート66だけで曲げに対抗する中部領域MSよりも曲げに対する耐性が強化されている。
なお、前部領域FSは、シャフト12の先端12a側(TIP側)の方が中部領域MSに近接した位置(BUTT側)よりも曲げ剛性が高い。これは、芯金20の第1テーパ部22のテーパ角度が小さいので、第1テーパ部22の外側に巻回される第1から第3の前部補強シート42,44,46の外径が大きくなっても曲げ剛性の増大量が小さいことに加え、略三角形状の第4前部補強シート48を第3本体シート56の外側に巻回したときに、先端12a側の巻回面積が後端12b側の巻回面積よりも大きいことによる。
また、第4前部補強シート48によって外径を調整している。このため、シャフト12の先端(第1前部補強層72及び第2前部補強層80)12aがヘッド14のホーゼル14a内に差し込まれて固定された状態でゴルフクラブ10をスイングしても、シャフト12を良好な状態に維持することができる。
【0038】
芯金20の第4テーパ部28及び第5テーパ部30の外周に対応する位置には第1から第3の後部補強シート52,54,56により後部補強層74が形成されている。すなわち、シャフト12の後部領域BSは、第2本体層78の第3本体シート66だけでなく、軸長方向に強化繊維の繊維方向を有する後部補強層74によって、図5に示すように、第3本体シート66だけで曲げ剛性に対抗する中部領域MSよりも曲げに対する耐性が強化されている。
【0039】
なお、後部補強層74はシャフト12の後端12b側(BUTT側)の方が中部領域MSに近接した位置(TIP側)よりも曲げ剛性が高い。これは、芯金20の第5テーパ部30の外側に巻回される第1から第3の後部補強シート52,54,56の外径が大きくなることにより曲げ剛性が増大することの効果が表れている。
同様に、中部領域MSは、シャフト12の後端12b側の方が先端12a側よりも曲げ剛性が高い。これは、芯金20の第3テーパ部26の外側に巻回される第3の本体シート66の外径が大きくなることにより曲げ剛性が増大することの効果が表れている。
【0040】
以上説明したように、本実施形態では、シャフト12の曲げ剛性を特定する前部領域FS、後部領域BS及び中部領域MSに共通して第3本体シート66が用いられ、前部領域FSでは第3本体シート66に加えて第1から第4前部補強シート42,44,46,48が、後部領域BSでは第3本体シート66に加えて第1から第3後部補強シート52,54,56が用いられている。このため、中部領域MSよりも前部領域FS及び後部領域BSの方が曲げ剛性が高くなっている。
したがって、後部領域BS(後部補強層74)によりグリップ16側の剛性がその先端側に隣接する部位(中部領域MS)に比べて高く形成されている。このため、ゴルフクラブ10をスイングしたときに、中部領域MSよりもグリップ16側に剛性を持たせているのでゴルフクラブ10のコントロールを行い易くすることができるとともに、後部領域BSの先端側に隣接する中部領域MSをグリップ16側に比べて撓らせることができるので打球を上がり易くすることができる。
また、前部領域FS(前部補強層72)によりヘッド14側の剛性がその後端側に隣接する部位(中部領域MS)に比べて高く形成されている。このため、ゴルフクラブ10をスイングしたときに、中部領域MSよりもヘッド14側に剛性を持たせているのでゴルフクラブ10のヘッド14の向きを安定化させることができ、打球のコントロールを容易にすることができる。
【0041】
表4には3番アイアンから9番アイアンまでの各番手ごとにシャフト12に使用する第1から第3前部補強シート42,44,46及び第1から第3の後部補強シート52,54,56の組み合わせを示す。
【表4】

【0042】
表4に示すように、例えば3番アイアンの場合、第1から第3前部補強シート42,44,46は表2に示すF1からF3のうち、目付量及びシート厚さが共通であるが繊維弾性率が3つのうちで最も低いF1が用いられる。第1から第3後部補強シート52,54,56は表3に示すB1からB5のうち目付量、シート厚さが小さいB1が用いられる。
例えば4番アイアンの場合、第1の前部補強シート42は表2に示すF1からF3のうちF2が用いられ、第2及び第3の前部補強シート44,46は表2に示すF1からF3のうち、F1が用いられる。すなわち、第1から第3の前部補強シート42,44,46のうち、1つを変更して前部領域FSの曲げ剛性を3番アイアンと4番アイアンとで変化させている。
一方、第1及び第2の後部補強シート52,54は表3に示すB1からB5のうちB2が用いられ、第3の後部補強シート56は表3に示すB1からB5のうちB1が用いられる。すなわち、第1から第3の後部補強シート52,54,56のうち、2つを変更して後部領域BSの曲げ剛性を3番アイアンと4番アイアンとで変化させている。
【0043】
そして、番手が上がるにつれて前部補強シート42,44,46を順に1枚ずつ変更し、後部補強シート52,54,56を順に2枚ずつ変更することにより、同一サイズ、同一形状の芯金20を用いて各番手のシャフト12を作製することができる。本実施形態では3番アイアンから9番アイアンまで同一サイズ、同一形状を有する芯金20を用いるので、製造精度のバラツキを抑制できる。
【0044】
そして、表4に示すように、前側の番手に隣接する後側の番手では、第1から第3の前側補強プリプレグシート42,44,46のうち、1枚を変更し、その1枚は繊維弾性率を高くしている。また、前側の番手に隣接する後側の番手では、第1から第3の後側補強プリプレグシート52,54,56のうち、2枚を変更し、その2枚の目付量を大きくし、シート厚さを厚くしている。すなわち、シャフト12の前部領域FSは内側ほど繊維弾性率が大きく、後部領域BSは外側ほど目付量が小さい。このため、前部領域FSでは繊維弾性率で曲げ剛性に差を出し、後部領域BSは目付量及びシート厚さで曲げ剛性に加えて重量に差を出している。また、シャフト12の前部領域FS及び後部領域BSは、隣接する番手間で少なくとも1つの同一のプリプレグシート(積層数、軸方向長さ、材質が共通のもの)を用いている。このため、ゴルファーがスイングしたときの感覚の差を、隣接する番手間で適宜に設定でき(選択するプリプレグシートによって差を大きくも小さくもできる)、隣接する番手で異なる特性にすることができる。
【0045】
本実施形態では、3番アイアン用のシャフトから9番アイアン用のシャフトまで、図5に示すような特性が得られる。図5中の横軸はシャフト12の先端12aからの位置であり、縦軸はシャフト12の曲げ剛性(EI)を示す。
【0046】
前部領域FS及び後部領域BSの曲げ剛性を、ゴルフクラブ10の番手が大きくなるにしたがって同じかそれよりも高くしている。本実施形態に係るシャフト12は表4に示すプリプレグシートを用いることによって、図5に示すように、低番手(番手が小さい)ほど前部領域FS及び後部領域BSを適宜の剛性差で軟らかくでき、高番手(番手が大きい)ほど前部領域FS及び後部領域BSのシャフト12を適宜の剛性差で硬くできる。前部領域FSの曲げ剛性は例えば16N・mから60N・mの範囲程度であり、後部領域BSの曲げ剛性は例えば28N・mから160N・mの範囲程度である。そして、図5中のシャフト12の先端12aから100mmの位置にある前部領域FSでは、隣接する番手に対して例えば2N・mから3N・mの範囲程度の差がある。また、図5中のシャフト12の先端12aから800mmの位置にある後部領域BSでは、隣接する番手に対して例えば6N・mから8N・mの範囲程度の差がある。
そして、後部領域BSの方が前部領域FSに比べて曲げ剛性の増大量(増大率)が大きい。また、図5に示すように、シャフト12の先端12a側(前部領域FS)よりも後端12b側(後部領域BS)の方が曲げ剛性が相対的に高い。このため、ゴルフクラブ10をスイングしたときに、曲げ剛性が高いゴルフクラブ10のグリップ16側(後端側)でのコントロールが確実に行え、前部(先端側)がグリップ16側(手元側)よりも撓るので打球を上がり易くすることができる。
【0047】
一方、シャフト12の中部領域MSは、3番アイアンから9番アイアンまで組成が全く同一の第1から第3の本体シート62,64,66を用いている。このため、中部領域MSの曲げ剛性(撓り易さ)及び軸方向長さは番手ごとに異なることはない。ただし、中部領域MSの曲げ剛性は製造精度にもよるが、例えば±0.5N・m程度の誤差は十分に許容できる。
このように、シャフト12の中部領域MSを各番手で共通化したので、ゴルフクラブ10をスイングしたときの中部領域MSでの撓り(軟らかさ)を同一にすることができる。したがって、スイング時に中部領域MSによりゴルファーに与える感触(例えば撓り性や柔らかさ)を略同一にすることができる。
そして、前部領域FS及び後部領域BSの外周にプリプレグを巻回することにより前部領域FSと後部領域BSとの間に中部領域MSが形成されるので、中部領域MSの曲げ剛性を前部領域FS及び後部領域BSに比べて低くでき、シャフト12の中部領域MSをスイング時に最も撓み易くし、前部領域FS及び後部領域BSを中部領域MSよりも撓み難くすることができる。また、シャフト12のうち、中部領域MSをシャフト12のうちで最も曲げ剛性が低い領域としたことによって、より確実に前部領域FSと中部領域MSとの間、中部領域MSと後部領域BSとの間の曲げ剛性の差を認識し易くすることができる。
【0048】
そして、各シャフト12は、低番手(例えば3番アイアン)ほど前部領域FS、中部領域MS及び後部領域BSにおける曲げ剛性値の差が小さく、高番手(例えば9番アイアン)ほど曲げ剛性値の差が大きい。このため、曲げ剛性値が相対的に大きい高番手ほどスイング時にシャフト12が硬くなるはずであるが、中部領域MS(シャフト12の全長における略25%から略50%の範囲)の曲げ剛性値を番手によらず略同一にしたので、スイング時に高番手ほどシャフト12の中部領域MSの曲がり(柔らかさ)を感じ易くなる。
一方、スイング時に低番手ほどシャフト12が柔らかいはずであるが、曲げ剛性差が高番手から低番手に移行するにつれて小さくなるので、スイング時に高番手から低番手に移行するにつれて中部領域MSの柔らかさを感じ難くすることができる。このため、相対的に高番手ほどスイング時に中部領域MSの柔らかさを感じ易く、低番手ほどスイング時に中部領域MSの柔らかさを感じ難くすることができるので、高番手のシャフト12は低番手のスイングタイミングに、低番手のシャフト12は高番手のスイングタイミングに近づけることができる。したがって、本実施形態によれば、同一のタイミングでスイングし易いゴルフクラブセット(シャフトセット)を提供できる。すなわち、シャフト12の特性を一定のフローに基づいて設定することができる。
そして、中部領域MSは他の領域(前部領域FS及び後部領域BS)に比べて曲げ剛性値が小さいので、シャフト12の曲がりを中部領域MSで最も感じ易く、スイングのタイミングを調整し易い。
【0049】
したがって、高番手のシャフト12ほどシャフト12が硬く撓り難く、打球時にヘッド14の向きを安定させることができるが、低番手のシャフト12をスイングする感じに近づけた状態でスイングを行うことができる。また、低番手ほどシャフト12が軟らかいので、ヘッド14のフェース14bが上側を向き易く、打出し角を大きく出来、打球を上がり易くすることができるが、高番手のシャフト12をスイングする感じに近づけた状態でスイングを行うことができる。
【0050】
本実施形態では各番手のシャフト12の長さLは、後部領域BSを切断することで調整されることが好ましい。したがって、重量調整をシャフト12の先端側では行わず、後端側で行うことによって、番手ごとに重心位置のフローを容易に設定できる。
もちろん、前部領域FS及び後部領域BSの両者、又は前部領域FSだけを切断することによりシャフト12の長さLを調整するようにしても良い。ただし、長さの調整は各番手で同様の加工(例えば3番アイアンで後部領域BSを切断する加工をするのであれば、4番アイアンから9番アイアンでも同様に後部領域BSを切断する加工)がなされることがシャフト12の特性(フロー)を揃える観点から好ましい。
【0051】
以上説明したように、本実施形態に係る、中部領域MSを前部領域FSや後部領域BSよりも曲げ剛性を低くしたシャフト12を用いることにより、ゴルフクラブ10のスイング時に打球を上げ易いが、ヘッド14の向きを安定化したゴルフクラブ10を提供できる。
そして、本実施形態に係るシャフト12は、3番アイアンから9番アイアンまで曲げ剛性が共通の中部領域MSがあり、その前方の前部領域FS、その後方の後部領域BSともに番手が小さいほど軟らかくしている。このため、番手が小さいほどヘッド14のフェース14bが上を向き易く、打ち出し角を大きくでき、打球を上がり易くできる。一方、番手が大きいほど硬く、打球時にヘッド14のフェース14bの向きを安定させることができるので、打球の方向をより安定させることができる。
また、中部領域MSの曲げ剛性は番手によらず共通化しているので、ゴルフクラブ10をスイングしたときに、中部領域MSからゴルファーの手に伝えられる感覚を常に同じ状態にすることができる。
【0052】
なお、シャフト12の前部領域FSに用いるプリプレグシート42,44,46に用いる繊維弾性率の差を隣接する番手間で大きくすれば、特性が大きく異なるシャフト12を得ることができ、繊維弾性率の差を隣接する番手間で小さくすれば、隣接する番手間で特性を近づけることができる。
同様に、後部領域BSに用いるプリプレグシート52,54,56に用いる目付量、シート厚さの差を隣接する番手間で大きくすれば、特性が大きく異なるシャフト12を得ることができ、目付量、シート厚さの差を隣接する番手間で小さくすれば、隣接する番手間で特性を近づけることができる。
【0053】
次に、第2実施形態について図6を用いて説明する。この実施形態は第1実施形態の変形例であって、第1実施形態で説明した部材と同一の部材には同一の符号を付し、詳しい説明を省略する。
【0054】
第1実施形態で説明した各番手のゴルフクラブ10のシャフト12は、前部領域FS及び後部領域BSの両者の補強プリプレグが共に3枚ずつであるのに対し、図6に示す本実施形態の各番手のゴルフクラブ10のシャフト12は、前部領域FS及び後部領域BSの両者の補強プリプレグが共に1枚である。
【0055】
例えば前部領域FSの補強用プリプレグシート42は、3番アイアンよりも4番アイアンの方が繊維弾性率が高いものが用いられる。このとき、目付量やシート厚さは略同一であることが好ましい。この関係は4番アイアンと5番アイアン、5番アイアンと6番アイアン、…、8番アイアンと9番アイアンでも同様である。このため、番手が大きくなるにしたがってシャフト12の前部領域FSの曲げ剛性が大きくなる。なお、目付量やシート厚さは各番手で略同一であるので、前部領域FSの重量変化は低く抑えられる。
【0056】
例えば後部領域BSの補強用プリプレグシート52は、3番アイアンよりも4番アイアンの方が目付量が大きく、シート厚さが厚いものが用いられる。このとき、繊維弾性率は略同一であることが好ましい。この関係は4番アイアンと5番アイアン、5番アイアンと6番アイアン、…、8番アイアンと9番アイアンでも同様である。このため、番手が大きくなるにしたがってシャフト12の後部領域BSの曲げ剛性が大きくなるとともに、後部領域BSの重量が大きくなる。したがって、シャフト12の重量調整を後部領域BSで行うことができる。
【0057】
なお、本実施形態では、前部領域FS及び後部領域BS共に繊維方向が軸長方向の1枚の補強用プリプレグシート42,52を用いる例として説明したが、前部領域FSに繊維方向が軸長方向の3枚等の複数枚の補強用プリプレグシートを用い、後部領域BSに繊維方向が軸長方向の1枚の補強用プリプレグシートを用いてシャフト12を形成しても良い。また、前部領域FSに繊維方向が軸長方向の1枚の補強用プリプレグシートを用い、後部領域BSに繊維方向が軸長方向の3枚等の複数枚の補強用プリプレグシートを用いてシャフト12を形成しても良い。複数枚の補強用プリプレグシートを用いてシャフト12を形成する場合、隣接する番手のシャフトを作製する際にそのうちの1枚又は2枚のプリプレグシートを番手が大きくなる場合は曲げ剛性が高いものに、番手が小さくなる場合は曲げ剛性が小さいものを用いる。
【0058】
したがって、中部領域MSでは番手によらず曲げ剛性が共通で、前部領域FS及び後部領域BSで番手が高くなるにつれて曲げ剛性を高くしたことによって、中部領域MSで共通した撓り性を得つつ、3番より4番が、4番よりも5番が、…、8番よりも9番アイアンをスイング時に曲げ難くすることができる。
一方、第1実施形態で説明したように、中部領域MSによって、相対的に高番手ほどスイング時の柔らかさを感じ易く、低番手ほどスイング時の柔らかさを感じ難くすることができるので、同一のタイミングでスイングし易いゴルフクラブセット(シャフトセット)を提供できる。
【0059】
次に、第3実施形態について図7を用いて説明する。この実施形態は第1及び第2実施形態の変形例である。
【0060】
図7に示す芯金120は、第1及び第2実施形態の芯金20とは中間領域MM及び後方領域BMの長さが異なる。
図3に示す第1実施形態では、シャフト12の前部領域FSの長さは芯金20の全長の略25%程度、中部領域MSの長さは芯金20の全長の略25%程度、後方領域BM(第4テーパ部28及び第5テーパ部30)の長さ割合は略50%程度であると説明した。
これに対して、本実施形態の芯金120は、図7に示すように、中間領域MM(第3テーパ部126)の長さ割合を略35%程度にし、後方領域BM(第4テーパ部128及び第5テーパ部130)の長さ割合を略40%程度にした例である。このため、この芯金120を用いて作製されるシャフト12も、前部領域FSの長さ割合が略25%程度、後部領域BSの長さ割合が略40%程度、中部領域MSの長さ割合が略35%程度である。すなわち、シャフト12の先端12aを0%、後端12bを100%としたときに、前部領域FSは0%から略25%の位置に、中部領域MSは略25%から略60%の位置に、後部領域BSは略60%から100%の位置にある。
【0061】
したがって、本実施形態に係る芯金120を用いてシャフト12を作製する場合、中部領域MSが芯金120の中間領域MMの長さ割合に合わせて長くなり、後部領域BSが芯金120の後方領域BMの長さ割合に合わせて短くなる。この場合も、シャフト12の中部領域MSでは番手によらず曲げ剛性が共通で、前部領域FS及び後部領域BSで番手が高くなるにつれて曲げ剛性を高くしたことによって、中部領域MSで共通した撓り性を得つつ、3番より4番アイアンを、4番よりも5番アイアンを、…、8番よりも9番アイアンを硬く形成し曲げ難くすることができる。
一方、第1実施形態で説明したように、シャフト12の先端12a側から略25%から略60%の範囲に設けた中部領域MSによって、シャフト12の先端12a側(ヘッド14側)及び後端12b側(グリップ16側)の曲げ剛性を図5に示す状態と同様の傾向を得る状態に保つことができる。このため、曲げ剛性が低い中部領域MSを作製しつつ、中部領域MSよりも高い曲げ剛性を有する前部領域FS及び後部領域BSを第1実施形態で説明したのと同様に作製することができるので、中部領域MSで撓り感を得つつ、相対的に高番手ほどスイング時の柔らかさを感じ易く、低番手ほどスイング時の柔らかさを感じ難くすることができる。したがって、同一のタイミングでスイングし易いゴルフクラブセット(シャフトセット)を提供できる。
【0062】
これまで、いくつかの実施形態について図面を参照しながら具体的に説明したが、この発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で行なわれるすべての実施を含む。
【符号の説明】
【0063】
10…ゴルフクラブ、12…シャフト、12a…先端、12b…後端、FS…前部領域、BS…後部領域、MS…中部領域、14…ヘッド、14a…ホーゼル、14b…フェース、16…グリップ、20…芯金、20a…先端、20b…後端、22,24,26,28,30…テーパ部、23,25,27,29,31…変位部、32…ストレート部、FM…前方領域、BM…後方領域、MM…中間領域、42…第1前部補強シート、44…第2前部補強シート、46…第3前部補強シート、42a,44a,46a…略三角形状部分、48…第4前部補強シート、52…第1後部補強シート、54…第2後部補強シート、56…第3後部補強シート、52a,54a,56a…略三角形状部分、62…第1本体プリプレグシート、64…第2本体プリプレグシート、66…第3本体プリプレグシート、72…第1の前部補強層、72a…外径調整層、74…後部補強層、74a…外径調整層、76…本体層、78…本体層、80…第2前部補強層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高番手ほど曲げ剛性が高く低番手ほど曲げ剛性が低い複数のシャフトを有するゴルフクラブ用のシャフトセットであって、
前記シャフトは、各番手共に、
先端側から全長の25〜60%の範囲に、先端側から後端側に向かうにしたがって曲げ剛性が増大する中部領域と、
前記中部領域の先端側にあって先端側に向かうにしたがって曲げ剛性が増大する前部領域と、
前記中部領域の後端側にあって後端側に向かうにしたがって曲げ剛性が増大する後部領域と
を具備し、
前記中部領域の全長に対する長さは全ての番手で略一致し、
前記中部領域の先端側から後端側に亘る曲げ剛性分布は、全ての番手で略一致し、
前記後部領域は、番手が大きくなるにしたがって前記前部領域よりも曲げ剛性が増大する率を大きくしたことを特徴とするシャフトセット。
【請求項2】
前記シャフトのうち、前記中部領域を前記シャフトのうちで最も曲げ剛性が低い領域としたことを特徴とする請求項1に記載のシャフトセット。
【請求項3】
請求項1もしくは請求項2に記載のシャフトセットの各シャフトにそれぞれヘッド及びグリップが取り付けられたアイアンセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−90730(P2012−90730A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239897(P2010−239897)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000002495)グローブライド株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】